うさ耳ファラお尻と行く聖杯戦争。   作:神の筍

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ファラお尻、また会う日まで。

 

 ファラオとはなにか——?

 

 その単純な疑問は一見簡単に思えるが、ひどく難しいものである。

 ファラオとは即ち、王。高尚な存在で、偉大な位。民を睥睨し、民は見上げる存在である。時として同じ地に立つことで歩んだ者もいたが、いつの時代も彼ら/彼女ら(ファラオ)は神の代弁者であった。かくいう私も天空と冥界の神の化身であり、その意思と考えを現世に反映させる役割を持つ。天空に冥界、たとえば両方の意見が相反した場合どうするんだと思われるかもしれないが、そのときは状況や情勢に応じて動く。

 なにはともあれ、ファラオとはすごいのだ。

 

「……はぁ」

 

 と、考えながら長袖シャツにオーバーオール姿の私は腕いっぱいに持った藁を置く。

 ああ、腰が痛い。これが受肉(・・)した影響ですか。

 茶白色の藁と、少し黒ずんだ藁をわける。これ食するのは囚牛(しゅうぎゅう)である。発祥は中国、竜の子でありながら牛の性質を持つあの子は肉食なのだが藁も食べる。マスター(同盟者)曰く、藁はある程度形を残し排泄されるため、雑食な囚牛は藁を食べることで体内調整を行っているらしい。

 縁の下の力持ちを貶すつもりはないが、こんなことをしていると現役の私に伝えればえらく笑われるだろう。ファラオに戻りたい、いや今もファラオなんですけどね!

 

「やれやれ……結局、あの夜のこともまだ聞けていません。マスター(同盟者)はなにをしているやら」

 

 あの夜——聖杯戦争が終結した夜だ。

 私たちアサシン陣営はセイバー、アーチャー陣営と同盟を組んでマキリや神性レベルの呪いと戦った。マスター(同盟者)の博識さも含め、内情はある程度把握し、対処は可能だったにしろどう転んでもおかしくはなかった。セイバーのマスターのような素人もいた、誰が死んでもおかしくはない。仮にセイバーが呪いに汚染された場合、こちらの敗北は確定だったかもしれないのだ。世に聞く聖剣が、私たちに向けば切り札である神殿や鏡を用いても精々一度防ぐだけで再び放たれてしまえば対処はできない。

 すべて終わったこととはいえ、考えてしまう。だが、それよりも考え、知らなければならないことができた。——マスター(同盟者)だ。

 私はどこか、マスター(同盟者)に問うことを恐れていた。初めて彼と邂逅した夜、いきなりバーサーカーにちょっかいを出して追いかける破天荒さを見せられたからではない。

 すべてが異質過ぎる(・・・・・・・・・)。鞄の中のこの世界も、あの白いナニかも。

 私はこれでも魔術師だ。

 今回はアサシンのクラスで呼ばれたが、最適クラスはキャスター。アーチャーのマスターによると今回のキャスタークラスは神代の魔女メディアであった。さしもの私でも純粋な魔術技術で勇名を馳せるメディアに勝てるとは思っていない。ならば、アサシンのクラスは生前の行いと、触媒を用意して召喚されたのだから納得はできる。

 話は逸れたが、魔術師である私は知識に富んでいる。古代に生きた私は現代の薄い神秘に生きる魔術師より具体的な知識と経験があり、活用できる方法も知っている。

 しかし、それでもだ、

 

 ——私はあの言語を理解できなかった

 

 つまり、そういうことなのだろう。

 私が生きている時代よりも遥かに古い、過去・現在・未来、時空を超越した聖杯すら見通せないあったのかも不確かな————バベルの時代。

 あらゆるものが繋がり、真に一つだった時代。やがてそれは天を目指そうとした人類を危惧した神によって壊されるのだがその話は今は良いだろう。今回はその言語が存在していたこと自体がとんでもないことなのだ。

 『統一言語(・・・・)』と呼ばれるもの。すでにこの単語を知っている者は限られ、この言語を知っている者はいない。

 当たり前だ、すべて神によって壊されたのだから。徹底的に。

 万が一、ただの一人。もしかすればという不確定な要素、言語の起源を遡った鬼才、天才、秀才あらゆる才を煮詰めたような存在が稀にたどり着くこともあるかもしれない。

 

 ——だが違う

 

 マスター(同盟者)理解してしまった(・・・・・・・・)から話しているのではない。知っているから(・・・・・・・)話していたのだ。漠然とした感覚、直感はそれが正しいと伝えてくる。前世から頼りにしてきたものだ、確かだろう。

 しかしそれが正しければ、マスター(同盟者)はすべてを滅ぼそうとした神の選別を超えた、神ですら選別から外し、生かしたかった存在になる。

 私が元から知っている知識と、聖杯から蓄えられた知識を含めそんな人物を私は一人しか知らない。

 

「…………」

 

 険しい顔をしているのがわかる。

 ピッチフォークを用いて藁をわける。これで今日の仕事は終わりだ、あとは囚牛が開けている入り口から気ままに入ってきて食べる。

 同盟者や邪竜娘が生活している場所(部屋)に戻る最中も考えることをやめない。

 結論に至る。

 ——否定。

 結論に至る。

 ——再び否定。

 結論に至る。

 ——尚も否定。

 結局に至る。

 ——それでも否定し続ける。

 だって、おかしい。

 それは否定しなければならないものだ。あってはならないものだ。バベルの塔が存在していたのなら、それ以前の終末(・・)もあったことになる。

 彼の存在を肯定するならば、人類史の否定になる。

 彼が正しいと肯定されれば、あらゆる神話体系の創世を否定される。

 私たちの存在は最初から一つの神から生まれたのならば、すべての信仰の否定となる。

 

 問わなければならないときがきた。

 

 雑に取り付けられた木扉を開ける。

 マスター(同盟者)が集めた魔術道具や小さな幻想生物が騒々しい廊下を抜けていつもの部屋に辿り着いた。

 部屋の中にはいつものように邪竜娘がてれびげーむをしており、マスター(同盟者)の姿は見えなかった。

 

「邪竜娘」

 

「ん、なに」

 

 口にチョコスティックを加えた邪竜娘がめんどくさそうに顔だけをこちらに向けた。

 

マスター(同盟者)はどこへ?」

 

「あー、確か……ケルピーの相手してずぶ濡れだったから洗面所じゃないかしら」

 

「そうですか、ありがとうございます」

 

 洗面所、身体を流しているのですか。とりあえず行動に移した手前、ここで挫かれると酷く足がすくみそうになる。

 本当に聞いて良いのか、と。

 普段食事をとっている椅子に座っていると邪竜娘が、てれびげーむのこんとろーらーを布団に投げてこちらへ向いた。

 

「——気付いたのね?」

 

 嫌に真を突いた言葉だった。

 今更否定はしない。表情で察したのかそのまま続けて話す。

 

「あんたがどう思うかは知らないけど、世界には知らなくても良いものもある」

 

「……」

 

「もちろん、知っているほうが有利になることは多いけど、極稀にそうじゃないことがある」

 

 珍しく真面目な表情をした邪竜娘が立ち上がる。

 少しビクッとしてしまった、びびってない。反射だ。

 肩が上がったのがわかったのか、私を小馬鹿にしながらくつくつと笑う邪竜娘が言った。

 

「覚えておくと良いでしょう。

 たとえなにかが否定されようが、それが正しいわけじゃない。それが正しかろうが、なにかが否定されるわけじゃない。

 ——世界は針の上で成り立っている(・・・・・・・・・・・・・・)

 ひどく不安定な世界は想像しうるすべてが存在する。それは古今東西、別世界も含めて。その証拠に私という、私がいる(・・・・)

 あんたがあいつの正体に気付いたとしても、否定はされない」

 

 口を噤む私に彼女は言った。

 

「まあ、それでも悲嘆するならば悲しいわね。せっかく暇なこの場所に弄りがいのあるあんたが来たのに、

 

 ——聖女の可能性()を否定するなんて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鼻がむずむずとした。

 誰かが俺のことを話しているのかな?ケルピーと戯れていたから、毛がまだついているのかもしれない。今ちょうど換毛期だから抜け毛時期は世話役としてちょっと辛い。

 流し場を抜けて洗面所に出て適当に身体を拭く。追い打ちに乾燥の魔術をかけてやると完璧に乾くのでおすすめだ。予め持ってきていた下着やズボンを履き、最後に上着に手を通したときに違和感を感じた。

 

「ああ、そうか——」

 

 首元、僅かに肌色のずれ(・・)が見えた。

 

「もういらないか」

 

 そして、そのままずれに指をかけて上に持っていく。

 剥がれていくそれはまさしく——マスク。

 目元まで来ると両手で一気に抜きとった。

 

 

 

 人は彼を、何と表現するだろう……?

 

 

 

 あらゆる生き物すら魅了しそうな切れ長な瞳には赤薔薇が咲き、髪は冬木の街を歩いていた黒から羊毛のような白。肌も日本人の近さから離れ、雪のような感触がある。

 人外の容姿からは冷たさと、すべてに慈悲と慈愛を持って抱擁せしめる交わらない暖かさを感じる。

 彼を知っている人が見れば、あの神を魅了したのも頷ける(・・・・・・・・・・・・・)と語るだろう。

 

「やれやれ、ニトちゃんはびっくりするかな?」

 

 顎に手を当てる。

 悪戯好きそうな笑みを浮かべて彼はそう言った。

 

 
















本来ならば後書きと行きたいのですがその前に……。



この作品には、なにに繋がるかは置いておき伏線となるものがいくつかあります。

一つ、主人公の正体
二つ、主人公が持つ、幻想生物が暮らす星の内海と現実世界の間にある酷く不安定な世界
三つ、邪竜娘がなぜいるか?
四つ、別世界の亜種聖杯戦争の示唆
五つ、最終話なのにまだ主人公の真名を出さないか

私が意図的に張ったものは以上です。
いくつかはすでに分かった人も多いと思われます。かなり深く答えを出しているものもあるので当然でしょう。しかし、最初のほうの亜種聖杯戦争を知る理由や、邪竜娘等完全にこちらの設定として存在しているものがあります。
なぜ未だ伏線として残っているのか、それは——










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