体内に毒液を持ってるが危険はない。この子たちは体内のものを外部に排出する機能がまったく無いからね。だから排泄もしない。
雑食だからごみを食べて生きる。共存には嬉しい相手だ。
——出典:《幻想種の生態とその環境》 著書:とある幻想種生物学者
次だ、とマスターとサーヴァントなら一番重要な部分を流しながら話を進める。こういう人かと理解しつつもなんとなくいいのかと少し疑問に思う私は悪くないはずだ。
「次は敵のサーヴァントについて。さっき確認したアインツベルンのバーサーカーに、三大騎士クラスはすでに召喚済み、キャスターは霊脈が堆積してる柳洞寺にて使い魔が確認している。神代、とまでは云わないが要塞化していたからアサシンとして微妙なニトちゃんだと入るのも困難だ」
「
「慎重を期しているのか、ライダーと思わしき痕跡は無し。正直一番見たいクラスなんだがな」
ライダーとはその名も通り
「どうしてライダーを召喚しなかったのですか?」
「亜種聖杯戦争ならばサーヴァントは始まる直前に召喚したほうが強力な
「ほぅ、つまり私は惣菜なようなものだと」
「そんな言葉をいったいどこで……それに俺はまだ半日だけどニトちゃんを惣菜みたいなちんけな物だとは思ってない。お前の人となりもなんとなくわかったつもりだから、これから永い間一緒にいるんだ、仲良くしよう」
惣菜のくだりは聖杯からの伝達である。
「まあいいでしょう。クラスの件はこっちも非がありますからね」
「そ。気にしなくていい。それより今は他のどのクラスよりも間違いなくバーサーカーだ。他クラスを考える前にあれをどうにかすることを念頭に考えなければ間違いなく生き残れない」
灰黒い巨体に、大地と大木を容易に灰燼と化す石斧。なによりも身体能力との高さに、不意打ちにも刹那の合間に反応する理解力と判断力の速さ。
意思疎通が不可能という部分を除いて無敵の存在だ。——私にとっては、だ。三大騎士が相手ならばどうかはわからない。
「なによりも厄介なのは武技で英霊に召された部分だ。音速並みの目眩しの紙鳥を七匹、一瞬で握りつぶされていた」
「なにかくしゃくしゃにしていたと思ったら……」
余計にバーサーカーの異常さが光る。私の宝具、もしくは他クラスに戦ってもらい潰すしかない。
「正直、アーサー王みたいな聖剣頼りな武器が強いサーヴァントのほうがよほどマシだ。まぁ、アーサー王は死後
''げーむ''をしながら流し聞きしていたらしい邪竜娘が反応した。
「まるっきしフラグじゃない、それ。でも物語すら再現するこの世界じゃアーサー王は召喚されないと私も思うけどね。あはは——」
む、また聖杯からの情報伝達があった。このような状況を''ふらぐ''と呼ぶらしい。そして''ふらぐ''と指すことすらも''ふらぐ''に付属すると。
高笑いする二人に呆れつつも
「取れる選択肢は二つ。行動か静観か。俺は後者を取る気でいる」
「私も同じです。時を待つつ、お互いにできることを模索しましょう。現状あなたから送られてくる魔力の質はこの世でも最上なものです。アサシンですが十分魔術師の真似事もできます。本来の質よりも下がるのが、ここにきて痛手ですね」
「魔力補給に関しては考えなくていい。精神の半分を裏側に依存させているから、いざって時は向こうの空気中に含まれる濃密な魔力がニトちゃんの中に流し込まれるはずだ」
「神殿を作ることも可能というわけですか?」
「空間置換を使えば、この中に神殿を展開してから外にそのまま出すこともできる」
擬似展開した世界の中のものを、外世界に移す。空間置換はそんな便利なものじゃない、同じ種類の空間を繋ぎ合わせるだけの筒みたいなものだ。しかし同盟者・は他世界のものを他世界へと……。それって——。
「いや、考えるのはやめましょう。あなたはただの……」
「学者だ。幻想種生物学者、職業的にはそう名乗ってる」
「そう、幻想種生物学者でしたね。魔術は手段に過ぎない、理解しました。理解したので次に行きましょう」
「あ、ああ。いいけどなんかやさぐれ気味だな……」
決して今の私よりも
「本も出してるからまた読んでみてくれ。で、次だ——」
宣伝をされつつホワイトボードを見てみると戦力把握、と書かれている。今、何ができるかということだろう。
「俺ができるのは基本的な補助魔術と、それを応用した実践的な魔術。風乗りの魔術なんかは便利でよく使う。あと拡大・縮小魔術もよく」
「私のほうは
なにができるだろうか。
魔術とは大雑把に云えばすべて補助から生まれたものであり、実践魔術は
「……あー、魔力を撃てたり?」
「っは、それはもちろん! 秒速十四発は軽いものと思ってください」
「あとはメジェド様が出せる!」
「メジェド様は
「知性はどれくらいある?」
「ぎりぎりフラフープができるほどでしょうか……。ただその中身すべてが現しだされたわけではありません。あまり云いたくはありませんが……私自身メジェド様を爆弾のように扱ってるので……」
「破壊されることに抵抗はない、ってことか」
「……よし。じゃあ次は二トちゃんの宝具についてだ」
「私の宝具は《冥鏡宝典:アンプゥ・ネブ・タ・ジェセル》。聖杯戦争的に云うとランクBの対軍宝具です。しかしこれも即死が付与される宝具なので町中で使うのはよくないかと……」
冥鏡宝典。
私の人生を表した宝具、とでも云うのだろうか。これを用いて殺した政敵は数知れず、物心が付いたころは血の味を覚えていた。最後に兄弟たちを裏切った者共をナイル川に沈めたときもこれを使った。忌々しくも、頼もしかった魔術道具でもある。
「——それが当時の冥鏡宝典、か」
わかりやすいように小さめに手にとって出した宝典を見ている。
「一応触媒にした古いぼろぼろの鏡片があるけど使うか? 時戻りの魔術を施せば鏡部分は使えるようになるはず、外縁に魔術的意味合いがあるだろうから幻想種生物に少し力を貸してもらって——」
まだ残っていたのか。
魔術的防護を施しているため、簡単には壊れもせず腐ることもないだろうが、さすがに今時代に残っているとは思わなかった。物心が付いたと理解した時期に、焼身自殺を試みて死んだ私の最期に持っていたものでもある——。
「最後のスフィンクスに感謝するといい。時期は少なくとも、お前がファラオだったことは事実だ。毒を廃することは長栄を願う者にとっては必ず通らなければならない道。些か一生を捧げ過ぎたと思うけどな。ニトちゃんと、兄弟やら他ファラオがどう思ってるか知らないけど、あのスフィンクスとそれを聞いた俺はお前がしっかりファラオしてたっていうのは識っているから」
スフィンクスの歴史は古い。
最古にして最初の女性ファラオとされる私よりも数百年。''畏怖の父''、''寡黙な知恵''とも称されるほど雄大な存在。
彼らが、私を認めてくれていたのだろうか。歴代ファラオを見てきた——彼スフィンクスらが。
「お礼を云いにいかなければなりませんね、彼らに。ありがとうございます、
心が軽くなった気がする。
聖杯戦争とは過去の業を清算するような場なのだろうか。
「ああ、所業に罪を感じているならば俺の助手としてしっかり生き物に奉仕して贖罪してもらうから」
「え、ええ。もちろんです」
いつかはファラオとしての畏怖と敬意をしっかりと説かなければなりませんね。聖杯戦争を無事終えたら……は。
「へっ」
と、考えたところ邪竜娘がまたもやにやにやとしていた。そして声出さず口パクで''ふ・ら・ぐ''と見せつけてきた。
「しまった」
「どうかした?」
「いえ……なにも」
「じゃ、だいたいの動きをまとめた」
冬木市の地図隣りに箇条書きで今後の動きがわかりやすくまとめられていた。
「・静観、これは神殿造りと敵サーヴァントの漁夫の利を狙って他が脱落するまでの時間。無いとは思うけどこの場所が見つかればいきなり戦いということもありえる。さすがに路地裏にあのバーサーカーが歩いてるとは思わないが。それにこちらは
「・行動、最低でも二騎落ちてから動き始めようと思う。一番はバーサーカー、二番はキャスターあたりが脱落してから動きたいけど」
「そして最後にメジェド様で工房に、直接爆破魔術を付けたメジェド様絨毯爆撃。これでこっちの勝ちだ」
「——わかりました。
「まあそうだね。なにか質問は」
静観もいい、行動も理に適っているだろう。バーサーカーは私では十割敵わない、キャスターも一々要塞と化した場所に私たちが行かずとも他のクラスにもバレているだろうから魔力耐性のある三大騎士が対処してくれればいい。
さて——。
「はい、実は最後の部分なんですが——」
このあとはいかにメジェド様を粗雑に扱ってはいけないかを小一時間説いた。杖を使った気もするが詳しくは覚えていない。
ちなみに、メジェド様絨毯爆撃は最終手段になったと云っておきましょう。
「生態記録③」
・一見禍々しくも見える見た目、しゅるしゅると独立した生き物にも見える見た目。小さな見た目だけどタンニーンに匹敵する古参の一匹でもあるんだ。知性は高く、外部に排出する機関がないから会話はできないけど身振り手振りで伝えようとする姿は巷の女の子も可愛いと断言するだろうね。
噂によると、長生きした個体は一度だけ脱皮して真性の龍になるやなんとやら。
——出典:《幻想種の生態とその環境》 著書:とある幻想種生物学者