うさ耳ファラお尻と行く聖杯戦争。   作:神の筍

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尊敬する人は、ホビット村のバギンスさんです。


ファラお尻のやっちゃった

 

 

 

 人、人、人——。

 季節は冬。

 四季折々である東方の都——日本、そこでは様々な服装をした人が歩いていた。

 日差しが強いわけでもない。砂嵐が襲ってくるわけでもない。野盗が現れるわけでもない。穏やかな町並みが広がっていた。

 

「聖杯からの知識で知っていましたが、いざ目にするとなかなかすごいです」

 

「ニトちゃんたちが生きていたのは野性味溢れる時代だから、きっとどのサーヴァントも見たら同じことを云うだろうな」

 

「''かでんせいひん''と云うものも私の時代には無かった技術ですね」

 

 邪竜娘が使っていた''てれび''と''げーむ''を思い出す。彼女は''えふぴーえす''というものに今はハマっており、マスター(同盟者)に適当に買ってくるようお願いしていた。

 時間の空いた合間に、私も''こんとろーらー''を渡されたが、ぴこぴこする感じが上手くできず、結局十分足らずで追い出されてしまった。

 

「裁縫なり、スポーツなり、観光なり。この先生きていくなら趣味を見つける必要があるだろう」

 

 マスター(同盟者)ならば幻想種の世話が趣味だと云った。世界旅行もあの鞄一つでしており、邪竜娘も出てきて一緒にいろいろなとこを回ったらしい。

邪竜娘も今は''げーむ''に熱中しているが、一時期は自分で木を切り倒してきてログハウスを作ったと聞いたのは驚いた。

 

「——そう云えばマスター(同盟者)って何歳なんですか?」

 

 ふと気になったことを聞いてみる。

 あの世界を作るのに結構時間がかかった(・・・・・・・・・)、と云っていた。

 

「誤魔化す気はないんだが、実は自分の年齢がまったくわからなくてね。確実に人の一生より生きてるけど誕生日もわからないくらいだ」

 

 誕生日は引きこもりが適当に決めた日にしたけど、と付け足した。

 

「ずいぶん自分には無頓着なんですね」

 

「自分より眺められるものを見つけたら、いつの間にか時間っていうものは過ぎるものだからね」

 

「年の功、と云うわけですね」

 

 マスター(同盟者)はからからと笑うと服屋を指差した。

 

「あそこで着替えようか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 邪竜娘から借りていたシャツと上から羽織っていたコート、スカートを脱ぐと、下着姿になる。曰く小さいサイズを買ってしまい一瞬付けただけで未使用と云っていた。南無。

 テンションの上がっていた店員が「若奥様」とか云いながら見繕っていた服を着ていく。

 

「——着れたか?」

 

「あ、はい」

 

 なかなか高級店なようで、試着室は大きかった。

 扉を開け、外に出る。

 

「——どうですか?」

 

「可愛い」

 

 カチューシャと云い通した頭の霊装を中心に、胸ポケットに花柄が小さく装飾された白いボタンシャツに紺色のジーパンを茶色ベルトで巻いて、赤いスニーカを履いている。風が吹いて肌寒くなればとリボンベルトのコートを持っていた。

 

「変じゃないですか?」

 

「いや、可愛い」

 

「ほんとですか?」

 

「もちろん。タグは切ってもらったし、会計も済ましたから行こうか」

 

「む、ありがとうございます」

 

 世俗に薄そうなイメージでしたがそういうこともできるのかとつい思ってしまう。

 

「気になるところはあったか?」

 

「では、手始めにあの屋台の大判焼きというものを——」

 

 たまたま見かけたその屋台を指す。

 大判焼き、名の通り手のひらに乗るサイズのお菓子。買う際に店主が私のことを外国人観光客と思ったらしく、二つ包む際に軽く教えてもらった。日本の伝統菓子らしく、かつて使われていた通貨をモチーフにして作られたものだと。

 

「あ、美味しい」

 

 一口食べると優しい甘さが口に広がる。カスタード味を頼んだため、少し癖のある後味だ。ふわっとした生地に包まれ、また一口、一口と食べたくなる。

 

「初めて食べたけど意外にイケるな……」

 

 どうやらマスター(同盟者)も初だったらしく、どこか感慨深く口を動かしている。

 

「——こっちの餡子も食べてみるか?」

 

 差し出された大判焼きを反射的に食べてしまった。や、なかなか渋い甘さの——いや、そういうことじゃない……!

 

間接キス、……私が」

 

 ええい! 出会って一週間で間接とは云え粘膜接触を許してしまうとはこのファラオ、気が緩んで——! キッと効果音が付きそうな勢いでマスター(同盟者)を見た。

 

「——あ、すいませんサツマイモ味」

 

「いくつで?」

 

「一つ」

 

「はいよ」

 

 新しい大判焼きを買っていた。

 

「——マスター(同盟者)!」

 

「ん、どうした? あ、半分あげるよ」

 

「ありがとうございます——って、そうじゃなくてですね……」

 

 歩きながら渡された半分を受け取る。サツマイモ独特の甘さが鼻腔を突く。

生前ならば食べ歩きなどはしたないと叱責した、しかし現代では食べ歩きという文化が屋台などを通じて一般化しているのであえて無粋な真似はしない。

 

「——さ、次はどこに行く?」

 

「はぁ……。そうですね」

 

 辺りを見渡してみる。

 駅前から少し外れ、半繁華街と化しているおかげで気になる店が多い。

 

「あれは……」

 

 この世界にもあんなものがあるのかと視線が止まる。

 この国ではああ云ったものは歴史的建造物として保存されていると聖杯からの知識であるが、町中でも残されているみたいだ。

およそ五百年前から日本では戦乱の世があり、各地に戦さの拠点とするために数多く建造されたらしい。現代でも、国外では侍の国と云われるくらいだ、簡単に壊せるものではないのだろう。

 平和になった世の中では、戦さの象徴とされたものは次々と取り壊されていった。存在するだけで忌まわしい記憶が蘇り、もしくは反勢力を助長させる可能性があるからだ。

 それでもなお遺し、進歩の糧とする。それは生前ファラオで一時とは云え、国を治めていた私も見習わなければならない慣習だ。

 

「——マスター(同盟者)

 

「ニトちゃんの頼みだったらどこにも連れて行ってやるからな」

 

「——あのお城(・・)に行きましょう!」

 

 私は指をさしてマスター(同盟者)に云うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「——あははははっ! ひ〜っ、く、くくく——! ひっ、あははっ!」

 

 私の前には涙目になりながら馬鹿笑いしている邪竜娘がいる。

 

「それで? 入ったの? そのあんた曰く戦さのお城(・・・・・)ってやつに!」

 

「うっ……」

 

 笑い者になっている現状に歯を軋ませる。正直に話した私も悪いが、あのまま マスター(同盟者)と二人で無かったことにするにはあまりにも私は 耐性(・・)が無さすぎた。

 

「初めてあいつと町に出て、大判焼き食べて腹ごしらえして次行きたいところはラブホテル(・・・・・)って、笑い死にさせる気じゃない! あはは——。痛い、お腹痛いよ——」

 

 知らなかったのだ。

 まさかあの城がそういうこと(・・・・・・)を目的とした連れ込み宿だったとは。

聖杯からの知識とは私がおよそ取るであろう、関わるであろうことを予想して送られる。

 すなわちそれは——私が願望の聖杯すら予測できなかった羞恥をしたことになるじゃないですか!

 

「そ、そもそもマスター(同盟者)も云ってくれればよかったんですよ! 知ってるはずなのにそのまま行くなんて……。うぅ……」

 

——あそこか。どこがいい?

 

——どこ?

 

——ああ、階数のことだよ

 

——一番上まで行けるんですか?

 

——空いてるかどうかわからないけどな

 

——一番上に行ってみたいです!

 

——よし、じゃあ行こう

 

 後々マスター(同盟者)に聞くと私が昼間から嬉々としてあそこに行こうと指差した見慣れない若妻として噂になっていたらしい。

 

「ふっ、んん! あ、あいつにそんなこと期待しても無駄に決まってるでしょ。何歳かわからないけど、男だからそれなりにあるし。''据え食わぬは男の恥、据えられないなら据えてやる''って自分から云ってたもの」

 

 まだ笑いが残っているのか無理やり咳払いして邪竜娘はそう云った。

 

「くっ……。まさかマスター(同盟者)が不埒者だったとは……」

 

「いつか忘れたけど、''影の国''に行ったこともあるって云ってたからそれが移ったのかもしれないわね」

 

「''影の国''、ですか? あのケルトの戦士が名を馳せた」

 

「そ——。まだあるらしいわよ。それにあそこの''女王スカサハ''に、あいつが幻想種関連でこの世界の一部と繋げたって云ってたし」

 

 ''影の国''。

 武を志し、壁を超えてもなおその国の門扉を叩くことはできないと語られている。人間界とは違う異界にあるらしく、神秘が希薄とした現代では存在すら感じられず、殆ど隔離空間となっているらしい。しかし入国できないのはそれだけではなく、未だ衰えず神秘が残る世界に跋扈する数多の幻想種たち。スカサハが神代の生まれということもあり、強力な者たちも未だ健在。

 

「戦女神と名高いスカサハに物言いに行くなど、マスター(同盟者)の幻想種に対する好奇心は計り知れませんね」

 

「はん、結局は野蛮な奴らじゃない。目線が合えば乳繰り合うような奴が女王なんて大した国じゃないわよ。——あぁ。あんたみたいな奴らじゃないかしら?」

 

「…………」

 

「くふっ」

 

「——この邪竜娘が……!」

 

 結局第二次キャットファイトはマスター(同盟者)が呼びに来るまで続いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「使い魔によるとライダーが落ち、同じ日に柳洞寺に巣食うってたキャスターも落ちた」

 

「——。そろそろ私たちも動くのですね?」

 

「ああ。それと、使い魔が変な奴を捉えた」

 

 紙に転写されたそれを見る。

 紫と黒が混じったような、不快な気を纏わせた理解不明なモノだった。

 

「なんですか、これ」

 

「使い魔を通して見ただけだから正直なにかわからない。似たようなものを何度か見たことあるが……」

 

 魔術は同じものでも、使用者が違えば魔力質によって見た目が変わる。簡易的な呪い魔術であるガンドなどが良い例だろう。余計な先入観を持たせないために、確信がなく、余裕のある今はまだ云う必要がないのだろう。

 

「神代並みの結界を張り、独自の空間を作っていたキャスターが簡単に落ちるとは思えない。明日は柳洞寺に痕跡が残っていないか探しに行くから、今日はしっかり休んでくれ」

 

「わかりました」

 

 ようやく、本格的に聖杯戦争が始まる。

 これより先は幾千の敵を踏破してきた猛者ばかりが集う戦場。

 ならば私も、気を引き締めなければいけない。

 

 マスター(同盟者)と、私の勝利を願い。

 

 

 

 

 




・主人公【???】

ケルト並みの感性を持っていることが判明した。
「〜だろうな」「〜だろうね」、と意識せず変わるときがある。基本前者だが、気が抜けているときや雰囲気によって後者になる。

・ニトクリス【チョロイン(new!)】別名:たまごっちヒロイン

拙作のチョロイン。
歩いてればたまごっちみたいに好感度上がるレベル。絆レベルは一話に一絆上がる。

・邪竜娘【引きこもり】

ケルト並みの感性を持っている主人公を知っている……?
未だ主人公との関係は不明なのか……。

・幻想種(生物)

拙作の幻想種の個体数はかなり多いです。
ピンからキリまでおり、具体的にはスライムからドラゴンくらいです。拙作では裏側の世界は星の内海ではなく、別世界と設定しており、神秘が薄まるに連れて力の弱いものは自動的に裏側の世界に行くことになっています。主人公は幻想種のピンからキリを、保護、養殖しており、絶滅危惧種などを番に見つけ、増やしています。

・固有結界【主人公】

心象風景を、現実世界に反映させその世界に行く魔術の最奥。
この固有結界を主人公は分離させ、裏側の世界に接着させることによって意識せずに発動したままになる。現在では発動というよりは、裏側の世界と人間界が直接繋がっている唯一の''橋''のようなもの。存在を曖昧にさせることによって繋がりを危惧する抑止力を誤魔化しており、それ故に''曖昧な存在=思いや可能性の世界''で生まれた存在が紛れ込むことがある。すなわちそれはこの世界が 並行世界(・・・・)と繋がっている(?)と示唆しているの かもしれない(・・・・・・)


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