これで年末まで生きれる。
石階段を歩く。
何段あるかはいちいち数えてはいない。少なくとも王の墓所よりは無い。
私は今、柳洞寺への階段を魔術によって認識阻害・気配遮断を自分に施し
礼装も元礼装と、
本来ならば、マスターを矢面に立たせて戦うような戦略は認められないが話し合った結果余程のことがない限り今の状況で落ち着いた。
「——ニトちゃん」
『ええ、血の匂いがします』
「それもかなり濃い」
時刻は深夜——つまり魔術師の時間だ。閑静な町もあり、星々が点々と輝き欠けた月が自己主張している。
木造の門まで来ると、おそらくキャスターが張ったであろう人払いの結界が残っていた。
『魔力は間違いなくキャスターのものだ、上手の魔術師かサーヴァントが上書きしたか……』
『
『場所はわかるか?』
『本堂の一階に二人、裏側の二階に二人。計四人の気配です』
『ニトちゃんは一階で様子見を兼ねてバレたら迎撃、状況を見て保護対象なら自分で考えて動いてくれ』
『待ってください、一人で行く気ですか?』
『ニトちゃん一人にしないほうがいい?』
『なっ、そういうわけじゃありません!
『逃げるのは得意だから大丈夫……。期待してるぞ?』
『——
スペアの鞄には魔術礼装があると云っていたが、それを準備する際杖を落としたと嘆きながら新しい杖を出していたのも知っている。
『……ええい、
身体に魔力を循環させ、攻防に備える。魔力供給は生前と同程度、魔力弾に至っては威力が上がるくらいにもらっているので問題はない。浮遊魔術を行使し、空いていた木戸から中の様子を見て回る。
『——お主は衛宮の倅じゃな』
『——あんたは慎二の、なんでここに』
声がする。ちょうど先の部屋だ。
浮遊魔術にて足音は立たないが、周囲に気をつけて近付いていく。
縁側と思わしき場所から障子に開いた穴を覗いた。
「路地裏以来じゃな、孫は終わったと云ったが儂自身はなにも云うとらんからのう。文句云われる筋合い無いじゃろうて」
「文句も何も聖杯戦争に参加しているならそれでいい。でも、あんたが
「クカカ、正義感の強い男よの。お主も聖杯戦争の参加者ならば、多少の犠牲は付き物と聞いたじゃろうて」
「犠牲もなにも、ここの人たちは関係ないだろ! 無関係の人を巻き込むのはおかしいはずだ」
木刀を持った赤毛の青年と、杖をついた老人が問答している。木刀は魔術強化されているようで、並みの真剣でも断ち切れないようになっている。対し老人は武器を向けられているにも関わらず悠然とし、口元には笑みすら浮かべている。
『……心臓が無い?』
魔力の源である心臓が感じられない。気配はねっとりとした、全身ずぶ濡れの気味の悪さを感じる。
「——ふむ、少し魔術師がどういう者かわからせてやる必要があるようじゃの」
部屋に充てられていた月光が塞がるように無くなり暗闇が広がる。咄嗟に後ろを振り向くと、そこには一面腕一本ほどの羽虫が飛んでいた。
『——っ』
こちらに向かって来ると同時、障子から右へと飛ぶように抜け出す。しかし、その行動故か伸ばしたほんの少しの爪先が羽虫へと当たってしまう。
「ぬぅ……。盗み聞きしてる輩がいるな」
空いた穴から部屋内を見ると赤毛の青年が天井から飛び出した虫を木刀で打ち落としている。
本来部屋に入るはずだった羽虫はまだ認識されていないこちらに向き、飛んで来ていた。
『……仕方ありませんね』
認識阻害はそのままに、気配遮断のみを解いてそのぶんの魔力を天空神の礼装へと移す。
「——羽虫如きが、不敬です!」
それは太陽光。
古来より汚れたもの、邪悪なものと対比されてきた原初の退魔。羽虫から感じ取った
「陽の光じゃと! 小僧、お主同盟を組んでいたのか!」
部屋の隅、影に逃げるように老人は後ずさる。
目の前にいた三十を越す羽虫は全て灰と消え不愉快な砂埃が舞う。
「遠坂なのか?!」
勘違いされているようで、部屋の前へと姿を現わす。
汚らわしい虫を出されるのを防ぐため未だ威光は照らしたままだ。
「杖じゃと……? お主キャスターの真似事を。虫も反応せん気配遮断からアサシンじゃな」
「醜穢なる者よ、我が天空神の威光を前に傅くことすら許しません。そのまま消え去るならば尚の良し、残ると云うのならば容赦はしません」
さらに威光を強め、羽虫の老人は目を開けるのすら困難らしく顔を手で覆っている。赤毛の少年も同じようで、目を細めながらこちらを見ている。
「——忌々しい光の徒如きが! 儂を舐めるなよ……!」
威光を遮るように羽虫や這虫が老人の体から出てくる。潜んでいた虫も操るようで、部屋は一面真っ黒となる。いくら虫好きであろうと平常心を保つことはできないだろう。
「——舐められたものですね。はぁっ!」
目眩が起こるほど発光すると、虫たちは全て消え去り、先ほどとは違い灰すら残ってはいない。
「っちぃ、引き時じゃな……」
まるで崩れ落ちるように老人はその場からいなくなる。威光のダメージを受けていたようで翳していた腕が溶けるように虫たちと瓦解しているのを思い出す。最初から本体であろう心臓が無いのはわかっていたので気配察知の簡易結界を張り、威光を収めた。
「えっと、あいつとの会話を聞く限りアサシンでいいんだよな?」
「ええ。真名は明かせませんが、今宵の聖杯戦争、アサシンとして現界しています」
「助けてくれてありがとう。たぶん俺だけじゃあいつの虫には勝てなかった」
「いえ、
「ああ。セイバーのマスターをやらせてもらってる衛宮士郎だ、よろしく」
「聖杯戦争中は同盟関係であらぬ限り敵対関係。結果的にあなたを助けましたが私が好意に接することはないでしょう」
「あ、はは。だよな。悪かった」
「理解してもらいなによりです。ときにセイバーのマスターよ」
「ん、なんだ?」
「あなたがここにいる事情はつゆ知らず。しかしあなたがここにいてセイバーがいないのは何故でしょうか」
「——しまった! 途中でセイバーと別れてそのまま! ごめん、改めて礼はする!」
赤毛の少年はバタバタと足音を立てて私の横を走り去っていった。些か不敬ですが、私も
『—れ! なん——思?』
『わか——ん、それより——』
声がする。
一階と二階の高さでわざわざ空間が仕切られていたようで、二階の面に行ってようやく
『——く! 逃げ——と、やば——』
『申し訳——』
声はどんどん近付いてくる。
数メートル行った先の角にいるようだ。
「——あぁ! ニトちゃん!」
靴を滑らせながら角を曲がると、こちらに向かってくる。いつの日かのように逃げるように走り、目が合うと私を呼んだ。
「
「今はいい! 下はどうなった? たぶんこいつのマスターがいたらしいんだが!」
左腕で抱きかかえていたのは青いドレスに銀色の甲冑を着た男装風の少女。怪我をしているようで、脇腹から流血しているのが見て取れる。手先に持った鞄が忙しいそうに揺れている。
「——セイバー! ……と誰だあんた?」
「ニトちゃん、あいつがマスターか?」
「はい!」
「わかった、俺は二人を連れて行くからニトちゃんは先に門から出ろ! 今から追いかけてくるのはサーヴァントに対しては脅威だ!」
瞬間、紫黒い波が
「そこの赤毛! 今から俺が勢いよくお前を担いで逃げるから用意しとけよ! ——ほらっ!」
「どういう——えぐっ!」
背後でなにやら起きているが、今は気にせずに門を目指す。砂利の音がしているため、
「ニトちゃん、後ろ!」
速さはそのままに、後ろを振り返ると標的を変えたのか数十本の触手が私に迫っている。
「——
「——天空神よ!」
「呑まれてたらうさ耳は拾ってた」
「骨も拾ってください!」
門から出ると波は追いかけるのをやめたようで、安心からか冗談が口に出てしまった。
「ニトちゃん、風乗り魔術でいったん飛ぶから掴まってくれ。赤毛も今は安全なとこに行くから大人しくしといてくれ」
「わかった」
「わかりました」
セイバーを抱きかかえていた腕を取る。彼女は傷の影響から気絶したのかぐったりとしている。
「しまった、手が動かないから杖が取れない。内側のポケットから杖を出してくれ」
「あ、ありませんよ! 杖!」
「なに?! また落としたか! 仕方ない……鞄に箒入ってるからそれで行くか」
「……これですね!」
「それだ!」
スペアの鞄は空間拡張しているようで色々入っていたが大きめの箒はすぐに見つかった。
「箒って、魔法使いっぽいけどそれブラシじゃないか?」
「最近のホームセンターじゃあ魔法使いっぽい箒は売ってないから仕方ないんだよ。それよりお前の家は近いのか? セイバーを治療しなければならない」
「こっから歩いて二十分くらいだ」
「そっちのが近いか。しっかり掴まってろよ! 最新式だからな——!」
「最新式って——うわぁぁぁぁぁぁっ!」
「
箒を地面に置くと、スケートボードのように乗ると
・主人公【???】
毎度のごとく走る。ホントにこいつ魔術師か?グライダー魔術師か使ってねぇぞ。
セイバーを治療することにした。なぜか? それは次回に持ち越しか……?
・ニトクリス【初、ファラオらしい仕事をした】
頑張った。今回は頑張った。ゾウケンちゃんの虫と対峙したけどエジプトではスカラベとかタランチュラみたいな魔術的な意味合いで強大な虫がいるからあんまり動じない。形は気持ち悪いと思ってるくらい。
・邪竜娘【出番無し】
お家でゲーム中。
・衛宮士郎【主人公】
原作通り虫に襲われる。初で。箒(ブラシ)に感動する。
・セイバー【救出】
なんと拙作では助けられるという新展開。正直失敗したと思ってる。そのぶんライダー姐貴強化してるから多少はね? 首を切られることは無くなるのか……?!
・太陽と月のローブ【ファラオ・ウェポン①】
皆既日蝕、皆既月蝕の日にのみ編むことで作った燃費が良くなるファラオ・ウェポン。
・紫黒い波【???】
正体不明のなにか。