特に見どころもなく終わるだけなので、なにも考えずにさらっと楽しんで頂けると嬉しいです。
「……平和だな」
オレは焼け野原になった街並みを眺めながら呟く。
この土地の名は冬木。
元々は都市開発が進んだ"新都"と昔ながらの街並みが並ぶ"深山町"の二つの街並みが融合した市だったのだが、ある日を境に街は炎に包まれ、人は消えて代わりに
オレ―――
まぁ、"生き残った"というより"取り残された"という方が正しいのかもしれないが。
「あーあ、なんでこんなことに…」
煤の付いた頭をガシガシと掻きながらオレはうなだれる。
正直、どうして自分だけがこの無人の街に残ることになってしまったのか、まったくわからない。
あれだろうか、オレはもしかして知らずしらずの内にとんでもない罪を犯してしまっていて、その罰としてこんな魔境に取り残されたとか、そういうのなのだろうか。それとも―――
そうして一人考えれば考えるほど新たな疑惑が出てくる疑問にもんどり打っていると、不意に背後から重い金属音が聞こえてきた。
驚いて一瞬だけ身体を強ばらせるものの、すぐにその恐怖心は消え失せる。
何故なら、背後から聞き慣れた女性の声が聞こえてきたからだ。
「マスター、周辺のパトロール終わりました。特に異常は無かったです」
人間としてはあまりに大きすぎる巨大な胸部と金色に光り輝く異形の手。そしてそれらとは不釣り合いな、若干のあどけなさが残る可憐な顔。
オレがマスターとして契約を交わしたサーヴァントである英霊―――『パッションリップ』がそこにいた。
「あぁ、ご苦労さまリップ。いつもありがとね」
オレが素直に感謝の言葉を伝えると、リップは頬を紅潮させ、若干言葉に詰まりながらも応答した。
「い、いえ、私は命令されたことをただやっているだけで、そんな大したことをやってるわけじゃ…」
「いやいや、そんなことないさ。なにせリップがいなかったら、オレとっくに死んでるだろうし。お前がいてくれるだけでオレにとっちゃありがたいんだぜ?」
「は、はうう…そうですか」
既に紅かった頬をなおも紅潮させるリップ。
その愛らしい反応を見ると、なんだかこっちまで恥ずかしくなってきてしまう。
そうしてひとしきり照れて落ち着いたのか、リップはこちらにトコトコと歩いてきてオレの隣に腰を下ろした。
「…そういえば、私がマスターに召喚されてからしばらく経つんですね。ここは変化がないからあんまり実感ないですけど」
特になにをするでもなく二人揃って燃え盛る街を眺めていると、不意にリップがそう言った。
…言われてみればそうだったか。
オレが彼女を呼び寄せたのは、人が消えさって間もない頃のことだ。
あの時、オレは突如現れたバケモノたちに追い立てられ、廃墟と化したこの冬木を逃げ回っていた。
最初はうまく逃げ回っていたのだが、事がずっとうまくいくなんてことは無く、とうとう街のはずれにある大きな武家屋敷に追い込まれてしまった。
まさに絶体絶命。
ぶっちゃけ、オレはあそこで死ぬんだと薄々予感していた。
しかし、そんな絶体絶命のオレの前に幸運の女神が舞い降りた。
いきなり庭にあった土蔵が光りだしたかと思うと、巨大な金色の拳が飛んできて、襲いかかろうとしていたバケモノどもを蹴散らしたのである。
いったいなにが起こったのかわからずに放心状態だった
オレの前に、先ほどの攻撃をした張本人が近づいてきてこう言った。
「あのー…大丈夫ですか? マスターさん」
「……は?」
以上がオレとリップの馴れ初めである。
この後、オレはリップにこの冬木に起きた異変の全容を聞いたり、とりあえず拠点となる場所に居を構えたりして今に至る、というわけだ。
今思うとオレとリップはなんとも運命的な出会いをしたものだとつくづく思う。
偶然逃げ込んだ先でたまたま召喚用の魔法陣が敷いてあって、運良く危機的状況の時にサーヴァントを召喚出来たとか、もはやうまく行き過ぎて仕組まれてんじゃないかとさえ思えてくる。
「…なぁ、リップ」
「はい?」
ふと、オレはリップに呼びかける。
呼ばれるや否や、キョトンとした顔でオレを見つめるリップ。その表情はなんとも可愛らしく、思わず彼女の頭に手をやって撫でてやりたい欲に駆られるが、それをなんとかやり過ごす。
そしてオレは静かに彼女の手に自らの手を乗せると、先ほどの言葉の続きを口にした。
「…これから先、いつまでこの生活が続くかわからないけどさ。とりあえずこの生活が終わるまで、オレの傍にいてくれないか?」
それは、ある意味ではプロポーズのような言葉だったのかもしれない。
といっても、こんな廃墟も同然の街中でやってはムードもへったくれもないのだが。
しかし、それでもリップにはすこぶる効いたらしく、一瞬の沈黙の後、彼女は急激に顔を真っ赤にして俯いてしまった。
そしてしばらく経って顔を上げると、深呼吸を一つして問いの答えを口にした。
「……はい、もちろんお付き合いします。だって私は、貴方のサーヴァントですから!」
その言葉と共にリップは満面の笑みを見せてくれる。
その笑顔は眩しいほど輝いており、彼女のあどけない表情も合わさって凄まじい破壊力を有していた。
オレはその笑顔に内心悶絶しつつ、彼女の笑顔に同じように満面の笑みを返す。
かくして炎上した冬木の地にて、今日もまた一人の青年と異形の少女が物騒なスローライフを送っている。
この生活が終わるのはいつになるのか。そもそもこの生活に終わりは訪れるのか。
それはまだわからないままだが、今はそれで十分だ。
だって彼らにとって大切なのは、なにが起こるかわからない未来なんかじゃなく―――
いま目の前にある、幸せな
リップちゃんかわいいよね。
ちなみにこのしばらく後にカルデアから立香くんたちが来て、なんだかんだで所長も救ってカルデアに帰還するっていう流れが設定だけですがあります。
まあ、文章になって世に出ることは多分無いんですが。