男が出ます。苦手な人注意。

内容はタイトル通り。
船見結衣ちゃんが好きすぎるからしょうがないよね。

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船見結衣ちゃんと暮らしたいだけの話

 大学を卒業してから社会人になり、ふと気付けば数年の月日が過ぎていた。仕事の忙しさに追われていたわけでもなく、特に何かに打ち込んでいたわけでもないけれど時間が経つのは早いものだ。

 幸いにして勤め先は流行りのブラック企業というわけではなく、朝起きて夕方過ぎには自宅に帰れるぐらいには恵まれた環境に置かせてもらっている。とはいえ仕事はまだまだ慣れないことも多く、決して楽だというわけでいないけれど。

 俺の会社でもそろそろ今年の新人が配属されようかという時分、珍しいことに実家から連絡があった。

 

『あんた、今って親戚の――さんのところで家借りてるわよね?』

『ああ、急になんだよ。確かに相場より安く住ませてもらってるけど……ひょっとして出ていってほしいってことか? 貯金もしやすいから助かってるんだけどな』

『違う違う。そうじゃなくて、むしろ逆? ほら、――さんの家に女の子がいたのって覚えてる? そう、あの子が中学生になって社会勉強がてら一人暮らししたい……ってことになったのよ』

『へ? 中学生で、女の子が?』

『そうそう。でも、幾らなんでも心配じゃない? だから条件付きを2つ付けたってわけ。1つ目は親戚の――さんのマンションに住むこと。それと、もう一つが――――』

 

 

 

「私、船見結衣です。今日からここで暮らすことになってます」

「あ、と、こんにちは?」

 

 ある休日の昼下がりのこと。伝えられていた時間通りに鳴らされたチャイムに扉を開けてみれば、大きな荷物をぶら下げて、一人の女の子が立っていた。肩まで届くかどうかと言った黒い髪は自然に切り揃えられていて、丸い大きな瞳は茶色がかってこちらを見つめている。少しばかりの不安そうな感情は、これから一人で生活することへのものだろうか。俺に対してのものかもしれないけど。

 それにしても成長したなあとしみじみする。最後にあったのは俺が大学生のころだっけ? そりゃ、あのわんぱくだった女の子が、こんなに可愛くもなるよなあ。……むしろ、ちょっとクールになってる感まであるけど。

 

「君がほんの子供の頃には、何回か会ってるんだけど……覚えてないよなあ。えと、俺は――」

 

 簡単に自己紹介を行うと「よろしくお願いします」と、礼儀よくぺこりとお辞儀か返ってきた。中学生で一人暮らしをしたいなんていうからどんな子かと思っていたけど、思ったより真面目そうでよかったな。

 さて、玄関先で話を続けるのも疲れるだろう。俺はキーボックスから預かっていた隣室の鍵を引っ張り出すと、彼女の方へと向き直った。

 

「それじゃあ、念の為にもう一度だけ確認するけど。この俺の部屋の隣が、君の部屋だ。ちょっと窮屈に思うかもしれないけど、親御さんの付けた条件だから我慢してくれ」

「はい、大丈夫です」

「……ま、細かいことはいいか。とりあえず常識的な時間に家に帰って学校さえ行ってりゃ、俺からは特に言うことはないよ」

 

 それにしたって中学生から一人暮らしって、また随分と大胆よなー。確かに俺も昔は憧れてたけど、結局初めて家を出たのは大学に入ってからだったし。

 見ればクールそうな表情だけど、少しだけ口元が緩んでいるのが分かる。うんうん、初めての一人暮らしってわくわくするよね。

 はい、とそんな彼女に鍵を手渡してやる。

 

「? えっと」

「君の家の鍵だよ。開けてみな」

「っ、はい!」

 

 おお、いい返事。

 嬉しそうにこれからの自宅の鍵を受け取った彼女は、感慨深くそれを鍵穴へ差し回した。

 ガチャリ、と音を立てて扉が開く。

 

「わっ」

 

 当然と言えば当然だけど、俺の部屋とほぼ同じ作りか。あ、浴室とトイレの位置だけ逆なんだ。へー。なんてことを内心で考えつつ、どこかうきうきと部屋を探索する彼女を見守る。部屋の隅まで見て回っているところを見られているのに気付いたのか、少し赤い顔でこちらへと戻ってきた。

 

「そういえば荷物はどうしたの? 家電とか、学校に必要なものとか色々あると思ったんだけど」「あ、荷物は今日これから届くようにしてます。家電と家具は最低限だけ揃えて、あとは必要に応じて買いに行こうかなと」 

「なるほど。荷物の整理とかは……あー、いや、なんでもない。家具とか家電を運んだりする時は呼んでね。手伝うから」

「? はい。ありがとうございます」

 

 やば。女子中学生の子の荷物整理を手伝おうかなんて言い出しそうになったけど、どう考えてもやべえ奴じゃん。

 不思議そうな視線を向けられて、誤魔化すように咳払いをする。

 

「それじゃあ、最低限このマンションのルールぐらいは教えとこうか。ええとそうだな、とりあえずゴミ出しのことから――」

 

 ま、そうはいっても、この子とこれから仲良くなるわけでもない。

 適当に今日明日と向こう一週間ぐらいは様子を見て、それからはお互いにそう干渉することもないだろう。

 そもそも俺は曲がりなりにも成人済みの社会人で、この子は女子中学生だ。趣味嗜好が合うわけも、生活リズムが合うわけもない。特に問題が起こらない限り、単なる隣室に住む親戚のお兄さん(お兄さん)として過ごすだけだろう。

 

 

 

 

「――なんて思ってたのになあ」

「ご飯が出来ましたよー。……どうしたんですか、ハルさん?」

「や、なんでもない。おー、今日はビーフシチューか」

 

 今日のは上手くできましたよー。なんて笑う結衣ちゃんに、いつも美味しいよと笑い返す。

 いただきますと声を合わせてスプーンを口に運ぶと、言うだけのことはある。しっかりとコクのあるソースに牛肉がよく絡んでいて、いい味をしている。

 

「うん、確かに今日のシチューは美味いな……あ、いや、普段の料理も美味しいけど」 

「あはは、そんなに慌てなくても大丈夫ですよ。別に怒ったりしませんって、私」 

「確かに陰でこっそりガッツポーズしてるし怒ってなさそうだね」

「今のはちょっと怒りました」

「ごめんなさい」

 

 素直に謝った俺に溜飲を下げたのか、少し呆れたような顔でこちらを睨む結衣ちゃん。その顔が少し赤くなっているのは……指摘すると、本当に怒られそうだからやめておこう。

 

「けど、結衣ちゃんも学校帰りで疲れてるだろうに」

「ハルさんって、放っておいたらコンビニとか出前ばっかりでしょ」

「それは……うん、そうだけど」

 

 そう言われると、返す言葉がない。

 何せ結衣ちゃんが作ってくれるようになるまでは、コンビニスーパーと外食と出前のヘビーローテーションを組んでいたのだから。同じく食費もヘビーだったものだ。

 ……いや、俺も一人暮らし当初は気合を入れて自炊したりしたものだけど、いつの間にやら仕事の疲れを言い訳に、易きに流れてしまったというか。た、たまの土日ぐらいは自炊してるけど!

 

「私も自分の分を作るついでみたいなものだから大丈夫だって」

「うーん……なんだろう。最初は結衣ちゃんの面倒を見る役にだった筈なんだけど、いつの間にか立場が逆転してるような」

「そういえば、ここに引っ越してきた時は色々教えてくれましたよね」

「そうだっけ? 結衣ちゃんは最初からしっかりしてたから、特に俺から教えることはなかったような……あ。でも、そういえば結衣ちゃんが来てからしばらくした頃だっけ。血相を変えて俺の部屋に来たことがあったよね。ええと、そう……蜘蛛が出たとか何とかで」

「うぅ……あの時は、どうすればいいか分からなかったんですよ。友達に連絡しようかと思ったけど、その間に目の前からいなくなってても怖いし」

「結衣ちゃんも女の子だなあ」

「前に『困ったことがあれば言ってくれ』って聞いてたから、ついハルさんのところに来ちゃいました」

「結衣ちゃんはそつのない子だったから、最初はどんな大変なことかと思って身構えちゃったよ。……けどまあ、確かに俺も昔は虫が苦手だったから気持ちはわかるけど」

「え、そうなんですか? ささっと蜘蛛は追い出してたから、てっきりそういうのは平気なんだと思ってました」

「一人暮らししてるとねー。それに、蜘蛛ぐらいなら可愛いもんだよ」

「ううーん……私も慣れられるのかな」

 

 にぎにぎと右手に握りこぶしを作る結衣ちゃんだが、何とも自信なさげだ。

 けどまあ、あの蜘蛛の一件からだっけ。結衣ちゃんとこうして話すようになったのは。

 

「そうですね。確かあの時、私が付けてたゲームにハルさんが気づいてびっくりしてましたよね」

「そりゃそうだよ……まさか、あの超有名鬼畜RPGを結衣ちゃんがやってるなんて思わないでしょ。確かに有名タイトルではあるけどさ」

 

 2世代前のSONY製家庭用ゲーム機が部屋の片隅に放置されてたことはともかく、まさかその横に悪魔と文明崩壊後の東京でバト(パト)りあうゲームが置かれているとは。RPGの癖して、場合によってはストーリー最初の雑魚的にさえハメ殺される危険さえあり、鬼畜ゲー界では名高いものだ。

 

「私はハルさんが限定版(マニアクス版)を持ってたことに驚いたけど……」

「俺が買ったときはまだプレミアも付いてなかったからね」

 

 結衣ちゃんが渋いゲームをしてることに驚き、つい『おおー、マニアクスはやりこんだなあ。なつかしー』と呟いたのが切っ掛けだった。『え、アレ持ってるの!?』と問いただされて、あれよあれよと言う間にソフトを貸すことになってしまっていた。

 いや、もう何年もプレイすることさえなかったから、それ自体はいいのだけど。(「むしろあげようか?」という提案には全力で畏まられてしまった)

 

「流石に何万もするソフトは貰えないですよ。私も、一度買おうとして諦めたぐらいですし」

「中古品ならそこまでの値段はしないと思うけど……」

「ゲームって中古だと買う気があんまり起きなくて」

「わかる」

 

 問題は、結衣ちゃんと俺の趣味がかなり似通っていたことにある。

 ゲームで言えば基本どのジャンルもこなすが、どれかといえばRPG派。普段の生活は落ち着いた雰囲気が好き。趣味については語りたがるタイプ。相手との調和を好み、物事は丸く運ばせるのが一番だと思っている。……改めて挙げてみると、これで中学二年生とは末恐ろしい。

 そして俺にしても、これまでは特別ゲームが趣味だという友人関係には恵まれず、黙々と一人プレイを行ってきたところに突如同士が出来たのだ。

 気付けばお互いの好きなゲームを語ったり、貸し合ったり、感想を言い合ったり。内心では中学生と何してんだろうなーと薄々考えてはいたものの、気付けば食事まで一緒に摂るようになってしまったのだから流れとは怖いものだ。

 

 うんうんと振り返りながら考えてみると、こうなったのも仕方がないことと言える。と思う。

 だってこんなに気が合うのに仲良くならないとか無理じゃん?

 と、自己弁護していると、結衣ちゃんが思いついたように手を叩いた。

 

「そうだ、ハルさんって今度の土日暇ですか? なもブラでもやりません?」

 

 なんと土日は暇である。いやー、暇ならしょうがないよねー。

 

 ……とはいえ俺は社会人で結衣ちゃんは学生だ。年長者として、学生の本分である勉強もちゃんとするように言っておかないといけないよなあ。

 結衣ちゃんからのお誘いの言葉に、わざとらしく携帯をチェックしてから俺は口を開いた。

 

「おー、いいね。たまにはピザでも取ってゲームやりこもうぜ」

 

 

 

 

「やっぱ結衣ちゃんは格ゲーも上手いなー。俺も昔はそこそこ鳴らしたつもりだけど、ふつーに負け越してるわ」

「ふふん。なもブラは友達ともよくやり込んでますからね」

「そういえば俺、格ゲーやる友達とかいなかったな……」

「ここで地雷!?」

 

 自分から地雷原を踏み抜きつつ、ゲーム画面下のお互いの星の数を数えてみる。お互いの撃墜数を数えてみれば、圧倒的……とまではいかないが、目で見てわかる程の差が付いている。

 というか、これだけ星が積みあがるということは……。

 

「わ。もうこんな時間か」

 

 時計は正午を回ろうかという時分だった。

 朝からプレイしていたのだから、既に2時間以上ぶっ通していたことになる。

 ぐだぐだと喋りながら遊んでいただけなのだが。

 結衣ちゃんも時間がかなり経っていることに気が付いたのか、小休止とばかりにコントローラーを置いて両腕を伸ばしている。

 

「どうします? このまま続けてもいいですけど、どうせなら別のゲームに変えても……あ゛っ」

「それか、先に昼飯でも。って、どうかした? なんか急に顔色青くなってるけど」

 

 結衣ちゃんらしからぬ声が響いたと思えば、勢いよくこちらを振り向いた結衣ちゃんが慌てて肩を掴んできた。痛い痛い。なに。

 

「忘れてました……! 今日は友達がここに遊びに来ることになってるんでした!」

「えっ、まじ? 俺、帰った方がいい?」

 

 俺の言葉に、何か言葉を返そうとする結衣ちゃん。

 その時、ちょうど来客を知らせるインターホンの音が鳴った。

 

「……ちなみに、約束の時間は?」

「……12時からですね」

「やっちまったな」

 

 しっかり者の結衣ちゃんとしては珍しいぽかミスだ。

 特に俺としては気にしていないし、ここで帰っても全然構わないのだけど。

 どうするのかなーと思って結衣ちゃんを見ていたところ、インターホンの向こう側から何やら会話声が聞こえてきた。

 

『あれー。結衣の奴、まだ寝てんのかな?』

『京子先輩じゃあるまいし、それはないんじゃないですか』

『もしかしてお出かけしてたりするのかな?』

『それはあるかも。私の為にラムレーズン買ってきてたり』

『京子先輩の為ではないでしょうけど、外出してる可能性はあるかもしれませんね。――はっ!

それか、もしかして部屋の中で倒れて動けなくなってしまってるんじゃないでしょうか!?』

 

「それはないよ、ちなつちゃん……」

 

 否定する結衣ちゃんだが、なんとも声が弱弱しい。

 ちょっとパニックになってしまっている結衣ちゃんの為に、俺から動くことにしようか。

 

「しょうがないし、ここは俺が一度部屋に帰ることにするよ。俺が戻ってから友達を呼びな」

「え。でもそんな、ハルさんに悪いですよ。せっかくの休みの日を開けてもらってるのに……」

「大丈夫だって」

 

 少なくとも土日はほぼ空いてるから、うん。

 

「それじゃ、俺は部屋に戻るから。後は適当に……」

 

 と。

 

 ここで誤算だったことの1つは、結衣ちゃんの友達が予想以上にいい子達だったことにある。

 『もしかして部屋の中で倒れてるんじゃないか』……と、普通であれば、ないだろうと流してしまう発想を真に受けとってしまったこと。

 そしてもう1つは万一に備えるという意味で、結衣ちゃんの友達が合い鍵を持っていたことにある。これは一人暮らしを心配した結衣ちゃんの両親が、昔からよく知っている京子ちゃんに鍵を渡していたのだ。

 

 以上2点を組み合わせると。

 

「結衣―、生きてるかーっ! ……って」

「ちょ、京子先輩。せめてノックぐらい……ん?」

 

 金髪の女の子と、桃色の髪の女の子が部屋に飛び込んできた。

 二人とも目を点にしてある一点を見つめている。

 ある一点というか、俺だね。うん。

 

「……京子、ちなつちゃん。いらっしゃい」

 

 もう何かを諦めた様子で、結衣ちゃんが呟いた。

 なるほど。俺と違ってちゃんと友達がいるようで、何よりである。

 そして先に飛び込んできた二人に遅れて、もう一人の小柄な女の子が部屋に入ってきた。お団子にした赤い髪を揺らしつつ、ふらふらとした様子で先に入った二人の後ろにつく。

 

「ちょっと……二人とも、はや」

 

「――結衣の部屋に男の人がいるーーー!?」

「ちょちょちょ結衣先輩!? 私というものがありながらどういうことですか!?」

「あの……えっと……?」

 

 状況が呑み込めていなさそうな赤髪の子を除き、場は既に沸騰状態と言えた。

 結衣ちゃんはというと、先ほどまで青くしていた顔を赤くして「あ……う……」とものが言えない状態である。なぜ?

 ちょっと混乱はしているが、とりあえず親戚のお兄さんとでも言っておけば場の混乱は収まるだろう。ここはもう結衣ちゃんに任せることにしよう。

 

「あ、それじゃあ結衣ちゃん。俺は帰るけど、後はよろしく頼んだ」

 

 うん。決して面倒だから逃げるわけじゃないけど、俺から説明してもまとまらないだろうし?

 もしかしたら三人から一斉放火を受けるかもしれないけど、頑張ってほしい。心から応援してる。

 さて、部屋に戻ったらモンスターを狩るゲームでもしようかなーなんて思いながら、入ってきた三人の横を通り抜けようとして。

 

「――ちょっと待った、そこー!」

「ぐへぇ!」

 

 結衣ちゃんから飛んできた凶弾(ドロップキック)に、その場に倒された。ひどい。

 

 

 

 この後、ちゃんと三人には結衣ちゃんとの関係を説明して納得してもらえました。まる。


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