とある街の平凡な日々。   作:水崎 鳴呼

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_____第四百二十三地点 五十三回目▽___


とある人間の不運な日。

 

 

 

_____■■月■日 呷垣通り四番裏路地にて。___

 

「う、あぁ、あっ!!」

思えば今日は朝からいつにも増して運が悪かった気がする。

例えば朝出かける時玄関を出ると隣人に捕まって三十分程無駄話を聞かされたり、電車が諸事情により遅れて待ち合わせ遅刻しかけたり、いつもの帰り道が工事中で通れなかったり、

「あああ、もう!なんだよ、何なんだよ!!!」

仕方なく近道にと入り込んだ路地が予想以上に深くて迷ってしまって挙句に

「****!!!」

ノイズが混じりまくった鳴き声を響かせ後ろから狭い路地いっぱいいっぱいに膨張しながらこちらに迫ってくる人だったであるモノ。

「叫ぶなバケモノ!クソが!こんな事ならこんな街引っ越さなきゃ良かったのに!!!!」

なんて叫んでも意味はなくバケモノは意味のわからない音を発しながらこちらを追ってくる。めいいっぱいに膨らんだソレが道端のゴミ箱をメギメギと押し潰していく音が反響して耳が痛い。

どうすればいいと考えながら走っていると不意に道が二手に別れた。分かりやすく右と左。

「っづぅ!右……と見せかけての左ぃ!!」

意味の無いフェイントをして左側の道へ突っ走る。走るしかない。そんな、流石にこの先が行き止まりなんてそんな運のない話は無いはずだから、ない、は。

足が止まりそうになる。見間違いじゃ無ければ壁が見える。行き止まり。

「……うっそだろおい、おまえ、そんな」

振り返ってみるが引き返せる道は肉壁で戻れる筈もなく。

 

これで終わり。BADEND。

 

いいやまだだ、と足掻くように端まで逃げようと先を見ると人影が見えた。

白い上着に黒いシャツ、まだこの時期には寒いであろう青の半ズボン、染めて放ったらかしにしたせいで斑になった髪。それらが少女の足元の赤い液体のせいで所々が赤く染まって───まて。

「んー?あはは、早かったなぁ。しかもこっちの道に迷い込んで、なおかつ目撃者も流れ込んできてる」

少女はゆっくりと立ち上がり伸び運動をする。ぱしゃんと足元の水溜りが跳ねて赤色を広げる。……考えたくないし見たくもないが水溜りの先には「いかにも」な服を着たゴロツキだったナニかが山積みになっていた。

「お、おま、なにしてんだぁ!?」

「あっはっは!走りながら叫ぶとかヨユーだねお兄さん!」

ヨユーなわけが無い。全くヨユーじゃない。走り過ぎで呼吸の仕方を忘れかけてるだけだ。

「っそこ、どけ!バケモノが」

「んー?バケモノ?ああ違うよ、アレはね」

少女が喋っている間に横をすり抜け壁に衝突する。肺が酸素を求めて激しく動き始める。いや普通にぶつかった腕が痛い。

「アレはね、妖怪って呼ばれるものだよ。たぶん寄生タイプで宿主の内臓を食い終わったらこういう風に膨らんで次を探す。まぁここまで大きくなるのは珍しいからお兄さん運がいいね!」

「いい訳あるか!!お前早く逃げないと」

「逃げないよ、私はこれを退治しなきゃイケナイの」

とん。と片足で跳ねる少女。その動きは羽のように軽やかでそのまま飛んで―――飛んでる。いつの間にか生えていた烏の羽根が羽ばたいてとんとん、と肉壁を駆け上がっていく。

「――――」

「妖怪なんて昨今見掛けないから珍しいでしょ。だからすぐバレる。」

うごうごと肉が動いて少女を穿とうとするがまるでゲームのようにスルスルと避けて(膨張し過ぎて分からないが)顔あたりにたどり着く

「こっち側には基本ノータッチが鉄則だけど君はダメだね。少し派手にやり過ぎた、だから私達が退治しに来てあげたの」

少女が何かを振り上げて、振り下ろす。キラリと何かが煌めいたから多分刃物の様なものだと思う。

途端人の悲鳴とトラックのブレーキ音が混じりあった様な金切り声が響く。慌てて耳を塞ぐが手をすり抜けて苦痛の声を脳髄に叩き込んでくる。

肉壁と成り果ててたソレは赤黒いモノを撒き散らしながらまるで風船のようにちぢんでいく。

「どうせやるなら人喰い邪神や黒山羊みたいになれば良かったのにね」

眩んだ視界がマトモになる。路地には黒い喪服を着た女性と翼を生やしたままナイフを片手に佇む少女が居た。

女性は腕や胴があらぬ方向に曲がり少女は「んーイマイチの切れ味だなー」などと言いながらナイフをなぞっている。

「……おいこら」

「んわぁ、お兄さんよく気失わなかったね?なんなの、メンタルが強化ガラスなの?」

「うっせぇ気絶するタイミング失ったんだよ。…その人、どうするんだ」

「人?ああコレ?回収するよ?流石に殺したらシンヤくんにぎゃいぎゃい言われるしねー」

ずるり、と女性を担いで「それじゃ!」と立ち去ろうとする少女を慌てて引き止める。

「なーにー?」

「お前、名前は」

「名前?ソラ。表口空だよ?」

「表口…表口か、なんか珍しいな」

「でっしょー。で?君は?」

「あ?」

「名前だよ、私だけ名乗ったのはアレだからね」

「俺の名前は天﨑勇だ、最近こっちに引っ越してきたらしい」

「……らしい?」

「んぁー、ついでなのは分かるけどとりあえず助けてくれてありがとう。お礼は」

「いーよいーよお礼なんて。どうせすぐ会えるし」

「は?」

俺から3歩離れてばさりと翼を広げるソラ。

「私ね、君とはどうせまた会えると思うから。じゃあね勇くん!」

一瞬で空高く舞い上がって消える、消えた。探しても人影はなくさっきの状況と不釣り合いな青空が燦々と広がっている。

「…………帰り道どうしよ」

 

そして袋小路で項垂れる自分、天﨑勇が後日怪しげなアルバイトを見つけそこでソラとその他数名に出会い面倒臭い事に巻き込まれるのはまた別の話。

 

 

 

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