巴マミと出会うのは間違っているだろうか   作:銀剣士

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三の丸さん誤字報告ありがとうございました


1話

 思い出せる最後の記憶は、大きな口を開いて迫る魔女の姿。自分はその後喰われたのは間違いないのだろう、では、現状はいったいどういう事だというのか、明らかに魔女の結界でもなければ、病院でもない。

 

 もっと言えば、ここは果たして日本なのだろうか?

 

(そう思うのも、この景色のせいよね……)

 

 リボンを足場に鬱蒼とした森を真上に抜ければ、遠くに見えるは天を突かんと聳える塔が一つ。スカイツリーではない、そもそも見慣れた建造物など見当たりもしない、例え自分が知らない日本の土地であったとしても、こんな景色はあり得ない。

 

(あの塔に行ってみましょうか、何か分かるはず)

 

 其処までに通じていそうな道を見つけ、木々を伝って移動をするか、この森を歩いて抜けるかふと迷う。

 

(……もし、魔女の居ない『世界』だとしたら……)

 

 己の『穢れ』を祓う為の道具はさして多くはない、そんな状態で魔力は無駄には出来ないだろう、ならば歩く他はない、どうか迷いませんようにと願いつつ、変身を解いて一先ず道を探すのだった。

 

 

 

 どれ程歩いたか、時折塔への方向を確認しながら進んでいると、漸く多少開けた場所に出た、だが其処は舗装のされていない道、細い轍を見ればどうにもあることを疑ってしまう。

 

(……荷台……リヤカー……とは違うようだけれど……でも……ひょっとして江戸時代とか……まさかよね)

 

 その時代にあんな塔があったとは思えない、イカロスの話がある事を思えば、或いは有り得るのかもしれないが、少なくとも自身が知る中ではあんな塔があったとは、見たことも聞いたこともない。

 

 何よりも、今正に自身を襲おうとする犬に似た小人のような怪物の存在など知るよしもなく、また魔女の使い魔とも違う存在である事は明らかであった。

 

(仕方無いわね……)

 

 ソウルジェムを具現化して変身すれば、後は思うままの戦果となる、だがここでもう一つここが自身が居た『世界』とは異なる事象を目に映す。

 

 マスケットで撃ち抜いた怪物の遺体が、何と宝石のような物を残して灰になってしまったのだ。

 

(グリーフシード……ではない、か……)

 

 拾い上げて、ソウルジェムの浄化を試みれば、当然ではあるが早々都合良くはなく浄化は出来なかった、だがそのソウルジェム自体に異変が起きる、何とあてがった宝石のような物をソウルジェムが吸収してしまったのだ。

 

 そして僅かながらに身体の能力が向上しているようで、もう少し試してみようと先程のような怪物を探してみれば、旅の少年だろうか? 先程とはまた異なる小さな鬼にも見える怪物に襲われている処に遭遇する。

 

「レガーレ」

 

 魔法で作ったリボンで怪物を絡めとり、先ほどの犬に似た小人の怪物と同じように頭部を撃ち抜くと、やはり宝石のような物を残して灰と変わる。

 

「ふぅ……君、大丈夫?」

 

「……ふぉあっ!?はっひゃい!だっょでっ」

 

「落ち着いて、ほら、深呼吸」

 

 指示のままに二三深呼吸を繰り返すと落ち着いたようで、変わってしっかりとお礼を言ってきた。

 

「僕はベル・クラネルと言います、本当にありがとうございました」

 

「私は巴マミ、宜しくね」

 

 

 

 

 ベルの持つ地図もあり、森を抜けることは簡単だった、やはり足元に通る轍は荷台もしくは馬車の物だそうで、この先には高い塔『バベル』が聳える街、目的地『オラリオ』があると言うことだ。

 

 ベルは『冒険者』という、ダンジョンを攻略することを主にした職業に付きに行くのだと語り、マミの出自を聞いてどうせなら一緒の『ファミリア』に入らないかと誘う。

 

「そうね、ベル君が入ったところに入ることにするわ、でもその前に……君の今の実力を見せてもらえる?」

 

 冒険者という職業についておおよその説明を受け、想像をするに、相応に戦闘能力が無ければ厳しいだろう、そのくらいは戦いに身を置いていた事もあり分かる、少なくとも犬の小人のような怪物『コボルト』や小さな鬼のような怪物『ゴブリン』程度に腰が退ける様では話にならない。

 

「う……」

 

 だがこのベル・クラネル、今までそう言った戦いを経験したことがないと言う。育ててくれた祖父が一度ゴブリンの群れを追い払ったのを見て、自分もああいう風になりたいと、憧れはしてはいるそうだが。

 

「武器は持っていても使い古した食材用のナイフだけですし……」

 

「そのナイフ貸してもらえる?簡単にだけれど強化出来るから」

 

 その言葉を聞いたベルは、ではとナイフをマミに手渡し、どのように強化するのかと眺めていると、何とどこからともかくリボンを出してそれを纏わせた、それの何が強化なのだろうと思っていると、何と纏わせたリボンがナイフに呑まれていったではないか。

 

 そのナイフを近くの木に投げると、ベルが思った以上に鋭かったのか、グリップ迄刺さって止まっていた。

 

「こんなものね、よいしょ……っと、はい」

 

 信じられない物を今正に目撃したベルの反応は、ゆっくりとしたものだった。礼を述べて受け取り腰に付けたケースに仕舞う、一連の動作の後。

 

「えええええええええ!?」

 

 旅立ちの準備の最中、せめてもの武器として選択したのは、家にあった中では最も鋭かった食材用のナイフ、勿論あんな風に投擲して生木に突き刺さる程鋭い筈はない。しかし確かに目の前で起きた事態に、ベルの思考はかなり鈍くなって、驚きという反応が遅れて表れたのだろう。

 

「ほら、また落ち着いて」

 

「ふぁっはふぃっ!」

 

 しどろもどろなベルが可笑しかったのか、笑みを堪えられずについぞ溢してしまう。

 

 

 

 

 森を抜け、草原を踏破し、やがてオラリオに辿り着いたマミとベルが門をくぐった先で見たのは、想像だにしなかった光景と、溢れる活気であった。

 

「今日からここで……」

 

「凄い……」

 

 思うことはそれぞれだろう、だがいつまでも浸っては居られない、ベルは村で聞いた事を思い出す、それは冒険者になる為に必ずギルドに行かなければならないと言うもの。

 

 そこで先ずギルドの場所を聞きに、通りを行き交う人に声を掛ける、その人種はマミの目には此処がやはり異世界であると確信させる。

 

 そして辿り着いたギルドにおいて、ベルは更に苦労をすることとなる、それはいずこかの『ファミリア』に所属、エンブレムもしくは神が共通語で記した『ステイタス』の紙が必要だと、受け付けたエイナ・チュールに教えてもらう。

 

「そうね、そちらの女性も一緒となると……」

 

「すみません、貴女から見てベル君が入れそうなファミリアを教えていただけますか?」

 

 なぜそんな事をとエイナはベルを見て合点が行く、流石に全てのファミリアが『そう』ではないだろうが、彼の見た目で門前……いやいやと心の中で否定して、それでも比較的『優しい』ファミリアを幾つか選んで紙に記す。

 

「じゃあいってきます!」

 

「はい、いってらっしゃい」

 

 ベルを見送ったエイナはふと何かが足りないと首をかしげ、あっと思い出す。

 

「巴さんは行かれないんですか?」

 

「はい、ベル君がファミリアに入るのを待とうかと」

 

「何故です?」

 

「そうですね……やはりエイナさんも感じたと思いますが、彼を受け入れてくれる『人』が居るところの方が良いじゃないですか」

 

 エイナが感じたこと、それは先程考えた『ベルの見た目』による門前払いの可能性である、はっきり言ってベル・クラネルという少年はどう見ても冒険者に向いているとは思えない、ギルドで働く自分でさえも大丈夫だろうかと思うくらいだ、実際にダンジョンを知る各ファミリアの『子供達』はなおのことだろう。

 

 記したファミリアは比較的冒険者希望には優しいファミリアを挙げたものなのは確かではある、あるのだが……取り次ぎの判断にベルの容姿が反映されるとすれば、あの『可愛らしい』容姿は明らかにマイナス材料と言える、だが、それさえも受け入れてくれるファミリアであれば、ベル・クラネルの全てを受け入れてくれるファミリアであれば、きっと彼は幸せになるはずだ。

 

 肉親でもなければ幼い頃からのつき合いでもない、出会ってほんの数日の旅路を共にしただけの仲、こうも気に掛ける必要などはなく、自分が入れるファミリアがあればさっさとそちらに所属したって構わない、構わない筈なのだがマミは其れをせずにベルを見守る事にしていた。

 

(……ただの同情よね)

 

 ベルがオラリオを目指していた理由、冒険者となりたいというその理由、それはベルの育った環境にある、両親が居らず、育ての親である祖父を亡くしたベルの旅立ちを促したのは生前の祖父の言葉、憧れた祖父に聞かされた数々の冒険譚、それらがベルの背を押したのだ『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っていない』と。

 

(……英雄になりたいって言うのはその途中にあるんでしょうね)

 

 そんな事を考えつつ差し出された紅茶を飲み、ギルドの待ち合い席でベルの帰りを待つ。

 

 

 

 

「エイナさん、ファミリアに入るのってこんなに時間がかかるものなんですか?」

 

 マミにとって嬉しい事が一つ判明していた、それはこの世界にもきちんと『時計』が存在している事だ、腕時計や目覚まし時計のような物は無いようだが。さておきベルが所属ファミリアを求めてギルドを発って早四時間は過ぎた、紅茶はもう五杯は胃に納まっている。

 

「うーん……まぁ入団試験を行ってるファミリアなら……でもこんなに長引く事なんて……」

 

 まさか何か事件にでもとエイナは思いはしたが、まさかリストのファミリアの大半に門前払いくらっているとは露にも思わなかった。

 

 流石に心配が募ったか、マミが捜しに行こうかと思った時、ギルドの扉が勢いよく開かれ。

 

「マミさぁぁぁん!エイナさぁぁぁん!ファミリアにはいれましたぁぁぁっ!」

 

大声で名前を呼ばれると言うのは、どうしてこうも恥ずかしいのだろうと、マミとエイナは思うのであった。

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