魔石を拾い集めマミに追い付いた三人が見たものは、先程よりも醜悪で大きな、怪物祭で相手取った謎のモンスターと似た雰囲気のモンスターであった、そしてそのモンスターの上方には、先程マミが使っていたマスケットが大量に浮いている。
「何……あれ……」
レフィーヤの呟きを遮るかのよう一斉に弾が放たれ、モンスターを飲み込んでしまう。
だが、篠突く雨の如くに降り注いだ銃弾も、モンスターには効果は薄かったのか、反撃をマミに繰り出す。
「待てアイズ、レフィーヤお前が行くんだ」
リボンを駆使し、モンスターの攻撃をかわすマミを傍目に、リヴェリアはアイズではなくレフィーヤに支援を任せる事にした、だがアイズは、あのモンスターが怪物祭に現れた謎のモンスターと同質ならば、レベル3の二人だけでは難しいと感じていた。
「……わ、解りました」
しかしその懸念を知らないレフィーヤは、これを受ける。自身とて後方からの牽制や一撃での支援を主とした戦いは多くこなしてきた、それは何より、前線に立つのがオラリオでも上位に位置する実力者の後方支援を主としていたからではあるが、出来ないことはないと自負はある。
今求められるのは、同レベルの冒険者の支援である、これはヘイトの移行に気を配る必要性が今までよりも高い、そうでなければ支援の為の詠唱も、前線に立つマミの集中さえも途切れさせてしまうだろう。
「レフィーヤ……」
「……大丈夫です、見ていてくださいアイズさん」
そう言って愛用の得物を構え、レフィーヤは呪文を紡ぎながら、始めての役割を担う戦闘に向かっていった。
戸惑いはある、前線で戦うのは自分と同じくらいのレベルの、それも前線で戦うに向かない筈の単発式の銃を扱う冒険者。
ここに来るまでは確か東方の『カタナ』と呼ばれる剣と、鞭を巧みに操っていた筈だったのに、今は全く違う。
纏う服は彼女のスタイルを引き立たせるも、可愛らしさも受け取れる服に変わり、防具等は身に付けていない、まるで変身でもしたかの様だ。あんな装備で大丈夫なのかと思いはするが、様々な事含め問うのは後だ。
「アルクス・レイ!」
閃光がモンスター向かって迸る、この状況で使える魔法は限られた、他の魔法は範囲が広すぎるのだ。結局マミの援護を主とするならば、取り回しの良いこれしかない、数撃てば良い援護にはなるだろう、必中の魔法であり威力も申し分ない。
「助かるわ!」
援護が入ったことでマミの戦法も制圧よりも精度に切り替わる、そしてモンスターがレフィーヤに狙いを定めたか、マミから意識を外したその瞬間、マミの眼前に大量のリボンが集束し、一門の砲へと姿を変える。
「これで終わりよ、ティロ・フィナーレ!」
放たれた砲撃はモンスターを呑み込む一撃、それだけでモンスターは呆気なくただ一つの痕跡を遺して姿を消した。
「リヴェリア、あれは……」
「あれとは落とした『魔石』か?それとも……」
「……あの砲撃は、魔法なの?」
「魔法……なのだろうな、エルフの使うような魔法ではない事だけは確かだよ」
リヴィラで確保された宿は普段の遠征時に確保する宿からはランクが一つ二つ落ち、ワンルームにシングルのベッドが二つというシンプルな間取りである。
三部屋確保出来たのは、やはりファミリアネームが効いたのだろうとはリヴェリアの談、部屋割りはリヴェリアとマミ、アイズとサポート役の女性、そしてレフィーヤと同じくサポート役の女性となった。
この部屋割りにレフィーヤから異議が挙がるかと思っていたリヴェリアだが、レフィーヤは反して異を唱える事はなかった、曰く『リヴェリア様、アイズさんだと緊張で寝れないし、マミはライバルだから』と、同室になった女性は訊かされたと語る。
「漸く一息吐けるな」
そう口にするリヴェリアではあるが、視線はマミから離さない、その事の意味を察したマミではあるが、しかし今話すよりもあの場に居た他の二人も集めた方が良いのではと言うと、リヴェリアは解ったとだけ告げて、マミにグラスを渡すと、荷物の中から一本の瓶を取り出しコルクを抜いた。
「一杯くらいなら良いだろう?」
正直酒を呑んだことが無いマミは少し悩むも、折角なので少しだけと受け取ったグラスを差し出すと、淡い琥珀の液体が少しばかり注がれ、リヴェリアが自身のグラスに注ぐのを待つ。
「こいつは特別な酒ではないが気に入っていてな、酔いたくはないが呑みたい、そんな時に呑むのさ」
「酔いたくはない……ですか」
「ああ、遠征中は呑んでも呑まれる訳にはいかない、故に大事なお供というやつだな」
酒は呑んでも呑まれるな、いつかどこかで見たか聞いたか解らないが、マミにとって縁遠いものだった酒の、その付き合い方の一片を知る良い機会となった。
リヴィラで過ごして二週間、17層で冒険者としての戦闘経験を積み、武器の一つである刀も随分切れ味を落としてしまった、手入れを欠いていたつもりはないが、それでも使い続ければくたびれるのは仕方ない。
「そんな時の為に鍛治師を雇うファミリアもあるのよ」
「オラリオの鍛治師となると……ヘファイストスファミリアの?」
「勿論雇えるならね、でも彼らの腕に見合った契約金となったら……」
「そう多くのファミリアは雇えない、と」
「だからこそリヴィラは町で色んな鍛治師を雇っているのさ、交代制だから当たり外れはあるが……まあ基本はしっかりしているから、武具の修繕費用をケチらなければ問題はないさ」
最も、魔石の買取り額を考えれば割高ではあるがと、苦笑を溢す。ギルド公認の魔石買り業者は、正規の額から2割程安く買い上げている、それは当然のマージンとギルドも冒険者も解ってはいるが、やはりリヴィラ前後で活動を始めた直後の冒険者には、その2割引きは重い。
サポーター役として今回同行した二人のロキ・ファミリアの女性二人とは、今回の事で随分と気さくな関係を築けているマミではあるが、一方で競う形となったレフィーヤとはあまり打ち解けられてはいなかった。
関係が悪い訳ではない、アイズを連れて一旦地上に戻ったリヴェリアから19層には降りるなと命じられていることもあり、17層での戦闘やリヴィラの空き地での稽古で良く手合わせをする程度には関係は良い、しかし一旦非戦闘時となると何処かしら距離を置かれていると感じるのだ。
マミが遠征に同行するためのテスト、その内容は17層に現れる階層主をソロで倒すこと、だがもう一つこれはマミにもレフィーヤにも伝えられてはいない『本当のテスト』の内容がある、それこそがリヴェリアがアイズを伴って地上に一旦戻った理由でもある。
「それで、今日はどうする?もうそのカタナじゃ戦えないぞ?」
「うーん……打ち直しか新しく打って貰える鍛冶師を捜そうかなって」
「ねえマミ、それに着いていっても良い?」
声を掛けてきたのはレフィーヤだった、呼び方は戦闘や訓練を行うなかで呼び捨てに安定していたと、気付いたのはここ数日の出来事。
「反対する理由もないし良いけど……」
「それじゃあ二人で行ってくると良い、私たちは私たちで他に用事もあるしね」
「ふっふ……さしものレフィーヤも、いい加減プライベートでも仲良くしたくなったと言うことね」
「う……それは……まあ……」
「リヴェリアさんが今のレフィーヤを見れば喜ぶだろうね」
後日談ではあるが、リヴェリアがレフィーヤの変化に気付いて微笑む様を見たロキに娘の成長を喜ぶ母親のようだと言われ、笑みを湛えたままそうかもなと切り返されてボケたんやけど……と呟いたそうな。