巴マミと出会うのは間違っているだろうか   作:銀剣士

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4話

 ベルが救出されたのは、捜索が始まって二時間程経ってからだった。発見場所はダンジョン地下六階、七階への階段間近。冒険者になってまだ一月も経っていない者がその時間で潜った階層としては記録的であるが、それは決して褒めて貰える記録とは言えないだろう。

 

『強く……なり……い……マ……さん……アイ……さ……に……相応……く……たい……』

 

 発見した際、ベルが誰にでもなく、ただうわ言のように微かな声で繰り返していたそうだ。既に武器として何の役割も果たさない、折れてしまったギルド貸与のナイフの柄を握り締めて。

 

 マミとヘスティアに伝えられたのは、ベルの容態も落ち着き深く眠りに落ちていた頃、ギルドにある医務室での事だ。

 

「目を覚ましたらキツく言い聞かせなきゃいけないね」

 

 そうは言うヘスティアであるが、ちらりとマミを見るのは、自分がそう言えるだろうかとの不安の表れなのだろう。

 

「そうですね、エイナも交えて注意しましょうか」

 

 ベルの無謀も解らなくはない、力が欲しいと渇望する事は、何事の初心者にあることだから。それでもやはり命あってのものである、酷ではあろうが大切な『ファミリア』の家族で弟で団長なのだ。其処のところを今一度叩き込むと決めた二人は、早速エイナと相談するのであった。

 

 

 

 

 ベルの快復を待って行われたヘスティア・マミ・エイナによるベルへの説教祭も無事(?)終わり、もう二度と今回の様な無謀な事はしないと誓わせ、ダンジョン攻略再開許可をヘスティアが出したのは昨日の事、そして今日ステイタスの更新を行い、晴れてベルは元気に早朝からダンジョンへと潜りに行った。だがヘスティアの様子がどことなく不機嫌なのは、果たしてどの様な理由なのだろうと、マミは新作ジャガ丸くんの開発を行いながら考えていた。

 

「……マミ、ベルくんの事で相談があるんだ」

 

「相談ですか?」

 

 理由はヘスティアにとっては複雑で、マミにとっては確かに相談に応じる位は出来るだろう程度で、それでもさてどう答えたものかと頭を悩ませる。

 

 ヘスティアの相談とはベルに顕れたスキルについて、本人や周囲にさえ秘匿する事はその希少性から既に決めてはいると言う。だが、ヘスティアの相談とはそれの『対象者』について。

 

「一人はマミ、間違いなく君だ、それは良い、オラリオに来る前に出会って多少の戦い方を指南していたんだろう?」

 

 だけどねと、ヘスティアは共通語ではなく神聖文字(ヒエログリフ)のメモをマミに見せる、其処には恐らくヘスティアないし神族でなければ読めない機密事項も書かれているのだろうが、生憎マミには全く読むことが出来ない。

 

「おっと間違えた、こっちだ」

 

 改めて見せてくれたのは、ベルのスキルのみを書き写した紙、共通語で書かれたそれにはこう書かれていた。

 

【憧憬思慕】

・早熟する

・想いを募らせる限り効果は続く

・魔法少女への想いが続く限り経験値補正

・剣姫への想いが続く限り経験値補正

 

「これは……」

 

「剣姫って言うのが、あの常連さんのアイズ・ヴァレンシュタインの二つ名さ、そしてこの魔法少女というのは間違いなく君だ」

 

 それはそうだろう、この『世界』においてほぼ全ての人種が集うと言われるオラリオでさえ、マミは自分以外の魔法少女に出会っていない。

 

「でもこれの何が問題なんです?」

 

 自分はともかく剣姫と呼ばれる程の剣の使い手であれば、憧れを抱くに十分だろうに。そう思っていると、ヘスティアは頬を膨らませてマミに言い放つ。

 

「何でボクがここに記されて無いのさ!」

 

 

 

 

 荒れるヘスティアを抑える為に、マミが咄嗟に口にしたのは、ヘスティアにしか出来ない事をしてみれば良いのではないかというものだった。それを訊いたヘスティアはピタリと動きを止め、何かを思い出したかの様に自室へと駆け込んだ。

 

 部屋の中で何かを探す音が止むと、ヘスティアは再び姿を見せ、マミに一通の手紙を見せる。

 

「これは?」

 

「招待状さ、神の宴のね、数日後に開催されるのだけど、今まで参加はしないつもりだったんだ、でも決めた、ボクはこれに参加する!」

 

 固い決意を示すヘスティアではあるが、差し迫って困った事が出来たと言う。

 

「ドレスが無い……ですか」

 

「うん、尤もコードがある訳じゃ無いからこのままでも良いんだけど、やっぱりそういう場に出るなら綺麗に着飾りたいじゃないか、で、手持ちのドレスを見れば、ご覧の有り様さ」

 

 取り出したのは一着の白を基調にしたドレス、基本的なフォルムは今ヘスティアが身に纏う服と変わらないが、施された刺繍等はやはりきらびやかだったであろうと想像できる、そう、あくまでも『想像できる』だけなのだ。

 

「なんと言うか……」

 

「長い間着ていなかったからね……」

 

 すっかり過去の産物と化した自慢のドレス、これを果たして数日中に元に戻せるかと、ヘスティアは不安なのだろう。

 

「少し待っていてください」

 

 マミ自身裁縫に自信があるわけではない、ましてやこれ程の刺繍など出来る筈もない。だが、マミは自身ありげにヘスティアのドレスをテーブルに広げ、ソウルジェムを顕現させる。

 

「何を……」

 

「ヘスティア様、元のドレスを思い出してください」

 

 言われるがまま在りし日のドレスを思い返すと、マミからの力を感じとる。やがて力はリボンとなりドレスにまとわり、馴染んでいく。

 

「おお……何だかすごいぞ……」

 

「これでどうでしょう」

 

 リボンが無くなると、其処には嘗ての美しいドレスの姿、ヘスティアはそのドレスを早速身に纏う為にもう一度部屋へと戻り、姿を見せたのはすぐだった。

 

「……どうかな?」

 

 同性である事さえその感情には箍を支える柱とはならない、少し恥ずかしそうに、上目に見つめてくるヘスティアに、マミの中で愛しさが爆発する。

 

「うわっぷ」

 

「ああもう……可愛い……」

 

 どのくらい愛でていたかは解らない、しかし気付けばベルがいた事からかなり長かった事に変わりはない。

 

「そ、その……人それぞれと言いますか……」

 

 等とのたまったベルに、ヘスティアは顔を真っ赤にして弁解していたが、果たしてどこまでベルは誤解を解いたやらである。

 

 

 

 

 

 明くる日、ヘスティアは数日間ホームを空けると告げて出掛けていき、ベルは『豊穣の女主人』に赴くと言う。

 

「お弁当は要らないのね?」

 

「はい、先日の一件の謝罪に行った時に女将さんから『そんなに謝り倒すんならうちの娘らの料理修行の味見役になれ』と言われまして、週に二回程度お弁当を頂くことになったんです」

 

 ベルは知らないことだが、この弁当を作るとミアに申し出たのは他の誰でもないベルに店を紹介したシル・フローヴァその人。

 

「そう、それじゃあベル君、行ってらっしゃい」

 

「はい、行ってきます!」

 

 ベルを送り出し、マミはさてとと伸びをして教会の奥へと戻っていく、今日は共通語二級検定の本番でもあり、その予習も兼ねて最後の追い込みを掛ける為だ。

 

「これに受かれば、私もいよいよダンジョンに潜るのね……」

 

 ソウルジェムを出して眺めると、僅かながらの穢れが見える。この世界で暮らし始めて解った事ではあるが、日常の生活において、穢れが勝手に溜まる事がなくなった、さらに言えば魔法をそこそこに使ったにも拘らず、ほんの僅かな穢れしか溜まっていない。

 

「……どうなっているのかしらね、本当に」

 

 恩恵を授かった際に渡された紙も今はきちんと読めるようになった、それは良い、しかし不可解なのは記述に不明な点がある事か。

 

 ヘスティア曰く、どうにも読めない部分があるのだと言う。

 

「【魔法少女】ね……穢れに関して心配要らないとヘスティア様が仰っていたのはこの部分……けど、読めないのもこの先……か」

 

 真実を知ることなくあの世界から去った事を、マミは知らない。そしてその記述のエラーが、マミの知ることのないマミの世界で行われた『改変』が原因等とも。

 

「……考えても仕方がないか、今は目の前の検定よね」

 

 ともあれ今のマミの現実は、ここオラリオでの生活に他ならない、頭を切り替え明日に望むマミであった。

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