「んー……っ終わ……ったぁ」
時間一杯使いきっての一言は実感籠ったもの、見直しを行い完璧に近かろう出来の答案が回収され、後は採点を待つばかり。
その間に思い出すのは今朝の食事の会話、どうやらベルは『サポーター』を雇う事を検討していると言う。階層も最深で8層目まで降りられるようになり、荷物が今のバックパックでは小さいのだそうだ。
「マミ、結果出たわよ」
思ったよりは早い採点結果に一抹の不安を覚えるが、エイナの顔には喜色が伺える。
「エイナ、その顔結果が漏れて伝わるわよ?」
「あら、嬉しくてついね、察した通り合格よ!」
共通語検定2級証書がマミに渡される、おめでとうの言葉と共に。
「このまま冒険者講習に移行する?」
「その前にお昼行ってきても良いかしら?」
「ああ、そんな時間か……私も付き合うわ」
「じゃあ一緒に行きましょうか」
「同僚に伝えてくるわ、先に出てて」
「ええ、じゃあ後で」
昼食はギルド職員御用達の食堂ではなく、マミの検定合格祝いも兼ねて少し奮発することになった、エイナが。
「やっぱり奮発するとなると此処よね」
着いたのは『豊穣の女主人』だった、不満はないが何かと縁があるなと思うマミはエイナに誘われるまま入店を果たす。中には既に客が多く、ウェイトレスの案内で二人座れる席がカウンター奥のみだと言われたが、それは仕方無いだろうと言うことで案内された席に着く。
「さーって、何頼みましょうか」
「うーん……迷ったときはオススメね」
「ま、それもありね、すみません、オススメ二つ」
「はーい!カウンター奥のお客様オススメ二つー!」
「あいよっ!」
流石に忙しい時間帯だけに、ウェイトレスの誰も客と与太話出来る余裕はなさそうだ。
昼食を終え、店を後にした二人はギルドに戻り、いよいよ冒険者講習を行う事に。講習と言っても特別な事はない、調査の済んでいる階層事のモンスターの種類や出現率等々、ざっとしたデータから挑む心持ちまで、兎に角冒険者の安全を最優先にと配慮を感じる内容である。
だが、得意な武器を支給すると言われたとき、マミはどうしたものかと思い悩む。穢れの蓄積に関しては心配なさそうだとヘスティアに言われはしたが、それでも溜まってはいるのだ、僅かながらと言えど。
それを鑑みれば普段は別の武器を振るった方が良いのかもしれない、しかしこれまで武器は銃のみで戦ってきた、今から自分に合う武器と出会えるだろうかと。
「色々試してみる?」
「試すって……ダンジョンで?」
「まさか、ギルドの演習場よ」
案内されたその場所には訓練用なのだろう、木で出来た人形、所謂木人と呼ばれる器具が二十体程、他にも巻き藁等々が並んでいた。そして近くの壁には多くの武器が見える、どうやらあれらを使っての練習が出来る場所なのだろうが、その中に銃は無いようだ。
「銃は無いのね」
「冒険者の中でも使っている人は殆ど居ないしね」
理由としては主に二つ、一つは装備に掛かるコスト、もう一つは運用の難しさにある。コストは浅くとも二十階層以下に潜れなければ、弾と火薬が矢の様に回収出来ない以上、明らかなマイナスになる。
運用としても、この世界にある銃は先込め式、銃身から弾を込めるマスケットの為、一挺二挺では足りず、装填も人に任せなければならない、更には弾と火薬が荷物をどうしても圧迫してしまう為に、好んで使う冒険者が居ないと言うのが現状だと言う。
マミが戦闘で使っているマスケットは魔法で造った物なので、そういった運用の難しさは関係ないが、じゃあ使えるかと言われれば否、ダンジョンの中に現れるモンスターがグリーフシードを落とすと確して言えない以上は、どうしても未知への不安が残る。
「うぅん……まあ、一つずつ試しましょうか」
先ず手にしたのは片刃の刀身に刃文が浮く剣、どう考えても異世界だと言うのに、それは紛れもなく『日本刀』であった。マミ自身、さして馴染みがある武器ではないが、どことなしに手に馴染む様に思えるのは、やはり『血』なのだろうか。
数度抜刀と素振りを行って、巻き藁に向かって振り抜いた。
「へぇ……見事なものね」
「見よう見まねよ、次はっと……」
その後も、諸刃の剣やナイフ、鞭、ナックルにクロー、槍や棍に弓を次々に使っていく中で、意外としっくり来たのは鞭だった。やはり、普段からリボンを鞭代わりに振るっているからだろうか。
「鞭って……凄いのね」
マミが振るった鞭が捉えた巻き藁が、見るも無惨な姿を晒す様を見て、今までもこうして暫定武器を振るってきたのを見てきた筈のエイナが感嘆を溢す。どうやら、これ程に振るわれた鞭を見るのは始めてだった様だ。
「うーん……刀と鞭にするわ」
「カタナ……ああ、始めに振ってた剣ね、在庫あったかしら……無かったらごめんね、さて次は防具よ、こっちに来て」
一通りの装備を選んだ後、マミは待ち合い席に着いていた、待つのはエイナが持ってくる支給分の装備一式。
その配給が終われば、マミは晴れて冒険者としての一歩を踏み出す事となる。
「でもその前に、一仕事片付けなきゃね」
一仕事とは、ヘスティアのバイト先であるジャガ丸くんの屋台に提供する新作のプレゼンである。
『ピリ丸くん』
衣とタネに、香辛料でぴりっとした辛味を持たせた一品。
『煉獄丸』
衣もタネも真っ赤に染まる、煉獄の使者。試食をしたベルが言うには、気付いたら綺麗な紅い華が広がる場所にいて、紅い木組みの門の向こうで角を生やした少女に手招きされたとか。
材料と商品名、その概要と一言コメントを書いたメモを見て、果たして煉獄丸を売り出しても良いものかと、取り敢えずオーナーに聞いてみようと決意を固めたその時、エイナが支給分の装備一式を持って現れた。
「お待たせ、これを受け取ったらその瞬間からマミの冒険者生活が始まるわ、覚悟は出来てる?」
どこか挑発めいた口調に、マミは口の端を上げて答える。
「勿論」
明後日、マミはベルと共にダンジョンの入り口に立つ、これから始まるのだと言う期待に、マミの胸も些か昂っているが、ベルは未だに戻らないヘスティアを気に掛け、どこか元気がない。
「ベル君、いえ団長、ヘスティア様がまだ戻られないのは理由あっての事だと思うの、気にするなとは言わないけれど、気にしすぎるのも……」
「すみません……そうですよね、神様が御自身で暫く空けると仰ったんです、気にしすぎるのもいけませんよね」
「ええ、でも帰ってきたら心配かけた罰として、ジャガ丸くんを奢って貰いましょうか」
「あはは……よし、じゃあマミさん、ダンジョンに挑みましょうか」
「ええ、よろしくね、団長」
少しは気が晴れたかはたまた団長と呼ばれた気恥ずかしさを誤魔化すためか、元気良くベルは声を出し、マミもそれに着いていく、たった二人のパーティーではあるが、ベルは団長である責任を初めて感じるのだった。
余談ではあるが『煉獄丸』は流石に採用されなかった。
『怪物祭』
それは『ガネーシャ・ファミリア』の権威の為か、神ガネーシャの趣味か、そこそこに歴史のある祭、モンスターテイムに定評のあるファミリアの子供達が、輝ける期間。
とは言え扱うメインはモンスターともあって、オラリオ住人の賛否は両論、それでも祭りは祭り、開催期間前後の観光客は多いため、毎年の開催は行えている。
「いやー祭に間に合ってよかったよ」
ヘスティアは祭当日の早朝、一つの包みを大切に抱えて帰って来た、だがヘスティアの目当てだったのだろう、ベルが既に祭に出掛けた事を知ると、後で必ず出るからと、マミに代わりにバイトに入って欲しいと願い出た。
「ふふ、楽しんでくださいね、ヘスティア様」
「ありがとう!エヘヘ……行ってくるよ!」
見送り終えると、マミもまたホームを後にした、どうせなら途中まで一緒でも良かったかなと思いつつ。