「ん……誰か居る……げぇっ!?ロキッ!」
日も暮れ、ベルと共にホームに戻ったヘスティアが見たのは、出来れば会いたくもないロキ。向こうも気付いたか、顔をしかめながらも近寄ってヘスティアと睨み合う。
「随分な挨拶やな、ドチビ」
「あぁん!?」
主神二人が睨み合う傍で、ベルは護衛として着いてきているアイズとリヴェリアの二人と挨拶を交わす、緊張で辛うじて絞り出せた様であるが。
「あら、ロキ様もう居らしてたんですね」
「んぁ?おお、マミ、邪魔するで」
「邪魔するんなら帰れ!」
「なんやとぉっ!?」
口を開けばどうしてこうも喧嘩に発展できるのかと、些か呆れた様子を見せるマミではあるが、気を取り直してとりあえずロキをホーム内に誘うと、ヘスティアはロキと文句を言い合いながらもホームへ入っていった。
「あ、アイズさんどうぞ」
「うん、お邪魔するね」
ベルはしっかりとアイズをエスコート出来たようだ。
「で、何の用さ?」
「まぁぶっちゃけマミの事や」
整った眉尻を跳ね上げ、それでもヘスティアは努めて冷静を装いロキに問う。
「マミの何を知りたいのさ」
だがロキはアイズとベルを見ると黙りこんでしまい、ヘスティアをただ見るだけとなる。その様子にヘスティアはベルにアイズと席を外すように伝え、その場にマミを残した三人となった。
「……もう少し、外と離れた場所無いんか?」
「ボクの部屋に行こう」
案内されるままに着いていくロキだったが、ヘスティアの現状を笑う。と言うか誰に話しても笑い話にしかならないだろう、友神の元に長く居候をして追い出され、住む宛などなく仕方なく住んだ場所が、こんな廃教会だなどと。
「ふんっ見てろよロキッ!ベルくんが直に大きくしてくれるんだからな!」
「あーしんど、ベル言うたらあの白髪の子供か、騒ぎの撤収中に話しに聞いたけど、シルバーバック倒せるようになったんやな」
自分の所の同レベル帯の子供等では、まず編隊を組ませて討伐に挑ませる様な相手だ、これには素直に驚きと感心を示すロキである。
「ふふん、なんたってボクの自慢の子供の一人だからねっ勿論マミもさ!」
自慢の子供だと胸を張るヘスティアの胸力に当てられて怯むロキだが、いつまでもこんなノリで遊んでいる訳にもいかないと、表情を引き締めてヘスティアを正面から見る。
それに釣られたヘスティアもまた真剣な表情を浮かべ、ロキが来た心当たりを口にした、即ち『マミの事』に関して、だ。
「まぁ、知らん筈は無いわな」
「マミがエインヘリャルであるかどうか、それを疑ってここに来たんだろう?」
ロキは素直に首肯して先を促すと、ヘスティアは当然マミがエインヘリャルではないと言い放ち、これに関してロキは予想通りだと頷く。
「ほななんやちゅうこってな、フレイヤも気にしとるんや」
「んぁ?何でフレイヤ?」
「アイツから聞かされたんや、肉体と魂がズレとる子供が居るってな」
それがマミであったとロキは言うが、ヘスティアは何故フレイヤがマミを見付けたのかと疑問に思う、趣味が子供達の魂の色を眺める事だと言うのは知っている、ついでに男癖の悪さも。
「ねぇロキ、フレイヤが目を付けたのって本当はひょっとしなくてもベルくんかい?」
「おお、よう解ったな……いや、アイツ知っとんやから解るわな」
「ま、ベルくんが良い男でこれからきっともっと良い男になるのは間違いないからね、そのくらいの予想は簡単さ」
そうは言ってもヘスティアは複雑な心境ではあったが。
「まあそれはそっちでやってくれ、話の筋はマミやしな」
「言われなくともそうするさ。魂のズレと言ったね、それはボクも確認してる、ただどうしてそうなったのかは、多分スキルが絡んでるとは思うんだけど……」
スキルが絡むとなると、それはヘスティアに因るものではと思いはしたが、ロキは自身も忌避する事をヘスティアがするとも思えない、だとすると恩恵を授ける前から『マミはそうだった』と言うことになり、それがスキルとして顕れたと言える。
「あの、先ほどから仰っている私の魂と肉体とがズレていると言うのは……?」
「マミ、聞きたいんだけど、スキル『魔法少女』と言うのはどういう風に使うものなんだい?」
「魔法少女ですか?それは……見てもらった方が早いですね」
そう言えばヘスティアに対して魔法は使ったことがあるが、魔法少女の姿に変身したことは無かったなぁと思い出し、ヘスティアとロキが見守る中、マミは随分久し振りに魔法少女へと変身を遂げた。
「マミ……それが魔法少女かい?」
「ええ、そうです」
「ええなぁ……可愛いデザインや」
「ロキにはちょーっと似合わなそうだぜ?」
「どこ見て言うたんや?怒らんから言いうてみ?」
はっはっはと互いに笑って取っ組み合う二人を見て、マミはとりあえず変身を解く。それに気付いて取っ組み合いを止めた二人は、改めてマミに変身をお願いする、大切なことを話している時は喧嘩は止めて欲しいものだと溜め息を落として、二度目の変身を完了するのだった。
マミの変身後改めて観察し、はっきりと二柱はマミの『ズレ』を確認した。
「その頭ん飾りや、マミ、あんたの魂はそこから感じられる、もっと言えばそれを基点にあんたの全身に魂が渡っとる、それが所謂『ズレ』の証やな、はっきり言えば体に魂は入っとらん」
それはマミにとって青天の霹靂とでも言おうか、言葉の意味を理解しようとする頭が全く働いてくれない。いや、或いは理解したからこそ、働かなくなったのか。
「それじゃ……私は……そんなの……!」
「落ち着くんだマミ、それでも君は生きている、大丈夫それは確かだ、ボクたち神族は君に似たそれでも決定的に異なる者達をよく知ってる。だから言い切れる、君は確かに人間で、生ある者だと」
魔法少女の事を知らない筈のヘスティアの言葉、魔法少女に似た者達と言う言葉、そして何よりも嘘偽り無く発せられたヘスティアの言葉に、マミの心は穏やかになっていく。
「うん、落ち着いた様だ、先ず一つ言っておくよ、その『魔法少女』の状態は、ボクたち神族が『上』に居た頃のパートナーとも言える『エインヘリャル』に酷似している」
しかし決定的に異なるのはやはり命の有り様だと、ヘスティアはマミに優しく語る。
『エインヘリャル』は死者を勇者に変え。
『魔法少女』は生者を戦うものへ変える。
命の危機はあるだろう、しかし死んではいないのだ、魔法少女は。
「だからこそ、君はレベルを上げるべきだ、ひょっとしたらその中で『魔法少女』のスキルが変化するかもしれない、その変化でもしかしたら君は『魂』を自在に出来る様になるかもしれないが、当然変化しないかもしれない。でもね、レベルを上げると言うのは言わば『ボクたち』に近付くのと同義なんだ、ともすれば変化しなくともそういったスキルが生まれるかもしれないよ」
「概ねそん通りやな。このオラリオにおいて『猛者』と称されるオッタルは最も神に近付いた者とも言える、ウチんとこの団長しとるフィン、副団長のリヴェリア、そんでガレス、この三人のレベル6が束んなって勝てるかどうか解らん、それがレベル7や、強さだけやったら『エインヘリャル』ともう並んどんとちゃうかな」
そしてロキは重ねて言う、オッタルはそれでも神を超えられないと、恩恵授与はエインヘリャル選定に用いられたシステムとかなり変化はしているが、根幹は同じものだからだと。
死者を選定すると決めた際、オーディンが取った安全策『エインヘリャルは決して成長しない』というものがあり、それは神の尖兵が成長し、神を超えては意味がないと考えた神々が居たことに端を発した結果だと言う。
際してオラリオに降りると決めた者達は、冒険者にもやはり『安全弁』を用意した。
「『魔法少女』はエインヘリャルや冒険者に似ては居るけど、君はボクの恩恵を受け、既に成長しているステイタスが刻まれた、それは『魔法少女』と言うのがエインヘリャルや冒険者と異なる存在だと証明しているんだ」
「恩恵の授与はあくまでも能力の上乗せ、なんぼ鍛えても恩恵が無うなったらその分がスコーンと無くなるんや、経験は残るけどな」
それこそが『力だけならエインヘリャルと並ぶ』と評されたオッタルが『神を超えられない』理由であり、冒険者に設けた神々の『安全弁』である。
だが『魔法少女』であるマミは、恩恵によって強さが上乗せされたのではなく『魂の強さ』が『数値と文面』で『表れた』のではないかとヘスティアとロキは言う。
「だからね、マミ……?」
ふと見たマミの顔はいつになく真剣で、ヘスティアは同性にもかかわらず思わず胸の高鳴りを覚えた。
「ヘスティア様、ロキ様、ありがとうございます、私……必ず強くなります『私』が『私』に還るために」
その宣言にロキもまた、胸を躍らせた。