マミが決意を新たにしていた頃、ベルはアイズに稽古を付けて欲しいと頼み込んでいた、ダンジョンに潜るだけでは身に付かない武器の扱い方をより良いものにしたいとの思いからで、しかしアイズはこれを断った。
「……私も、武器の扱い方はよくわからない、愛用してるこの子は『不壊属性』付いた武器だから……」
困ったように語るアイズが触れるのは、この場に来る前に戻って装備した愛用の剣、これ以外の武器だとかなり繊細に取り扱わなければ折ってしまうと言うのがアイズの悩み事である。
一度レフィーヤと二人でその辺りの加減を覚えようとしたが、結構な数の武器を壊してしまい、団長であるフィンに叱られた事もあった、懐かしい話ではあるがそれ以降同じことはしないようにと、アイズへの在庫武器貸し出しは余程のことが無い限り禁じられている。
「で、ですけど僕よりずっと上手に扱えるのは確かだと思います、だから、どうかお願いしますっ!」
その言葉にアイズは少し悩み、扱い方は兎も角ただ戦う稽古で良いならとベルに言い、それに応えるようにベルは勢いよく頭を下げ、ありがとうございますと礼を述べたのだった。
明くる日、マミはステイタスの更新を行い、そこでヘスティアが見たのはベルには劣るが、潜っている階層を思えばレベル3としては破格の延びを見せたステイタスであった。
『累計上昇値67』
「うん、いやホント、後は偉業を成すだけっぽいねこれは……」
ポツリと呟いたのはマミがレベル4に至るための条件、ただ簡単に偉業と言える偉業等は転がっていない、それこそ言うは易いが行うは難い偉業は、適正レベルを超えるモンスターのソロ討伐辺りだろうが、これは危険度が高過ぎる。
「かといってなー無いんだよねぇ早々に討伐以外に上げられる偉業って。ねぇマミ、聞きたいんだけどさ、ここに来る前はどんな事してたんだい?」
少しでもヒントにでもなればと聞いては見たが、マミが行ってきたことは、それこそここオラリオに居る普通の冒険者では会うことの無い『魔女』と呼ばれる怪物の、基本ソロ討伐だった。
いつ命を落としても可笑しくはない戦いの日々は、オラリオの中でも、遠征を行える大きなファミリアに所属するトップクラスの者でもなければ、まあ味わおう等と思うものは居なかろう。
「流石に毎日討伐していた訳では無いですけど、確かに危険な日々ではありましたね」
しかしとマミは思う、そこには充足感が確かにあったと。
「うーん……兎に角あれだね、成長したいと言うのならもう少し深く潜った方が良いってことで、ギルドか心当たりのあるファミリアに頼んで遠征の末端にでも加えてもらうべきだね」
そうでないのなら、今の生活のまま過ごし、ベルの成長に合わせていくのもアリだとヘスティアは笑う。
「そうですね……遠征も良いかも知れません、少しロキファミリアと相談してみます」
「そっか、うん……ロキって処が掛かりはするけれど、今のベルくんでは君の足手まといにしかならない、なら君が足手まといになりかねないロキの処のがまあまだ良いのかもね」
ベルが同じ事を言えば間違いなく烈火の如く怒るか、全身を使って止めるかのどちらかであろう、だがこれは何もヘスティアがマミを嫌っているのではなく、あくまでもマミの成長に自身が出来ることがあまりにも少なすぎる事に起因している。
「店の方にはボクから言っておくから、安心しておくれ」
そう笑顔で言われれば、マミも笑顔でお願いしますと返す他はない、二人は軽く身嗜みを整えて揃ってホームを後にした。
「構わへんけど、そん前に中層辺りでやっとる鍛練目的の中小規模の遠征に参加してもらうで?そこで監督に付くフィン、リヴェリア、ガレスの三人に認められたら大規模遠征に参加認めたる、言うてその三人に認められる程やったら、子供らの方から陳情あるやろうけどな」
早速ロキファミリアを訪れたマミが、まさかのロキの出迎えに驚き、ロキ卷属達さえも驚く中、部屋に通されたマミはヘスティアと話し合った事を伝えると、ロキは笑いながらそう告げ、恐らく待機していたであろう卷属にフィンを呼ぶように伝え席に戻る。
「取り敢えず今フィン呼んだから、来たら着いていって詳細積めてや」
「はい、ありがとうございました」
フィンに案内されたのは小規模な会議ないし機密性の高い会議をするような部屋。
「ここはあまり団員には聞かせられない会議をする部屋だよ、少し待っててくれるかい?」
そのものズバリの会議室だったようだ、そしてこの部屋で待たせると言うことは、連れてくるのは少なくとも主要メンバーのみだろう。
その読みは当たっており、フィンに連れだって会議室入ってきたのは、ロキファミリア擁するレベル6の残る二人であった。
「ロキも突然じゃな」
「まあファミリア間の交流というのも悪くはないさ」
「それが単なる交流ならね、今回の件は彼女の力試しが主な目的だ」
「しかし……試す必要があるのか?」
リヴェリアにしては消極的な疑問だとフィンは笑うが、それは的を外していた。
「知っているだろう、彼女は我々が知らなかった怪物を知っていたんだ、そしてこうして生きていると言うことは……最も想像ではあるが、戦い勝った事があると思う」
リヴェリアはそこで一息吐くと言葉をそのまま切り、それを見てフィンは本題へと話題を戻す。
「今回彼女に参加してもらう本当の意味はさっきも言ったように、彼女が大規模遠征に参加出来るかどうかではなく、彼女が何処まで戦えるのかを見極める為だ」
具体的な計画としては、先ずリヴェリアが監督する中規模遠征に参加、そこで18層に現れる階層主にソロで挑んでもらうと言うものだった。
「わかった、取り敢えずアイズとレフィーヤには着いてきて貰うとしよう」
「そうだね、その面子で遠征するなら小規模な隊かな、編成は任せるよ。成果が見られれば次はガレスの監督する遠征……いや、もうはっきりと言おうか、君が参加するのは遠征ではなくテストだと、期待しているよ」
「ふぅん……じゃあ暫くはホームに戻れそうには無いね」
ロキファミリアの上位陣とも顔合わせを終え、後の話し合いを終えたマミは一先ずホームに戻って事の次第をヘスティアに説明して、紅茶とお菓子を楽しんでいた。
「そうですね、どのくらい向こうで過ごすかは解りませんけど、良い知らせを持って帰りますから」
「うん、期待しているよ」
「ベル君にも一緒に説明したかったんですけど、少し間が悪かったですね」
ヘスティア曰く、何時ものようにダンジョンへと向かったまま、まだ戻っていないと言う。
「とは言ったって今のベル君なら7か8、しっかり支度を整えていれば9層には行けるはずだ、遅くなるのは仕方無いかな」
気丈に笑って見せるがそれでも心配は隠しきれるものではないのだろう、マミはならばとベルを迎えに行くと告げ、ホームを後にした。
「よかったぁぁぁぁぁぁ……」
ダンジョンへと向かう道すがら、そんな声が聞こえてきたのはすっかり辺りが夕焼けに染まった時刻だった。聞きなれた少年の声に声に足を向けると、其処にはヘスティアからの贈り物だと見せてくれたナイフに頬擦りするベルと、それを苦笑紛れに見守る豊穣の女主人のウェイトレス二人、そして一度顔を合わせたことのある少女が『怯えて』其処に居た。
「ええっと……どういう状況?」
「あ、マミさん」
困惑するマミに始めに気付いたのはウェイトレスの一人シルだった、彼女曰くベルが大切なナイフを落としとして探していたところに遭遇、其処に現れた少女、リリルカ・アーデがベルのナイフを持っていた事もあり、一緒に居るリューに疑われ怯えてしまったのだと言う。
「怯えさせるつもりは……全くなかったとは言いませんが……」
見知らぬ者が知り合いの『大事なもの』を持っていれば、疑いもするのではとリューに言われてみれば、まあ確かにそうだろうと、マミは納得してしまう。
その視界の隅で、リリルカが僅かに首を横に振っていた事に気が付いたのは、彼女に釘を刺した者だけだった。