森の中、不整地をゆっくりと歩兵に合わせて走る装甲車内は意外と快適だ。いつもなら、尻を殴ってくるような座席も鳴りを潜めている。だが、その空間でゆっくりするのが目的じゃない。
俺は自分が見渡せる範囲を監視する。異常な魔獣がいたらすぐに排除し、可能ならばそのサンプルを回収してきてほしい、という上層部の願いを叶えなければならない。
するとエドワードが俺の肩を叩いてきた。
「本当にザ・ストレンジなんて魔獣が発見されたんですかね」
「分からん。だが、ここ最近の情勢からして何かしらの異常があったのは確かだ」
するとエドワードは銃座につきながら「そうでしょうがね。……特警群の初出撃がガセに踊らされたものだったらキツイですよ」とぼやく。それはここの誰しもが危惧したことだ。
すると、外にいた隊員が何やら騒がしくなっている。
俺は無線を使って隊員たちに呼びかける。
「状況確認。スカウト・ワン、何があった」
〈こちらスカウト・ワン。ザ・ストレンジらしき死体を発見した。かなり新しいものだが………っ…〉
ゴドーが珍しく驚いたので、その緊急性を疑う。
「どうした」
〈人の顔をしている……〉
その言葉で隊はどよめいた。これじゃあ、まるでホラー映画みたいだ。
俺は部隊を混乱させないように鎮めながら、警戒をさせる。
「了解。総員に告ぐ、敵は恐らく魔獣じゃない。人為的な変化だ、これは。十分に注意しろ」
そして、かなり森林の深くまで潜り込んだ時だった。
突然、咆哮がノックスに響き渡った。重機のエンジン音のように低い音だが、それは特警群全員を震えさせるのに十分な声量だった。
「戦闘用意だっ」
俺は外に向かって叫ぶと、装甲車から飛び出して外を警戒する。装甲車内にはデルタチームが待機し、銃座からの援護や負傷者が出た際に運び込んだりする役目を負っている。衛生兵もデルタに配属されている。
すると、一匹の魔獣が藪の中から出てくる。いたって普通のヒツジンが出てきただけだった。誰もがそう思って銃を下げた。しかし、その次の瞬間だった。ヒツジンの体が、まるで沸騰した湯のようにぶくぶくと膨れ上がって、それが破裂するとそこから奇妙な触手のようなものが生えてくる。その触手はそれぞれが意思を持っているかのように、自由にうねうねと動いている。
これを野放しにはできない。
俺はヒツジンだったものが、これ以上に変化を起こす前に、頭に四発の弾丸を通した。すると、元気に動き回ってた触手が動きを止め、中枢のヒツジンも倒れた。
俺はもう二発頭を撃ってから死体に近づく。
「ゴドー。お前が見たのと同じか」
「この破裂した痕は一致します。ただ、先ほどの死体は巨大な虫の足が生えていました」
俺はゴドーの言葉を聞いて、ヒツジンの死体を見やる。たしかに破裂した場所は、卵の殻を触手が突き破ってきたかのような光景となっている。これはさっきの死体と酷似している。
「こんなものを……何故」
ジョージが呟く。
「それも未だ不明だ。しかし、俺たちはこいつら、ザ・ストレンジを駆除しないといけない。放っておいたら大惨事になりかねんぞ」
俺はそう言うと、咆哮がした場所へ向かうように、隊員たちに指示する。
警戒を厳にした小隊は歩み続ける。先ほどのような魔獣が出てきても、この隊の実力で襲い掛かられる前に無力化出来ている。
対人の部隊とはいえ、その訓練が魔獣との戦いで役に立たないわけではない。照準を合わせる速度なんかは、どんなものと戦うにも必要である。もちろん、連携も重要だ。連携といえば、過去、鉄道憲兵隊にいたころに、ゴーグルにカメラを取り付けて隊員同士で見ている景色をリアルタイムで共有する、という試みもあったが、作戦行動中に共有するには少々情報が多く、二ヶ月もしない内に廃れていった。
そして、特警群が十四体目のザ・ストレンジを駆除した時、あの咆哮がすぐ近くで聞こえた。
俺はエドワードにパンツァーファウストを車内から持ってくるように言う。エドワードは頷き、装甲車内へと警戒しながら入っていく。
そこから一秒とかからなかった。咆哮の主であろう、巨大な鹿にも見える魔獣が飛び出してきて、縦列隊形の横っ腹をその角で引き裂こうとしてくる。しかし、ここでも隊員の練度は証明される。このような魔獣が出現するのは想定内だったし、突進というのも直線での攻撃だったから、怪我人一人出さずに回避した。
俺は魔獣の脚に銃弾を叩き込むが、魔獣はそれを気にせず次の突進の用意をしている。まるで麻薬漬けの兵士のように、痛みを感じずに動いている。
俺はエドワードの名前を叫ぶ。これ以上、攻撃をされれば負傷者が出かねない。
するとエドワードが装甲車の銃座から乗り出し、戦車を黙らせるための筒を魔獣に向ける。魔獣が二度目の突撃をしようとしたとき、エドワードが引き金を引いた。すると、筒の先から突出していた弾頭が飛び出し、筒の後方からとんでもない勢いの煙を噴射する。
俺は咄嗟に、伏せろっ、と叫ぶ。
刹那、弾頭が魔獣に命中したのか、水を撒き散らしたように、びちゃっ、という音がした。
俺が顔を上げると、魔獣の上半身と下半身が切り離されている光景が広がっていた。辺りにはミンチと血液が飛び散っていて、戦闘服にも少しかかっている。だが、俺たちに一番衝撃を与えた光景はそれじゃなかった。その魔獣の腹から人間の腕がにょきっと生えていたのだ。
すると、シルヴィがこちらに駆け寄ってきて、状況の確認をしようとする。
「見るなっ、シルヴィ」
俺はシルヴィを止めるように手を横に出すが、もう手遅れだったようで、シルヴィは目の焦点を合わせるので精一杯になっている。
「なるほど、人の味を覚えて俺たちを襲った、って訳だ」
アルフレッドがそう分析したとき、彼の後ろにいたアシュリーが突然銃を投げ捨てると、両手で口を覆って茂みの方へ走っていった。アシュリーが吐瀉物を地面に落とす音とその声が、辺りの状況がいかに異常であるかを物語っている。
サバイバルに長けたシルヴィですら、この光景には動けなくなるほどだ。そもそ獣の死体と人の死体じゃ少し変わるか。
「先に急ぎましょう。見てて気持ちいいものじゃありません。サンプルとして回収するにも中身が……」
「いや、アルフレッドと俺で籠に削り取ったサンプルを入れる。お前も含めて装甲車の中にいろ。これが見えなくなるまでしばらくそれで進む」
「了解しました、隊長。隊長もキツくなったら交代してくださいね」
隊員はそう言うと、足早に装甲車へと向かっていった。
装甲車の内部でグロッキーの隊員は、既に休ませている。俺は車内からの指揮をするから、通信士も兼ねている。
そして、無線が入ったので俺は「こちら第三歩兵小隊です。オーバー」と言う。
〈こちらHQ、そちらに向かう不審な飛行艇を三隻確認した。その件と関わりがあるかもしれない。対空戦闘も用意しておけ。オーバー〉
この無線は全員に聞こえている。もちろん、返事をすることも可能だ。言わずとも対空火砲として装甲車の機銃がある。直接銃座に付かなくとも遠隔操作できる上に、真上も狙えるほどの可動範囲ときた。対空火力としても十分だ。
俺は小窓から外を覗く。先ほどまでの銃声とグロテスクな音は消えて、妙な静寂が辺りを包んでいる。動物たちの鳴き声一つ聞こえないのだ。木の葉が擦れる音だけが辺りに響く。
だが、その静寂も飛行艇の駆動音でかき消される。その音が聞こえると、歩兵は伏せて機銃手が空に銃口を向ける。といっても空が見える場所はごく僅かで、飛行艇からこちらを見つけることは不可能だろう。
本来ならば、この滞空している飛行艇にメガホンで呼びかけて捜査すべきなのだが、俺たちの存在はそれを許さない。極秘の部隊だからだ。
すると、一隻の飛行艇から一つずつコンテナのようなものが落とされる。着地時には轟音を立て、その振動はこちらの足元までしっかりと届いた。それが残り二つ続き、飛行艇はそれだけ残して去っていった。
その直後、コンテナのようなものの節々から透明な液体が溢れ出し、辺りをびちゃびちゃに濡らした。コンテナから液体が出切ると、その蓋の本体との接合部分が爆破され、蓋が勢いよく外れる。コンテナの中からは真っ黒な戦闘服を着て銃を持った人間たちが、我先にというような雰囲気で出てくる。
あれは戦闘員だ、俺たちを殺すための。この場にいる特警群も馬鹿じゃない。銃撃戦に備えて装甲車の陰に隠れて応戦を開始した。
しかし、敵もかなりの練度だ。バリスティックシールドを持った人間が前に出てきて、それを見計らい前進してくる。
俺はパンツァーファウストを装甲車内から持ち出し、それを敵が出てきたコンテナに着弾させる。徹甲弾とはいえ多少の衝撃は広がる、対人の兵器としても申し分ないだろう。着弾点から円を描くような衝撃波は、襲撃者たちの四肢を胴体からもぎ取ったり、弾頭の破片が遠くにいた襲撃者にも刺さったりで、かなりの被害を与えることが出来た。
どうやら襲撃者たちも、先進的な戦闘を行うようで、これならば敵を殺すよりも負傷させるほうが有効だろう。
俺がパンツァーファウストの威力を確認し終わった瞬間、銃弾が頬を掠める。すぐに頭を引っ込めると、顎を伝って血が流れているのが分かった。ここから再び顔を出すのは危険だ。俺は装甲車の外に出て銃撃を再開する。
ちょうど木の陰から飛び出した兵士の頭を一発で撃ち抜く。走り出そうとしていた体はバランスを失い、前に滑り込むように倒れた。
俺が瞬きをした後、敵が謎の銃のようなものを構えているのが見えた。きっと脅威であるのは間違いない。俺はそれを持った戦闘員に四発の銃弾を浴びせる。戦闘員はしゃがんだ状態から後ろに倒れて、手に持っていた銃からは細い発射体が、ぎりぎり目に見えるスピードで飛んでいく。大きさとしてはボールペンより一回り大きい程度だろう。
発射体の先を目で追うと、それがジョージに命中したようだった。ジョージは腕に刺さった注射器を抜き取って投げ捨てると、叫び声を上げて銃を乱射する。味方に当たってこそいないが正気を失っているのは確かだ。
俺はすぐに駆けつけてジョージに声をかける。
「おい、しっかりしろ。ジョージ!」
俺はジョージの肩に手をやって、彼の乱射を止める。
「冷静になるんだ」
今度は静かに伝える。するとジョージはそれを理解しようとしないかのように、俺のことを突き飛ばした。コンバットハイだとしても異常だ。もしかして麻薬を混ぜられていたのか。
どちらにせよ、このまま戦闘に参加させるのは危険だ。俺がジョージの後頭部を銃床で叩くと、ジョージは意識を失ってふらりと倒れる。彼の体が地面につく前に支え、ちょうど顔を出してきた衛生班にジョージを渡す。しばらくは装甲車で大人しくしてもらおう。
そして、俺が再び敵に銃口を向けると、その瞬間に戦闘は終わってしまった。俺はすぐに死傷者の確認に移る。敵が全滅したとなれば第二波がすぐに来るだろう。すると、先ほどの衛生班から戦死者無し、しかし負傷者三名、という報告が飛んできた。
撤退を開始した特警群は全員を装甲車に収容して、大急ぎでこの森林から脱出しようとしている。
俺の乗った二番車には気絶したジョージが横たわっており、全員が彼を心配していた。勿論他の負傷した隊員も心配だが、ジョージの場合は状況が異常だった。しかもおかしな注射も打たれている。
すると、俺がジョージの顔を覗き込んだとき、ジョージはぱちっと目を覚ます。そして、俺に掴みかかってくる。こんな狭い車内じゃ殴りかかってくる拳を捌くだけで精一杯だ。
「後部ハッチ、開けろ!」
俺はマリタに向かって叫ぶ。俺自身もこの状況で冷静さを失っているように思える。マリタがハッチを開けると、俺は馬乗りになっていたジョージを抱きかかえて、そのまま外へごろごろと回転していく。地面にジョージを打ち付けると、ジョージから離れる。
技も無しに突っ込んでくるジョージの腕を逸らし、その腕を掴みながら、ジョージの膝をきめてバランスを奪うと、体を地面に押さえつける。しかし、ジョージは力任せに俺を吹き飛ばす。『力任せ』といっても、それは既に人の出せる力を優に超えているだろう。
俺は最終手段として拳銃を取り出すと、ジョージの大腿を撃ち抜く。それでも止まる様子はなく、反対の足のアキレス腱も撃ち抜く。しっかり赤い血が流れているということは確かだ。流石にそこまで足を狙われると、ジョージも動けなくなり、腕でゆっくりと這いずってくる。
すると、這いずっていたジョージの傷口から湯気のようなものが噴き出す。それの出現と同時に、ジョージは痙攣しながらのたうち回る。やがて、のたうち回っていたジョージの、傷口がある場所から段々とバッタの脚のように変化していった。俺はその様子に圧倒されて動けなくなってしまう。部下が無残な姿へと変貌していく様子を間近で見つめることになった。
気づくと、先ほどのコンテナがもう一度落とされており、敵の増援が続々と出現していた。
と、装甲車内から銃声が響く。一瞬敵にやられたのかと思ったが、それで放たれた銃弾はジョージのこめかみを通っていった。ジョージの肢体は糸の切れた操り人形のようにくずおれる。
俺は気が付いて、すぐに装甲車の陰に隠れようとするが、最悪の出来事が起きた。敵が対戦車ロケットを発射した。反射的に草むらへ飛び込むが、装甲車が破壊される衝撃波からは完全に逃れられず、後ろにあった木に頭を叩きつけられる。
暫く耳鳴りが響き、視界も朦朧とする。そのとき、体が動かず、目の前の惨劇を見てるしかなかった。
「マリタ………マリタ……!」
ふらふらと歩くエドワードが、左腕を根本からごっそり持っていかれたマリタに呼びかける。彼女ももう意識がほとんど無いが、エドワードの呼びかけに答えるように、彼の頬に手を伸ばす。が、その手は頬に届く前にパタリと落ちてしまった。銃声の雨音が響く中、エドワードの叫び声が強く、強く轟く。
俺は半ば怒りを動力に立ち上がると、装甲車の向こうを見ようと試みる。そのとき前にいたエドワードが胸と胴を何度も撃たれて、目の前にて倒れた。その瞳は不思議にもこちらを見据えていた。
意識せずに雄叫びを上げて、アサルトライフルをジョージともなんら変わらない様子で乱射する。すると、俺の肩を銃弾が掠めていく。俺はそれでも撃つのを止めなかったが、誰かが俺の襟を引っ張って装甲車の陰へ引き込んだ。
俺は突然引っ張られて倒れてしまう。そして、顔を上げると、そこにはゴドーが立っていた。ゴドーは俺の胸ぐらを掴む。
「隊長、冷静になってください。おれもアシュリーを失いました。……もうあの顔は銃弾でぐちゃぐちゃです。しかし、おれたちは生きなければならない。それが死んだ者へと追悼となります」
その言葉を聞いて、俺は再び銃を持ち直す。そして、敵に反撃を許さないように制圧射撃を加える。
そこで、敵は再びあの注射器を取り出した。最悪だ、俺はそう呟いて、それを構える敵の頭を撃ち抜く。しかし、次から次へと注射器を拾いに行く者がいる。これじゃあまるで、あの兵士たちが消耗品である、とでも言っているようなものだ。そこまで重要な作戦のだろうか。
すると、一人の兵士が注射器を拾ったまま草むらに隠れてしまった。俺は舌打ちをして、その周辺の草むらにグレネードを投げ込む。グレネードが炸裂すると赤い飛沫が草むらから飛んだが、量から考えれば致死量ではないだろう。俺はその飛沫が飛んだ場所に銃撃を加えるが、手応えがない。
俺がマガジンを交換しようとしたとき、かなり離れた場所から兵士が飛び出して注射器を発射する。おそらく俺が撃っていたのは動物かなにかだったのだろう。
「やめろぉぉぉ!」
俺は叫んで拳銃を構えると、注射器を持った兵士を何度も撃つ。二十アージュ離れている人間に拳銃を撃ってもなかなか当たらないが、マガジンの中身を全て叩き込んだので、マズルフラッシュが消えたと思ったら兵士は事切れていた。
俺はすぐに注射器を打たれた隊員の元へ駆けつける。すると、そこには地獄が広がっていた。注射器を打たれた部分を、自分のナイフで、それも自分で切り落としていた。運悪く胴に当たったアリシアは、口の中に拳銃の銃口を突っ込んでいた。
俺はアリシアの元へ走っていき、拳銃を口から引き抜いた。すると、アリシアは抵抗して暴れる。
「死なせてください、あんな化物になるのは嫌です……!」
その目は真剣に俺の瞳を見据えていた。見たことない、強い意志を宿した目だ。そもそも自分の命を自分で断つのは、相当くるものがあるだろうに、それをやろうとしていたアリシアの覚悟は相当なものだ。俺はかつてこんな目を持っていたことがあっただろうか。
アリシアの拳銃を掴んでいた手をゆっくり解く。アリシアは「有難うございます、隊長」と言って、自分に向けた銃の引き金を引いた。
俺の決断はこれで良かったのだろうか。
しかし、対応すべき事態はまだある。辺りを見渡すと、注射された部分を切り落とした隊員は四人…か。胴に当たった隊員はアリシアを入れて三人。
すると、ミラーとエイデンが「隊長が殺して下さい」と懇願してくる。俺は何かがすっぽ抜けたように、ホルスターから拳銃を取り出し、それをまずはミラーの頭に向ける。ミラーは力いっぱいの笑顔と敬礼をする。彼が何故俺に頼んだのかはすぐに分かった。彼の拳銃が入ったホルスターと共に下半身が上半身と決別して、力なく横たわっているからだ。マズルフラッシュが俺の目に焼き付くと、ミラーの腕はだらんと垂れ下がっていた。
次いで、エイデンにも狙いをつける。彼に関しては両腕が吹っ飛んでいるようだった。中途半端な威力で吹き飛んだ両肩からは、血に濡れてピンク色になった骨が顔を見せている。あまり観察しているのも彼に悪い。俺は静かにエイデンの額に真っ赤な花を咲かせた。
刹那、最も考えたくない事態が発生した。後ろからシルヴィの声が聞こえた。
「チャールズ……」
あまりにか細く、弱々しい声が俺の耳に届く。俺の体はその現実を目にするのが怖くて振り向けない。
「シルヴィ……なのか……?」
俺は質問をする。しかし、俺のことをチャールズと呼んでいる隊員は司令を除いてアルフレッドとシルヴィだけだったから、この声が彼女のものであることは確実だった。
うん、と返事が返ってくると、俺はようやく振り向いた。
シルヴィの体は悲惨な状況だった。左足をまるまる切り落として、その状態で体の各所から出血をしていた跡もある。俺はこの場を生き延びなきゃいけない、という使命感とシルヴィの体を見ての、心の揺れを抑えるので、思いっきり奥歯を食いしばる。
すると、男が「隊長、危ないっ!」と俺を突き飛ばした。それはアルフレッドだった。アルフレッドは、俺と一緒に隠れて、シルヴィも引っ張ってきた。
「お前……俺なんかを助けるのか…?俺は……」
「知ったことか!俺たちの隊長を死なせない!」
アルフレッドがそう言って俺の顔を見てくるが、その次の瞬間にはアルフレッドの頭を、まるでフランケンシュタインのネジのように弾丸が過ぎていく。
ここまで接近してきたか。
俺は周囲を見るが、そこに生存者は少ない。俺とシルヴィ、ゴドーだけが生きている。しかし、悠長に眺めている場合ではない。俺はシルヴィを背負って、背の高い草むらに逃げる。
先ほどの襲撃された地点からは数百アージュ離れただろうか。
俺はシルヴィを木にもたれかけさせて、俺たちも休憩にした。このまま帰れるのだろうか。もしかしたら残党狩りが俺たちを襲うかもしれない、そんな恐怖を感じているのは俺だけじゃなくシルヴィもだ。しかし、出口へと進むしかない。それが俺たちの使命なのだから。