あの事件から五年、俺はクロスベルに構えた支部でニコラスの行方を追いながら生計を立てていた。ただ闇雲に追うのは、僅か一年で無駄だと分かった。待ち伏せるべきであり、その情報をいち早く掴まなければならない。しかもニコラスの持つ私兵とも戦争をしなくちゃならないから、大量の武器や弾薬、それを買うための資金も集める必要がある。そこで生じる人材不足というのはクラレンス曰く「“その時”になれば解決してやる」ということだ。彼のことだし、何かしらの策はあるのだろう。
そして、俺が帰宅した時だった。ドアに一通の手紙が貼られていた。
俺はその手紙がブービートラップでないことを見極めると、ゆっくりと剥がし中身を取り出す。
『トリスタのトールズ士官学院まで来てちょうだい。あなたのために四万ミラ用意されてるわよ。仕事については“案内役”を配置しといたから困らないはず。じゃあ良い教官ライフを♡』
俺はこの手紙を寄越した人物が誰か分かってしまった。きっと渋いオジサマが好きでだらしのないあいつだろう。
俺は溜息を吐きながらも、少し口角が上がっているのに気が付いた。こんな風に笑ったのは何年ぶりだろうか。思えばシルヴィがこの世を去ってから笑った気がしない。他人と接する機会すら仕事でしかなかったから友人以上の存在が一切消えてしまったようだ。クラレンスもここ最近は音信不通だし、俺の運命が動くのだろうか。
俺は端末に何かの通知が来たが、今日はもう依頼の受付はやってない。届いた電文は迷惑メールフォルダに投げ込んで、着替えを始める。今日は本当に疲れた。明日からも疲労が溜まっていくだろう。今日はしっかりと休息をとらなければ。
胸ポケットの中に入ってた小さな写真を取り出す。それは特警群のメンバーが各々、好き勝手にしている集合写真だった。肩組をしたり敬礼をしたりと差が激しい。俺はそこに写っているシルヴィに話すように、
「シルヴィ、俺は銃を捨てるつもりだ。ニコラスを殺すことでじゃない。別の方法、今はそれが何か分からないが必ず君を幸せにする。だから、もう少し待っててくれるか」
そう言ってベッドに入り、目を閉じた。こうしていると、シルヴィといた日々を思い出す。彼女がいつもそばにいてくれたから俺はあの罪悪感にも耐えられたんだ。彼女の本当の死は俺と当時の司令官しか知らない。あの二十人はゆっくりと事故死で片付けられていくのだ。自然な期間で。
そんなところで俺の意識はゆっくりと微睡んでいった。明日の仕事で会える女性に少々の期待を抱いて。
ダレルの物語はこれが始まりのようなものです。これが「硝煙の軌跡」に繋がりますので、そちらをまだ見ていない方は是非ご覧ください。
最初の話からここまで見て下さった皆さん、お気に入りに入れてくれた皆さん、本当にありがとうございました。この物語があなたの心に残れば幸いです。