2年生もそろそろおしまいだし、少しは隼人と近づきたい。そんなある日の放課後、あーしは気持ちが昂って、放課後に隼人を特別棟の空き教室に呼んだ。
「やぁ、優美子」
「隼人……来てくれて、ありがと」
「なんだい改まって。話って何かな?」
「……あーし、隼人が好き。これからは友達じゃなくて恋人になりたい」
「……優美子、ありがとう。でも、ごめん。君とは付き合えない」
「……理由、聞いてもいい?」
「俺は、誰とも付き合えない」
「……それだけ?」
「ああ」
あーしは隼人の言った理由が本当だと思えなかった。もちろん、思いたくなかっただけなのかも知れない。
「2年はすごく楽しかった。優美子や、皆のおかげで」
「……うん」
隼人の言う、「皆」という言葉。あれだけ一緒に居たあーしでさえも、周りの女の子達と変わらないんだと思い知らされた言葉だった。
「じゃあ、俺は部活行くから。優美子も気を付けて帰ってくれ。来年もよろしくな」
そういうと、隼人は教室から出て行った。
来年もって、関係は変わんないじゃん……なにそれ。
何で舞い上がってたのかな。2年最後だから? 3年になったら受験とかあるしその前に楽しみたかったから? もう、頭の中はパンクしそう。帰って、お風呂でゆっくりしよう。
× × × × ×
「ねえ、君一人? 俺達楽しいとこ知ってっから、遊びにいこうよ!」
帰り道、ラッシュも一波終わってやや人が疎らな駅。あーしはナンパに絡まれている。あんなことがあった手前、あーしも気が滅入っているんだろう。いつもの覇気はなかった。
「……あーし、急いでるから」
「急いでるならもっと早く歩いてるでしょ? ウソはよくないな~」
図星だ。でも、今日は言い返せない。このままじゃあーしはきっとこの男達にどこかへ連れてかれてどうにかなってしまうんだろう。
「あの、その人うちの連れなんで、その辺で勘弁してくれませんかねぇ」
ふと、あーしの後ろから声がした。何だか聞き覚えのある声だ。あーしは、恐る恐る後ろを見た。
「ヒキオ!?」
「……お、おう」
何故、ヒキオがここにいるのか。そう思った次の瞬間、ナンパ男達はちょっと機嫌が悪くなっていた。
「なんだお前! 俺達はこの子と遊んでんだよ! ガキはさっさと帰れ!」
「嫌がってる顔してるのに、どこが遊んでるんですかねぇ。それと、もうすぐ警察も来ますよ。ここ交番から近いですし」
「……チッ。いくぞ!」
ナンパ男達は立ち去った。程なくして、ヒキオの言った通りおまわりさんはすぐにやってきた。
「こらこら~。駅前で何を騒いでるんだい? 君が女子高生にナンパしてるって男か?」
「え、いや、俺じゃなくて……」
「おまわりさん。こいつはあーしの友達。ナンパから助けてくれたんだし。ナンパ男は向こうに走ってったし」
「ひょっとして君がナンパされてる人がいるって通報してくれたのかな?」
「さぁ。ちょっとわかんないです。たまたま居ただけなんで」
「とにかくありがとう。僕たちは交番に戻るから、何かあったらまたおいで。それと、君達も早く帰るんだぞ」
「うす」
「はーい」
「で、ヒキオ。あんたなんでこんなとこ居るし」
「本屋行った帰りだったんだよ。困ってる人が居て顔見たら三浦だったからな。あとで由比ヶ浜にぶーぶー言われるのが嫌だっただけだ」
「ふーん、そっか……でも、ありがと」
「お、おう……」
「じゃあ、あーし帰っから」
「平気か?」
「何が?」
「一人で帰って平気かって。あんなことあった後だろ。近けりゃ送るが」
「なにそれ。あんたあーしのこと狙ってんの?」
「違ぇよ。さっきから言ってる通り、由比ヶ浜に何か言われるのが嫌なんだよ。あと、小町にも言われちゃうからな」
「小町? 誰?」
「妹だ。超可愛い」
「シスコン?」
「違う。ただ妹が好きなだけだ」
「それがシスコンなんだし。まぁ、いいや。せっかくだし送ってもらおうかな」
「おう。助かる」
「なんでヒキオがお礼言うし。それはこっちのセリフっしょ」
そのまま、ヒキオに家の近くまで送ってもらうことにした。駅を離れて住宅街に入ると歩道はない。そんな狭い道でヒキオが車道側を歩いてくれるし、さっきみたいなのがいないか結構周り警戒してる。いいとこあんじゃん。
車の走る量が減っていくに連れて、沈黙が気になった。
「なんか喋れし」
「ぼっちにそんなこと言うなよ。他人と会話なんてほとんどしないんだから、話題提供とか絶対無理」
「あんた、結衣や雪ノ下さんとか生徒会長とかとよく一緒にいるじゃん」
「あいつらはクラスとか部活が一緒だったり、こき使われてるだけだ。友達は戸塚だけだ」
「なんで戸塚だけなんだし。じゃあ、あーしが2番目の友達ね」
「は? なんで?」
「さっきおまわりさんに言ったっしょ。あーしの友達だって」
「あれは建前だろ」
「1回言ったんだし、もういいっしょ」
「……わかったよ」
「最初からそう言えっての。じゃ、これあーしの連絡先だから」
「なんで、連絡先?」
「友達だからこれくらいは持ってないとっしょ」
「そうなのか」
「そう。今日は助かったし。あいつら今までで一番めんどくさかったし。ありがと」
「おう、そんな気にするな」
「ここまででいいから。じゃあね」
「おう」
「ヒキオ」
「なんだ」
「ありがと」
「お、おう」
× × × × ×
翌日、結衣に昨日の話をした。
「その通報した人って、多分ヒッキーだよ」
「そーなん?」
「うん。ヒッキーが人を助けるときって、恩着せかしましい?ことしたくないみたいだし」
「結衣、それを言うなら恩着せがましいっしょ」
「あ、うんうん! それそれ!」
結衣。姦しいってあーしらのことだからね? っていうか、ヒキオちょっとあざといし。そうだ、いい事考えたし。
Yumiko
『通報してくれたの、実はヒキオっしょ?』
『ありがと』
机でケータイ見てビクッてしてるし。バレバレじゃん。
「ふふ。最初っから素直に言えっての」
「どしたの? 優美子」
「んーん。なんでも」
八幡
『なんのことだか分からん』
素直になれし。まぁ、いっか。
× × × × ×
放課後。あーしは奉仕部に足を運んだ。
「どうぞ」
「ヒキオいる?」
「優美子? どしたの?」
「なんだ」
相変わらず、不思議な構図だ。長机の両端にヒキオと雪ノ下さん、雪ノ下さん寄りに結衣が座っている。
「ヒキオ借りていい?」
「あら、珍しいわね。どういう風の吹き回しかしら」
「相談。ヒキオに相談があるし」
「話聞くだけならここでいいだろ」
「そ。じゃあ、ここで。ヒキオ、あーしと付き合いな」
「はぁ!? 優美子? なんでなんで?」
「結衣違うし。ヒキオと出かけるって話」
「あ、なんだびっくりしたー」
「なんで由比ヶ浜がびっくりするんだよ」
「ヒッキーは知らなくていーの! バカ!」
「なんで罵られなきゃいけないんですかねぇ……」
ヒキオ鈍感過ぎっしょ。なんで露骨に照れてる結衣の気持ちに気づかないし。普通の男子ならイチコロっしょ。
と、話を戻さなければ。
「そんで? 返事は?」
「その、なんだ。出かけるくらいならいいんじゃないか」
「あら、貴方は三浦さんをどう脅したのかしら」
「俺が脅した前提かよ!」
「違うの?」
「違うし。ヒキオは昨日、あーしを助けてくれたんだし。だから、そのお礼。なんか物あげるだけじゃあーしの気がすまないし。とにかく、後で連絡入れるから返事しなかったらわかってるっしょ?」
「うわ、こわっ」
「あん? ヒキオ。なんか言った?」
「なんでもありましぇん!」
そこで噛むなし。ヒキオキョドりすぎっしょ。
まあ、そんなとこもヒキオっぽいか。
……ヒキオっぽいってなんだし。あーし、ヒキオを何を知ってるんだし。
× × × × ×
その日の夜、あーしはさっそくヒキオに連絡を取ってみた。
Yumiko
『今度の日曜、11時に千葉駅ね』
とりあえず、お風呂に入ろう。今日は色々あったしゆっくり浸かろう。隼人のいう、誰とも付き合えないというのはどういうことなのか。他に好きな人がいるから? それとも何か別の事情? あーしにはわからないし、あんなに仲良くしてたあーしにすら教えてくれない。ひょっとして、あーしってそんなに隼人のこと知らないのかな。もうわかんないや。
色々と考えている間に、のぼせそうだしお風呂上がろう。
ん? あーし結構長くお風呂入ってたと思うんだけど、ヒキオ返事遅くない? さてはヒキオのやつ、読んでないっしょ。結衣が言ってたっけ。ヒキオに連絡すると妹さんに連絡しないと返って来なかったりするって。
もういっそ電話してしまおう。
『……はい』
『はいじゃないし! あんた連絡したの見てないっしょ』
『あー、すまん。寝てた』
『え? そうなん? じゃ、仕方ないし』
『え、あ、いや。俺が悪かった。連絡返すの面倒でしたはい』
『へぇ? あんたいい度胸してるし』
『いや、マジで怖いからやめてね』
『はぁ。それで、今度の日曜日、11時に千葉駅ね。わかった?』
『いや、ちょっと日曜はアレでアレだから』
『なんも予定ないっしょ。ぼっちだし』
『三浦といい、雪ノ下といい、さりげなく人の心抉ってくるのやめてくれませんかねぇ』
『とにかく来ること! いい?』
『はぁ。わかったよ』
『それじゃ』
『おう』
さて、寝よう。横になりながらあーしは何だか、ウキウキしていた。あーし、ヒキオと遊ぶのが楽しみなん?
結衣や雪ノ下さん、生徒会長が惹かれるくらいだ。
なんだ、ヒキオぼっちじゃないじゃん。むしろ超モテてるじゃん。
あいつのどこが魅力なんだし。
あーし、ヒキオのこと気になってるのかな?
fin
読んでくださった方に感謝。
感想やアドバイス、誤字報告ありましたらよろしくお願いします。もっと、上手く表現できるよう次回更にパワーアップしたいです。