ブログ内では、モチベの話をしたりしていましたが、ようやくひと段落です。
それではどうぞ。
それから、あーしとヒキオは、ヒキオの服を見ることにした。
「ヒキオ。普段服どーしてんの」
「母ちゃんが適当に買って来てるのを着てんだ。だからファッションなんて全くわからん」
その割にはオシャレしてんじゃん。どういうことだし。気になって聞いてみると……
「これは小町が見立ててくれたんだよ。」
「ふーん。林間学校で見た感じからしてオシャレそうだし、納得したわ」
ということは、ヒキオの趣味ではなく妹の趣味でこのファッションか。全く変ではないけど、違うヒキオも見てみたい。そんな好奇心が湧いて来たところで、あーしはお店を見つけた。
「ここ見るし」
「えっ、ホントに俺の服見るのか」
「当たり前だし」
色々とメンズの服を見る。そういえばあーし、男の服選ぶのはしたことないな。意識し出したら変な緊張してきた。こんなのヒキオに見られたらなんか癪だし、冷静を保たねば……
「……うら……おい、三浦」
「ふぇっ!? な、なんだし!」
「いや、それは俺のセリフだからね。それ、着ればいいのか?」
「え? あ、ああ、そーだし。これちょっと着てみな。上着は持っとくから」
あーしは無意識に黒のMA-1を手に取っていた。ヒキオが羽織る間に、落ち着こうとする。ヒキオが試着する間、あーしがヒキオのジャケットを持つ。
しかし、手に持っているヒキオのジャケットからヒキオの香りがする。男の香りだと思うと妙に意識してしまう。そのせいで余計な緊張がまた増えたし。
「顔赤いけど平気か? 熱あったりしないよな?」
「へ、平気だし! それより、服見せて」
「見せても何も着てるだろうが」
「ちゃんと立てっての」
案外、こういうストリート系ファッションも似合うじゃん。まぁ、よく見ると目以外のパーツは比較的整ってるし、当然っちゃ当然なのかな。目以外は、だけど。
「なんだ。変か?」
「変じゃないし。まぁ、なんつーか、似合ってるし」
「お、おう」
なんでこんな変な空気なんだし。確かに服一つでこんなに変わるのはびっくりしたけど。
「それ、買いなよ」
「三浦が言うなら似合うんだろうし、買うか」
「ったりめーだし!」
ヒキオを待っている間に少し考えていた。あーしは今日楽しかった。もしかしたら、都合のいい女なのかもしれない。それでも、ヒキオと居て楽しかった。隼人の事を忘れたのかと言われたら完全にそうではない。でも、何かモヤモヤがある。
「おい。大丈夫か」
「あ、おかえり」
「おかえりじゃねぇっての。何度も呼んでんのに返事しなかったろ。具合悪いなら言ってくれ」
「別に。ただ、考え事してただけだし」
実際考え事をしていたのは本当だ。ヒキオを心配させてしまったのは悪かったし。
「そか。この後はどうすんだ」
「……もう少し、居たい」
「お、おう」
「景色。夜景が見たいし」
「夜景? この近くだとポートタワーが一番近いな」
「んじゃ、ポートタワーいくし」
「わかった」
ヒキオは、あーしのわがままを聞いてくれた。
あーしたちはそのまま、モノレールにのって千葉みなとまで向かうことに。休みの日とはいえど、千葉みなとに向かうモノレール内はほとんど人が居ない。
宙づりのモノレールのぷらぷらとした揺れ、たまに聞こえるガコンというレールの音がやけに大きく感じる。日没が近づいてきたのか。昼前から集まって疲れたのか。はたまたお互いに何か思うことがあるのか。いずれにしても、あーしたちはさっきまでの会話はない。
程なくして、千葉みなとに着いた。
「どのルートでいくんだ」
「せっかくだし、海に沿って歩くっしょ」
「あいよ」
人も車も疎らだ。たまに犬の散歩をしている人、ランニングやジョギングをしている人はいる。でも、波の音が聞こえるくらいには静かだし。
「風、強くなくて良かったし」
「そうだな」
昼の温かさを残した空気に混ざる少しひんやりした海風を浴びながら、2人でしばらく海を眺めた。
「おめでとー!」
「ふぅー!」
急に聞こえた声に2人でびっくりして振り返る。結婚式場があり、締まり切った窓越しにも関わらず聞こえてきた盛り上がっている声が正体だった。
ヒキオと目があった。なんだし、その顔。
「ふっ……あはははは!」
「ふっ」
思わず、2人して笑ってしまった。お互い変な雰囲気に当てられて緊張していたようだ。その緊張の糸が切れた瞬間だった。
「んじゃ、ポートタワーいくか」
「ん」
千葉県民とて、ポートタワーに来る機会はそんなにない。今となっては都内に出る方が便利だし。あーしも最後に来たのは中学生だし。昔、お母さんがお父さんとよくきたって話をされたことはある。
「あれ、これってこんな高かったっけ」
「わからん。俺も最後に来たのは小学生の頃だし」
「あーし中学の頃来たことあるんだけどなぁ」
「日の向きとか、なんかそんなんで変わるんじゃねえの? 多分、知らんけど」
「ふーん」
チケットを発券して、エレベーターを待つ。乗ったエレベーターにはエレベーターボーイが居た。ボーイさん除いたら、あーしたち2人だけ。
ゆっくりと上っていく。上に上がってみると何組か家族連れやカップルが居たが、やっぱ人が少ない。
「西側いくか」
「とりあえずまだ時間あるし、ぐるっと見るっしょ」
「あいよ」
エレベーターから正面には、海がある。下を見れば浜が少しある。工場群もあるし、暗くなってから光って綺麗だといいけど。
そこから、反時計周りに見ていく。ポートタワーは、その高さもあって海も陸も色々見れる。一度海を離れ、陸を見ていく。奥の方は一面の緑で、海景色とはまた違って楽しい。そごうのマークを見つけ、あの辺りに千葉駅があるとわかる。日中はあそこにずっといたのか。近いような遠いような。
ヒキオとあーし、普段は全く関わりないのに、今日は近かった。依頼だからとは言ってたけど、ヒキオも楽しんでくれたのかな?
「ねぇ、ヒキオ」
「どした」
「今日、楽しかった?」
「おう」
「ホント?」
「そうだな、普段服とか見ないし、飯も美味かったし、良かった」
「ふーん、そ。ならいいし」
「なんだ、気を遣ってくれたのか」
「ったりめーじゃん。あーしが頼んだ依頼とはいえ、あーしだけ楽しいんじゃ面白くないし」
「お前、ホントおかん体質だな……」
「あん?」
「いや、なんでもない。優しいって言ったんだ」
「き、聞こえてっから! 最初から素直に言えっての。ほら、次行くよ」
「へいへい」
そこから、西側に移動する。日の入りまでもう少し。富士山とスカイツリーの間に沈んでいく。あーしたちは、しばらくゆったりと波を眺め、雲を眺め、飛行機を見て過ごした。
「夕焼け見て、そのまま夜景も見るのか。なんか、1度で2度美味しいみたいだな」
「実際そうっしょ。時間制限はないんだし、明るい街と暗くなって光る街と違う味を楽しめる方が楽しいし」
夕焼けは綺麗だった。ジリジリと沈んで行く太陽に寂しさを感じる。時期のせいもあって沈むペースが速い。やがて日が沈み、今度は夜景が見るために千葉駅側へ。上から見る千葉も綺麗だ。
「夜は夜でいいし」
「そうだな」
ヒキオのその顔、何を考えているんだろう。一見、無表情のようで何かを考えていそうな顔。今日1日で、いや、前に助けて貰った時からかもしれない。隼人に抱いていたものと同じものを抱えてる。
いっそ、聞いてしまおうか。あーしの気持ち。ヒキオの気持ち。
「ヒキオ」
「なんだ」
「あーし、あんたがす……「落ち着け」」
最後まで言うことなく、ヒキオがあーしの声を遮る。
「三浦。続く言葉が何であれ、それは勘違いだ。俺は、たまたまあの場にいてお前を助けた。けど、それでお前が情けを感じる必要はないんだよ。お前は優しいから、きっと、それこそ気を遣ってんだ」
「なんだしそれ。あーしがバカだっての?」
「誰もそんなこと言ってねえだろ。俺はただ勘違いだって言ってんだ。全部たまたまなんだよ。お前に何があったか知らねえけど、葉山はどうした」
「隼人にはフられた。そんで、その日の夜、ヒキオが助けてくれた。最初は勘違いかもしれないって思った。それを確かめるためにも今日出かけたんだし」
さっきまで色々考えてた。ヒキオと一緒にいること。ヒキオを結衣たちから取ってしまうこと。色々考えた。
「でも、それでも、あーしはヒキオと。比企谷八幡と一緒に居たいと思ったんだし。だから、あーしの気持ちを勘違いなんて簡単な言葉で片付けないで欲しいし!」
「……わかった。少し待ってくれ。俺も頭の整理がついてない。俺なんかに言ってくれる人がいるなんて思ってなかった」
「俺なんかなんて言うなし。あーしが選んだ男なんだし、もっと自信持てっての」
それに、ヒキオの周りにはたくさん想ってくれる人いるじゃん。絶対本人には言わないけど。
「とりあえず、返事はよく考えてからでいいし。今大して考えないで返されるのは嫌だし」
「お、おう」
「そんで、しっかり考えてから返事ちょーだい。ちゃんと返事しないと、あーし怒っから」
「怖ぇよ」
「ふふっ。そんだけ、返事が欲しいんだし」
伝えるべきことは伝えた。結衣達にも話をしなきゃいけないし。あーしだけ抜け駆けなんて嫌だしね。
誤字、脱字等ありましたら、感想にお願いします。
このまま終わらせて、この先の話は皆さんのご想像に任せるか。
それとも、続きを書くか迷っています。
単発で書こうと思っていたこのシリーズ。
続きが読みたいと言ってくださる方が多く、駄文ではありますがやってきました。
だからこそ、ここで終わるかどうかのせめぎ合いがあります。
逆に、他のカップリングや八優の新シリーズなどもやっていきたい次第です。
諸々の意見なども、ブログや感想やリプライにて是非頂ければと思います。
それでは、読んでくださった方に感謝。