気まぐれ神様の物語 真剣恋Ver.   作:ジーザスルージュ

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7話

「…ウッ…クッ……お、ばあちゃん……」

 

「今は堪えずとも、存分に泣いてよいのだワン子」

 

「…ノ…ルン…ウワアアァァァン…おばあちゃぁぁん!!」

 

「ワン子…」

 

「いい人だったよな…よくお菓子とかくれて」

 

 胸に縋りつくワン子の背を、モモは頭を撫でる。

 彼女の親である岡本のおばあちゃん―――といってもワン子は孤児院で引き取られた為実の、ではないが―――が無くなった告げられてからはや5日。

 身近に親戚が無く、集まるのに時間を要したが昨日通夜が終わり、つい先ごろ火葬も含めた葬儀の全てが粛々と終わった。

 後は納骨の49日を残すのみ。

 しかし、懸念事項は他にあった。

 

「しかし、如何(いかん)としたものか…」

 

「いかんも何もあるかよ!俺は俺の仲間をあんな死んだ魚の眼をした様な奴に取られたくねぇぞ!!」

 

「オレ様も同じだぜ!思い出してもムカつく…!」

 

「みんな、気持ちは同じだキャップ、ガクト…だが、子供の俺達じゃ」

 

「お、おちついてよみんな…!」

 

「……」

 

 ワン子の処遇だ。

 孤児院出である彼女におばあちゃん以外に身寄りはない。

 よって、親戚の誰かが引き取るのが当たり前ではあるのだが、通夜で一通り見た限り煙たがるか極一部、今の岡本一子と言う"女の子に対してそういう目"で見てくる者ばかりだった。

 故に仲間内で相談してはいるものの、子供である以上やれる事など多寡が知れている。

 それは己とて同じこと。

 黄金律があるとはいえ、精々金銭系のくじで必ず得をするレベルであり、どこぞの慢心金ピカの様な反則的なレベルでは無い。

 今そこ、それの何が悪いと思った奴。

 確かに収入には困らないだろう。しかし、考えてみて欲しい。なにをしても常に宝くじが当たる奴が横にいて運だけで済ませられるだろうか――大凡に於いてはなにか仕掛けがあるかと疑うのが自然というもの。

 ましてや母子家庭の身の上ならば、そんなゴシップは避けておきたいと思うのは人情と言うモノ。例え、異質に寛容な川神市であってもである。

 こゆきの件ひとつとってもつくづく思う。

 なら株は、と問われても投資する際に己の名前で無ければならず、母が代行しても効果を発揮しないのが己の黄金律の不便な点だ。

 話のズレを戻すとして。

 ともあれ、角の立たずに出せる妙案など現状の己では皆無である。

 無い袖は振れない。

 しかし、さっきから黙したままのモモにはなにか考えがあるようで。

 

「モモ、何ぞ妙案があるのか?」

 

「ホントなの、姉さん?」

 

「……まだハッキリとは言えない…」

 

「モモ先輩?」

 

「ちょっと、今日は戻るな。じゃあな、みんな」

 

「ぅック……モモ、せんぱい?」

 

 そう告げて、足早にモモは何処かへと行ってしまった。

 

「モモ先輩どうしたんだろなー?」

 

「さぁ?なんか、凄い顔してたよね…こう、迫力があるというか」

 

「だなー。怖い訳じゃないんだけどオレ様話しかけ辛かったぜ」

 

「不退転…」

 

「ノルン?」

 

「モモの眼に宿っておったのはまさに一歩も引かぬという強い意志であった」

 

「それって…」

 

「他力本願で不甲斐の無い話ではあれど、此度の件はモモが何とかしてくれそうな予感がする」

 

「姉さんが?」

 

 首肯してモモが去った後を見つめ続ける。

 全く、能力があろうがこういう場面では己の無力を痛感するばかり。正しく何が神様かという話だ。

 同時に世に言うご都合主義とやらが羨ましい限り。

 運気と言うモノは、やはり重要な要素である。

 ハンカチを噛む橋姫ではないが、妬ましい。そういえば、アソコのみんなは元気にしているだろうか、と頭に過るが今には関係ないので頭から追い出す。

 ともあれ、先にも言った通り、無い袖は振れぬし隣の芝生が青いと指を咥えて傍観決め込む程落ちぶれてもいない為、今は出来る事から為すべきである。

 

「ワン子、今日は家に泊まると良い。母さんの許しは得てある。ワン子も見も知らぬ親戚連中よりは良いと思うのだが…」

 

「グスっ…い、良いの?」

 

「ワン子が良ければ、な」

 

「ズズっ…えっと、じゃあ…お邪魔します。あ、でもおばあちゃんの骨…」

 

「うむ、そちらも既に話は付けてあるぞ。おばあちゃんも一緒だ。まぁ、おばあちゃん当人には騒がしくて申し訳ないが」

 

「ううん。おばあちゃんも賑やかな方が好きだったから…」

 

「そうか、それは何より。では、早速いこうか」

 

「うん」

 

「あ、何かイイな!俺も俺も!」

 

「キャップ…」

 

「フッ、相変わらずだな…だが、それが心地いい」

 

「お前もな」

 

 ちなみに、話の方は強制的に(・・・・)分かってもらった。

 乱暴はしていない。

 ただ、こちらの言う事を聞いて貰っただけである。暗示によるものだが、永続的ではなくその場限りのものだ。これぐらいはやっても罰は当たらないだろう。

 家から骨壷を受け取って、帰路についた。

 

 

 

 

「ただいま」

 

「お、お邪魔します…」

 

「お帰り、ノルン。そしていらっしゃい、一子ちゃん」

 

「母さん、これを」

 

「えぇ、大事に預からせて貰うわね」

 

 骨壷を母に預け、ワン子と共に部屋に向かう。

 時間的にはもうすぐ夕飯時、加えて2人というのもあって何故かあや取りに興じる事に。

 

「そら、これが虎だぞワン子」

 

「うわ、どうやってるのー!?」

 

 やがて時間となり食事にありつく。

 

「おいしい!」

 

「ワン子の食べっぷりは見ていて気持ちが良いな」

 

「一子ちゃん、おかわりは?」

 

「いただきます!」

 

「良く言えました」

 

「えへへ、ほめられたわ」

 

 とりあえず、褒めておこう。

 何やら敬語として使った気はしないが。

 食事も終わり、お風呂も済ませて寝るまで今度は母を交えてトランプで遊ぶ。

 

「上がったわ!」

 

「負けた…」

 

「ババ抜きすら弱いとは…ってか、ポーカーフェイスをきちんと使えて尚負けるとは…」

 

「みなまで言ってくれますな、母さん…」

 

 今度は神経衰弱。

 

「ふむ、この類のモノならばこんなところか」

 

「いやいや、一回で全取りとか…極端すぎでしょ、息子」

 

 モノの本質を見極める心眼EXは伊達では無い。

 

「おぉ…あたし、はじめてみたわ」

 

「いやいや、一子ちゃん?こんなの普通だせないから…あ、いや…あの人ならひょっとしたら」

 

 何やら最後の方は聞き取れなかったが、スル―である。

 宴も闌だが、時間も頃合いなので寝る事にした。

 ちなみに、寝る順番はワン子を挟む様に川の字に並べた。

 

「ZZZ……ZZZ…」

 

 しばらく、正確には2時間程度か。

 どちらとも無く静かに語り始める。

 ワン子は最初の10分程で寝息を上げ始めたのだが。

 

「寝つけた様ね、一子ちゃん」

 

「あぁ、存外馴染んでもらえたようで幸いでした」

 

 正直、眠れなかったり起きてもすぐ目覚めたり等も想定していたがそんな事は無く、母の腕の中で眠っている。

 寝ている内に吸い寄せられうように其処にすり寄っていったのだ。

 しかし、その寝顔は安らかとは言い難く、顔は歪んでないモノの涙の跡が頬をつたっている。

 

「ともあれ、問題は未だ解決を見せず、か」

 

「それには及ばぬものかと存じますよ、母さん」

 

「???何か妙案が?」

 

 こんな事を言えば訝しむのは尤もであろう、しかし。

 

「いえ、何も…」

 

「なら―――」

 

「此度の一件は、恐らく川神院が何とかしてくれましょう…私の直感がそう告げております」

 

 此方の告げた言葉にポカン、と言わぬばかりの顔を見せる母。

 目はもの凄くトンチキなモノを見てるかの如く凝視しており、折角の美形が台無しである。

 

「これは驚いた…確かにノルンの感は百発百中って言っても良い程だけど、他力本願なんて以外ね」

 

「そう、ですか?」

 

「えぇ。見た目は頼りなく、物腰も柔らかなのに意外と強欲でしょ?ノルンは」

 

 そのもの言いには苦笑いを禁じえなかった。

 

「キッパリと申すこと。まぁ、そうなのですが」

 

 優男の容姿だが、こうみえて存外強欲なのは自覚している。

 傲慢と言い換える事も可能であろう。

 欲したモノはトコトンまで求め、目指したモノはどんな手段であろうとも、例え思い描いたモノとは違っても必ず為し遂げる。

 そしてそんな経験や生来の気質から、こういう仲間内や身内的な問題は自分の手でなんとかしたくなる性分だ。

 まぁ、そんなもの誰もが持っているものかもしれないが。

 己の場合は顔に出さないだけで意外とそれが強い。

 しかし、それに流される事は決してない。

 否、流されない。

 心眼は元より、この身の精神構造はそういう風に(・・・・・)出来ている。

 故にそこまで求めたモノなど今まで生きてきた中で数えるほどしかないのだが。

 筱宮幸恵と言う女性にはどうやらそういう此方の性分はお見通しらしい。

 母は強し、なのだろうか。むしろ凄し、である。

 

「で、何がどう解決すると?」

 

「さて?そこまでは…」

 

「むぅ…其処まで思わせぶりに振舞っておいて何時もそれよね」

 

「然りとて、私の直感も万能に在らず。そこまで具に図れるものでは…」

 

「使えるんだが、使えないんだか…」

 

 そんな目に見えて落胆しなくても、と思うのは間違いだろうか。

 

「まぁ全ては明日、ですね」

 

「明日?」

 

「明日にはこの疑問も、ワン子の件も解決しましょう」

 

「ふーん。まぁ、愛する息子がそう言うなら明日に期待しましょう」

 

「はいな。とは言え、実際に事を為すのは川神院ですが」

 

「それもそうね」

 

 どちらとも無く笑った。無論ワン子を起こさないよう静かに。

 そうしてお互い、お休みと告げて眠りに入るのであった。

 

 

 

 

 翌日。

 朝も早くから起きて、お勤めに響かない程度に鍛錬をこなして朝食の支度を始めようとした頃合いに珍客が訪ねてきた。

 

「邪魔するぞい」

 

「お邪魔します」

 

 川神の総代と孫娘である。

 何やらモモは随分と嬉々とした表情をしている。

 宛らお気に入りのおもちゃを前にした子供の様だ。

 実際子供であるが。

 そんな二人にお茶を出して迎える母。

 ワン子はキョトンとした顔をしている。

 どうやら事態に追いつけず混乱しているらしい。

 しかしワン子よ、私の心眼の見立てが正しければソナタこそが主役だという事を分かっているのか。

 いる訳もない。然もあらん。

 

「今日は岡本一子に用があってこっちに来たのじゃよ。親戚連中に聞いたら幸恵の所と聞いてな」

 

「あ、あたし…?」

 

 自分を指さして驚くワン子。

 

「ウム。実はのう―――」

 

「まった、そこからは私に言わせてくれジジイ」

 

「うむ、まぁええじゃろう」

 

 鉄心殿の言葉を遮ってモモが引き継ぐ。

 嬉しそうな表情とは裏腹に、目がもの凄く真剣(マジ)である。

 

「まどろっこしいのは嫌いだからズバっと聞くぞ、ワン子?」

 

「は、ハイ!」

 

 その眼光に刺激されたのか、はたまた生来の気質か、ワン子は姿勢を伸ばす。

 次いでモモから発せられる事は、ある意味で予想通りではあった。

 

「ワン子、いや岡本一子。お前、川神一子になる気は無いか?」

 

「え…?」

 

 モモの言葉にどうやら頭が追いつけないらしい。

 それはそうだろう。

 私や母は兎も角、ワン子に至っては正しく起きぬけに聞いたこと。

 寝耳に水である。

 

「ワン子が良ければ私の姉妹にならないか…と聞いたんだ。そうすればみんなと一緒にいられるしな」

 

「モモ先輩が、家族…お姉様?」

 

「おぉ、なんかイイなその響き!で、どうする?」

 

「え…っと…」

 

「遠慮する事は無いぞい。既に話は付けてある」

 

 不安そうな態度のワン子に鉄心殿は好々爺の如く笑みを浮かべる。

 その顔を見て、次いでモモを見て、そのまま暫く黙ったまま俯いた。

 やがて顔上げ、その表情から察するに決まった様だ。

 

「よろしくお願いします」

 

「そうかそうか、改めて名乗ろうかの。川神鉄心じゃ、気軽に好きに呼んで良いぞ?」

 

「よろしくな、ワン子。今日から私のカワイイ妹だ」

 

「うん!」

 

「良かったわね」

 

「うむ、是にて一件落着、とな」

 

 その後、川神院の持つ権力を駆使してその日の内に親戚連中とは話を付け、晴れて岡本一子は川神一子となったのである。

 

 

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