朝は5時。
早朝と言って差し支えないこの時刻が筱宮家の起床時刻である。
普段から鍛錬を何時も欠かさない為、朝食の下ごしらえを昨夜の内に2人で行い、翌朝の鍛錬後に作り上げて朝餉にありつく。
だが、その朝に限っては何時もと違っていた。
「母さ―――」
何時もなら母さんと続く言葉が途切れる。
目の前の光景はノルンと言う存在にそれを示す。
「何、ノルン?」
笑顔で振り返る母。
内心の驚愕を持ち前の精神制御で律して、普段通りに振舞う。
「あぁ、今日も美味しそうな焼き加減であるな、と」
「ふふ、ありがとう。さぁ、食べましょう」
揃って席に着き、手を合わせて。
「「いただきます」」
味噌汁を一口、続いてメインの焼きサバと言うちょっと珍しい品目に箸を伸ばす。
パリッとして身はジューシーであり、塩加減も絶妙。
「うまい」
「何時もながら味付けが美味しいわね」
「塩麹で一晩寝かせるのがミソなのです。それを確と焼き上げる母さんの料理技術がまた見事」
「あらあら、褒めても何も出ないわよ?」
「己が心を正直に表したまでです、母さん」
そのまま綺麗に完食する。
食べ終わった食器類は専ら此方が洗い、母はその間に出勤の準備。
手早く済ませて戸締りや家の点検をして玄関へ向かう。この間僅か10分。
「それじゃあ、いってくるわね」
「その前に、これを母さんへ」
小雪の時と
「お守り?」
「然りです。何やら災難の相が出ております故」
「……普段トラブルを寄せ付ける息子から災難ってどんだけー」
大きなお世話である。
漫才を繰り広げながらもお守りを渡してそれぞれの務めを果たしに向かう。
無論言わずもなが自分は学校だ。
「それにしても……死相とはな……」
先程の朝食での会話、振り向いた母の姿は
死相などと一口に言っても能力如何によって様々だ。
普通は虫の知らせの様な漠然としたものが大半だが、己の場合は文字通り、
慣れておるとは言え、心臓に悪い事この上ない。
急遽蔵から小雪の時と同じお守りを渡しはしたが、未だ嫌な念を払拭できずにいる。
「おっはよーノルン!」
「おはよう、ノルン」
声に反応してそちら振り向くと元気一杯な川神姉妹がいた。
「む、おはよう。モモ、ワン子」
うだうだ悩んでいる内にどうやら何時もの合流場所に着いたようだ。
頭を切り替えるとする。
「今日も張り切って鍛錬をしておる様だなワン子。感心感心」
ワン子の身体を見るに、しっかりと鍛錬を続けているのは明白。
その言葉にエヘンと胸を張る。
「えへへ。早く強くなってお姉様の助けたいから」
「おー、今日も我が妹はカワユイなー」
仲の良い事だ。モモとワン子のやり取りは何時見ても和む。
キャップ達も程なくしてやってきた。
「お、モモ先輩達おはー!」
「おはー」
「おはよう、みんな」
「おー弟に愉快な仲間達、おはよう」
「みんなおはよう!」
「おはよう」
「おはーだぜ」
合流し、そのまま学校へと向かう。
ちなみに小雪の姿はない。彼女はそもそも通っている学校からして違う為である。
みなおもいおもいに他愛ない会話を満喫しながら登校。
「それでさ、南米からオヤジが持って帰ってきたお土産がまたうまいんだーこれが!」
「おぉ、聞いていると食べたくなるわね」
「って言うか、キャップのお父さんって聞けば聞く程破天荒だなぁ」
「大和、好き」
「脈絡がなさすぎる、お友達で」
「はぁ、女にモテたいぜ…」
「ガクトはそればっかりだね」
そうこうしてる内に学校に到着。
モモとは学年が違う為、ここで別れて後は各自じぶんの教室へ向かう。
「それではみな、また昼休みに」
「おう」
「後でね」
キャップ達6人は同じ教室だが、私のクラスはみんなとは別である。
と言うか、知り合って以降1回とて同じクラスになった試しは無い。幸運Eの低さは伊達ではないという所か。
然もあらん。
教室に入って級友に挨拶を交わし、雑談に興じる。
「はい、みんな席について。授業始めるぞ」
「起立、礼」
「「「「「おはようございます」」」」
「着席」
「うっし、じゃあ出席を取るぞー」
その後も恙無く出席も取り、HRも終わって授業が始まった。
昼休み。
給食を終えて今は毎度お馴染のメンバーと駄弁っている。
「名前とな?」
「そう、いい加減俺達も何か名前を付けるべきだと思ってな」
切っ掛けはそんなキャップの一言だった。
なにやらTV番組の影響らしく、カッコイイ名前を付ければより結束もますのではと言う意見の元、みんなで知恵を出し合う。
「マッスラーズとかどうよ?」
「却下」
「マッチョなのはガクトだけでしょ!」
「んじゃモロは何かあんのかよ?」
「え?いやぁ…特に思いつかないや」
「右に同じく…」
「京もかー」
その後も色々と出るが纏まらず、どうしたものかと悩んでいると。
「キャップがリーダーなんだし、シンプルにキャップの名前を使わないか?」
なんて大和が言ったモノで、それに対して此方が―――
「ふむ、例えば…風間チーム、や、今少し語呂合わせを踏まえて風間ファミリー…とか?」
「お、いいじゃんソレ!決まりな、今日から俺達は風間ファミリーだ!」
―――凄まじいまでの即決だった。
先程まで悩んでいたのが呆れるほどに。
「んじゃ、風間ファミリー全員、今から遊びつくすぞー!」
「盛り上がっておる所悪いがキャップ、昼休みも間もなく終わるぞ?」
「って、マジかよ!?あー考えるのに時間を使い過ぎたのかー…」
「仕方ないよね」
「そんじゃま、改めて放課後って事で」
異議なしと声を揃えた所でみんな教室へ戻っていく。
放課後のホームルーム。
既に授業は終わり、この時間を経て下校だ。
そして、それは起こった。
「……っ!」
遠くで大きな氣がぶつかり合う気配。
感触からして1つは母のモノ。もう1つは少なからず此処川神では感じた覚えのない気配だ。
発する氣は禍々しく、それでいて空虚。何より母よりも大きい。
場所は多摩川の河川敷辺りで、お互い縦横無尽に川の周りを掛けている。
「オイ、ノルン! この氣は―――」
「コラ、川神さん! まだ授業中ですよ! 教室に戻りなさい!」
流石モモ、大きな力のぶつかり合いとはいえ、相応に距離のあるのに気付いた様子。
そして学年すら違うのに教師に名前を覚えられているのも流石だ。
此方とセットみたく覚えられているのはどうかと思うが。
「そうだぞモモ。まだHRは終わっておらぬ」
「けど、これは―――」
「信じよ」
有無を言わせないと暗に告げている言葉にモモは舌打ちしそうな苦々しい顔をしてしぶしぶ教室へと戻っていく。
気持ちはとてもありがたかったが、信じる他に今は出来る事はない。
程なくHRも終わり、校庭に何時ものメンバーも揃っていた。
モモ以外は。
「おや、モモは?」
「まだ来てねぇよ」
「HRで遅れてるのかもねー」
「そうか、済まぬが急用ができた故、遊べなくなった。モモにもそう伝え―――」
「おおーい!」
ランドセル片手にモモが駆け寄ってくる。
その顔は焦りで彩られており、彼女を見たメンバーは一様に驚く。
不遜な川神百代がこうも取り乱しているのは初めて見るからだ。
「悪いがみんな、今日は急用ができた。だから遊べない。行くぞ、ノルン」
「ちょ、ちょっとまって姉さん。いきなりどうしたんだ!?」
「だから急用が出来たって言ってるだろ! 急いでるんだ!」
説明も碌にせずこの言動では待ったをかけられて然るべきであろう。
しかし、急いでいるのも事実なので後日改めて説明すると言って無理やり納得させていざ行かんと踏み出す。
しかし―――
「っ! カフッ…」
「!? 大丈夫かノルン!?」
―――頭から突如血を噴き出し軽く吐血した。
何事かと駆け寄ってくるが、それに構ってはいられない。
久しく味わっていなかったが間違いなくこれは
これが意味するの事とは即ち呪いが破られたことに他ならない。
「済まぬが先に参る!」
「おいノ―――」
なにかを喋りかけていたが耳に入らず、そのまま縮地で跳ぶ。
―――多摩大橋下
そこには既に川神院の総代と師範代がいた。
ルー師範代が藍色髪を後ろで束ねた少女と戦っている。
漂う気配から察するに先程まで母と戦っていたのは彼女だろう。
年の頃は中学3年程度と言ったところか。
側に控えていた鉄心殿と釈迦堂さんは此方に気付いたようで、慌てて此方に向かってくる。
「ノルン!? こっちへ来るでない!」
「此処に近付くんじゃねぇってお前さん、なんで血塗れなんだ?」
寄らせたくはないのだろう。
2人のリアクションだけで察するには十分。
だが、それに構っている暇はない。
蔵から瞬時に得物を取り出し、戦っているル―師範代と少女の間に霞月で道を阻むようにして斬る。
「む!?」
「お?」
仕切り直す様に一度距離を置く2人。
「何をするんだイ!?」
「ル―師範代、どうかお下がりを」
言われて顔をしかめる。
彼が苛立つのも無理はない。
突然割り込んできた上にいきなり下がれと言われれば怒りが沸くのは当然だ。
しかし、此方とて止めねばならぬ故がある。
「分かりませぬか? あのまま戦っておれば死ぬるはル―師範代、貴方だった」
先程のル―師範代には死相が見えていたからだ。
ル―師範代が何かを言っているが全てスルー。
少なくともあの少女は川神院師範代を殺せるだけの実力を持ち合わせているらしい。
その最大の理由は彼女の手に持っている刀だろう。
(よもや、斯様な所で宝具級の代物を目にしようとは思わなんだ…)
妖気を発する刀は、生粋の妖刀と言えだろう。
血を啜れば啜る程に妖気を増し、刀の質を上げてゆく類の代物だ。
それ以外にも何やら効果がありそうではあるが、今は関係ない。
「全く、千客万来だ」
ヤレヤレと言わぬばかりに肩を竦める少女は此方を見据える。
空虚。
そう表現できる程薄く笑う顔とは対照的に目には何も映っていない。
携えている刀の血の滴りが妙な感覚を生む。
自らの心眼は彼女の在り方を映す。
彼女はまさしく剣鬼であると。
「問いたい事はただ一つ」
「なんだい?」
「確認するが筱宮幸恵を切り捨てたのは其方か?」
「さっき後ろのおじいさん達が持っていった骸の事を言っているなら、そうだよ。私が斬った」
「そうか」
聞くべき事は聞けた。
右手に携えた長刀を左手で引き抜く。
対して眼の前の女性は口角を釣り上げて笑みを深める
「これはこれは…」
「ノルン!?なに―――」
「参る」
圏境を全開に、斬りかかる。
響き渡るのは金属音。
殺気はおろか気配もない攻撃を直感のみで応じて見せた。相当場数を踏んでいるらしい。
だが、それ以上に驚いた。
「くぅっ!? きいた~…面白いねぇ、内側に響くなんて。浸透勁とは違うようだが」
(打ち込んだ勁が通らぬ…)
己の武術は例え守りの上からでも即死せしめるモノ。
それを曲がりなりにも耐えられたそのカラクリは―――
(あの妖刀の妖気がこちらの勁を阻んでおるのか…それに、この身の幼さも原因か)
如何に優れた技術であろうと、何処までも幼い身では効果も十全とは言い難い。更に圏境はその性質上身体強化と相性も悪い為に殺傷までには至らなかった。
だからと言って真っ向より戦うのはあまりに悪手である。
あの妖刀は僅かにでも血を吸えば力を増す代物。かすり傷も負えばそれだけで状況が不利になっていくだろう。
また、透明化している今の状態ならば鉄心殿と言えども何処に居るかは感知できない為、迂闊な介入は防げる。
「んー…凄い隠行だね。気配どころか姿すら見えない…」
トン、トン、と刀を肩に当てて弄ぶ。
「だったら、こうだ」
徐に刀を地面に指す。
刀の妖気が溢れ、広がっていく。
地面から抜いて、此方に顔を向ける。
「みーつけた!」
紫電の如き斬撃が一直線に向かってくる。
紙一重で躱すが弐の太刀が迫る。
(捕捉された…!?)
縮地で躱しつつ、間合いを取る。
返す刃で狐月を放つが今度はしゃがんで躱す。間違いなく殺気は宿っていないというのにこうも躱されるという事実。
こちらの精神に揺らぎは無い。
それだけ彼女の技量が並はずれているということだ。
「危ない、危ない。フフフ」
周囲を探ってみると、己の気配と天地の流れにズレを感知。
恐らくは先に広がった妖気が原因だろう。
今一度溶け込ませるが。
「それはもう見切ってるよ!」
「ッ…」
響く金属音。
打ち合わせる刃から火花が散る鍔迫り合い。
「彼の圏境が破られタ!?」
「あれは妖刀が原因じゃな…恐らくあの刀を発する妖気は持ち主の感覚と同調して居るのじゃろう」
「って事は…あいつが圏境を使えば自分から位置を教える様なものか」
「恐らくあの娘も完全に把握し切れておる訳では無いじゃろうな。ただ、圏境の特性上、最初に己を妖気に溶け込む際の僅かな気配を探知しておるのじゃ」
3人の眼の前には、目にもとまらぬ速さで動き続ける2人の子供。
絶え間なく甲高い音を響かせ、散る火花は打ち合わせる刀の速さを物語る。
「それよリ、どうするのですカ総代!?このままでハ彼も幸恵の二の舞ニ!」
「焦んじゃねぇよルー」
「そうじゃぞ、ルー。少なくとも彼はまだ互角に戦っておる。何処かで付けいる間ができる筈じゃ」
尚も速度を上げてゆく2人を尻目に3人は何時でも動ける様に神経を研ぎ澄ませる。
振るわれる刀は宛ら舞っているかのごとく。
剣撃は無限に続くかと思われるぐらいに拮抗していた。
刀に触れぬようにとヒット&アウェイを繰り返す此方に、何処までくらいつく少女。
決定打どころか掠らせる事すらお互い出来ずに剣撃は続く。
「フフフ、君との戦いは中々に愉快だ」
沈黙を以って少女に答える。
「ツレないなぁ…全く」
「母を殺した相手に愛想を振舞え、と?」
キョトンとした彼女の表情がこの状況に対してミスマッチだった。
「そうか…成程ね」
再び鍔迫り合い。
しばし睨み合ったところでどちらとも無く距離を開ける。
再び仕切り直そうと構えた時―――
「顕現の三、毘沙門天!」
「!」
―――巨大な足が少女を襲う。
武神の闘氣によって仏神を作り出す技は数多の兵を容易く踏みつぶしてきた。
その一撃を少女は跳んで躱す。
しかし躱した先には師範代の2人が待ち受ける。
「ストリウムファイヤー!」
「行けよ、リングゥ!」
闘氣によって作られた熱線と円環状の氣弾の二重攻撃。
「クッ…」
妖刀の妖気を以って二つの攻撃を斬り裂く。
続く弐の内を武神率いる川神陣営が放とうと構えるその時、1つの影が既に少女の1メートル前に居た。
長刀は鞘に収められており、無造作に右手に携えたまま。
「秘剣―――」
「!!!」
少女の首は宙を舞う。
同時に己の身体からゴムが切れた様な音が聞こえる。
「―――佚之太刀」
残心で少女の身体が自ら流す血の海に沈むのを見て、思わず膝を折る。
疲労困憊である為だ。
息は上がり、最後の技によって断裂した左腕の痛みを精神で押さえつけ、それでも少女を見つめ続ける。
「オイオイ、ヤっちまいやがって…ったく」
「言うな、釈迦堂。それよりノルン、大丈夫かのう?」
反応しない此方を訝しんでいるのか、語尾は疑問形だ。
「無理もないでしょウ、総代。色々と彼も限界の筈ダ」
ル―師範代は殺人を犯した事を気遣っているのだろう。
しかし、返事ができないのは疲労からではない。
眼の前に死体を晒しながら、己の心眼は
事実、その感覚は正しかった。
悪寒の感じるまま身体を動かす。
「ぁ…ッ!?」
「「「!?」」」
「見事、としか言いようがないねぇ。これは」
斬られた。
振り向き様に構えるも、嘲笑うかの如く刃は身体を奔り鮮血が身体を濡らす。
しかし、どういう訳か致命傷では無い。
倒れぬようにと元から膝ぐらいまである髪を掴まれ、顔の横に刀を置かれる。
(ぬかった…殺さんとしておったのに死相が此の者から窺えなんだのは、この珍妙な技が原因か)
幻術の類か。
確かに斬った感触があったにもかかわらず、少女は悠然と其処にいた。
随分と奇怪な技である。
先程切ったモノも本物ならば、今ここに立っておる彼女も紛うことなく本物であると心眼は示しているのだ。
「動かない方が賢明だと思うよ?」
「クッ!」
顔の横に剣を置いたのは3人に対する牽制らしい。
「ハっ、俺がそれに従うとでも?」
「釈迦堂!?」
「従うさ、どうやら貴方にとって彼はお気に入りの部類なようだしねぇ」
彼女のモノ言いに苦々しげに舌打ちする釈迦堂氏。
ブラフも見抜かれていた。
「ねぇ君、名前は?」
「ノルン…しの、み、や…ノルン、だ」
「そう、ノルンと言うんだね…忘れないよ。わたしの名前は佐々木、と言うんだ。覚えておいておくれ」
あとほんの少しで口が触れ合う至近距離から空虚ながら、情欲にも似た色を帯びた眼がこちらの瞳に映る。
やがて、言葉と共にスゥ、と消えていった。
再び地面に倒れる。
流石の自分も失血による貧血では意識も碌に保てない。
3人の声もかなり遠くに聞こえる。
意識を失う前に、蔵から丸薬状の増血剤を口に呑みこみ、そこで途絶えた。
佐々木と言う少女の騒動から早三日たった。
今は川神院にいる。
気絶してから2時間程で川神院内で眼をさまし、改めて鉄心殿達に聞いたが佐々木はその後何処へなりと消えたままだという。
武神から逃げ切れるとは真剣と書いてマジと読む程尋常ではない。
風間ファミリーの面々にも既に伝わっており、みんなやり辛そうな雰囲気には正直申し訳なかった。
まぁ、その内元通りになるだろう。
こればっかりは時の力に頼らざるを得ない。
母の亡骸と対面したが、その姿は首から皮1枚で繋がった状態であり、血は出ていなかったが、殺された直前であったなら今朝見た死相と同じ様だった事が伺える。
ってか、母の遺体は殺されてしまった直後に鉄心殿が運んだようなのだが、その場に直ぐ駆けつけた筈なのにその様な感じには見受けられなかったのは流石だ。
渡したお守りが効かなかった点については単純な話で、お守りの力を以ってしても死の運命を捻じ曲げられず、結果として作った当事者に呪が返る形になってしまった。
あれの効果もアイルランドの光の御子が持つ魔槍までは変えきれないのだ。
母の死相もそれだけ濃かったという事。
さて、長い説明文は終わりにして気まずそうな姉妹に声をかけるとしよう。
「大丈夫か? 2人とも」
「え? あ、えっと…」
「それ、ふつうはこっちのセリフだろ」
呵々と思うわず笑う。
「如何にも、如何にも。然れど、そうもやり辛そうにしては逆に気を配りたくもなろう」
そんな振る舞いにモモ達は何か言いたげだったが、普段通りに接された方が気が楽だと告げ、席を立つ。
「何処に行くの?」
「一度家に帰るのだ。その旨を今より鉄心殿に伝えに参る」
「いや、此処に居ろよ」
「断る。と言うか、どうせ葬式を終えて納骨までは確実に
去り際にワン子の頭を人撫でして、鉄心殿の所へ足を運ぶ。
―――自宅
あの後、鉄心殿に今夜一杯は家の方でゆっくりしたいという旨を伝えて家に帰ってきた。
思う程すんなり聞き入れられたのは幸いだった。
庭先で盃を二つ置き、川神水を飲む。ちなみに川神水とはノンアルコールの水だが場で酔える摩訶不思議な水だ。
意外とこの世界、正史よりにみえて以外に外れているとつくづく思う。
草木も眠る丑三つ時のしじまの夜は中々に乙であり、満ちる静寂はって語り合う《・・・・》のにはちょうど良い。
「
傍から見れば気が触れたと思われるだろうそれに―――
『んー…思ってたほどでは無いわね』
―――返る言葉があった。