気まぐれ神様の物語 真剣恋Ver.   作:ジーザスルージュ

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10話

 辺りは静寂そのものだった。

 夜行性の野鳥や虫すら、この時間帯には活動すらしないのか音が聞こえる事は皆無。

 そんな時間帯に子供が庭先に座り、1人で話すのは見ていて健全とは言い難い。

 1人であるならば、だが。

 

「さて、何をすべきかしら?」

 

「や、幽霊故、出来る事と言えば語り合うくらいでは?」

 

 ボケかどうか判別がしづらい。

 

「ほら、ポルターガイスト?ってあるじゃない」

 

「何を為そうというのですか?」

 

 グダグダである。

 母の霊を揺り起こしたのは前日の事。

 如何に死した後魂だけとなるにしても直ぐに順応するわけではない。殺された事をその場で自覚してしまうと下手をすればその場で怨霊と化す。

 その前に揺り起こして状況を説明し、納得してもらった。だが、母の精神力の強さは並ではないため、そのまま放置しても順応しそうで怖い。

 ともあれ道を修正すべきか。

 

「さて、話してもらえませぬか…? 何故(なにゆえ)斯くも相成ったのか」

 

「そうね…まぁ、結果はおおごとだったけど、切っ掛けは些細なのよ」

 

 其処で語られることは、ホントに些細だった。

 最初は道を尋ねられたらしい。

 川神院から始まり、仲見世通り、商店街、多馬大橋に到って堪能したら突然刀を抜いて勝負を吹っ掛けられたそうで。

 有無を言わさぬ雰囲気であり、また少女とは言え勝負吹っ掛けられて逃げるなどと言う選択肢はない。

 マスタークラスの矜持たるで挑んだ結果が―――

 

「これ、とな」

 

「そうなの」

 

 しばし沈黙してしまったが、だが何よりも最初に浮かんだものは―――

 

「良かった…何て言うのは間違いではあるのだがなぁ」

 

「ちょ、殺されて良かったって言うの!?」

 

「否、私が言う良かったとは―――」

 

 ―――真っ当に負けた事がである。

 

「真っ当に?」

 

「不意打ちじみた手段であったのならば、胸に蟠り(わだかま)もあったであろうが…決闘の末の結果なれば恨み辛みも最小限で済むというモノ。母さんには申し訳ないが、母さんが死したは弱さ故の事だ」

 

 なにかが刺さる様な幻聴が聞こえた気がした。

 

「うぅー…それはそうなんだけど…この子ホントにズバって言うなー」

 

「無論、大好きな母さんを奪われたのだ、恨みはある。然りとて武を扱うモノとしては、真っ当に負けたのならば最低限の尊厳は守られておりましょう?」

 

 呆然。

 そんな言葉がしっくりくる母の表情。

 思わず笑いが漏れそうになる。

 

「何て言うか、ホントズバッっていうわね。大好き、なんて言葉。いや、私も大好きだけども」

 

 照れなり呆れなり嬉しさなりと複雑な心境での表情が先程のモノらしい。

 そこまで言われる事だろうか。

 

「ありがとうございます。子として、母さんの事はとても尊敬しておりますよ。故に大好きだと申したまで。そして他者に対する好意と称賛は正直に惜しみなくが私の主義です」

 

 なんだろうか、そのヤレヤレこの子はと言わんばかりの表情は。

 心外である。

 好意はきちんと示さねば分からぬモノと言うのが自論だ。

 

「ん、ンンっ。まぁ、それはさておき、いい機会、なんていうのはあれだけど…いい加減聞かせて貰うわよ?」

 

 ―――貴方はいったい何者?

 

 予想はしていた。

 母が直接問い詰めたのは1回限りではあったが、日々の行動から聞きたそうにしてはいたのだから。

 何時かは話すと言った手前、話さずにはおけないし、話してもよいと思えるほどには信頼はしている。

 しかし、しかしである。

 

「んー…何と申せばよいやら…そうですね、もの凄く極端かつザックリ端折って言うなら、フム…観測者達の言の葉を借りて、転生者…でしょうか?」

 

「てんせいしゃ?」

 

 如何にもと肯く。

 

「輪廻転生の概念は存じておりますか?」

 

「えぇ。仏教で言う様は死んだ後に別の命に生まれ変わる事、よね?」

 

「その認識で相違ありませぬよ。そうですね、本来輪廻に帰った魂は俗に言う前世の記憶を其処で置き去りにして、まっさら状態で次の生命に宿るものなのですが」

 

「パソコンの初期化みたいなもの?」

 

 言い得て妙な表現だ。

 店頭などに並ぶパソコンを購入した際は、一端中身をまっさらにして点検してから出すのとそう変わらない。

 

「私の場合、輪廻に帰ることなく記憶を保持したまま、転生するのです」

 

「前世の記憶…成程、子供に見えて実は歳不相応だから子供の仕種が似合って無かったのね」

 

 大きなお世話である。

 それに前世、と言う言葉自体は間違っていないがニュアンスは違っているだろう。

 何故ならこの身は今年で12億とんで1281歳だ。

 その事を告げると、今度こそ母の開いた口はふさがらなかった。

 なんとも間の抜けた表情であり、また笑いがこぼれそうになるが其処は堪える。

 

「なんなのよ、その数字は…」

 

「転生した回数までは覚えておりませぬが…まぁ、年齢よりは少なくとも下でしょう」

 

「そりゃそうでしょうとも! 息子に言いたくなんてないのだけど、其処まで生きられるなんてある意味怪物染みてるわよ」

 

 真っ当な言い分なので返す言葉も訂正もない。

 それにである。

 

「そのものズバリです」

 

 この身は、人にして人ならざるものなのだから、と告げる。

 

「え…?」

 

「冥土の土産…などと申すのもアレですが、貴方には話しておきたい。私が如何なる存在かを」

 

 呆然とした表情は直ぐに真剣な面立ちとなり、まっすぐに此方を見据える母。

 力強い意思の宿った姿は多くの人を魅入らせうるものだ。

 聞かせてもらうわ。

 そう言い放つ。

 

「申しておいてなんだが、良いのですか?」

 

「最初の段階でもうかなり驚いちゃってるし、これから聞く事も驚くでしょうけど…それでも貴方は私の子供だから」

 

 なんともまぁ、剛胆である。

 母は強し、というのか。

 

「では語るとしましょう。かなり荒唐無稽に聞こえるでしょうが…」

 

 

 

 

 アーカーシャ、アカシャ、と呼ばれるものがある。

 元はサスクリットの言語で虚空を意味するそれらは、過去、現在、未来、世界のあらゆる情報を記録する場所があるという宗教の中にある概念である。

 それは総じて運命そのものだという解釈で昨今は捕えられているモノだ。世界の何処かにあり、それは遍く万象、平行宇宙を遡った全ての始まりに在るとされている。

 

 ――――あるものは『アカシックレコード』

 

 ――――あるものは『根源』

 

 この二つ、厳密な意味では違うモノではあるがここでは割愛しよう。

 一先ずの呼称としてアカシャと呼んでおく。実のところ記録の保存場所に過ぎないとするアカシャには意思がある。

 無論、人間における自我の様なもので無く宛ら昆虫の様な機械的なものであるが。

 

「私は、アカシャの手によって何らかの理由で作られた存在、人にして幻想種にして神様、の使いみたいなもの…でしょうか」

 

「神様とか…」

 

 そこ、微妙な顔をしない。

 

「ところで幻想種って?」

 

「おとぎ話に語られる空想上の存在を総じてそう呼びます」

 

 この身は阿頼耶と地球(ガイア)の双方の抑止のシステムを参考に作られたもの。

 力の基礎は地球(ガイア)側をベースに阿頼耶の器を与えられ、永劫に渡って平行世界(パラレルワールド)を彷徨い続けるよう定められている。

 

「ガイア? それに阿頼耶って、斬撃速度の目安の?」

 

「そう言えば、剣撃速度をこの世界では命数法で表現しておりましたな」

 

 命数法とはザックリと説明すれば数の単位を国々の言語表現で言い表す方法である。

 例えば『1000』という数字は漢字圏では『千』と表し、英語圏では『thousand』と言う様に。逆に数字を使って示すのを記数法と言う。

 この命数法は基本として1~9までの数字と2桁以上の単位で呼び方を定めている。漢数字で言うなら一、十、百、千、万、億、兆、京、亥……という具合に数字の桁を上げていくごとに表す呼称が該当する。

 そして、これらの呼称は桁を下げる、即ち小数点以下にも呼称があり一桁ごとに一、分、厘、毛、糸、忽、微、繊……と続いていく。一般的に桁の上がる際の呼称を大数、下がる方を小数と呼ぶ。

 阿頼耶とはこの小数の呼び方の内、最小単位から数えて3番目の呼称であり10の-22乗、100亥分の一に相当する。

 しかし、長々と説明を綴ったが事ここにおける阿頼耶とは数の単位ではない。

 

「ここで申すところの阿頼耶とは仏教における概念の事です」

 

 そう、ここでの阿頼耶とは阿頼耶識のこと。仏教におけるひとつの思想で、個人の認識は8つ、宗派の違いで10まで表せるという概念。

 全部説明すると無駄に長いのでここも基礎の部分だけをザックリさせると、個人、他人問わず一切の人は八種類の"識"で織り成し、それらが捉える個々同士の主観に基くというもの。

 大きく分けて意識と無意識に区別し、普段人が感知する意識部分に人の持つ視覚、嗅覚、味覚、聴覚触覚を表す眼識、鼻識、舌識、耳識、身識の前五識と呼ばれる五つに自分を自覚する"意識"の六つ。更にその奥底、無意識の部分に区別されるものに人の潜在意識に相当する末那識。個としての自我という概念を超越した阿頼耶識があり、前の七つは阿頼耶識から生み出されているとする概念である。

 

「まずガイアとはこの(地球)そのものです。そして阿頼耶とは、一言で言うなら人間の集合無意識の事」

 

「集合無意識…」

 

「然り」

 

 ある学者がこんな概念を提唱した。

 人間の意識と言うのは根源的な部分、個、または自我と呼ばれる境界線を越えたその先、無意識下で繋がっているされるというもの。それこそが集合無意識と俗に言われる概念である。

 これを、仏教の考えに沿って誰が言い出したのか阿頼耶と呼称された。

 あらゆる時代の宗教、神話、特に神仏に共通項があるのは、起源とされる物の延長のみならず、この集合無意識と呼ばれるモノによってある程度情報の共有を無意識に行っているのではと言う説もあるのだが、ここでもこれは割愛しよう。

 (ガイア)にも阿頼耶にもやはり意思と言うモノが存在している。

 アカシャと同じく昆虫の様な機械的なモノではあるが、それらは滅びに対する抑止力として、人知れず自らの端末を使わす。

 

「滅び…何か危機的な事ってことよね…例えば核戦争とか?」

 

「また飛躍しましたが、まぁ、概ねその様な感じです。ただ、現代に於いてはそれらは滅多なことでは働かぬのですが」

 

「どうして?」

 

「仮に母さんが言った核兵器を用いた戦いなど、誰が見ても危険なのは一目瞭然でしょう? 故に人々はそんな愚行は犯さなぬ。人々が自らの意思や力で以っても抗えぬ、強大な危機に対して働くのが阿頼耶の抑止、そうじて守護者と呼ばれております。ガイアの場合は人間の逆ですね」

 

「逆、つまりは星に危機的何かが起こった時ね。例えば…大規模な森林の伐採、とか?」

 

「如何にも。ガイアの抑止力は総じて星を食いつぶす者達を、つまり人間を(・・・)刈り取るのです」

 

「……成程ね」

 

「おや、驚かれぬか」

 

「ま、これでも家を飛び出して武者修業に明け暮れたからね。人が自然を一番食い荒らしてることくらいは知ってるわよ」

 

 今何か聞き逃せない事を聞いた。

 

「母が家出娘だった件について」

 

「家、かなり大きいエリート系。私、家嫌い、家飛び出す。家族、私を追い出す。OK?」

 

 凄まじい、まさしく苦虫を噛み潰したと表現できる面妖な顔は女性としてどうよ、なんてツッコムのは野暮か。

 実際は話が脇にそれるのでしないだけとも言う。

 

何故(なにゆえ)カタコト?」

 

「説明するのも嫌なぐらい嫌いなの」

 

 さいですか。話を戻すとしよう。

 

「―――抑止力のシステムをベースに、その御霊は間違いなく怪物のソレでありながら人の器をアカシャより与えられた者。阿頼耶(ヒト)であり、ガイア(バケモノ)でもあり、それらを超越してしまった存在(モノ)……言うなれば(アカシャ)の使徒…専門用語を借りるならArchetype(アーキタイプ)Zero(ゼロ)、と申したところか」

 

「はぁー……なんて言えばいいのかしら……壮大すぎ?」

 

「如何様にでも、としか私は申せませぬ」

 

「まあ、そうよね」

 

 ウンウンと頷く母。その幼い仕種は年齢や外見に関わらず似合っていたのは精神年齢に由来するのだろうか。

 

「……何か今不快な事を考えなかった?」

 

「はて、なんのことやら」

 

 相も変わらず勘の鋭い。

 情報の整理に対する処世術の一種か、少しだけおどけて見せていた母が再び質問を投げかけてくる。

 

「ところで質問なんだけど生まれる場所とか、世界とか決められたりするの?」

 

 一見してなんでもない問いかけ。しかし、持ち前の心眼はその質問の意図を即座に見抜く。

 

「否、こればかりは流れに身を任せる他ありませぬ。また何処に、誰の子として生まれるのかも」

 

「そっか。そうなんだ」

 

 吐いた言葉に宿る喜び。喜色に彩られる顔。

 母さんが、己を母さん自身が愛した相手と一時とはいえ愛を確かに育んで生み出した事に無情の喜びと誇りを持っている事は理解している。

 だからこそ、先ほどの質問で筱宮幸恵が愛した男は自分で選んだものであり、選ばされたものではないのだと証明したかったのだ。

 そして証明されたからこそのこのリアクション。ほんの少し齎されたどちらとも語らぬ静寂が何故だか心地よい。

 

「それで、実際どうなの? そこまで長生きしたってことはやっぱり色んな経験をしたんでしょう?」

 

「えぇ、ピンからキリ、酸い甘い、様々な事を」

 

「そう……」

 

 再び訪れた静けさは母さんにとって受け取った情報を処理をしているからだろう。

 阿頼耶やらガイアやらアカシャやら、色々と疑問を投げかけてはくれたが、やはりこんな言い方では混乱は避けられぬか。

 これで、敢えて語っていないが他にもこの身には制約がある。

 自らが重ねた人生において計測した結果ではあるのだが、平行世界を彷徨うにあたって転生と言う形で現れた場合、己の寿命は20を待たずして命はてるという事。

 これが何故かは具体的には分かっておらず、色々と憶測は立てられるが確証まで到ってはいない。

 分かっているのはそういう因果なのだという事だけ。

 ただでさえ、自分が産んだ子供が実はまともじゃない、なんて事実を突き付けた現状、流石にこれ以上の劇薬を投げ込む事だけは流石に憚られるというもの。

 暫くうつむいたままだったが、やがて勢いよく顔を上げた母さん。

 

「よっし、スッキリした。ようは私の息子は実はとんでもなく御爺ちゃんで、スゴい複雑だったってことね」

 

 その顔は常と変らぬ人懐っこくも母として包容力を感じさせるものだった。

 その言葉は常と変らない、何処かアホっぽいけど前向きと明るさを感じさせるものだった

 

「怪物だろうが、肉体だけなら人間側。即ち私の子供である事に変わりないって事が分かればよし! それよりも、それだけ生きてるんだから色々経験してるんでしょ? ザックリでいいから聞かせてよ」

 

 この瞬間、あぁこの人には勝てないと、どうしようもなく思ってしまった。

 然れど不思議でもなんでもない。だって初めから分かりきっている。それだけの付き合いだ。

 なにせ今日まで―――と言うには厳密には違うが―――容姿の似通う事の無いこのノルンと言う異物を我が子として愛情を注いだ母なのだから。

 

 

「…いいですよ、では何から話しましょうか」

 

「そうね、やっぱり武術を始めたきっかけから」

 

「分かりました」

 

 

 

 

 それから色々語り続けた。

 最初の要望であった武術まわり事。

 

「そのあやめっていう人が、武芸の師匠?」

 

「そうです。それだけでなく、生まれたての頃で感情はおろか言語すら語れなかった私に武術を中心ではあれど、それ以外にも多々教えてもらいました。彼女との思い出は私にとってかけがえのないものです」

 

 ――――剣とは抜くべからざるもの、抜いた時点で下策である。

 

 ――――故に抜くからには必勝の好機であり、必殺を誓った時のみ。

 

 ――――躊躇い覚えるならそも、剣を持つべからず。

 

 この教えは武芸以前に力全てに当てはまるものとして今も心に根付いている。だからこそ、殺人剣である師の剣術を受け継げるだけ受け継いだのだ。

 まぁ、剣のみならず武芸に関しては無手も、であるが。

 

「殺人剣故の理念か……それもまた武道の1つなのかしら。ってか、息子が殺人剣を手繰ってるのに、なまじ剣を交えてきたから納得してしまう……」

 

「そこは諦めていただきたい」

 

 そして語るのは原典とも言える想い出。師の出会いが己にとっての始める切っ掛けならば、次に語るは己が『己』を確立した、いわば独り立ちの切っ掛け。

 この身にまつわるシステムの知識はこの世界からのモノが基本だ。

 当時はまだ人間の寿命分しか時間を重ねていない頃。

 始りは町一つを飲み込む大火災。

 今と同じ幼い身であり、孤児であった自分は孤児院で育ち、焦熱の中彷徨い歩いていた。

 道すがら助けを請われた者、助けられる者を助けながら。

 やがて火は雨に消され、そして瀕死状態の1人の友人に遭遇する。

 しかし、当時の己はにその友を救える手立てはなかった。

 助けを探そうとした時1人の男性が現れ、少年を救い、やがて、その少年を救った男性に救われた少年と共に養子として迎え入れられる。

 

「いいお父さんだったのね」

 

「否、確かに愉快なひと時でしたが、親爺殿は良く家を空けて、家事も出来ず、ズボラ……の一言でしたね。家事も弟が最低限覚えるまでは私がこなしておりましたし」

 

 そう語った時の母の顔が何とも言えない。

 

「それでも、大好きだった」

 

「無論」

 

 拾われて3年も経たずに親爺殿は逝ってしまった。

 月明かりの晩、2人で親爺殿を挟んで縁側で静かに語り合ったあの夜は昨日の事の様に思い出す。

 親爺殿はその時語った、正義の味方に成りたかったと。

 弟はいった、親爺殿は正義の味方だろうと。

 正義の味方は子供限定で、大人になったら無理だと語る親爺殿。

 ならば自分が代わりに成ってやると語る弟。

 

「当時の私は、それはとても尊いモノに感じました。なればこそ…その願いが叶う事を望み、私は親爺殿に約束しました」

 

「…なんて?」

 

 それは夢想だと、そう語る私に反論する弟。

 自分とは違って―――といっても、その頃自分がどんな存在かは知らなかったが―――弟はただの人間、だから自分が支える。

 弟一人では夢想だが、2人ならば出来る。

 自分は弟を支えて、その夢を助けるのだと約束した。

 それを聞いた親爺殿は、安心した、その一言を最後に息を引き取った。

 

「全てを救う正義の味方…まぁ、先に申してしまえばこれは不可能だったのですがね」

 

「ちょ、このタイミングでそれ言う?」

 

 その後しばらく時が経ち、親爺殿の実の娘と出会った。

 

「実の娘…」

 

「見た目妹の様な姉、ですね」

 

「なにそれ?」

 

 何と言われても、姉の外見の特徴を言い表すならそうとしか言えない。

 出会いは争いであったが、やがて和解。

 しかし、彼女は生まれつき短命であった。晩年は誰かの助けなしでは床から出れない程に弱りきっていた。

 

 別れは、親子なのかやはり縁側だったのは少し何とも言えない気持ちだったの記憶している。

 3人で静かに庭先見つめながら姉は言った。か細くも芯の通った強い口調で

 

 ――――約束してほしいと。

 

 ――――夢を追いかけるのも良いけど、自分を蔑にしてはだめだと。

 

 自分の幸せをちゃんと夢と同じくらいに探せ、じゃないと許さない。

 私達は約束し、それを聞いた姉は良かった、安心した。

 それは寄しくも親爺殿と同じ言葉と共に安らかに眠った。

 

「良いお姉さんね」

 

「はい、尊敬できる姉でした」

 

 姉の死から程なくして我々は戦場に赴く。

 自分はマネージメントを重点に、弟は現場に徹して時として共に戦場に立つ。

 様々な戦場で、色々な事で人々を救ってきたが、その手段は何処までも理想とは乖離していた。

 犠牲無くして全てを救えるはずもない。それが現実だ。

 

 どれだけ高尚な理想を掲げようとも自分達のやってきた事は犯罪スレスレかそのもの。それでも1人でも多く助けられるならと2人して挑んだ。

 しかし、さる紛争の鎮圧の際にお互い重傷を負い、離れ離れになってしまう。

 辛くも手を逃れていた私と違い、弟の方は助けた誰かに裏切られて戦犯者として絞首台に立たされた。

 そこで見た者はある意味想像以上だった。

 

「何を見たの?」

 

「人々が弟の死を望んでいる光景……無論犯罪を犯したのであればそれは当然事。然れど、私は見てしまった……純粋に、何の不利益も無く、唯々弟に命を救われた者でさえ、弟の死を望む怨嗟の様相を」

 

「……」

 

 その時はある意味、己の中で尤も愕然としたかもしれない。

 情報戦も、今に比べれば見劣るがそれでもそれなりに大義名分を立ててきた筈だった。

 しかし、それは無意味なのだと知らしめらる眼前の光景。

 その中で必死に考えた。

 どうすれば弟を再び正義の味方に出来るかを。

 今この時にも殺されそうになっている弟を前にして思いついた手段が1つ。

 そしてそれはあまりにも単純で、この上なく悪辣な手段。

 

「いったいどんな?」

 

「正義の味方は大衆によって決せられるが常。ならば単純明快…大衆の敵として君臨して、弟に討たせる事」

 

 思い返してみても、お互い色々と囚われていたのだろう。

 尊いものに。

 その事に気付けたのは、事の最後であったが。

 

「それは…」

 

「その為に私は最終的に7億以上もの人口をこの身一つで死に追いやったのです」

 

 あの頃自分は教えも何も無く、ただがむしゃらに力を振るった。

 そしてその方が強かったっと言うのは色々とアレである。

 

「!!」

 

「結果として、弟は正義の味方として大衆に迎え入れられた…軽蔑しますよね」

 

 答えは返ってこない。

 

「まぁ、口で語る程、どれも単純なモノではあらなんだが…それでもあの選択と結果に悔いはありませぬ。まぁ、今でも他に良い手はなかったのかと考える時はありますが」

 

「……」

 

「故に、我が真名は"衛宮"、衛宮ノルンです」

 

「エミヤ…それが貴方の家族の…」

 

「如何にも。ともあれ、名乗る機会等、これ以降此処まで両手で足るる程しかあらなんだが…これでこの想い出の顛末はお終いです」

 

「そう…」

 

 再び静寂が広がる。

 程なくして再び笑って見せてくれた母には感謝したい。

 それからも色々な事を話した。

 魔道を機械的端末で操り、多次元世界を行き来できる世界の話。

 

「魔法が機械でって言うのはロマンが無いわねー」

 

「まぁ、過程が如何にせよ過ぎれば結果に差は生まれますまい」

 

「それもそうか」

 

 ファンタジーよろしく、強大な力を持った永遠の名を冠する神剣を巡る異世界の話。

 永遠者と呼ばれる者たちとの戦いや、他にも時間樹と呼ばれる多次元平行世界での戦い。

 

「ファンタジーだけど、戦いばっかね…ホント」

 

「言わぬが花です、母さん」

 

 パーソナルトルーパー、スーパーロボットと呼ばれる大小様々なロボットが存在し、色々な敵と戦った世界。

 

「いいわよねーロボット!」

 

「かなり食い付きが良かった事に驚嘆しております」

 

「ねぇねぇ、ひょっとして、そう言うのも持ってたりする?」

 

「一応は…」

 

 凄いキラキラした目で見られた。

 

「お断り申す」

 

「まだ言ってもいないのに!?」

 

 見せてと言われても、曲りなりにも人よりは遥かに大きい機動兵器を此処で呼ぶ訳になど行かない。

 仮にも此処は住宅街。

 じゃあ町外れではと提案されても、技術力自体が違う場であんなものを呼びだせば下手すると世界に睨まねかねない。

 

「ちぇー…」

 

 他に話す事と言えば、この地球に一度国を立てて、世界を収めた事。

 主観時間で言えばちょうど今の半分と少し位だろうか。

 それは遥か古の神代の時代の話。

 神々や幻想種が未だ力を持ち、確かに存在していた頃。

 切っ掛けは唯居場所が欲しかった。

 だが、当時は今より更に排他的であった為に、待っていては無理だと事を起こし、時には人のみならず神々とすら矛を交えて最終的には覇を轟かせ、人も幻想種も神々も束ね、国を築いたのだ。

 寿命の問題は『アカシャの使徒』としての固有能力で己の運命を強引に捻じ曲げて。

 

「おぉう…息子がまさかの元王様だった」

 

「王と言っても、なりたかったわけでは無く、居場所を作るために尤も確かな手段だったに過ぎませぬ故、厳密には違うやもしれませぬが」

 

「それでも凄いわよ」

 

「あの時代だからこそ、あんな強引なやり方が通じたのでしょうね…幸い、民達を富ませる為の手段には事欠かなんだ」

 

 まぁ、尤もこの一件で生みの親アカシャとの大喧嘩に発展してしまい。

 辛くも勝つものの、直後にその世界は滅ぼされてしまったが。

 

「スケールが凄すぎる…」

 

「呵々、まぁ我ながら衛宮だった頃と比べて勝るとも劣らぬ波乱万丈振りであった…と申しておきましょう」

 

 全ては私にとってかけがえのない思い出だ。

 

 

 

 

 あらまし語りつくし、後2時間もすれば夜も明けるだろう。

 今は静かに沈みかけてる月を眺める。

 

「ねぇ、このまま見守る事って出来る?」

 

「無理、とは申しませぬがよした方が良いかと。停滞した水がたちどころに腐るのと同じで、霊が地上に故も無く留まるのは自我を失うも同じ」

 

「そっか…はぁ…せめて孫、と言わずともお嫁さん、見てみたかったな」

 

「む、私がどんな伴侶を連れてくるかを見てみたかった、と?」

 

「えぇ」

 

「ならば叶えようじゃないか、その願い」

 

 凛とした女性の声が響く。

 スゥっと何処からともなく現れたのは1人の女性。

 白い肌に背中まで届く長髪は濡れ烏の様な艶のある黒。

 少し釣り気味の鋭い眼が紅いのが特徴的だった。

 服装も一風変わっており、袖の無い白い小袖に黒い袴を着こなし、その上から漆黒の羽織を袖を通さず外套の様に羽織り、腰には1振りの刀を携えている。

 10人いれば10人振り返るであろう女性は驚く母を尻目に此方に近付く。

 

「せつ、ムグ…」

 

「ン…じゅる、チュ」

 

「ちょ!?」

 

 響き渡る水音。

 口を吸いあう姿は何処までも艶めかしく、赤みの指す顔は否応なしに情熱さを物語り、片方が幼いという事すら気に成らない程に絵になっていた。

 

「ン…はぁ、私がノルンの伴侶だ。お義母さん」

 

「お義母さん!?」

 

「いや、雪花(せつか)…手っ取り早いってのは分かるが、それじゃあ混乱するだけだろうに」

 

「全くです…姉上」

 

「この実直さはらしい気もしますが」

 

「ディズィーも同感です」

 

 何時の間にか更に女性が4人増えていた。

 紅い長髪、金色の瞳、緋色の着物を着崩した女性は、180を超える長身であり最初に現れた女性以上に豊満な肢体、顔も相俟ってモデルも斯くやと言わぬばかりだ。

 頭――正確には額に3本、側頭部付近に2本の合わせて5本の角が無ければ、だが。

 酒の臭いがしており顔も赤み掛っている為酔っているのだろうか。ならば腰の瓢箪の中身は酒だろう。

 

 4人の中で一番小さい少女もまた、頭に2本の角持っていた。

 膝まで届く白の長髪に深紅の瞳、薄桃色の小袖に真紅の袴と陣羽織を小柄ながら見事に着こなし、凛とした佇まいもあって武人を連想させる。

 

 その少女に次いで小さい少女。

 漆黒の長髪と褐色の肌、金色の瞳、忍びが着る様な装束を身に纏っている。

 意図的なのかとても気配が薄く、恐らく声を出さなければ気付けないだろう。

 

 最後の女性は金髪に銀色の瞳。

 和装だらけの中で唯一白いワンピース姿、見惚れる程微笑みを浮かべているが現れた5人の中で、尤も雰囲気が人間離れしている。

 

「えっと…どちらさま?」

 

「うむ、改めて紹介します母さん。まず後に現れた4人は妖星衆」

 

「ようせいしゅう?」

 

「はい、我が式にして私が最も信を置く朋友です。みな、挨拶を」

 

「アタシは酔花(すいか)。尤も個人名より酒吞童子って言った方が通りはいいかね」

 

「!?」

 

「我が名はシキ。妖星衆が一番槍」

 

珠百合(たまゆり)、と申します」

 

「ディズイーはディズィーと申します義母君。どうぞよしなに」

 

「そして彼女が―――」

 

「私の名は雪花(せつか)。愛しいノルンの伴侶…どうか見知り置いて欲しい」

 

 ホアー。

 そんな声が今にも上がりそうな表情は、今回で3度目だ。

 無理もないだろう。

 

「あぁ、ちなみにノルンは朋友、なんて言ったがその実妾だよ」

 

 そうとも言う。

 

「…えええぇぇぇぇ!!」

 

 再び事情―――と言って良いのかはよくわからんが―――を説明する。

 彼女達が御霊神と言われる式神の一種である事を始め、各々が別々の平行世界で出会い、絆を築いて今の様な関係に至った事。

 全員が全員純粋の人間は居ない事等を語る。

 その間、何故か雪花や妖星衆を見ている母が困惑ではなく何かを思案していたのは少々気がかりではあった。

 経験から言えば、あの顔と眼をする者は大抵の場合大きな事柄が絡んでいたのだが、心眼で見るまでもなく、あれは問い詰めても語る事はないだろう。

 説明を聞き終えた母が複雑な眼で此方を向く。

 

「このハーレム状態…甲斐性があると言えばいいのか、不誠実と言えばいいのか」

 

「はっはっは。まぁ、そういうのも無理はないか」

 

「まぁ、アタシ等は人間じゃないから…って事にしたらどうだい?」

 

「そうですね、その方が色々と納得もできましょう。ねぇ、兄さま」

 

「兄さま!?」

 

「あぁ、そういえば言ってませんでしたね。我は元々兄妹だったのです」

 

「って、兄妹で…」

 

「主の因果を考えらば、今はもう血の繋がりはありませんが」

 

「ま、そういうこった」

 

 これに関しては微妙な顔をすぐには戻せないだろう。

 

「それにしてもあの女、よくも兄さまに…!」

 

「ハイどうどうだ、シキ」

 

 姉さま、とシュンとした声で項垂れる。

 この身を思ってくれるのはうれしいが、あの佐々木と言う少女に関しては私の問題だ。

 実は斬られた時、雪花達に抑えてもらわねばそのまま斬りかかる勢いだった。

 妖星衆と雪花は自分にとって、掛け替えの無い存在であると同時に切り札的存在。

 故あるまで伏せておきたかった。

 

「んー…」

 

 まだ微妙な顔のままの母。

 

「さっきまでのシリアスな空気はどこへ…」

 

「そちらか!」

 

 そこからはまぁ、端的に言うなら女の会話に転じてしまった。

 どういう風に折り合いを付けてるのか。

 

「姐君が言われた通り、基本的に彼女が一番上で…後はこちらで話し合い、まとめたものを雪花()に報告する形です」

 

「基本的に妾の管理は私や自分達が行っている。ノルンには手出しさせてない。思い合っているのだから、ただ求めたら応じて、求められては応じてのどっこいどっこいかな」

 

 嫉妬しないのかという雪花への問い。

 

「無論するさ。だから、他へ向けた愛の最低3倍以上は愛してもらう。まぁ、12億以上も生きてなお、私達5人だけなのだが」

 

「ま、雪花を始めアタシら全員いい気はしないが、そもノルンと共にあり続けるってのは永劫、果てない旅路に行く事だからねぇ…そういう事をする度胸やその間ノルンに対する思いを貫かないとできないしね」

 

「その点は甲斐性があると言えるのかしら」

 

「呵々、まこと私には過ぎた素晴らしい女性達でしょう」

 

 仮にこの世界で新たに私が見初めた者が現れた場合どうするのか。

 

「構わない。共にあれるか否かは元より我らが決める事であり、最終的に私が一番だと理解させ、そして出来ればね」

 

「何と言う上から発言」

 

 馴れ初めなどを簡潔に。

 雪花の場合。

 

「放浪の末生き倒れ、そこをノルンに拾われ、最初は気持ちに戸惑って衝突を繰り返すうちに強引に口説かれ、そこで自分の気持ちに気付いたのさ」

 

 酔花の場合。

 

「アタシは手下と宴を開いている所に突然押し掛けて、勝負を吹っ掛けられたのさ。んで、勝ったら自分の元に下れって条件でね。んで、大体100日位かねぇ……1対1(サシ)の真っ向勝負の末敗れて今に至る」

 

 珠百合の場合。

 

「まだ妖力も持たぬ唯の獣だった頃、瀕死の状態で拾われて以降主のお傍に」

 

 シキの場合。

 

「我は退魔の家の出でですが呪いにより鬼女と化し、親に疎まれ殺されそうになった所を兄さまに助けられ、姉さま達に面倒を見られながら、自身の劣等感に負けそうになってた所を再び兄さまに助けられたのが切っ掛けです」

 

 ディズィーの場合

 

「ディズィーにとってお館さまは造物主であります。この身は憑喪神ですから大事に大事に扱われ、思われた末に生まれましたので、お館様以上に大事にしてくれた方を知りません」

 

 などまぁ語れるだけの事は語った気がする。

 女3人寄れば姦しいと言うが、倍になったら何と言うのだろうか。

 

 

 

 

 何のかんのでもうすぐ夜明け。

 これからの事も簡潔にではあるが話をして、今から霊送(たまおく)りの儀で輪廻の輪に母を戻す。

 とは言っても、転生にはそれなりに時間があるため、平均的にではあるが此処の時間軸の流れから向こう50年近くは確実に盂蘭盆会、所謂お盆には返って来れるのだが。

 余談だが、この死者が現世に返ってくるというはそういった概念の風習がある所、かつそこそこで時期が違う。

 代表的なものはメキシコの死者の日など。

 母を中心にその周りに札を5枚置く。

 雪花や妖星衆は再び霊体化しており、側にいるが姿は無い。

 

「では母さん、またお盆に」

 

「えぇ、またお盆に…と言い忘れる所だったわ」

 

「?」

 

 光の粒子に包まれながら母は不敵に笑う。

 

「納骨を終えたら旅に出ると言っていたけど、多分それ無理だと思うわよ?」

 

 確かに、先程言ったには言った。

 しかしいきなり無理発言とはこれいかに。

 

「それはどういう―――」

 

「じゃあね。明日辺り、大変だろうけど頑張って」

 

「―――ちょ…」

 

 霊送りの光の中に母は消えていった。

 

<<なんだったのだろう?>>

 

<<此方が問いたい>>

 

 

 

 

 

 翌朝。

 朝には戻るという事を鉄心殿に伝えてあった為、再び川神院へ足を運ぶ。

 見慣れた大きな門の前には見慣れない老人が2人。

 どちらも外国の人間だ。

 片方は金髪大柄、人相はお世辞にもいいとは言えず、加えて遠目で見てもデキる人物だという事が伺える。

 もう一方の人物は銀髪にメガネをかけ、対照的な物腰柔らかでありながら隙が無い。

 しかし隣の御仁ほどではない。

 何より注目すべきはどちらも執事服と言う点だ。

 2人は目的はどうやら自分の様で、此方に気付き眼の前に立つ。

 

「失礼、私、九鬼家従者部隊序列3位、クラウディオ・ネエロと申します」

 

「同じく序列1位、ヒューム・ヘルシングです」

 

「突然の所大変恐縮なのですが、筱宮ノルン様でいらっしゃいますか?」

 

「はい、そうですが」

 

 九鬼家と言えば人材派遣を中心に世界でも有数の企業家だっと記憶している。

 そんな者達がいったい何用だろうか?

 

 

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