気まぐれ神様の物語 真剣恋Ver.   作:ジーザスルージュ

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16話

「本当によろしいのですか?」

 

 九鬼家のビル、その屋上にあるヘリポートにいるマープルは心配気に声を掛けてくる。

 気持ちはとてもありがたい――――だが。

 

「毎度毎度のやり取りであるな、これも。存外心配症だな星の図書館よ」

 

 掛けられる声にやれやれ、という念を禁じ得ない。

 お互いさまではあるだろうが。

 既に夏を通りすぎて9月も下旬。

 漸く残暑も収まって来たが東京から南に点在するここは位置的にまだまだ熱い。

 屋上ゆえに日差しも照りつけ熱さもひとしおな今現在。

 そんな場所で何をやっているかと言えば―――

 

 川神へ帰るところである。

 

 今日は金曜の放課後。

 以前ならばこんな風に話をせずとも自家用のヘリやセスナを遠慮なしに利用していただろう。

 しかし、しかしである―――

 

「ヘリが7回、セスナ4回。使うたびにこれだけ墜落しては、な……用いる気概も失せると言うモノだ」

 

 おもに金銭的に。

 仕事の手伝い等、都合なども相俟って事実上2週間に1回のペースで帰っている。

 しかし、その行き帰りの何れかで乗った機体が悉く墜落していては、流石に使う気は出てこない。

 幾らの損失だったのかを考えると気が滅入る。

 

「故に、自らの力のみで帰ろうというのだ。先にもそれで往復出来たであろう」

 

「それはそうだですが……」

 

「ならば問題あるまい。然りとて、その心は受け取っておくぞ。ありがとう、マープル」

 

「従者として当然のことです」

 

 恭しく頭を下げるマープルを尻目にそろそろ参る、と告げる。

 いってらっしゃいませ、と声を背中に浴びつつ縮地で跳ぶ。

 

 

 と言っても、100Km単位で離れている為―――

 

「海の上にでるのだが」

 

 この調子で約10歩程度で川神につける。

 

 

 

 1歩手前辺り、既に有視界で川神が見える辺りから圏境で人の流れを探知。

 現れても驚かれない場所へ跳ぶ。

 

「―――到着、と」

 

 場所は多馬川の河川敷。

 前日の内にモモとの電話で待ち合わせたのは多馬大橋のすぐそばの所である。

 ちなみに、極東本部へは午後7時に帰る事を伝えてあるので此方へまず向かった。

 

「ふむ……些か―――」

 

 速かった、とまでは言えなかった。

 心眼が発した警告に従って反射的にナニカ(・・・)を避けたが故に。

 ―――その刹那

 

「よけた、だと!?」

 

 聞き覚えのあり過ぎる女性の声が耳に響く。

 最早心眼の予知無くしては避けられなかったであろう速度で突進すら生易しい突貫を行った彼女。

 

「モモ、毎度申しておるだろう? 然様な速度で跳び付くでない、と。殺す心算か」

 

 そう遠くない内に武神の称号を拝命するであろう次期武神。

 ―――川神百代その人である。

 

「ドーン!」

 

「おっと」

 

 此方の苦言に文句は愚か、背中に跳びつき張り付いてきた。

 話に耳を傾けないとか、どんだけと言う話である。

 張り付いたモモは最近急激に育ち始めた女性として魅惑的な肢体を押し付けてくる。

 それどころか首元に顔埋め、うーん、と猫が唸るような声を出す始末。

 

「帰ってくる度になんなのだ、一体」

 

「前にも言ったろ? お前が2週間に1回のペースだから悪い。それを九鬼の家の手伝いとかで事もあろうに1ヶ月も放置して、寂しいんだぞ……これでも」

 

 何やら猫が猫撫で声を上げ始めた。

 ともあれ、これについても再三以上に渡って説明してある筈。

 色々と寛容で大物な彼女が、自分に対してはこんな有り様だ。

 

(月日を経るごとに依存が増しておる様な……)

 

 彼女の事は出来得る限り協力するとは伝えてあるが、基本的には祖父である鉄心殿に任せてある。

 そうそうしゃしゃり出張るのは友とは言えそこは川神院の跡継ぎ、筋が通らない。

 鉄心殿に任せてなお"これ"とは。

 慕ってくれるのは嬉しいが、同時に頭を抱えたくなる。

 と密かに心の内で嘆息していると―――

 

「おーい、姉さん!」

 

「お、弟に妹。それに愉快な仲間達も一緒か」

 

「久しいな、大和、みんな」

 

 毎度のお馴染の面子がやってきた。

 京の姿も見える。

 

「今日はまた随分と早いな京」

 

「うん、学校の行事で予定より早く済んだの」

 

 そうか、と告げて大和の方に向く。

 

「久しぶり、元気してたか?」

 

「うむ、そちらも息災なようだな。後、シャツがはみ出ておるぞ」

 

 おっといけない、と言いながら服装を直す大和。

 そつなくこなす割に意外と普段は抜けている所が多い。

 そのためか、ついつい手や口が出てしまう。

 

「ワン子も、鍛錬は怠っておらぬ様だな」

 

「もちろんよ! 早く1人前になりたいからね」

 

 ワン子の夢は川神院で師範代になり姉たるモモを支えること。

 日々努力する姿は昨今の人々に学んでほしい程に直向(ひたむ)きだ。

 それを応援したくはあるが、正直このままというのは気が進まない。

 しかし、彼女は川神院の家族として、門下生として修練を受けている身だ。

 いちいち口を出すのもモモと同じく筋が通らないので歯痒いばかり。

 不安はあるが今は鉄心殿達を信じて見守る事に徹すると決めてある。

 

「どうかした?」

 

「や、なんでもあらぬよ」

 

 見つめすぎたらしい。

 ワン子の疑問を否定した所で懐かしい声が耳に入る。

 

「あ、ノルンだー!」

 

「む、ユキか。―――って」

 

「ウェーイ!」

 

「ロケット娘2号!?」

 

 跳びついてきた小雪をなんとか受け止めた。

 無理もない。

 各々の都合が合わず、彼女と会うのは約1ヶ月半ぶり。

 元気だったか、という問いに、無論、と返す。

 モモと同じ様に頭をすりよせている彼女の頭を撫でた。

 

「~♪」

 

「私とリアクションが違うじゃないか」

 

 背中の1号(モモ)2号(ユキ)との扱いの差に不満だったのか首を決めてきやがった。

 

「其方とユキとでは勢いからして異なるであろうに……」

 

 タップ、タップと首に回る手を叩く。

 傍からは苦しそうにみえない為、茶番である。

 話を変えよう。

 

「して大和。私に見せたいモノがあるとか?」

 

「ああ、うん。そうなんだけど―――」

 

「無視すんなー!」

 

「えぇい、大概にせぬかモモ!」

 

 肩を左右に大きく振らす。

 離すもんかと抵抗するモモ。

 はっきりいってカオス意外なにものでもない。

 

「なんていうか、相変わらずノルンの事になるとモモ先輩キャラがブレるね」

 

 モロよ、そういう問題では無いと思う。

 

 

 

 

 

 離れなかったのでモモは結局背負ったまま。

 ユキの方は歩きにくい為右腕に抱きついている。

 

「大和、遠慮せず私にもユキと同じ様にして良いんだよ?」

 

「遠慮なんかしてません」

 

 いつものやり取りだ。

 しばらく河川敷を歩き、やがて1つの廃ビルの前に立った。

 

「どーよ、これが俺達の新しい秘密基地だぜ!」

 

「ほう……これは驚いたな。スケールが大きい」

 

「僕も最初見た時は驚いたよー」

 

「あんまり驚いてない様にみえるよノルン」

 

 相変わらずいいツッコミだ、モロ。

 大和曰く、元は廃ビル管理のアルバイトだそうだ。

 其処に目を付けた彼はキャップと相談してあれこれと手を回してこのバイトを引き受けられたとか。

 7月の終わりにこのバイトを受けて以降は自分達のモノとして半ば扱っているようだ。

 8月~9月頭まで此方に来れなかった為紹介に遅れ、どうせなら直接見せてサプライズをという趣向にしたとのこと。

 ビル内に入り、階段を上がって一室に案内される。

 その部屋にはソファーやイスなどが置かれ、それどころか本棚まで完備してあった。

 相当使い込んでいるらしい。

 まだ半年程度しか立っていないのに順応が早過ぎではないだろうか。

 これはつい最近入れ込んだらしく本棚には数冊程度の漫画しかなかったが。

 部屋に入ると全員おもいおもいにくつろぎ出したので、自分もそれに習ってソファーで寛ぐ。

 寛ぐのはいいのだが―――

 

「背中の次は膝上か、モモ」

 

「いいだろう? こんな美少女に乗られて満更でもない癖に」

 

「……」

 

「ため息!?」

 

 喚くモモをスルーして蔵からランチボックスを取り出す。

 中身はタマゴ、ポテト、ハムレタスのサンドイッチだ。

 

「差し入れだ」

 

「やった、ノルンの料理ってみんな美味しいから大好き! タマゴいただきグマグマ」

 

 さっそうとタマゴを取っていくワン子を皮切りに他のみんなも手を伸ばす。

 

「おっほ、相変わらずウメーな!」

 

「ホントホント」

 

「ここにタバスコをプラスすると更に美味しくなるのさ。ハイ大和、アーン」

 

「京カスタム(超☆激辛)は結構です」

 

「ウェーイ! 美味しい!」

 

 それからは全員で近況報告を交えながら他愛ない話に花を咲かせる。

 ガクトが幾度となく告白してふられる話。

 ワン子の修行の近況。

 京の向こうでの学校生活の話題などなど。

 キャップ辺りから料理の腕を見込んで知りあった知人の喫茶店のバイトをしないかと誘われたが、家の事がるので丁重に断った。

 なんでも人手不足らしい。

 キャップも半分断られることは予測済みだったようで、あっさり引き下がってくれた。

 相も変わらず人懐っこい人物である。

 

「なぁなぁ、明日は暇かノルン?」

 

「都合は一応空いておるぞ。どうかしたか―――などと問うまでもないか……試合であろう」

 

「お、察しが良いな。以心伝心って奴か」

 

戯言(たわごと)を。いつも通り非公式と言う形なら構わぬよ」

 

 よっしゃあ、と美少女にあるまじき声とリアクションで喜ぶモモ。

 表情は可愛らしいだけあってヤレヤレ、という念をより禁じ得ない。

 そんな中、小雪やワン子以外のファミリー達は疑問の声を上げた。

 曰く、モモ先輩に勝てるのか、と。

 非公式とはいえ完全に他言無用と言う訳では無い為、てっきりワン子が話していると思ったのである意味驚いた。

 流れるままモモと視線を交わし、顔を寄せて小声で話し合う事にする。

 

如何(いかん)とする? ワン子は既知であるし、ファミリー内の秘密と言う形なら私は一向に構わぬぞ」

 

「でもなー。それだと私の威厳が……」

 

「ならば語らぬ方向で?」

 

「何れは話すつもりだけどな。けど、今はなー……」

 

 ならば気を見計らって、とお互い肯き、大和達には秘密と言う事にしておいた。

 ワン子が終始黙っている所を見ると成長したな、と感慨が湧く。

 試しにアイコンタクトをとってみると―――

 

(アタシ、知ってたけどノルンが目立ちたくないって言ってたから黙ってたわ)

 

(うむ。ありがとう、偉いぞワン子)

 

(ワーイ、褒められたわ!―――目で、だけど)

 

 なんてやり取りがあったり。

 存外、ワン子は感が鋭いようで。

 そのまま気ままに駄弁っていると帰る時刻になる。

 大和も親から今日は早めに帰る様に言われているらしく一緒だ。

 他の面々はもう少し残るらしい。

 モモやユキは終始ブー垂れているのを思い出してつい笑いが漏れる。

 

「どうした?」

 

「なに、先程のモモとユキのリアクションを思い出して、な」

 

「あぁ、成程」

 

 つられて大和も笑みをこぼす。

 京辺りに見られてたらさぞ興奮していただろう。

 主にBL的に。

 ぞっとしない話だ。

 廃ビルを離れ、他愛ない会話をしてる内に別れ道へ付く。

 ここから大和とは帰路が異なるため別ルートだ。

 

「それじゃあな」

 

「待たれよ大和」

 

「?」

 

 立ち去る大和を止めて、新たにランチボックスを手渡す。

 訝しむ大和にフルーツサンドだ、と告げるとますます訝しんだ。

 

「なんで俺に?」

 

「なに、日頃からファミリーの為に骨を折っておる軍師殿にささやかな労いだ。他意はない」

 

「ノルン……」

 

「甘い物は頭の休息には必要不可欠。それなりに作っておる故、両親と共に食めばよい」

 

「有難う」

 

「どういたしまして、だ」

 

 ではな、と言ってその場を去った。

 

 

 

 

 

 

 ―――極東本部、自室。

 

 帰ってからは久しぶりの家族との食事。

 とは言え、父上、母上、更に隣町の七浜にあると言う学友の家に泊まり込んでいるらしい姉上も不在の食事ではあったが。

 その後、兄上と共に入浴を済ませ、その兄上は自室へ勉強に集中すると言って別れた。

 自分も部屋に戻り来週の授業の予習行い、それも今しがた終える。

 川神水でもやるかな、と思い始めた所に―――

 

「我、参上である」

 

 妹の紋がやってきた。

 ここ極東本部にいる時は良くこうして遊びにくるのだ。

 

「今日の習い事は如何なるものだったのだ?」

 

「今日は武術と、語学。それに茶道であったな。全てこなしてみせたぞ!」

 

 ドヤッ、と口に出さずとも顔が語る。

 その微笑ましさとストイックさに自然と頭に手が伸びた。

 

「おぉ、よく頑張ったな」

 

「ふふふっ。んー……相変わらず良い心地だ」

 

 目を細めて実に気持ちよさそうにする紋。

 今の姿は兄上や姉上が見たら思わず可愛いと口にすること間違いなし。

 何して遊ぶかと紋と相談して将棋を指す。

 パチ、パチ、パチ、と不規則な音が部屋に響く。

 ただ指すのではなく雑談を交えてながらであるが、駒を指すその指の動きには共に淀みなど皆無だ。

 ちなみに、紋は現在進行形で己の膝の上にいる。

 

「―――それで、明日は幼馴染に誘われて午前は川神院へと赴く」

 

「そうか。我は一度近くまで言った事があるがあそこは凄まじい気配だな」

 

「何せ武神や次代の武神足り得る者がおる所。それはもう、な」

 

 紋を始め、モモとの試合を行う事は家族は基本的に知らない。

 家族には武術の鍛錬の一貫であると伝えてある。

 貰われる前までの戦績なら少なくとも父上、母上は存じているだろうが、それ以降も続いているのを知っているのは従者部隊のヒュームとクラウディオのみ。

 マープルにも内密にしてある。

 あまり目立ちたくないのが正直な話だ。

 

「あそこの鍛錬はやはり厳しいのか?」

 

「うむ。内容は一言で申すなら根性論に尽きるな」

 

「それは……所謂スポーツ根性みたいものか?」

 

「うむ、そんな感じだ」

 

 話しつつも駒を動かす手は休めない。

 しかし、最近紋の腕はメキメキと上がってきている。

 何事も器用にこなせ、かつ努力家な子ではあるが、武術に於けるモモ並みの学習能力だ。

 尤もモモの場合は武芸一辺倒に対して紋はかなり範囲が広いが。

 ―――なんて考えたせいか。

 

「あぁ、詰んだな……これは」

 

「その通り、王手だ!」

 

 瞬間的に思考を高速で回してみるも、心眼も含めて負けであると告げる。

 

「参りました」

 

「我の勝ちだ。これで2勝目だな」

 

「紋は凄いな」

 

 いや、本当に凄い成長速度である。

 顔の下にある頭を撫でると気持ち良さ気に目を瞑った。

 やがて大きな欠伸が1つ。

 思わず笑みが零れる。

 

「今宵はもう寝ようか」

 

「う、うむ。そうするかな」

 

 よく見てみると既に紋の瞼は半分以上さがっており、うつらうつらと夢への船を漕いでいる状態だ。

 紋をお姫様だっこで抱きあげ、紋の部屋へと向かう。

 控えていた従者が変わろうとするが、遠慮してもらい己で運ぶ。

 勉強を終えたのか、はたまた気抜きか道中の廊下で兄上と遭遇。

 

「ノルンか」

 

「おや、兄上。勉強お疲れ様です」

 

「何のこれしき、王たるもの当然のことよ。それより紋はどうかしたのか?」

 

「共に遊んでおったのですが、途中で眠ってしまい部屋に運んでおる所です」

 

「そうか。紋の事、頼むぞ」

 

「お任せを」

 

 兄上と別れて紋の部屋へ。

 と言ってもそう離れてもいないので直ぐに着く。

 ベッドに横に寝かせ、布団を被せて部屋に戻ろうとするも―――

 

「おや」

 

 服の袖をガッチリ掴んでしまっている。

 自分の服は部屋では着流しなため掴みやすかったのだろうか。

 離そうと試みるも一向に離れない。

 仕様がないか、と紋の傍に腰を下ろす。

 些か早いが今宵は寝る事に決めた。

 

「お休み、紋」

 

 服を掴む紋の手を上から更に握り、目を瞑る。

 程なくして己の意識が遠のいて行くのを感じた。

 

 

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