気まぐれ神様の物語 真剣恋Ver.   作:ジーザスルージュ

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17話

「さぁて! 待ちにまった死合いだ!」

 

「はしゃいでおるなー、モモ」

 

 川神院は境内にある修行場。

 文字通り、普段は修行僧が修行を行うこの場は試合等の際にそのままバトルフィールドとしても使われる。

 そして現在、昨日の約束を果たしに朝食を済ませて朝も早くからこうしてお邪魔しているという状況。

 

「それにしても、意外とノルンってお洒落だよな」

 

「そうか?」

 

「着る物の種類は凄い少ないけど、キチンと似合う服装選べてるだろ。それはカンフースーツと言う奴か?」

 

「厳密に申せば、カンフー風のアオザイだ。カンフーのそれに比べて丈も膝下まであるし、ゆったりしておるだろう?」

 

「確かにな。ところでアオザイって?」

 

 アオザイとはベトナムの民族衣装の事だ、と説明する。

 清の時代に伝来したチャイナドレスが起原であり、主に女性が着る服だ。

 男性用もあり、女性用に比べてゆったりとしているのが特徴。

 また、男性用のアオザイは披露宴など特別な機会しか着ない為、実はかなり貴重な光景だったりする。

 いま自分が着てるのは上の袖とズボンが黒、袖口はめくり上げて裏地が見えて白い。

 服自体はコバルトブルーに銀字で龍が描かれている。

 本流のアオザイと違い、カンフー服の様に一字ボタンが真ん中部分にあり、前の部分には腰から下までスリットが入っている仕様だ。

 モモが言うとおり一見すればゆったりしたカンフースーツに見えるだろう。

 

「珍しいよな、何時も和服なのに」

 

「なに、今日は無手で挑もうと思うてな。私の場合、無手は八極拳や太極拳が主流。ならば服装もそれ相応に、という趣向だ」

 

 ちなみに普段、戦いの際は黒の狩衣―――平安貴族の間で主流の服でザックリ言えば陰陽師が着ているものを想像して欲しい―――に二本歯の下駄という組み合わせを好んで身に纏う。

 服装は全て昔に己の手ずから作り上げたもので蔵の中に収納している。

 加えて呪的、物理的防御も地味に一級品の仕上がりだったり。

 閑話休題。

 

「おいおい、今更素手か?」

 

 何やら剣呑な気配を醸し出した美少女。

 

「思い違いをしておるようだが、剣術と無手に練度自体の差はあらぬぞ?」

 

 そもそも師からはそういう風に鍛えられて育った。師の戦術からして得物は鞘に収めたままで秘剣の構えを。そして剣の網を掻い潜った者には問答無用の即死打撃をという戦術の組み立てだったのだから、鍛え方もそれ相応な訳で。

 無論、必殺技の数だとか色々と外聞には地味に見えるだろうが修練した密度に差は無い。

 

「そうなのか?」

 

「うむ。単に刀を好み、剣術を振るうておるが無手も同等程度鍛えてある。違いがあるとすらば……技や、そちらが言うところの奥義とやらの数が異なるぐらいか」

 

「いくつあるんだ」

 

「剣は師のモノと、そこから鍛えた己のモノが1つの系2つ。無手は師のモノが1つだな」

 

「ひょっとして、あの掠っただけでこっちを気絶させようとするアレか?」

 

「如何にも」

 

 そうこうしてる内に準備が整った様子。

 お互い所定の位置につく。

 審判役の鉄心殿を脇に挟んでの見合い。

 鉄心殿の聞きなれた口上、聞きなれたやり取り。

 ―――そして戦いの口火は切られた。

 

 

 

 先手は百代。

 川神流無双正拳突きに弧月の技術を合わせた遠間への攻撃。

 大気を震わせて振り抜かれる拳は必殺の一撃足り得る。

 それに対し、縮地で背後に跳ぶ。

 

「!?」

 

 技の出掛かりに合わせて跳んだため、如何なモモでも拳を振り抜いた直後では満足には対応できない。

 無防備な背に強烈な肘打ち。

 肺の中の空気を強制的に吐き出され咳き込むモモは堪らず勢いを殺さずに距離を置こうとする。

 しかし、其処は勝手知ったる間柄。

 疾風怒濤―――相手が即座に体勢を立て直せるのを考慮して追撃に再び眼の前へ跳ぶ。

 ―――ただし、ただ跳ぶのではなく震脚による踏み込みを利用して。

 目の前に現れた時には既に攻撃している間際。

 

「グっ!?」

 

 鳩尾への鋭い掌打に思わず膝をついたモモ。

 止めを指す為に手刀を振り上げる。

 しかし心眼が警鐘をならす―――

 急速に膨れ上がる氣の流れに思わず反射的に後退。

 

「川神流、人間爆弾!」

 

 大爆発―――

 紙一重で後退が間に合い、ダメージを回避できた。

 

「……紙一重、か」

 

「ちっ……と、っておき…だったん、だけど、な」

 

 一見して苦しげであり、身体に火傷のあとが見られるところを見ると今の技は十中八九、己の身体を使った自爆技。

 凄まじいと言うか、あのタイミングで自爆技を用いる思考が既に歳不相応だ。

 同時に頭を捻る。

 少なくとも何時ものモモなら、あのタイミングで後先考えずに倒そうとする流れは実にらしかぬという念を禁じ得ない。

 ―――なにか秘策があるのだろうか。

 そんな考えが頭をよぎった時、モモの氣が再び凄まじい量と勢いで高まっていく。

 すると身体全体、内外問わずに巡らせた氣で身体が淡く光り出す。

 ほんの少しの間身体が光ったと思うとスっ、と立ち上がりそれまで痛みに歪めていたのが嘘の様だ。

 

「む、回復した……とな」

 

「川神流、瞬間回復。燃費は悪いし、まだ完全に使いこなせてないがな」

 

 奥の手だ、と不敵に笑う美少女。

 対してこちらは鏡を見るまでもなく険しいものに歪むのが分かる。

 これで益々我が力、武を交えず(暗器暗武)の神経系に限定した打ち込みでは、その効果を無くしていくのだ。

 険しくもなるというもの。

 

(そろそろ勁脈の方も考慮すべきか……?)

 

「こんなに早く使うとは思わなかったがな。やっぱりノルンはイイ」

 

「何と言う肉食系な笑みか。サーベルタイガーも斯くやと言わぬばかりだ」

 

「誰がサーベルタイガーだ!」

 

 ガオー、と怒り形相。

 

(そういうところが、だ)

 

 こんな美少女に向かって、と拗ねておるのか不機嫌そうに唇を尖らせる。

 そういう顔なら可愛いので歓迎だ。

 直ぐに表情を好戦的なモノに戻すモモ。

 

「今ので確信したぞ。やっぱりお前の縮地は私達の知ってるのとは似てるようで全く別物だ。移動する軌跡(・・・・・・)が見えない(・・・・・)縮地なんてありえない。遠当ての時と似たようなものだろう」

 

 違うか、とモモは不敵に語る。

 そこは当たっている。

 己の縮地は一般的な高速移動では無い。

 あらゆる武術の中には必ず存在する縮地と言う技は形が色々とある。

 空間転移であったり、瞬間移動であったりと様々だ。

 しかし、概念として共通しているのは離れた距離を(・・・・・・)一瞬で縮める(・・・・・・)と言うモノ。

 ある武術の記録には10mもの間を一瞬で詰めた記されているように。

 だが現代に於いて一般的に広まっている縮地は言うならば高速移動だ。

 文字通り素早く動いたり、或いは一歩で大きな距離を歩いたり。

 己の縮地は広く言えば後者に近いが、原理は異なる。

 一歩における空間の長さを縮めて遠くにまで文字通り瞬間的に移動する―――言うならば体術による高速転移。

 現代のソレとの最大の違いは目標地点までに掛るタイムラグ、即ち消費する時間だ。

 タイムラグ無しで跳べるのがこの縮地の最大の特徴であり、如何なる距離であろうと同時に跳べば必ず先んじれるし、先みたく攻撃時の踏み込みの一歩を利用したり。

 己の場合は圏境の範囲である半径30Kmならば自由に跳ぶ事が出来るのだ。

 離島からここまで来るのに使ったのもこれ。

 ただ、現代と比べて利点ばかりではない。

 転移であるが故に移動の様にすれ違いざまに攻撃、という手段はとれないし魔術による空間転移の様に密室の様な場所ではその室内でしか跳べない。

 加えて圏境、高い空間把握能力が高くなければ満足には使いこなせないのだ。

 しかし、何と言うか―――

 

「種明かしはせぬし、よしんばそれが正しいとしても如何(いか)な原理かまでは分かっておらぬであろう」

 

「うっ……」

 

 それで良くもまあ自信気に言えたものである。

 

「まぁ、そちらの申すところの縮地とは異なるという点は合っておるが、な」

 

「だ、だろー! 私が睨んだ通りだ」

 

 慌てて誤魔化そうとする姿も中々に可愛らしい。

 

「呵々、可愛らしいな」

 

「っ!な、何だよ突然」

 

「そういうところが可愛らしいと思うて、な」

 

「~っ!」

 

 顔が真っ赤である。

 さて、ほどよく空気が弛緩出来た。

 

「―――仕切り直しだ」

 

「んっ、ンンっ……応!」

 

 互いに構えて再びぶつかり合う。

 

 

 

 

 

 勝負の結果。

 

「うぁー……また負けた」

 

「瞬間回復は脅威であるが、3回で氣が底をついては」

 

「ま、今のままじゃ実用性は低いわな。それでもよく戦ってた方だろ」

 

 最初の頃の秒殺に比べたらなー、と釈迦堂さん。

 何やら久しぶりという感覚だ。

 毎度毎度会っているはずなのだが。

 それはさておき、今回の勝敗の要因を端的に言うなら自滅したの一言に尽きる。

 余程燃費が悪いのか、はたまた制御が甘いのか―――恐らく両方と思う―――3回目の回復で立てなくなり、それまでの激闘が嘘みたいに呆気なく終了。

 妹のワン子に見守られて今は隅っこで休んでいるという状況だ。

 

「お姉様大丈夫?」

 

「あー、大丈夫には大丈夫だ。ちょっとダルいけどな」

 

「良かった……」

 

 暫く休んでいると、ル―師範代が号令を掛ける。

 鍛錬の時間の様だ。

 名残惜しそうにするもののワン子は鍛錬に参加しだす。

 

「釈迦堂さんはよろしいので?」

 

「アイツが居るんだから俺の出る幕はねぇだろ」

 

「人気あらぬな……釈迦堂さん。やはり人相もアレだからか」

 

「ほっとけ、余計なお世話だ。ったく、ホントにハラタツなお前」

 

「いやぁ……」

 

「どこに褒めてる要素があったよ? マジでいっぺん〆てー」

 

 呵呵大笑。

 こうして戯れ合ってくれるのだから、ホントに人が良い。

 何せワン子の修行の面倒をそれなりに見ておるのだから。

 人は見掛けに依らずの典型だと思う。

 

「仲良いですよね、2人とも」

 

 やめろ寒気がする、と語る釈迦堂氏。

 しかし己の隣から離れることはおろか距離を置こうともしない辺りがアレである。

 

「ルー師範代がこちら―――と言うか釈迦堂さんを睨んでおる」

 

「それこそほっとけ、ほっとけ」

 

「最近釈迦堂さんサボってばっかだからなー」

 

「そうなのか?」

 

「余計な事言ってんじゃねぇよモモ。前髪のペケをストレートにすんぞ」

 

「うわー、やめて下さいよ!」

 

 動けないなりに抵抗するモモ。

 彼女にとって前髪のクロスしているところはチャーミングポイントらしい。

 今みたくストレートにしようとすると激しく抵抗しだす。

 しばらく戯れを眺めていると、飽きたのか釈迦堂さんが離れて行った。

 そろそろルー師範代から飛び出す小言を避ける為とか。

 釈迦堂さんが見えなくなり、程なくしてルー師範代が此方に声を飛ばしてきた。

 中身は言わずもなが釈迦堂氏へ向けてのもの。

 既に消えているところをみて、ヤレヤレ全く、と頭を抱えて門下生の方へ向き直る。

 そのまま暫く修行風景を眺めていたのだった。

 

 

 

 

 時間もそれなりに経ち、そろそろお昼ごろ。

 それは起こった。

 

「なんでお前はそうなんダ! 釈迦堂!」

 

 響き渡る怒声はル―師範代のもの。

 更に向けているのは釈迦堂さんのようだ。

 それなりに物々しい気配。

 横にいるモモによくある事か、訪ねても否という返答が返ってくる。

 2人して向かってみた。

 野次馬根性丸出しである。

 

 ―――川神院、寺院内。

 

「あーあー、うるせぇな。いつも言ってるだろ、俺がやると門下生どものやる気が失せるんだよ。いやいや教わってるって顔してるやつを教えるほどお人好しじゃねぇぞ俺は」

 

「それはお前の態度や思想が問題だからだろウ! これを機に改めたらどうダ?」

 

「はっ、行儀の良いぬるいやり方で相手に勝てるってのか?」

 

「相手に勝つだけが武道ではなイ! 武道を通じて精神を鍛え、己を磨く事で人としての―――」

 

「そういうのがウゼェってんだ!」

 

 なんとも物々しい。

 他にも気付いた門下生が様子を見に来ている。

 それに気付いて鉄心殿が仲裁に入った。

 

「やめんかお主ら! 仮にも師範代たるモノが無様を晒すでない!」

 

 雷が落ちたとはこの事か。

 申し訳ありませン、とル―師範代。

 不機嫌そうにそっぽを向く釈迦堂さん。

 元々、この二人は武における価値観が違い過ぎる。

 軽い衝突はある意味日常茶飯事なのは知っていたが―――

 よもやここまでの軋轢があるとは思わなかった。

 そして、釈迦堂さんの思想は総代である鉄心殿から見ても褒められたものではないという事も。

 ―――危険視と言っても過言ではない。

 元々アウトロー側の人間であり、闘争心を日々燻らせている人物。

 偶に此方を見る眼が戦いを訴えているのも心得ていた。

 それ故にか、ここ川神院の中でも煙たがられている。

 そのまま説教に映る鉄心殿。

 

「やれやれ。釈迦堂、もうちょこっと考え方をなんとかせぬか? お主の理論はあまり乱暴が過ぎるぞい。壊す為だけに拳を鍛えた所で何になるんじゃ」

 

「は、はっはっは! こいつは傑作だぜ。拳は常に相手を壊すもんだろうが!」

 

「釈迦堂!」

 

「ルー、爺さん。俺はな……戦えればそれでいいんだよ!」

 

「釈迦堂、やはりお前は間違っていル!」

 

「だから聞き飽きたって言ってんだろう……」

 

「もうよい、此度はこれまでじゃ」

 

 その言葉に珍しく食い下がるルー師範代。

 しかし、鉄心殿は聞く耳持たずで場を半ば強制的に終止符を打つ。

 自分達と同じく周りに集まっていた者たちにも散る様に言う。

 周りも蜘蛛の子を散らす様に去っていく。

 自分達もまた同様に。

 この一件が端を発した訳ではないだろう。

 だが、その後然程時をおかず釈迦堂さんが決闘でルー師範代に負け、川神院から姿を消すこととなったのはまた別の話。

 

 

 

 

 境内に戻る道中モモは終止複雑そうな顔を作っていた。

 

「察するに、先程の師範代達のやり取りか?」

 

「……ノルンにはお見通しか」

 

 モモが比較的に分かりやすい部類である、などとは告げずにおくのが優しさか。

 

「拳を振るう理由……色々あるんだな」

 

「まぁ、そうだろうな」

 

 ノルンはどう思った、と問いかけてくる。

 

「私は釈迦堂さんと同じ意見だよ。拳はただ相手を壊す為にある―――これは武の真理だ。違う点はただ収め所と振るい所を心得ておるだけ……私は釈迦堂さんの生き方も好ましいが、な」

 

 釈迦堂さんもおれが分かれば今少し肩身が広いのにと思う。

 師の教えを遵守している己にとって、武に訴えた時点で正道など無いというのが持論だ。

 

「―――剣は抜くべからざるもの」

 

「ノルン?」

 

 不思議そうに首を傾げるモモを尻目に更に紡ぐ。

 

「抜いた時点で下策である。故に、抜くからには必勝の好機であり必殺を誓った時のみ―――躊躇い覚えるようなら、そも抜くべからず」

 

「……それって、ようは戦うのはだめだけど必要な時は躊躇するなってことか」

 

「うむ、分かり易く申せばな。私はこの教えを遵守して武を鍛え、武を振るうておる」

 

「ふーん……」

 

 こちらの言葉に神妙な顔のまま思考にふけっている。

 我が心眼には何を考えているか分かるぞ。

 

「我が師の教えを其方が遵守したからと言って、同じ様に強くなれるとは限らぬぞ?」

 

「うっ……」

 

 何故分かった、と顔に書いてある。

 分からいでか、と顔に出す。

 どちらとも無く笑ってしまった。

 

「まぁ、師の教えも、それを遵守する私も、ルー師範代も釈迦堂さんも鉄心殿もワン子だって―――みな武を鍛え、振るう理由は様々だ。でも、これだけは覚えておいて欲しい」

 

「なんだよ?」

 

「武を取る理由と、武を振るう理由は異なるということだ」

 

「同じもんだろう?」

 

「否。武を取る理由とは他者に依り、武を振るう理由は己の内より生ずるのだ」

 

「???」

 

 頭に疑問符を浮かべてモモは首を傾げる。

 何時か分かる時がモモにも来る、と告げた。

 

「そして、モモは己なりの――己だけの理由を見出すが良い」

 

「むー……なんか上から目線でムカツク。ナマイキだぞー歳下のくせに。そういうからにはノルンにはあるか?」

 

「無論、あるとも」

 

「じゃあ聞かせろよ」

 

 あくまで参考だぞ、と言う此方に肯くモモ。

 

「―――私は、昔から大切なモノを他者の手で理不尽に奪われる機会が多いのだ」

 

 だからこそ失いたくないと願い、奪われたくないと切望したのが突端。

 護りたいと願い、その為の力を望み、今日(こんにち)まで鍛え上げ、そしてこれからも鍛え続ける。

 師の教えを遵守して、例え矛盾を孕んでも―――例え見ず知らずの誰かに不幸を押し付けても、だ。

 

「私は私や私の大切なモノを脅かす全てを、ただ打ち砕くのみ。我は―――」

 

 ―――(あだ)を討つ(ちから)なり。

 

 モモの方を見てみると、何やら先の仕合の時以上に顔が赤い。

 熱でもあるのかと額に手を寄せるも、これと言って問題はなし。

 

「な、なにをすりゅ!」

 

 噛んだ。

 

「顔が赤いぞ?」

 

「熱いからな!」

 

 ズンズン、と足早に先を歩きだすモモをみて、それが照れ隠しであることを察した。

 

(しかし、何故(なにゆえ)照れておるのだろう?)

 

 額に障ったからか。

 しかし障る前から顔は赤かったように見えたが。

 

<<妙な所で鈍いな、ノルンは>>

 

<<何がだ雪花?>>

 

<<分からなければ構わないさ>>

 

 何やら疑問に対して伴侶から妙な念話を一方的に送られ一方的に切られてしまった。

 今回はサッパリである。

 気付けば大分モモから離されていたので慌てて後を追う。

 ブツブツと独り言を上げながら歩く今のモモの姿は些か危ない。

 

「…いつ…飄々と……くせ…なんで……」

 

「どうかしたのか?」

 

 なんでもない、と語気を荒げてワン子の元に行ってしまった。

 

 

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