気まぐれ神様の物語 真剣恋Ver.   作:ジーザスルージュ

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22話

 ―――5月末。

 

 武士道プランの発動の為の会議が星の図書館によって九鬼の幹部達の間で連日行われている中、件のプラン申し子達は一先ず何時も通りに過ごしている。

 過ごしているといってもそれは普段の生活態度であって状況とは異なるのだが。

 具体的に何が違うのかと言えば―――

 

「こうも缶詰め状態とは思わなかったっていう」

 

「不貞腐れてもしょうがないだろう弁慶。義経達の立場はとても重要なものなんだ」

 

「ビルは広いし色々設備があるから退屈するって訳じゃないんだけど、こうもここから一歩も出れないのはなんだかねー……ま、良いけど。グビグビ」

 

「いっつも基本、休みは部屋から出ない癖に――グェっ、あ、姐御……ギ、ギブ、キブ…」

 

「与一も懲りぬな」

 

 一言余計なのだ。

 口は災いのもとと言う言葉を今すぐ学習した方がためだと思う。

 しかし、ある意味弁慶の主張は尤も。

 行動に第三者から強制的に制限が設けられるというのは意外とストレスが溜まるもの。

 極端だが避難生活などがいい例である。

 飲食等に困らずとも環境の変化を強いられるのはかなりの負担だ。

 

 閑話休題

 

「でも弁慶ちゃんの言う事も分かるよ。何と言うか、息が詰まっちゃうよね」

 

「ふむ、確かに一理あるな……」

 

 現在申し子達の行動は極東本部内に限定されており、おいそれと外に出られなくなっている。

 先週にも休日時の外出届を提出してみたが却下されたばかり。

 

 ―――はて、どうしたものか。

 

 考え巡らせてみても結局行きつくのは―――

 

「こういう気分の時は、パーッと飲むに限る! という訳でノルン――」

 

「宴の支度、か?」

 

「うんうん♪」

 

 素早く頭を巡らせて状況1つ1つ吟味する。

 

 マープルからの許可―――禁則事項に抵触しないならある程度自由。

 

 家族への通達―――特に用事も無く、定例の食事会もないので恐らく可能。

 

 食材の調達―――今から行えば余裕。

 

 川神水の調達―――食材と同じ。ストックもあり。

 

 残り懸念事項は―――

 

「場所は何処(いずこ)で? 前みたく私の部屋か?」

 

「ん~……気分を変えて外、かな?」

 

「うん、良いと思うよ。私は賛成」

 

「そ、そうだな……偶には悪くないと思うぜ」

 

 弁慶に〆られて沈んでたが復活したようだ。

 盛り上がるなか、義経が心配そうに窺っている。

 

「義経も賛成なのだが、いいのだろうか?」

 

「その辺りは私が話を付けておこう。案ずるな」

 

「お、カッコEー!」

 

「茶化すでないわ弁慶」

 

 取りあえず、取り急ぎ場所の選定とそこの許可が必要だ。

 場所としては気温や夜景も鑑みれば極東本部ビルの訓練施設のある方の屋上が最適だろうか。

 ビルの高さは敷地内では一番低いが、今日の気温的には丁度いいはず。

 念を押して最中は圏境を全開していれば大抵の事は対処もできる。

 予想される事態として十中八九家族―――兄妹3人のみ―――が参加すると思う、と告げるも構わない、と言ってくれた。

 

 あらまし方針も固まったので関係各所に伝達と報告へ行くとしよう。

 

 まずは―――厨房の一部の確保から。

 

 

 

 

 

 

 厨房の確保は驚くほどスムーズに事は終えた。

 驚くと言えばマープルも差して反対しなかった事か

 

 ―――マープルの場合。

 

「外でバーベキューですか? 場所は―――成程、良いでしょう。周辺の警備に関しては―――」

 

 会議の合間を見計らって軽く諸々の事情を説明と打ち合わせ。

 内容的には基本的にこちら圏境による探知を基礎として何かあった際に随時その都度対処。

 一見後手に回っているように見えるが、産業スパイと一口に言うのにも種類があり、ITであったり貿易であったり軍需であったりと様々。

 なので、其処まで外から内への視線にそこまで神経質になる必要はないという結論に到り、もしもの対処を責任もって私が従者部隊と連携して行う事で話を付けた。

 

 

 話がスムーズに終えた為現在町へ食材を調達しに向かっている。

 言えば九鬼が揃えるのだろうが、こういうのは極力自分でというのが己の流儀。

 というか、癖みたいなものか。

 紛争地帯や戦場では現地調達が常。

 そのため食材等は弟と分担して町に潜り込んで調達―――なんてザラだった。

 

 閑話休題。

 

 川神の台所金龍街。

 様々な店が連なる並ぶこの商店街は昔から色々掘り出し物が多い。

 見る眼があれば、だが―――

 加えて、自分で作るモノは自分で調達する習慣の為幼いころからちょくちょく来ている。

 何が言いたいかと言えば―――

 

「おや、ノルンちゃん学校は休み? え、仕事の都合で休学中? そうなのかい……あ、今日はね良い野菜が入っているんだよ」

 

「おう、らっしゃい坊主! 今日のはあんまし芳しくないねぇ。お、それ行くかい? あいよ。たく、相変わらず良い眼してらぁ」

 

「キヒヒ……いらっしゃいノルン君。今日は鳥かい? それとも豚? さぁどれでも言っておくれ。直ぐに刻んであげるからキヒヒ……キーーキキキキキキ……!」

 

 青果、鮮魚、鮮肉と食べ物関係中心にかなり顔が効くと言う事。

 こんな容姿も相俟って覚えが非常に良い。

 一部かなり癖のある人物が到りもするが腕は一流である。

 

 ちなみに、今回は大量に買い占めて蔵へ放りこんでいたりする。

 

(みなさん良い顔を為される)

 

 鮮肉の所なんか殆ど動物の奇声であったと記しておく。

 暫く練り歩いてもこれ以上掘り出し物が無い様なので戻るか、と1人ごちて歩みを極東本部へ向けると、視界の端に見覚えの無い店が出ている。

 店と、辛うじて表せるのはお店の小さい看板のため。

 興味本位でフラリ、と足を向けてみれば益々店らしからぬ雰囲気を漂わせる。

 黒いガラス張りで薄らとオレンジライトが見え、木の扉の前にOPENの札と『狐狗狸』という名の看板が白色ライトで点灯している以外はとてもではないが空いている様には見えない。

 

 ―――いや、厳密には空いている様に見せていないと言うべきか。

 

(人払いの呪がはっておる)

 

 それもかなり高度で高名なモノ。

 ものは試しと店内へ入った。

 中には外から見えない様にしてあるのか数多くの酒瓶が置かれていた。

 一目見て並べられた酒類が一級の品である事が分かる。

 どうやら己しては珍しく"当たり"を引いたようだ。

 店の広さは外から見るよりは広いが、一般的に考えても狭い部類。

 奥行きがある一本道で壁にはズラリと銘酒の数々。

 名前を知らなくてもこういうものに眼が無いものなら垂涎な一品ばかり。

 視線をふと、奥へ向けてみると1人の男がいた。

 乱雑なボサボサの黒髪、ツリ目気味の凛とした雰囲気があり作務衣に大きい犬の一文字が入ったエプロン。

 髪型や格好を除けばかなり美形の部類である。

 

 こんにちは―――

 

 そう挨拶すると店主らしき人物は二コリと笑い、無言で会釈。

 

「なかなかどうして、良き品の数々。こんな穴場があるとは存じませなんだ」

 

「なに、商売では無く道楽でやっているからね。本当に欲した者(・・・・・・・)、もしくは店の仕掛け(・・・)に気付けるものにしか売ってないから知らなくても当然さ」

 

 それに最近始めたばかりだ、と男は続けた。

 

(やはり人払いは故意のものか……道理ではあるが)

 

 この店主からしてみれば、確かに衆目には遠慮したいだろう。

 まぁ、そんな事情はどうだってよい、と頭の片隅に置く。

 川神水でなんぞ良い品はありますか―――

 

 尋ねられた店主は此方を見て、数瞬考え込むとスゥっと奥へ消えていく。

 少し待っているとやがて1つの一升瓶を持ってきた。

 

「これはまた、なかなかどうして―――」

 

「ほう、見るだけでこれの良さに気付くとはなかなか良い眼を持っているね」

 

「有難うございます」

 

 お幾らで、と尋ねると結構だ、と店主は言ってきた。

 

「これだけの一品、ただで頂く訳には参りませぬ」

 

「構わないさ。これは記念だよ、この店のお客第1号だからな」

 

 少し申し訳なさが後ろ髪引いたがそういうことならば折角の申し出、有難く頂いた。

 受け取った一升瓶を蔵に入れて店主にまた来ます、と告げる。

 これだけの名店、また来ないという選択肢は無い。

 

「是非に来てくれ。君とは良い話ができそうだ。今度は君の側にいる者達(・・・・・・・・)も紹介してくれよ?」

 

「―――承知ました店主殿。あぁ、名を聞いておきたい。私の名はノルン。貴方は?」

 

「さぁ、て……なんと名乗ったものかな? んーそうだね―――」

 

 店主はエプロンを見てフッ、と笑うと―――

 

 ―――(こま)と呼んで欲しい―――

 

 ―――心得ました―――

 

 そして不思議な酒屋を後にする。

 

 

 

<<いやはや、よもや気付かれるとは思わなかった>>

 

<<同感だ雪花。それに、いまのご時世アレだけの力を持った妖怪が生きておるとは>>

 

 念話で伴侶達と話し合うのは先程狛と名乗った店主の事。

 あれは人ではない。

 世に言う妖怪である。

 正体は、恐らくであるが神格を得た狼。

 オオカミ信仰は未だに残るこの国の信仰の1つであり、かつて栄え、今は落ちぶれてここに流れ着いたのだろう。

  あれだけの力、最盛期ならば恐らくこの身の知る限りでも上位の霊格を保有しているとみた。

 

<<然れど今はただの酒好きの道楽店主、と申した所か>>

 

<<アシはまた行きたいねぇ。あそこの酒は鬼のアタシでも美味そうに見えた>>

 

<<我もです兄さま。今度は紹介をとの事ですし>>

 

 そうだな、と笑う。

 酒の飲めない雪花だけは苦笑していた。

 

<<みな、ハメを外しすぎぬ様に。放っておくとすぐ乱痴気騒ぎだ。主に酔花が>>

 

<<ヒドイ言い草だよ。事実だけどさ>>

 

<<珠百合は真面目ですね。ディズィーは結構気に入りましたよ? お店は手狭ですが綺麗にされておりましたし>>

 

 その後は極東本部に戻るまで伴侶達と他愛ない会話に興じるのだった。

 

 

 

 

 

 極東本部に帰ってきてからはツマミの準備、1品料理や下拵えとBBQの準備と続けていく内に気付けば夜に。

 予想通り姉上達3人も参加し、念の為の護衛としてクラウ、ヒューム、姉上と兄上の直属の従者であるあずみ、小十郎の4人も加わってかなりの人数とかしていた。

 義経達もある程度予想していたのか快く参加を承諾。

 

 あれよあれよと時は過ぎ星空の宴会は始った。

 

「うむ! 相変わらずノルンの料理は美味い!」

 

「有難うございます姉上」

 

「食材が決して高級という訳じゃないのに此処まで出来るのは凄まじい事だ。もっと誇ってよいのだぞノルン」

 

「充分に誇っておるよ紋」

 

「フハハハ! 我が弟は奥ゆかしいな」

 

 語り合いながらも料理の手は休めない。

 こればっかりは誰にも委ねる気は毛頭ないのだ。

 次々に串を管理し、片手間にツマミを作り上げていく。

 といってもそんなに品目があるのではなく言わばお代り分を作っているところ。

 

 発案者の弁慶達も姉上達の横で楽しんでいる様で。

 此方の視線に気付いた清楚と義経が手を振ってくれる。

 片手を上げて応じつつ、串を返す。

 

 従者部隊の面々も思い思い楽しんでくれている様だ。

 老人組は脇の方で酒を傾けつつ料理に舌鼓を打っている。

 昔話にでも花が咲いているのか、柔らかい雰囲気を醸し出していると言う珍しい光景が目に映る。

 ちなみに、残りの2人は普段と同じ様なモノ。

 

「ねぇ、ノルン君って英雄君や揚羽さんみたいに特定の誰かって付けないの?」

 

 上の兄妹やヒューム達を側に置く家族達を見て疑問に思ったのか訪ねてきた清楚に自分から父に進言して付けない様頼んだ事を話す。

 へぇー、と一緒に側に来ていた源氏組もいっしょに声を上げた。

 

「九鬼って立場なのに意外と脇が甘いんだなノルンは」

 

「脇が甘いと言うか、ここに来た当初に其処な零番と引き分けたからな」

 

 4人から驚かれる。

 ヒュームの力と威圧感が半端ないのは知っているからその為だろう。

 件の不良執事から凄まじい視線がピンポイントで浴びせられるが敢えて無視。

 色々なその様に呵々、と笑いを零しながら出来あがった串を渡していく。

 弁慶にはツマミであるタコのカルパッチョも。

 

「ウマー、ウマー……グビグビ」

 

「弁慶、飛ばし過ぎだ」

 

「だいじょーぶですよ主。まだ記憶はハッキリしてます」

 

「そういう問題ではないと義経は思う」

 

「ハッハッハ! 良いではないか義経」

 

 心配そうな義経に姉上は豪快に笑い飛ばす。

 今日のところは姉上に賛成だ。

 

「弁慶もなんだかんだで鬱憤がたまっておった様だし、今日くらいは、な」

 

「ノルンの言うとおりだ義経。元々この宴はその鬱憤を晴らす為のモノであろう? ならば今夜くらいは無礼講だ。お前も楽しめ」

 

「は、はぁ……」

 

 姉上に豪快さに若干圧倒されつつも楽しむことに決めたのか義経はそれ以上何もいわず、しょうがない、と言わんばかりに被りを振って川神水を飲み出した。

 清楚も含めて全員飲んでいるのでその方が義経も楽しめるだろう。

 

「あれ、無くなっちゃった。ノルン君、川神水のお代りある?」

 

「ベン・ケーは川神水を所望するー」

 

 川神水が切れたらしくお代りを要求する清楚と弁慶。

 

 此処が出し時か―――

 

 そう思い、あるぞ、と言って蔵から今日買った狐狗狸から買った川神水の一升瓶を取り出す。

 ある意味今日の目玉である。

 

「今日、街での買いだしで掘り出し物を見つけてな」

 

「それがその川神水か?」

 

「ハイ、兄上」

 

 封を切って栓を開けた。

 ほう、と清楚と弁慶は声を上げる。

 大吟醸のそれに近い芳醇な香りが遠くからでも香った様で興味心身に一升瓶を見つめる2人。

 空になった清楚と弁慶に中身を注ぐ。

 匂いを堪能しつつ盃を傾けていく。

 

「お、美味しいねーこれ」

 

「こ、これは……今まで感じたことのない程の芳醇な香りに上品な口当たり…今までも何度か大吟醸川神水は飲んだがこれは凄い一品だぞ!? これをどこで手に入れた!?」

 

「秘密である―――と言っても納得はせぬだろうから店自体は金龍街を練り歩いてみらば見つかるやもしれぬ、と申しておこう」

 

 ぬぅ、と何故か苦やし気な弁慶さん。

 どれだけなのだ。

 弁慶達の様子に興味をもった他の面々―――ヒュームやクラウディオも含めて―――件の川神水を味わったところ、全員から絶賛される。

 あっという間にその川神水は無くなっていき、その味をしめた弁慶からの猛追を躱すのに苦労するのは別の話。

 

 

 調理もひと段落ついたところ―――と言っても全部終わった訳ではない―――で自分の分をゆるりと食べる。

 宴もたけなわと言うべきか。

 処々盛り上がっており、みんな楽しそうだ。

 宴を開いてよかったと思わせてくれる。

 

 そんな中、ふと兄妹達の会話が耳に入った。

 

「明後日、あの川神百代と戦うそうですね姉上」

 

「うむ。これまで何度か拳を交えてきたが我も本格的に社会に出る以上、実質これが最後の公式な戦いとなろう」

 

 どうやらモモと姉上が戦うらしい。

 同じ武道四天王同士の戦いというのはその実目にした事が無いので興味はあった。

 話交じろうと近付く。

 

「なんでも先代の武神の名を受け継いだとか、しかし姉上なら必ずや勝てましょう」

 

 キラキラと姉を尊敬する紋は純粋な瞳で姉上を見つめる。

 その眼差しが心地よいのか、紋のそんな態度が可愛かったのか、はたまた両方か。

 姉上は紋の頭を優しく撫で、紋は気持ち良さ気に目を瞑る。

 しかし、そんな光景とは裏腹に此方の心情は浮かない。

 何故ならば―――

 

(姉上では今のモモに勝つのは難しいだろうな)

 

 アレの強さは己が良く知っている。

 軽く姉上を見てみても、心眼はその予測を肯定した。

 

 ―――良くて勝率3割。

 

 それが心眼の示した答え。

 或いは、ひょっとしたら、モモと私が出会う事無く、切磋琢磨し合わずいれば五分五分だったのかもしれない。

 しかし、物事にIFはあり得はしない。

 現状での姉上の勝率は限りなく低いというのが変らぬ事実。

 

(然りとて、その3割の勝利を姉上はもぎ取るやもしれぬしな)

 

 結果は出てみらねば分からないもの。

 などと思いながらも同時に、姉上の勝利する姿が己には浮かばなかった。

 

 

 

 そして後日、義経達の護衛で極東本部で結果待ちだった私達に―――姉上が圧倒される形で敗北した事が告げられたのだった。

 

 




言うまでもなく、狛さんはオリキャラですので悪しからず。
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