24話
季節は春。
4月も末の咲いていた桜が葉桜に変わりきった頃。
漸く己は高校に通う事となった。
場所は川神学院。言わずと知れた有名所であり、その原因はかの武神が開いた学校だからだ。
此処に通う理由は主に2つ。1つは兄上が通っているから。もう1つは単純な話、友達が通っているからだ。
多馬大橋を通り、これから学び舎へ向かう所。
5月の気配を感じさせる心地よい風が身体を打つ。
なんて季節を楽しんでいると―――
「な、なぁお譲ちゃん。えっちぃことしようや…ハァ、ハァ……」
目の前には中年の変態。
折角の気分が台無しも良い所である。
「失礼、私は男ですが……それでも良いのですか?」
「は? う、ウソやろ?」
まぁ、疑うのは当然か。しかし制服を見て分かって欲しい物だ。
中年男性の手を掴み、己の胸に押し当てると、すごすご立ち去っていった。
溜息をついて。
それは此方の方である。
こうした変態が多数出没する為、ここは別名変態の橋と呼ばれているのだこの橋は。
ふと耳に人々の歓声を捉えた。
声につられ其処を見てみると視線の先には不良達とモモの姿。
凄まじい程に既視感を感じる―――というか、十中八九
―――ヤレヤレだ。
横目でそんな光景を目にしつつ学園への道を進めた。
―――川神学園、学園長室。
目の前にはイスに座って好々爺な雰囲気を醸し出すかつての武神、川神鉄心その人。
会釈をし、挨拶を交わす。
「お久方ぶりです鉄心殿」
「実に1年ぶりじゃのう。ふむ、その様子だと怠けていなかったようじゃな」
感心感心と笑みを深める鉄心殿。
己もまた無論です、と返す。
「モモ達とはもう会ったのかの?」
「まだです。折角故、気付くまで黙っておろうかと」
「お主、Sじゃのう。S組だけに」
それは意味が違う。そして別段上手くもない。
白けた空気に耐えられなかったのか、咳払い1つで場を持ち直さんとする鉄心殿。
そんな気まずい空気を断ち切るかのように扉がノックされた。
入りなさい、と鉄心殿。
失礼します、と扉を叩いた人間が入ってくる。
見た目は気だるげな中年の男性。
髪は乱雑でボサボサ。髭もかなり伸びているが、気持ち程度しか整えられていないのか少し不衛生な印象を受けた。
「おぉ、来たか宇佐美先生。彼が今度Sに転入する生徒じゃ」
「彼がですか。分かりました。もうお話が内容でしたらそろそろ教室の方に行っても?」
「構わぬよ。ではなノルン。しっかり励みなさい」
「はい、鉄心殿」
失礼しました、と声を揃えて学園長室を後にする。
「俺は宇佐美巨人。これからお前さんの入る2-Sの担任だ」
「ご存じでしょうが、改めて九鬼ノルンです。これからお世話になります宇佐美先生」
自己紹介を交わし、軽い段取りの打ち合わせ。
転入生の紹介とはどこも同じなのか、廊下での待機と呼ばれたら入ってくるように言われた。
今はHRの時間帯。しかし、何やら一部のクラスから賑やかな声が聞こえてくる。
場所を眼と耳で探し、教室の表札を見ると其処には2-Fの文字。
(キャップ達のクラスか)
そんな視線に気付いたのか、宇佐美先生は気にしない方が良いぞ、と言ってきた。
「あっちは何時もあんな感じだからな。癖のある奴が多いんだ」
うちのクラスも大概だけどな、と続ける。
「お気になさらず。賑やかなのは元気な証拠でしょう」
「―――なんというか、変ってんなお前」
そんな宇佐美先生の発言におもわず呵々、と笑ってしまう。
「んじゃ、俺は先に行くぜ。呼ばれたら入ってくるように」
「承知」
教室に入っていく教師の背を見送り、廊下で待機する。
中からは転校生、即ち自分に対する話題が上がっているらしい。
それをBGMに暫く待っていると入れ、と呼ばれてそれに従う。
教室は少々剣呑な空気だった。しかし無理もない。
―――Sクラス。
それは成績優秀者上位50位にまで入った者だけが入れると言う特進クラス。
ここにいる物は文、或いは武に秀でた謂わばエリートの集まる所―――それがSクラスである。
そんな教室内は少しピリピリしていた。原因は謂わずもなが件の転校生である自分。
成績上位者でなければ入れないこのクラスは他と比べると新参者に対して敏感なのだろう。
宇佐美先生が挨拶を促す。
「九鬼家が次男。名をノルンと申す。見知り置きを。そしてこれからよろしくお願いする」
クラスの反応は様々だった。
好奇の視線を向ける者、嘲るような視線を向ける者。
しかし、そんなものは此処では当たり前と判断する。
九鬼として舐められない様に嘲りを向けた者には漏れなく氣による威圧を進呈。
何名かの男女がビクつきだした。
「んじゃ、ノルンの席は―――」
「ハイハーイ! 僕の隣が空いてるよヒゲー」
手を上げたのは小雪だった。
Sクラスに在籍したのは知っていたので差しては驚く事は無い。
そんじゃ、アソコな、と宇佐美先生が窓辺の席を指す。
指示に従い着席して横にいる小雪の方を向く。
「宜しくな、ユキ」
「うんっ。ヨロシクねノルン」
やがてHRも終わり、次の授業の為の僅かな時間が出来る。
席を立ち、兄上の元へ。
「改めて、今日からよろしくお願いします兄上」
「うむうむ! 困ったことや分からない事があったら遠慮なく我に頼るのだぞ」
「有難うございます兄上」
「どんな時でも家族の思いやり忘れない、流石です英雄さま!」
ところで、学校にメイドがいると言うのはかなりシュールな光景ではないだろうか。
このクラス、着物姿の女子もいるようだがやはりメイド姿というのはなんだなと思わなくもない。
なんて考えていると、此方へ冬馬と準が小雪を伴って近付いてきた。
「まさかノルン君と一緒のクラスになれるとは。これは運命でしょうか」
「若、誰彼と口説くのは止しなさい」
「そうだよ、いくらトーマでもノルンはあげないぞ」
「私は小雪のモノと言う訳でもあらぬがな」
ブーと文句を言いながら背中にのしかかってくる小雪さん。
まぁ、どこぞの相棒さんよりは可愛げがあるのでされるがままでいる事にする。
あいつの場合初手の突撃が殺人的なのだ。
閑話休題。
其処に更に1人の女子が近付いてきた。
派手な着物姿で如何にも上流階級ですといった空気を醸し出している。
「転入生が九鬼英雄の弟と言うのにも驚いたが、葵君達とも知り合いとはのぅ」
「そちらは?」
「高貴な
タイミング悪くチャイムが鳴りだす。
まだ話していたかったが生憎5分程度の間である。
続きは昼食時にでもするとしよう。
「にょわ!? ちょ、ひょっとして
―――昼休み。
あれから昼食は兄上と共にクラスで取り、不死川心に改めて挨拶も交わした。
その時の彼女は何やら終始不満げだったが何かあったのだろうか。
何一つ特出すべき点もないごく普通の挨拶だったと思ったが。
昼食も終えて、兄上は会議で早退し、それを見送った後、冬馬達に学校内を案内されている最中だ。
各教室や部活動の説明、そして此処川神学園の特徴的な所も教えて貰った。
1つ目はテスト。普通の高校でやるような中間テストは無く、期末のみ。
但し抜き打ちで実力テストなどがあるらしい。
2つ目はこれが一番の特質事項である"決闘制度"。
予め渡された川神学園のワッペンを投げつける事で相手に決闘を申し込む事ができ、相手もワッペンを投げられたワッペンに投げれば決闘は成立。
勝負の内用は様々であり、これと言って制限はないそうだ。
武術も無論あり。ただし、決闘制度には必ず見届け人である教師の立ち会いが必要不可欠だとか。
「これで一通りの説明は終わりですね」
「忝い冬馬。とても分かりやすい説明ありがとう」
「いえいえ、私も学園の中とは言えデートが出来て嬉しかったですから」
すると、首元から徐々に苦しくなってきた。
こう言えば怪談じみているが何と言う事は無い。おぶさっている小雪が首を絞めてきただけのこと。
「ユキ、ギブギブ」
「ブー……僕も混ぜてよー」
「こらこら、やめなさいユキ。ノルンだって別に故意に無視した訳じゃないんだから」
「頭が不毛地帯のロリコンは黙ってなよー」
「ちょ、ユキさんなんか俺だけ扱い酷くないですか!?」
というか、ロリコンだったのか準。
しかし、恋愛は人の自由というのが自論なので、犯罪さえ犯さなければ良いだろう。
漫才なやり取りを笑って見ていると、心眼が警鐘を鳴らす。
―――またか。
そんな感想を浮かべながら蔵から模擬刀を出し、徐に前に突き出す。
しかし、必ず躱すだろう。だからこそ、これは布石。
「うおーっと!? あ、あぶな―――へブゥ!?」
高速で迫ってきた何かに空いた右手で蔵から出したエモノを持って
スパーンという小気味良い音が何とも言えない。
流石はハリセン、ギャグの神的存在。
顔を打たれて蹲っているモモ。
このハリセン、角度如何で意外と痛かったりする。地味に、だが。
「な、なにすんだよー。折角の美少女の抱擁をあしらうとか、Sかお前は」
「抱擁、と申したか? あの速度で? 頭は大丈夫か
突貫の間違いだろう。しかも致死レベルでの。
むー、と唸りながらモモは立ち上がる。
そしてモモはこちらの腕を自分の方へ抱く。所謂腕組み状態だ。
何やら周りのザワつきが大きくなった。
「久しぶりの再会だってのに。つれないぞ、ノルン」
「それについては謝ろう。すまんだ。しかしあの速度で参られても、な」
受け止めろと言うのは無茶ぶりでも何でもない。
置き去りにされた冬馬達もそこで復活する。
その顔からして驚愕しているようだ。
「ノルンって、本当にモモ先輩の友達だったんだな」
「準は僕の言う事信じてなかったの? ヒドイぞー」
そういう訳じゃないぞ、と言い訳している準。
何やらこの学校に取って川神百代という存在は特別の様だ。
こうして腕を組まれてる間、そこいらじゅうから嫉妬の視線を感じる。
しかし、主に女子からとはどういうことだ。
「なぁなぁ、こうして学校に通えるって事はもう遊べるんだろう? 秘密基地に来いよノルン。今日は金曜日だし、紹介しておきたい奴もいるしな」
「む、あぁ、例のドイツ人と剣聖黛11段の娘の事か。聞き及んでおるが……」
「今日、秘密基地に案内しようと思ってな。都合が悪いか?」
悪いか悪くないかと言えば微妙な所だ。
武士道プラン発動まであと少し。詰めの部分まで間違ってもしょうがないが、かと言って火急的に速やかに下校しなければならないという訳でもない。
「―――放課後、5時までなら良いぞ。私にその2人を紹介して欲しい」
「よし、そうこなくっちゃな! ユキも来るだろう?」
モモは背中にいる小雪に声を掛けるが、対する小雪は首を振る。
今日は冬馬達と用事があるらしい。
ならば仕様がないと言う事でモモも納得した。
「じゃ、話がついたところでノルンは貰って行くから。ついでにユキも」
「ちょ、待たれよモモ―――」
その後、昼休み一杯まで振り回されたのは語るに及ばず。
―――放課後、秘密基地。
「ウッ……ッ…ヒック…うううぅぅ…」
「よしよし……」
「……」
「……」
風間ファミリーのメンバーが集まる何時もの場所は何時もとは異なっていた。
というのも、そこいる金髪のドイツ人女子、クリスティアーネ・フリードリヒが言ってはならない事を言ってしまったのが原因だ。
そのせいで京は激昂、モモや大和に抑えられ今は大和の腕の中で泣いている。
モロも顔に出てはいないが気配からして激怒しているのは明白。
ガクト、ワン子は静観状態。
そしてもう一人、先程紹介された後輩、黛由紀江は事態に追いつけずアタフタするばかり。
キャップはバイトで不在。
己も彼女の在り方に思うところがない訳ではない。
(ヤレヤレ、
そもそも最初は真っ当な挨拶を交せていた筈だ。
「自分はクリスティアーネ・フリードリヒ。クリスと呼んで欲しい」
「じ、じ、自分は黛由紀江と申します! こっちは九十九神の松風です。松風、ご挨拶を」
「HEY BOYE、ヨロシクな! オイラ松風ってんだ」
「私は九鬼ノルン。2人の事はみなから窺っておるよ。ノルンと呼んで欲しい」
挨拶も終え、順当に2人に秘密基地を案内して、後は時間まで和気藹々、のほほんと過ごす。
その筈だった。
しかし、クリスのある一言が事態を急変させた。
この秘密基地にどんな意味があるのか―――
此処で遊ぶ事は健全ではない、壊してしまうべきだ―――
まず最初に激怒したのは京。彼女にとってこの場所は仲間との絆を繋ぐ大切な場所。
それを否定されて黙ってはいられなかった。
殴りかかるのを済んでのところで大和とモモが止め、今の状況ができ上がる。
しかし、目の前のお譲さまは納得いかない様で不思議がっている。
自分は正しい事を言った筈だ、と。
これが再び火を高ぶらせた。
それを察知したのか、大和が口火を切る。
「いい加減にしとけクリス、ここではお前が悪だ」
「自分が悪だと!? 誰もがみんな自分と同じ事を思う筈だ!」
その発言には思わず笑ってしまった。
「何が可笑しい!?」
「誰もが同じ事を思う? 既に、ここにおる全員が
「っ! それは……」
「あのなぁクリ。私達は誰が何と言おうと此処で集まって遊ぶぞ」
モモがそういうもやはり煮え切らないようだ。
そんな彼女の様子に大和は言う―――義も行き過ぎれば和を乱す、と。
クリスは言う―――せこせこ裏で卑怯な奴に言われたくは無い、と。
「ああ。俺はずるいし、せこいし、卑怯だぜ。最高の褒め言葉だな」
「!」
その時、アタフタしていた後輩が声を上げた。
「あの、私ごときが恐縮なんですが―――」
「止まれ、黛」
勇気を以って言葉を上げたのは素晴らしいが、彼女は前提が間違っている。
これは会って最初から思っていた事なのでこの際言わせて貰う。
「
「そ、そうです! 私は友達が欲しくて……あ、あの、それが何か?」
「ならば、
再び萎縮してしまう由紀江。
ガクトも同じ気持ちだったのだろう。顔を色を窺い過ぎだ、と言う。
告げられた言葉に由紀江の顔色もかなり悪くなっていく。
何を言いたいのかが分からないと、そんな様子を見て語るクリス。
しかし、大和は仲間の話だバカ、と返した。
「1つ聞きたいんだが、お前に大切なモノはあるか?」
「む……やはり家族から貰ったぬいぐるみだな」
「はぁ!? 子供じゃあるまいし、そんな役に立たないやつは捨てちまえよ」
「なんだと貴様!!」
「お前の真似だぞクリス」
そう言われてクリスは困惑する。
言われてる事が理解できないらしい。
「お前の言うぬいぐるみが、俺たちにとってこの場所なんだ」
はっ、としてこちらを見渡すクリス。
どうやらやっと自分の失言に気付いた様だ。
彼女は直ぐ様非礼を詫びた。そして、横にいた後輩も同じく。
仲間に入れて欲しい、とその一心で頭を下げている2人をみて、この辺りで良いのでは、と周りを見渡してみる。
京以外は概ね同じ意見の様だ。なので、それを切りだす―――
「オイーッス、風間寿司でーす! お前達、今日のネタは豪勢だぞ! さぁ食いねぇ食いねぇ」
キャップの登場で、全員違う意味で黙ってしまった。
なんというか、相変わらず間の良い人間だとつくづく思う。
「なんだ、謝ったんならもう解決してんじゃん。ま、一回ぐらいはこういう事もしようがねーよな」
「流石キャップ。寛大な処置じゃないか」
「アタシ、難しい話だったから空気を読んで黙ってたわ」
「偉いぞワン子。ある意味クリを超えたな」
「わーい、褒められたわ!」
「自分が犬以下……」
「く、クリスさんお気を確かに」
「クリ吉のあの空気読めない発言にはオイラもビックリだったけどな」
「まぁ、これも1つの経験、ってことなんじゃないの?」
「お、大人な発言だなモロ」
先程の空気が嘘のように全員和気藹々とキャップの持ち帰った余り物の寿司を食む。
ワン子辺りは空気を読んで黙ってたらしい。疲れたー、とは本人の談。
京も最初は不機嫌だったが、大和に寿司をあーんで食べさせてもらってすっかり御機嫌も回復している様子。
「雨降って地固まるだな。ともあれ、一部まだまだ衝突が絶えそうにないが」
大和とクリスの方を向くと、お互い微妙な顔をしている。
モモも同感だと肯定してきた。
「ま、こればっかりはまだまだ時間が掛るだろうさ」
「呵々、是非も無し。しかし、それではそれで些かつまらぬな」
「つまらないって、オイオイ」
咎めるようなモモの視線に案ずるな、と返す。
「事を荒だてる心算はあらぬよ。ただ、クリスに1つ、宿題を渡そうかと思うてな」
「宿題?」
「自分がどうかしたか?」
会話が聞こえたらしく、クリスが話題に入ってきた。
「クリスは先に言ったな。自分は正しい事をしていると」
「あ、ノルンそれは―――」
「あぁ、誤解せぬよう。蒸し返す訳ではない。ただ、
頭にハテナを浮かべているのが分かる位に困惑の表情。
「正しさは、正しさだろう? 誰の為なんて、正義にそんなのはない」
「成程。ならば
「なっ……」
こちらの言葉に愕然としているクリスを置き去りにして言葉を続ける。
「そうならぬ様に1つ、クリスに宿題を出す事にした」
「宿題?」
「なに、簡単な例え話を1つする。その話を聞いた後に自分なりの答えを聞かせて欲しい」
無論、今すぐ答えを言っても構わないと言う。
クリスも承諾した。ふと気が付けば周りまでこちらに耳を傾けている。
「ある貧しい国の貧しい町で、1つの銀行強盗が起きた。犯人は女性だ」
「む、盗人とは許せしておけんな!」
「俺はその女性の方が気になるよな。なぁ、その人って美人?」
「ガクト、例え話だってば」
「しかし、その女性が銀行強盗をした動機は子供が掛った難病を直す為だった」
茶化される中、言葉を更に紡ぐ。
「クリス。其処で其方《そなた》はその女性が犯行を行った直後に出くわしてしまう。女性は言う、この金さえあれば子供を助ける目処が立つから見逃してくれ、と。子供は難病で、余命幾ばくもない。しかし、この金さえあれば望みはまだ繋げる、と」
「……」
「さて、クリスはどうする?」
「自分は……自分ならばやはり止める。どんな理由があったとしても盗みは良くない!」
それは先程の言い合いと比べてかなりの迷いがあった。
にも関わらず、彼女は言いきってみせた。
だが、恐らく彼女はその結果までは予想していない。
「ならば、女性に申すのだな? みんなの為に貴方と貴方の子供に死んでくれ、と。自分や他の人間には関係ないから、と」
「!!! ち、ちが―――」
違わない、クリスの言葉を遮ってそう言い放つ。
クリスは尚も考える。例えば父親に頼れば良い。そうすれば助けられる、と。
それも確かに1つの手で、1つの可能性だろう。
しかしそれは―――
「あれだけ"自分"の正しさを主張しておきながら、いざとなれば
「! う、うううぅぅ……」
「……随分、意地の悪い例え話だなノルン」
大和のそんな発言に苦笑い。
確かに意地の悪い話である。前提条件を特に指定していない以上、幾らでもIFは作れるし、そのIFを駄目だしも同じくらいに作れるのだから。
だが、ハッキリ言える事だけは1つ言える。
「クリス。正しい事を通すのは悪くない。然れど、その通した"正しさ"が如何なる結果を招き、その結果が相手や自分、或いは自分の周りにどう及ぶかを考えねば何時か必ず、数多のものを巻き込んで破滅する」
だからこそ、考えねばならない、己の通す正しさが誰の為にあるのかを。
物事に於いて選択するという事はとは選んだ道とは別の道へは進めない事を。
そして―――
「正しさを通したからと言って、他者に受け入れられるとも限らぬ。むしろ通したが故に他人に拒絶される事もあるのだ」
「あ―――」
蒸し返さないって言ったのに、何だかんだで蒸し返してしまった。
その点の気恥かしさをごまかすために、ポン、と柏手1つを打ってオチを付けるとする。
「まぁ、難しく語ってしまったが、ようは猪突猛進の独断行動はせず、まずは仲間に相談してみようという話だ」
「お、最後の最後で良い事言ったな」
「だな。途中語り出して弟と同じ"病気"になってしまったのかと思ったぞ」
「グハッ」
何やら己では無い別の人間にダメージがいっているが、気にしないでおこう。
うむ、これも良いオチが付いた。
「いや、よくねえよ」
発言自体はアレなので念の為に言っておきますが、作者はクリスが嫌いなわけでもアンチやヘイトではなく純粋に言わなければならない場面として書いたことを弁明します。
むしろSの彼女は可愛かったwwお姉さんの方がどちらかと言えば好みでしたがww