―――6月7日。
夜の帳も降りきり、後1時間もしない内に日付が変わるだろう時刻。
そんな中、川神学園の生徒はある場所に集まっていた。
―――九鬼所有の工場―――
川神市の工場地帯、海に面したこの大型の工場施設に大凡200人。こんな時分、何故こんなに生徒が集まっているのかといえば―――単純明快、学園の行事だ。
数日前、学園長の長礼での言葉。
九州は福岡にある姉妹学園天神館が修学旅行でここ川神に週末訪れる。その際に学校ぐるみで決闘挑まれたので引き受けたのこと。
天神館といえば、川神と同じく生徒間の決闘を許可している珍しい学園だ。
東の川神、西の天神館と呼ばれるほど両者には共通点も多い。
それもそのはずで、創設者の鍋島正は川神鉄心の高弟の1人にして、元四天王の一角である。
そんな訳で、東西交流戦と名付けられたこれは具体的には各学年ごと、それぞれ勇士を200人程集い、ルール無用の実戦形式で戦わせる。学年ごとに戦い3本勝負で勝敗を決するのだ。
勝利条件は総大将と定めた人間を討ち取ることと、実にシンプルなルールである。
日程は3日間、最初に1年、次に3年、最後に2年の準で決められた。
どうでもいいことだが、修学旅行で全学年で来てる事に誰かツッコムべきではと思わなくもない。
閑話休題。
今は最終夜の2年同士の戦い。
他の時はどうだったかは簡潔に説明すると。
―――1年の部。
個の戦力として随一であろう剣聖の娘を前面に押し立てるも、総大将が何を血迷ったのか前線に参戦。
集団戦法で袋叩きにあい、会えなく敗北。
―――3年の部。
武神の名は西の天神館でも変わらず有名であった。有名過ぎて訳のわからない逸話が尾ビレ背ビレで引っ付いていたほど。天神館の3年生も大勢の助っ人を呼び、生徒全員で1体の巨人を作り上げる天神合体なる妙技で挑むモノの、モモを猛獣の類
変な逸話が広がってた割には、猛獣にしか見られていないというのは少々迂闊過ぎるとしか言えない。アレは天災の類だ。
―――場を戻して2年の部。
2年の主力足りえるのは普段からいさかいの絶えないSとF。
ギクシャクしていたところを兄上が一括の元鼓舞し、纏め上げて見せたのは流石だ。
普段からみればある意味1つの奇跡的な光景とも見れなくはない。
「戦い始めて中盤、状況はこちら側が押されているの様子」
「うむ、ノルンと冬馬の見立て通りだな」
川神学園側の本陣。兄上の直営として己は本陣を守り、冬馬、大和の軍師組は別の場所各部隊に支持を出している。
先鋒はクリスを筆頭に準を補佐に付けた足の速い部隊が奮闘。他にも各所で頑張りを見せている。
現在の戦況は天神館側が有利。元々武闘派ぞろいで知られるだけあってやはり個々の兵の質や士気は向こうに分がある。
それ以外にも天神館には特に能力に秀でた"西方十勇士"と呼ばれる10組全員がいるのも原因だろう。
従来なら学年が別れるこの10人も今期は全て2年に集中しており、向こう曰く奇跡の世代だとか。
「さて、問題は西方十勇士の対処か」
「はい。地形の把握はお互い行っておるでしょうから、実質、地理的有利は互角。西方十勇士の実力も見事なもので、兵の質も鑑みらば総合力では恐らく勝る」
「ふむ」
「然りとて個々に於ける武士の実力では私の見立てではこちらが勝る筈。冬馬や大和もそれを見越しているでしょうから、各個撃破に持ち込むでしょう」
「ならば、勝つかどうか学び舎のモノたちの底力の見せ所といったところか」
「はい」
状況はやがて推移していく。
―――回想。
冬馬、大和の頭脳派との会議。
事前に集めた情報を元に整理して、勝つ為の算段を立てようと集まった。
「これが西方十勇士の情報だ」
資料を2人に手渡す。それを2人とも眺める。
「良くこんな短時間にこれだけ集めましたね」
「あぁ、個々の戦闘方法、好みや性格といった簡単だが重要な情報が多い」
「うむ。この程度ならば造作も無い。流石にコアな個人情報までは時間が足らなんだが」
これでも十分だと2人は言ってくれたので何より。情報を現地まで足を運んで調べた甲斐があったというもの。
九鬼の力は一切使ってない。
手元にある残りの自分用の資料を広げて作戦会議。
「石田三郎ってのが敵の総大将か」
「この光龍覚醒というのは?」
「調べでは自己強化の上位互換と見た。強力すぎて寿命が僅かに削れるとか」
その後も十勇士の1人1人を確認していき、能力や性格などを把握していく。
「個人的な見解だが、やはり大友は尤も注視すべきであろうな。氣は用いらぬが、大筒による高い火力は脅威だ」
「だが、使い所が難しくないか?」
「やり方次第でしょうね。資料によれば彼女自身軍略の心得も多少はある様ですし」
資料をめくる音が喫茶店内に響き渡る。
「この尼子って奴の瞬間移動ってなんだ?」
「結果だけを端的に申せば姉と弟、双子による視覚トリックだ」
「成程。可憐な見た目ですし、機会があれば是非ともお近づきになりたいですね」
「……どっちと?」
「語るに及ぶまい、そこは」
恋愛や趣向等ひとそれぞれ。野暮ったい事は言わない主義だ。
「敵の総大将については私としては微妙としか申し様がない。実力は十分であるが、エリート特有の自尊心が高く、慢心が過ぎる。ただ、直接戦闘力は十分脅威。倒せ得るのは私か、あずみさん、マルギッテ、或いはユキの4人であろう」
ちなみに、ユキの名前が挙がっているのは彼女自身、テコンドーをそれなりに積んでいるから。
特に蹴りは凄まじい。
「……確かに扱いに困るな……」
「力だけあるというのも考えものですね。この人の場合、側近である島という人が基本隣にいるようですし、状況如何ですが、いざという時はノルン君に出張って貰いましょう」
うむ、と首肯。
そんな中冬馬が1つの疑問を投げかけてきた。
「この、大村という人物について要注意と書かれている理由はなんです?」
「確かに気になるな。パソコンに精通しているも持病持ちで病弱って書いてるけど?」
「あぁ、その要注意は後から足したものでな」
病気は云々は事前情報だ、と続ける。
「何やら引っ掛かるモノを禁じ得ず直に目にしてみたのだが、この男、恐らく全員の中で最も武に秀でておる」
一件猫背だが立ち振る舞いから身体の芯がズレないし、足腰もしっかりとしているので猫背は恐らく彼の武術の型によって成ったものだろう。何処の世界に、隙のない挙動をする病弱オタクがいるのか。
「察するに切り札的存在。下手をすると最後まで動かぬやも知れぬな」
「動くまで静観するって方針か」
「触らぬ神に崇り無しですね」
次に戦況の流れをある程度予想だててみる事にした。
「やはり、兵の質やそれを率いる将、総合的には此方が分が悪いですね」
「うむ。どうあっても序盤から中盤までは押されるであろうな」
「攻略の糸口は西方十勇士の対処」
「それと、戦線の士気を如何にして保たせるか……ここは兄上にお任せしよう」
「そうですね、英雄なら適任でしょう」
「西方十勇士は……個々の能力を生かしての各個撃破、か」
「うむ。将としてはいざ知らず、武人としてならこちらが勝る。後は采配次第だろう」
「この鉢谷という人物についてはどうするんだ?」
「そこは―――」
そんなこんなで他にも対策や予想を立てながらその日は過ごした。
―――回想・終。
伝令から天神館側の敵将、即ち西方十勇士を討ち取った報告が次々あがってくる。
毛利を皮切りに、広告塔でアイドルの龍造寺、こちらの手勢を最も手こずらせていた大友の撃破されたと。
なお、食わせ者である大串も報告にはあがって無いが、圏境の探知で倒れたのを確認している。
どうやら病弱設定を貫くようだ。不慣れな集団戦で厄介事は少ないに限る。
そして今し方、尼子を討ち取ったと伝わってきた。
これで敵将の約半分は討ち取った事になる。状況は均衡し、流れはこちらに傾いた今、ここで士気を巻き返せば戦況は完全に有利になるだろう。
「聞け、負傷兵たちよ! 今、我が高の優者達によって敵将の半分以上を討ち取り状況は均衡した!」
どうやら兄上も同じ考えだったようで、負傷した物を中心に兵を鼓舞しようとしている。
「お前達はこのまま西の者どもの負けたままで良いのか?」
学び舎で学ぶ学生達は、皆一様に総大将を見つめる。語る言の葉に耳を傾けて、聞き入っているのだ。
これだけの人を魅入らせてしまうだけのモノが兄上にある。これがカリスマというもの。
それが証拠に、学生達の眼に光が戻り始めた。
「今こそ雪辱を期す好機、戦える者は再び戦場にて武勲を上げよ!」
これで流れはこちら側に傾く。
「本陣を守る直衛部隊の内、弓を扱うモノは私の元へ!」
言葉に従って弓を使うモノ9人が集まる。彼らに指示を出し最も近い建物の2階へ移動し、合図と共に窓から下を撃つよう告げる。
「なにか策があるのか弟よ」
「はい。布石を打とうかと思うた次第」
配置した弓兵の立地から狙えるのは陣から見て正面。状況から計算した予測が正しければ間違いなく突破してくる部隊がある筈。
(後の懸念対象は草の鉢谷―――)
噂をすれば影、というが今回は文字どおりらしい。圏境の探知に引っ掛かった。
真上からの奇襲。しかし、攻撃直前どころか、仕掛けのタイミングで殺気を見せるなど二流である。
現に兄上やあずみは気付いている様で、兄上は全く動じずあずみへ迎撃を命じた。
しばらくして響き渡る轟音。立ち込める土埃の中から水着姿のあずみが姿を現す。
彼女の働きを労いつつ兄上は彼女の水着を褒める。
「きゃるーん☆ 私は幸せ至極に御座います英雄さまぁ!」
実に嬉しそうで何より。
さて、ならばこちらも仕事をするとしよう。
陣の正面が騒がしくなったかと思うと、敵部隊が突破してきた。
予想通りの人物だ。
「敵陣一番乗りで報奨金アップやー!」
西方十勇士は宇喜多秀美率いる部隊。大きなハンマーにも関わらず軽々と振りまわしている。
女性の身でなかなかの怪力。恰幅が良いとはいえ良く鍛錬を積んでいる証拠だ。
「敵総大将に一騎打ちを申し込んだるで!」
「戯け、総大将が軽々しく一騎打ちに応じるか」
「だったら全員吹き飛ばすまでや」
「退屈していたところじゃ、ここは
「兄上、ここは私が参ります」
「ちょ、
「うむ、ノルンの好きにするがよい!」
「はっ」
「無視するなー!」
だが断る。
そのまま宇喜多の前へ出た。
「大した大槌だ。然りとてその分隙も多いと見た」
「確かに隙は大きいで。せやけどウチにはハイパーアーマーっちゅう、ちょっとやそっとどつかれた程度じゃ全く動じず攻撃できる技持ってんのや」
格闘ゲーム好きならしっとる名前やろ、と自信気に言う宇喜多。
その物言いに少し、興味が湧く。
「些か程度の攻撃では動じぬ、か。ならば試してみよう」
「応、存分に試してみればええ。おまいさんみたいなガリガリ君に止められるわけ―――」
言葉は続けられる事は無く、静かに倒れた。突然の事で動揺する天神館勢。
早い話が縮地で目の前に跳び、指を弾く所謂デコピンで額を小突き、脳を直接揺さぶって昏倒させたのだ。
「なんだ、小突いた程度で倒れてしまったではないか」
「宇喜多さんがこんなにあっさりと……」
気持ちは分からなくはないが、その動揺は戦場で命取りである。右手を上げて合図を出す。
「放てー!」
声と共に動揺を隠せない天神館の生徒を矢が襲う。寝耳に水な不意打ちによって手も足も出ず、半数は脱落。
残党の処理を手早く済ませて兄上の元に戻った。
「敵突撃部隊、掃討完了しました」
「うむ。ノルンも護衛の役目ごくろうであった」
「
「元気出して下さい、その内良い事ありますよ」
「棒読みで言うでないわー!」
賑やかである。不死川に対しては少々憐れと思わなくはないが、万全を期すためである。
断じて他意は無い。
ふと、視界の隅で火の玉とそれを追い掛けて空中に跳び上がったのを目に入る。
火の玉の様に見えるそれは、どうやら火達磨になった長宗我部宗男の様で、そのまま海面に方向に蹴り飛ばされていった。
その光景に苦笑いが浮かぶ。
「兄上、十勇士も残すところ2名のみ。総大将を討ち取るのも時間の問題かと」
「そうか、ならば吉報を待つとしよう。残った敵の対処は任せる」
「はっ、お任せを―――?」
「どうしたノルン?」
圏境に引っ掛かるものを感じる。しかし、それは敵ではない。
個々よりも上空―――九鬼家所有のヘリだ。ただし気になるのはヘリの中身。
(……これは―――)
一応伝えておくべきかと兄上に耳打ちをする。
「九鬼のヘリがこちらに近付いております」
「? それがどうしたのだ?」
「どうにもそのヘリに義経が乗っておる様で、どうやら介入する心算ではと」
「そうか……プランの申し子が」
「マープルの許可は取っておるでしょうが一応兄上にも伝えておこうかと」
「うむ、心得た。そちらの方もノルンに任せる。問題があれば―――」
「はい、フォローに回らせて頂きます」
ハプニングはあれど、状況は変わらない。十中八九こちらの勝利だ。
そのまま襲い掛かってくる残存の勢力を適当にいなしていると、遠くから爆発的な氣を感じ、そのすぐ後に勝ち鬨を上げろー、とワン子の声が響き、次いでクリスの声が聞こえてきた。
「聞こえたか皆のモノ、我らの勝利だ。高らかに勝ち鬨を上げよー!! えい、えい、おー!」
「えい、えい、おー!」
「えい、えい、おー!」
「えい、えい、おーなのじゃ!」
勝ち鬨の声はそのまま歓声となり、夜の工場を満たしていった。
戦いは決し、義経の元へ向かう。
そこには大和と、ワン子が倒れた十勇士の面々の傍にいた。
義経はこちらに気付いて、あ、と声を上げてこちらに手を振って駆け寄ってくる。子犬みたいで可愛らしい。
「ノルン君!」
「義経、この戦に参じるとは聞いておらぬぞ」
「義経も武士の端くれ。戦と聞いては黙っていられなかった」
ヤレヤレ、と頭を振るう。
「せめて一言相談があっても良かったのではないか?」
「ノルン君に言うと止められるって思ったから黙っていたんだ。済まないと思っている」
シュン、と申し訳なさ気にしている義経にもうよいよ、と肩を叩いた。
冬馬が義経のクローンですか、と確認をするかの様な問いを投げかける。どうやら、兄上からある程度聞かされていたらしい。
対して義経は義経であり、性別は気にするな、と返した。
「はい、私はどちらでも構いませんから」
「違う意味で言ってるだろ、お前」
「フフフ」
ジト眼で冬馬を見る大和は話題を変えて義経について尋ねてきた。
「私の中学時代からの親友、そして九鬼にとってVIPだな」
「VIP?」
「詳しくは明日の朝テレビを見れば自ずと分かろう。加えて今度2-Sに転入する」
「其処は聞いた」
「おや、そうであったか」
「義経が話しておいた」
其処まで話したのであれば、事情の説明よりもTVを見た方が早い。それにその方が後の楽しみも増えるというモノだ。
義経は改めてよろしく頼む、と頭を下げた。2回も。
律儀さは相変わらずである。参じるのを黙っていた事意外は。
「義経は大事なことなので2回言ってみた。では、さらば」
「兄上、申し訳ありませぬが私も義経と共に戻ります」
「うむ、それがノルンの務めでもあるしな。よい、後は任せておけ」
「有難うございます」
兄上に深々と頭を下げて颯爽と去っていった義経の後を追う。
そして案の定というか、ある程度行ったところで義経はこちらに引き返してきている。
やはり、地図を所持していなかった様子。心眼の見立てに間違いなかった。
聞けば地図を渡されたが断ったらしい。こういう所は相変わらずである。
「土地勘もあらぬのに強がるから」
「うぅ……しきりに反省する」
肩を落とす義経を適度に弄りつつ、極東本部への帰路へと足を向ける。
―――翌朝。
朝のテレビ番組はどこも武士道プランで持ち切り状態だった。
九鬼家が未明に発表したこれは――現代に蘇った英雄――なんて見出しを飾り大注目中。
件のクローン達4人は各々千差万別に朝を迎えた様で。
「いよいよだね」
「き、緊張することはないぞ3人共。何時も通りに、行こう」
「義経こそ落ち着いて」
「フン……」
ワクワクしている者、緊張している者、何時もどおりな者。まさに個性が出ていると言えよう。
もうすぐ川神学園へ向かうが4人、厳密には飛び級で1-Sに入る事になった妹の紋などを含めて6人か。それぞれ車で後から学園へ向かう手筈の様で、鉄心殿には既に伝えているらしい。
そろそろ出るか、と思っていると義経が何かの資料を確認しているのが眼に入った。
「義経、それは何の資料だ?」
「これは多摩川にくる野鳥を1ヶ月単位の推移で記録したものをまとめたものだ。義経はこれをクラスに発表して威を見せようと思う」
「野鳥って、外に出るたびにしておったバードウォッチング、か?」
「そうだ。付き合ってくれたノルン君には感謝している。改めて礼を言うぞ、ありがとう」
キラキラした眼をしている義経。彼女にはこれを発表して感心を受ける姿が映っているのか。
しかし、これは正直言って微妙でも何でもない。少なくともSで受けるかと考えてみるが―――やはり全く受けない光景しか浮かばなかった。
心苦しいが止しておけと言おうとして―――弁慶でアイコンタクトで止められたのだった。
(このままで良いと?)
(そうだよ。その方がきっと可愛い表情を見せてくれる筈さ)
(全く、つくづく義経にはSだな、弁慶)
(嫌いじゃない癖に……)
黙秘権を行使する。
義経には頑張れ、とだけ言っておいた。任せてくれ、と胸を張る義経の姿が可愛らしくもあり、心苦しくもあった。
与一の方にも念のために必ず朝礼には出るようにと言っておく。ハイハイ、と頷いているが、適当感まるだしである。
せめてもう少しそれっぽくみせろと言いたい。これは十中八九お仕置きコース行きを自ら選ぶだろう。
厨二は兎も角、もう少し迂闊な行動、言動を減らせば弁慶に折檻されないモノを。
今度は清楚の方に話しかける。話す事はと言えば朝礼の時の挨拶の言葉だ。
事前に話し合った事の最終確認である。
今の段階で明かすというのも1つの手であるかもしれないが、正直もう少し衆目があり、かつ清楚がクラスに馴染んでからの方が良いというのが私の考え。
遅くても夏休みを終えて2学期の初めごろには明かしておきたいところ。
しかし清楚はこれからの友達に嘘をつくのは避けたいという。ならば言い方を変えればよいのだと提案した。
難しい事は無い。具体的には、九鬼から正体を聞かされていない事や自分名前がイメージで付けられた事など、今の清楚でなくても知っている情報だけを提示すればいい。
成程、と納得した反面、やはりわだかまりはある様子。我慢してもらうしかないのは歯痒いばかりだ。
話が丁度終えた所で、向こうから紋がやってくる。あらまし支度を終えたのかカバンを持って準備万端よいった具合。
「みな、元気そうだな。ノルンは今から登校か?」
「うむ、そろそろ行って参る」
「いってらっしゃい」
ではみんな学び舎で会おうぞ、と行って極東本部を後にした。
―――川神学園、グラウンド。
朝の朝礼は1週の初め辺りに必ず1回、鉄心殿が行われる。
他にも学園全体の行事の連絡、突発的なイベント等、緊急時にも行われるのがこの朝礼だ。
今回の話題は勿論、武士道プランについて。プランの申し子4人とその関係者2人の計6人が転入する事になったのを伝えた。
生徒達は今か今かと待ちわびていて、落ち着きがない。
「まずは1人、3-Sに入るぞい。葉桜清楚、挨拶せい」
壇上に上がっていく清楚。その気品あふれる立ち振る舞いに男子を中心にほう、と溜息が聞こえてきた。
「こんにちは、初めまして葉桜清楚です」
みなさんに会えるのを心待ちにしておりました、そう言ってたおやかに一礼する清楚。
名前の通りの清楚な雰囲気と挨拶に男子が歓声を上げる。
一部、女子からも歓声が上がっているが誰なのかは敢えて記さない。
それを教師たちは静かに、と嗜めた。
生徒の1人―――恐らく2-Fの生徒―――が清楚にスリーサイズと彼氏の有無を聞いて小島梅子先生の鞭で制裁されていた。
できれば、スリーサイズ云々の部分で同意していた学園長殿も制裁してしかるべきだと思う。
清楚は顔を赤らめながらも咳払いで気を取り直して―――
「みなさんの御想像にお任せします」
そんな恥じらったリアクションもまた琴線に触れたらしく場は再び盛り上がる。
隣では珍しく冬馬もはしゃいでいる。
「ああいう恥じらいは素敵ですね!」
「若も珍しくはしゃいじゃって」
「そういう準はえらくテンションが低く見えるが」
「3年ってさ、女としてもう終わってるじゃん?熟れ過ぎてて腐ってるっていうかさ」
「腐ってるのは準の頭だよー、ロリコン不毛地帯」
「ヒドイわ!」
「今のは上手いと申すべきであろう?」
「そっちかい! しかも言われた方が何で褒めんとアカンのですか!?」
「だって、ねー?」
「なー?」
「無駄に仲が良いですね、2人とも!」
相変わらずこの面子はファミリーに負けず劣らず面白い。
漫才を行っている間も紹介は続く。今度は清楚の名前についてだ。
「私の正体については私から説明しますね」
其処から彼女が語るのは予め打ち合わせして置いた台本通りの言葉。
自分の正体は他の3人と違って教えて貰って無い事―――
ある程度歳を経れば教えてもらえるのだという事―――
「正体不明で気味が悪く思うかもしれませんが、どうか皆さん仲よくして下さい」
そんな言葉で締めくくり、もう一度頭を下げると再び歓声が上がる。
どうやら無事に受け入れて貰えた様で何より。第一関門クリアといったところだ。
隣から冬馬が清楚の正体が誰なのかを聞いてくるが、兄上も知らないと告げる。私もそれに便乗した。
「彼女が誰であろうと構わぬさ、葉桜清楚は葉桜清楚でよい。そうであろうノルン」
「はい、兄上」
紹介は続き、次は源氏3人組。まずは義経と弁慶の番。
壇上には義経に続き弁慶が上がる。最初に挨拶をしたのは弁慶から。
「こんにちは、一応弁慶らしいです。よろしく」
弁慶の予想以上の見女麗しさに再び歓声が男どもからあがる。現金な事だと苦笑いを浮かべるのは自然の流れだと思う。
簡単な挨拶を終えそのままマイクは義経に手渡された。まだ緊張しているのが此処からでも窺える。
側にいる2人に励まされながら義経は言葉を切りだす。
「源義経だ。性別は気にしないでくれ。義経は武士道プランの人間として恥じぬ振る舞いをしたいと思っている」
よろしく頼む、と元気よく頭を下げる義経。そして4度あがる男どもの歓声。
上々な結果に終わったようだ。最後の最後でマイクが入っているのを忘れて弁慶に話しかけた事を除けば。
最後に与一の番だ。武士道プラン唯一の男子というだけあって、興味も負けず劣らずといったところ。
しかし、鉄心殿が合図をしても姿を現す事は無かった。みんな声を上げて与一の名を呼ぶが出てくる事は無い。
「あぁ、与一め、やはりやりおったな。説得して参ります」
「連れ戻せるか?」
「望み薄、でしょうね。変な所で頑固ですから。然らば失礼します」
圏境全開で透明になり、縮地で与一の元まで跳ぶ。
場所は然程遠くは無い。学校の屋上だ。
時に、何とかと煙は高いところが好きという言葉をふと思い出してしまう。別に他意はない。
「はっ、所詮は一時のなれあいにどんな意味がある」
「然れど人の出会いは一期一会、とも言うぞ」
「!?」
驚いている与一の前に圏境を解いて姿を見せる。こちらの姿を確認して与一はなんだノルンか、と言ってきた。
「なんだ、ではあらぬ。朝礼には確と出よ申した筈だ」
「ハン、お前があんまりしつこいもんだから適当に返事してただけだ」
やはりと言えばやはりな答え。こういう行動が自分の首をしていると気付くのは何時になる事やら。
正論を解いたところでどうもならないだろう。だからこそ、事実をただ告げるとしよう。
「良いのか、このままでは義経に恥をかかせる事と相成ろう」
「それがどうしたよ?」
「弁慶が黙っておらぬぞ? ちなみに今回は助けぬからな」
途端与一が震えだした。彼にとって弁慶は恐怖の象徴であり、宛ら走馬燈の如く折檻される光景が過っているといったところか。
ちなみに、助ける云々は偶に理不尽過ぎたり行きすぎたりしない様に助け船を渡したしている。何やら一回もそんなところを見せた気がしないが気のせいである。
生まれたての小鹿の如く震えながらも与一は俺は自分をまげねぇ、と言い切った。ある意味で見事と言える。
そうこうしてる内に下では姿を現さない与一を義経が弁護し、頭を下げている所だ。
そして悟る。これは既に何をやっても詰みであると。
「
「あ、ちょ―――」
何かを言おうとしていた与一を置き去りにして縮地で元の場所に戻った。
「ただ今戻りました」
「うわっ! ビックリしたー……心臓に悪いぜ。今、どっから現れた?」
「秘密だ。驚かせてすまなんだな準」
「して、どうであった?」
兄上に頭を横に振ってこたえる。そうか、と言うだけで兄上はそれ以上は何も言わない。
武士道プランだからと言って個人の意思をまるっと潰す気は我ら九鬼には皆無なのだ。
何事においても己の意思で為してこそ意味がある。しかしそれでまかり通らぬものがあるのも事実。
与一の場合はまだそこまで仰々しいものでもないが。
彼の対処は追々私や他モノのてを借りてでも何とかしてみよう思う。まぁ戻ったら戻ったで地獄ではあろう。
今度は高二病になったりしない事を祈るばかり。
なんて埒も無い事を考えていると背後からウ○ーン交響楽団の旋律が聞こえてくる。
そんな光景に眼を向いて驚きざわめく生徒達。対して自分はこれにも苦笑いを禁じ得ない。
余りに
やがて九鬼の従者部隊の執事が二列に並びお互いの肩を正面から抱き合い頭を伏せ1つの橋を作り上げた。
その上は白の袴姿に紅い羽根奥義をもって1人の少女がやってきた。
「我、顕現である!」
剛毅にして不遜と言える挨拶で場を更に飲みこむ紋。
「フハハハ、何を隠そう我等の妹である!」
「わかっとるわー! それ以外に何があるというんじゃ!」
心の絶叫のツッコミと、その隣でマルギッテの九鬼が三人もなど、カオス過ぎる、なんて言っている姿はかなりシュールと言うか、ギャグ的というか。
「可愛らしいであろう? 我ら九鬼にとって自慢の妹だ」
「お義兄さん方、彼女のお世話は是非私目に」
「「タコを義弟にもった覚えは無いわ、戯け!」」
図らずも兄上と重なり合う言葉。
こんな漫才をやっていたら何時の間にか紋の自己紹介も既に終盤だった。
「我は退屈を良しとはせぬ。一度きりの人生楽しくやろうではないか!」
フハハハー、と九鬼特有の笑い方で締めくくった紋。少し見過ごしてしまったが立派なその姿にただただ兄弟揃って感心していた。
そして、もう最後の転入生に目を向ける。正直、事情を知って居なければ己もこの光景には思うところが無くも無い。
―――こんな老けた学生はいないだろう、と。
ざわめき立つものの、結果は覆る事は無く、現実は無情に叩きつけられていく。
挨拶も一通り終わったのか、マイクを置いたヒュームは瞬間忽然と消えた。
高速での移動だ。
その行き先はモモの所である。多分、聞き逃せない発言を耳にして少し脅かしに行ったのだろう。
ヒューム直ぐに壇上へ戻り、そこには何時間にかクラウディオがおり、ヒュームが紋の護衛としてクラスに編入する事を説明した。
だからと言って納得は出来ないだろうが。
しかし、何故だろうか、あの強面不良執事なら何だかんだで馴染みそうな念を禁じ得ないのは―――
武士道プランを皮切りに色々な衝撃で川神学園の朝一番は彩られたのだった。
まだ一日は始まったばかりだというのに。