気まぐれ神様の物語 真剣恋Ver.   作:ジーザスルージュ

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27話

「き、緊張する事はないぞ。弁慶、与一……」

 

 その手のセリフは今日で何度目だろうか。

 朝礼が終わりホームルームでの3人の自己紹介を始める所―――なのだが、義経が緊張しっぱなしだ。

 こればかりは性分だろう。根が真面目な義経らしいと言えばらしい。

 

 そんな義経になにやら流し目で見つめながらポーズをとっている冬馬。

 想像は付くが、一応念のため何をしているのかを問うてみたら、義経にアプローチをしている様だ。

 視線だけでと思うかもしれないが、実際それだけで女性を射止めている姿を見るとある程度本気なのが窺える。例え義経が気付いていなくてもしても冬馬は気にせず続ける。

 

 ―――義経の性格だと余計に緊張してしまうぞ。

 

 などと思っていたらマルギッテが弁慶にいきなり勝負を吹っ掛けていた。

 

「あー、メンドイなー」

 

「メンドイ? 惰性な態度は控えなさい」

 

 案の定というか、ものぐさな態度は変わらずだ。それでも弁慶は何だかんだで義経の不利益になる様な事はしないので自分に有利な勝負に持っていくだろう。

 それはそれとして、川神水は控えなさい。少なくとも今は。

 

「じゃあこの錫杖で叩くから、軍人さんがそこから一歩も引かなければ負けで良いよ」

 

 提案された勝負の内容には確実に勝てる手段を取ってる辺り、やはり抜け目がない。

 

「ものぐさな……宇佐美先生を見ている様だ」

 

「おじさんと弁慶は余裕を持った大人同士、気が合うんだよ」

 

 しかし、宇佐美先生が気を使って軽く肩を持ったのに、弁慶は歳上には興味ありません、と一刀両断してしまった。

 流石にその発言にはイラッときたのか、宇佐美先生はマルギッテを炊き付ける。

 

「会話のドッチボールがヒデェ……」

 

「同感だ」

 

 実際に投げる所が見えていればそれはもう凄まじい剛速球である事請け合いだろう。

 しかも全員問答無用の顔面狙い。

 

 そして冬馬はすかさずアプローチ。

 

「では、私の様な男性はどうです?」

 

「んー……悪くは無いけどピンとはこないかな。今そういう(・・・・)可能性があるとしたら、其処のノルンかな」

 

 弁慶の発言に場が揺れた。比喩表現であるがそれぐらいざわめいている。

 個人的には光栄だと思う。思うのだが―――餌付けする側とされる側な気を禁じ得ないのは気のせいだろうか。

 

「そういうとはどういう事だ弁慶?」

 

「んー……主にはちょっと早いかな?」

 

「?」

 

「ノルンも災難だな―――ウグッ!?」

 

 何やら弁慶に錫杖で脇を小突かれた与一。また迂闊な発言をしたらしい。

 

 言われた冬馬は柔らかい笑みを湛えている。焼けますね、なんて言いながら。

 こんどは矛先を変えて義経に近付く。しかし、そこは厨二でヒネても与一、主を守るため冬馬を阻む。

 

 

 ―――だがそれは悪手だ。

 

 

 これ幸いと、冬馬は間に割って入った与一にもモーションを掛ける。

 

「気を付けろよ、お前は若の射程範囲内にいる」

 

「トーマの射程はほぼ無限大なのだー」

 

「オイオイオイ……!」

 

 戦慄している与一。気持ちは分からなくはない。

 

 そうこうしてる内にどうやら準備ができたようだ。

 弁慶はぬるっといくよ、何て言っている。

 

「そぉい!」

 

 些か気の抜ける声と共に振るわれる錫杖。

 対してマルギッテはトンファーを持った今の自分の防御力は古の城塞に匹敵する、と告げている。

 しかし、己の目から見てその程度では甘いとしか言いようがない。錫杖の速度は決して早いとは言えないがそれでも決して軽くはない。

 何より、彼女のオリジナルは怪力でしられた人物。その力は教室の真ん中から廊下まで押し出された事で推して知るべし。

 先程の弁慶の爆弾発言とは別に場はどよめいた。驚きながらもみな口々に弁慶を称賛する。

 

「認めて貰って何より。これから4649」

 

 ピッ、と腕を振るって挨拶を締め括った。

 

 弁慶の挨拶が無事終わり、次は義経が威を示す番だな、と嬉々として資料を取り出す義経。

 

「多馬川に来る野鳥を1ヶ月推移で記録してみた。これを見ながら義経と一緒に地球環境についても考えていこう!」

 

 もの凄くキラキラした笑顔を湛えている。見てるこちらが清々しい程に。

 だかしかし―――

 

 シーン

 

 そんな擬音すら幻聴しそうなほど場は白けている。

 

「あ、あれ? なんだこの反応……みんな冷めているぞ」

 

「だから言っただろ義経、そんな事をしても受けが悪いって」

 

 今朝方そう指摘しようとした私を止めておいていけしゃあしゃあと言えたものだと思う。

 義経は初めて聞いたぞ、と驚き弁慶に問い詰めている。

 対する弁慶も、素知らぬ顔してごめんね、と謝ってはいるが、ホントに図太いというかサドいというか。

 今度は義経はこちらに目線を向けてきた。

 

(知っていたのかノルン君!?)

 

(うむ……なんだ、その、すまなんだ……)

 

 ガーン、と今度はそんな擬音が聞こえた気がした。そして、ショボーン、と言わんばかりに落ち込む義経。

 その姿はとても保護欲をかきたてる。しかし、同時に何やら気の毒になってきた。

 私を止めた件の臣下はそんな主をみてほっこり顔。

 アイコンタクトで―――

 

(サドいぞ、弁慶)

 

(でも可愛らしいよね?)

 

(む……)

 

 事実なので否定はしないでおく。

 

「で、では気を取り直して、まずカルガモが―――」

 

「あー、義経。それ、長くなりそうだからまた今度な。HRもそろそろ終る頃だし」

 

「カルガモ……」

 

 更に気勢を削がれた義経はがっかりして肩を落とす。しかしそこは宇佐美先生、きっちり義経をフォローした辺り流石だ。

 

 そんな中、不死川がSに入った事でクラスの定員が増えたのか、と担任に問い、宇佐美先生はそれを肯定した。

 それに対してクラスのほぼ全員が不満げに声を上げる。

 元々、名実ともにエリートクラスのS。其処に在籍しているものは例外を除いてその大半はプライドが高く、選民思想を持ったものばかり。

 それに見合うだけの能力と矜持があるので、こういう甘い(・・)対応は好まない。

 

 エリートらしく競争意識も満ち満ちており、クラスから次々と増えた分だけ落とすべきだと口を揃えて語る。

 

「うむ。対等な真剣勝負、これが我らなりのお前達3人に対する歓迎だ」

 

「誰もが落ちるのは自分では無いって自信のある顔だな」

 

「……分かった、九鬼君。武士道プランの申し子としてこの戦い、受けて立つ!」

 

「お、よく言ったよ主。もし落ちたらリアル勧進帳ごっこだからね」

 

「あれは弁慶が義経を叩くだけで、義経は痛いぞ……」

 

「いいね……義経のそういう顔がみたい…」

 

「弁慶、程々にな」

 

「分かってるってノルン。加減は心得ているよ」

 

「そういう問題、か?」

 

 ―――勧進帳。

 簡単に言えば源義経が兄から京を追い出された際、現在の石川県に位置する安宅の関で見つかりそうになったさい、武蔵坊弁慶が主である義経に暴力を振るうという咄嗟の機転で難を逃れた逸話の事である。

 一度だけ見た事があるが、何と言うか、饒舌し難い光景であったと記しておく。

 

「愉快な主従ですね。歴史でもこうでしたか?」

 

 断じて違う―――と思いたい。思いたいが、戦国時代や三国志の主要人物が女性、なんて世界が存在するぐらいなのであり得ると言えばあり得る。

 

 「で、若的には誰が好みなんだ?」

 

 「私は性別を問いませんからね。3人同時にいけますよ」

 

 「我は一子殿一筋である!」

 

 「俺は紋様しか見えないね、彼女なら出来る……幼女だけの国、ロリコニアを」

 

 「頼むから犯罪行為にだけは奔るでないぞ、準?」

 

 「ねぇ、ノルン。このハゲの人ってロリコン?」

 

 「うむ。相違ない」

 

 「だからねー安心していいよ」

 

 「ロリコンとは何だ? 2人とも」

 

 「どうしようもない病気だ」

 

 「成程。覚えた」

 

 「大丈夫だったのかな……このクラスで」

 

 何を今更である。

 ちなみに、与一の自己紹介は徹頭徹尾厨二の発言まみれだったので割愛しておく。

 ただ言えるのは、場の混沌具合が加速した、と言う事だけだ。

 

 

 

 

 

 ―――放課後。

 

 廊下は喧騒に包まれている。流石に初日だけあって凄まじいの一言だ。

 物見遊山、とは言わないが興味津々で見に来た他のクラスの生徒が廊下にごった煮返している。

 気持ちは分からなくはない。朝礼で見た義経と弁慶は共に美形であったし、朝礼に顔を見せなかった那須与一の姿を一目見ようと思っている者もいるだろう。

 しかし、Sの人間としては堪ったものではないのも事実。なので、現在マルギッテがクラスの出入り口で検問を行っている。

 

「ほう、この季節にこんな鳥までおったのだな、見損ねておった。季節が異なるが……渡り損ねたのか」

 

「そうなのか?」

 

「見てみると意外と面白かったってのは意外だね」

 

「この小鳥はカワイイねー」

 

 現在義経の野鳥記録を見せて貰っている最中。読んでみると意外と細かく記していた為、弁慶の言うとおりそれなりに面白い。

 ちなみに小雪はお馴染と言うか背に乗っている。

 

 そんな中、1つの集団が検問を通過した。

 

 ―――風間ファミリーの面々である。

 

 恐らくクリスがいたので通したのだろう。あの姉貴分も本当に妹分にはダダ甘だ。

 手を上げて挨拶をする。

 

「みな、義経達が目当てか?」

 

「分かってるな、ノルン」

 

「わからいでか」

 

 義経も大和達の方に向かって行った。

 交流戦を通じて仲好くなった様だ。友としてそんな義経の姿を温かく見守る。

 と、義経が弁慶と与一を呼び、それに従って弁慶はゆらーっとこちらに来た。

 しかし―――

 

「俺は行かねえぞ、組織からの刺客かも知れないからな」

 

「こいつはまた訳のわからない事を―――」

 

「あぁ、よい弁慶。私が連れて参る」

 

 与一に近付き耳打ちして話す。

 

「何に警戒をしておるかは知らぬが、彼等は私の古い友だ。問題ない」

 

「ハッ、昔はそうでも今違うかもしれないだろ。第一馴れ合いはご免だぜ」

 

 思わず頭を抱えたくなるが、持ち前の精神統一で制御して平静にみせる。透化スキル様々だ。

 何やら複雑な感覚は否めないが、この際無視。

 渋る与一に、あの中にお前の同類がいるぞ、と言う。思わずまじまじと見つめてきた与一に二の句を告げる。

 

「ただ、普段は隠しておるからな。見分けは付きにくいぞ? 其方(そなた)に見抜けるかな」

 

「フ、安い誘いだな。だが乗ってやるよ」

 

 そういって、しぶしぶながらも義経達の元に向かう与一。

 こっちもこっちでヤレヤレである。世話が焼けるという意味で。

 

 3人揃ったところで改めて自己紹介。

 

「源義経だ。改めてよろしく頼む」

 

「直江大和だ。よろしく、義経さん、弁慶さん」

 

「大和の妻。椎名京です」

 

「お、なんだか京が積極的だ」

 

「まぁね、私も成長してるのさ。身も心も」

 

(この弁慶は大和と話が合いそうな気がする……要注意なんだっ!)

 

(―――なんて考えておる顔だな、アレは)

 

 順調に自己紹介を重ねていく中、与一はジロジロとファミリーの面々を観察している。そして一点を見つめ―――

 

「……ひょっとして、コイツか?」

 

 ―――と呟くのを耳にした。

 視線を辿っていくと眼に入ったのは直江大和その人。

 与一、正解。

 なにか似た匂いでも嗅ぎ分けたのか。

 

 其処に、純粋100%の笑顔で挨拶するワン子。

 

「川神一子よ。よろしくね。武芸をやっているから話が合うと思うわ」

 

「那須与一だ。始めに言っておく、俺に干渉するなよ……不幸になるからな」

 

 クネっとポーズを決めて妙な台詞を吐く。

 ―――同類を見極めるというのは何処に行ったのだろうか。

 

 厨二的台詞はその後も続き、そんな姿にファミリーのクリス意外には懐かしさを覚え、そして約一名、もだえ苦しんでいた。過去の自分の生き写しというのは確かに恥辱だろう。

 顔真っ赤にして悶える大和を総出でからかっている。

 だが、そんなヒネた態度に物申したのは義経だ。ちゃんとする様に言うが与一は案の定聞きやしない。

 

 ―――その与一の態度を当然、弁慶が許すはずもない。

 

 しかし、其処は慣れている与一、逃走を図ろうと教室を出ようとするが―――

 

「どこ行くのー?」

 

 小雪に阻まれた。疑問形の分だが、顔が面白そうだと言っている。この場合どこが(・・・)かは小雪のみぞ知る。

 ガシ、と首根っこを弁慶に掴まれる与一。

 

「ノルン、そこの窓を開けてくれ」

 

「はいな」

 

「ちょ……よせ姐御、ヤメロっ!」

 

「与一、ちょこっと頭、冷やそうか?」

 

 片手で釣り上げた与一を力任せに投擲。絶叫と共に窓の外へ消え、暫くすると大きな水音が聞こえてきた。

 飛ばされた与一の身を案じた義経はタオル片手に教室を飛び出していく。

 近くで見ていた冬馬が驚嘆し、称賛する。

 与一の身長は約175cm。それを片手でともなれば驚くのも無理は無い。武士娘であるワン子、クリス、京もただ感心するばかり。

 大和を始め、ファミリーの男性陣は皆一様に置いてけぼりである。

 

 すると、圏境にある気配を探知した。些か遅い気もするが、大方もう一方のクローンの方へ行っていたんだろう。

 

「……来やるか、モモ」

 

「よっしつーねちゃーん! 戦おー!」

 

 颯爽教室で良い笑顔で入ってきた相棒。ファミリーの面々に軽く挨拶をし、こちらにやってきた。

 

「あれ? 義経ちゃんは?」

 

「少々席を外しておる。それに、義経と戦う事は今は叶わぬぞ」

 

「えー、なんでだよー?」

 

 むくれるモモに説明を続ける。

 単純な話、彼女の対戦の申し込みが既に目一杯入っているのとそれらが学内のみならず外部からも既に多数申し込まれているため。

 これらすべてを相手にしていては流石の義経も疲労で参るのは明白。

 

「―――故に、モモには学外からの挑戦者を間引いて欲しい」

 

「むー……」

 

「やはり不満か?」

 

「だって、なぁ……どうせ殆どが有象無象だぞ?」

 

「言うと思うたよ」

 

 2年ぐらい前からモモはこの闘争意欲に偏り、とでも言うのだろうか、対戦相手を選り好みするようになってきたのは、自分は元より鉄心殿も既知の事。

 モモが中学入りたての頃はまだまだ完全なバトルマニアだった。しかし、ちょうど瞬間回復を使いこなし始め武神としてその名を継いだ辺りからこの傾向が見られ出した。

 

 原因が何かは見当が付いている、というか十中八九私意外にいない。

 瞬間回復を会得して以降、モモはもう殆どの敵に対して真実脅威を感じなくなったのだろう。それだけならば、恐らく強者との戦いに飢えるだけで、個人的にはその方がまだ良かった。

 しかし、九鬼ノルンという川神百代が―――非公式だが―――未だ勝てない相手がいる。

 人間と言うのは慣れる生き物だ。それは彼女とて例外ではない。

 モモは己に勝てる相手である私と様々な対戦者を比べてしまう様になったのだろう。そうなれば弱い相手に段々と眼を向けなくなり、そしてより強い方に興味が集中するのは必然の成り行きだった。

 彼女のファミリーの枠を超えてこの身に依存するのもそれが原因だ。

 

「武士道プランの効果もある。そうそう全てが有象無象という訳ではあるまいよ」

 

「でもなー……」

 

「義経への挑戦に対して、融通は聞かせられぬが、間引く仕事、引き受けて貰えるならば私個人から手間賃として幾らかの報酬を払う所存だ」

 

「よーっし! どんどん掛ってこい! 全部ぶちのめしてやる」

 

 即答である。現金な事だ。

 勢いよく背に抱きついてきて、握りこぶしをみせて金の為だけじゃないぞ、お前が頼むからやるんだからな、と語るモモ。

 ならば何故最初に渋った。

 

「戯け。間引け、と申したばかりだ。全部倒して如何(いかん)とする」

 

 後、離れよ、いやだねー、そんな応酬が続く。そしたら今度は小雪まで混ざってきて場はかなりグダグダに。

 

「相変わらず、モモ先輩はノルンにべったりだね」

 

「お姉様、楽しそうだわ」

 

「ちっくしょー羨ましいぜ!」

 

 野次を入れるのは自由だが、この状況を変ってみるかと仮にこの場で言っても多分ガクト以外誰も変わろうとしないのが眼に浮かぶ。台風の中心付近に近寄ろうとは思わない。

 

 そんな事を考えていたら突然横合いから勢いよく引っ張られる。何だ、と引っ張った方を見てみると弁慶がこちらを引っ張っていた。

 腕を抱く様にして組み、至近距離からこちらを見つめている。

 

「いやー、モテるね色男」

 

「ありがとう、で良いのか? それはそれとしてどーした?」

 

 何やら可笑しい。どこが、と問われれば雰囲気が。

 笑いながら不機嫌、というのは与一相手に何度か見た事があるがこちらに対しては初めてである。成程、与一の恐怖する理由が、モモに弄られる大和の気持ちが、唐突だが何となく一端に触れた気がした。

 妙に背筋が薄ら寒い。

 

 突然邪魔をされて不機嫌になるはモモと小雪の2人。弁慶の行動にあからさまな不満顔。

 

「今一度問うが、どーしたのだ?」

 

「んー、なんとなく?」

 

 答えになっていない。

 モモは弁慶とは反対側に抱きつき、肩越しに弁慶を見つめる。

 

「……」

 

「……」

 

「何だというのだ?」

 

 見つめ合う2人。最初に動いたのはモモの方。

 

「間近で見るとかわいいねーちゃんだ」

 

 徐に手を伸ばし、弁慶の豊満な胸に手を当て、揉む。

 

「んぁ……先輩、も」

 

 お返しとばかりに手を胸に伸ばす弁慶。

 

「あ、ぁぁッ……この返し、流石武蔵坊弁慶」

 

 揉んだ指をお互いワキワキと動かしている。感触を思い出しているのだろうか。

 

「……91?」

 

「正解だ。そっちは、89といったところか」

 

「負けた……」

 

「よし、勝ったぞ! どうだノルン」

 

「今のコミュニケーション、私を挟んで為す意味があったのか?」

 

 言った瞬間心眼の警鐘が跳ね上がる。どうやら地雷を踏んだらしく、悪寒が凄まじく増した。

 2人の眼はキュピーンと光り宛ら猛禽類の類のよう。ニヤーっと肉食獣よろしく鋭い笑みを浮かべ、今にも食われ兼ねない様な雰囲気を漂わせる。

 

「ほっほう、曲りなりにも美少女二人に抱きつかれてこの低リアクション。何やら女のプライドが傷ついたな。なぁ弁慶?」

 

「えぇ、全くですね先輩。しかも喘ぎ声まで聞いておいて」

 

「待たれよ。モモは兎も角弁慶、腕組みもそうだがその台詞は其方(そなた)のキャラではあらぬだろうに!?」

 

 何時もの飄々としてものぐさな性格は何処に追いやったのだろうか。

 

「むー、おっぱいなら僕も負けないよー」

 

 何やら小雪まで混ざってきてしまった。

 

「モテモテですねノルン君」

 

「状況はカオス以外の何物でもあらぬがな?」

 

 グダグダである。

 

 視線をファミリーの方へ向けても女性陣は顔を赤くしたりニヤニヤしたり。

 男性陣はモロとガクトは先程の2人のやり取りが原因か前屈み。大和は苦笑しっぱなしで、キャップは既に何処かへと消えてしまっている。

 更にその周りには男女問わず嫉妬の目線が集中。

 モモと弁慶と小雪は何やら変な方向に話を進めている。個人的には白昼堂々と胸胸言うのはどうかと思う。

 そしてそんな姿を見て微笑みを湛えたまま眺める冬馬。

 このやり取りは義経と与一が戻ってくるまで続けられた。

 

 もう一度言おう、グダグダである。

 

 

 

 

 

 ―――夜、自室。

 

「全く災難だった」

 

「あっはっはー、ごめんねぇ。でも、役得だったんだし、お相子ってー事で、1つ」

 

「ま、良いがな。確かに役得ではあったし」

 

「ノルン君?」

 

「……なんでもありませぬ」

 

 何故だろう、今日に限って女難の相が出ているのか、らしからぬ状況ばかり降りかかる。ガクト辺りは羨ましいとでも言うのだろうが、渦中にいる者にとっては疲労も甚だしい。

 色々と役得であったのは認める。長生きして、伴侶がいる身であっても己も男子だ。

 2人とは別角度からの威圧感も複数増したのでこれ以上は触れないでおく。

 

 今日は清楚と弁慶が来て部屋で飲んでいる。先程まで紋もいたが九時を半分も回ったため自動的に睡眠に。

 そして毎度の光景へ。

 

「そういえば、明日は清楚のクラスで歓迎会が行われるそうだな」

 

「うん。みんなが推し進めてくれてね、楽しみだよ」

 

 なんでも京極先輩―――3年S組で言霊部なんていう部活の部長を務めるミステリアスな美青年で転入してモモ経由で知り合い知己の関係―――が部活動の一環で多目的ホールを申請していたので、ついでに歓迎会を、と願い出てそれを鉄心殿が特例で許したらしい。

 1枚噛みたかったとこだが、折角の清楚のクラスとの交流の場、邪魔をするのは無粋と静観に徹した。差して滞るものも無かったし。

 鉄心殿は兎も角、言霊部で多目的ホールを使用というのはどういう活動をしているのか興味が湧く反面、なにか覗くのに勇気がいるのは何故だろう。

 

 閑話休題。

 

「うむ。仲ようなれておるようで何よりだ」

 

「うん。みんな気にしないって言ってくれて嬉しかった」

 

 盃を傾けながら嬉しそうに語る清楚を見る。平時の清楚は人受けが良いと思っていたが、予想以上の受けの良さとバイタリティだ。

 流石は川神学園とでも言うのか。清楚程度の変化では揺るがないらしい。

 

 話題は変わって、義経達の事。

 

「私の方も源氏3人の歓迎会を催す予定だ」

 

「あれ、そうなの?」

 

「うむ、発案は紋だ。丁度12日は三人の誕生日。歓迎+誕生日+親睦を兼ねて、な」

 

 会場や食材の確保は出来ている。後は会場の設営と料理ぐらい。

 大和と相談してこの辺りは協力して貰っているので滞りない。

 持つべきものは友。鮮やかと言える手際で骨子だけだった私と紋の計画を纏めてくれた。

 

「なら、人手がいるよね。私も手伝うよ」

 

「忝い。助かる」

 

「ベン・ケーも感謝する!」

 

 顔が真っ赤だぞ、ベン・ケー。

 彼女は笑いながら盃を傾け、ツマミを取ろうとして―――無い事に気付いた。

 ちなみに、ツマミは先程無くなったので取ろうとしたのはこれで2回目。

 ツマミー、と強請ってくる。思わず清楚と苦笑。

 ハイな、と生返事を返して新たにツマミを用意する為に腰を上げた。

 

 

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