気まぐれ神様の物語 真剣恋Ver.   作:ジーザスルージュ

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28話

 朝も早く。

 2人の男女が剣を構えて厳かな空間の中、見合っていた。

 一切の雑念を許さない緊張が張り詰める。

 

 最初に動いたのは女性の方。

 疾風すら生易しい速度で突貫し、手に持った刃を振るう。白刃が煌めき相手を斬らんと襲い掛かる。

 極音速に到るその斬撃を向けられた者は刃の軌跡が既知だったかの如く合わせる様に長い刀を振るい迫りくる刃を逸らす。

 それに留まらず逸らしたエネルギーを利用してカウンターに掌打を繰り出す。

 狙い目は顎。

 

「―――ッ!」

 

 動きの勢い利用するのは相手の男性だけではない。女性の方も反撃を予想していたのか体勢を崩す事も無く逸らされた勢いで回転し追撃を躱した。

 その勢いを利用して刀を横薙ぎに一回転。

 向けられた相手も返す刃で防ぐ。

 

 響き渡る金属音。

 そのまま火花を散らしながら鍔迫り合い、やがて円舞の如く立ち位置を入れ替えながら刃をぶつける。

 

 ―――1合。

 

 ―――5合。

 

 ―――11合。

 

 ―――23合。

 

 ―――50合。

 

 終わりない円舞(エンドレス・ワルツ)も斯くの如く。

 目まぐるしいその速度たるや壁を越えたもの相応で見る者がいれば感嘆と共に見入っていただろう。

 生憎と3人しかいないが。

 

 しかし、終わりが見えないと思うこのやり取りも幕切れは呆気ない。

 再びの鍔迫り合い。体当たりでもしたのか、密着状態から女性が吹き飛ばされどうにか体勢を崩さず前を見据えた時―――勝負は決していた。

 

 首元には先程まで打ち合っていた刃。遠間から一瞬で距離を詰められていた。

 この瞬間少女―――義経の敗北は決まったのだった。

 

「ふぅー……また負けた。やっぱりノルン君は強い! 義経は尊敬する」

 

 ジーっとキラキラした目で見つめてくる義経に対してありがとう、と礼で返した。

 子犬的に見られてつい頭に手が伸びる。

 んー、と気持ちよそうにする義経。ワン子とは似て非なる可愛さだ。

 

 傍で見ていた弁慶、清楚が近付いてくる。

 言うまでも無く与一に関しては離れたところで寄ろうともしない。

 お疲れ様、と言って弁慶は義経、清楚はこちらにタオルを渡してきた。

 

「ありがとう、義経は感謝する」

 

「忝い」

 

「どう致しまして。相変わらず2人とも濃い鍛錬してるね」

 

「今日も挑戦者が一杯なんだから倒れない程度にね、義経」

 

「分かっている。でもノルン君との鍛錬はとてもためになるからな。ついつい熱くなってしまう」

 

 元気一杯に笑顔を湛えながら義経はまたやろう、と言ってくる。程々に疲れない程度にな、と返した。

 そろそろ切り上げて朝食を済まさないと。

 今日からは母上がしばらく共に過ごす事になっている。

 

「みな、朝食にしよう。と申しても私は別だが、朝食は私手ずから作らせて貰った」

 

「おぉ、それは楽しみだな」

 

「いやいや、今まで鍛錬してたのにどうやって?」

 

 そこは企業秘密である。

 隠す程のものでもないかもしれないが手札は出来るだけ秘する方が良い。

 4人とはそのまま別れ、一端部屋へ。他の家族は既に広間にいるだろうから手早く済ませないと。

 

 

 

 

 

 ―――大広間。

 

 何時も家族で食事をしたり、あるいはTVを見たりして、ここ極東本部に於いて九鬼家が一家団欒で過ごす空間。

 扉を開いたそこには既に父を除く九鬼の面々が揃っていた。

 

「遅くなり申し訳ありませぬ。九鬼ノルン、馳せ参じました」

 

「おぉ、おはようノルン! お前も元気そうで何よりだ」

 

「姉上もお元気そうで」

 

「これで全員揃いましたな」

 

「我ら兄妹4人揃い踏みである。めでたい事よ」

 

 フハハハー、と九鬼特有の笑い、嬉しそうな紋。

 姉上も兄上も多忙極まる身の上。こうして兄妹だけでも全員が揃う事は珍しいので紋の気持ちも分かる。

 母上はそんな光景を見て九鬼も安泰だ、と優し気に語るのだった。

 

 兄上が此処にはいない父上の居場所を母上に尋ねた。

 父である九鬼帝は生涯現役を貫き、姉上兄上以上に多忙だ。ある一日にシンガポールにいたかと思えば翌日にはアメリカだったりとハードスケジュールなため、その居所は母上か父上の秘書だけが魔改造とも言える程この身が手を加えた専用GPSで把握している。

 このGPS、衛星とセットで手を加えており量子波通信の応用で地下深くや電波障害下でも届く仕様だ。

 母上によると父上は今現在オーストラリア西方沖らしい。

 

「とすらば……軌道エレベーター建設候補地の一つの視察ですか」

 

「其処に関してはノルンが主導の元、行っていると聞くが、どうなのだ?」

 

 母上は純粋な興味で聞いてくる。

 主導と言っても計画の根本的部分である軌道エレベーター本体建設に必要な開発だけ。其処に到るまでの過程はほぼ父上主導なので関与しているとは言い難いが。

 

「建設資材、機材、人員の確保は概ね順調です。以降も想定される問題が全て起ころうとも、私の試算では現段階の技術力で約半世紀……あらゆる問題がスムーズにクリアした場合30年と少しで建てられるかと」

 

 本来なら建設だけで1世紀近くは費やすであろうをそれは今の段階ですら九鬼でやると半分近く縮められると己の心眼は告げている。凄まじくとんでもない話である。

 流石は九鬼と言うか、個人的には空恐ろしい。

 

「宇宙へ伸びる橋……机上の空論である筈のそれが既に眼と鼻と先にあるというのは感慨深いものだ」

 

「全くですな姉上! これぞ浪漫というもの!」

 

「候補地として他にどこが上がっているのだノルン?」

 

「現段階ではアメリカ、中国、日本等です」

 

「日本も候補地に入っているのか?」

 

 首肯する。

 より詳しく語るなら沖縄の周辺である。立地的に台風などの災害に遭いやすいが、いざ建てる時に他の候補地との折り合いを付けるのには割合楽だ。どっちにしてもユーロ圏は黙って無いだろうが。

 

 無論周辺の住人への対応、各国への根回しなど問題は多いがそれは何処に立てようとも同じ事。

 そのため以前父上が、いっそのこと専用の超巨大人工島を作るのはどうだろうとポツリと漏らした時があった。冗談だろうと最初は思ったが資金や建設期間と各国との折り合いのリスクリターンを考えた場合にさて、微妙な所なのが現状。

 誰だって宇宙に対する憧れや軌道エレベータ―がもたらすであろう莫大な利益は欲しいと思うのは必然の事。

 そこを否定するつもりはない。

 

「ふむ、そうか。引き続き九鬼の為に尽力せよ」

 

「はっ」

 

 話題は転じて義経達武士道プラン組に。

 みな概ねクラスに溶け込んでいるというのが己と兄上の感想だ。紋もフォローしている。

 しかし概ね、という言葉が指す通り滞りなくではない。

 

「懸念点は与一の性格か? 英雄」

 

「まさしく仰る通りです」

 

「報告では地方で義務教育を受けている頃は問題も無く素直な性格だったとあるが……」

 

 こちらを見る母上。その目は厳しくどうなのか、と問い詰める眼差しである。

 紋が心配気に見守っているが大丈夫だと目線で語り、母上に話す。

 

「多感期、というのもありましょうが……最たる原因は先の(・・)社員達の陰口にあるかと」

 

「お前がやんちゃした、あの一件か?」

 

「如何にも」

 

「フハハハ、繊細なのだな那須与一は」

 

 姉上が剛毅過ぎるのだと思う。付き合いがそれなりにあるこっちにしてみれば、ああいう方向で良かったと思う。

 下手をすれば文字通りの不良に転ずる事もあった。可能性は低いが。

 理由は―――語るまでも無いだろう。

 

 どうするのか、という母上の尋ねに兄上は紋が解決策を講じてくれたと語る。

 

「明日、校内で宴を開く事にしているのです。義経達の誕生会を兼ねて」

 

「校内で祝う事でより馴染みやすくなるのではと……全て妹の発案です」

 

「そうか、シンプルだが有効な手であろうな。良い案だ紋」

 

 有難うございます、と嬉しそうに言う紋。兄上は優しく頭を撫でる。

 

「で、ノルン……お前の方はどう動いている? 与一達の事、基本的にはお前が面倒をみている筈では?」

 

 紋に笑顔を向けた後、こちらに目を向ける母上。暗に妹に任せっきりではないだろうな、と仰りたいのだろう。

 

「は、母上、それは―――」

 

「無論、紋の発案の元、手筈に抜かりなく。あぁ、これに対しては兄上や従者部隊の手は煩わせておりませぬ」

 

 私の友に協力して頂きました、と告げる。

 母上は鼻で1つ笑い、苦言を呈した。

 

「妹の案に乗り掛かっているのだ。それぐらいは当然である。……この上くれぐれも九鬼の名に泥を塗るでないぞ?」

 

「先刻承知」

 

 恭しく頭を下げる。その様が癪に障ったのか不機嫌な様子がこっちにまで伝わってくるようだ。

 しかし、それも当然と言えば当然である。

 ともあれ、このままでは労わる様な兄妹の空気もアレなので、話題をずらす事に。

 

「それにしても、宴のみならず周りの環境に考慮してその規模まで気を配る辺り、やはり紋は優秀だ。学園に来て間もないと申すに、兄上に迷惑が行かぬよう自分だけで人手を集めて為さんとする心算だったのですよ」

 

「そうなのか、紋?」

 

「は、ハイ。手に負えぬようならヒューム達の手も借りる事は考慮しておりましたが……」

 

「それでも転入初日からクラスの掌握に始り、学園内で将来有望な人材の発掘、更には与一達に対する気配り、兄上に負担を掛けまいとの配慮……ここまで為せれば大したものだ。兄上や姉上もそう思いませぬか?」

 

「うむ! 全くもって出来た妹よ、なぁ英雄」

 

「まさしく仰る通り。上も下も我らが誇る姉妹です。なぁ、ノルン」

 

「はい、兄上。自慢の姉妹です」

 

「……」

 

 兄妹団欒。

 傍から見ても仲の良さ気な様子を母上は黙して見つめる。

 その胸中に何を思い浮かべているかは当人だけぞ知ること。

 

 徐に広間の扉が開き、姉上の専属である武田小十郎その人がやってきた。

 姉上の指示で川神水を持ってきた様だ。なのだが、何やらかなり足取りが怪しい。

 緊張が原因か、アレでは転び得るぞ―――と思った次の瞬間には躓いた。それどころか、転んだ拍子にグラスの1つが姉上の頭の上へ。

 その後、姉上と2、3会話した後毎度恒例のお仕置きとして天高く殴り飛ばされていった。即座に開閉式の天井をオープンにする辺り、クラウの優秀さと、状況の恒例具合が窺えるというもの。

 角度と力具合からして相模湾辺りだろうか。

 

 母上は彼を原石では無く路傍の石と称しているが、自分的には氣も手繰れず純粋な頑丈さと根性のみで姉上の拳で骨折などしない辺り褒めていいと思う。あのタフネスはなかなか得難い物だ。

 彼が姉である九鬼揚羽の側に置かれているのは彼の血液型が姉上と同じ稀少であるが故。

 なのでミスも続けば解雇もあり得るので小十郎は常に日々精進の毎だ。

 

 小十郎が飛ばされてからは到って普通に食事を終えて各々お勤めを果たしに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 ―――2-S、朝のHR。

 

「―――んじゃ、出席終わり。特に報告もなしだ。お前ら後は好きにしてな」

 

 宇佐美先生の言葉に従い生徒は思い思い過ごす。といっても殆どは参考書や教科書を開いて静かに勉強。

 文字通り自由に振舞っているのは本当に極一部だけ。

 そんな教室の様子を観察していると、ふと圏境の間合いに引っ掛かるモノを感じて窓―――正確にはグラウンドに眼を向ける。

 其処には6月に赴任したばかりのカラカル・ゲイツ教師がルー師範代と話しているのが見えた。3年の一クラス分ぐらいの生徒を引き連れて。

 直ぐ隣には2人の少女。1人は川神百代でもう一人は見知らない少女であった。

 

 一見して爽やかそうに見えるが、何処となく蜘蛛的な狡猾さを感じる。

 加えて実力もかなりのモノで、まゆっちに負けず劣らずといった所と見た。

 

 グラウンドに態々HRの時間に出るという事―――

 

 例外はあるがこの学園で、この状況は十中八九決闘を意味する。

 それが証拠に女生徒の1人が大量の武器のレプリカを持ってきて地面に乱雑に置く。

 

 ―――珍しい。

 これが正直な感想であった。どちらが吹っ掛けたにせよ戦う相手を選り好みするモモが試合に応じた段階で稀と言っても過言ではない。

 ましてや、鉄心殿がいない以上間違いなく本気の出せる試合では無い。

 それだけの実力を彼女に見出したという事か。

 

 見知らぬ少女とモモが向かい合い―――

 

「レーーーーッツ、ファーーイトッ!!」

 

 響き渡るルー師範代の号令。

 開幕からの無双正拳突き。しかも弧月を使って。

 少女は武芸者としての直感が働いたのか、腕をクロスして後方に跳んだ。打撃の威力を軽減する為だろう。

 しなやかとも言えるその防御は見事だった。

 だが、それで火が付いたのか、モモは獰猛な笑み浮かべて突撃。激しい攻防が繰り広げられる。

 

 騒ぎに気付いたのか何時の間にか様々なクラスがこの試合に魅入り、歓喜している。

 秒殺に定評がある (らしい)モモと試合になっているのがやはり珍しいらしい。

 無論、それだけではない。モモと対する少女の方もその一因。

 乱雑に置かれた武器を手にとって巧みに扱っているのだ。お互い本気ではないとはいえ、其処を抜きにしてもその器用さは目を見張るものがある。

 しかし―――

 

「あの技術は見事です。だがしかし―――」

 

「器用貧乏ですね、決定力に欠ける様じゃ勝負に勝てません」

 

 元と現役の軍人コンビの言うとおり武器を上手く扱えているがどうにも今一歩だ。

 薙刀はワン子の方が扱いは美味いだろう。弓に到っては京と比べるべくもない。

 

 しかし、己が注視しているのはそこではなく―――

 

(あの目、がむしゃらに武器を扱っておるのではなくモモの動きや癖を探っておるな)

 

 彼女自身の視線。宛ら獲物の動きを探る補食獣の如く。

 勝つ為の算段を常に立て、その道筋に沿って歩く技巧派か。続けられる舞闘からは節々にそういう類のモノを見受けた。

 しかも、実力は武道四天王とやらの称号に充分に値するとなれば―――勝機さえあれば本当に倒せるかもしれない。

 その可能性がある考えを頭に過らせる。

 

(彼女ならば―――或いは……)

 

 ふと視界の片隅に義経が入った。試合の方には目を向けず思いつめた顔している。

 側には弁慶がよしよし、と義経の頭を撫でており、その様子からして義経がまた悩んでいるのだと悟る。

 席を離れ義経の元へ。近付いてきたこっちに対して弁慶がアイコンタクト。

 

(主が歓迎会の一件で思いつめちゃってね)

 

(だと思うたよ)

 

(特に与一がな……全く主にこんな思いをさせて)

 

(そこは……なぁ)

 

 頭が痛いところである。

 

 彼女がぶつぶつと呟く独り言もそんな感じだ。

 そんな義経の顔にスッと手を伸ばし、健康的で白く肌触りの良い顔へ置き、強めに頬を引っ張った。

 

「むお!? なひおふるんだノリュンくん!?」

 

「何とは、根の詰め過ぎな友達に渇を入れておる所だが」

 

 ほっぺたの柔らかい肌触りを密かに楽しみながら言葉を続ける。

 

「どうせ歓迎会の一件で思い悩んでおったのだろう?」

 

「にゃ、にゃへそりぇを―――」

 

「わからいでか」

 

 ピン、と頬から手を離し、あーうーと唸りながら自分の頬に手を当てる義経。それなりに痛かったようだ。

 何やらその様子に弁慶がほっこり顔だがこの際無視した。

 

「全く、前に私が申した事をもう忘れたか?」

 

「! そ、そうだな。ノルン君ものは相談なんだが歓迎会の事、義経はどうしたらいいんだろうか?」

 

「さぁ?」

 

「ノルン君!?」

 

 冗談だ、と返す。むー、と恨みがましくこちらを睨む義経にすまなんだ、と謝り言葉を続ける。

 

「まぁ、為せる事があるとすればパーティを楽しみにしておくことだ」

 

「楽しみに……」

 

 うむ、と首肯。

 そもそも、迷惑なのではなくみんな好きでやっているのだ。何だかんだでお祭り好きな節があるこの学園の生徒。

 準備しているみんなの顔も活き活きと楽しそうだ。

 作業現場を見た事がある義経にその事を告げると、確かに、と義経も肯定した。

 

「故に、気に留める必要はあらぬよ。何より祝われる側に其処まで辛そうな顔をされてはこちらも微妙だ」

 

 だから、パーティが始まるまで楽しみに待ち、パーティが始まれば大いに興じればよいのだ、と言う。

 

「それに、与一の事も前にも申したが嫌っておる訳ではない。素直になれぬだけなのだよ。なぁ、弁慶?」

 

「そうだよ、主。今は一時的に悪い病気になってるだけだからね」

 

「そうか……」

 

 私と弁慶を噛みしめるかのように肯く義経。表情も和らいでいる。

 有難う、と言う義経に弁慶はその頭は撫でる。

 

「さ、気分転換に試合でも見てみよ。かなり刺激なるぞ?」

 

「分かった!―――って」

 

 グランドに目を向けてみれば先程の戦いも嘘のように止んでいた。周りからも声援が上がっている。

 決着がついた感じには見えないので恐らく時間切れだろう。

 

「終わっちゃったねー」

 

「あー、見過ごしてしまった」

 

「致し方あるまいよ」

 

 やがてモモと戦っていた少女はマイクをルー師範代から受け取り―――元気よく声援に答えた。お礼代わりのマイクパフォーマンスらしい。

 

「京都から転入してきました、松永燕です! これからよろしくお願いしますっ!」

 

 続いて何を言うのかと耳を傾けてみたら、モモ相手に粘れたのは納豆のお陰だと声高に語った。

 それもただの納豆では無く松永納豆。彼女の家が起した副業のようだ。

 

 ―――つまるところ、宣伝である。

 

 露骨な宣伝だが、その明るさとサバけた雰囲気、何よりモモと渡り合えたのが当たりだったようで、みんな受け入れていた。

 

「流石は西で有名な納豆小町ですね……見事な宣伝です」

 

「知っておったのか、冬馬」

 

「はい。可愛い女性のデータは大体インプット済みですよ」

 

 それはそれは、と苦笑しながらもう一度松永燕を見つめ、その顔を記憶に焼きつけた。

 

 

 

 

 

 ―――放課後。

 

 会場予定地である多目的ホールは既に大和の協力と伝手で集まった人で賑わっていた。

 全員一丸となって設営にあたる。

 

「我等も手伝うからな、1年からもどんどん人を出すぞ」

 

「助かる紋」

 

 机の設置、紅白幕を飾り、教室に予めあった置物―――何故ツボなどがあるのか謎だ―――を退かすなど意外と仕事が多い。紋や紋が連れてきた1年と協力して作業に当たる。

 そんな中、こんにちは、と清楚に挨拶して入ってきた清楚。その後ろからは京極先輩もやって来た。

 

「手伝いに来たよノルン君」

 

「おぉ清楚。忝いな、助かる」

 

 昨日に歓迎会を行った後だというのに、こうして手伝って貰えるのは有難い。

 京極先輩は大和の方に声を掛け、書いて欲しい字はなんだ、と尋ねている。大和が呼んだらしい。

 これはなかなか豪勢な宴になりそうだ。

 なんて思いながらも作業を続ける

 

「こっちの大きな壺二つは私が持つ。清楚はそっちの盆栽を頼めるか?」

 

「うん、任せてよ」

 

 もう一度思うが何故、盆栽や大きな壺があるのだろう。骨董品の類だろうが、この多目的ホールが前に一体何に使っていたのか本気で気になってきた。

 清楚に重い物は持たせられないと思ったのかガクトが自分がやります、と願い出たが大丈夫だよ、と清楚はそれなりに大きく重い筈の盆栽を軽々と持ち上げる。

 その光景にみんな愕然としていたが―――

 

「こう見えても結構、体鍛えているんだよ。ノルン君と一緒に鍛錬に付き合って貰ってるし」

 

「た、鍛錬?」

 

「清楚の趣味は読書の次に身体を動かすこと故、な」

 

 清楚の言葉とこちらのフォロー、何より笑顔で上品に振る舞いにみんな納得している。清楚と違い、殆ど騙しているに等しい自分が言うのもなんだが、単純すぎではないだろうか。

 そんな考えを頭の隅に追いやり運ぶ。

 清楚とのやりとりが気安い感じに見えたのか、戻った時に清楚との関係をガクト達他の男子などから問い詰められたが作業を理由に煙に巻く。

 食材の調達もあることだし。

 

 

 

 

 1時間後にはかなり形になっていた。

 会場の設営指揮は紋達に任せて今現在買いだしの帰りの最中。

 電話で大和と他の面々の成果を報告を聞いていた。

 

「―――にしても、事前にこんな広範囲で交渉を済ませてるなんてな。おかげで思う以上に安く仕入れる事が出来た」

 

「それは何より。みな、昔からお世話になって10年以上の付き合いであるからな」

 

 食材の買い出しについては事前に根回しを済ませて置いた。これでも小さいころから様々な場所にまわって良い食材を求めて探してきている。

 その為か、川神界隈の直売店に関しては金柳街程ではないがかなり融通が効く。後は店員の性別に合わせて買いだしを頼むだけ。

 主にキャップとクリスと京が出張っているとか。隙のない人選に感心する。

 

「後で何かおごらせて貰うよ、軍師殿」

 

「期待しておくとしよう兄弟」

 

 そのまま電話を切り学園へと戻る―――

 

「ひゃっはーもーらい―――ブゲっ!?」

 

「このやりとりも何やら随分久方ぶりだな」

 

 途中で出くわすひったくりなどを蹴散らしながら。

 武士道プランで街をクリーンにしているとはいえ、こういう輩は後を絶えない。気絶させたものは桐山に連絡して引き取ってもらった。

 

 

 

 

 

 戻ってからも作業は続き、今現在は夜遅く。紋や義経達には先に帰って貰い今は金柳街にある梅屋のチェーン店で腹ごしらえする事に。

 提案は自分。最後まで残って手伝って貰った大和、ワン子、モモの3人にささやかなお礼として奢ることともう1つ、目的があってここを選んだ。

 

「嬉しそうだな、モモ」

 

「だって滅多にない奢りだぞ、奢り! それもノルンからの!」

 

「凄くはしゃいでるわね、お姉様」

 

「はしゃぐの構わぬが、背中から降りよという話だ」

 

 自動ドアを潜って入ると聞き覚えのある声の店員が客の受けごたえをする。

 

「なんか、釈迦堂さんの声に似てる?」

 

「似てるも何もそのものズバリだ、ワン子」

 

 えっ、って驚愕してる所に似合って無い梅屋の制服で現れる釈迦堂さん。同じ事を思ったのか白けた顔のモモ。

 気持ちは分からなくはないが、自分的にはこの似合わぬ姿にどことなく愛嬌があって良いと思う。誰だと、尋ねてくる大和に元川神院の師範代だと説明。

 

「お久方ぶりです釈迦堂さん」

 

「知り合いだからってマケねぇからな」

 

 いきなりな言い草である。そして、そう言いながらも結局なんだかんだで何かしてくれるのだろう。

 モモは知っていたのかと、と問うてくるので、首肯して答えた。そもそも武士道プラン発動に到って町のクリーン作戦時にヒュームが彼を負かし、就職口を斡旋したのは九鬼であり、ここを彼に勧めたのは他ならぬ己である。

 ヒュームはどっちの対応にも終始首を傾げていたが。

 

 予め買っていた食券をそれぞれ渡す。

 メニューを復唱したり、配膳したりとその姿はそこそこ様になっていた。

 モモからは不評のようだが。

 

「ほい、大盛り2丁、卵付き。カレー牛に豚丼とろろな。後、一子にはブタ皿、ノルンには豚汁おまけだ」

 

「いいんですか!? わーい! 有難う釈迦堂さん」

 

「ゴチになりまーす」

 

「うっわ。また贔屓だよ。一番弟子は私の筈なのにー」

 

「お前可愛げがないからな」

 

「じゃあノルンはどうなんです?」

 

「こいつの場合は……あれだ…一応! い・ち・お・う・の礼だよ、礼」

 

 礼、と小首を傾げるモモ。対してこちらは苦笑してしまう。

 

「やはり、分かってしまいますか?」

 

「わからいでか! ったく、余計な真似しやがって……」

 

「や、すまなんだ。でもここなら働く意欲も湧きましょう?」

 

 やっぱお前、一遍〆ときてぇ、なんて口にしながら仕事に戻っていった。

 

 話代を変えて今日のHRへ。

 

「随分と愉快そうであったな」

 

「あぁ、燕は結構デキるからな、そこそこ(・・・・)楽しみだ。尤も引っ越しの整理とかあって遊べるのは来週からだそうだが」

 

 そうか、と返しながら豚丼を食む。

 機会があれば紹介して欲しいと言ってみたら何かへそを曲げられてしまった。機嫌取りに更に一品奢らされたのは完全に余談である。

 

 

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