―――昼休み。
放課後の歓迎会に向けての最終チェックの最中。
必要備品、料理の食材に洩れが無いか、会場設営に問題ないかの確認。
一通り漏れも不備もないのを確かめて昼食を取るべく屋上へ向かった。
階段を登り切り、扉を開けたその先には先客がいた。
「おや、大和か」
「ノルン……」
ちぃーっす、と手を上げて挨拶して、側まで近付く。ベンチに横になっている姿を見る所、放課後の為に体力を温存しているという所だろう。
近付いたところで、建物の死角にいた人物にも挨拶する。
「こんにちは、松永先輩」
「こんにちは。君がノルン君?」
問いに対して首肯する。モモ辺りから聞いたのだろうか。
そう思うと案の定、モモから話は聞いていると語る彼女。
「モモちゃん、嬉々として君の事を語ってたよ。なんだか親しいんだね」
「えぇ、モモとの付き合いの長さならこの学校で私が最たるでしょう」
納豆小町の松永燕。にこやかに笑うその姿はとても可愛らしい。
しかし、その好奇心の中に感じるこちらを探るような気配。やはり何やら只ならぬものを禁じ得ない。
敵意は無いので含まず会話を続ける。
昼食であるサンドウィッチを食べながら。
「君とモモちゃんの仲の良さって結構有名なんだよ」
「え、然様ですか?」
燕先輩が肯くの見て、大和にアイコンタクトで尋ねてみても首肯された。其処まで有名とは思ってもみなかったというのが正直な感想だ。
松永先輩は興味津々といった感じでこちらを見つめる。
「やっぱり只ならない関係なのかな?」
「ング、ング……そんな色のあるものではありませぬよ。腐れ縁です」
もしくは飼い猫と飼い主です、と続けると松永先輩は可笑しそうに笑う。横であー、なんて言いながら肯いている大和。
傍から見ても、この表現がしっくりくる。我ながら言い得て妙である。
「いやー、ノルン君も面白いね。君にも赤外線照射しちゃいましょう」
てりゃー、と携帯を向けてきたのでこちらも向けて受信。お返しに送り返した。
「大和君もだけど、今度一緒に遊ぼうね。これ、お近づきのしるしをどーぞ!」
手渡されたのは試供品の納豆。我が九鬼でも朝食にはこの松永納豆を使っている。
確かにこの納豆は美味い。礼をいって受け取った。
松永先輩はそのまま軽やかに、爽やかに去っていく。その身軽さと隠行に感心する。
ふと隣を見てみると、何やら複雑そうな顔をしている大和。
「どうかしたか?」
「いや、何でもないよ」
そう言いながらも携帯に眼を落としている。先程の会話を思い返してみて―――1つの事柄が思い浮かぶ。
「連絡先の交換、ひょっとすると何か言われたか?」
「べっ、別に、何もないですよ? それより、美味しそうだな。そのサンドウィッチ」
清々しい程にあからさまな動揺と話題転換。
苦笑しながらハイ、と卵サンドを渡し、ごちそうさまと言って弁当を畳む。
「ではまた放課後にな、大和」
「おう、サンキューなノルン」
後ろから聞こえる声に手を上げて答えながら出入り口へと足を向ける。
そして扉を潜ったところで圏境全開で透明化する。すると、階下からモモの姿。
大方大和か松永先輩か己を探して大和を見つけたのだろう。こちらに気付く様子もなくすれ違い、教室へと帰った。
―――放課後。
「よし、これで最後の料理だ」
近くにいたブルマ姿の一年生に頼んで運んで貰う。使った道具をまゆっちと共に洗う。
大体半分位になったところで、ここは任せて会場の方へ行くように言う。
最初は渋っていたが、重ねていって向かって貰った。
その後も手早く洗い物を済ませて、調理室を後にする。
会場へ着くと、其処には既に大勢の人が集まっていた。
学年問わずに参加して集まり過ぎな程に。
2-Sの面々も冬馬やマルギッテの協力の元、参加しており、思い思いに過ごしている様子。
だが、会場をぐるりと見渡してみても主賓の義経達の3人の姿が見えない。頭に過るのは宴を開く切っ掛けを作った厨二君。
携帯で時間をみると開始まで10分弱。姿の見えない3人に疑問を思った各所から声が上がる。
「宴の開始時刻まで猶予はある。それまで今しばし待って頂きたい」
ざわめく場を収めた所で着信。相手は弁慶から。
嫌な予感を禁じ得ず電話に出てみるとやはりというか、土壇場で与一が渋っているとの事。
嘆息をつき、乱暴はご法度とだと言い聞かせ、弁慶達のいる所まで向かった。
「此処は任せろ」
「頼む大和」
屋上の出入口まで来てみると義経と弁慶がいた。
「やはり渋ったか、与一は」
「朝は行くって言ってくれたのに……」
「主に心労を掛けるとは、やはり殴ってでも」
握り拳を振るう弁慶を駄目だと宥め言い聞かせる。
ならばどうするのか、と問うてきた。この状況ですることなど―――
「説得するに決まっておろう」
まぁ、為して見せよう―――そう言って屋上に繰り出した。
昼休みに来たばかりのこの場所は、先程とは違って見えた。それが己の心境の変化がみせるモノだとしても。
なんて、考えても埒も明かない。パーティが開かられるまで後8分と少し。
ヒキオ君 (ヒネくれて気難しい男の略)を何とか説得して成功させたい。
フェンス越しの景色を見据え、黄昏ている与一に声を掛けた。
「まもなく宴が始まるぞ与一」
「ノルンか……俺を連れ戻しに来たのか」
「無論だよ、主賓君や。第一、義経に出ると口にしておきながら反故にするとは……」
「ハッ、アイツがしつこかったからテキトー返事をしただけだ。一貫して出たくねぇって言ってんだよ、俺は」
「然にあるが故に弁慶の不況を買っておるのだぞ?」
カンカンだ、と告げると、変なうめき声を上げ、次いで震えだした。携帯のバイブレーションの如く。それでも俺は自分を曲げねぇ、何て言ってる辺り意地っ張りだ。加えて張り所を大いに間違えているが。
そしてそういう意地は張るなら声はせめて騙せと言いたい。
綺麗に――と言うのも妙な話だが――裏返っている。
やれやれ、と内心頭を振る。怖いならせめて不況を買う様な言動ぐらい慎めばよいものをと思う。
閑話休題。
与一はこっちを皮肉気に見て言った。
「聞いてるぜ、ノルン。この宴、元は紋白の案なんだってな」
「あぁそうだが……」
「お前が一生懸命に取り仕切ってるのも、一応の責任者でありながら妹に株を取られてしまったから巻き返したいだけだろう? 母親に認めて貰うためにな」
「ふむ……然に見えるか?」
あぁ、見えるね―――こちらの問いを肯定する与一。
与一の問いは当たらずとも遠からずである。個人的に言えば巻き返すというよりは軋轢を深めない為の処置に過ぎない。
「此処だけの話、私はな、与一……紋ほど母上に好かれようとは思うておらぬよ」
「あぁ? ならなんで其処まで頑張るんだよ」
「己の為だな。与一、
「ハッ、なんだそりゃ、偽善者どころか自己中の理屈じゃねぇか。望んじゃいねぇよこっちはな」
「呵々、無論だ。そこは
言い切った後の何とも言えない与一の顔は必見だった。直ぐに戻ったけども。
「フッ、お前のそういう変に取り繕わず自分に正直なところは嫌いじゃないぜ」
だが、どれだけ言われようが俺は行かねぇ、と与一は言い放つ。
どうしてもか、と問うてもそれを肯定する。
ならば仕様がない。切り札を切るとしよう。
「貸しだ」
「あん?」
「去年のハロウィンの時の貸しをまだ返して貰うておらなんだな」
「うっ……」
詳しい事は省くが、去年に極東本部でやったハロウィンパーティのサプライズイベントで行ったビルの2フロアを丸々使った季節外れの即席肝試し大会の際、2人1組のルールで義経と組んでいた与一の悪ノリが過ぎて暗い所がやオカルト系が実は駄目な義経を驚かせすぎた。
敢え無くその場でドロップアウト。事情を聞いた弁慶が与一に折檻しようとしたところをなんとか自分が弁慶を宥めて与一は事なきを得たという話。
完全に余談だが、それが一組目だったのを機に肝試し大会は中止になってしまった。
「
「……フッ、良いだろう。それで借りがチャラに成るならな」
「うむ、ただし
言われなくても分かってるよ、と言って出口に向かう与一。
三文芝居、甚だしかったがどうやら参加の意欲が出てくれて何より。
出入り口で待っていた義経達と合流し、その場を後にした。
―――パーティ会場。
なんとか無事に時間までに間に合い、壇上では義経の挨拶を行っていた。
「今日は、義経達のために此処までしてくれてありがとう! みなの心遣いが何よりの贈り物だ」
弁慶、与一も一言挨拶を言って―――与一は準に少しイジられて―――宴は始る。
各々、立食しながら行われている歓談。
3年組の3人はモモが清楚に纏わりつき、アーン、と食べ物を清楚に渡して清楚が笑いながらそれを受け取り、京極先輩が何というか、興味深そうに眺めている。何とも不可思議な光景だ。
主賓である3人の内、義経と弁慶は何やら大勢に囲まれている。楽しげに歓談する様子に問題ないと視線を最後の1人へ向けてみると何やら人垣から離れた所でメガネの女性と話しているの目にした。
記憶の限り、彼女はモモから聞いた弓道部の主将だと思う。
察するにスカウトか。流石に弓に長けた与一か。
「よう、楽しんでるか兄弟」
「応とも、興じておるとも大和」
人垣から抜けてこちらに来た大和。少し距離を置いたために悪目立ちした様だ。
持っていたグラスをカチン、と打ち鳴らす。澄んだ音色が心地よかった。
「改めて礼を言うぞ大和。助かった」
「これくらいお安いご用さ」
「おぉ、此処にいたかノルン」
声のした方を向いてみればその正体は紋だった。手に持ったグラスを打ち鳴らし、お疲れさまと労い合う。
顔を見るにお互い楽しんでいる様で何より。
加えて紋に大和を紹介しておきたかったので好都合でもあった。
「紹介しよう紋。こちらは直江大和。モモに次いで私の古い友で此度の宴に必要な人員をかき集めてくれた最大の功労者だ」
どうも、と紋に頭を下げる大和。
対する紋の方は興味津々に大和を見つめる。
「成程、この宴がつつがなく進行しているのもお前のお陰でもある訳だな。礼を言うぞ直江大和!」
ありがとうな―――
満面の笑みで礼を言う紋。そして何やら少し顔が赤い大和。
この笑顔をマジかで見たなら気持ちは分からなくはない。
「其処まで大げさな事はしてないさ。会場や食材に関してはノルンが取りまとめたし。それにまだまだ、後片付けから現状復帰、報告するまでがイベントだと思ってる」
「素晴らしい心がけだ。まさしくその通りよ」
紋は懐から名刺を取り出し大和に渡す。若干戸惑いながらもそれを受け取った大和。
政界に進出すると同時に、川神で人材発掘する為に日夜奔走している紋の眼鏡に大和は適った様だ。
早い話がスカウトである。
「その能力、是非とも九鬼の為に役に立てて欲しい」
話はまたの機会にな、と言いながら去って行った紋。
友が家族に認められるというのは何とも感慨深い。
大和とはそのまま別れ、会場をブラブラ練り歩く。
「あ、ノルン君」
「君か」
「や、清楚、京極先輩。楽しんでおるか?」
声を掛けてきたのは3-Sの2人。
先程までいたモモがいないところを見ると他の方に行ったらしい。
「すまぬな、モモが色々ヤンチャして」
「あはは、気にしてないよ。私も新鮮で楽しかったし」
「……アーンが?」
「み、見てたの!? ち、違うよ! モモちゃんみたいな女の子が、だよ」
顔赤らめあたふたと恥ずかしそうに弁明する清楚。からかい半分に側にあった魚のフライ――これは自分作――を切り分け、アーン、とやってみた。
それに対して清楚はふぇ、なんて言葉ににならない声を上げて更に顔を赤らめる。迷いは僅かにアーン、と口を開けて差し出したフライを頬張る。
「ング……美味しいね、このフライ」
「ありがとう。そしてごちそうさま。愛らしい姿だったぞ。そう思いませぬか、京極先輩?」
「あぁ、確かに可憐だった」
「あぅ~……」
少しからかいが過ぎたか。顔を真っ赤にして俯いてしまった。
そして意外とスラリと答えた京極先輩にも少し驚嘆する。未だにキャラが掴めない御仁だ。
件の先輩はこちらをじっと見ている。
「なにか?」
「いや、君の事は川神百代から聞いていたものでな。以前から少し興味があったのだ」
ま・た・モ・モ・か―――
有名人とはいえモモが一体何を言っているのか1度問い詰めてみた方が良いだろうか。ここまで広がると何れ変な尾びれや背びれが付きそうだ。
「ふむ、成程。なかなか君も興味深い。容姿は元より本質的に浮世離れして見える」
「――――呵々、浮世離れはお互いさまでしょう」
「違いない」
薄く笑うその姿はとても絵になっている。
この先輩の瞳に宿っているのは何処までも興味の一言に尽きた。敵意がないとはいえ油断ならない。
心眼は告げる、目の前の人物は観察のみでこちらの本質を一瞬、ホンの欠片程度だが見透かしたと。
宛ら神仙の卵と
「改めて、九鬼ノルンと申します。以後お見知り置きを」
「京極彦一だ。よろしく」
お互い手を取り合って握手。
赤くなったままの清楚に後で、といってその場を去る。清楚は恥ずかしそうに、それでもまたねと律儀に返してくれた。
さて、このまま義経達の所へ、とも思ったが未だに人垣は崩れる事無く其処にあった。
あれでは無理だと諦めて宴を楽しむ事に。
しかし結局宴の終わる最後まで人垣が途絶える事は無かったのだった。
―――夜、帰路途中。
宴も滞りなく終わり、現在帰る最中。
最初は車であったが、義経が歩きたい気分との事で帰路は5人で徒歩に。ちなみに紋は車で一足先に帰った。
ゆるりと歩きながら今日の話題で盛り上がる。
「今日はとてもとても楽しかったな!」
「主はそればかりだね。よっぽど嬉しかったようだ」
祝ってくれた事や色々な人との交流が持てた事が義経は嬉しいらしい。
離島にいたころとは人数の規模が違うのも新鮮なのだろう。義経は宴が始まって今現在も眼は輝いたままだ。
ファミリーの面々改めてと話した事。
F組との交流。
他にも1年に強そうな剣士がいた事。(恐らくまゆっちの事)
3年の先輩達も優しかった事。
武神はやはりすごい迫力で強そうだったなど。
夜通し語りそうな勢いである。
「うむ、喜んでもらえて何よりだよ。と言う訳で私からも誕生日プレゼントだ」
まずは与一からな、と言いながら蔵からシンプルなデザインのシルバーリングのネックレスを取り出し渡す。
「魔払いの
「……ふん、一応受け取ってやるよ」
照れくさいのか、ぶっきらぼうに受け取る与一。突っ張れられなくて何よりである。
次いで弁慶に、と蔵から一升瓶を取り出す。
「何時ぞやの野外パーティで披露した川神水だ。質は同等、味は弁慶好みのモノの筈だ」
「お・お・おぉぉぉっ! あの時のか!! これは嬉しいね、ありがとうノルン」
凄いテンション、というかキャラが崩れだ。
渡した一升瓶を大事そうに抱え込んで、頬ずりまでしている。余程あの味が気に入った様子。
流石は狛さん。
最後に義経。
蔵から取り出したるは一本の短刀。シンプルな作りになっており刀全体から清澄な氣が醸し出す。
「些か女の子さに欠けるが、義経には源義経縁の品を」
最もオリジナルを模倣して作り上げた品ではあるが、と続ける。
「義経縁のレプリカ品……」
「名前は
伝説の名工三条宗近が打ったとされる名刀であり、義経記に記載されていた刀で鞍馬山に奉納された後は義経が肌身離さず持っていた代物。
知名度としては義経が自害の際に使った刀として有名な為、みんな少し顔を微妙にしかめてしまっている。
気持ちは分かるが、それも列記とした名品である。贋作だが。
「自害に用いた物として有名ではあるが、その刀、元を辿れば鞍馬山に奉納されし霊刀で、義経の守り刀として常に懐にあったのだぞ」
「そうなのか?」
首肯で返す。
この刀は持ち主が所持しているだけで霊的加護を与え更に幸運値や呪に対する抵抗力を上げる言わばお守りというべき代物。
この刀は内包魔力の性質を義経専用に調整したもの。実際に所持した状態を観察してみてもきちんと親和性が取れている様だ。
ひょっとしたらここぞという時にはステータスも上がるのかも知れない。
ちなみに、予め許可はちゃんとってあるので悪しからず。
「ありがとう。大事にするな!」
「どう致しまして。なるだけ肌身離さず持ち歩いて欲しい」
分かった、と早速何時もぶら下げている彼女の刀、薄緑の近くに結び付けた義経。
「でも、珍しいよね。ノルン君がこういうのを送るのって。私の時はかなり珍しい本だったけど」
「確かに、大体は相手の趣味とか趣向に合わせてるのにね」
「まぁ、これより先、挑戦者との戦も絶えぬだろうからな。せめて災い、怪我が少ない様にと願うた結果に過ぎぬさ」
「ノルン君……改めて義経は感謝する!」
全身で感謝を示す義経に歓喜とホンの少し面映ゆさを感じる。
他愛ない会話を続けながら帰路に就いた。