気まぐれ神様の物語 真剣恋Ver.   作:ジーザスルージュ

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32話

「さぁ、水上体育祭のは・じ・ま・り・だぁー!」

 

 モモの雄叫びと共に周りからどっ、と歓声が湧く。

 主に男子から。

 川神学園の水着は男子に制限は無いが女子はスクール水着着用を義務付けられている。

 高校生にもなってと思うかもしれないがそこのところは校則を決めた学園長こと川神鉄心に問いただして貰いたい。

 件の人物は女子学生をみて鼻を伸ばして居る。

 

 モモがはしゃいでいるのは単純に水着の女子が拝めるから。

 それ以上はあるかもしれないが、断じてそれ以下はない。

 本当に血の系統樹を感じさせる。

 

 体育祭らしく、クラスごとで競技の成績に合わせて得点を獲得し総合点を競うのは川神学園でも変わらない。

 競技の中身が立地を生かしたものというあるという点以外は。

 

「モモのあの癖はなんとかならぬものかな」

 

「女好きじゃないってのは当人の言葉だけど?」

 

 モモから聞いたであろう話を言ってくる準に存じておる、と頭を振るって答える。

 そういう意味での発言ではない。

 

「ただでさえ男らしいのに、仕舞いには同性にすら異性に見られそうでな。幼馴染としては同性に異性として告白何ぞされた暁には抱腹絶倒ものだ」

 

 笑い死ねる自身があるぞ、と言ってみた。

 確かに、と笑って同意する準。

 その準が何やら周囲を見渡して何かを探しているので、何を探しているのかと思って尋ねてみれば―――

 

「紋様のお姿を探しているに決まっているじゃないですか、お義兄さん」

 

「だから、タコを義弟にもった覚えなど無いわ」

 

 ロリコンでも犯罪は犯さないと信じている。こいつ(ハゲ)は変態でも紳士、の筈だ。

 悲しませたり傷付けたら唯ではおかない。絶対に。

 

「ノールーンっ!」

 

「おっと、跳びついたら危ないだろうユキ」

 

 声と共に背に跳びついてきた小雪を受け止める。背中に当たる発育の良さの象徴は密かに役得モノ。

 冬馬が小雪の後を追ってくるようにやってきた。

 周囲には冬馬のファンらしき女の子が大勢屯しており、黄色い声に冬馬が答えると、益々声が高まる。

 ただ、中には―――

 

「ねぇ、冬馬君の横にいる子だれ?」

 

「あー、川神先輩が良く抱きついてる子だねぇ」

 

 否でも耳に入る会話。

 そして此処でもやはりモモかと、何やら変な倦怠感を拭えない。

 

「結構美形だよね」

 

「でも、それ以上にあの髪と肌の色は気持ち悪いわー。よく葵君の横にいる女の子よりもずっと白いし」

 

「やっぱり冬馬君の方が素敵よね!」

 

 彼女達のモノ言いに苦笑半分感心半分。

 恋に恋するお年頃。よくもアソコから更に意中の相手の話に持っていけるモノだと感心してしまう。

 

「相も変わらずモテるな、冬馬は」

 

「ノルン君の水着姿も素敵ですね。どうです? 今度私とホテルにでも」

 

「呵々、断る。冬馬の事は好ましいがその領域には未だ到らず、だ」

 

「残念ですね。しかし、ここは好ましいと言ってくれただけで良しとしますか」

 

「ぶー、幾ら冬馬でもノルンは上げないよー」

 

「私はユキのモノでもあらぬがな」

 

 じゃれ合っていると、義経と弁慶がこちらにやってきた。

 そして案の定、与一は不在。

 今まで2人、正確には義経に弁慶が付き添う形で探していたのだが結局見つからず仕舞いで終わった様だ。

 

「どこにもいなかった……何処にいるんだろう? 与一は」

 

「全く、主を悲しませるなど後で折檻だな」

 

 弁慶、早くも沸点クライマックス寸前。

 

「ほら、そんな状態では折角の体育祭も楽しめぬぞ、義経。弁慶も川神水でも飲んで頭を冷やせ」

 

 ショボーンと肩を落とす義経の頭を撫で、弁慶へは彼女の持っている瓢箪を取って酌をする。

 肯く義経と不満げながらも飲み干す弁慶。

 

「……そうだな、今は水上体育祭を楽しむとしよう」

 

「ング、ング、はぁ……全く、お前が言うから今は肯いておくが、私は与一をこれ以上甘やかす積りはないからな」

 

「はいはい」

 

 ある程度モチベーションが戻った様で何よりである。

 それにしても、ここまで来ると与一にはMの気質でもあるのかと疑いたくなってきた。

 ここまで率先して制裁フラグを綺麗に建てるのはいっそ清々しい。

 

 色々グダグダな流れの中、水上体育祭は幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 ―――お昼。

 

 今回の水上体育祭、2-Sは然程勝敗に興味は無い様で午前の競技はまったりとある程度弛緩した空気の中で終わった。

 

 午前の部は軒並みF組が勝利を飾った。

 対抗心を燃やしていた2-Fは肩透かしを食らった思いだろう。

 それでも義経等はプランの責任から出る競技の優勝をもっていったが。

 義経の勝利には己も一部尽力した。

 具体的には2人3脚で。本来ならこのポジション、与一が適切だったのだが結局姿を現さず仕舞いなので代役として参加し、見事勝利を収めた次第。

 

 午前の部が終わり、現在何をしているのかと言えば―――

 

「次の料理出来上がったぞー」

 

 九鬼がヘリで運ばせた食材と調理器具で料理の真っ只中。

 ラインナップはTHE・海の家的なメニューで焼きそばやラーメンなど、所謂庶民的なモノばかり。

 ただ、やはり其処は裕福層の多いSクラス。最初は忌避されていたが―――

 

「やはり、ノルン君の作る料理は美味いな!」

 

「いやー、全く。このイカ焼きなんか、ちゃんと川神水に合う様に調理してくれてるし、嬉しい配慮だ。グビ、グビ」

 

「フハハハ、庶民的な料理も馬鹿にならぬわ! それもこれも作り手次第という事だろう、大変美味であるぞ、ノルン!」

 

「本当に美味しいですね、この焼きそば」

 

「味付けもソース、塩、果ては餡かけなんて洒落たものもある辺り気が効いてるなー」

 

「ウェーイ、ノルンの料理はやっぱり最高なのだ」

 

「ほう、そんなに絶賛するほどですか。興味がありますね」

 

「ふ、ふん、高貴な此方(こなた)にこの様な庶民の食べ物は本来口に合わぬが、義経達や九鬼英雄が絶賛するなら特別に食べてやってもよいのじゃ」

 

 武士道プランや兄上、小雪達普段から付き合いがある面々が絶賛するお陰で他の面々も手をつけ出して現在繁盛している。

 今も追加注文が入った。

 惜しむらくはデザート系がかき氷のみになったのは残念だ。

 スムージー等も用意しているが、やはり食材オンリーでは出来る事と出来ない事がある。

 

 と、繁盛を聞きつけてきたのか3-F、Sの見覚えのある面子がやってきた。

 

「おぉ、繁盛してるな相棒」

 

「やっほー。おーこりゃすごい賑わいだねー」

 

「こんにちは、お邪魔しに来ちゃった」

 

「いらっしゃい、3人共」

 

 モモ、燕先輩、清楚の3人組。

 ありそうで実は地味に珍しい光景である。

 Fの方は兎も角、Sの清楚が来ているのは、やはりモモのナンパが原因か。

 

「なぁ、何かお姉さんたちにも恵んでくれよー」

 

「己の弁当はどうした?」

 

「いや、ジジイ達がいるから自重して自炊したんだがな……いまいち物足りない」

 

 ようは集りに来たという訳である。

 とはいえ、予想通りと言えば予想通り。

 脇に置いてあった己用としていたピーチスムージーを渡す。

 

「私の分だが、それを渡す故、大人しゅうしておれモモ」

 

「自分の分とか言いながら予め私の為に用意しててくれるなんて気が効くなー、流石相棒」

 

 見え透いていたようで。伊達に長い付き合いでは無い。

 やかましい、と悪態付いて清楚の方にも杏仁豆腐を渡しておく。

 燕先輩には―――

 

「ナニコレ?」

 

「納豆に肖り、大豆つながりで豆乳で作ったスムージー風な飲みモノです」

 

 正直、地味に作るのに苦労した一品である。

 なにせ豆腐の製造過程で生まれる豆乳を敢えてスムージー風にするのは頭を使った。

 

「あ、美味しいねコレ。味の基礎は豆乳だけど、感触は豆腐じゃなくてクリームチーズを使ってるんだ」

 

「然り。お口にあった様で何よりです」

 

 ただ、スムージー風という表現通りスムージーとは少し異なる食感に仕上がった。

 どれどれと横で味見している清楚とモモにも好評の様子。

 

 先輩方の相手をしている間も調理の手は緩めない。

 瞬く間に一品出来上がった。

 ちなみに配膳は従者部隊から手伝って貰っている。

 

「じゃーん、納豆小町が一陣の納豆と共に参上仕る☆」

 

「うわっ!? あ、あー……義経の焼きそばが…」

 

「まぁまぁ、その組み合わせ、結構いけるんだよん。物は試しに食べてみて」

 

「納豆かけてドヤ顔とか……ング」

 

「合う訳が―――あれ、モグッ、美味しい!」

 

「良かった良かった。さぁさぁ、何にでも合う美味しい松永納豆は如何(いかが)かねー?」

 

 商魂逞しい松永先輩が義経の料理に納豆かけたり、納豆売ったり、モモが清楚を連れまわしながら2-Sの女子を冷やかしたりと軽いハプニングがあったが、食事も滞りなく終わり活力を補充して午後の部へ。

 

「クラウ、残りの食材で参加した従者部隊の分の昼食だ。機を見て食すがよい」

 

「お心遣い、感謝しますノルン様」

 

 

 

 

 

 

 ―――午後。

 

 午後の部は午前とは違い、それなりに盛り上がる内容だった。

 それもこれもやはり義経達の出盤ありきだ。

 

「本家として、ここは負けられない!」

 

 海上に船に見立てた障害物をいくつも並べ、決まったコースを走る障害物競争ならぬ船渡りアスレチック。

 本家に勝るとも劣らない義経の八艘跳びで場は大いに沸いた。

 まゆっちも追従したが、そこは義経、本家の意地を守り通し、見事1位に。

 

 同じく午後の部の競技大遠投。

 早い話浜辺から沖に配置したブイを目安にバレーボールを投げて飛距離を競う競技。

 

「いくわよー!」

 

 F代表でワン子が風を利用して投げ、ブイを配置した最大距離まで投げられるものの―――

 

「―――そおいっ!」

 

 弁慶に思い切り投げられたボールは天高く彼方に消えていった。

 

 キラン☆

 

 なんて効果音が付いても可笑しくない程鮮やかに。

 結果は言うまでもなく弁慶の優勝。

 ボールを拾いに行かなくてはならない教職員達には合掌。

 

 共同だったり個人だったりと実に多彩な競技を消化していった。

 残すところは現在やっている女子ビーチレスリングとクラス対抗怪物退治。

 怪物退治ってなんだと、問いたいが今は応援に専念しよう。

 

 とは言っても―――

 

「うわぁ!?」

 

「それまで。勝者弁慶」

 

 撹乱しようとしたクリスを強引に掴みかかって投げ飛ばす弁慶。

 相変わらず問答無用の腕力だ。

 こちらに戻ってきた弁慶にお疲れ、と預かっていた川神水で出迎える。

 

「お疲れ様」

 

「いやーどうもどうも」

 

 渡した盃を豪快に飲み干す。美味しそうに喉を鳴らして飲む様は実に気持ちの良い飲みっぷり。

 プハー、と息を吐いて徹頭徹尾豪快であった。

 顔は満面の笑みで、実にご満悦の様子。

 

「あー、やっぱり誰かに酌をされながら飲むのは格別だ。それがノルンなら尚更」

 

「呵々、それは光栄だな」

 

 次は義経の番だ。

 相手は柔術を得意とする不死川心。

 

「先に決勝で待っておれよ、弁慶」

 

 ―――なんて負け犬臭漂う台詞と共に義経との勝負に彼女は挑んだ。

 結果はといえば、義経のサブミッションでバッグブリーカーからのアキレス腱固めで義経の勝利。

 敗因はこの期に及んで義経に対する油断と、初手で繰り出す技の名前を叫んでいた事。

 特機乗りの音声入力でもないのに、決め切る前から技の名前を出すのは愚行である。

 

 負けた不死川は義経に精一杯の虚勢を張りながら離れて行った。得意分野で負けたのだから彼女のショックは大きいものだろう。

 小雪が彼女を慰める姿が哀愁漂って何とも言えない。

 

「勝ったぞ、弁慶、ノルン君!」

 

「良く頑張ったね主」

 

「あぁ、見事だったな義経」

 

 子犬如く駆け寄ってきた義経の頭を2人そろって撫でる。

 なんとも言えないほんわかな気持ちにさせてくれる義経であった。

 気持ち良さ気にしている義経を改めて労う。

 

 ほんわかな空気を乱す輩が眼に入る。

 

「あー、何をしておるのだモモ?」

 

 問いには答えず無言で弁慶に近付き、もの凄く良い笑みでモモは言い放つ。

 

「私と、や・ら・な・い・か?」

 

「ここは2年の競技だ、戯け」

 

 蔵から取り出したハリセンでモモの頭を一閃。しかし物ともせずに弁慶と寝技で闘いたいなどとボヤく。

 松永先輩は、と問えば彼女の趣味に合わないそうで不参加らしい。

 

「こうなったら、義経ちゃんを視姦しよう。零距離で」

 

「待てい、何でそうなる」

 

 もう一度ハリセンを一閃。乾いた間の抜けた音がシュールである。

 義経は恥ずかしそうに顔を赤くして弁慶と自分の背後に退避。

 

 義経をからかうモモを嗜め、自分のクラスに戻る様に言う。ちぇ、と詰まらなさそうに戻るモモ。

 あの癖はなんとかならないものか。

 そして、本当に退屈しのぎだったようで、こっちに何一つ絡んでこなかったのはとても珍しい。

 

「次は義経と弁慶による決勝戦。まぁ、確実に弁慶の勝ちは揺るがぬな……勝った称号が女子として微妙であるが」

 

「そこは言わないで欲しいな」

 

「義経も簡単に負けない様に粘ってみる」

 

 なんて雑談に興じていると決勝を始める時間になった様だ。

 会場へ向かう2人の背に激励を送る。

 

 決勝戦の結果はあっさりと弁慶がもっていった。

 義経も言葉通りに粘ってはいたが最後は捕まり、敢え無く敗北。

 しかし、実力者同士の戦いらしく会場からは惜しみない称賛が2人に贈られた。

 

 

 

 

 

 水上体育祭のカリキュラムも残すところクラス対抗怪物退治なるものだけ―――だったのだが。

 

「みな、それぞれよく戦った。しかしバカンスのノリで、ちとマッタリした感じは否めなかったの。特に午前。其処で最後の怪物退治はルールを変更して生徒対抗の特別なものとする」

 

 この一言でクラスではなく学園全体で争う羽目となった。

 具体的には川神側から一匹の怪物のきぐるみを用意し、頭部に設置した川神水晶を取る事が勝利条件。

 勝者には名誉とマリンスポーツのグッズが各種進呈される。

 グッズが漏れなくプレゼントと聞いて多くのものは眼の色を変えた。

 途端に競争率が跳ね上がったのは否めない。

 

「その怪物のきぐるみとは、あれじゃあ!」

 

 鉄心殿が指差した方向には海が広がっている。

 きぐるみでは、と誰もが疑問に思うなかつられて沖の方に眼を向けてみれば―――

 

 ―――巨大な、文字通りの怪物がいた。

 

 場がどよめきに包まれる。

 クジラほどもある図体。しかし、良く眼を凝らしてみれば確かに身体は布みたいなもので出来ているようだ。

 何より圏境で探ってみれば、怪物の正体は大勢の修行僧が一体となっているらしい。

 

「確か、交流戦にて天神館の3年生が斯様な技を見せておったな」

 

「そのものズバリじゃな。天神合体に触発させての。川神院のみなで会得したのじゃ」

 

 好々爺の如く笑う鉄心殿。

 はしゃぎ過ぎだというのが正直な感想である。

 沖を悠々と泳ぎ回る怪物もどきをみて(かぶり)を振るのは間違っていない筈。

 

「それでは、はじめぃ!」

 

 開始の合図と共に怒号を上げて大勢の人間がボートで沖に向かっていく。

 

「モモや燕先輩は参加されぬので?」

 

「私は空気呼んで見学するさ」

 

「んー、私も別に良いかな。グッズは魅力的だけど、アレはねぇ」

 

 どうやら実力者二人は参加しない腹積もりらしい。

 ノルンはどうるんだ、との問いに義経達の手伝いだ、と返す。

 

「だったら、離してくれノルン君! 早くしないと先を越されてしまうぞ」

 

「まぁ、待たれよ義経。鉄心殿の性格的にアレがただ図体が大きいのみとは到底思えぬ。ここは様子見だ」

 

 義経はこちらの言葉に素直に従ってくれた。

 キャップを始め、いち早く沖に出ていたボートは怪物まで眼と鼻の先まで到る。

 

 だがしかし―――

 

 クジラもどきが赤い光を帯びたかと思えば突然周りに渦潮が発生し始め、ボートを呑みこんでいく。

 阿鼻叫喚の絵図だ。

 

「川神流、渦潮乱舞」

 

「はっちゃけ過ぎでしょう鉄心殿」

 

 その様から出だしに勢いが良かった者達もしり込みをしている。

 果敢に近づこうとする者も渦潮に呑まれていくばかり。

 ちなみに飲みこまれた者達は待機している他の修行僧の手で救出済み。

 

(まだ何ぞ仕掛けがありそうだな……もうひと当てしてみるか)

 

 蔵から予備の白紙の札を取り出し左の親指を噛み切り式を書きこんでいく。

 

「の、ノルン君!? ゆ、指、凄くいたそうだぞ!?」

 

「問題あらぬ」

 

「お、なんだなんだノルン。陰陽師の真似事か」

 

 真似事では無くそのものズバリだ。

 書き終わった札を正面に投げる。

 

「身外身」

 

 シュン、という音と共に己の姿が現れる。

 それを見ていた者は残らず驚愕した。それも当然、札を投げたら投げた人間が札からもう一人現れたら誰もが驚いて然るべき。

 唖然としている周りを置き去りにして分身にボートで接近し、クジラもどきに取り付くよう指示。

 こくりと肯くとボートに乗って瞬く間に沖へ。

 

 その間にいち早く復活したのは松永先輩とモモ。

 

「で、デタラメ過ぎない?」

 

「幼馴染はリアル陰陽師だったなう」

 

「呵々、正確には陰陽道よりは仙術の類だが、な」

 

(成程のう、偶に見せる用意の周到さの種はこれじゃろうて)

 

 詳しく説明するのは色々面倒なので割愛。

 義経は沖とこっちを交互に見比べている。どうやら今の現象が頭の処理情報を超えた様だ。

 やがて分身体はクジラまで到着。

 背中にぴょん、と乗り移った。

 しかし、やはり取り付かれる事に対抗策は用意していた様で―――クジラの身体から突然間欠泉の様な水柱が上がる。

 分身体はひらり、と躱すも続けざまに水柱が上がり抵抗むなしく吹き飛ばされ、海中に転落。

 

「川神流、濁流槍。おしかったのう」

 

「ですから、ヤンチャが過ぎましょう」

 

 しかし、これである程度手の内は晒された。

 蔵から携帯を取り出し与一に連絡をとる。姿を現していないだけで此処にはいる筈。

 暫くのコールと共に回線は繋がった。

 

「やぁ、与一。楽しんでおるか?」

 

「ハッ、こんな行事、楽しめる訳ねえだろう。キャッキャッとみんなで騒ぐなんか性に合わねぇんだよ」

 

「そうかそうか。ならばこれから我等と1つ興じて見ぬか?」

 

「断る。どうせあの怪物退治に協力しろってんだろ」

 

 どうやら、参加していなくても競技の内容だけは把握しているらしい。

 迂闊な真似や言動さえ減らせば弁慶から受ける折檻も少なくて済むだろうに。

 閑話休題。

 

「時に話は変わるが与一、今日一日殆どサボっておったな其方(そなた)

 

「それがどうしたよ?」

 

「―――弁慶、カンカンであったぞ?」

 

 受話器からなん、だと、と呻き声に近い声を上げた与一。姿を見なくてもその様相が眼に浮かぶ。

 

「そんな与一に朗報だ。説教は免れぬだろうが、折檻はされずに済む方法がある」

 

「何!? ど、どうすればいい?」

 

 切羽詰まり過ぎである。

 

「単純だよ、合図をしたらあのクジラもどきの額にある川神水晶を狙撃すればいい」

 

 そうすれば、弁慶は私が宥めておく、と告げると分かった、と二つ返事で返ってきた。

 頼むぞ、と言って電話を切る。

 

「と、そう言う次第だ弁慶。此度の事はこれで大目に見て欲しい」

 

「むー……こういうところは甘いなノルンは。まぁ、お前が言うならそう言う事にしておこう。あいつも手伝うには変わりないみたいだし」

 

 有難う、と礼を言って未だに顔が右往左往している義経の両肩を強めに叩いて現実に引き戻す。

 

「うわぁ! の、ノルン君今のは――」

 

「話はまたの機会にな。さぁ、あれを打ちに参るぞ」

 

「え?」

 

「さ、参ろうか義経」

 

「え、え?」

 

 

 

 

 ―――川神湾沖。

 

「で、どうするのさ?」

 

「このまま行っても渦潮に呑まれてしまうぞ」

 

「額の水晶は与一が狙撃する手筈になっておる。弁慶は水晶が落ちたら義経を水晶目掛けて投げて欲しい」

 

「分かったよ」

 

 やがてボートは渦潮の流れに引っ掛かり中央に吸い寄せられていく。

 クジラもどきは渦潮を発生させつつ進路を変えようと身体の向きを変えた。

 

「呵々、予想通り―――」

 

 柏手を打つように両の手を打ち鳴らし(カイ)、と呟く。

 

 ―――爆発。

 

 進路を変えようとしたクジラもどきの真横で大きな轟音と水しぶきが上がった。

 何と言う事は無い。先程弾かれ、海に転落した分身体の魔力を瞬間的に励起、爆発させたのだ。

 クジラもどきは爆発の衝撃で大きく身体が右にそれ、丁度曲がる体勢のままこちらに頭を差し出す様な形になる。

 爆発のショックが原因か、術を維持できなり渦潮がやむ。

 

 ―――刹那。

 

 雷光の如き一条の帯が頭部の川神水晶を撃ち抜く。

 

「ぬおっ、しまった!?」

 

 中空に舞う水晶。

 

「弁慶」

 

「はーい。んじゃま、いくよー……そおいっ!」

 

 弁慶に投げられ義経は一直線に川神水晶へ。

 かなりの速度で天へと投げられたがそこは義経、見事にキャッチしてみせた。

 

「取ったぞ!」

 

 落ちてくる義経の落下地点を見極めて、縮地で跳ぶ。

 海に激突する前にこちらもキャッチ。お姫様だっこで。

 そのまま弁慶の待つボートへ向かう。

 

「有難うノルン君。おかげでキャッチできた」

 

「なに、みなの成果ありきだ。義経もあの速度で飛ばされて見事に掴み取ったしな」

 

「確かにそうなんだけど、水面を歩いてるのにはどうツッコメば良いんだ……」

 

 ここは見て見ぬふりをする所だ、弁慶よ。

 グダグダ感は否めないが勝利は勝利。

 斯くして川神学園水上体育祭は個人としても武士道プランとしても満足のいく結果で幕を閉じた。

 

 

 

 ―――帰りのバスで。

 

「いいか、与一。今回はノルンが言っし、最後には活躍してみせたから折檻は無しだが私としてはこれ以上お前の行動を看過しないからな。だいたいお前は―――」

 

「……も、もう勘弁してくれ姐御…」

 

 弁慶の説教という、普段ものぐさな彼女らしからぬ振る舞い。

 それだけ余程腹にキていたということか。

 既に与一はグロッキー状態。折檻が無しとはいえ、恐怖の象徴が憤怒の状態で横にいるというのは彼にとってプレッシャー以外の何物でもないのだろう。

 

「まこと、締まらぬな……」

 

「ほ、放っておいていいのか? 本当に」

 

「構わぬ、構わぬ」

 

 人、それを自業自得という。

 

 

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