気まぐれ神様の物語 真剣恋Ver.   作:ジーザスルージュ

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33話

 期末テスト。

 中高学年に上がればだれしもが必ず定期的な学力テストだ。

 学生達はみなこの時期が近付くと一様に机や教科書に齧りついたり、或いは塾等講師とマンツーマンで対策したり、はたまた期末前日に教科書等で一夜漬け、または当日試験が始まる前に教科書を慌てて流し読みしたりとその対処は千差万別だろう。

 

 ここSでは少なくとも後者二つ選ぶ者はいない。エリートは伊達では無いのだ。

 教室では何時にない張り詰めた空気が満ち、何時も以上にカリカリと筆記する音だけか響く。

 筆記の摩擦音と時計の駆動音が支配する中―――

 

 ―――終わりは唐突に告げられた。

 

 テンポ良く刻まれる耳に親しんだ調べ。

 早い話がタイムアップを告げたのだ。

 

 これで期末テストの全教科を終え、後は後日の採点と結果を待つのみ。

 

「終わったな、なかなかどうして危機迫る空気であった」

 

「ノルン君はもの凄くゆったりだったな」

 

「確かに、凄い余裕そうだったよな。何かあんの?」

 

 試験が始まっても基本的に直ぐに記載して後は手を付けず横になっていたので、そこが気になるらしい。

 準の問いに首肯し、蔵から紙媒体を取り出す。

 

「それなにー?」

 

 小首を傾げる小雪に紙媒体の資料を渡し、それを横にいた冬馬と共に見ている。

 

「これは、今回の期末試験の出題範囲、ですか?」

 

「然りだ。これがあったが故にゆったり構えられた次第」

 

「おー、テストで出来た問題ばっかりだねー」

 

「一通り見てみましたが、テストで出てこなかった問題は粗ありません。見事な手際ですね」

 

「フハハハ、流石は我が弟、抜け目なく優秀であるな!」

 

「有難うございます兄上」

 

 冬馬の言葉に周囲は驚いて渡した資料を見ている。

 これが余裕を以って試験を挑めた理由である。

 念入りな情報収集の勝利だ。尤もそれが出来たのは自分のみでは無い。

 もう一人、余裕そうな人間がいた。

 

「相変わらず、正確な情報感謝するよノルン。お陰で学年3位以内は確実だ」

 

「べ、弁慶もこれを見たのか?」

 

「そうだよ」

 

 この弁慶さん、やはりものぐさだが抜け目は無く大凡の情報を掴んだ頃になるとフラリとやってきて集めた情報を覗いて行くのだ。

 本当に楽が出来そうな事には鼻が効く。

 

 とはいえ、試験中弁慶が怠ける事はない。何故なら万が一にでも落ちれば川神水を取りあげられてしまうから。

 試験の最中も身体から滲み出ていた気迫は凄まじかった。恐らくは落ちた時の事を考えていたのだろう。

 

「与一の方は抜かりないか?」

 

「フッ、少なくともS落ちはしないと思うぜ?」

 

「落ちてたら源氏式バックブリーカーだからな」

 

 声どころか全身を震わせながらもう一度大丈夫だ、と告げる与一。見ていて少し哀れだった。

 

「さて、我はそろそろ日本橋の会議に向かう」

 

 試験終わって間もないというのに兄上の働きぶりにはほとほと感心する。

 今日は従者部隊の大事な仕事がある為、護衛をクラウディオが一時的に引き継いだ形となった。

 ある意味あずみとセットな印象があるので珍しい光景と言えなくもない。

 申し訳なさそうにするあずみを兄上は激励し、仕事へ向かって行った。

 

「兄上、お気を付けていってらっしゃいませ」

 

「うむ、行って参る!」

 

 去りゆく背を見送った。

 

 

 

 

 

 ―――放課後。

 

 夕焼け空の校庭。

 テスト開けも相俟ってか部活動に励んでいる学生は少なく、陸上部や格闘系のクラブがちらほらと体力トレーニング勤しむのが見えるばかり。

 そんな校庭で現在、この校庭で何をしているかと言えば―――

 

「はぁーーー!」

 

「ぐぉっ!?」

 

 義経が挑戦者たちと戦うのを見守っている。

 鎧袖一触の元にボクサー姿の男性を切り捨てる義経。

 校庭の一部を使って行われている決闘は転校からそろそろ1月を経ようという現在でもギャラリーは多い。この辺り流石は義経といった所だろう。

 歓声が場に響く。

 義経は周囲の声援に笑顔とお辞儀をもって応える。

 

 そんな中で己はいそいそと敗れた挑戦者たちを脇にどけて、念の為の健康チェックを行い、重傷を負っていないかを確かめて放置する。

 地味に大変な流れ作業。

 弱いのにと思わなくもないが、しかし、モモに間引きを頼んだ上での結果挑んでも構わないと判断された猛者(のはず)なのだと思い、決闘の邪魔にならないように配慮する。

 

 次で今日は最後の挑戦者。

 クリスと同じレイピアを武器とする武芸者らしい。よく見るとオリンピックの候補生に見た顔があった様な気がするがあの手のスポーツ格闘は主義、趣向に合わず、見ないので良く分からない。

 故に割愛。

 序でに勝負も割愛。結果なんて、語らなくても分かる筈。

 倒れている挑戦者たちはクラウに引き取ってもらう。

 

 勝負が終わった義経元に近寄る。

 

「お疲れ様義経」

 

「ありがとうノルン君」

 

 労いの言葉と共に渡したタオルとスポーツドリンクを受け取り、汗を拭きながら喉を潤す義経。

 流石に数十人と相手にしていれば気温も相俟って汗の1つもかくというモノ。

 

「今日も好調であるな」

 

「うん。この今剣を貰ってから義経の調子は頗る良いんだ」

 

「それは何より」

 

 渡した宝具も確りと稼働しているらしい。確かに最近の義経の成長ぶりには目を見張るものがある。

 宝具の効果以上に義経がそれだけ鍛錬に励んでいる証拠だ。今剣もその後押しに過ぎない。

 

 おーい、と背後から声が聞こえる。

 振り向いてみるとそこには若干フラフラになっている弁慶。どうやら、だらけ部とやらでまた飲み過ぎた様子。

 粗毎日、夜は一緒に飲んでいるというに彼女の胃袋はどれだけ入るのやら。

 閑話休題。

 寄ってきた弁慶はそのままこちらの背に垂れ掛ってくる。

 

「よーしつねー、今日もお勤めごくろうーさまー。ンフフ……」

 

「弁慶! また飲み過ぎて、もうー……」

 

「ま、何時もの事と言えばそれまでだが」

 

「甘いぞノルン君!」

 

 弁慶のだらしなさが如何に武士道プランとして相応しくない状態なのかを解き始めた義経。

 日頃の臣下の行動に沸点を軽く超えたらしい。藪蛇もいいとこだった。

 

「いやー、主も立派になったものだー……うん、メデタイ!」

 

「その主を現在進行形で困らせておるのは他ならぬ其方(そなた)だが、な」

 

 ふてぶてしい事甚だしい。

 

 なんて考えていると、視界に清楚の姿を発見。

 クラスメイトだろうか、其処には男女問わず笑顔で会話しながら歩く清楚が廊下を歩いているところだった。

 すると、向こう視線に気付いた様で、こちらに手を振ってきた。

 手を振り返すと、周りにいる女子から冷やかされているのか顔を赤らめて身振り手振りに反応している。そして男子から凄まじい嫉妬、憎悪の視線。

 

(眼力に直接的作用が為せたなら、確実に殺されておるなぁ)

 

 何はともあれ、あれだけ慕われていれば正体を明かせる日も近いかもしれない。そんな思いが馳せる。

 どうした、と尋ねてくる弁慶と義経に何でもないと返事。

 

「さて、帰りますか」

 

 清楚は今日はクラスメイトと用事とのことで珍しく帰りは別々。与一は圏境で探ったところ何故だか屋上に。

 

「歩くのメンドイー……ってな訳で、おぶって?」

 

「既に半ばおぶさっておるも同義だが」

 

「弁慶! もう、お前ときたら……」

 

 義経に構わぬ、と言って改めて弁慶を背に抱えた。

 ギュッ、といった感じで抱きついてくる。

 

「あー……やっぱりお前の背中は落ち着くなー」

 

「有難う、でよいのか?」

 

「むー……やはりノルン君はこういうところが甘いと思う!」

 

 自覚は無いがどうやら義経にはそう見えるらしい。プリプリと複雑な顔をしてこちらに苦言を呈してきた。

 そんな主の様子に臣下は何を思ったのか―――

 

「ひょっとして、義経もノルンにおぶさりたい、とか?」

 

「!? ち、違うぞ! 義経が言ったのは弁慶に対してもっと厳しく当たるべきという事で……そ、それは興味があるかと問われれば義経はとてもあるが、義経は武士道プランの人間として恥ずべき行為は慎むべきで、だけどそれ以上に弁慶を見てると気持ち良さそうだなーとかも思ったり―――」

 

「落ち着かれよ義経」

 

「はっ!? な、何でもない……忘れてくれ…」

 

 顔赤らめて俯く義経。

 背にいるので顔は拝めないがきっとこんな主のリアクションに臣下はとても良い顔をしているのだという事は想像に難くない。

 

(いい。義経のその顔は…アリ、だな…!)

 

 酔っていようがどんな時でも主を弄る事を止めないある意味凄まじい臣下も居たものである。

 

 

 

 

 

 

 ―――その夜。

 

 帰ってくるまではテスト明けに宴会しようなんて騒いでいた弁慶も本部に着くころには見事に酔い潰れていた。

 その弁慶は部屋に放りこんでおいたが。

 

 夕食も何時も通りに終わり自室でまったりと川神水片手に寛いでいた所。

 特に何をするでもなく本を読みながら川神水を楽しんでいると部屋のインターフォンがなる。

 開けてみると、其処には満面の笑みを浮かべた我が妹がいた。

 

「邪魔するぞノルン」

 

「どうぞいらっしゃい、紋」

 

 畳に座りキラキラした眼でこちらを見る紋。表情から察するにどうやら今日も上手く事が運べたらしい。

 

「今日はいっぱい母上と語り合う事が出来たぞ! お前のお陰だノルン」

 

「そこまで大仰なことはしておらぬよ。話題としてはごく一般的、とは言い難いやも知れぬが」

 

 妹たる紋もそして己も母上には好かれていない。

 妾腹の子である為に仕方がない事だろう。ヒューム達や姉上、兄上も色々と方々手を回してはいるようだが如何せんこれは母上の気持ちの問題なため難航しているようだ。

 

 だが、最近―――といってもここ1月もないが―――母上が紋に対しては若干態度を改め始めた。

 まえは積極的ではなかった雑談にもある程度応じる様にもなり、関係改善の兆しが見え始めている。と、いってもまだまだ九鬼の業務に関わる事で無いと会話が続かないのが変らないが。

 

 話を戻して何故紋がこちらに礼を言ってくるかといえば、単純な話、母上と話す為の話題を提供したに過ぎない。

 具体的には若かりし頃の母上の事を題材に上げただけ。

 母上の事は九鬼家当主の夫人だけあってネットにも色々な情報があるが、こういうのは当人から聞くべきだと宛ら自伝として聞きたいと願い出れば、母上の事、喜んで話に応じるだろう。

 

 まだまだ紋に対して素直になれない様で、傍から見ている分にはヤレヤレ、といった具合である。

 この辺りは今度またクラウやヒュームと相談しようと思う。

 

「ありがとうな!」

 

 ぴょん、と胸に飛び込んできた紋。

 どういたしまして、と返し頭を撫でると気持ち良さ気に眼を閉じる。

 だが、それも束の間。はっ、として我に返ると今度は真逆にしょげてしまった。

 

「どうしたのだ?」

 

「……我だけ、こんなに母上と話せて喜んで……ノルンは未だこういう話すら出来ておらぬのに、ついはしゃいでしまった」

 

「……」

 

 全く、優しい妹である。

 ギュッ、と抱きしめて気にするでない、と紋の耳元で静かに告げる。

 

「先にも申したが、私は紋ほど母上に好かれようとは思うておらぬのだ。故に私と紋、我等に対する母上の対応に温度差が出ろうとも是非も無し、だ」

 

「しかし……」

 

 前に話した時も怒られた事を思い出す。

 紋にとって母上は偉大さそのもの。なんで好かれようとしないかと問われた。

 その要因は単純明快で、母さん、幸恵の存在に他ならない。どうしても己から()という観点みれば九鬼局は筱宮幸恵に劣るのだ。

 血縁だけで冷たくする九鬼局と、顔すら似ておらず、容姿も能力も一般離れした己を我が子と愛してくれた筱宮幸恵。どちらが己にとって賢母であったか問うまでもないというのが正直な所だ。

 別段、生みの親より育ての親を取った紋が薄情と言いたい訳でもない。己にとっては唯、母としては生みの親の方が大きく見えただけの事。

 ただ、良妻という点に於いては十二分に誇れる。傍から見てもラブラブだ九鬼帝と局は。

 

 それはそれとして母を好かれようと思わない理由を紋に詳しく語る腹積もりは無い。

 ごねる紋の頬をグニー、と引っ張る。ふにゅ、と声にならない声を上げた。

 

「な、なひをふる(なにをする)ー」

 

「よいと言ったらよいのだ」

 

 母上の紋に対しての対応の変化の主な原因は恐らくここにあるのだろう。

 小賢しく立ち回り距離を取ろうとする者と、子猫や子犬よろしく好かれようと努力する者。

 この二つをみてどちらが好かれるかなど誰が見ても明らかである。

 

「それにな、私個人としても母上に好かれんと努力する紋の姿がとても愛おしくてならぬのだよ。故に私は紋と母上の距離が縮まる事を優先する」

 

 反論は認めない、と断言すると、うー、と紋は暫く唸り、やがて観念したのかこちらの身体に寄り掛かってきた。

 

「仕様の無い奴だな、ノルンは」

 

「有難う」

 

「褒めておらぬわ、たわけー」

 

 膝の上に座り寛ぎ始めた紋。こちらに全身を預けて完全にリラックスモードだ。

 紋からはそれ以上の追求は無かった。

 色々と気配りの出来る子だ。恐らくこちらに気を使っての事だろう。

 本当になんというか、歳不相応な感受性の良さと対応に舌を巻く。

 

 その後話題は変わり紋の一日の出来ごとへ。

 1年のムサコッスという人物を中心に同学年の面々が相変わらず良く慕ってくれる事。

 学園内でまた幾人かめぼしい人材を発掘出来た事。

 他愛ない会話に興じる。

 

「そういえば、近々姉上が何かを為すようだな」

 

「うむ、全国でTV中継するらしいぞ。一体何をなされるやら」

 

 定例の食事会でその時、何やら愉快気に語る姉上はとても印象的だった。

 あの顔は父上と同じ、何かとんでもない事をしでかす時の顔によく似たもの。

 

(また突拍子もなく、壮大なのであろうな)

 

 お互い語り明かしながら夜が更けてゆく。

 

 姉上の目論見が予想の斜め上を行った事を知ったのは、ここから僅か2、3日後の出来事だった。

 

 

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