気まぐれ神様の物語 真剣恋Ver.   作:ジーザスルージュ

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34話

 草木も眠る丑三つ時。

 ムクリ、と布団から上体を起こして起床する。この身、九鬼ノルンの朝は早い。

 基本的に膨大な魔力と身体操作の応用で1~2時間程度の睡眠で身体に蓄積した心身の疲労は完全に取り払える。

 筱宮の頃は幼さ+母の生活習慣に合わせていたのでたっぷりと眠っていたが今はその必要もない。

 現在の時刻2時。

 こんな時間帯に起きてどうするのかと問われれば―――鍛錬だと答える。

 朝食の準備、昼食の弁当用の下拵えなどは昨日の夜の内―――具体的には夕食後すぐ―――に終えており、鍛錬が終わってからで間に合う。

 九鬼に入り、中学辺りから戻した己本来の習慣だ。

 

 服装は手っ取り早く物寄せ(アポーツ)の応用を使った早着替え。

 自分の戦闘服である黒の狩衣を身に纏い部屋に置かれてある鏡で最低限身だしなみをチェック。

 幾ら鍛錬ですぐに崩れるとはいえこの程度は整える習慣ぐらいつけてある。

 

<<大丈夫、問題はない>>

 

<<有難う、雪花>>

 

 伴侶にもお墨付きを貰い、何時も通りに問題無しと判断して部屋を後にした。

 

 

 

 

 ―――屋上。

 

 未だ星が燦々と輝く夜天。季節に珍しく今日は星が良く見える。

 その光景にこのまま見ていたくなる衝動を堪えて蔵から鍛錬用の野太刀を取り出す。

 本来己が得意とする得物だ。

 正眼に構えて全神経を集中。全身の力を瞬時に全開まで練り上げる。

 その所要時間僅か0,06秒。

 

 最大効率で身体を駆動させ、上段に振り上げた得物を唐竹一閃。

 疾風迅雷―――

 目視は難しい速度で振り下ろした切っ先は風邪を切る音もなく、描いた通りの軌跡を辿る。

 

 小難しい表現をしているが、ようは素振りをしているのだ。

 

(相も変わらず、此処からの壁が大きい)

 

 なんとかより短縮せんと続けること1200年。

 0,06秒という領域に到ってからは、この先がまた長いこと長いこと。

 ちなみにその前の段階は約0,3である。其処から今の領域に突破できるまで約580年。

 

 今、12億も生きててお前遅くね―――なんて疑問に思うモノも居るかもしれないが、スキル身体の極みを得たこと自体が実は存外新しく、約4億年前である。

 それでも充分昔だよ、なんてツッコミは受け付けない。それだけ武術を学ぶにあたって、こういう方面の学習能力が低いのだと思って貰いたい。

 ちなみに、習得当初は約4秒。それから前までは自分の無限に等しい魔力と丈夫な身体を良い事に常時最大出力でブーストしてました。

 それでも、いまよりも雑の一言に尽きる有り様だったと表しておく。

 

 一の太刀と以上の集中力で二の太刀を、二の太刀以上に三の太刀を、と1つ前よりも鋭くするよう意識して刀を振るう。

 何時もの日課で変わらぬやりとり。この鍛錬の場合そんなに回数は必要ない。

 というのも、一太刀毎に段階的に速度を上げんとイメージして振るっていると見た目以上に肉体に対する負荷は大きいのだ。

 幾ら最大効率で為そうとも一太刀毎全力で振るえば消耗も激しい。速度も最低限維持したままともなれば尚更。

 それでも疲労を無視して無心で刀を振るい続ける。

 

―――――――――――――

 

―――――――――――

 

――――――――

 

――――――

 

――――

 

――

 

「…はぁっ…はぁ…」

 

 上がった心拍数や血流速度を意識して段階的に速やかに抑える。体内魔力で補うのも忘れない。

 刺突も含めた九つの剣の型の基本+居合いの素振り。

 何回したかは数えていない。100回単位で型を移して、夜天の月が沈みかけた辺りで切り上げた。

 

「……ふぅー…」

 

 息が整った所で魔宵伽を展開。加えて対物理結界も屋上全体には張り巡らす。

 そして袖から札を取り出す。鍛錬専用に使う特別仕様だ。

 額にあて、ある人物に関する記憶を可能な限り鮮明に思い浮かべる。それを頭に思い浮かべた状態で術式発動単語(トリガー)を紡ぐ。

 

 記憶投影(トレース)開始(オン)―――

 

 スペルは弟のモノを拝借。

 

「外身法、影法師」

 

 札を投げると紙は瞬く間に黒い人型へと変わる。

 顔も無く、全体の輪郭から和服姿で刀を携えた女性というがギリギリ判別できる程度で、まさに影で出来た人いう外見。

 

 外身法影法師。

 術者の記憶を頼りに対象となる人物を再現する術式。

 記憶を基に再現される為どうしてもオリジナルと同じにとはいかない代物。鍛錬用に作っただけであって実戦では殆ど役には立たない術式である。

 再現したのは己の目指す到達点、秘剣佚之太刀の生みの親であり、自身にとって最強の武人と疑わない師匠―――あやめ、その人だ。

 再現しているのは鮮明に焼きついた記憶を元に技術と身体能力、戦闘時の思考パターンの3つ。

 己の最古の記憶のため、完全再現には程遠いと思っているが、それでも尚勝てた試しは唯の一度もない。

 

 此処からが鍛錬の本番である。

 得物を鞘に収め、目の前の影法師に全神経を集中する。

 

「―――推して、参る」

 

 言葉と共に響き渡る金属質な轟音。

 どちらかが動いた訳ではない。

 

 秘剣 佚之太刀同士のぶつかり合い。

 

 厳密には己の心眼と透化による圏境を使った探知を全力活用しての攻撃予測によって師匠の佚之太刀と全く同時にこちらも放ち相殺しただけのこと。

 口で言う程容易く等は無い。

 因果律の直結による一切の時間も攻撃時の予兆もない攻撃を同質のモノで打ち消そうなど誰もが見ても正気の沙汰ではないだろう。

 だがしかし己にとってこれは日常茶飯事である。

 

 金属音が響き渡る直後、直ぐに縮地で真上に跳ぶ。

 刹那―――

 

 再び先程と同じ轟音。

 今度は宛らノコギリで鉄を切るかのような摩擦的な音。

 

 影法師の放った秘剣佚之太刀が対物理結界に衝突した音である。

 

 これが今現在の己と、師匠―――半ば以上記憶の再現に過ぎないが―――との差。

 身体能力でも無く、技でも無く、他ならぬ技術。

 己の知る限りのスキル身体の極みを保有していた者であり、その洗練さは己を上回る。秘剣 佚之太刀の再発動まで約0,44秒掛る己に対して師はその半分以下、約0,21秒あればもう一度放てるのだ。

 記憶している限りの範囲で当時を思い出し、目測に過ぎないが今の段階でもやはり大凡のこれぐらいは余裕に出来ていたと思っている。

 縮地無くしては今頃ズンバラリンである。というか、縮地を会得するまで弐の太刀でバッサリであった。

 

 再び師の斬撃軌道を読んでの攻撃。

 やはり初手と同じ結果。

 今度は攻撃しながらも半身を横にズラす。

 

 間を置かずに横を縦向きに通り過ぎる不可視のナニカ。

 縮地で移動―――着地と同時に放つも結果は拮抗するばかり。

 当然である。

 向こうはこちらが1歩歩く内に2歩目を踏み出しているのだ。手数としてどちらが勝っているかなど比べるのもおこがましい。

 

 4合―――

 

 5合―――

 

 2度同じ様に拮抗したその時。

 

 ―――利き腕である左腕が宙を舞う。

 

「―――――」

 

 遅れて噴き出す鮮血。

 痛みは無い。神速すら生易しい太刀筋は細胞や神経が斬られた事を認識できないのだ。

 加えて身体に奔る衝撃を化勁で受け流す。自身にとっての我が力、武を交えず(暗器暗武)の本家は彼女であり、弟子である己が刀で為せるのに、師が為せない通りなど無い。

 掠っただけでも即死に至らしめ得るをそれを堪え、それでも得物を携えた右手は離さず、持ち場所を鞘から柄に移す。

 

 再び縮地で跳ぶ。今度は影法師の目の前まで。

 己の心眼が影法師の佚之太刀使用を告げる。

 腰溜めの状態から抜刀術で抜打ち気味に切り捨てる。

 勢いを利用して半回転し、影法師の方を向いたところで―――

 

 ―――身体から力が抜け、膝をつく。

 

「――――――あ」

 

 斬られた。これ以上ないぐらい見事に。

 虚仮の一念で上体が倒れるのを防ぐものの、腕は今にも千切れ落ちそうになり、胸の所からは深く刻まれた一文字の傷から夥しい血が流れる。

 

 視線を影法師に向ける。

 相変わらず、シルエットだけで顔すらもない味気ないとすらいえる姿。

 しかし自分にとっては―――

 

「呵々、同じ土俵では未だ足元にも及ばず、ですか」

 

 ―――まだまだ未熟であるぞ、(わっぱ)

 

 そう言っている様に見えて仕方が無かった。

 何時も負かしてはよく口にしていた台詞。

 無論、シルエットに過ぎない影法師がそう言える筈もない。唯の感傷だ。

 やがて形を失い札に戻る。元々術者が致命傷を負ったら解ける仕組みである。

 

(まこと、更に精進を積まねば……)

 

 取りあえず、魔力を復元再生にあてる。30分もすれば元に戻るだろう。

 終わってみれば素振り約1時間半を費やし、そして戦闘の方は所要時間約8秒と秒殺―――影法師を一歩も動かす事も叶わなかったという体たらくで本日の自己鍛錬はこれにて終わり。

 後は食事の準備と義経との鍛錬である。

 

 

 

 

 

 

 ―――広間。

 

 蘇生も鍛錬も無事に(?)終え、軽くシャワーを浴びてから、食事の用意を済ませて広間に向かう所。

 道中、正面に兄上の姿を確認。側には専属従者であるあずみの姿も。

 

「おはようございます、兄上、あずみ」

 

「おぉ、おはようノルン!」

 

「おはようございます、ノルン様☆」

 

 兄上達も広間へ向かうとの事で共に行く事にした。

 

「そういえば、姉上が今日何やら独自に考えた企画を発表するらしいが、聞いておるか?」

 

「否、初耳ですが」

 

 一昨日紋が言っていた件だろうか。

 詳しくは兄上も知らないとの事で、それでも何やら姉上から連絡があり義経達武士道プランの面々と共に朝のTV番組、ニュースDEドゥーン!を見ろという。

 事態は把握できないが取りあえず、メールで一斉送信。全員時間までに広間に集まれ、と。

 

「これで直ぐに集まる事でしょう」

 

 与一辺りがゴネそうだが、弁慶に引き摺ってでも連れてくるように書いてある。

 

「うむ、それでは一足先に広間に参ろうか」

 

「はい」

 

 扉を開けて広間へ入るとそこには既に母上がいた。

 クラウディオの入れるコーヒーに舌鼓を打ちつつ資料だろうか、紙媒体の束に眼を通している。

 

「おはようございます、母上!」

 

「おはようございます、母上」

 

「おはよう、我が子たち」

 

 朝の挨拶を交し席に着く。朝食までまだ時間はあるのでクラウディオに頼んでコーヒーを貰う事にした。

 相変わらず彼の入れるコーヒーは絶品である。流石は万能執事(ミスターパーフェクト)

 こちらの称賛に有難うございます、と恭しく頭を下げるクラウディオ。常ながら立ち振る舞いがエレガントな執事である。

 

 隣では兄上があずみからあずみジュースなる代物を受け取り飲んでいる。見た目は野菜ジュースなのだろうが、どうやら野菜と言っても色々(・・)らしい。

 豪快に一気飲みをしてもう一杯とお代りを要求。即座に2杯目が運ばれてきて、今度はそれを通常ペースで飲みほしていく兄上。

 本当に何で構成されているのか気になる飲みモノだ。

 

 そうこう過ごしてる内に紋が義経達4人とヒュームを引き連れて入室。

 朝の挨拶を交して各々席に着く。

 事情は道すがら紋に聞いたらしい。説明する手間が省けてしまった。

 

「それにしても一体なんだろうね、揚羽さんがやろうとしている事って」

 

「さて、な……我ら兄弟にも詳細を知らされておらぬ。聞かされておるとすればヒュームやクラウディオ達の方であろうな」

 

 視線を2人に向ける。釣られて兄妹やクローン組も2人に視線がいく。

 

「申し訳ありませんが、詳細を語らないようにと揚羽様より申し付かっております」

 

「此度については揚羽様がおっしゃる通り、TVをご覧になって頂ければ自ずとお分かりになりますかと」

 

 勿体ぶる言い方である。姉上も一体何をたくらんでいるのか。

 

(十中八九、破天荒極まる事なのだろうなぁ……)

 

 あの剛毅が服を着て歩いているかのような姉が地味な事をするためにTVを使う等考え難い。

 丁度始る時間となりTVの電源を入れた。

 

「エグゾエルNo.1のイケメン、テラちゃんと―――」

 

「雪広アナがお送りする、ニュースDEドゥーン!」

 

 其処には東西交流戦でもみた龍造寺と雪広アナウンサーがMCを務める情報番組が始まった。

 ありきたりな流れで始り、メンバーの紹介とゲストの紹介に入る。

 

「今回の特別ゲストはドバイの格闘王、ミスマさんに起こした頂きました」

 

 ミスマという名には聞き覚えがあった。ドバイ有数大会社ミスマコーポレーションの御曹司で社長だった筈。

 格闘王を自称しているようだが、パッと見てその実力はワン子よりも頭1つ、2つ低いと見受ける。

 

「ふむ、お前なかなかの容姿だな。どうだ、俺の妾にならんか、その身体も心も俺に捧げれば一生暮らしに不自由させんぞ?」

 

「あ、アハハ……き、恐縮です」

 

「ん? 照れているのか? ま、こんな極東島国なんて辺鄙なところに住むならこの俺に萎縮するのも無理は無いか」

 

 高笑いと共に席に着くドバイの格闘王。

 今回この番組やってきたのは自社の宣伝らしい。ハッキリいって出る所を間違えてるとしか思えない。

 当人もひっくるめて。

 先程から、これがいち会社の跡取りかと思うぐらい下品な発言が眼に着く。

 側にいる龍造寺や雪広キャスターは顔が引き攣ってしまい、扱いに困っていると顔が物語っている。

 話題はやがて武士道プランの方へ。

 

「あぁ、この島国の過去の英雄の蘇らせたとかいう……あの程度の輩、俺の敵ではない。しかし容姿は中々だったな、あれは俺の雌の1つとして加えても良いというレベルだ」

 

「ほ、ほう……た、大した自信ですね、ミスマさん」

 

 などという発言まで飛び出した始末。放送事故に等しい筈だというのに、未だ番組側から何も行動が無い所をみると大方金で主導権を握っているといった所か。

 とはいえ、TV側もまさかここまで常識が欠如した人物だったとは思わなかっただろう。分かっていたら理由を付けて他所に回していた筈だ。

 

 広間ではそれはもう凄まじい空気だった。

 義経は顔を真っ赤にして怒り心頭状態、弁慶は隣で義経の背を撫でているが彼女も顔も凄まじく不機嫌さを露わにしており、与一もかなり不満げで今にもこの部屋から立ち去りそうな雰囲気だ、清楚に到っては―――指輪に手が行きかかっていた。

 即座に清楚の右手を握りしめる。

 

「ノルン君……」

 

 こちらへ向けるその顔は清楚な彼女らしからぬ憤怒の表情。

 気持ちは分かる。友を侮辱されて己もまた同じ心境である。

 表に出していないだけで。怒りに震える義経の方も肩に手を置く。

 

「堪えよ、清楚、義経……」

 

「むー……」

 

「分かっている……ここで怒ってもしようがない…」

 

「おい、ノルン。まさかこんなものを見せるために俺達を呼んだ訳じゃねぇだろうな!?」

 

「今回は与一と同意見だぞノルン。流石にこれは幾ら私でもそろそろ我慢の限界だ」

 

 清楚を宥めていたらやはりというか、弁慶や与一も清楚と似た状態。

 義経に到っては沸点が臨界どころか天元突破してしまったのか、身体を震わせて言葉すら出ない。

 

「私とて同じ気持ちだ。然りとて、姉上が指定した事……そろそろ事が始っても可笑しくは―――」

 

「随分と吠えたな、偽りの格闘王よ!」

 

「あ、貴方は―――」

 

「フハハハ、九鬼揚羽、降臨である! 今日は此処を占拠しに来たのだ」

 

 声をして再びTVに視線を向けてみると、姉上が乱入してきた。その目線は挑発的にミスマを捉え、更に実際に挑発する始末。

 された側も側であろうことか挑発で返す始末。血気盛んな流れで、当然戦いと相成る。

 しかし、そもそもワン子にすら劣ろうかという実力で姉上に勝てる筈もない。10秒で決着だと言っていた輩は1秒たたずに拳一発でボロ雑巾と化した。

 

「フッ、ざまぁない」

 

「スカッとしたね」

 

「全くだ」

 

「胸が晴れる気持ちだ」

 

 今の光景である程度溜飲が下がったらしい。斯く言う己も同じだが。

 占拠しに来たという言葉通り、姉上は番組側を無視して話を進める。

 

「見たか、この程度の輩が格闘王を自称しておる。正直見るに堪えぬ有り様だ。しかし、世界は広い! 我は見てみたい……野に埋もれるまだ見ぬ優秀な資質や才能を持ったものを、本物同士の戦いを……故に我は重要なメッセージを世界に贈ろうと思う」

 

 素敵に不敵な笑みを浮かべる姉上。

 

「今のはデモンストレーションに過ぎぬ。本番は今宵7時、MHKにて世界同時配信するぞ……刮目して夜を待て! あぁ、それと九鬼が誇る武士道プランの申し子達は必ず見よ、これは九鬼としての命である。ではな」

 

 九鬼特有の高笑いをしながらスタジオを後にする姉上。

 場は何ともいえない空気に沈黙する。当然と言えば当然の成り行き。

 誰もが何も言いだせないこと5分。

 しかし、これだけは言わないと行けないだろう。

 

「このままでは、遅刻するな」

 

 テスト明けの最初の週。

 現在8時13分。ここから学校まで歩いて20分強。

 兄上の人力車でも確実に遅刻はまのがれ無い。

 

「え―――え? あっ、本当だ! 急いで学校に行かねば!」

 

「って言っても朝ご飯は」

 

「もうそんな時間ねぇよ」

 

「致し方あるまい」

 

「うむ、こんな理由で遅刻するのは言語道断だ」

 

 皆予め持ってきていたカバンを持つ。慌ただしく広間を出た。

 

「ノルン、おぶって」

 

「またか!? 弁慶、いい加減に―――」

 

「あぁ、よい! 今は1つ数える間すら惜しい」

 

「車で送迎致しましょう」

 

「頼むクラウディオ」

 

 いってきます、と口早に告げて学校へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 ―――2-S教室。

 

「なんとか間に合うたな」

 

「あー、疲れた」

 

「弁慶はノルン君におぶさって貰ってたんだから疲れている筈がないだろう」

 

「気持ち的に、だよ」

 

 慌てて教室に入ってきた自分達に冬馬達がおはよう、と挨拶を交してくる。それにきちんと挨拶を返して席に着いた。一緒に上がってきた兄上も付いて早々に席に着く。

 何ともドタバタした

 一息ついたところで準が今朝の話題を振ってきた。

 

「しっかし、凄かったなぁ、揚羽さん」

 

「豪快でしたよね」

 

「なにかあったのかの?」

 

 会話が聞こえたのか不死川心とマルギッテが参加してくる。

 今朝のニュースを掻い摘んで説明した。

 

「ほう、偶に早く登校してみればそんな事があったのか。ニョホホ、何とも九鬼らしいではないか」

 

「しかし、そのドバイの格闘王とやらもよくマスメディアの前でそんな振る舞いが出来たものです」

 

 其処には大いに同意する。

 そもそも、何をしにあの番組に出演したのかよく分からない。最初から自社というよりは格闘王(笑)自身の宣伝であったし。

 ある意味最も可哀そうであったのはあの番組の看板である龍造寺と雪広アナであろう。

 

「だいじょうーぶ? マシュマロあげるから元気出して」

 

「ありがとう、榊原さん」

 

 横では小雪が義経を励ましていた。

 

「グビ、グビ、グビ、はぁーっ!」

 

 自棄酒よろしく川神水を豪快に煽っている弁慶。

 

「……」

 

 与一の方は何時も通り窓の外をぼんやり眺めている。

 そうこうしてると、チャイムが鳴り、宇佐美先生がやってきた。何はともあれ務めを果たそう。

 

 

 

 

 

 

 ―――夜、広間。

 

 朝と同じく広間に集まりTVをつけて思い思い過して時間が来るのを待っている。

 といっても、母上は仕事で不在。勤め先で見ていることだろう。

 

「散々な朝であったな。姉上も今少し仄めかしてもくれてもよいものを」

 

「フハハ、ああいう茶目っ気も実に姉上らしいではないか」

 

「それは、そうですが」

 

「我が1-Sでも持ちきりでしたぞ」

 

「あれだけ色々とあれば、な」

 

 他愛ない会話をしていると、いよいよ時間になった。

 

「こんばんは、突然ではありますが番組の内容を変更してお伝えします。早速今から全世界同時放送を開始します。通訳はヨシオ・アンダーソン―――」

 

 スーツ姿の男性の冒頭文句から始り、放送は始った。

 隣で、あーん、としている弁慶にツマミを与えながら眼を向ける。

 

「フハハハ! 九鬼揚羽である! 我が九鬼財閥は日本時間で今日、ドバイの大会社であるミスマコーポレーションを併呑した。これによって我が財閥は名実ともに世界最大の企業として名乗りを上げる事となったのだ!」

 

 確かに、ミスマコーポレーションの併呑は既に既知であった。しかし、だからといって今朝の流れは予想外である。

 

「そこで、その記念として我は以前より常々考えた企画を実行に移す事にした。その名も―――」

 

 ―――世界格闘大会KOS2009。

 

「KOS―――キングオブソルジャーズは野に埋まるまだ見ぬ優秀な戦士を発掘するために開催する者である」

 

 姉上の口から語られるルール。

 それは戦争経て以降、公式の場では恐らく類をみない格闘大会。

 

 ―――参加に到っての特別な資格や基準は無い。全世界、身分も老若男女も問わず、参加を望むものは誰でも参加できる。

 

 ―――大会形式は一言でいえばチームバトルロワイヤル。参加する者は4~6人の間で1チームとして登録する事。

 

 ―――KOSの開催場所は日本の開港150年を迎えたアジア最大の港町である隣の七浜と、隣接するここ川神市の二つの政令指定された大都市が舞台。

 

 ―――本大会に於けるルールは一切無し。いうなればルールが無い事がルールであり、非参加者、即ち一般の人間に被害をもたらさなければ重火器だろうと使用してもよい。

 

「あらゆる状況も下してこその強者である! しかし、このルールを聞いて銃器の類が無敵と思ったモノがおるならば、参加するでないぞ。……ステイシー!」

 

 呼び声と共にステイシーが持ち前の機関銃を姉上に向け、発砲。

 姉上は事も無げに十数発の弾丸を手で掴み取ってみせた。

 確かに、これならばいいパフォーマンスになるだろう。有象無象を間引くには打って付けだ。

 

「開催は今より一週間後。尚、優勝チームには賞金として500億円を進呈するものとする! 史上稀な世界規模の大会になるだろう……勝てば富も名声も思いのままよ!! まだ見ぬ強者よ、頂きを目指す者よ、我こそはと思うならば参加せよ! 欲する者は万難を排して勝ち上がれ!」

 

 それは、演説というよりも軍隊に発する大号令に近かった。

 彼女自身のカリスマ性も相俟って、この放送を見ているもの、誰もが魅入り、聴き入っている事だろう。

 姉上はそれと、と言葉を続ける。

 

「我が九鬼家が誇る武士道プランの申し子達4人よ、お前たちは例外なく強制参加だ! 世界に跋扈する強者達と戦い、経験を積めよ。では以上で放送を終える。楽しみに待っておれ、我も楽しみにしているぞ、フハハハハハ!!」

 

 放送はそこで終えた。

 

「流石は姉上、誰にも思いつかない事をやってのける」

 

「全くですな兄上! 姉上の仰る通り、きっと凄い大会になること間違い無しですぞ」

 

「……KOS…世界の名だたる武闘家と剣を交えられるなら、武士道プランとしてこれ以上ない舞台だ」

 

「おぉ、やる気だね義経」

 

 当然だ、と返す義経。彼女の言うとおり武士道プランの優位性を示すには又とない機会だろう。

 横で飲んでいた弁慶も義経のやる気を見て乗り気なようだ。

 

「与一、くれぐれもサボるでないぞ?」

 

「いちいち言われなくても分かってるよ! ちっ、こんなにデカイ規模の大会どんな奴が紛れてるか分からねぇってのに」

 

 ぶつくさと小声で文句を言いながらも、与一のやる気は口で語るよりも大きい。先程の演説に少し中てられたか。

 

「ノルン君は、参加するの?」

 

 清楚のそんな言葉に周りは皆こちらに視線を向ける。

 

「ふむ、今のところは否だ。私は参加せぬ」

 

「そ、そうか……義経は少し残念だ」

 

「いーじゃん、参加しようよ一緒に」

 

「あまり、九鬼のモノが武士道プランに肩入れしても、な」

 

「フハハ、その辺りは個々の好きなようにすればよい。 我もKOS楽しみにさせて貰う」

 

「我もですぞ!」

 

 場が盛り上がるなかで清楚に眼を向ける。

 ひょっとすると、これはある意味で好機なのかもしれない。

 学園の者達と清楚の距離は当人の人望もあってかなり近しい所にある。本質的部分を見せても全員に拒絶される可能性は当初より低くなった様に見受けた。

 全世界が注目するKOSの中で表せば、少なくとも封印という処置には到らないか、と思案する。

 

(……唯の博打だな。確実性には到らぬ…)

 

 よしんばそれを見せたとしても、星の図書館たるあの老獪相手では色々理屈を付けて丸めこまれそうだ。

 それに、どうにもヒューム辺りはマープルに手を貸している節がある。具体的にいえば、ここ大扇島と陸を結ぶ海底トンネルの仕掛けや、旧工業地帯の不自然な地下空間等に対して工作が見られた。

 ヒュームの足跡が其処でチラホラみえた以上は下手をすると零番VS清楚になりかねない。

 

 其処まで考えて、思考を止めた。

 どの道独断で決める事でもなし。清楚に後で相談する事にする。

 

 その後皆が広間から離れた際に軽く話してみたが考えておく、と告げられた。

 

 

 

 

 

 ―――翌日。

 

 何時も通りの5人での徒歩通学―――といっても与一はかなり後ろの方だが。

 兄上は仕事で3時限目辺りからの登校。紋は車での送迎だ。

 

 ちなみに、清楚に関しては当初、九鬼が開発した人工知能搭載の電動自転車で登校も検討されていたが、この身が全員の護衛を兼ねている点から企画は流されたらしい。日直等で早めに出なければならない時は己が共に登校する。

 兄上がワン子に贈ったという人工知能搭載のロボ、クッキーの後輩にあたるそうだが、見てみたくもあった。クッキーに関しては一切触れていないのだが、何やら第2形態がキレやすいと大和やキャップから苦情があったのは記憶に新しい。

 

 閑話休題。

 

「あー、今日も川神水がウマイ」

 

「あまり飲みすぎては駄目だぞ、弁慶」

 

「はぁーい」

 

 分かりやすいぐらいの気の無い返事。あまり効果は無いだろう。

 取りあえず、おぶさるような事態にならなければ己としては問題ない。

 

 多馬大橋に差しかかった所で後ろから聞き覚えのある声に呼ばれた。

 

「おぉ、ファミリーのみな。おはよう」

 

「おはようさん。昨日の放送見たかよノルン! KOS、スゲェー大会だよな。俺なんか今から楽しみでしょうがないぜ!」

 

「おはようございます清楚センパイ!」

 

「あはは、おはよう。元気一杯だね」

 

「弁慶達もおはよう」

 

「おはよう、直江君」

 

「大和おはー」

 

 ファミリーの面々も義経達と挨拶を交していく。

 

 ヒャッホーイ、という具合で肩を組んできたキャップ。

 遠足を心待ちにする子供の様だ。

 

「となれば、キャップ達は出張る心算なのか」

 

 こちらの問いに応えたのは大和とガクト。

 

「おう、最大6人だし、俺達の中からは俺、キャップ、モロ、ガクト、京、ワン子で出る予定だ。お友達で」

 

「私と―――って、さ、先読みされた……しょーもない」

 

「軍師もいるし、やりようによっちゃー優勝もあり得るとオレ様は思ってる」

 

 確かに、この面子はチームワークという点でいえばピカイチだ。

 場慣れもしているし、いい線は行くだろう。

 

「ならば、6人は義経のライバルという訳だな」

 

「そういえば、義経達も出るんだったよね」

 

「うん、九鬼の命令でね。まぁ、メンドイけど主がやる気だからな」

 

 話題はやはりKOSものばかりだ。

 そんな中で今上がった中で呼ばれなかった者が気になった。

 

「む、クリスとまゆっちは?」

 

「自分はマルさんやお父様と出ようと思っている」

 

「わ、私は今回伊予ちゃん、友達と出ようかと思ってまして」

 

「まゆっち、超頑張ったぜ。一念発起って奴だ」

 

 まゆっちの発言におもわず感心してしまった。

 あれから自分で同じクラスの人間と、大和経由で2-Sの不死川と友達になったと聞いていたが、其処まで進歩出来ていたとは。

 各々残り1人はどうするのかと問うてみれば、クリスは父親の部下から、まゆっちは剣聖であるお父さんが出場するらしい。

 

 しかし、たった半日でここまで決まるのは何気に凄い事ではないだろうか。

 

 なんて考えていると―――

 

「ドーン!」

 

「おっと」

 

 それなりにの勢いで少しつんのめる。

 大丈夫か、と義経や清楚に問われて大丈夫だと応えた。

 

「お、このぐらいなら反撃しないんだな」

 

「そうだな、この程度ならば耐えられる故、な」

 

 ぶつかってきたのに詫び入れもしない我が相棒こと川神百代。背におぶさり豊満な肢体を押し付けてくる。

 役得ではあるが、この季節は少々暑い。いった所で退きはしないだろうが。

 ガクト辺りは羨ましそうにしているが無視。

 

「なぁ、ノルンはKOS出るのか?」

 

「出ぬよ」

 

「えぇー!? 出ないのかよ……」

 

 何故がっかりするのだろうかキャップは。チームは揃っているのだし空きはない。

 加えてこちらがこういうのを好まないを知ったうえで―――恐らく―――大和が組んだチームで納得したのではないか。

 

「そうかー、私と一緒だな。私も出たかったのに、ジジイの奴が私は駄目だとぬかしやがったからな。なので、ここはノルンで癒されよう」

 

「なので、からのくだりが意味不明だぞモモ」

 

「諦めなよ、ノルン」

 

 自分に飛び火しないからと、大和は完全に他人事である。

 しかし、目を瞑ろう。何故ならこの身がいない場合弄られるのは大和だから。

 

「川神先輩とノルンは仲が良いんだな」

 

「ま、幼馴染らしいし」

 

 それでも節度は居ると思う。

 

「おーおー、モモちゃんは相変わらずノルン君にべったりだねぇ」

 

「おや、松永先輩。おはようございます」

 

 おはよう、と爽やかに挨拶を返してくれた。

 

「随分みんな集まって楽しそうだね、なんの話をしてたのかな?」

 

「KOSですよ」

 

 松永先輩へは大和が答える。

 そこで、彼女へもKOS出場するのかをモモが尋ねたが―――

 

「ん~、私はもうちょっと考え中だね。大きいけどその分チームを考えないといけないし」

 

 500億は魅力的だけどね、とカラカラ笑う。

 しかし、考え中という割にはあまり乗り気でない様にも見えた。

 松永先輩も同じ問いを聞いてきたので、大和がそれに答える。それを聞いた松永先輩はモモへと視線を移す。

 

「残念だったねーモモちゃん」

 

「全くだ。あのジジイめ」

 

 腕の力がギュッと込められていく。怒るのは結構だが締まっているぞ、モモ。

 締まっているよ、という松永先輩の指摘が無かったら落ちていた。

 

「有難うございます、松永先輩」

 

「いえいえ、どー致しまして」

 

「ってか、じゃれ合ってないでそろそろ行かないと遅刻するよ」

 

 ジャソプを今まで読んでいたモロのツッコミで一同学校へ。

 

 

 

 門を潜って学園内に入ると―――

 

「あ、ノルンー」

 

「おっと、今度はユキか。おはよう」

 

「おはようー」

 

 跳び付いて来たのは小雪。追ってくるように来た冬馬と準にもみんなおはようと、挨拶をする。

 

「なんでノルンだけ……チクショー…」

 

「血涙流すのはよしなよガクト」

 

 ロケット娘1号(モモ)2号(ユキ)を構っていると、やはりここでも話題はKOS。

 聞いてきたのはこの面子―――TVで予め明言された武士道プラン以外―――で誰が出るかという事。

 先程いった事をそのまま伝える。

 

「へぇー、なんていうか、意外と予想通りっちゃ、予想通りだよな」

 

「そちらは出ぬのか?」

 

「私は頭脳専門ですし、直接戦闘はカトンボですからね」

 

「俺もそこそこは出来るが、本職に比べるとなー」

 

「このハゲはちっちゃい子とかいるとすっごい戦闘力が上がるんだけどねー」

 

「当然だ。小さい花を守るためなら俺は夜叉になるぜ」

 

 どんだけ、という話である。

 そして交流戦でもそういう節が見えたところをみると事実なのだろう。

 もういっかい、どんだけ、という話である。

 

「まぁ、モモ先輩が出ないのは当然として―――」

 

「当然とはなんだこのハゲ。一回〆とくか」

 

 モモの振り上げた拳にビクっ、と身体が反応する準。

 やめよ、とモモを嗜める。シブシブな感じで

 準はあからさまにホッ、として咳払いを1つ。

 

「当然として、だ。ノルンが出ないのはなんでだ? マルギッテとかあんなに楽に倒してたのに」

 

「単純、斯様な舞台に個人的な興味が湧かぬのと、九鬼が出張り過ぎても、な」

 

「成程、ノルン君なりに気を使ってのことですか」

 

 一番は理由は前者のだが、と冬馬の発言を捕捉する。

 

「義経としてはとても残念だ」

 

「そうだねー、ノルンがいれば私はもうちょっと楽が出来たんだけど」

 

「そっちか」

 

 実に弁慶らしい発言である。

 

「ま、諸々理由はあれど、私はKOSには出ぬ」

 

 改めて口にしたその時―――

 

 

 

「―――へぇ、君は出ないのかい?」

 

 

「―――――――」

 

 

 

 そんな声が背後から聞こえた。

 思わず後ろを振り向く。

 

「折角の祭りなのに、勿体ないじゃないか」

 

 久しく聞いていなかった声音。記憶にあるものとは大分成長して凛としたあどけなさの抜けた声。

 しかし、ベースは同じものだ。唯の一度も忘れた事は無い。

 目の前に立つ、膝上しかない丈の短い着物に陣羽織を羽織った服飾。モデルばりに整った顔。

 記憶よりもずっと美人に成長した姿。しかし髪は元より、身体が成長して尚、記憶と寸分と違わない笑いながら空虚な(まなこ)

 

「うっは、すげぇ美人じゃん!」

 

「ここにきて更に美少女キター!」

 

 背にいたモモが降りて彼女へ向かおうとする。先へ行こうとするモモの首根っこを掴んで半ば強引に自分の後ろに引っ張る。

 

「―――っとと、ノールーンー、私が可愛いからって嫉妬か、っておい?」

 

「どうしたんだノルン君?」

 

 モモや義経を始め周りが何かを言っているが耳を通り抜けて頭にまでは入らない。

 神経は少女に集中してしまっている為に。

 目の前の少女はキョトンと不思議そうな顔をする。

 

「ひょっとして、私の名前を忘れちゃったかな? 筱宮ノルン君?」

 

 それこそまさかである。

 約7年―――例えそれだけの月日から容姿が成長しようとも忘れる筈もない。

 

「―――佐々木……」

 

 名前を呼ばれたその瞬間、少女の伽藍堂だった瞳は恋焦がれる少女の様な、はたまた情欲におぼれる娼婦の様な色を帯びだし、満面の笑みを浮かべる。

 

 

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