気まぐれ神様の物語 真剣恋Ver.   作:ジーザスルージュ

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35話

「ま・た・ノ・ル・ン・か・よぉぉぉぉっ!!」

 

「いやいや、ガクト其処じゃないでしょ!?」

 

 何やら漫才を始め出したモロ&ガクト。

 普段なら笑えてただろうそんな光景も今の状況ではその余裕もない。

 目の前の少女、佐々木は笑顔を湛え、しかしやはり伽藍堂のままの瞳。視線は一切ブレることなくこちらを一点に見つめている。

 

「クフッ、良かった良かった。7年前に会ったきりだからねぇ、忘れられたらショックで倒れている所だった」

 

「そうか、ならば忘れておった方がよかったようだな」

 

 相変わらずツレないねぇ、と拗ねたような表情で言う佐々木。

 容姿端麗なため、ガクトとかがまた騒ぎだしたが頭にはやはり入らない。

 

 改めて彼女を見据えてみる。

 モデルでも通用しそうなメリハリの付いた肢体。確かに10人いれば9人は必ず振り返るであろう容姿は普段から異性に飢えているガクト辺りからしてみれば確かに魅入っても可笑しくは無い。

 だが、己にとっては其処はどうでもいい。

 

 五感が、心眼が捉えている―――あれからも彼女は多くの生き血を啜ってきたと。

 直感に過ぎないが数にして約400弱。内数十人が壁を越えた、もしくは壁の上や前に立つ実力者か。

 

「身に纏う血風にも似た闘氣、あれからまた随分と啜った(・・・)ものと見受けるが……如何に?」

 

「あぁ。数えて大体……400くらいかな?」

 

 どうやら当たっていたらしい。だからどうという訳でも無いが。

 でも、と佐々木は続ける。

 

「君ほどの逸材はやはり世界を股に掛けても居なかったよ。やはり、今の私にはノルン君……君しかいない」

 

「呵々、それは光栄であるな」

 

「……やっぱりツレない」

 

 クイクイ、と袖を引かれてそちらに顔を向ける。袖を引っ張っていたのはモモだった。

 視線は説明を求めている色を帯びている。

 

「いい加減楽しんだだろう? そろそろこの私にこの人を紹介してくれよ」

 

 モモの発言にガクトも強く賛同。欲望に忠実な2人のみならず周りにいる者は全員誰のかと問い詰めてくる。

 取りあえず、引っ付いていた小雪を離す。

 そして気付かれない様に少し前に3歩出て距離をおいた。圏境は姿が透明にならないギリギリまで高めておく。

 

「で、あの美人さんは誰なんだよ! ってか、義経や弁慶、ユキや清楚先輩やモモ先輩と来て今度は和服美人か! いい加減モゲろ!!」

 

「説明を求めたのではあらなんだか、ガクト」

 

 捲し立ててくるガクト。その内容には苦笑を禁じ得ない。

 しかし、説明求められても困るというのが正直な話だ。

 

「彼女の名前は佐々木。武芸者で、刀を扱う」

 

「おぉ、義経やまゆっちと同じだな」

 

 やはり同じ刀使いとして一番に反応したのは隣にいた義経。

 佐々木の方を見つめている。実力を測ろうとしているのだろうか。

 

「実力は7年前からルー師範代よりは強いな」

 

「ルーさんよりも!?」

 

 ワン子を皮切りに周りは驚愕の表情で思わず佐々木を見た。

 川神院は不敗の流派として名高い場所。そこの師範代を上回ると聞けばこうなるのは必然である。

 他には、とモモが尋ねてきた。

 

「以上だが」

 

 一瞬、場は沈黙した。

 

「それだけ?」

 

「うむ、彼女の事はよくは知らぬ。知りたくば当人に尋ねるがよい」

 

「なんだよ、そんな深い仲じゃないんだな! だったらオレ様がお近づきになっても問題ないよな!?」

 

 鼻息が荒い、そして眼を血走らせているガクト。そんなだから女子に拒絶されるのだ。

 閑話休題。

 声が聞こえてたのか薄く笑いながら佐々木は告げる。

 

「生憎だけど、今の私にはノルン君しか見えてないから、お断りするよ」

 

「チックショオオォォーーー!」

 

 見事なまでに崩れ落ちたガクト。暑苦しいぞ、と告げて身体を起こし、みんなの方に押しやる。

 周りはみな苦笑したり呆れたりだ。

 

「最もガクトが彼女に言い寄っておれば止めておったがな」

 

「まぁ、犯罪的ではあるな」

 

「確かにねぇ」

 

 大和とモロがこちらの言葉に賛同する。

 ただ、其処に含まれるニュアンスには絶望的な差があるだろう。

 

「モテるねぇ、ノルン」

 

「茶化しながら抓るのはよして貰えぬか弁慶?」

 

 彼女の怪力でやられるのは地味に痛い。

 抓る弁慶の手を少し強引に離し、義経の元に押し出す。

 

「それに、他の誰であろうとも彼女に近づくようならば、私は黙っておらぬぞ」

 

 言った瞬間、周りがざわめき出した。

 中でもモモの動揺具合が凄まじい。今迄不敵だったのに突然何事だというのか。

 

「ど、どういうことだよ。か、彼女見たなのがタイプなのか」

 

 凄まじい剣幕で迫るモモに落ち着け、と言いながらみんなの方に押し戻す。

 問い詰められたところで答え難い質問である。

 容姿端麗ではあると思う。少なくとも己の眼から見ても十二分に。

 だがしかし―――

 

「そう言う色めいた話ではあらぬ」

 

「じゃあ、どういう話なの?」

 

「彼女は――――――」

 

「殺人鬼だから、だろう?」

 

 説明せんと紡ぐはずの言葉は佐々木に奪われた。

 唖然。

 告げられたみんなの表情はその一言に尽きた。困惑する周りを他所に、彼女は言葉を続ける。

 

「気付いていないのかい? さっきから彼が君達を私から遠ざけようとしているのを」

 

 残念だ―――と彼女の顔は物語る。

 

「これだけの実力者がいながら、其処に気付けないなんて……話にならない」

 

 (かぶり)を振り、再びこちら見据える佐々木。

 その表情は先程と同じく笑顔のまま―――しかし醸し出す雰囲気は決定的に違う。

 無機質なガラス細工の様な伽藍堂の瞳は再開後に初めて名前を呼んだ時と同じ、情欲に近しい強い色を帯び、張り付く笑顔は猟奇的―――否、猟喜的な雰囲気を湛える。

 

「クフッ……やはりノルン君、今の私には君しかいない」

 

 ポン、と左手が腰に携えた刀を軽く叩く。

 

「世界に名を馳せる格闘家を探し、戦い、切り捨てた。けど駄目だったよ―――」

 

 ―――少なくとも君の母親以上の実力者は居なかった。

 

 残念そうに語られた言葉にモモ、ワン子、清楚は驚く。この三人は母筱宮幸恵の死んだ訳を知っているがために。

 周りの声など聞こえていないかの如く言葉を続ける佐々木。

 

「マスタークラスの人間もそれなりに斬ったけど、やはり欠片も満足しなかった。その点、彼女―――筱宮幸恵は優秀だった」

 

 ―――君には劣るけどね。

 さも過去を懐かしむ様に彼女は語る。

 事実、彼女にとっては母との戦いは過去の出来事であろう。

 

「お前、お前が幸恵さんを―――」

 

「前に出張るでない!」

 

 踏み出そうとしたモモを押し留め、強引に下がらせる。

 

「何で止める!? アイツのレベルなら私でも―――」

 

「佐々木との死合いはッ! モモ、其方(そなた)が今まで重ねた戦い全てが児戯に等しいと思える領域に足を踏み入れる事に他ならぬ」

 

「な……に…?」

 

 固まるモモを無視して、他のモノも手を出すな、と言い放つ。

 正直なところ、モモの言い分は間違っていない。

 確かに、モモならば佐々木相手にも負けないだろう。但し、彼女の力を跳ね上げるあの妖刀(宝具)とあの時、最後に見せたあの奇怪な技さえ無ければここまで頑なに止めはしなかった。

 

 先の戦い、心眼を用いての観察によれば、あの妖刀は血、より正確には"命"という概念に類ずるモノを吸う事で宝具自体のランク向上のみならず、担い手のステータスも平行してブーストするタイプの宝具。そして恐らく、担い手が妖刀の加護に耐えられるならば血を吸って際限なく力を上げられるものと見た。

 

 因果の逆転や、光の断層、果ては天地を開闢する空間断裂に比べれば派手さに欠ける。だが、決して侮ってはいけない。

 際限なく上がるという事は、ランクでいえばEX(規格外)の領域にだって到り得るということ。

 無論、担い手がそんな高濃度魔力―――この場合妖力か―――に耐えられれば、の話だが。

 

 加えて、それ以上にやっかいなのはあの奇妙な技。

 あの時首を刎ねて殺したのは間違い無かった。晒した死体も間違いなく本物だと心眼は告げた。

 だというのに、心眼は同時に殺せていないとも告げ、現実に彼女は生きており、己は斬られたのだから。

 刀と違い、一度しか見てないないのでカラクリがイマイチ掴めていないのだ。

 

直感(心眼)は己の魔宵伽に近しいと告げてはおるが……)

 

 あの技は確実に初見殺しの類である。佐々木に斬られた者達も倒したと、そう思った所に死角から首を刎ねられた、なんていうのも恐らく少なくは無いだろう。

 

 こちらが予防線を張る中で佐々木は訝しむ様にこちらを見る。

 

「ふむ、曲りなりにも(かたき)を目の前にして斬りかかるどころか得物を抜かない……何故だい?」

 

 訝しんでいた原因はそこらしい。

 確かに、最初の時は問答無用で斬りかかっていたのだから不思議に思っても無理もない。

 

「母を殺された憎しみは確と胸にある。然りとて今ここで、周囲を巻き込んでまで、とは思わぬよ」

 

 彼女と己が此処で戦えば間違いなく周囲を巻き込んでしまうだろう。

 個人的にも戦術的にも此処で戦うのは下策どころでは無い。下の下である。

 

「それもまた何故?」

 

 疑問を投げかける佐々木に

 

 ―――母との戦いが真剣勝負であったが故に―――

 

 と、返す。

 

「武芸者として、真っ向勝負の末敗れ、死した……なれば、それに対してとやかく物申すのは人としては兎も角、武芸者としての筋が通っておらぬ」

 

 今度は己の言葉に周りは驚く。

 

 敵討ちから始まる戦いの因縁は確かにあるだろう。

 しかし、母いち武芸者として真っ当に誇り高くぶつかり合いの末に敗れたのだ。

 

「母にも悔いはあった、未練もあった、心残りもあった。それでも―――」

 

 ―――武芸者として、其方(そなた)()を讃えておった。

 

 そこに私怨で以って刃を交えるのは筋違いだ、と―――

 ましてや、それで周りも巻き込むなど言語道断である、と改めて語る。

 

 それを聞いた佐々木は舐める様な目つきで、探る様な視線でこちらを見据える。

 

「あくまでも、自分から闘う事は無いと」

 

「私個人に道理があらぬ。少なくともこの場では、な」

 

 しばしの沈黙。

 

「戦いを申し込む、っていうのは―――」

 

「それは看過できぬのう」

 

 佐々木の声を遮って表れたのはここの学園長こと鉄心殿。

 側にはルー師範代もおり、かなり警戒している。

 佐々木は漫然と2人を見据え―――溜息。

 

「武神と、あの時の雑兵か……2人には用は無いんだけどなぁ。私は彼の方が良い」

 

「雑兵とは良く言っタ。あの時の私だと思うナ!」

 

「その顔を見るのは幸恵を殺した時以来か……意気がええのう、ネェちゃん。まだ、ワシにそんな口を叩ける輩がおったのは驚きじゃよ。嬉しくもあるがのう」

 

 睨み合いながら静かに闘氣を高めていく鉄心殿。雑兵と言われてルー師範代も闘氣を漲らせる。

 対して佐々木は抜く素振りを見せない。

 

 ―――否。

 

 蔵から原罪(メロダック)、その贋作を取り出し奔らせる。ただの得物では防げないと判断しての事だ。

 ルー師範代の真横、丁度死角になるかならないか程度の場所。ルー師範代は気付けていない。

 鉄心殿も気付くが彼では間に合わない。

 

「!?」

 

 響き渡る金属音。

 何時の間にか抜いき放ち、ルー師範代を襲わんとした兇刃を防ぐ。

 

「あっはっは、良く防いだッ!」

 

其方(そなた)も見事。よもや鉄心殿を後手に回らせるとは、なッ!」

 

 金属同士が擦れ合い、文字通りに鎬を削る。

 しかし、妖刀が怪しく光ったその時―――

 

 破砕する音と共に、原罪(メロダック)が砕け散った。

 

 瞬間、ルー師範代を後ろに突き飛ばしながらしゃがみ、回し蹴り。

 腕でガードしつつ吹き飛ばされる佐々木。

 一応、我が力、武を交えず(暗器暗武)で攻撃してみるものの、やはり勁は通らない。

 刀の妖力がそれだけ濃いのだ。

 

(抜かったな……命という概念に類ずるモノを吸い取り糧とする妖刀―――という見立ては合っておったが―――)

 

 よもや剣に宿っていた魔力をごっそり持っていかれるとは思わなかった。

 贋作とはいえ、神秘性は劣るが保有魔力はオリジナルに劣らないというのに剣が砕かれたのはそれが原因。

 おまけに―――

 

「へぇ……刀の力が跳ね上がっている。さぞ立派な剣だったのかな」

 

 持っていた妖刀の力が跳ね上がっている。具体的にはBからA+位に。

 悪手もいいところだった。

 あの妖刀はある意味宝具殺しの宝具である。英雄王とは絶対的に相性が悪いだろう。

 宝具を射出しても担い手次第ではエサを相手にばら撒いているも同じだ。

 そして、少なくとも佐々木のスペックがA+ランク相当の魔力に耐えられる事を期せずして証明した結果となった。

 

 改めて構えて睨み合う。

 今の妖刀を見て唯ならぬモノと武芸者の直感が過ったのか、下手な手出しをしない鉄心殿。

 ルー師範代を後ろに下がらせ、守る様に言う。

 更にそこへ―――

 

「フン、何事かと思って来てみれば、とんだ事態の様だな」

 

「えぇ、全くですな」

 

 九鬼家従者部隊、零番と3番の2人が駆け付ける。

 妖刀の気配に釣られて出来た様だ。

 

「クラウディオ、ルー師範代と共にみなを守れ! ヒューム、ここは良い、紋の守りに徹せよッ! 奴の狙いが私とはいえ、万が一があってはならぬ。これは九鬼としての命ぞ!」

 

「分かりました」

 

「……承知しました」

 

 クラウは何時も通り、ヒュームはしぶしぶといった具合に命令に従う。

 守りに関しては不安があるがそれでも先程よりはマシになった筈。

 その時、ホンの少しだけ後ろにやっていた意識の度合を強めてしまった。

 

「――――隙あり」

 

 そんな言葉と共に視界に群青の髪が移り、鼓膜を震わせ頭に伝わる。

 

 

 

 

 

 

 

 目の前に立っていた彼、筱宮ノルンが一瞬だけ、隙を晒した。

 それは例えるなら絹糸の厚み程度の僅かなものだ。しかし、それは私にとって十分な隙となる。

 

「――――隙あり」

 

 だからか、彼の身体に刺す前につい口に出してしまったのは。

 手に伝わる胸骨を砕き肉を貫く感触。

 更に刀を伝って命が零れ落ちていく独特の感覚は何時味わってもこればかりは複雑である。

 

 それは自分を埋めてくれる相手との別離であるが故に。

 

 口から大量に血を吐きながらそれでも手刀でこちらを貫かんとする彼。

 思わず既に緩んだ口元が更に緩みそうになるのを堪え、素早く引き抜く。

 身体を捻って手刀を躱し、手の届かない間合いに回り込み―――

 

 ―――そのまま首を刎ねた。

 

 間を置いて降り注ぐ鮮血。

 

 生温かい血の雨に反して、己の心が急速に冷えていくのが良く分かる。

 

 またか、と―――

 

 彼でも駄目だったのか、と―――

 

 7年もの間求めた相手の呆気ない幕切れに、切なさを感じる。

 

「あ、あ……」

 

 声の方に視線を向けてみると、現在の武神と彼女を取り巻く彼の友人たちの姿。

 守りに回っていた川神院の師範代と九鬼の執事が反射的に構えるのが見えたが気にならない。

 一様に目の前で起きた事に対するのが信じられないらしい。

 

 やがて、武神の闘氣が急速に膨れ出す。

 

 それでも己の冷めた心は動かない。

 しかし、とも考える。

 

(彼の友人なら、1人2人一緒に送ってあげた方が彼は寂しくないかな?)

 

 純粋にそう思った。

 それは未だ心に残る彼への未練の表れか、はたまた別のナニカかは分からないが。

 刀を握る手に力が入った。

 

 どうやら川神院総代の方も動くらしい。妖刀から伝わる感覚が私にそれを知らせてくれる。

 まずは眼の前の現武神から。

 一歩を踏み出そうとした私の視界は―――

 

 ―――宙を舞った。

 

 

 

 

 

 

 

 ―――間一髪。

 

 その一言に尽きた。

 もしも佐々木が声に出さず、こちらを刺しに来たら何一つ出来ずに殺されていただろう。

 ほんの僅かな隙を付かれたとはいえ、己に珍しく運が良い。

 声と同時に広げた圏境を魔宵伽に転じ、縮地で跳んで躱した。

 

 そして、念を押して背後から首を刎ねたのだ。

 これが大まかな流れ。

 

 噴き出す血の雨を浴びながら、倒れる骸、である筈のモノに眼を向ける。

 やはり、と思わず呟く。

 もう一度見てもあの時と変わらない。死体が本物ならば、殺せていないのも事実だと心眼は告げてくる。

 

 悲鳴がグラウンドに木霊する。

 騒動を一部始終見ていた校舎内の生徒達のモノだ。

 目の前でリアルスプラッタが起これば無理もない。チラリと周りを探れば、目を背けるものがほとんどで、少なくない数の人間が嘔吐しているのが感じ取れた。

 そして、友たちもまた、戸惑いを隠せない様子。

 何と声を掛ければいいかも分からず、視線が右往左往しているのが殆ど。

 中にはモモ、小雪、冬馬、清楚や弁慶といった面々は色々と思案してるようである。それが何かまでは窺い知れないが。

 

 色々な意味で空気の悪い中、最初に口を開いたのはモモだった。

 

「あぁー……ノルン、なんだ、その……」

 

「気遣い無用だよモモ」

 

 しかしやはり、彼女の中で上手く纏まって無いのだろう。吐き出される言葉は言葉になっておらず、しかし、この状況ではそれも必然。

 モモの言葉に次いで話しかけてきたのは、ある意味予想通りでクリスだった。

 まるで信じられないモノを見たかのような表情である。

 

「お前、何で平気な顔をしているんだ……」

 

 クリスの問いに何が、と返す。

 

「人殺しをしておいて、何で何時も通りに振舞っているんだ!」

 

 その言葉は何処までも正論だった。現に、彼女の言に対して誰ひとりとして止めようというモノは居ない。

 彼らの目の前で起こした事はそういう出来ごとなのだから。

 

「ふむ、まぁ理解を示さるる、などと都合のよい事は考えておらなんだが……何故(なにゆえ)平静なのか、と問われれば武芸者であるが故に、だ」

 

「ふざけるな! 何が武芸者だ! 彼女はお前の(かたき)だったのかもしれないが、それでも殺しは悪だ!」

 

「呵々、道理よな。なればクリス、其方(そなた)の父親も姉貴分であるマルギッテもこの身と同類よ」

 

 こちらが告げる言葉に激昂するクリス。家族を愚弄するのか、と睨んでくる。

 

「軍人程、この世界で人殺しを合法的に為しておる人種はおるまい」

 

「それは、戦争だからだ! 人の安全を守るためにはやむを得ない事だ!」

 

「なれば問おうクリス。殺人が何故(なにゆえ)、悪なのだ?」

 

「何を言っている!? 尊い命奪って良い理由なんてない! それを奪うのは他ならない悪だ!」

 

 まさしく、正しく道理である。

 だがしかし、彼女は自分の言葉の矛盾に気付いていない。

 

「クリス、其方(そなた)は正しいよ。尊い命を奪って良い理由などありはせぬ。然れどなれば―――」

 

 ―――戦争ならば仕方無いと語るは矛盾しておる。

 そう告げられたクリスは言葉を詰まらせた。

 

「クリス、誤解せぬように。其方(そなた)の言は何処までも正しい。私も同意だ。奪って良い道理など皆無である。人としては、な……だが武芸者としては異なるのだ」

 

 少なくとも私にとっては。

 告げられる言葉に頭を捻るクリス。

 今のこの平和な時代の人間には大凡理解には至らないだろう。

 

「武力の、戦いの本質とは弱肉強食。勝者が敗者の全てを喰らいつくすことにある」

 

 こちらの意見にクリスは激しく反論する。

 武とは誰かを守るためだ、と。

 戦いとはそのためのものだ、と。

 

「だから、武力は、戦いは正しい事の為に使わなければならない!」

 

「ならば、その正しさとやらの為に相手の意思を力で強引に挫いてもよい、と?」

 

「ッ……それは…それでも、悪はどこまで行っても悪だ!」

 

「私にとっては、異なる。人の意思には元来貴賎はあらぬ……何故なら何かを望み欲する心は何人にもあるが故に、だ」

 

 己にとって善悪問わず力で相手の意思を挫く事自体、既に悪だ。

 どんな道理があろうとも、利益の為に他者を力で捩じ伏せるのは、悪なのだ。

 そして、と続けて―――武芸を振るうモノはその最たるものだ、と語る。

 

「違う、違う! ソレでは人では無く獣だ!」

 

「如何にもだ。それ故に有史以来、人から争いが絶えた試しは在らぬよ。そこに大義名分などというモノを掲げるのは各々の許せない(・・・・)という欲望(感情)を社会に肯定させる為に都合よくでっち上げたもの―――唯の幻想に過ぎぬ。少なくとも己にとっては、な」

 

 人の掲げる大義が幻想であるが故に、弟は救ったモノ達にすら戦犯者として扱われたのだから。

 

「クッ……」

 

 口惜しそうにクリスはこちらを視線で射抜く。

 その様には思わず微笑みそうになるのを精神で捩じ伏せる。

 場に似つかわしくない事この上ない感情だが、初々しさに微笑ましく思う。

 

「ならば何のために武を振るってる!」

 

「己の為だが?」

 

「なっ……」

 

「他者の為にと思うのも己の欲。故に武力とは己に殉じて振るってこそ、だ。そこに社会的、道徳じみた善悪の基準など無用」

 

 そうでなければ、他者の意思を力づくで挫くという悪事を他者に押し付けてしまうことになるだろう。

 行きつく先は神の為にと異教徒を滅ぼせと謳う過激な殉教者と何ら変わりない。

 過去が過去だけにそれを悪と断じる事は自分にはできないが、己にとって、それはやってはならない禁忌に他ならない。師の教え的にも。

 

 クリスに其処まで語りはしないが。

 

「……やはり、根っこのところでお前と私は相容れないないな」

 

「私はクリスの在り方、嫌いではあらぬよ。行き過ぎねば寧ろ好ましくさえ思う」

 

 茶化す様に聞こえてしまった様で、顔が更に凄い事に。

 

 ともあれ己にとっては何を今更、である。

 属性でいえば、間違いなく秩序・善である彼女に対して、今の己は客観的には混沌・善と自負している。

 基本的にこの属性的相性の悪さは騎士王とゴルゴンの末妹が証明している。

 

 何やら話す中身が大幅にそれてしまった。

 一通り駄弁ったところで、彼女の勘違いを解かねばなるまい。

 そうでなければ、未だ空気な周りも哀れだろう。

 

 律儀に静観している彼女(・・)も、だ。

 

「そもそもな、クリス。其方(そなた)は1つ思い違いをしておる」

 

「何? 自分が何を勘違いしてると?」

 

「私は、人を殺してはおらぬぞ?」

 

「なッ……この期に及んで戯れ言を―――」

 

 

 

「戯れ言、ではないねぇ」

 

 正し意見だ、と続ける。

 静かに響き渡る声に誰もがそちらに目を向ける。

 それはあり得ない、あってはならない筈だから。

 

 ―――既に目の前で死んだ筈の人物から声が上がるなど。

 

 門の付近にいた彼女、佐々木の姿を見て誰しもが驚く。自分、鉄心殿、ルー師範代以外は。

 2人の場合は己と同じくやはり、といった具合だ。

 

「な、何で生きて―――」

 

「クフッ―――フ、は……ハハハハハッハッハッハーー!」

 

 呵呵大笑。

 顔を手で覆い、心底可笑しそうに、否、愉快そうに笑う。

 

 己以外の誰もがその狂喜に呑みこまれる。

 それだけに今の佐々木が纏う常軌を逸脱しているのだ。

 

「あぁ、あぁ……やはり私の求めるものは君以外にいないよ。実力は元より躊躇なく、容赦なく、殺人剣を振るい、終始一切心乱す事無いその胆力、その冷徹さ、戦いにおける非情さとある種の潔さ……どれをとっても私好みだ」

 

 ―――あぁ、今ここで本気でかぶり付いて骨の髄まで食べてしまいたい。

 恋焦がれる乙女の如く顔を赤らめ、しかし猟喜的狂喜の眼差しがこちらへ一点に集まる。

 

「ッ…!」

 

 その異質過ぎる気配におもわず飛び退くモモ。

 流し目に一瞬それを見て、視線を佐々木へ戻す。

 

「場所さえ弁えて貰えるなら構わぬよ。お前は今し方、私や私の友、恩人に害を為さんとした。それは己にとって討つべき仇故な」

 

「実に魅力的な申し出だ、思わず肯きそうになる」

 

 言葉通りに堪えている様な表情。(かぶり)を振るって駄目だと自分に言い掛けるようにしている。

 

「けど、それじゃあ邪魔も入るだろう。今の私じゃあそれは興ざめだ」

 

 だから、と言葉が続けられる。

 

「世界格闘大会KOS2009、あの大会に私は出る。其処に君にも参加して欲しい」

 

「――――本気か?」

 

 勿論だ、と答える佐々木。

 

「武神でも良いし、仲良しの友達でも、そこのクローンの面々でも良い。私も適当にチームを見繕ってくるからね。是非とも参加して私と戦っておくれ」

 

「ッ!!」

 

 その言葉の意味が、語られた内容の真意がどうしても分かってしまう。

 正直に言えば最悪の状況である。

 断っても確実に彼女はKOSに出場するだろう。

 後の光景がどういうものかなど想像に難くは無い。

 

 こちらが察した事を向こうも把握したのか、彼女は満足そうに肯く。

 踵を返して楽しみにしてるよ、と言ったのを最後に、あの時と同じく瞬く間に消えて行った。

 

「お怪我はおりませんか、ノルン様」

 

「うむ、私は大事ないぞクラウディオ。有難う」

 

「執事として主の身を案じるのは当然のこと」

 

 こんな時でも気遣いを忘れない従者には感謝の念を禁じ得なかった。

 

 

 

 

 

 

 ―――夜、極東本部屋上。

 

「ン、ン……ふぅ、美味いな」

 

 流石は狛さんの所の一品。見事な出来栄えだ。

 ただいま屋上で月見酒の最中。

 あれから授業は普通どおりに受けてはいたが、余りにも予想どおりな周囲の反応には予想通り過ぎて笑いを堪えるのが大変だった。

 まぁ、それでも小雪達や弁慶、ファミリーもモモに大和や京、キャップなどが気を使ってくれたので助かりもしたが。

 尤も、それも全員では無く義経や与一を始め、残りのファミリーの面々は接し方が分からなくなった様で、態度が何時もと違っていた。

 

 盃を煽る。

 川神水独特の甘さと匂いが喉から鼻へと抜ける。

 

 思考するのは昼間の出来ごと。

 佐々木の使うあの奇怪な術も見るのは2度目。結果としては魔宵伽に酷似していたが、あの技の根本は魔宵伽と真逆だ。

 簡単に説明すれば魔宵伽は"世界"という外へ向くが、あれは"自己"という内側に干渉するタイプだろう。

 効果がある程度分かった以上、あの技も対処は可能である。

 

 ならば何に頭を止ませているかといえば―――KOSの事に他ならない。

 最早状況としては出る以外の選択肢は無い。

 あれの性格や思考を可能な限り考察するに、出ないとなれば確実に地獄の様相を呈する。

 しかも、己にとって憎み切れないとはいえ(かたき)である事も事実。

 

 だが、あらゆる可能性を考慮した時、それを選ぶということは―――

 

<<取れる手段は微々たるもの。ならば、その中で最善を打たねばなるまい?>>

 

<<分かっておるさ、皆まで申してくれるな雪花>>

 

 念話という手段で語りかけてきたのは雪花。

 どうやら見かねた上で励まそうとしてくれているようだ。この場合、発破とも言うかもしれないが。

 己が雪花の心情をさっせるのと同じで、今のこちらの心情はお見通しだ。

 

<<あぁ、だったら為す他に道はない。私は、否―――我等は何時でもノルンと共に(・・・・・・・・・・・・・)、だ>>

 

 僅かに残ったシコリが取り払われていく。

 何時だって、その言葉が己にとって何よりも励みになってきた。

 

<<うむ、そうであるな。取れる選択肢も事実上1つ。なればその為に手を打たねばな>>

 

 伴侶の後押しで覚悟は決まった。

 後は実行に移すだけ。

 

 盃に残った川神水を飲み干す。

 

<<相変わらず、美味しそうに飲むな>>

 

<<雪花は酒が苦手だからねぇ>>

 

 冷やかす様に声を掛けてくるのは酔花。

 雪花はアルコールの類が苦手である。川神水はノンアルコールの場で酔える不思議水だが、酔えるものなら全て駄目らしく、一口で倒れてしまった。

 

<<まさか酒ですらないのも駄目とはねぇ……>>

 

<<余計な御世話だよ、酔花>>

 

<<はははっ、拗ねちゃって>>

 

<<ふん……>>

 

 微笑ましい光景である。霊体化して物理的には見えないけども。

 そんなやり取りを見ていると、雪花がピクリと反応する。

 

<<お客さんのようだ、ノルン>>

 

 雪花の言葉に従って圏境を広げてみると、近付いてくる気配があった。

 清楚である。

 お客さんという表現は正しく、こちらを探している気配を感じる。

 だが――――

 

<<まだ1階、それも別のビルにおる清楚を捕捉するとは>>

 

<<どんだけ予防線張ってんだい?>>

 

<<……むぅ>>

 

 いじける姿はとても可愛いものだが。

 

 

 

 

 暫くすると清楚は屋上までやってきた。

 やぁ、と手を上げると、清楚はそれを無視してこちらまで歩み寄ってくる。

 盃を新たにとりだし、飲むか、と問うても反応せず、真っ直ぐこっちを見据える清楚。

 

「それで、どうするの? KOS」

 

 徐に開いた口から出てきたのは、KOSについて。

 暗に参加の是非を問うておるのだろう。

 参加するぞ、と返す。

 

「それは……彼女が出るから?」

 

「在り来たりに言えば、そうであるな。清楚には話した通り、アレは私の(かたき)だ。それが目の前に現れた以上は黙ってみてはおれぬ」

 

「……KOS、参加しないで」

 

 過去に語った事が清楚には引っ掛かっているらしい。

 確かに、あの時自分は言った。

 

 ―――彼女を殺すか、彼女に殺されるかの確立が高い、と。

 無論それ以外の可能性もある。しかし、やはり今でも確率は殺すか殺されるかの方が高い。

 具体的には4:4:1ぐらい。

 

「心配は有難い、然りとて、それは私の問題だよ清楚」

 

 寧ろ考えるべきは清楚の方だ、と告げる。

 

「私の?」

 

 小首を傾げる清楚に首肯で返す。

 

「清楚の正体を何処で明かすか、だ。私の場合、このKOSで決着が付くが、清楚の場合はそうはゆかぬ。其方(そなた)の方が後にまで響く。昨日も申したであろう?」

 

 そう言った時、清楚の顔は、何を言っているのか分からない、と語っていた。

 どうした、と疑問を投げかけると清楚はこっちの胸元を掴む。

 

「なんで! なんで周りばっかり気にするの!」

 

 胸元を掴みかかってきてからの罵声。彼女らしからぬ行いである。

 口惜しそうに、もどかしそうに彼女は激しく語る。

 

「佐々木って子の時も、それ以外も普段から! 周りに頼っているようで、肝心な所は何時も1人でやって! 分かってる!? 死ぬかも知れないんだよ!」

 

 言葉もない。

 其処まで思いつめられるとは正直思っていなかった。

 目尻に涙まで溜めてこちら睨む清楚に大丈夫だ、と宥める。

 首を激しく横に振る清楚。

 

「大丈夫じゃないよ!」

 

「大丈夫だ」

 

「大丈夫じゃない!」

 

「大丈夫だ」

 

「大丈夫じゃないってば!」

 

「……清楚」

 

「……」

 

 納得してません、と語る清楚の瞳。

 ならば、どうするのだ、問うた。

 清楚から返ってきた答えは―――

 

 自分達が倒すというモノ。

 

「清楚、それは!」

 

「だから、参加しないで欲しい」

 

「……」

 

 真摯な瞳に二の句が継げなくなる。

 それは単純な決意だけでは無い。己の正体も其処で明かすと言っている様なものだった。

 しばしの間沈黙する。

 

 やがて、こちらが嘆息してしまった。

 この顔はこの場で何を言っても聞いてはもらえない。覚悟を以った者の人間の目だ。

 

「義経達には何と?」

 

「もう説得済みだよ」

 

「早いな……」

 

「ノルン君の為だもん。私は貴方を失いたくは無い。それは武士道プランの申し子の総意なの」

 

 もう今は何を言っても無駄だろう。

 

「分かったよ……」

 

 え、と呆けた声を上げる清楚。

 

「九鬼ノルンは、KOSには出ぬ」

 

「……本当、に?」

 

 うむ、と肯く。

 すると、綻ぶように満面の笑顔を見せ、抱きついてくる清楚。

 

「うん、私達頑張るから!」

 

「あぁ」

 

 その態度に複雑な念を覚えるのは自然の事である。

 

<<酷い人だな。彼女の、いや、彼女達の気持ちを裏切って>>

 

 伝わってくる雪花の声。責めることで敢えて現状を刻みつけんとする言動。

 そして、それこそが今の己に必要な言葉である。覚悟――なんて上等なものでもないかもしれないが――を改めて胸に据え置く為にも。

 本当に以心伝心で愛する伴侶だ。己にはもったいないくらいにイイ女である。

 

<<あぁ、裏切りなのは分かっておる。それでも―――>>

 

 思い出すのはこの身を失いたくないという清楚の言葉(気持ち)

 

(失いとうない、それは私とて同じだよ清楚…・…)

 

 ―――私も其方等(そなたら)を失いとうないのだ。

 

 抱きついた事に気付いて顔を赤くして離れる清楚。

 

 その思いは紡がれる事は無く胸に留める。

 

 

 様々な人々の思いが川神と七浜を中心に集い、世界は動く。

 

 




名前 佐々木 イメージCV 朴口美

一人称 私

身長 160cm

武器 宝具クラスの妖刀

趣味 闘争

特技 剣術 料理(基本的に自給自足で世界を飛び回っているため)

大切なもの 自分を高ぶらせてくれる強敵

苦手なもの デモ活動などを行う団体(弱者を一方的に殺さない為彼女にとって最も鬱陶しい存在)


簡易的な佐々木の簡単な即席プロフィールです。容姿は女版アサシン小次郎をイメージ。
最早誰がみても分かるバトルマニアで、殺人しかしませんが弱い相手には目もくれないちょっとした武人。でも殺人鬼。
また、デモ活動の団体などは暴力に訴えない力という彼女がもっとも苦手とする部類でありこの手の部類は殺しても騒ぎが増して己が動きづらくなるだけと理解しているので最も彼女が避ける存在。
ちなみに、パパラッチみたいな個人、或いは小規模は問答無用でズンバラリン、闇打ちで切り捨て御免です。
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