気まぐれ神様の物語 真剣恋Ver.   作:ジーザスルージュ

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36話

 世界格闘大会KOS2009の開催宣言と共に世界は其処から激動したと言っても過言ではない。

 これ以降の株価の動きもかなり荒れもしたし、何より格闘家の―――否、人々の間でそれは紛れもないドリームチャンスだった。

 勝てば名誉と共に送られる500億円という破格な賞金は人々をこれでもかと言うくらいに誘惑し、熱くさせた。

 何よりKOSはルール無用を秩序とする大会。最強求める格闘家達は何するものぞと息巻き、一般からも身の程知らずが賞金に目が眩み馳せ参じる。

 様々な思惑が交錯し、世界がいま確かに、日本は川神、七浜を中心に動いていると言っても過言では無かった。

 

 

 

 ―――アメリカ。

 

 ホワイトハウスでは大統領以下、国の各の主だった軍将校が集っていた。

 

「バイオニックソルジャー、ワンとツーの調整、どうにか間に合いました」

 

「うむ、後は残りのメンバー選出だけか」

 

 バイオニックソルジャーとは軍縮が進む軍の中で、武器では無く、人をより練磨し兵器にせんと過酷で特殊な訓練を受けた兵士の事。

 国の威信と名誉を掛けた戦いに繰り出すには色々な意味で打って付けだった。

 

「カラカル兄弟はどうでしょう? 全米格闘王者とそれを支えた弟の2人になら不足は無いかと」

 

「ふむ、今は確か川神で2人とも教師をしていたな」

 

 将校は大統領の確かめる様な問いにはい、と返事と共に首肯する。

 

「直ぐに兄弟に連絡を取れ」

 

「かしこまりました」

 

 こうして、カラカル・ゲイル、ゲイツの兄弟がバイオニックソルジャーのチームとして参加を決定した。

 

 

 

 

 ―――ドイツ。

 

 何処かの暗い一室で1人の軍服姿の偉丈夫がパソコンの画面を真剣に見ていた。

 その表情は穏やかながら冷徹さを醸し出し、雰囲気はまさしく抜き身のナイフの如く。

 

「世界格闘大会KOS2009、世界各国から様々な強者が集う武闘家の祭典、か。今後我が国にとって脅威となり得る存在がいるかどうかを見定めるのに打って付けと言えよう」

 

 その視線はパソコンから決して離れる事は無い。

 彼が見ているの全て画像データだ。

 

「うむ、やはり我が娘は天使の様に、いや、それ以上に可憐だ」

 

 中身は全てクリスティアーネ・フリードリヒの写真である。撮影者マルギッテ。

 彼の名はフランク・フリードリヒ。ドイツ軍中将。

 

「KOSは熾烈を極めるだろう。早急に軍の精鋭からメンバーを選抜し我が娘を守らねば。待っていなさい、クリス」

 

 またの名を親バカとも言う。

 

 

 

 アルゼンチンから太陽の子、メッシを始め、世界各国から強者が集う。

 それは日本でもかわりなかった。

 

 

 

 ―――天神館。

 

 東西交流戦で川神学園にその威と武を示したこの学園のモノも西方十勇士を中心にKOSへ馳せ参じんと息巻いていた。

 

「KOS、出世街道を歩む俺にとってまさしく相応しい舞台だ。世界の有象無象に俺の勇士を特と見せつけてやろう」

 

「御大将、くれぐれも侮りめさるな」

 

「グワッハッハ、これだけ大きな大会、四国を大体的にアピールするにはまさに打って付けよ」

 

「それに交流戦で最後は一方的な負け方をしてしもうたからなー」

 

「ゴホッ、ゴホッ、ここいらで名誉挽回するのも悪くあるまい」

 

「応とも! 東の坂東武者たちは元より、世界に我等西国武士の力を見せつけてやろうぞ!」

 

「こんどは、まけない」

 

「フッ、美しいこの私がいれば造作もない」

 

「我等忍びの活躍も一層知らしめられる願ってもない好機」

 

「俺は当日はTVの仕事が入ってるけどな」

 

 各々、欲望に忠実であった。良かれ悪しかれ色々と。

 

 

 

 ―――九鬼家極東本部、訓練室。

 

「はあぁーーーッ!」

 

 裂帛の雄叫びと共に奔る斬閃。的の変わりに置いてあった太い丸太にも見える鉄製の棒を5本両断する。

 残心でその結果を見据える義経。

 その横で拍手を送る弁慶と清楚。与一は離れたところで的を射ている。

 

「お見事! 気合入ってるね、義経」

 

 当然だ、と胸を張って答える義経。

 

「あの佐々木という人を倒すだけでなく、多くの人間が義経達に向かってくる筈だ」

 

「そうだね、けど、ノルンを出さずに済んだのは良いんですけど先輩?」

 

「なにかな? 弁慶ちゃん」

 

「何で貴方まで凄いやる気に? 文系でそこまで出来るのは吃驚でしたけど」

 

 トレーニング室では正直普段の清楚の印象からはかけ離れた光景だ。何せサンドバッグを殴っている。

 それもかなり様になっているのだ、その姿が。最初にその光景をみてとても驚いたのは源氏組の3人の記憶に新しい。

 今もこうしてサンドバック相手に拳を叩きこみ重い砂袋を90°以上飛ばして、帰って来たものを更に別角度から殴っては飛ばし、を繰り返している。

 

「最初に話した通りだよ? ノルン君を失いたくない、だから弁慶ちゃん達も協力してくれる気になったんじゃ?」

 

「勿論です、先輩!」

 

「いえ、私が言いたいのは……ま、良いや」

 

 弁慶はそれっきり質問をせず、義経を見守る。

 

(フン……アイツがどうなろうが知ったこっちゃねぇが、何時もの弁当分程度に動くだけだ)

 

 あっちもこっちも色々と複雑なようである。

 

 

 

 

 ―――極東本部一室。

 

 星の図書館と呼ばれる従者部隊第2位、マープルが桐山鯉の入れる紅茶を飲みながら溜息をつく。

 

「全く、嘆かわしいねぇ……子供のヤンチャにも困った物だ」

 

「大丈夫なのでしょうか、このところ妙に清楚の行動には腑に落ちない点が見られますが」

 

 話題はやはり武士道プランについて、と言っても専ら彼女らが話すのは葉桜清楚についてだ。

 マープルの計画的に言えばあまりよろしくないというのが正直なところ。

 封印はしているとはいえ、強い闘氣に充てられて綻ばないとも限らないから。

 

 しかし、既に封が解けている事など2人は知る由もない。

 

「まぁ、いざとなればヒュームに止めるように頼んである。あの新ルールはこっちに都合がいいからね」

 

「はい。その点、ノルン様には感謝ですね」

 

「全くさね。で、佐々木と言う少女についての来歴は?」

 

 こちらに、と紙媒体の資料取り出す桐山に読むよう命じるマープル。

 かしこまりました、と紙媒体をめくり読み上げる。

 

「中国、アメリカ、イスラエル、コンゴ、エジプト、ルーマニア、イラン、イタリア、イギリス、ロシア……武闘家を中心に彼女が起したとおぼしき殺人は世界各国で行われていますね。有名どころでは中国のヤムハン、エジプトのメム23世、ロシアのセルゲイ辺りでしょうか」

 

「……そこだけ聞くと微妙だね」

 

「はい、まぁ、この有名というのは下馬評ですから。他にも九鬼家の勧誘候補に入っていた武闘家も数多く殺されています。総数にして407人です」

 

 思わず、顔をしかめる。人殺しの数に、だ。

 現代では10人に迫る人間を殺しただけでも殺戮や虐殺と言われるご時世に、400人以上の人間を殺めているという事実は色々と驚愕に値するだろう。

 

「なんで今まで九鬼の情報に引っ掛からなかったんだい?」

 

「いえ、厳密には今も把握しきれていません」

 

 何、と反応するマープル。

 

「来歴を巡ってみると、ノルン様の生みの母君である筱宮幸恵さま殺害以前の足取りも日本国内で数件、それと思しき事件は確かに起こっているものの、確たる証拠足り得るものは見つかっていないのです。それ以前の経歴を追えませんでした」

 

 更に、と続ける執事の口からは齎される情報はこの星の図書館を困惑させるに十分だ。

 

「加えて、先に上げた殺人も、表向きは殺人とは扱われておりません」

 

「なんだって?」

 

 眉をひそめる彼女を脇目に淡々と若執事は手元にある報告書を読み上げる。先程殺人と称しながら殺人事件として扱われていないとはどういうことか。

 彼女の胸中を正確に読み取った桐山は続ける。淀みなく。

 

「行方不明です。彼女の言とノルン様の言、更にはそこに照らし合わせた情報を元に、()()()()()()()()()という推測によるものです」

 

 今し方挙げた、殺されたと言われた者達は詰まる処、この若執事の調べによると行方不明、即ち現在何処にいるのか分からないという。

 曰く、行方知れずになった時間帯に、最後に確認されているのが佐々木と行動を共にしている時。それを境にパッタリと世に名だたる格闘家達は姿を消した。綺麗さっぱり、これでもかというくらい、九鬼の力を以ってしても少女と同じくその行方はとんと追えずのまま。

 

「その筋では彼女は噂にはなっている様です。しかし――――」

 

「報告以上の事は一切、その過去は辿れないままか……」

 

 今の九鬼の力を以ってしても追えない。それもたった一人の少女の足跡をである。

 世界の九鬼を基準にしてもこれは驚愕に値することだ。

 

「まさしく要注意人物って訳だねぇ……」

 

「はい」

 

「……」

 

 

 

 

 

 ―――島津寮。

 

 ここは風間ファミリーの1人、島津岳人の実家が経営している川神学園の学生寮。

 川神姉妹と九鬼ノルン、師岡卓也、隣に住んでいるガクトを覗く風間ファミリーのメンバーが此処に住んでいる。

 

「やっぱり、ある程度数を減らすまで下手に歩き回らない方が良いな、銃器の類が出たらやっぱり危なすぎるし」

 

「そうだね、私やワン子、後はキャップとかはある程度対処できるけど、他はキツイだろうし」

 

 軍師である大和の部屋でKOSの為に作戦を練っているのは、部屋の主と京である。

 ちなみにリーダーたる風間は行方知れず。後の面々もKOSに向けて自分達に出来る事をやっている。

 

「真剣な表情で悩む大和もステキ! 付き合って」

 

「お友達で」

 

「ところで、今この寮には誰にも居ないよね……」

 

「そうだね、クリスもまゆっちも居ないし、ゲンさんはバイト、ガクトはジム、麗子さんも買い物―――っておい、待て京……なんでにじり寄ってくる!?」

 

「これは既成事実を作るチャンスなんだ!!」

 

「ちょ、ヤメ―――アッーー!」

 

 作戦を練っている……筈である。

 ちなみに、貞操だけは死守した、とだけ記しておこう。

 

 

 

 

 

 ―――川神院。

 

 寺内の一室で、川神百代、川神鉄心、ルー師範代が話しこんでいる。

 

「――――以上が、KOSでのワシらの役目じゃ」

 

 複雑そうに顔をゆがめるモモ。

 

「言いたい事は分かったし、私としては願ってもないが……」

 

 此処で話し合われていたのもKOSに関してだが、些か他とは気色が違うようだ。

 深刻そうな顔をする師範代と総代を前にやはりむー、と考え込むモモ。

 

「何かあるかイ?」

 

「いえ、ノルンが出ない以上当然の処置だけど……」

 

「けどなんじゃ?」

 

「そもそも、アイツが出ないって所が腑に落ちないんですよ」

 

 義経達を通じて九鬼ノルンがKOSに参加しないとは聞いた。

 あの一件以来、各々の関係が微妙なモノとなってしまったが、それでもやはり変わらず、とはいかずとも崩れる関係ではない。

 廊下で会えば世間話はする。微妙な距離ではあるが。

 閑話休題。

 

 モモの言葉に考え込む2人。

 

「すると、ノルンが参加してくる事もあり得ると?」

 

「あいつは……約束は必ず守るタイプだ」

 

「ならばやはり参加は控えるのでハ?」

 

「だと、思うんですけど……なんだろうなー、何か腑に落ちない」

 

 確かに、と内心同意する鉄心とルーだった。

 九鬼ノルンが普段から飄々として何処か掴みどころが無い。誠実もある、礼儀もある、だが浮世離れした雰囲気、才能だけでも片付かない武力や経験値の高さ。

 川神院を始め、誰も九鬼ノルンの事を詳細には知らないのだ。

 ある程度の付き合いから彼の人となりはそれなりに把握している。それでも佐々木と二度目の邂逅の時みたく読めない点は多々ある。

 九鬼ノルンに限った話ではないかもしれないが。

 

「とにかく、新たに加えられたこのルールが変わる事は無い。モモ、お前も役目を果たせよ」

 

「あぁ、分かってる」

 

 各々がそれぞれの思いでKOSに向けて歩んでいた。

 

 

 ―――そして来る7月27日、KOSは始る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――七浜市。

 

 そこには数多くの参加者が集っていた。

 朝も早いというのに花火やパレードなどお祭り騒ぎで盛り上がっている。

 川神も七浜と同じく九鬼家によって交通封鎖が為されており、車が通る事はほぼ不可能である。

 なので、臨時のバスや鉄道を九鬼が運航しており、ターミナルや駅界隈は人でごった煮がえしている状態である。

 

 他にもここにはKOSの運営本部の1つが設置されており、もう1つは川神市に。

 参加者は七浜、川神のどちらかの運営本部に一度向かい、チームの本登録を済ませ、参加者の証であるブレスレット型の機会を受け取る様、前日に運営側である九鬼から追加の知らせがあったのだ。

 

 ただ、七浜は交通網が便利である為、此処七浜に人が多く集っているのはそう言う訳がある。

 尤も、風間ファミリーや武士道プランの面々等はもう1つの運営本部である川神院に向かっているだろう。

 こちらにいるのは主に初来日したばかりの外国選手ばかりである。

 国際色豊かな状況になっている七浜、川神の両都市。

 

 そんな大都市の片割れである七浜には一際目を引く集団があった。

 

 中心にいるのは黒の和服、分かる人には平安時代に身に纏う狩衣だと分かるだろう。

 それを纏うのは膝ほどにある白髪、陶磁器よりもなお白い病的な肌をした中性的な青年だ。

 

 彼一人なら、そこまで注目を浴びなかっただろう。

 問題は周りにもある。

 彼の周りにはチームメイトだろうか、5人の女性や少女がいた。しかも全員が絶世の美女美少女である。

 

 濡れ烏の様な見事な艶のある黒い腰ほどまで届く長髪、白い肌を露出させる肩から袖の無い白い小袖に黒の袴、黒い羽織を袖を通さず羽織る様に纏う赤い眼をした神秘的な女性。腰には刀を差している。刀を差している段階でKOSの参加者なのだろうが、浮世離れした美を持つ彼女に参加者は色々な思いで女性を見つめている。

 尤も、言い寄ろうという優者はいない。狩衣の青年の腕を幸せそうに抱き締めているのだから。

 

 1人は遊女の如く緋色の和服を着崩し、背の真ん中まで赤い長髪の女性。

 身長が6人の中で最も高く、モデル張りの容姿、スタイルの上、腕を自分の前で組んでいるので豊満の身体を見せつけるようにしているのだ。男性の多くは彼女に釘付けである。

 だが、それ以上に特出すべきは頭に生えた5本の角だろう。額の真ん中に真っ直ぐ1本、その直ぐ横の額の端に真ん中より長さが短いのが2本、側頭部の両脇に曲がった角が2本生えているのだ。それが作り物に見えないので、更に視線を集めている。

 

 そういう意味ではもう一人の少女も負けていないだろう。

 遊女の様な女性と同じく額から三日月の様な曲線を描く2本の角を生やした尤も身長の低い少女。その背丈は小学生にすら見え得る。

 青年と同じ長さ、そして青年よりは健康的で綺麗な白髪、薄桃色の袴に真紅の陣羽織を着こなしている。

 しかし、最も特出すべきは彼女の身長を優に上回る槍だろう。朱槍、とでもいうのか真紅で拵えられた柄と銀色の刃はそれ一つが芸術品の様で担い手の容姿も相俟って一層互いを引き立てる。

 しかし、少女に槍と一件不釣り合いの様に見えるが当人の醸し出す武人の様な清澄な威圧感に何故かマッチしていた。

 

 反対に最も視線の少ない少女。

 気付けるものしか見ていない為、最も集まっている視線が少ないのだ。

 忍者の装束の様な格好をした黒い長髪に薄い褐色肌。この中で2番目に背の低い彼女は目を閉じたままもの静かに周りに付いて行っている。

 

 最後の女性は、和服揃いの中で1人だけ白いワンピースと言う洋服の女性。

 金の長髪で欧州人に近い風貌。

 にこやかに笑う姿は一番社交的に見えるが、同時に何処か無機質な印象を受ける。

 周りを拒絶している訳ではないし、周りもそうは見えないが、何故だか近寄りがたい何かを感じる女性だ。

 

 青年の腕を抱いている女性以外の周りの女性にしても、やはり何処か青年に対して好意的感情が全員から窺い知れていた。表情が無くても雰囲気で。

 

 ―――コイツ、モゲれば良いのに。

 

 青年に対する周囲の男性の率直な意見だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「流石に注目の的だねぇ……それにしても男共の視線の正直な事」

 

「致し方あるまいて。そんな挑発的な格好では、な」

 

 鬱陶しそうではあるが本当に仕方ないと思う。

 酔花の服装は自分が好んできているものなのだから。センスは良いけれども。

 

「酔花は今少し、慎みを持った方がよいのでは?」

 

「堅苦しいのは苦手でねぇ」

 

「衆目の大半は主に酔花ですが」

 

 ヤレヤレ、と首を振る珠百合とシキ。普段から貞淑な2人の気質からしたら酔花のそれは派手すぎるのだろう。

 

「さて、語らいも此処までだ、みな。雪花も」

 

「あぁ、もうちょっと堪能したかったけれど、続きは今夜にでも」

 

 こちらの頬にそっと唇を当て離れる雪花。離れた時にみえた僅かに頬を朱に染めた笑顔はとても愛らしいの一言だった。

 その光景にシキ唯一人赤くなっている。生真面目な為か、こういう公衆の面前でやり取りを見るのもするのも苦手なのだ。

 目は羨ましそうにしているけども。

 ついつい愛でたくなって頭を撫でる。

 

「あ、に、兄さま! 人前では……」

 

「と、言いながらもどけようとはしないシキだった」

 

「姉さままで……」

 

 便乗して雪花もシキの頭を撫でまわす。恥ずかしそうに顔赤らめ照れるものの、やはりどけようとはしない。

 シキにとっては撫でられて嬉しいのだが、同時に状況が恥ずかしいのだ。根は甘えん坊なのである。

 

「さぁさぁ、お館さま、その辺りしましょう」

 

「始まるようです、主」

 

 ディズィーと珠百合が開始が近いという。その言葉通り、キーン、とスピーカーから不快な音が鳴る。

 町中にセッティングしたスピーカーから聞こえてくる。

 

「改めて、ルールを説明いたします」

 

 クラウディオの声が響き渡る。

 話す中身からして恐らく川神の方にも聞こえているだろう。

 

「KOSに於ける基本ルールは変わりません。開催期間3日の間、4~6人の間でチームを作り、非参加者、並びに一般市民に危害を加え無ければ基本的に何をしようが自由です」

 

 ですが、と言葉を繋げるクラウディオ。

 

「より一層KOSを盛り上げるために更に新ルールを追加します」

 

 語られる新たなルールは、KOS本部から登録の際に授けられたこの腕輪の事。

 この腕輪は高性能発信機であり、大会中は必ずこれを付けている事が1つ目のルール。

 そして二つ目は必ず1日1回は戦闘を行う事。

 腕輪についた発信機で開始してから24時間、選手陣を監視しており同士討ち狙いで潜伏などをして、一日の間に交戦した形跡が見られないモノ、また該当エリアの外に出ようとしたものがいれば問答無用で失格とし、粛清するらしい。

 

「なお、この粛清と、選手の管理を行うのはこちらで用意したマスタークラスの方々で構成された通称仕置き人衆です」

 

 紹介と共に名を呼ばれたのは、確かに仕置き人の名に相応しい人選であった。

 川神院からは総代川神鉄心を始め、現武神の百代、ルー師範代。

 九鬼家からは九鬼揚羽、ヒューム・ヘルシング。

 更には天神館館長の鍋島正に梅屋でバイトをしている筈の釈迦堂刑部。

 

 凄まじいまでに豪華な7人。これではどんな相手もひとたまりもない。

 というか、大人気ないとすら言える人選である。

 

 加えて、ルール無用がルールとは言え、人として過剰なまでに相手を傷めつけたり、相手を故意に何人も殺めたりと、行動が行き過ぎれば粛清の対象になり得る事を示唆した。

 

「見事な戦略だ。佐々木に対する予防線、というか十中八九彼女の為に練られたモノだろうね」

 

「姉さまの意見で相違ありますまい。如何に無秩序を是としても法治国家でそれだけの事を為せば九鬼の信用も落ちかねませぬ」

 

「だからこそ、事が過ぎぬ様にと言う大義で腕輪による発信機を用い、佐々木の居所を把握しておき、被害を最小限に抑えようという腹積もりでしょう」

 

「加えて、KOSを盛り上げるという趣旨にも適っておるな。1日に1回は必ず闘うという縛りは有効と言えよう」

 

 雪花、シキ、珠百合が瞬時にその意図を察する。

 3人の言った通り、ここまで過剰な戦力投入も佐々木相手ならば肯けるというモノだ。

 更に運営側の仕事も適っているのだから流石に抜け目がない。

 

 一通りの追加ルールの説明をして、最後に九鬼揚羽に変わる。

 

「世界の(つわもの)たちよ、よくぞここまで集うた。試合前に開幕の言葉をとの事だが我は事の前に長たらしく語るのは苦手でな。故に、お前達に語るべき事は……」

 

 言葉を区切り、目を瞑って大きく息を吸い込む彼女。

 

「我らにその武勇を、知恵を、結束を示せ! 然すれば、勝利と栄光はその手に掴めよう! 己が力を存分に振るうがよいっ!!」

 

 世界が震えるかのような短い演説――否、宣言か。

 一間おいて、万雷の拍手と宣言に負けない大喝采が響き渡った。

 

 

 

 そして場の空気が最大まで高められたなかでKOSの幕は上がった。

 

 

 

 

 ―――ある意味、最悪の形で。

 

 広場に所狭しと睨み合っていた者達がまさに今にもぶつかり合わんとしていた。

 

 その瞬間、参加者達が纏っていた殺気は消え失せ、全員その場に倒れ込む。

 

 目の前でそれを見ていた大会運営部のモノ達は驚愕する。

 何が起こったのか分からなかったが故に。

 この現象にたった4人、思い当たる節があった。1人は似た技を文字通り身体で覚え、2人はその似た技をよく目にしていたが故に、最後の1人は恐らく同じであろう技を何度か喰らった覚えがあったため。

 

「やっぱり出ていたな。アイツ」

 

 川神百代が―――

 

「おい、じいさん、モモ。アイツはこの大会に出ないんだって言って無かったか?」

 

 釈迦堂形部が―――

 

「ウーム、約束を違える子では無い筈なんだがのう」

 

 川神鉄心が―――

 

「フン、どういう事だか事情を説明して頂きましょうか―――」

 

 ヒューム・ヘルシングが―――件の原因であろう人物を見据える。

 その方向には4人のみならず仕置き人衆の殆どが見知った顔があった。

 黒の狩衣姿をした、彼―――

 

 

 ―――九鬼ノルンの存在が。

 

 

 

 

 4人を始めとした面々に挑発的な笑顔で返し、口を開いた。

 

「事情も何もない。こうして参加者として振舞ったに過ぎぬよ」

 

「だが、お前は清楚ちゃん達に出ないと約束した筈だ」

 

 反故にしてそう言うつもりだ、と問うモモ。対して約束は違えておらぬ、と答えた。

 何、とこちらを更に強く睨むモモ。

 

「清楚と約束したのは、"九鬼ノルン"はKOSに参加せぬという事。今の私は九鬼ノルンではあらぬからな。故に―――」

 

 KOSにも出られるという訳だ、と告げた。

 

「どういう意味だノルン。九鬼ではあらぬとは……弟と言えどその戯れ言は看過できぬぞ?」

 

 険しい表情の九鬼揚羽に己はただ事実を紡ぐ。

 

「私は、最早貴女の弟にあらぬ、そう申しておるのですよ……九鬼、揚羽さん」

 

 そう告げた時、心の片隅で寂寥感が湧くが無視をする。

 

「な、何を……言っておるのだ、お前は!?」

 

「本日、0時を以って父上のお許しの元、除籍して頂きました」

 

 動揺しているかつての姉を無視して、名乗りを上げた。

 

 

 ―――今の私は、筱宮ノルンに候。

 

 

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