時を同じくして七浜の隣、川神市でもあちらこちらで戦いが始まっていた。
中でも多馬川河川敷付近は遮蔽物は無いがその分銃器などを人に気にせず撃てる為に特に銃器を使っての参加者の数多くが河川敷の界隈で激しい激突を繰り返している。
それは宛ら戦争の様相を呈しており、怒号と銃弾が飛び交う。
しかし、そうほう共に決定打には至らず仕舞いで、早くも拮抗し戦局は泥沼化しようとしていた。
「おらぁ! 弾を持ってこい! ハリー! ハリー! ハリー!」
「うっせぇっ! 欲しけりゃ自分で行け!」
「迂闊に動けるか馬鹿!」
競技でありながらまさしく本物の戦場であった。
木等の僅かな遮蔽物を取り合い、少しでも有利に運ばんとポジションを奪いあい、消耗し合う。
飛び交う銃弾だ、鳴り響く銃声が途切れる事はない。
このまま弾薬が付きるまで状況は一進一退になるか、と引き金を引く誰もがそう思った時
――――無数の光りの帯が降り注ぐ。
突然、空から文字通り降ってきた紫電の光は地に接触すると共に爆発。
小規模ながらも周りに居た人間を吹き飛ばし戦闘不能に陥らせる。
絨毯爆撃の様に降り注いだ光は辺りの参加者を無効化し終わると、ポツリと止んだ。
光の発生源は空にあった。
――――上空1400メートル
ディズィーは空に浮いていた。
遥か上空とは思えない程ふわり、と優雅に白い風が白いワンピースを靡かせ、見る者がいれば宛ら妖星の様だ比喩するぐらいに様になっている。
そんな彼女の周りに浮かぶ無数のアメジストの塊が一層その情景を引き立てていた。
神秘的な光景であり、アメジストの大きさが人の頭ほどであるというのも現実離れに拍車を掛ける要因だろう。
見ている者はいないが。
「多馬川河川敷はこれで制圧、後は……市街地で小競り合い繰り返す輩を撃ちましょうか」
ディズィーが手をそっと掲げると周りを舞うアメジストが発光し出し―――
「……放て」
声と共に光りの帯が放たれる。直線に、或いは曲線を描きながら。
間を置かず、狙い違わず光は着弾する。
眼下の光景を見ながら意識を集中。本体のレーダーと連動して定めた元は紅い点のエネミー表示のシグナルが僅かに暗くなっているのを確認。
ちなみに、シグナルが点灯した状態が敵が動ける状態、点が消えれば死亡、そして今のこの状態は意識の喪失、もしくは他の理由で戦闘が不可能な状態を指す。
この瞬間、川神市内で銃器を振るって参加していた者達の殆どは壊滅させられた事を意味していた。
残っているのは僅かに潜伏する狙撃手のみ。
しかし、その狙撃手も瞬く間にシグナルが暗くなっていく。
狙撃手達を無力化しているのは他ならぬディズィーの主であるノルンだ。
闇夜剣参之太刀 逆月。
KOS開幕時にも使った技で、意識だけを狙って太刀筋を打ち込んでいるのだろう。逆月ならば遮蔽物問わず、圏境の範囲内全てが射程範囲なのだから。
「張り切っておいでですね、お館さまは」
<<無論だ、今のところこちらの予測通りに事は運んでおるが何時あれが動き出すかは分からぬ故、な>>
引き続き、制空権制圧を頼む、と告げて念話は終えた。
予防線を張るのは当然のことだが、ディズィーはあの女が手出しをしないという確信を何処か持っている主に複雑な気持ちだ。
(不愉快です、ポッとでをあんなに理解されている事が)
表には決して出さないが、今の妖星衆や雪花は大なり小なり似た心境である。
女心的な意味で。
川神駅界隈では多くの人間が地に伏せている。
今は此処に限らず何処もかしこも同じだろう。その状況を作っているの自分たちなのだから。
七浜では現在凄まじいスピードで参加者の数が減っているのが圏境を通じて分かる。
雪花は元より、シキも珠百合も張り切って予定を消化中だ。
「早く行こうぜぇ」
こちらの肩に寄り掛かってだるそうにしている酔花。
「はいはい、後一振り故――――なッ」
最後の狙撃手を無効化し、得物を鞘に収める。
古今東西、狙撃手と言うのは厄介な職業だ。優先的に撃破しておかねば身を潜めている内に
色々な意味で。
「詰まらなさそうであるな酔花」
「
「あぁ、心得ておるよ。最後の方まで今少しの辛抱だ」
「あいよ。分かってるって」
寄り掛かりながら肩幅にもあるサイズの盃に並々注がれたこの身手製の神酒を飲む。
酔花は祭りや戦いを好む――――自分達6人の中で最も。
故にこういう中途半端さが嫌いなのだ。
ルール無用を是としながら本気を振るえない茶番染みたやり取りが。
祭りでありながら現在行っている消化試合の様な興ざめするやり方が。
それが必要だと酔花は重々承知している。
だが、それが好ましいかとは別問題だ。面倒くさそうに顔を歪め盃を干す。
感謝の意味も込めて頬を優しく撫でると、気持ちよさそうに鼻声を上げる酔花。
白い肌が酒で紅潮し、何ともいえない色香を漂わせる。
(思えば、何だかんだでとモモや弁慶に甘いのは酔花の影響やも知れぬな)
酔花の性格は分かり易く言うならモモが7、弁慶が3の割合で足したものが近しい。
よく甘やかしていると言われるが酔花を思わせるからも知れない。
弁慶は兎も角、モモ相手には甘やかしている自覚は無いが、周りから見れば度の過ぎたスキンシップを拒まない辺りが甘いようだ。
大和と程で無いというのが正直な気持ちだが。
閑話休題。
「ン、ン、はあぁ…それにしてもかなり数が減ったもんだねぇ」
「あぁ。これで参加者は残る有象無象を除けば主だって目立つのはキャップ達のチーム、武士道プラン組、黛や不死川のチームか」
今現在、黛のチームと武士道プランの面々が交戦中。キャップ達がその少し遠くにいるといった具合だ。
どちらにすべきか、と思案して―――
「うむ、こちらが無難か。参ろう、酔花」
「ゴク、ゴク……あいよ」
歩みを進めた。
風間ファミリーチームは自らのアジトで一息ついていた。
KOSの大会は彼らの予想を超える熾烈さだった。銃器を街中で平然と使用するという環境は如何なファミリーでも神経をすり減らし何時も以上に疲労が蓄積している。
秘密基地の廃ビルは予め自分達しか入れない様に封鎖し、一定階に入り込めない様にクッキーを守りに付かせて確保していた。
みな、好きなように寛いでいる。
「あぁ~……想像以上にしんどいぜ」
「うん、特に銃とかね」
「そうか? 俺が同じに連れられていくところなんか、こんなもんだぜ?」
「キャップと同レベルとか……」
「キャップの凄さを今初めて実感したわ……」
風間翔一は父の影響と本人の気質もあってよく海外に冒険に行くのだが、その破天荒な振る舞いは何時もメンバーを呆れさせている。
当人の破天荒ぶりはもう今更なのでスルー。
冒険先には政府が秘密裏に守っている遺跡などもあったため、軍人と一戦交えることもあった。
だからか、メンバーの中で唯一人ケロッとしている。
それどころか遊びに夢中な子供の様に実に楽し気だ。
「大和、疲れたでしょう。身体ほぐして上げる。全身ネットリたっぷりと!!」
「結構です」
こんな時でも京は変わらず逞しい限り。
大和の方は大分グロッキーだが。
冗談だよ、半分だけ、と言いながら京は大和を労わる。基本的に大和LOVEである京は大和の不利益になる様な事はしない。
身体を――――健全な意味で――――マッサージされて寛ぐ大和。
ファミリーはそれみて、相変わらずだなぁ、と思うのだった。
やがて話題は武士道プラン組の話へ。
「いやー、しっかし義経達の迫力は凄かったな」
「ホントよね。流石は英雄って感じだったわ」
ここへ来る前にファミリーは遠目から義経達の戦いぶりを見ていた。
銃器を前にして怯む事無く八面六臂の活躍。見ていただけでも4チームを瞬く間に打ち破ったのは英雄に恥じない戦いぶりは圧巻の一言。
「にしても清楚先輩があんなに戦えるなんてなー」
「意外だったよな」
「スッゴク軽いね」
義経に負けず劣らず動いていたのが最も武という分野から外れている清楚だった。
読書を趣味とし、学園共通で文学少女のイメージで通っていたので、ある意味一番驚かされた言っていい。
何より、遠くから見てもファミリー達に伝わるぐらいに迫力もまら凄まじいものがあった。
「片手でゲイル先生を持ち上げた時は流石にオレ様も驚いたぜ……それでも清楚さは変わらなかったけどな。清楚先輩マジ清楚」
「しょーもない」
何時通りの何の変哲のない他愛もない会話。KOSの最中かと疑うぐらいに弛緩している。
その空気は唐突に破られた。
「ほう、あの清楚がそこまで」
不意に聞こえた声に、反射的に身構える6人。
しかし、その警戒も直ぐに解けた。
――――声の主が自分達の友人である九鬼ノルンであると分かったから。
「なんだノルンか……」
「ビックリさせんなよ!」
「すまなんだな」
総スカンで責め立てられながら、驚かせた事に謝罪するノルン。
苦笑い顔で片手ですまぬ、すまぬ、とポーズ。からかった時によく見せるその仕種にヤレヤレ、と席に着くメンバー。
しかし、大和だけは何か妙な違和感を覚えていた。何か重大なモノを見落としている、それもかなり致命的な。
だが、目の前にいるのはノルンだ。大和にとっても信頼のおける仲間の1人。
その筈なのだ。
(可笑しい、なんだこの違和感)
大和は自分の中の違和感がぬぐえない為思考に没している。そんな姿をいち早く気付いたのは京。
心配そうに名前をも呼ぶも考える事に集中している彼には気付けない。
「最初から居たの?」
「や、今し方参ったばかりだよ」
無邪気にノルンへ近付くワン子。
ふと、大和の視線にノルンの腕が眼に着いた。着物の長い裾で見えなかったがほんの一瞬、仕種で
――――その腕にはKOS参加者であるブレスレット型発信機。
「離れろワン子!」
「ほえ?」
大和の言葉に小首を傾げるワン子。
「ブレスレットを付けている、ノルンは参加者だ!」
「え!?」
ワン子は反射的に飛び退く。部屋にいるメンバーも京を始め全員構えた。
対してノルンは心底嬉しそうに大和を見据える。宛ら成長した弟子や息子を見るかの如く。
「よい観察眼だな、大和」
「普段から目利きが凄まじい誰かさんを見てたら自然に養われたのさ」
そうか、と笑みを湛えるノルン。
相変わらず、大和達には何処に持っていたか分からない長い刀を徐に取り出した。
ノルンの顔は刀を持つと同じくして苦笑いに変わる。
「残念だが、バトルパートには移らぬよ」
「だったら、どうするっていうんだ? 手を組むのか?」
「否――――」
――――瞬く間に事を終える。
ノルンの言葉と共に大和達は意識を失った。
右手に持った得物を再び蔵に戻す。
いちいち出し入れするのはその方が相手が油断するから。面倒しい事この上ないが、より楽に相手を倒すのは丸腰の方が油断を誘いやすい。
「派手にやったもんだねぇ」
肩に寄り掛かった状態で実体化する酔花。
「予定調和だ。失格せぬ限り、ルール無用の秩序は参加者に平等に適応さるる」
尤も、気絶が10分続く段階で従者部隊が確認し、更に安全を期して到着後1分以内に目覚めなければ即失格なので、未だ失格では無い。
後は従者部隊がKOSの規則に則って改修してくれるだろう。
「んじゃま、降りようか」
「うむ」
せめてもと楽な姿勢にして、ここに来るまでに負ったと思しき傷と疲労を取り除き、秘密基地を後にした。
のだが――――
「へへへ……ここの廃ビルをねぐらにしようと思ったら、途端にこんな上玉に出会えるなんてな」
「特に赤髪のネェチャンはいいねぇ、俺好みだ」
ビルを出た途端、こういう輩に出くわした。
野卑た笑い方が非常に見苦しい。
圏境で近付く気配は把握していたが、だからと言ってこのタイミングで、というのは果たして運が良いと思うべきか、悪いと思うべきか。
まぁ、それはそれとして――――
「さぁ、一緒にビルに来てもら――――」
言葉を最後まで言わせず川目掛けて殴り飛ばす。
周りにいた男たちも、飛ばされた男を呆然と見送った。見送るしか出来なかったとも言う。
「誰のモノに手を出そうとしておる?」
油の切れたブリキ人形よろしく、こちらを恐る恐る振り向く男たち。
きっと、今の己はスバラシイ笑顔だろう。笑顔の起原とは類人猿だった頃に威嚇から転じたものだ。
「唯で済むと、よもや思うておるまいなぁ?」
「ひぃ!?」
「ご、ごめんなさいー!!」
蜘蛛の子を散らす様に逃げていく男達。
「そうは問屋は降ろさないってな」
酔花が空いた手を男達に向けると紅蓮の焔に包まれる。
絶叫と共にのた打ち回る匹夫共。見ていて溜飲が下がる思いだ。
慌てて多馬川に飛び込むものの――――
「な、なんで消えないんだよ!?」
「あついーーー! 水の中なのに熱い!」
炎はおさまるところを知らず燃え続ける。
酔花の鬼火は発動したが最後、相手の魔力、血肉や骨を対価に燃焼し続ける炎。
燃えだしたら最後、文字通り骨も残さない魔炎である。
反面、再生の概念も保有している為、酔花の魔力を対価に外傷であるなら如何なる怪我も治す浄化の炎でもある。
現在男達に纏う炎は皮膚の表面を焼きつつ再生させているのだ。
「アタシに触れていいのはノルンだけさ。5分もすれば炎はおさまるよ。さ、行こうかい」
「うむ」
誰が思うだろう、今のが橋付近で戦っている面々を除いたら川神市内最後の有象無象だったなど。
KOSが開始してから一番の激戦だろう。
お互い、運が良かったのか悪かったのかは兎も角、少なくとも数少ないマスタークラス同士の戦いである。
ぶつかり合っているのは剣聖と謳われた黛大成の娘である由紀江と、武士道プランの申し子、源義経だ。
同じ剣士であり、同じく速さを旨とする同じタイプ同士の戦いは義経がリードする形で戦況は動いていた。
「―――せぇい!」
「クゥっ!?」
義経の剣閃を防ぎ、なんとか体勢を崩さず後退する由紀江。義経は追撃せず油断なく由紀江を見据える。
例え義経が有利であっても相手は武道四天王の一角に数えられるほどの腕前。少しの油断が命取り成り得る。
この程度で討てる程お互いはお互いを軽んじてなどいないのだ。
数瞬の睨み合い――――
「いやあぁぁぁーーーー!」
「はああぁぁぁーーーー!」
極音速の剣舞、第二幕が始まる。
そのすぐ横では色々な意味で予想外の光景が広がっていた。
「えいっ!」
「グッ!?」
清楚の鋭い拳にガードするも
世間的には正体不明のクローンであり、可憐で清楚な容姿と雰囲気は、直に見た大成の眼にはとてもではないが戦える雰囲気など微塵も感じなかったのだが――――いざ闘ってみたらその見識は甘かったと言わざるを得ない。
大成の剣を事も無げに躱し、反撃の拳を打ち込んでくる様は一流の武芸者そのものだ。
実際、ここまで戦えた事は他のクローン達にも驚かれた。
今はもう順応しているが。
ノルンとの特訓のお陰だと言ったら全員一致で納得。どれだけ厳しいのだろうか。
閑話休題。
「驚いた、ここまで出来るとは。貴方もさぞ名のある英雄のクローンなのだろうね」
「……すみみませんが、コメントは控えさせていただきます」
凛とした声と表情で答える清楚。
事務的な受けごたえでありながらその名の如く清楚な雰囲気を絶やさない。本人にその意図は無いだろうけども。
対する剣聖も答えが返ってくる事は期待していなかった。
TV中継や娘の話で彼女自身が九鬼から聞かされていないの語ったのだ。本人も本当に知らないのだろうと納得する。
「流石は剣聖、ですね」
「ありがとう、と言っておこう」
改めて大成は目の前の少女を見据える。
大した才能だが練磨がまだ低い。厳密には経験が少ないというべきか。
強者との、ではない。
闘った数が、だ。
世界には様々なタイプの武芸者がいる。武器から戦術まで多彩に存在し、先程クローンチームが戦ったアメリカ側のカラカル兄弟などがいい例だろう。
兄の格闘技を弟のコンピューターでフォローするなど斬新的だ。実力自体が低かったのはこの際スルーする。
彼女は恐らく刀遣いの強者、それも剣聖たる己よりも遥かに高い次元にいる人間1人としか常習的に闘った事が無いというのが剣聖の見解だ。
奇しくも正解だったが彼がそれを知るすべはない。
しかし、其処に付けいる隙がある筈だと、剣聖はにらむ。
強者とはいえ1人の人間。パターンとて限られてくるのは必至だ。
(其処を叩く!)
再度構える剣聖。
清楚はただならぬ雰囲気を感じて警戒を強くする清楚。
高まる闘氣と緊張感の中――――先に動いたのは剣聖だった。
しかし勝負を制したのは清楚だった。
「ガッは――!?」
気付けば清楚は拳を振り抜き、自分は地に伏している。
闇夜剣壱之太刀 弧月。
清楚は百代と同じく、ノルンの技を見て、体験して覚えたのだ。
倒れたまま、何をされたのか分からずそのまま気を失う大成。
ここに勝負は決したのだった。
「ありがとうございました」
ぺこり、と清楚は最後まで清楚に倒れた頭を下げる。
もう一方の方では弁慶と不死川心が見合っていた。
優雅に扇子を取り出し挑発的な笑みを浮かべる心に対して、だるそうに、しかし何時もよりは真剣な表情で不死川を見据える弁慶。
「にょほほ。弁慶、お前とは一度やり合うて見たかったのじゃ」
「そうかい? 私はメンドイのはごめんだけど」
相変わらずものぐさな奴じゃ、と悪態付く不死川だが、弁慶はどこ吹く風と表情を変える事は無い。
「そろそろ始めようかのう」
「何時でもどうぞ」
駆けだす不死川。
弁慶は身構えて備える。
「流麗なる内股ーーー!!」
掴みかかる弁慶は冷静に錫杖で向かってくる不死川の足を払い――――
「にょ?」
「そおいっ!」
「にょわああああぁーーーーーー!?」
体勢を崩した不死川の着物の後ろ首を掴んで力任せに川に叩きこんだのだ。
悲鳴を上げながら、やがて水しぶきを上げて着水。
岸に近いのは慈悲の心だろうか――――不死川心だけに。
(あ、相変わらず、理不尽だ……)
1人だけ相手がおらず橋の上で陣取っていた与一が眼下から一部始終戦いを眺めており、弁慶のやり方に戦々恐々だったのは秘密である。
そして、由紀江対義経の戦いも遂に佳境を迎えようとしていた。
繰り広げられる剣舞。
しかしやはり状況は依然義経がリードしている。
「まゆっちは強い」
再び吹き飛ばされる由紀江。
視界は義経から離さない。一瞬でも外せば勝敗が決してしまうからだ。
足を止め、構える義経の気が膨れ上がる。
「だが、義経の方が早く生まれ、その分修行に費やせた。そして何より、義経はまゆっちよりも遥か高みにいる剣士を知っている――――」
「!?」
「これは――――」
上段に振り上げた刀。
しかし振り上げるには七メートルと少し遠い。だが、由紀江は武芸者としての感に従い咄嗟に防御をする。
目の前の斬撃はマズイ、と警鐘を鳴らすもここからでは今の自分には防御以外の選択が取れないのが歯痒かった。
「――――その差だ!!」
音速を超えた斬撃。
軌跡に合わせて上段振りを防ぐように刀を置く由紀江。
刹那――――響き渡る激しい金属音。
同時に伝わる顔面の右側から己に伝わる激しい衝撃。
堪らず吹き飛ばされる由紀江。
慌てて起きようとするものの、脳を揺らされたのか視界が歪み、立つ事は出来なかった。
「はぁ、はぁ、なんとか、ギリギリだったな」
義経は荒い息を上げながら納刀する。
彼女が今し方繰り出さした技は、彼女自身が武芸者として憧れと尊敬を向ける九鬼ノルンの技。
闇夜剣二之太刀 霞月。
打点と力点の制御を弧月よりも高い領域にまで上げる事で1度の攻撃で多方向への攻撃を可能にする太刀筋。
義経にはまだこの技は使いこなせない。10回やって1回出ればいい方なのだ。
それでもここぞと言うときの最後の綱として賭け、義経は見事賭けに勝利。
結果、由紀江に勝利を飾るという形に帰結したのだった。
ここでこの1戦における義経達クローン組の勝利が確定した。
由紀江のチームは最後の1人は唯の一般人、今まで応援はしていたものの由紀江達が負けた事でリタイアを宣言し、ここに勝敗は決する。
(やったぞ、ノルン君。義経は―――)
「お疲れ様、義経」
「頑張ったね義経ちゃん」
口々に義経に労いと勝算を送る弁慶と清楚に有難うと、返す義経。
与一は変わらず離れているので、義経は大きく手を振りながら与一にも勝利の報告をする。
対する与一はソッポを向くだけ。
「あいつはまた……!」
「まぁまぁ、弁慶ちゃん。与一君だって内心喜んでるよ」
「そう、ですか?」
清楚の言葉にイマイチ肯けない弁慶。
普段が普段の為仕様が無いと言えば仕様が無い。
それよりも、と清楚は言葉を続ける。
「なんだか、周りが静かだと思わない?」
確かに、と肯く2人――――正確には唇の動きで遠目から見ていた与一を入れて3人。
あれだけ響いていた銃声は、少し前に見聞きした光と轟音以降ぴたりと止んでいる。
KOSが開かれてまだ30分と立っていない。
なのにこれだけ静かなのは不自然である。
与一がメールで会話に参加し、今の周りの状態を、参加者と思しき者達が見える範囲で全て倒れている事を伝えた。
「全員が?」
「一体何があったんだろうね」
「同士討ちにしては不自然だし、それだけの事が出来る人間がいるなら氣で分かるし、ねぇ」
頭を悩ませる4人に
パチ、パチ、パチ、と拍手が鳴る――――
音のする方向に目を向けてみれば其処には見知った人物の姿。
「見事だよ、まゆっちのチームを打ち負かすとは」
「え?」
「オイオイオイ」
「なんでお前がここにいるっていう?」
「……ノルン君?」
呆然とする4人の目の前には大なり小なりクローン達が慕っている人物が佇んでいた。
見知らぬ女性達を引き連れて。
八月中にあげたかったのですが、予想以上に夏バテがひどい。
書く意欲をみんな削がれてしまっています。心待ちにされている方は今少しお待ちを。
おのれ、わが身の貧弱さを呪うばかり……
にじファン投稿分を上げるだけなのになぁ……チクセウ
今作者のテンションはサモンナイト3がPSPで出ると今更ながらしったことで上がってますが……やはり自然の方が強い……