気まぐれ神様の物語 真剣恋Ver.   作:ジーザスルージュ

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39話

 クローン組の困惑した表情は必然だった。

 寝耳に水。

 目の前に何故居るのかと、表情が語っている。

 開催からまだ30分と立っていないので、応援では無いだろうというのは直ぐに浮かぶ。

 だからこそ、再度問う。

 

「なんで、ここに?」

 

何故(なにゆえ)か、と問われれば――――」

 

 こういうことだ。

 言葉と共に腕をまくり、KOS参加者の証であるブレスレットを見せる。

 これをみせると言うこと――――それは4人に対する明確な裏切り行為を証明する事に他ならない。

 それを意味するところを正確に把握した4人はそれぞれ反応はあれど、全員が全員不愉快な表情を露わにしている。

 当然だ。

 大なり小なりとはいえ、4人の想いを踏みにじったに等しいのだから。

 

 動揺を隠せない義経、遠目からイラつきを隠そうともしない与一、不愉快さ露わにする弁慶、中でも尤も強くこちらを鋭く見ている清楚。

 KOS、否、佐々木との間柄で最も強く己の不参加を訴えてきたのは彼女であり、その申し出が叶った時に最も喜び、佐々木を倒すと勇んだのは彼女だろう。

 親しい人を死なせたくないという想いを無下に扱えば、この反応は当然だ。

 

「どうし、て? だって、約束した……」

 

「うむ、相違ない。九鬼ノルンはKOSには参加せぬ……表面だけなら不履行ではあらぬぞ」

 

「何を、いっている? 現にお前は参加しているじゃないか」

 

「うむ、それはな弁慶。今の私が九鬼より除籍した身ゆえに、だ」

 

「え!? ど、どういう事なんだ? 義経達に分かる様に説明して欲しい」

 

 4人―――といっても、1人はやはり案の定離れているが教えた読唇術で何とでもなるだろう―――に語るのは2日前の父であった九鬼帝とのやりとり。

 姉であった九鬼揚羽には時間も推してあったため、九鬼帝に直接聞く様にいってあったが、流石に4人には直接の事情説明は必要だ。

 

 話を聞き終えたクローンの面々はそれでもやはり何故だ、と問うてくる。

 いま説明したのは約束に対しての説明であり参加すること自体の説明では無い。

 今度はそちらの説明を要求してくる。

 

「私達が倒すって――いったよね? なのになんでッ!?」

 

「愚問だよ。其方等(そなたら)では佐々木の相手は務まらぬ故に、だ。今のまゆっち達との戦いを見てそれを確信した」

 

「なっ……」

 

 絶句する義経達に対して言葉を続けた。

 

「剣聖とその娘、マスタークラスと言えどあの程度(・・・・)を鎧袖一触に倒せぬ様では佐々木には及ばぬ」

 

 そう言った意味では清楚は佐々木を倒し得る可能性を秘めていなくはないとは言えない。

 だが、佐々木にはあの幻術がある。アレは己の魔宵伽と同じ魔技であり、結果は似ているが本質は真逆の技。

 アレは少なくとも現段階では己意外に打破はほぼ不可能に近い。

 その事もひっくるめて伝えたかったのだが――――

 

「あの時の清楚は是が非でも止める気概が溢れておったからな、問答を交して説得するよりもこちらの方(・・・・・)が手っ取り早い」

 

「だから、こんな詐欺みたいな手段を、確信犯で?」

 

 清楚の問いに首肯で返す。

 ワナワナと振るえる清楚、その手元に視線を移すと指輪はしていなかった。

 指輪も無しにここまで力を振るえるようになっている事に、場違いな感慨が湧いてくる。

 直ぐに頭の片隅に追いやったが。

 

「清楚があの夜に言ってくれた言葉、『私は貴方を失いたくは無い』――――とても有難かった」

 

「そうだよ……それはみんな同じ」

 

「そうだ、義経達も同じ気持ちだからこのKOSで佐々木さんを倒すと心に誓った!」

 

「ま、私としても一番寛げる飲み仲間を失うってのは痛手だからね」

 

 三者三様に想いを告白してくる。

 遠くにいる与一にも目を向けると視線が交わり、直ぐに向こうからソレた。付き合いがそれなりに長いからこそ分かるが照れ隠しだと直ぐに察する。

 

「有難う、そこまで思うてくれて……なればこそ、だ」

 

「?」

 

「なればこそ、私も同じ意見なのだ。与一を、義経を、弁慶を、清楚を、大切な其方等(そなたら)を私は失いとうない。故に――――」

 

 言葉と共に蔵から得物を取り出す。

 それを見た義経、弁慶、清楚の三人は即座に距離を取る。

 各々、この身の()を心得ている証拠だ。遠くの与一も既に射撃体勢に入っているのが見えた。

 

「私は、ここで、お前達を倒す。其方等(そなたら)では佐々木は叶わぬ故、な。大切なモノは余さず己が手ずから守る主義だ、私は」

 

「そっか……だったらこっちも同じだよ。私はノルン君を倒して、佐々木さんを倒す。だから……」

 

 眼を瞑る清楚。

 身に纏う雰囲気から何かを決心する様な気配を感じた。

 何を為そうと言うのか、ソレを知るのに心眼に頼るまでもない。それぐらいは察せる。

 例え裏切る様な真似をしても、それでもこれまでの経験が無に帰すわけではない。

 

 やがてゆっくりと目を開けて義経達の方を見つめる清楚。

 

「義経ちゃん、弁慶ちゃん、後遠くで見ている与一君にもまず謝っておかないといけない」

 

 ごめんね、と告げる清楚。

 何の事だか分からず困惑する横にいる2人に構わず言葉を続ける。

 

「私、ノルン君のこと、実はあんまり責められないの。私も、嘘をついてきたから……私の正体を」

 

「では、九鬼から聞いていたと?」

 

「ううん、そこは本当だよ。ちょっとした切っ掛けがあってね、私は自分の正体を知る機会を得たの。それでね、その……これからの私の振舞い方とかスッゴイ変わるからきっと驚くだろうけど、どんなに変わっても私は私だから。だからどうか、せめてこの戦いの間だけは今までの私を信じてて欲しい」

 

「よく、分からないが清楚先輩は清楚先輩だ。何があっても義経の態度は変わらないと約束する」

 

 清楚の告白に困惑気味ではあるが胸を張って告げる義経。

 もう一度ありがとう、と清楚に微笑みながら清楚は礼を言った。

 その光景を黙って静観していたが、どうやら話は付いた様子。

 

「もう、良いかな?」

 

「うん、お待たせ」

 

 お互いに笑い合う。

 裏切って騙したというのに清楚の対応は何処までいっても殆ど何時も通り。

 其処に何やら奇妙なむず痒さを覚えるが、今はそれも意識の外に追いやる。

 

 再び瞑目すると、清楚の身体から爆発的に闘氣が膨れ上がる。

 余りの大きさに武芸者の条件反射で身構えてしまう義経と弁慶。

 無理もないだろう、今の彼女はまさしくマスタークラスの中でも上位に入る程の力を見せているのだから。

 やがて徐に開かれる清楚の瞼。彼女の瞳は己にとっては見慣れた真紅色である。

 

「思えば、こうして全霊でぶつかり合うのは中学の時以来か」

 

「そうなるな。今迄鍛錬で軽く打ち合わせた事はあったものの、斯くも全霊となれば、な」

 

「ハッハッハ、実に心躍るではないか! それはそうと、何時まで呆けている義経、弁慶、遠くの与一」

 

 言葉を向けられて思わず身構えてしまう義経達。

 幾ら制御がうまくなったとはいえ、やはりこれだけ莫大な見知らぬ闘氣の前では萎縮するのは自然といえる。

 その様に、鼻で笑う清楚。

 

「驚くのも無理は無いか。ノルンの様に瞬く間に受け入れられ無いのは当然だな。しかし、今し方俺は言ったぞ。もう一度同じ事を言わせるか、お前達?」

 

「……そう、だな。義経は約束をした。普段通りにはいかないかもしれないが義経は清楚先輩を信頼する!」

 

 なんというか、流石は義経、の一言に尽きる発言である。

 主の振る舞いに習って弁慶も警戒を解く。

 

「ところで、先輩の正体ってやっぱり」

 

 弁慶が今の状態の清楚を見て、何やら仮定ながらも正体に行きついたようだ。

 その口調は尋ねるという言うよりは確認の方が近しい。

 清楚の方もそれを正確に把握した。

 

「察しの通りだ弁慶。我が名は項羽に間違いないぞ」

 

「西楚の覇王……考えてみれば意外と安直な名前だなー」

 

「ンハッ! 確かにな。さて、戯れ言も此処までにしてそろそろ始めようではないか」

 

 その言葉と共に全員意識と闘氣を高め睨み合う。

 少なくとも四人にとって、今の空気は先程とは比べ物にならない程の緊張感だった。

 4人が4人共九鬼ノルンという人物の実力を知っている。

 だからこその、この高まり。

 

「暑苦しいったらないな。が、それも今は悪くない……」

 

 与一が――――

 

「悪いけど、負けて貰うよノルン」

 

「そうは行かぬよ弁慶」

 

 弁慶が――――

 

「義経達は今日こそノルン君に勝つ!」

 

「為せるものならば、な。義経」

 

 義経が――――

 

「ノルン、俺の許可なくして俺の前から消える事は許さぬ。お前は俺達に守られていればよいのだ。故に、あの時のリベンジも兼ねて貴様には敗北を叩きつけてくれる!」

 

「そのまま台詞を返すぞ清楚。私はお前達を倒し、お前達を守ろう――――例え傷付ける事と相成ろうとも、だ!」

 

 清楚が――――

 

 己も同じく思いの丈を叫び――――

 

「――――推して、参る」

 

「いくよっ!」

 

「源義経、参る!」

 

「狙い撃ってやるぜッ」

 

「ハッハッハ! ゆくぞ、ノルン!!」

 

 古より蘇りし英雄と相見える。

 

 

 

 

 

 

 ――――極東本部。

 

(どういうことだい!? 清楚の封印が解かれてるなんて……)

 

 広間の大型TVで観戦していたマープルは表情には見せずとも内心は動揺で満ちていた。

 映像に映し出されるのは九鬼の次男と争うクローンの4人。

 1対4という状況でありながら一歩も引かないどころかクローン達を見事に制している次男の戦いは見事と思わず口にしてしまうほど卓越している。

 しかし、星の図書館と呼ばれる彼女にとって其処は二の次だ。彼女の視線は一点、葉桜清楚に向けられている。

 それも当然だろう。

 彼女の存在は己の計画にとっては最重要機密的存在。暗示を使ってまで力を人格の一部ごと封じたというのに、何故か当の本人は事も無げに力を使っているのだから動揺もする。

 

 周りに自分以外に誰もいない事をこれほど安堵した事は人生でもなかった。

 主である九鬼帝は変わらず多忙に世界を飛び回っているし、その妻である九鬼局は仕事の傍らで見るとの事で勤務中で今は自室だろう。

 お気に入りの桐山も今はKOSの対処に追われている筈だ。

 

 マープルは思考を巡らせる。

 今のままでは己の計画に支障が出るの必至。だが、どれだけ思考を巡らせてもイマイチ策が出てこない。

 原因はTVに移るクローンの4人。

 連携が上手く取れ過ぎている。

 暴走の果てに封印が解かれたにしても余りにもスムーズな連携。憶測の域を出はしないが、あそこまで上手く取れる連携と扱えてる力からして清楚自身、己の正体を把握していたという事、そしてそれはそれなりに以前からという事だ。

 そうでなければ目の前に移る状況に説明が付かない。

 

(どうしたものか……あの様子じゃ義経達も恐らく清楚の正体を知った筈。迂闊に封じる事もできやしない)

 

 同時に疑問に思う。仮説が正しかったとして、一体誰が清楚の封印を解かれた事を秘せておけたのか。

 今まで明るみならかったのは間違いなく力を制御していたか、何らかの方法で隠せたからに他ならない。

 映像を見るからにそれは明らかである。

 

 卓越した彼女の頭脳は更なる仮説、というも到らない想像に過ぎないがひとつ描かれる。

 視線は九鬼の次男である九鬼ノルン。

 常からクローン達と接する機会が恐らく九鬼で最も多く、また武術にしてもあのヒュームと幾度となく引き分ける底知れなさ。

 何故か彼女は鍵を握っているのが彼のような気がして成らなかった。

 

「一先ず、今は静観しようかね」

 

 改めてマープルは映像に視線を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 正面から迫る剣閃を右の掌で左に受け流しながら身体を半回転。

 同時に左手の得物を無造作に左側に置く。

 

「くっ……」

 

「見え透いておるぞ」

 

 振られた弁慶の錫杖を受け止める。

 金属音と共に衝撃を化勁の要領で足元へ流しつつ身体を弁慶の方に寄せ、右肩を錫杖にあて――――吹き飛ばす。

 

「グッ」

 

 そのまま間を置かずに真上へ剣を振り上げた。

 真上からの清楚の奇襲に対して奇襲で返す。体勢を崩さずに距離を開けた清楚。

 流し目に見つめながら身体を右にずらす。

 

 真横を通り過ぎる一筋の閃光。

 与一の狙撃だ。

 速度からして余力を十二分残してのもだろう。まだまだ厄介な狙撃は来るだろうが、如何な与一でもこうも乱戦では連続しての狙撃は難しい。

 現に二の矢は訪れずだ。

 

 背後に与一、横に弁慶、正面に清楚と義経と包囲された状況。

 しかし焦りは微塵もない。

 この程度の状況は慣れている。

 

「はあっ!」

 

 先に動いたのは義経。遠間から振るった刀はその軌跡をなぞるようにこちらを薙いでくる。

 

(弧月か。よく使いこなせておる)

 

 真横から迫る弁慶の錫杖を交し、頭上に来たところ清楚に向かって弁慶ごと投げ飛ばす。

 清楚は避けず受け止め、弁慶を横に降ろした。

 意外に思いつつも無造作に刀を振るう。

 跳びかかってくる義経を弾き飛ばす――――それと同時に背後から金属音。

 

 与一の射を弾いた音だ。

 闇夜剣二之太刀 霞月。義経と同時に与一の射にも対応してみせた。

 元より、圏境の範囲にいる以上死角は存在しないのだが。

 

 半身引いて清楚の拳を躱す。

 間髪いれずの怒涛の連撃は一撃一撃が当てれば必殺の攻撃である。

 しかも鍛錬の効果が地味に、しかし絶大に発揮していて無駄が無い。

 喰らわずとも、それが中学の時よりは元より最近の鍛錬よりも明らかに上がっているのが手に取る様に分かる。

 モモといい、相変わらずデタラメな成長速度だ。どこの戦闘民族かと。

 

 迫った拳を受け止め、頭を下げる。

 頭上を通り過ぎる義経の斬撃。

 下げた頭を今度は身体をのけぞるように動かす。

 

「ちぃ!」

 

「剣呑だな」

 

 眼前に迫った清楚の足。厳密には膝蹴りをやり過ごした。

 足を降ろすのを見計らって、己の足を差し込み、肩を当てるように身体を清楚に滑り込ませ体当たりと同時に足を払う。

 清楚は追撃をせず、得物を手放しながら蔵へ収め、左後ろへ身体を捻り、合掌するように手を勢いよく合わせる。

 乾いた音と共に手の中にあるのは細長い棒。

 言うまでも無く矢だ。

 

「そおいっ!」

 

「やぁっ!」

 

 視界の端から再び迫る錫杖と刀。

 片や疾風の一閃。片や守りを崩す剛撃。

 縮地で以ってこれらを交し、2キロ離れたビルの屋上へ。

 

「消えた!?」

 

「おのれ、何処にッ!」

 

 前衛3人を置き去りにして蔵から取り出したのは武骨な長弓。

 白刃取りならぬ白矢取りで掴んだ矢をつがえる。狙いの先は与一。

 

 向こうもこちらを既に捉え、射撃体勢。

 

「「――――狙い撃つッ!」」

 

 測らずとも重なり合った台詞と共に放たれた魔弾は中空で火花を散らした。

 しかし、其処は想定済み。

 次いで蔵から取り出した矢は何時ぞや属に使った剣。即座に構え、第二射を射る。

 同じ様に、同じタイミングで与一も放つ。

 

 だがしかし――――

 

 空中でへし折られる与一の魔弾。

 あくまでも矢と、矢として放たれた剣。真っ向からぶつかってどちらが勝るかなど自明の理だった。

 魔弾は寸分違わず与一へと届く。

 

 当たるか否かのその刹那――――

 

壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

 

 言葉と共に爆散する()

 全く無名の矢として射るために作った剣。だがしかし、アレでも立派にD~Cランク相当の宝具。

 尤も然したる神秘は無く、効果は単純で"矢として扱える剣"というもの。

 とはいえ、D~Cランクでも保有している魔力を一気に解き放ち、爆発させればそれなりの威力を誇る。

 爆発に吹き飛ばれ、蹲る与一。

 まだ起き上がろうとしているのは大したものである。大和と同じで打たれ強いのだろう、姉気分的に。

 しかし、それも直ぐに終わる。意識を失ったのか力なく突っ伏した。

 

 蔵から得物を再度取り出し、縮地で再び3人の前に。

 

「まずは1人」

 

「与一……」

 

「なんというか……」

 

「あぁ、俺達が知っている動きでは無い。ノルン、よもやお前、KOSの前は手を抜いておったのか?」

 

 虚偽は許さないと視線で語る清楚。

 

「それは正しくもあり間違いでもある。鍛錬と勝負とでは趣が異なろう? 今までは鍛錬であったり、倒すのではなく無力化であったりだが、今は倒す事に全て転じおる。違いや違和感を覚えるのはそれ故にだろう」

 

 清楚は不愉快そうに鼻をならす。

 倒すには及ばないと言外に言われれば不愉快にもなるのは自明だ。

 闘氣が更に膨れ上がる。

 

 こちらとしてもかなり厳しいものがあるが暫く興じるのも悪くない。

 とはいえ、まだまだやれる清楚と違い、義経は疲労が見え、弁慶は流石に疲労困憊手前といった感じだが。

 全力戦闘を30分以上もやっていれば無理もない。

 この戦い、そう長くは続かないだろう。

 

「まぁ、良い。どれだけが底が知れなかろうが、倒してしまえば同じ事だ!!」

 

「存分に来やれ」

 

 振りかざす拳に合わせるように得物を鞘に入ったままぶつける。

 大凡生物が出すとは思えない破裂音。

 鍔迫り合いの如く拳と得物が合わさったなか、圏境が背後からの気配を正確に捉えた。

 

「はあぁぁーーー!」

 

 極音速の袈裟斬り。

 英雄の再来に恥じない剣撃は阿頼耶のそれに匹敵し得る速度。

 それを――――

 

「防いだ!?」

 

「圏境の範囲におるのだ、迎え討てぬ道理はない」

 

 鞘をそのままに長い得物を抜いて対応して見せる。

 ぶつかり合い共に生まれる衝撃波。

 音速の極みにまで到った速度とは即ち破壊力に等しいという点でいえば、どれだけの威力からは推して測るべし。

 更に其処から体勢が変った事によってがら空きになった背面に参之太刀(弁慶)が迫る。

 

 防御を一気に崩し得る一撃に対して――――

 

「な……!?」

 

 振り下ろした錫杖に対して足で受け流す。

 体勢的に何時押し負けても可笑しくないものを、力の流れを拮抗した状態で維持しつつ体勢を変えてすくいあげる様な後ろ蹴り迎え撃ったのだ。

 受け流された事で弁慶の身体が前に流れる。

 それに合わせて最優で拮抗している力の流れを重心を上手く制御して同時に外す。

 

「む!?」

 

「うわぁ!?」

 

「うぐっ……」

 

 結果として、体勢を上手く制御してつんのめる清楚に思いっきり体勢を崩し、清楚の方へ倒れる込む構図に。

 同時に縮地で移動した事によって絶好の位置に立つ。

 

 清楚は防ごうにも両の手には受け止めてしまった義経と弁慶がいるのでそれも叶わない。

 無防備な3人に得物を振るう。

 バタリ、と倒れ込む3人。

 ただ斬ったのでは無く、闇夜剣参之太刀 逆月で四肢の神経の流れを勁脈ごと掻き乱し一時的に麻痺させた。

 これで3人は暫くの間動けない。

 

「与一、義経、弁慶、清楚、これで……終わりだ」

 

「くっそ……」

 

「バカな、俺達とお前とでここまでの差があるなどッ!」

 

 清楚の言っている事は正しい。身体面に於いて彼女と己とで其処までの差は無いと言える。

 この結果は経験だけの差ではない。

 彼女がとった手段が問題だ。

 

 突出した力を持つものが集団戦を行う際、取れる大まかな手段としては大きく分けて二つ。周りの者が突出した者に力を近付けるか、突出した者が周りに合わせて力を落とすか。

 結果だけ見るならば彼女は後者を選んだ。望んで、だが――――選んでしまった。

 

 以前の様に傍若無人なやり方ならば恐らくまだ苦戦しただろう。

 だがしかし、彼女はそうはしなかった。義経達と共にこちらを止めるために意識的か無意識か、どちらにせよ己から力を弱めたのだ。

 

(其処まで成長できたことを、今この場で喜ぶなどお門違いではあるが……)

 

 それでも喜ばしい事に変わり無い。

 

 内心を押し殺し、悔しがる3人に向けた刀を収め、踵を返す。

 この状態は特に九鬼の手の者が監視している。動けないと見れば直ぐに回収に動くだろう。

 

 

 去ろうとした背中から――――

 

「……ま、まだだ…!!」

 

 ――――動けない筈の義経が立った事を圏境が捉えるまで、そう考えていた。

 

 思わず振り返る。

 四肢は小鹿の如く震え、とても戦えたものではない。

 足は今にも崩れ落ちそうで、手に持つ刀は指先に引っ掛けて漸く持っている様に見せているだけ。

 とてもではないが戦闘は続けられるものではない。

 

 ――――だというのに。

 

「行かせない……! 行かせたらノルン君が、死んでしまうかもしれない……義経は嫌だ!」

 

「義経……」

 

 四肢はか弱く、しかし眼は力強く、こちらを見据える。

 

「ノルン君は以前言ってくれた、義経の事が大切だと、だから義経が困った時は力になりたいから相談して欲しい、と! 義経も同じだ! 義経もノルン君が大切だ、失いたくない……だからッ!」

 

 真っ直ぐ見詰めるその眼差しにこちらも同じ様に返す。

 ここで視線は逸らせない。逸らすという事は義経の想いを受け止めないに等しい。

 既に彼女の心を踏みにじった己にこの期に及んでどうしてそんな事が出来ようか。

 

「……そうだね」

 

「あぁ、お前の言うとおりだ義経」

 

 横で倒れていた2人も同じ様に立ちあがる。

 弁慶は立ちあがりきれず膝をつき、清楚は義経と似たり寄ったりの状態。

 

「私も、お前を失うのは惜しいからな。性に合わないがここで気張るよ!」

 

「言った筈だ、俺の許可なくして俺の前から消えるのは許さんと。ノルン、俺はお前のお気に入りだからな……逃さんぞ!」

 

 吹けば崩れそうな儚い今の状態で、それでも尚諦めず真っ直ぐと眼差しはこちらを射抜く。

 3人共その眼には共通して、確固たる意志を伴う力強い光を宿している。

 正直に言えば、これ以上戦わずとも彼女たちは戦えない。

 だが、その理屈だけで今の彼女達から眼を、背を向けるのはやはり己には出来ない。

 今、ここで背を向けるのは何処までも3人の想いを踏みにじる行為だ。

 これ以上裏切りたくは無い。

 

(ならば、今ここで己の為すべき事、為したい事は…!)

 

 ――――全霊を賭して倒す(受け止める)のみ。

 

「秘剣――――」

 

「ッ!」

 

 これを知っている義経だけが守ろうと防御するが――――

 

「――――佚之太刀」

 

 因果を直結し、過程を省いて結果のみを為す剣撃の前に抵抗する間もなく崩れ落ちる。

 

 

 

「……あぁ、やっ…ぱ、り……つよ、いな……ノルン君、は…ぁ……」

 

 

 

 倒れる拍子にそんな言葉が聞こえた気がした。

 

 

 地面に倒れそうになる寸でのところで3人を受け止める。

 河川敷の草むらの側に寝かせ、離れたところに気絶していた与一も側に置く。

 

「有難う。4人の気持ち、確と受け取った」

 

 気を失った4人の顔を見つめる。ちょっとの間でボロボロになった顔。

 埃と泥塗れの顔だが、それでもこれだけの魅力ある人間に思われて少し誇らしかった。

 

「それでは、行って参る」

 

 

 

 

 

 

 

 ――――多馬大橋。

 

 変態の出現率の高いこの橋もKOS開催中は流石に人気(ひとけ)が無く、普段の様子が嘘の様に静まり返った橋には撮影の為に上空を飛ぶヘリのローター音しか聞こえない。

 KOSの開始からずっと圏境で逐一捕捉していた者が、こちらに近付いてきた。その距離は既に一般人の視力でも人影が分かる所まで近づいている。

 心静かに橋の上、やや川神側の位置で瞑目して待つ。

 何故こんな中途半端な位置取りかと言えば――――

 

「丁度、この下だったね。君の母親を殺した場所は」

 

 瞼を開き、声をした方に目を向ける。

 相変わらずの伽藍堂の瞳、相変わらずの猟喜的な笑顔、佐々木が其処には立っていた。

 

「待ったかい?」

 

「あぁ、待ち侘びたぞ」

 

「クフフ、そこは今来たところって言う所じゃないか」

 

「呵々、私としてはぞっとせぬな。然様な関係は」

 

「ツレないねぇ」

 

 お互い不敵に笑い合う。友達同士が行う様な軽口の叩き合い。

 何だかんだで、波長が合うのだろう。出会いが異なればもっと違う関係だったのかもしれない。

 しかし、今はどうでもいいことだ。

 

 お互い真っ直ぐ見つめ合う。

 不思議な沈黙が満ちる中、言葉を切りだしたのは佐々木の方だった。

 

「さぁ、始めようか」

 

 湛えた笑みをより深め、情欲におぼれる様な顔で問うてくる。

 

「うむ。と、申したい所だがな」

 

「何かあるのかい?」

 

 小首を傾げて訝しげに問う佐々木にうむ、と首肯で答える。

 広げた圏境に凄まじい速度で接近する7つの存在。

 視線を向けてみれば、現れたるKOSの参加者を律する仕置き人衆に任命された7人のマスタークラスの達人たち。

 物々しい雰囲気に苦笑しながら分かりきった問いを投げかける。

 

「仕置き人衆が、何故(なにゆえ)ここに?」

 

「その女にはチームメイト殺害容疑が掛っている。悪いがこちらで彼女の身柄を拘束させて貰うぞ」

 

 代表して答えたモモの言葉に対する感想は、何を今更、というのが正直な気持ちだ。

 そんな事、とうに知っていた癖に、と思う。

 

(まぁ、KOSの流れを考えての判断であろうが……ここまで崩されては色々とグダグダであろうに)

 

 粛清では無く拘束という点が何とも予定調和じみた感が否めない。

 それもこれも犠牲を最小限に済ませる為だろう。

 そして、自惚れで無ければ其処には己も含まれている筈。

 

「この期に及んで? KOSも早くも佳境、最終決戦であるというに……今更出張って茶を濁すと申すか?」

 

「なんとでも言うがよい。とにかく、佐々木とやら。身柄を押さえさせて貰うぞい」

 

 言葉と共に7人の闘氣が膨れ上がっていき、呼応するように佐々木の方も殺気が増していく。

 暗に邪魔をするなと佐々木は伝えているようだが、ハッキリ言えば逆効果甚だしい。

 手を佐々木の前に振りかざして、止める様にジェスチャーで伝える。

 

「仕置き人衆、其方等(そなたら)のこの行動を、予測しておらぬとでも思うておるのか?」

 

 問いに答えるのもやはりモモ。

 表情はやっぱり、と言わんばかりというか、顔にそう書いている。

 

「だろうな。お前の行動はこっちの考えや行動を読んでいるかのような感じだったし。けどなノルン――――」

 

 ――――止められると思っているのか。

 

 何処までも挑発的なモモの顔。猛禽類じみた笑顔で不敵に笑う。

 

「呵々、くははははっはっはっはっ!」 

 

 腹を抱えて笑う、笑う。

 その光景は幼少のころから共に過ごしてきたモモ達にとってすら異質な光景。

 九鬼ノルンという人物は喜怒哀楽はあってもそれらに染まることはない。

 

 

 笑えども大声をあげず、怒れども顔には出ず、悲しむも涙せず、楽しめども狂乱せず。

 

 

 大凡感情表現が態度と雰囲気にズレがある人物だ。それ自体は当人の変えようのない性分なのだと、かつて指摘した時に仄かに寂しそうに微笑んでいたのは百代の記憶に未だ鮮明に焼き付いている。

 その点を踏まえると目の前の光景の異質は一目瞭然か。

 

 ひとしきり笑い改めて鋭く7人を見つめ――――

 

「今一度申そう……其方等《そなたら》の行動を予測しておらぬとでも思うておるのか――――」

 

 ――――己の切り札はとうに切っておるぞ。

 

 こちらの笑い声と告げた言葉に疑問符を浮かべ、警戒を見せる7人。

 

<<みな、頼んだぞ>>

 

 ――――任された。

 

 己だけに聞こえる5人の念話の声が響き――――仕置き人衆全員が吹き飛ばされる。

 踏鞴を踏みながらもなんとか防いだ7人。

 

 その目の前には――――

 

「な――に?」

 

「我らが夫が、確固たる意志と覚悟を以って事に挑もうというのに、邪魔立てして水を差すなど無粋の極み。お前達の相手は私達が仕ろう」

 

 雪花、酔花、珠百合、シキ、ディズィー、己が切り札とする5人が立ち塞がる。

 代表して雪花が言の葉を紡ぎ、5人共に不敵に微笑み仕置き人衆と相対す。

 

「――――さぁ、始めようか。小僧、小娘共……神話《我等》に挑む覚悟は十分か?」

 

 

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