気まぐれ神様の物語 真剣恋Ver.   作:ジーザスルージュ

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41話

 ――――KOS運営本部川神側。

 

 運営本部には発信機付き腕輪や街にあらかじめ設置した監視カメラで選手を管理する事の他、脱落者達を保護し治療なども請け負っている。

 設営された簡易テントには同じ様に簡易ベットが置かれ、一部の軽傷の者の中で意識を失っている者はここで寝かされている。

 武士道プランの面々も同じようなもので、こちらは特別のテントで念の為の厳重な警備が整った状態だ。

 

 ベットに寝ていた義経が眼を覚ます。

 

「う……ん…」

 

「目が覚めたかい? 義経」

 

 眼を開けると視界いっぱいに移る弁慶の姿。寝ぼけ眼で辺りを見渡す義経。

 その様子にここが救護テントだと告げる。

 頭がまだ回らないのか暫くボーッとしていてが、やがてはっとして弁慶の肩を掴む。

 

「の、ノルン君は!? KOSはどうなったんだ!?」

 

「今、モニターでやってる最中だよ。アレからあんまり経ってないみたい。身体も動くし」

 

「そういえば……」

 

 腕や肩を動かして四肢の動きを確認。気絶する前に比べてスムーズであり、支障は無いと判断。

 話声に反応して清楚――――西楚と表すべきか――――も義経の方に向く。

 

「起きたか、身体の具合は?」

 

「あぁ、問題無いぞ清楚先輩」

 

 何時も通りに見える対応。しかし、どこか固いのを清楚は気付いていたが敢えて無視をすることにした。

 そうか、と不敵に微笑みながらモニターに視線を戻す。

 釣られて義経も視線をモニターに移してみれば其処にはKOSの様子をモニタリングしているようだ。

 モニターに移っているのは義経が誰よりも憧れた人間が

 

 ―――――自身の身体から血飛沫を上げる姿。

 

「ノル――――」

 

「騒ぐな、アイツはこの程度で殺されたりはせぬ」

 

 2度も本気の俺を倒した相手だぞ。

 義経の悲鳴じみた声を遮った西楚は不敵に、しかし何故だか自慢げに語りながら義経を一瞥し、直ぐに視線をモニターに戻す。

 そんな彼女の様子に義経は耐えかねる様に憤慨し、声を上げる。

 

「清楚先輩はなんでそんなに落ち着いていられるんだ! いま、ノルン君がこ、殺されたのに」

 

「義経、義経」

 

「弁慶ッ! お前もなんでそんな冷静な――――」

 

「アレ、見てごらんよ」

 

 義経の狼狽と憤慨に見兼ねたのか、弁慶が冷静にモニターを指さす。

 常の行動の影響か、無意識にモニターに再度眼を向けてしまう義経。

 

 ――――其処には佐々木のを首を刎ねているノルンの姿。

 

「な!?」

 

 これには驚かずにはいられない。

 確かに自分は血潮に沈む友の姿を見た筈だ。だというのに、義経の前には変わらず刀を振るうノルンの姿。

 モニターを注視してみれば、先程から刀を幾度か交えては同じ光景が広がっている。

 隙を付くかのように身体を貫けば、次の瞬間には

 

「一体何が……」

 

「アレは魔宵伽という技だ」

 

「まよいが?」

 

 義経の疑問に事態の説明をしてくる西楚。何故だかその様子はやはり自慢げである。

 瞑想の極意といえる領域の圏境から更に独自に昇華したもので、更に範囲内の世界の認識そのものを操る技。効果範囲内にいるなら全ての認識を制御して五感や直感を好きなように操り、誰にも分からなくしたり、またどんな状況だろうと何であろうと探知できるのだと語る。

 聞いた誰もが唖然とする内容であり、弁慶や義経も例外ではない。

 

「なんだそのチート……与一の好きなライトノベルでも出ない様な効果だぞ」

 

 しかし同時に、目の前で起きている事の半分は理解できた。

 即ち、自分達はノルンが殺されている様に見えているが、それはノルンが制御してそういう風に見せているに過ぎないと言う事だ。

 だが、ならば佐々木の方は、という疑問も上がり、これに答えたのもやはり西楚。

 

「恐らくあの佐々木というか女も似たような技を使うのだろう。そうでなければ、絶対のイニシアチブを取れて尚状況が拮抗している事に説明が付かん」

 

「でしょうね」

 

「……」

 

 再び全員の視線がモニターに集まる。

 目の前で起こる立った二人の人間で行われている凄惨な殺し合い。

 尋常ならざる挙動を以って為される殺しては殺され、という一線どころか色々なモノを5段位飛ばしたあまりな光景は、何故だかそれでも見るのをやめようとは思えなかった。

 残虐ながらも幻想。

 彼女達からしても大凡現実離れしたソレは、ある種の御伽話の様な世界を連想させるからかもしれない。

 

 真剣な表情で見つめる中、義経は険しい表情でモニターを見つめる。その様子を弁慶はしっかりみていた。

 

「どうかした義経?」

 

「ん? 何でも無いぞ?」

 

「少し怖い顔になってたよ?」

 

「――――そうか。気を付けるとしよう」

 

 再び試合の様子をみる義経。弁慶は何となくそれ以上は追及しづらくなり、モニターに眼をむける。

 神話の再現にも思える様子を誰もが固唾を飲んで行く末を見守る。

 

 

 

 ――――義経はどうしてあそこに行けないんだろう。

 

 

 

 そんな思いが、義経の胸を満たす。

 アレこそが、武士たる己の求めるものの一端の様な気がしてならない義経。

 

 

 

 ――――義経も彼の立つあの場所へイキタイ――――

 

 

 

 腰に差したままの今剣(いまのつるぎ)が一瞬、輝きを強め、瞬く間に収まる。それを見た者は誰もいない。

 

 

 

 

 

 

 ――――多馬大橋。

 

 首筋目掛けて描かれる白銀の円。冷静にそれを得物で防ぐ。

 鳴り合う金属は涼し気に響き渡る。

 

 刹那――両断される背後にある橋の鉄柱。

 

 睨み合う2人はそんなことは瑣末だと気にも留めない。

 轟音を立てて川に沈む橋の一部だったモノが奏でる効果音すら耳に入っていないかのよう。

 受け止めた刀をノルンは身体ごと滑り込ませ、肘鉄を叩きこむ。

 八極拳に連なる体術は一撃で相手の臓器を砕く一撃。肘を通して生々しい音が響き渡り反対側の橋の柱に叩きつけられる佐々木。

 険しい表情でそれを眺めるノルンは――刹那、その首を刎ねられた。

 

 放物線を描いて宙を舞う(こうべ)を流し目に、しかし直ぐに身体に戻す。

 バタリと音を立てて倒れるそれをみつめ――身体から鮮血が飛び散った。身体を貫通して徹る刃は寸分違わず身体を二つに別つ。

 

 倒れた彼女の背を再び見つめるノルンは数瞬その姿を目に留めて、即座に背後へ振り返りながら刀を振るう。

 描いた弧は同じ様に描かれる弧の道筋を変え、金属が合わさった音と共に止まる。

 直ぐに離れる2人。

 着地を見計らって遠間からノルンは刀を奔らせる。

 それを読んでいたかの如くしゃがんで躱す佐々木。

 

 ――――彼女の目の前には既に刀を振り下ろすノルンの姿が移った。

 興奮を抑えきれないとばかりに堪らず声を漏らしながら遮二無二腕を動かして、殺刃を防ぐ。

 

「アハッ! 本当に愉快痛快だよ! やはり君はイイッ」

 

「然様か」

 

「ツレないねッ? もっと反応してくれてもイイじゃないかッ!!」

 

 見事なまでの鋭い足払い。

 しかし、ノルンは知っていたかの如き神懸かり的な心眼で見抜き、跳んでこれを躱す。無論縮地で。

 背後に回り込むように少し離れた所から振るう霞月による4方からの斬撃。

 逃げ道のない斬殺空間をこれまた神懸かり的な速度で佐々木は1回転、他方向同時斬撃を一息で叩き落とし、回転の勢いを利用して刀から妖気の衝撃刃を返してきた。

 

 無造作に刀を振るい、妖気の刃と衝撃の力の流れを打ち消す。

 お互い、同時にその姿を掻き消し、次の瞬間にはぶつかり合う。

 疾風怒濤――――円舞の如く、演武の如く、踊り合う2人。

 振るわれる刃に躊躇いなど無く、殺刃舞闘は苛烈さを増していく。首を狙う軌道を弾き、返す刀で肩から心臓に振るわれる刃を逸らし、頭部を貫かんとする刺突を受け流し、お返しとばかりに腰を両断せんと迫る兇刃を身を翻して避け、殺刃と兇刃が合わさる。

 

「素晴らしいね、私と同じ技も使うなんて。結構秘技なんだよ、これ」

 

「私と其方(そなた)の技、結果は同じでも似て非なるモノだ。寧ろ、技の本質的には逆であろう」

 

 言葉と共に益々興味深そうに顔をゆがめる佐々木。

 ならばどんな技か、そう問う彼女に対して、ノルンはらしからず語る。

 己の魔宵伽は原理を端折って言えば自分()から世界()へと干渉する技。

 対して佐々木の技はその真逆だとノルンは言う。

 

「ふーん、で、その答えは?」

 

「自己に対する超限定的な事象結果の簡易制御、であろう?」

 

「――――」

 

 ニィ、と実に素晴らしく寒気のする笑みを更に深める。

 意にも介さず語られる佐々木の技のカラクリ。

 佐々木の技は端的に言えば、自分、それも既に起こってしまったモノに限定した事象結果を操作、反転させているのだ。

 

 傷を負った事を反転させ、致命的な攻撃を貰った事を反転させ、己が殺された事を反転させる。

 これだけならまだ唯の大技だが、この技は総合的に見て魔宵伽を凌駕する技だ。

 その理由が、この技の今迄の使用回数。これだけの大技にも関わらず、既に30以上も殺してなお、平然と使えているその訳。

 

 佐々木は反転させた段階で僅かの間、世界の秩序(因果)が及ばなくなった瞬間に始まった瞬間の自分、即ち疲労や消費がまだ無い最善の状態まで戻している。

 そうでなければ復活した瞬間に、殺す寸前以上の量の力を放出している事に説明が付かない。

 

 

 

 世界にとって死とは世界そのものからの乖離に等しい。

 

 

 

 世界に対して己を己たらしめるのは己以外の人間の認識ありきである。それ故に例え死者が死を自覚しても後には死体という死の形が残り、人はそれを始めとした連なる要因を以って一つの終わりを認識するに至る。

 だが、同時に死とは世界からの乖離に等しいという事実。

 佐々木の技は死亡という事象を認識することをトリガーとして、自らの自我を阿摩羅の彼方にまで沈め、世界を欺き超限定的な事象の書き変えを為しているのだ。

 魔宵伽が内から外への干渉に対してこの技は真逆と言って相違なかった。

 

 

 瞬間的に世界を欺くついでに、彼女は己の状態すら巻き戻して復活してしまう。

 ゲーム的にいえば自動蘇生魔法+体力魔力MAX付きの技。

 凄まじいまでの無理ゲーである。本当にゲームなら購入者は壁に向かってソフトを叩きつけ、粉々に踏み潰したくなる事だろう。然もあらん。

 

「故に、其方(そなた)は未だに疲労も無く、この技を発動するだけの氣さえ残っておれば無尽蔵に戦える。相違あるか?」

 

 加えて技の発動に対して氣を巡らせる必要も、発動に必要な量も僅かで済むのだろう。

 彼女自身の元々の性質が自己を内側へと埋没するのに特化している為に発動に必要な体内に残っていれば、後は自らの内へと沈めばそれだけで発動する。

 これこそが我が力、武を交えず(暗器暗武)を以ってしても無力化できないカラクリだ。

 

「……クフ、あははははは! 正解だ。誰もが其処に到る前に死ぬから見破られる事は無かったけど、いや、あんな高次元の戦いの最中に其処まで冷静に考えられるなんて大したものだ」

 

 拍手と共に称賛する佐々木。

 何処までも純粋に、ノルンを称えているのがよく分かる素振りだ。

 向けられたノルンは到って平然としているが。

 こちらかも良いかな、と佐々木は問いかける。ノルンは、それに首肯で答えた。

 

「その刀、いったい何なんだい? 妖刀(コイツ)とは比べ物にならない位に力を秘めている事以上に、この刀が喰えないエモノなんて初めてだ」

 

 視線はノルンの持つ野太刀、名を月御霊に向けられる。

 半透明の刀身という、水晶を刀にしたような姿形は彼女でなくても興味が尽きない。

 

「ふむ、まぁ、端的に申せば"絶対に形を損なわぬ刀"だ」

 

「へぇー、物珍しい。アロンダイトやデュランダルみたいなものか」

 

「そう思うて貰って構わぬ」

 

「うん、疑問も解けたし、じゃあ――――」

 

 ――――再開しようか。

 

 言葉と共に再び刃が重なり合う。

 

 

 

 

 暴風の如く振るわれる兇刃は死相を容易に連想させる。

 正直なところ、ここまでの"実戦"というものをこんな比較的平和といえる時代で味わう事になるとは思っていなかった。

 首を刎ねんとする刃を伏せる様に上半身を捻って躱し、胴を断ち切らんと弧月で両断する。

 狙い違わず斜めに両断し、倒れ伏す佐々木の身体。

 

 構えを解かず反射的に右の後方へ刀を向ける。

 耳に馴染む金属の合わさり合う音。

 身体を回転させる様に鍔迫り合いから得物を弾き、背後へと攻撃。

 しかし、鞘を以って軌道を受け流し、逸らされる。

 身体能力もさることながら、やはりあの幻術の効果は絶大だ。

 モモの瞬間回復など目では無い。

 どれだけ消耗させようが死ねば確実にリセットして最善状態から挑めるそれは全く新しい不死の形といえる。

 長い年月、様々な世界、様々な敵と戦ってきたがこれだけの強さを誇り、かつ不死性と持久性を持つものは片手の指ですら大いに余る。

 

 魔宵伽はもう既に解いた。

 この幻術の感覚も既に掴めているがために。

 極めて優秀である戦士であるが故に僅かの隙も逃さず、そして己と同じく合理的に攻めてくる彼女は視界の外などといった五感の死角を突いた奇襲も多々行ってくる。

 加えて佐々木はこちらの圏境の包囲網の密度が感覚的に分かるらしい。

 透明化にすら対応してくる以上、この予測は明々白々だ。

 ならばそれに合わせてほんの少し、圏境の網を極一部、複数個所緩めて予防線を張っていればいい。

 

 

 音も無く煌めく銀閃が、再び佐々木の首を刎ねる。都合36回目の血飛沫と斬殺。

 無造作に得物を背後に置き――――死神の兇刃をいなす。

 想定済みだったのか、疾風の如く返す刀で襲い掛かる兇刃。殺刃を以ってこれを迎え撃つ。

 兇刃と殺刃の円舞。

 

 

 ――――1合。

 

 

 ――――12合。

 

 

 ――――37合。

 

 

 ――――61合。

 

 

 ――――104合。

 

 

 ――――315合。

 

 

 目にも留まらぬを体現する速度での斬り合いから鍔迫り合う。

 衝撃と共に響く金属の摩擦音が耳障り感と同時に心地良さを生む。

 数瞬の膠着。やがて同時に離れ、距離を置いた。

 

「埒が明かぬ……」

 

「クフフ、私はまだまだバッチこーい、なんだけどね」

 

 どんな消耗すら死ねば全快する佐々木からしたら余裕だろう。

 スタミナ的にはまだまだいけるが、既にお互い技術的には知りたい事は知りつくし、ここからは既に惰性でしかない。

 言葉ではイケるというが、やはり佐々木もそれを分かっている、否、知っているのだろう。

 殺気が徐々に、しかし確実に膨れ上がっている。

 

「けど、そろそろ決着を着けたいっていうのは同意かな」

 

「まだ何も申しておらぬが?」

 

 分かってるくせに、と佐々木。ギィぃ、と口角を上げる。

 

「私と君は同類だ。だからこそこれ以上が意味の無い戯れ合いだと言う事も、望んでいるのがそういう事でもないのも、ね。武芸とは殺人だ……殺して毀してナンボ、少なくとも私達はそうだろう?」

 

「呵々、然りだ。私と、其方(そなた)は同類である……違いは、抜き所と収め所を知るか否か」

 

「クフフ、鬱陶しくは無いのかい? 私は鬱陶しいよ。そんな重苦しいもの、高みを目指すのには繋がりは邪魔だ」

 

「そこが決定的な違いであろうな。私にとってはその重みこそが心地よいのだ。伴侶然り、家族然り、友然り……己にはこの重みはなくてならぬもの」

 

 確かに、守るべきものの無い剣は総じて強い。何処までいってもこれは事実である。

 重石が無い故に迷いは無く、躊躇いも無く、振るわれる剣は文字通りに一貫して剣の如く純粋、それ故に戦いにおいては強くなれる。

 

 然りとて――――

 

「然りとて、その重みこそが己を確固たるものにする。重荷なくして刃を振るえばたちどころに己を見失う自信があるぞ私は。今となってはあの感覚ほど恐ろしいものはあらぬ……」

 

 心は何をしても揺れず、どんな変化にも動じず、大凡人らしさが欠けたかつての己。

 師に拾われ師に憧れた事、弟と理想に殉じて犯した過ち、愛する人達と巡り合い永久に各々を縛った事、居場所が欲しいと天上天下を席巻し制した時、数多の平行世界における己が為した事、そのどれもが根底にあるのは己の本質との抗いであり、独りを拒んみ、空虚を嫌った己との戦い。

 

 得たものの尊さと得たものへの愛おしさ、失ったものの痛みと失ったものへの後悔は常にある――――

 

「――――なればこそ、失わんと万全を期するのだよ」

 

「しかし、それは矛盾だ。ここに到るまで九鬼を除籍して、筱宮に戻り築いた絆を自分で裏切って、その重みを自分から除けている。伴侶達とやらがいるから、他の者は失ってもよいと?」

 

 色々と痛い所を突く。

 この際彼女がこちらの事情を知っている事には無視する。大方義経達に話した時に盗み聞いたのだろから。

 問いかけに首を横に振る。

 

「否だ。断じて、な」

 

「ならば、伴侶とやらとクローン組との違いはなんだ」

 

「此度は能力の強弱だが?」

 

 粗、即答だった。

 予想外の返しに呆然としている佐々木。そこまで意外な答えだっただろうか。

 

「義経達では佐々木は倒せぬが私ならば倒せ得る。仕置き人衆の介入も、彼女達では抵抗できぬが我が伴侶達にはそれが為せよう。現に全員制しておるしな」

 

 未だ呆然状態の佐々木は更に問いを投げかけてきた。

 友や家族が大事と言いながら、差別をするのかと。

 

「当然であろう? 頼り無い者にいったい誰が己の心身を預けようと思う? 力の無い弱者に己の命運を分ける勝負を委ねようと思える?」

 

 博愛や平等を神が謳おうが、この身は例えで神であっても祖に習おうとは思わぬ――――と答えた。

 博愛や平等とは、聞こえはいいが其処に価値に差が無いと言う事だ。かつてその尊さに憧れたが故に知る。

 それは、己を慕うモノ、己が慕うモノにとって、最大限の裏切りだと言う事を。

 見ず知らずの他人と自分にとって親しい誰かが同じ価値などあってはならない事だ。

 

「それで、クローン達が大切だと言うのかい?」

 

「無論だ。己にとって、心身問わず、個人の能力による差別と、個人の価値は矛盾せぬ。どれだけ劣等だろうがお互いに友好が結べれば友であるし、如何に優等であろうとも、馬の合わぬやつはあわぬし共にありたいとは思わぬ」

 

 暴論であるという事は理解しているつもりだ。

 だからこそ、それを知っても尚この身を慕うものをより愛おしく思える。その想いに応えたいと願う。

 伴侶達はその最たるだ。お互いが求めてたといえど、永劫を彷徨う旅路に好んで付き合ってくれる辺りが。

 それに、この暴論に享受しようという者は存外少ないものだ。向けられた好意に報いらんと、大抵の者は切磋琢磨し己を磨く。

 この身もそうだし、己が慕う者の多くはそういった者たちばかりだった――――少なくとも己の周りには、だが。

 

「相手の想いを、剥き出しの心を受け止める事は存外難しいものだ……然れど、それを示されたのなれば、如何なる形であれ報いたいと願う」

 

 今回の一件は正にそこが焦点だったと個人的には思っている。

 どの道、語ったところでお互い引かず、だからこそぶつかり合うのは必然だった。

 無論、それを理由にして免罪符にしようとは思わない。

 誹りも蔑みも殴殺される覚悟もある。逃げる心算は元より皆無。

 というか、クローン達や揚羽さんと九鬼家辺りからは本当に殴り飛ばされそうである。自業自得ではあるが。

 

「清々しい程に傲慢だね、しかも矛盾だらけ。でも嫌いじゃないよ、それでも押し通そうとする姿勢は。さて、一通り語りつくしたし――――」

 

「うむ、この辺りで仕舞いとしよう佐々木よ」

 

 佐々木は下段横に得物を構え、己は無造作に手に持った状態。

 語りながらも途絶える事はなかった殺気が最高潮まで膨れ上がった。

 妖刀の妖気が禍々しく滾るのに対して、己は魔宵伽と同等以上に圏境の同調を深める。しかし、姿が消える事は無い。

 

 準備は整い、お互い正真正銘の全力の一撃を以って相手へ迎えんとする。

 先程のやり取りが嘘の様な静寂に満たされた空間。

 空気が物理的に質量を持ったかのような重苦しい中で涼し気に構える2人。

 

 先に動いたのは佐々木だった。

 示現流にある雲耀に匹敵する速度での突貫。まさしく神速の踏み込みと一撃は相手の身体を両断せんと空間を切り裂く。

 

(取ったッ!)

 

 一切動かない相手に対して佐々木は勝利を確信する。

 鮮血が迸った。

 

 

 

 ――――佐々木の身体から。

 

 

 

「え――――?」

 

 咳き込みながら何が起こったのか分からないといった具合に血を吐く佐々木。

 ふらりと佐々木は倒れ伏す。身体から溢れ出てくる血が広がり、即死ではないが致命傷だということを物語っていた。

 いや、それはある意味瑣末なことだ。

 何故なら倒れたままで幻術が一向に発動しない事の方が彼女にとっては問題である。

 

 

 先程までの攻防戦が、実にあっけない程アッサリと決着は付いたのである。

 

 

 どうして、と疑問と同様が次々に溢れ出てくる様が見て取れた。

 倒れ伏して動けない佐々木に魔術による止血を施す。やがて喋れるようになった佐々木は掠れた声で喋り出す。

 

「いったい、なにをした?」

 

「我が秘剣で其方(そなた)を斬ったまでのことだ」

 

 端的過ぎて説明になっていない、と佐々木は思った。

 そんな事を聞いている訳でもない、と顔が雄弁に物語っている。

 

「秘剣 明鏡止水。正真正銘この身が到った剣撃の極みだ」

 

 周囲に聞こえない様、小声で佐々木の耳元に口を寄せて語る。

 秘剣 明鏡止水は己の培った武芸の集大成。

 世界へ干渉し、極一部の理を制する魔宵伽の技術を応用して到ったこの技は端的にいえば体術による運命操作。

 刀を持った状態で圏境を広げ、"自己の斬撃"に限定してその因果を制御するというもの。

 運命干渉型の極致ともいえ、闇夜剣、我が力、武を交えず(暗器暗武)の効果は元より、ゲイボルク等の必中効果、果ては秘剣 佚之太刀の効果など様々な事象を斬撃に付与できる。

 佐々木へ向けた斬撃は闇夜剣参之太刀、逆月、必中、秘剣 佚之太刀の効果に加え、斬られた者の技能を封じる因果を付与した斬撃だ。

 

 だからこそ、佐々木は斬られても幻術を発動できない。我が力、武を交えず(暗器暗武)で氣の流れを掻き乱されて尚使える彼女の幻術を凌駕し、届かせるための正真正銘の個に於ける武術の切り札だ、と説明した。

 

「ハ、ハハ……なんて、デタラ、メ…」

 

 乾いた笑いを上げ、気絶する佐々木。傷は手当てしたので失血による意識の停止だろう。

 その姿を見て、色々と複雑な心境である。

 

「これが、己の望んだ結末、か」

 

 明鏡止水を以ってすれば理論上は殺せない相手などいない。

 ましてや、ゲイボルククラスの必中、逆月の打点力点の完全制御、佚之太刀の因果直結による結果のみの具象化に加え、技能封じまで付加して尚、殺せていないという事はつまるところそういうことだ。

 

 ――――斬れば分かる。

 

 まさしく剣士の本質だとでもいうのか。殺意はあっても殺すには及ばないと心はそう定めていたとは、何とも鈍感で間の抜けた話だ。

 

(何はともあれ、これで為すべき事は為し終えた)

 

 犠牲者は佐々木と組んだ四人のみ、と上々の結果だったと言える。

 

 空に花火が盛大に打ち上がる。それはKOSにも幕を閉じた事を知らせるものだった。

 目敏く九鬼のヘリがこちらに降りてくるのが眼に入る。

 

<<雪花>>

 

<<抜かりはないよ。参加者ほか、仕置き人衆全員、後遺症を残す事無く完治させた>>

 

<<流石は我が伴侶。相も変わらずの抜け目のない>>

 

<<ふふふ、どういたしまして、だ>>

 

 ご褒美、期待しているよ、と最後に告げて念話を切る雪花。

 その後九鬼の優勝者として九鬼のヘリで運営本部まで運ばれるのだった。

 無論、負傷者として佐々木も。

 

 

 世界格闘大会KOS2009は文字通りに世界に衝撃を齎して幕を閉じた。

 

 

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