――――登校日。
多種多様だが基本的には多くの学校に於いて夏休みの内、一日だけある学校へと通わねばならない日。誰もが暑さでだれる中、多くのもは渋々ながら足を運ぶ。
登校したらしたで、友人たちの変わりようなどに目を見張る事もあるだろう。
川神学園でも多分に漏れず、真夏の日差しが照りつけるなか生徒は学園へと向かっている。
しかし、一部の生徒は川神学園特有の夏の強化補修などで顔を合わせているので特にもの珍しいモノではない。
特進のエリートが集まる此処2-Sでは顕著だった。
「みな、あまり変わっておらんのう」
「基本的には勉強に打ち込む者が殆どのクラスです。当然では?」
「そういうマルギッテも変わっておらぬ様だな。傷の具合はよいのか?」
「当然です。軍人たるもの、あの程度でどうという事はありません。傷の手当ても受けてますしね。それよりも九鬼ノルン、あの雪花という女はお前の組んでいたチームのメンバーと聞いたが」
「うむ、相違ない」
首肯しながら答えると、何やらマルギッテから妙な闘氣が湧き出てきた。ふっふっふ、と薄ら寒い笑いまで。
どうやら彼女にとってあの戦いは色々と屈辱的だったらしい。夏休みの間、任務でドイツに戻っていたらしいが、特訓だったのだろうか。
今もブツブツ、と話しかけてきながら小声で独り言を言う様子はかなりアレな光景だ。
「KOSでノルン君が組んでいた美時美少女については私も聞きたいですね」
意外な所から話題に喰い付いてきた。
冬馬は興味津々の様子でこちらを見つめている。彼のファンの女子なら黄色い歓声が上がるだろう良い笑みで。
生憎、同性の趣味は無く、熱烈なファンもこの場にいない為そういう
「なんでも、人前で接吻したり、伴侶だと言っていたそうですが?」
「黙秘権を行使させ貰おう」
「おや、残念ですね。教えて貰えないのですか? 私よりも先に手を出した魔性の女性に興味があったのですが」
「ツッコミは入れぬぞ? というか、
発言自体はあったが、周りにいた面々を悉く昏倒させたいた以上、どんなに記憶を掘り返してもそんな情報が漏れる事はない筈だが。あの時のTVカメラも音声までは拾えていなかったようであるし。
或いはモモから洩れたか、とも思ったが直ぐに否定。KOS以降のあの様子からしてその気配はない筈。
「それは秘密です。男も女もミステリアスな面が1つあった方が魅力的に見えますから」
「否定はせぬが、な」
だからと言って熱っぽい視線で見つめられようが、この身は攻略不可能キャラという奴だぞ、冬馬よ。
なんて他愛ない事を考えていたら、凄まじい力で肩を掴まれた。
背後から伝わる強烈な寒気に、振り向くのがなー、なんて思いつつもチラリ、と腕の先を流し目に見てれば――――
不自然に髪で影になった瞳が奥から光りながら覗かせる猟犬さん。
何処のホラーかと。
「そうだったのですか、それはそれは……」
「にょわー!? ど、どうしたというのじゃこやつ!?」
「お、落ち着け、落ち着かれよマルギッテッ」
ドイツ軍人以前に人として、やってはいけない類の顔だ。折角の美人が台無しも良い所である。
最早日本語では無くドイツ語でブツブツと、――――落ち着け?私は落ち着いているあぁ落ち着いているとも自己制御装置を見抜かれ取り払ったにも関わらず瞬く間にしてやられたがそれがなんだドイツ軍人はあの程度どうということはないないったらない――――と良く分からない自己便宜を始めた。
異様な迫力が凄まじい。哀れ不死川心、巻き込んでしまって正直スマンかった。
「マルギッテ……? そ、そろそろ校庭へ行かねば全校集会に遅れるぞ?」
「………………………そうですね」
「も、戻ったのか? 全く、なんだったのじゃ……」
言葉と共に威圧感は無くなり元に戻ったマルギッテ。
ホッと嘆息ついて席を立ち、グラウンドに向かったのだった。
炎天下の中グラウンドに整列する生徒一同。
毎週恒例の行事とはいえ、屋外でやるにはこの季節はそれなりにキツイものがある。
ましてや夏に珍しい雲ひとつない快晴ともなれば、尚更だ。
ただ、今回ばかりは何時もと勝手が違っていた。
生徒達は沸き立ちざわめく。
ある一方を向いて。
生徒達の視線の先にはTVカメラとその撮影スタッフの存在。龍造寺や雪広アナウンサーがいるところを見ると撮影内容はニュースDEドゥーンだろうか。
全校集会は鉄心殿の時代錯誤なボケ的な挨拶から始まり、ものの見事に滑った。そして挨拶もそこそこで本題に入る。
TVの方にもここからが本題だと念を押す辺り、ボケが滑ったのは理解しているらしい。
「さて、先に行われたKOS。世界規模の大会だけあって実に心躍る大会じゃったぞ。まぁ、予想しておったのとは大分異なった様相を呈したが」
視線がこちらを貫いてきたので首を明後日の方に向ける。
己は知らない。断じて知らない。アレは仕様だ、必然だ。
何やら周りまでちらほら視線を向けている気がするがスルーである。
「ただまぁ、大会の規模やルール無用がルールだけに正直過激すぎて付き合いきれなかったとか、バトルロワイヤル形式だけに何処にどのチームが居るかも把握しづらい、戦いが見辛い等の意見もあってのう。そこでじゃ、毎年8月に行われる川神院主催の川神武道会……今年はこの規模を大きくしようと思ってのう。と言っても、KOSのソレに比べたらもっと純粋な武道大会になる予定じゃ」
鉄心殿の驚愕な発言にどよめきが否応無しに生じた。
壇上に立つその人は構わずに言葉を続ける。
「さて、格闘大会らしくKOSに負けぬ様、ワシはこの大会を若獅子タッグマッチトーナメントと名付ける事にした!」
大会のスポンサーが九鬼なだけあって、既に報告を耳にしていたが改めてこういう場で聞くとやはり印象が異なる。
「KOSでもチーム戦だったじゃろ。こんな時代じゃからこそワシも『絆』というものをテーマにしたくてのう……こういう縛りを付けさせて貰った。各々が信じた相手と共に勝ち進んで欲しいぞい」
隣にいたルー師範代が開催日を捕捉する。
今から約一週間後の8月の16日、場所は隣町七浜にある七浜スタジアム。
細かな大会のルールをヒュームとクラウディオが引き継ぐ。
最初に説明されたのは大会の参加資格について。
KOSと同じく日本全国津々浦々、世界各国から男女問わずに参加者を募るが、"若獅子"の名が示す通り、25歳以下という年齢制限が設けられた。
「若く才気溢れる武闘家の発掘は九鬼としても望むところ……ゆくゆくは九鬼でその力を存分に振るって貰いたいが為に、今回我々がスポンサーとなりました」
次に説明されたのは武器の類だ。
刀剣類の様な刃物は峰打ち、もしくはレプリカでの使用ならば良し。また、銃器についても専用の安全なモノを支給するそうだ。
「九鬼が主催したKOSでは実弾や刃物の使用に制限はありませんでしたが、今回は純粋な格闘大会。殺伐としたものでは無く、より健全に切磋琢磨して頂くためにこの様な処置を取らせて頂きました」
ここまでは大会全体のルール説明。
次に説明されるのは試合についてのもの。
チームを組んだ2名の選手は互いにリングへと登り2VS2で戦い、どちらか片方の選手がKOすればその時点で勝敗がきまる。加えてリングアウトも10カウントで負けとするもの。
後者は元より、前半のルールこそ若獅子タッグマッチトーナメントの最大の焦点だろう。
どれだけ片方が強かろうともう一方がやられてしまえば意味を為さないのだ。必然参加する人間は相方選びに慎重になる。
何よりルールを最大限に生かせば、格下が格上を倒す所謂"大物食い"も可能となるのだ。
大会のルール説明が続く間に騒いでいた者達は何時の間にか食い入るようにのめり込んでいた。
誰もが真剣に耳を傾け、聞きこぼさぬ様にして構えている。
この血の気の多さは流石武士の血を引くものが多い川神ならではだろう。
次に説明されるのは優勝賞品について。
「大会の優勝者が得られるもの……まず1つ目は絶大な名声です。KOSに比べれば規模は小さく縛りは多いですが、その分より一層智勇を振り絞って闘わなくてなりません。よって最終的にはKOSに負けず劣らずの名声を得られましょう」
「更に、2つ目としてスポンサーの九鬼から様々な贈り物が進呈されます」
「若者たちにKOSの時の様な大金は毒でしょうから現物支給とさせていただきます。支給される品々についてはWEBに一覧をアップしておきますのでそちらをご覧ください」
更におまけとして九鬼財閥から重役待遇確約証文もつくそうだ。これについては商品の中にあるペア旅行時に重役と同等の接待を受けられるというもの。
これが侮ってはいけない。
何回か接待される光景を目の当たりにした事があるがまさしく到れり尽くせりだったのは記憶に焼き付いている。
賞金500億に対して地味に思うかもしれないが、今回の大会の主催は川神院であって九鬼はスポンサーである。
その事を踏まえれば十分豪勢と言えるだろう。それを聞いて周りは早くもやる気が増している者がちらほら。
(良くも悪くも欲望に忠実であるな、この学園は。その最たる己が言えた義理ではあらぬが)
内心苦笑しながら話を一通り流れ作業な心持で聞いていた。
理由はこの大会に己は粗関与しない事に決めている為に。KOSでは故あって出ざるを得なかったが、師の教えと己の今の気質からしてこういう見世物的なものに出るのは好ましく思えない。
それで卑下にする積りはない。一重にこれは己の性分だ。
などと考えていたら、次に出てきた鉄心殿の言葉には度肝抜かれる事に――――
「他にも大会優勝者には武神、川神百代。もしくはKOSの覇者の1人、ノルン……どちらかへの決闘を挑める挑戦権を与えられるぞい」
あぁ、成程。
これはつまり――――抗議しても良いのだろう?
今までにないぐらいの速度――それこそ生きてる内に5指に入る位の―――で挙手をした。
「待たれよッ!」
「人生に待ったなしじゃ!」
「まさかの斯様な所で2度ネタ!?」
第2話のネタをこんなところで使い回されると誰が思うだろうか。
というか、メタ発言は禁句である。
気を取り直して再度抗議する。
何故ならば――――
「私に一切の話が通っておらぬのは何事か!?」
「今言ったしの」
「確信犯……だと?」
「どうせオヌシの事じゃ。KOSの1件もあって自重するという名目で関わる積りなかったじゃろ? 仮にもKOSの勝者の1人がよもや許されると思うておるまい」
「YOUはShock!! 徹頭徹尾とかッ。2重の意味で反論の余地があらぬッ!」
前者の行動は元より、後者のKOS勝者の1人として大会に何らかの形で使われるのを想定していた事を読まれるとは。
本当に2重の意味で衝撃を受けた。
武神とKOS覇者の1人、何れかへの挑戦権を得られるという衝撃はこの寸劇で大分白けてしまったのは言うまでもない。
客観的に見ればある意味モモにとっても参加者にとっても悪い条件では無いのは良く分かる。
決勝戦に武神が立ちはだかるのであれば詐欺的だが、優勝後のエキシビジョンマッチという形式ならば参加者が減るという事態にはならないだろう。
肝心のモモがあまり嬉しそうでないのは少々引っ掛かるが。
この身からしてみればそれ自体は粗些末なことだが。
しかし、楽しみが無い訳ではないので、その辺りは大会の推移を見守る事にしよう。
他にも、ペアを組むに当たって制限の無い事は勿論――――
当日にはTV中継が入る事や、審判や観客の安全はマスタークラスの面々によって安全確実を保証する事を告げる。
「観戦するだけでも十分に楽しめると思いますので、非参加者の方も当日は皆さん是非ともスタジアムまで足を運んでください」
「当日は参加者が多い事を見越して予選と本選の日程を午前や午後、或いは日付を跨ぐ形になると思うヨ」
この演説はTV中継によって全国的に流しているらしく、ルー師範代の言葉と共に撮影スタッフがしきりにレポートしているのが目に付く。
KOSに負けず、若獅子タッグマッチトーナメントは世界に再び衝撃を齎すのだった。
再び名を上げんとするもの――――
KOSのリベンジマッチとして燃えるもの――――
純粋な力比べに望まんとするもの――――
物見遊山の感覚で成り行きを見守ろうするもの――――
様々な思惑が世界に交錯する。
全校集会が終わった後、いそいそと挙って教室に帰る途中にその光景は起きた。
「与一」
「……なんだよ義経。と言ってもなんとなく言いたい事は分かるがな。ペアを組めってか?」
「そうだ。KOSの時と同じく義経達はこの大会でも目玉になるだろう。武士道プランの申し子として出ないという選択肢は無いぞ」
教室へ戻る途中で義経が与一の前を阻む。
真っ直ぐ与一を見つめる義経に対し、見られている側はそっぽ向いたまま。
あからさまに出る気が無いと言外に言っているに等しい。口に出しているけども。
だが、その振る舞いは間違いなく弁慶が黙ってはいないというのに。
相も変わらず地雷を踏むのが得意な奴だろ呆れを通り越して感心してしまう。
案の定弁慶が乗り出したのだが――――
「与一――――」
「しつけぇな。出たくないん――――」
「これは、主としての命だッ」
「ッ!」
与一が息を飲む。与一のみならず弁慶も、周りにいた誰もがその声に引き寄せられた。
声が大きかった訳じゃない。
"力"とでも言うのだろうか――――唯々、その一言が周りにいた人間の心を掴んで離さなかった。
何処までも強く、真っ直ぐ澄んだ義経の瞳。
見慣れた筈のソレには今、確かに人の心を掴んで離さない何かを宿している。
そしてそれは、清楚が常に持ち得ているもの――――即ち、カリスマ性。
今この時、確かに義経には清楚のソレに劣らない力があった。
だからだろうか、何時もはヒネた態度しかとらない与一が
「お、おう」
あぁも素直に、圧倒される様に二つ返事を返したのは。
与一の返事を聞いて義経が放つ何かはナリを潜め、見慣れた明るい笑顔を見せる。
「良かった! では義経は一足先に登録を済ませてくるぞ」
駆け足で去っていく義経を己以外の殆どが見送る以外に出来なかった。
「呵々、まこと成長を見せたものだ。感慨深い……なぁ、弁慶?」
「あ、あぁ。そうだね……」
(なんだってんだ、今の
チーム名『源氏組』。
若獅子タッグマッチトーナメントの告知から最速で出来たチームだったとか。
この日の内にこれ以上チームが決まる事はなかった。
――――夜、自室。
毎度毎度の恒例である弁慶との飲み会。
今回のメンバーは弁慶、清楚、己に加えて珍しく紋と義経が加わっていた。
就寝時間の早い2人が居るのは珍しかったが楽しいので問題無し。
作ったツマミを肴に楽しく静かに飲む。
「いやー、それにしても主があそこまで強く与一に出るとはねー。成長したな」
豪快に飲み干す弁慶。その表情は満足そうであり、しきりに義経の頭を撫でている。
撫でられる側も満更ではない様子。
「あぁ。義経は絶対に負けられないからな」
「フハハハ、何時も以上にやる気ではないか義経」
膝の上で豪快に飲み干す紋。小さいながら様になっている。
摘みに手を伸ばしながら、今度は弁慶や清楚に問いかけた。
「それで、残りの2人はどうするのだ?」
「あぁー、私はなぁ……ノルンを最初当てにしてたんだけどね。まさかエキシビジョンの方に回るなんて思って無かったから取りあえず募集中」
「完全に楽をする心算であったな、弁慶」
元々出る気は皆無だったし、出たとしても弁慶とてそこそこ働かないといけないのでどの道半分は動かす腹積もりだったが。
あーん、と言いながら雛よろしく口を開ける弁慶にツマミを放りこむ。
清楚の方はというと、首を傾げながらどうしようか、と言わんばかりだ。
「んー……どうしようか? 出るのは構わないんだけど、相手の心当たりがないから」
「なれば、弁慶と組んでみるのは
実際、パワー系の弁慶に対して清楚も負けず劣らず、だ。
相性如何はこの際ある程度無視できるだろう。そもそも、清楚やモモの様な最優の万能型と組む事自体、一報が合わされば誰もが組めるものだ。
協調性についても同じくKOSで証明されている。組む事自体に支障はないだろう。
「そうだね……けど、出るとしても今回は気分転換みたいなものだから弁慶ちゃんに悪いよ」
「私も基本的には義経の敵を倒すだけですし、其処まで本気じゃなくても構いませんよ?」
「そうなんだ? うーん……考えておくね」
清楚も弁慶の方も満更ではない様子。
お互いが優勝に対する意識が無いという点に於いては波長が合うのかもしれない。
他に懸念事項があるとすれば、既に酔いがかなり回っている彼女が、ここでの出来事を覚えているかどうかという位か。
「アーン、ムグムグ。まぁ、そこはじっくり考えるがよい。時間はまだもう少しある故な」
紋の方にも摘みを口へと運ぶ。
なんというか、弁慶とは違った意味で雛を幻視してしまう。
紋の言葉にそうだね、とお互い肯き料理と川神水を楽しむ2人。
結果だけを言ってしまえば、この二人は結局組む事になり、チーム名『睡蓮』が出来上がってしまうのだった。
「そういえば、兄上も出られるそうだ」
「へぇー、英雄君も出るんだ」
チームメイトはまだ正式に決めてないようだが準辺りと腕試しを兼ねたリフレッシュとして出るそうで。
あずみさんは当日の忙しさや、兄上自身が他の者と出ることを決めた為、今回は出盤は無い。
肩の具合は不安要素だが、何かあれば即座に己が出張れる状況である為、あずみさんには心配無用と伝えてある。それでも最後まで身を案じていた辺り、流石というかなんというか、従者とは別にした気持ちが伝わってくるその健気さが少し涙ぐましかったのは秘密だ。
「時に紋、尋ね損ねておったのだが……」
「何だノルン?」
「エキシビジョンの一件、この身に報告が到っておらなんだのはやはり紋の?」
「うむ。発案は川神院総代であるがな」
やはり、と思うと同時に湧いてくるこの遣る瀬無さは何だろうか。
稀に見るあの茶目っ気は意外と心身にダメージを与える。
モモとのやり取りなど目では無い位に。年寄りの冷や水だと言いたい。巻き添えに掛けられる側は堪ったものではないが。
「あの人にも困ったものだ」
「案外、KOSの時の意趣返しだったりして……」
「…………否定できぬのがまた何とも言えぬなぁ……」
弁慶の軽口は案外的を得ているのかもしれない。あの戦いも各々大なり小なりそこそこ楽しんでいた思うのだがその辺りと感情は別ものか。
盃が空になっている清楚に川神水を注ぐ。
「コクッ……まぁ、それだけはしゃいだんだし甘んじて受けないとね?」
「うむ、心得ておるとも」
からかい口調と目線の清楚。
KOS関連で清楚に弄られるのは最も耳に痛い。
自業自得ではあるが。然もあらん。
「フハハハ、KOS絡みでは形無しだなノルン」
「いやはや全くだよ……それはそうと川神での人材集め、状況はどうだ?」
何やら横からあからさまな話題そらし、とか言っている気がするが聞こえない。
聞こえないったら聞こえない。
「うむ、この間もよい人材を発掘できた。礼を言うぞノルン」
「正確には大和経由の情報故、2-Fの直江大和に礼をいうのが正しいぞ」
「そっちには既に言ってある」
相変わらずの確りさと行動の速さには感心させられる。
よくできました、と言わんばかりに頭を撫でれば気持ちよさそうに目を細める紋。
「ノルンって撫でるのホント上手いよね」
「うむ、なんというか……こちらへの労りが手から伝わってきて安心感があるな」
「そう、なのか?」
「そうそう。幸福感も湧いてくるんだよね」
首肯と共に力強く語る紋と弁慶。この中では確かに良く頭を撫でる機会が多い2人だが、其処まで気持ち良いものなのだろうか。
基本撫でる側である為、己の撫で方について語られても返しようが無い。
そして、何故だか義経や清楚すら賛同してきた。
其処まで撫でた記憶は無いのだが、と思うが、逆に回数が無いから、だろうか。
(というか、人材集めの話がどうして私の撫で方の話に……)
和気藹々とて語り合う4人。
目の前で繰り広げられるトークを埒もない思考をしながら眺めつつ、盃を煽る。
若獅子タッグマッチトーナメントが発表されたその日の夜はこうして更けていった。