気まぐれ神様の物語 真剣恋Ver.   作:ジーザスルージュ

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2話

「なにしてる?さぁ、はやくたたかおう!」

 

「……なにゆえこうなった?」

 

 思わず素が出てしまったが、そう呟きたくなる。

 生きていれば、往々にして物事の流れと言うモノに乗り損ねるのは往々にしてあるもので車の渋滞とか、その時節の流行だとか、みな誰しも経験はある事だろう。

 今目の前に起きている出来事もそういった類のものだ。

 肉体的にはともかく、主観時間で12億以上も生きていればそんな事も掃いて捨てる程経験はしているもの。

 あぁ、しかし、しかしである。

 だからと言って眼の前のそれを喜んでいるかと言えば、否、と胸を張って言える自信がある。

 例え眼の前に立っているのは(色んな意味で)将来有望そうな少女だとしても恐らく同じ状況に立ちたい等と思う者は稀であろう。居るなら申告しなさい、変わってあげるから。

 で、何ゆえこうなったのかと言う自問自答の解はと言えば―――

 

 

―――――回想―――――

 

 

 

「それよりゆきえさん!またしあい、しましょう!」

 

 実にあっさりと交わした手を離して眼の前の少女は母へと向く。その表情はとても活き活きとしており、見る人が見れば惚れ惚れするほどの顔である。

 体から氣が溢れていなければ、の話だが。

 

「あ、あはは…ごめんねモモちゃん。私はもう前よりは強くないから」

 

「えぇー!しあい、しましょうよ!」

 

「あ、アハハ…」

 

 苦笑いしたくなる母の気持ちはわかる。

 一見して無邪気なおねだりではあるが、溢れて出る氣の量は母のそれを完全に上回っている。幾ら積み重ねた経験と技術があるとはいえ、総量的にここにある4つの大きな力に何れも劣っているともなれば、斯くも相成るは必然。

 母は決して弱くは無い。

 それは日頃から鍛錬をしているこの身が断言する。しかし、ももよと言う少女の素質から見て、力は雑ではあるが、それでも状況如何で母を倒しうると己の直感が訴える。

 そしてこのやり取りから自身の"心眼"が、警鐘をならす。

 曰く面倒事になるぞ、と。

 

「それでね、代わりに今日は相手を用意したの」

 

「かわりのあいて?」

 

「そう。うちの息子をね」

 

「まった!」

 

「なにせこの子は、鍛錬とは言え私を軽くあしらえる程なんですもの」

 

「ほっ!成る程の。モモとの仕合を求めたのはそういうことか」

 

「かろやかなスルーですね。かあさん、ぼくはきいてない」

 

「話してないもの」

 

「かくしんはん!?」

 

「難しい言葉しっとるのう、坊や」

 

「えぇー?こいつがゆきえさんを?とてもそんなふうにはみえないけどなぁ…」

 

「まぁまぁ。戦ってみれば分かるわよモモちゃん」

 

「だから、まった!」

 

「人生に待った無し!」

 

「いみがわからん!」

 

「楽しそうじゃのうお主ら。」

 

 その後も色々と抵抗するものの、なし崩しに準備は整えられた。

 

 

 

―――――回想終了―――――

 

 

 とまぁこんな具合だ。

 幾らなんでもこのレベルと戦うなら事前情報ぐらいは欲しかった。

 母にとってはサプライズを兼ねた日頃の意趣返しと言った所だろう。

 からかい過ぎたかのだろうか。

 しかし、反省も自重もしない。母はからかうと楽しい。

 それに偶には逆の立場でも良いとも思う。ザッツエンターテインメント。

 

「それでは是より川神百代と筱宮ノルンの仕合を執り行う!」

 

 腹に響く裂帛した声。

 さすがは此処、武芸の総本山と謳われているらしい川神院の総代である。

 なんでもかの御老人は武神と謳われていると母は語ってくれた。二次大戦ではアメリカ曰く「彼が10人居れば我々は負けていただろう」とか。

 成程。頷ける話ではあるが考えてもみて欲しい――このクラスが10人ってどんだけかと。

 

「東方、川神百代!」

 

「おう!」

 

 ズンと、一歩を踏み出す。

 彼女の表情は先程とはまた違った笑みを浮かべており、宛ら肉食獣と言った所か。しかし、声と違い気配に覇気を然程感じない。

 眼から察するに、測りかねてるし、侮られてる。そんな所だろうか。

 

「西方、筱宮ノルン!」

 

「はい」

 

 百代とは対照的な静かな歩調で定位置に付く。

 

「おい、ゆきえさんのこどもならカタナをつかうはずだろう?なんで"なにももってないんだ"?」

 

 そう、普段は刀を使うが今は何も持ってない。だが、今はそれでいい《・・・・・》。

 

「ひつようないから。いまのきみには、ね」

 

「――――」

 

 途端、空気が凍る。

 無論、比喩であり彼女の持ち前の氣が膨れ上がり空間に圧力を掛ってそういう風に感じ取っているのだ。

 先程まで浮かべていた攻撃的な笑みは一転、あからさまに怒ってますと言う風な顔。

 傍から見たら微笑ましい光景だろうが、立ち込める氣が有無を言わさぬ空気を醸し出す。一般的な人間なら大人でも竦む迫力が空気を通じて振り掛る。

 

「おもしろい。やってみろ」

 

「むろん、えんりょなく」

 

「それでは、始めぃ!!」

 

 開始の合図と共に構える。しかし双方ともに動かず睨み合ったまま動かない。

 そのまま10秒ぐらい経っただろうか。苛立たしげに彼女は舌打ちを1つ。

 

「おい!なんのまねだ!」

 

「なんのって?」

 

「なんで氣をつかわない!」

 

 武芸者に限らず、人には氣と呼ばれる肉体が持つ生体エネルギー的な力を保有している。

 一般的には他にも精気、あるいは活力と言われるソレは日常に於いてまず使われる事は無い。

 だがしかし、肉体を鍛えて一定レベルにまで至った者にはこの氣と呼ばれるエネルギーを様々な事に利用できる。肉体の活性化に伴う強化は勿論、擦過傷程度ならすぐに直す事も可能だ。

 一定レベルの強さを持つ者にとって氣とは必要不可欠なものであり、強者達の間での一種のステータス。それを今、この身には纏っていない。

 

「いったはずだ、ひつようないと」

 

「っ!バカにして!!」

 

 ドン!音を文字で表すならこんな感じだろうか

 常人ならば視認すら難しい速度で踏み込んでくる。

それを目の当たりにして思う。

 

 素晴らしい、と。

 

 彼女は武に愛された申し子であろう、と。

 

「せいッ!」

 

 気合い一発。

 顔目掛けての正拳突きによる攻撃。同年代どころか成人の大人に当たっても骨の2、3本は持っていくであろうその拳を呼吸を見切って振り出す直前に踏み込み、掌打を打ち込む。

 後の先――――攻撃動作を予測して相手の出掛かりを潰す武術に於ける勝利の為の基本の1つ。

 

「がっ…クッ!」

 

 受けた衝撃を、直後に後ろに飛ぶ事で逃がしてダメージを減らす。

咄嗟にそれだけの事をあの年で無意識にできるのだから、つくづく驚かされる。

 

(これが天才を超えた鬼才と言うものか…こちらが修行始めたての頃で、此処まで動ける事は出来なかったな)

 

 だが、こちらとしてもまだ、才能だけの原石に負ける程度の経験は積んでない。

 

「このッ…!」

 

 即座に体勢を立て直して構える彼女。

 その纏う気配を見て、ちょっと落胆した。本気になるものと思ったが、まだ"変わらない"とは。

 

「これでもまだ、てをぬくか?」

 

「なに!?」

 

「いまのやりとりで、それでもまだほんきになってないよね?きみは」

 

「!」

 

 困惑から驚愕に変わる表情。

 その指摘は間違いなく的を得たものである。

 

「ぼくたちこどもだけど、これはせいしきな"しあい"だよ?なのに、きみはまだ、ぜんりょくでいどんでないなんて―――」

 

―――バカにしてるのはどっちさ?と。

 

「……」

 

 眼前の彼女はそのまま眼を瞑る。そして自身の姿を省みてみた。

 

 ――自身は真剣(マジ)に取り組んでいたか?

 

 ――ちゃんと相手の事を見ていたか?

 

 答えは否だ。

 

 自分は勝負をして居ながら相手を見ておらず、向き合っていなかった。

 ここ最近、自身が戦う相手は何時も決まって一撃で負かしていた。修行僧の中でもそれは変わらず、長く修行を重ねた兄弟子達ですら百代の敵ではなかった。

 師範代の2人や己が祖父は別だが、その別格な師範代すら背中が見え始めている。

 

 怖かったのかも知れない。

 

 何が、と聞かれても自分でも分からないが。

 だが、眼の前の相手はどうだろう――己に一撃を与えた彼ならば。

 

 そう考えたら。

 

「…スマン」

 

 自然とそんな言葉を口にしていた。

 

「どういたしまして」

 

「なんだそりゃ?」

 

「ん~…なんとなく」

 

(ヘンナ奴……)

 

 だが、お陰で眼が覚めた思いだった。深呼吸1つ、呼吸を整える。

 

「ゆくぞッ!」

 

「おうっ!」

 

 さあ、戦いの始まりだ。

 

 

 

 

 それは凄まじいの一言だった。凄まじい以外の言葉が見つからない。

 片や攻めて、片や凌いで。

 少女が攻めて、少年が凌ぐ。

 素人の眼には少女が圧倒しているように見えるだろう。

 だがしかし、それを見守る大人達の中に一般人や素人などいない。此処に居るのは一度は武術に準じた猛者ばかりだ。

 だからこそ圧巻だった。

 

 打つ、流す、打つ、避ける、打つ、防ぐ。

 

 初手のそれとは別人と言える程の動きをし、並みの武芸者なら一蹴に伏すであろう攻撃を実に楽しげな良い笑顔で行う少女の姿が。

 そして、その少女の攻撃を先程と変わらぬ涼しい、しかし楽しげな表情で凌ぐ少年の姿が。

 

「オイオイ、こりゃあスゲェなんてもんじゃねぇな。一体どんな鍛え方したらあぁなるんだ?幸恵」

 

 彼の名を釈迦堂形部。川神院師範代の1人である。

 大凡堅気には見えない人相は、驚愕とも呆れともいえる微妙な表情になっている。はっきり言ってしまえば見れたものではない。

 

「全く同じ意見だヨ。百代の動きが格段に良くなったのは凄まじいガ、あの子の動きも尋常じゃないヨ」

 

 もう一人の師範代である彼の名はイー・ルー。

 緑のジャージを身に纏い、氣の巡りが良いからと何時も一定のポーズを作ったまま行動する彼も思わず体勢を元に戻すほど驚愕している。

 

「なにも」

 

「あぁ?」

 

「どういうことネ?」

 

 2人の問いに息子の方の母である幸恵はアッサリと答える。

 彼女自身、聞かれても困るのだ。本当に何も特別な事をしてないのだから。

 

「どういうも何も、そのまんまよ」

 

「そのまんまって…どんだけだよ、あの餓鬼」

 

 2人そろって驚くばかり。

 当然であろう、強い武芸者にとって氣を使う事はある種の必須事項。その根底を覆す出来事が眼の前に起きれば当然である。

 だが、驚くべき所は其処ではない。気も使わず百代の動きに対応できるカラクリ自体は師範代である2人は直でに見抜いている。

 だからこそ、驚いているのだ。

 

「まだ小学生にも入って無い子ガ、あそこまで見事な身体操術を為せるのカ」

 

 誰よりも直ぐに見抜いたのはルー師範代であった。

 本来の剣術は知らないが、少なくとも無手における彼の動きは八極拳をベースに太極拳を取り入れた独自のモノだとは直ぐに察せる。中国出身である彼には直ぐに分かった事だ。

 

 ならば身体操術とは何か。

 

 簡単な話、"思い通りに体を動かす事"に他ならない。

 太極拳をやっている人々の姿をしっているだろうか。緩やかな速度で体を動かすアレはきちんとした型を緩やかな速度で思い通りに行うにはそれなりの年月費やす。

 太極拳の場合、基本的に一通りをこなせるまで10年は掛るとも言われている。

 ノルンのやっている事はその極とも言えるものである。

 

「体の筋骨だけじゃねぇな。重心の移動もそうだし、下手すると神経の速度まで加速してねえか、あれ?」

 

「あの速度を眼で追った上で躱す時が所々アル。間違いないネ」

 

「息子曰く、他にも思考の速度や並列も可能らしい」

 

「原理は分かるんだけどよ…あんな餓鬼が何であそこまで出来る?スゲェ通り越して気持ち悪ぃぜ」

 

「コラ!釈迦堂!」

 

「良いんだ、ルーさん。釈迦堂さんの言ってる事は正しい」

 

 当然と言えば当然である。

 体を動かす身体操作は才能以上に経験がモノを言う。その極に既に至っている子供が居るなど異質以外でも何でもない。

 

「あの子は多くは語ってくれなかったが、曰く"知っている"んだそうだ」

 

「知っていル?」

 

「ああ。それ以上は語ってくれなかったけど…私になら何時か話せるかもと言ってくれた」

 

「かもかよ…」

 

「茶化すナ、釈迦堂」

 

「ヘイヘイ。にしても良くそこまで入り込めるな」

 

「当然だ。あの子は私とあの御方の子だ。何があっても愛すると決めたの」

 

 そうして大人達は眼の前の仕合を見守る。

 

 

 

(あぁ、此度の転生は本当に恵まれておる)

 

 先程まで大人達の会話を聞いていた。

 盗み聞きではない。五感が鋭いだけだ。ないったら無い。

 運に恵まれていないのは自覚している。だからこそ、こういう降って湧いた幸運はとてもつもなく嬉しい。

 

「そらっ!」

 

「おっと」

 

 それはさておき、だ。

 ホントに先程と同一のものかと見紛うほどの動きを見せる百代。

 本気になってもらう為に発破をかけたとはいえ、言葉一つで此処まで変わるとは、素晴らしいを通り越して凄まじい。

 なにやら今回凄まじいばかり使ってる気がするが、気のせいにしておく。

 

「たのしそうだね」

 

「はは!たのしいぞ、すごくたのしい。おまえはちがうのか?」

 

「や、たのしいけど、だんだんつかれてきた」

 

「オイオイなんだよー、ノリわるいぞ。ってか、いきはおろかあせ一つかいてないやつがつかれたとかいうな」

 

「じゃあ、メンドイ」

 

「メンドイ!?」

 

「じょーだんだよ」

 

「どこまでだよッ! おまえのそういうとこホントはらたつなぁー」

 

 軽口を叩きながら笑いあう。

 正しく愉快なひと時だったと言える。しかし、面倒に成ってきたのも事実。

なので

 

「そろそろおわらせよう。かわかみさん」

 

「つれないなぁ、なまえでよべよー。わたしもおまえのことはなまえでよぶからさ」

 

「わかった、モモってよぶことにするよ」

 

「あぁ。でも、おわらせるなんてもったいないぞ。わたしはまだやりあいたい」

 

「きょうがおわってもまたつぎがあるさ」

 

「つぎ…」

 

「そう、つぎ。まだケンジュツをみせてないからね。つぎはカタナでやろう。こぶしとおなじくらいつよいから」

 

「ははッ。それは楽しみだな、うん…じゃあ、かたせてもらうぞノルン!」

 

「それはこっちのセリフ。やっとホンキでいどめるというものだ」

 

「なんだよ…?あれだけひとにいっておいてじぶんはぜんりょくじゃなかったのか?」

 

 再び剣呑な雰囲気になってゆく道場。

今のは言い方が悪かった。

 

「いやいや、ぜんりょくだったよ。ただ、ももよちゃんのちからをみてみたかったから、ださないんじゃなくて、だせなかった、がただしいかな?」

 

「だせない?」

 

「うけてみればわかるさ。では、参る」

 

 そういって己の精神を研ぎ澄ます。と同時にスゥ…っと身体が消えてゆき、完全に透明になる。

 

「消えた!? どこにッ!?」

 

 辺りを見渡してみても、気配を探ってみても見つからない。

 それは圏境と呼ばれる技術の極。ノルンの場合は持ち前の高い精神制御、明鏡止水の果てに成し遂げたものである。

 自らを天地に溶け込ませることで自己の透明化を可能にし、同レベルの圏境で無ければ察知は極めて困難だ。

 警戒しながらも首を右往左往させて此方を探しているモモの腹部に左腕掌打一発。

 八極拳は金剛八式の1つ、川掌。

 

「あっ…がッ…!」

 

「わがちから、ぶをまじえず。ごめんねモモ、わたしのかちだ」

 

 そのまま昏倒するモモを抱きとめ、床との激突を予防する。

 

「それまで!勝者、筱宮ノルン!」

 

 一礼をして、抱き抱えたモモを彼女の祖父に渡す。

 

(む?なんじゃ、かなりのダメージがあると思ったのじゃが…何処にも目立った怪我がないぞい?

どうなっとるんじゃ)

 

 武神が己の孫娘の状態に困惑するのよそに、川神百代との戦いを終えて要約を息を付く。

 

 

(ところで、ワシの出番少なくね?)

 

 

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