気まぐれ神様の物語 真剣恋Ver.   作:ジーザスルージュ

50 / 71
47話

 若獅子タッグマッチトーナメントの発表からの一週間、世界は大きく動いた。

 具体的にはパートナー探しで。

 世界各国から25歳以下の参加者を募ったこの大会はペアで闘う事が義務付けられている。

 一度登録申請をしたらその後変更は出来ないとあって、ペアの選出は慎重を要したのだ。

 それは此処川神学園でも例外では無く、参加を望むモノはやはり各々の信じられる相方を探していた。

 中でも有力なチームを上げれば

 

 ――――源義経&那須与一の源氏組。

 

 ――――武蔵坊弁慶&葉桜清楚の睡蓮。

 

 ――――松永燕&直江大和の知性チーム。

 

 ――――黛由紀江&武蔵小杉のザ・プレミアムズ。

 

 等々である。

 このチームの組み方に土地や性別の制限は無い。

 その為、風間翔一や島津岳人等は天神館は西方十勇士の面々と独自のコネクションを使って組んだりもしている。

 かつての敵は今日の友。出るからには優勝あるのみと息巻いて手を組み、大会に臨む。

 

 また、大会が始まるまでの間は特に制限も設けていない。

 何が言いたいかといえば、一部の選手たちが有力な選手、特に外国人選手等を標的にした闇討ちが行われていたりもしている。

 その辺りの後処理は九鬼がスポンサーについている為、その名に泥が塗られないようにと奔走。

 闇討ちが卑怯という者もいるかもしれないが、そもそも警戒心を持たずにいる事自体が油断以外の何物でもない。

 よって、同情の余地は何処にも無いのだ。 

 

 富、名声、研鑽、様々な思惑が交錯する中、来るエックスデー――――8月16日を迎える。

 

 

 

 

 

 

 炎天下の七浜スタジアム。

 若獅子タッグマッチトーナメントを一目見ようと世界各国津々浦々から多くの人々が集まった。

 TVでの一例には北は青森や北海道、南には熊本や沖縄など全国広しだ。

 

 開催する1時間前から、既に観客席は満員御礼。それどころか立ち見で見ようとする者もいる始末。

 熱中症には気を付けて欲しいモノだ。

 そうでなくても人口密度と大会が開幕してから人々の熱気で会場の温度は急上昇中。

 ムアッとする。

 

 その若獅子タッグマッチトーナメントも予想通りといえば予想通りか、参加者が数多く募ったが為に予選を今日行い、明日本選が行われる日程となった。

 予選から既に燃えに燃えまくっている会場はヒートアップの真っ只中。

 ギアを上げ過ぎである。

 

 そんな熱気が支配する会場で何をやっているかといえば――――

 

「始まりました若獅子タッグマッチトーナメント!! 予選の実況は川神TVアナウンサー稲田堤が試合の模様をお送りしております。そして、解説役として武神、川神百代さん――――」

 

「はいよろしくー。差し入れは遠慮なく」

 

「もう一人はKOSの勝者の1人である九鬼ノルンさん」

 

「宜しくお願いします。選手観客、共に熱中症には気を付ける様に」

 

 実況席でモモと共に解説役などをやっていたり。

 観客やTV向けとして元々企画されていたそうで、こうしてこの役を担っている。

 試合は順調に消化され、今現在第23試合が終わったところ。

 チラリ、とモモの顔を盗み見てみれば、純粋に試合の光景を眺めて楽しんでいる様子。最初、隣に座る事になった時に一瞬で熱中症になったのかという位に顔を赤らめて動揺していたが、今はその影もない。

 内心安堵しながら試合に意識を向けた。

 

 九鬼家従者部隊、小十郎&ステイシーのワイルドタイガースの試合は銃器使いの暑苦しい兄弟をステイシーが服を脱ぎ捨て、水着姿で隠し持っていたマシンガンで薙ぎ払って勝利、本戦進出となった。

 

「やはりこの大会といえど、銃器の類は強いですね!」

 

「はい。ただ、この大会にはマスタークラスの参加者もチラホラ窺えます。銃器を用いて勝った者達は弾が当たればそれで終わりとは努思わなぬよう。あの者たちは下手をすらば急所に実弾が当たろうがケロリとしますので」

 

「な、成程。勝って兜のを締めよという訳ですね!」

 

 リング四方には観客の安全を守り、かつ不正の監視といて川神院総代の鉄心殿、川神院現師範代のルー師範代、元師範代の釈迦堂さん、鉄心殿の高弟にして天神館館長の鍋島正が配置して成り行きを見守っている。

 観客の安全を考慮しているのだろう。しかし正直、選手以上におっかない。

 

 試合は順調に消化されていき、松永先輩と大和のチームだ。開始の合図と共に目にも留まらぬ速度で相手に接近した松永先輩。

 相手は対応はおろか全く認識できていない。

 惚れ惚れするぐらいにキレイに急所に手刀が入り、昏倒する相手選手達。

 片方で済むのを2人倒したのはパフォーマンスの類だろうか。

 

 傍からは気付けば既に選手が瞬殺されているようにみえただろう。実況の稲田さんも目を白黒させており、何が起きたか分かっていない。

 すかさずモモがVTRを出させ、指定のところでスロー再生をし、一連の動作を説明する。

 

「す、凄まじいまでの速技! 電光石火とはまさにこの事かーッ!!」

 

「呵々、なかなかどうしてやりおるな、松永先輩」

 

「あぁ、燕が此処まで動けるとはな」

 

 モモから彼女が川神院で稽古をしているとは耳にしていたが、モモ自身が驚いているとなるとあそこまでの動きを見た事が無かった様だ。

 何処までも冷静に、冷徹に、モモの目はカラカラと笑う松永先輩に向いている。

 

(やはり、何某かの思惑ありきか? 然りとて邪念は感じず……なれば今は静観あるのみだ)

 

 

 

 試合はその後もどんどん消化されていく。

 この予選は本選出場枠である16チームまで間引く為のもの。

 各々の3回を多くの者が鎬を削って武勇を繰り広げる。

 唯、中には――――

 

「相手チームが体調不良のため試合に出れず、よって無敵童貞チーム本戦出場決定!! しかし、このチームは全て不戦勝で終わっているぞ、チーム名はアレですが強運を持ったチームです!」

 

「そうですねー、運が強すぎてどこか作為的なモノを感じますねー」

 

(鉢屋がおる以上、十中八九何ぞ仕掛けたのであろうな。尤も、奇策奇襲を撥ね退けられぬ様な輩はどの道本選に出られる道理もあるまいて)

 

 続いては板垣亜巳&クッキー2のアーミー&ドッグ。

 相手は銃器使いの兄弟らしい。

 

「さて、注目すべきはクッキー選手。全身紫の金属体で覆われているぞ!」

 

「クッキー選手は我が九鬼が制作したロボです。リスペクト元はここ七浜で個人が作った両の掌に乗るサイズのロボットだったそうで、ダウンサイジングが出来ない分多種多様の変形が可能だとか。戦闘も確とこなせまする」

 

「そういや、ノルンってクッキーを見るのって……」

 

「うむ、初めてだな」

 

 試合開始直後、両手持ちの機関銃での銃撃。

 しかし無数の弾丸の雨霰を受けて尚、板垣亜巳は棒を回し見事に捌いていく。クッキーの場合はそもそも専用の模擬弾頭のため、銃撃が装甲に弾かれ空しく落ちていく。

 哀愁漂う光景だ。

 

 銃撃を我関せずと言わんばかりに突撃したクッキーはそのまま手に持ったレーザーブレードをロボットにしては凄まじい速度で一閃。

 文字通り、光りが軌跡を描き斬撃は寸分違わず相手に命中。そのまま倒し切った。

 これで3戦目のアーミー&ドッグは本選出場が確定。

 

「此度の戦いは一部相性でしたが、板垣選手を見る様に、改めてこの大会は一般的な常識は殆ど通用せぬと思うた方が良いでしょう。銃器のみで勝てる程甘くはありませぬ」

 

「確かに、あの姉ちゃんの棒術は中々だった」

 

「成程、やはりこの大会は一筋縄では行きませんね」

 

 ところで、亜巳とアーミーはもしかしなくても狙っているのだろうか。

 閑話休題。

 

 

 

 続いては兄上と準のフラッシュエンペラーズとカラテカ2人組。先程から片方のチーム名を記してないのは仕様だ。

 カラテカ側の練達を見ると、そこそこではあるが正直微妙以外のなんでもない。

 ところで、フラッシュエンペラーズのフラッシュの意味は――――いや、皆まで露わにする事もないか。

 

「続きまして登場しました今大会スポンサーでもある九鬼財閥の嫡子、九鬼英雄選手!名前から察するにご家族ですか?」

 

「如何にも、我が兄です。兄上には大変仲よくして貰っております故、個人的に言えば是非とも勝って欲しいところ」

 

「オイオイ、解説は公平にな」

 

「心得ておる」

 

「試合開始しましたッ」

 

 先攻はカラテカ側。

 合図と共に飛び蹴りを放つ。助走を付けた型通りの綺麗な蹴りと言えよう。

 だがしかし、如何せん熟練度が違う。

 護身術程度の域ではあるが、兄上の中国武術はその辺りの俄か程度は一蹴できる実力を有している。

 飛び蹴りを、同じく蹴りで応酬し、見事返り打ち。相手を勢いよく吹き飛ばす。

 

 準の方も、女性のカラテカの正拳突きを紙一重に躱し、肩にカウンターブロー。

 動きからしてボクシングの類だろうか。

 普段ロリコンの弄られキャラとして定着しているが、その実彼も才能豊かである。ただ、天性の補佐気質からか一切目立たないだけで。

 カラテカコンビを鎧袖一触で捩じ伏せ、本戦進出を果たす。

 

「いやー、ノルンさん。見事お兄さんが勝利を収め、本戦進出ですね」

 

「はい、個人的にとても喜ばしく、兄上や準には称賛と労いの言葉を送りたく。試合の方ですが身内贔屓抜きでこの試合、単純に熟練度の差が顕著に出た試合でした」

 

「ノルンの言うとおりですねー、決してスポンサーだからといって八百長の類では無い事はリングのマスタークラスの面々や私が保証しますよー。負けたカラテカの方々は今以上に修練に励む事を期待します」

 

 フォローしてくれたモモに小声とジェスチャーで礼を告げ、次の試合に目を向ける。

 

 

 

 次は今大会の目玉の一つである義経&与一の源氏組。対する相手はアルゼンチンの格闘家、太陽の子の異名を持つメッシのチームだ。

 

「さぁ、いよいよ義経達の3戦目、相手は太陽の子の異名を持つアルゼンチンの格闘家メッシがいます! 優勝候補同士だけに目が離せません!」

 

「面白くなりそうだな!」

 

 メッシの実力は相応に高い。位で言えば丁度壁の目の前から上の手前といったところか。

 観客もモモも期待しているようだ。

 

「……果たしてどうであろうな? 存外、アッサリ決着が着くと私は思うぞ」

 

「そうか?」

 

「まぁ、結果は自ずと出よう」

 

 油断なく構えるメッシと、与一の隣で瞑目して動かない義経。

 試合の合図が告げられ、義経は鞘から抜刀し、一閃。倒れ込むメッシ。

 

「こ、これはどういうことだッ!? 太陽の子メッシ、突然倒れたーッ!? 状況からして義経選手が斬ったものと思われますが……」

 

 VTRで確認、スロー再生をしても何をしているのかは分からない、といった具合。

 周囲には辛うじて居合いの様な攻撃方法だという事は理解できるだろう。

 だがその間合いはどうみても刀では届く筈の無い遠間から抜き放たれており、映像からは届いている様には見えない。

 しかし、この場にいる己やモモには違う。

 先に口を開いたのはモモだった。

 

「こうしてみると、改めてお前の技の悪辣さが窺えるな。弧月、じゃないな、霞月か?」

 

「然り。なれど悪辣などと……せめて実戦的と言って欲しいぞ」

 

「ど、どういうことでしょうか!? お二人には分かっているみたいですが……」

 

 技の説明に入る。といっても簡潔にだが。

 古式遠当て。氣を相手にぶつけるのが近代的な遠当てなら、打点と力点を制御するのが古式の遠当てだと語る。

 

「義経が為したのは、打点と力点を分散させて一度に多方向から斬りつける技だ」

 

「しかも、氣と違って打点と力点、即ち打ち込む角度と力が加わる角度を制御してるだけだから氣による探知はできないし、斬撃の軌跡も見えやしない。私がこの技を悪辣だといったのは主にこの辺りだな」

 

 だから、悪辣では無く実戦的といって欲しい。

 言わんとしている事は理解できても、だ。

 

「それにしても、随分と使いこなしてるみたいだな義経ちゃん」

 

「うむ、些か以上に驚いておる」

 

 その動きのキレにも。

 太刀を振るう前から太刀を振った後までの動作には一切の無駄が存在しなかった。

 これでもかという位に洗練されたあの動きは素人目には抜いた事すら見えなかっただろう。

 此処までの動きは少なくともKOS以前は出来なかった事である。

 その分、やはり原因も恐らく其処か。正直にいえば、今の義経は凄まじいの一言だ。

 

「何はともあれ義経達もこれで本戦進出だな」

 

「友として喜ばしい事この上ない」

 

 先程から与一の出番が無いのは残念だが、闘う相手は全て義経が鎧袖一触に伏せている以上出盤の出しようが無いのも事実。

 本選に期待するとしよう。

 

 

 

 続く試合も武士道プランの申し子達の出番。

 弁慶と清楚の睡蓮。対するは西方十勇士の総大将と右腕のコンビ。

 これもまた注目なカードだけに観客の目も先程のものに負けず劣らず釘付けである。

 

 試合開始の合図が告げられた。だが目立った動きは無い

 お互い見合ったまま、しかし徐々に距離を詰めていく。

 

「両チームお互い見合ったまま動かなーい! 間合いを見計らっているのか、徐々に徐々に近付くも目立った動きはありません!」

 

 続く膠着状態。

 鍛えられているとはいえ、じっとしているだけで体力が奪われていく猛暑の中ではこの状態も少し辛いモノ。

 しかし、その膠着もあっさりと崩れさる。

 最初に弁慶が動いた。目標は島右近。踏み込んできた弁慶に槍で応酬する島。

 だが、それは蜘蛛の巣の罠も同然。突き出してきた槍を掴み、担い手である島ごと持ち上げリング外へと放った。

 その豪快なやり方に驚愕で染められる会場。

 投げられた島はダメージこそ微々たるものだがリングから大きく離れた場所に落とされた為に完全に分断されてしまっている。

 にも拘らずもう一方の石田は警戒する様子もなく、あろうことかその場で精神を集中し出した。

 

「あぁ、終わったなーこれは」

 

「うむ、状況も鑑みずに敵に近い位置で力を溜めるなぞ自殺行為も同然だ」

 

 言葉通りに死地で力を溜めたものの末路は、遠間から清楚に足を払われ、体勢を崩した所に弁慶の拳が腹目掛けて叩きこまれる。

 轟音と共にリングに大穴をあけ、石田は敢え無くダウン。

 注目カードだった筈だが終わってみればメッシの時並みに呆気なく決着が着き、本選進出を果たした睡蓮。

 それでも観客としては目の間の光景に拍手と歓声が上がっている辺り染まってるな、と思わなくは無い。

 

「き、決まったー!! もの凄い力強さです! 殴られた場所から大きく広がった地割れと大穴がその威力を物語っているー!!」

 

「石田選手は開始前に光龍覚醒をしておれば今少し流れは異なったやも知れませぬ。油断大敵とはまさにこの事」

 

「意外と辛口だよな、お前。というか清楚ちゃんが使ったのって弧月か……KOSでも思ったけど凄い動けるよな清楚ちゃん」

 

「うむ、まぁ元が元だけに、な」

 

「流石は西楚の覇王、ってか。それでも上品さを絶やさない清楚ちゃんマジ清楚!」

 

「大概ブレぬな、其方(そなた)も」

 

 モモの言葉に、会場の極一部から大声で同じ様な言葉が上がる。どんだけなのかと。

 稲田さんはそれらをスルーして清楚が使った技の解説を求めてきたので、義経と基本的に同じで、今のは打点と力点、即ち攻撃する場所と角度を伸ばしたと説明。

 成程、と感心する稲田さん。というか、この順応力の高さは何なのだろう。個性か、はたまた川神だから、で片づけるべきか悩み所だ。

 そんな解説のグダグダなんかしったことじゃねぇよと言わんばかりに試合は進む。

 

 

 

 次は板垣辰子&板垣天使の天龍コンビ。名字からして板垣亜巳もひっくるめて姉妹だろうか。

 ちなみに、天使と書いて『エンジェル』と読む。付けられた側は堪ったものではないだろう、実況で呼ばれる度に"てんでいい!"という雄叫びをあげている辺り、如実に物語っている。

 

 相手は何やらヨーヨーを持ったおっさんと小太刀を持った青年。

 ヨーヨーが武器というのもなかなかアレだが、板垣天使のゴルフクラブもユニークだ。

 しかもユニークな武器同士が相争っているというのもまた面白い。

 

「さぁ、異色な武器を使う者同士の戦い、解説のお二人はどうみますか」

 

「まぁ、強さ的に言えばゴルフクラブの方だろう。あからさまに動きのキレが違う」

 

「また武器の観点からしてもヨーヨーは遠くまで届くものの、攻撃範囲がヨーヨーの本体だけにどうしても有効範囲が狭いです。身体能力からして板垣天使さんの方が勝っております故、飛来するヨーヨーを弾くはおろか、叩き返しそうですね」

 

 なんて言っていたら本当に飛んできたヨーヨーをジャストミート。跳ね返されたヨーヨーはそのまま相手の選手の頭に命中し、昏倒。

 言っては何だが何がしたかったのか不明である。

 何はともあれこれで天龍コンビの本選進出が決定した。

 

「本当に解説が行った結果となりました!! 何がやりたかったんだヨーヨー使いの人! いいとこ無しで終わってしまいました!!」

 

「にしても、あっちの青髪の方、なかなかの逸材だな」

 

「うむ、荒削りではあるが、育てらばモモといい勝負をするやもしれぬな」

 

 あの板垣辰子という女性の潜在能力は高い。鍛えれば武道四天王の領域に到れると確信できる程に。

 ただ、遠目から見ても分かるほんわかとして空気からしてあまり武道に熱は入っていないと見受けた。

 というか、釈迦堂さんと気さくに話している辺り、彼が鍛えたのだろうか。

 

(ふむ、闘争を何よりも望まれておったあの人が、変われば変わるものだ……)

 

 

 

 川神一子と源忠勝のチャレンジャーズ。他の勢力と比較すれば特色して目見張るところは無い。

 だがしかし、幼馴染にして妹分、モモに到っては妹そのものなだけあって個人的には注視したくなる試合だ。

 

「相手は銃やナイフを使う軍人か。一子なら大丈夫と思うが……頑張れ妹!」

 

「気持ちはおおいに賛同できるが、モモ……其方(そなた)先刻私に何と申したか覚えておるか?」

 

「サバイバーズ、開始と同時に銃撃で相手を寄せ付けない! チャレンジャーズは薙刀と素手だけあってやはり銃器相手では不利かー!?」

 

「落ち着いて行けよ、妹」

 

「呵々、綺麗なスルーだな。まぁ、良いが」

 

 試合は実況の通り、サバイバーズの弾幕があってワン子たちは迂闊に近付く事が出来ない。

 動きからして軍隊や自衛隊よりも、名前が示す通りサバイバルゲームなどの趣味が昂じたものだろう。

 銃の扱いは上手いが足腰の鍛え方が軍のそれと違って頼り無い印象を受ける。

 

 薙刀を捌き、後ろにいる男子――源君だったか――を守るワン子。

 専用の模擬弾とはいえ当たれば相応に痛い。2人分の弾の嵐を必死に防いでいる。

 

「以前状況はサバイバーズが優勢! やはり、銃器の類は基本的に高い水準を誇ります!」

 

「はい。ただ、サバイバーズは開幕から弾を討ち続け、交互に入れ替わり弾幕を絶やしておりませぬが1試合ごとに所有できる弾の量には限りがあります。一子選手も上手く防いでおるので勝負の分かれ目は弾が着きた後かと」

 

「落ちつけよー、そのまま、そのままだぞーワン子」

 

「仕事をせよ、モモ」

 

 徐々にリングの橋へ追い込まれていくチャレンジャーズ。弾幕を絶やさない相手は見事だが、決定打にいたらない。

 ひょっとすると相手の狙いは弾幕を生かした場外アウトのかも知れない。時間と共に少しずつ表情が険しくなっていくサバイバーズからしてあながち的外れではない筈。

 険しくなるのも当然といえば当然。

 感覚からしてそろそろ弾切れの筈だ。

 

 鳴り響いていた銃声がピタリと止む。

 それを隙と見なしたのだろう、ワン子は溜めていた力を爆発させる。速度重視型の戦闘スタイルに相応しい突撃は相手の懐までワン子を届かせた。

 振るわれる薙刀。

 川神流 大車輪と呼ばれる技――――薙刀の刃は白い弧を描き、吸い込まれる様にして相手の身体に叩きこまれる。そのままリング外まで吹き飛ばされ気絶した。

 

「決まったぁーーーーッ!! 序盤で押されていたチャレンジャーズでしたが、最後まで勝機を捨てず耐えた粘り勝ち! カウンターも実に見事でしたね」

 

「えぇ、最後の技は贔屓無しに良い一撃と言えましょう。また、友としても称賛と労いの言葉をチャレンジャーズに贈りたい」

 

「よっしゃあーーー!! 本選進出、おめでとう妹よッ!」

 

「だから、仕事をせよと申すにこの姉バカはッ」

 

 ワン子もワン子で手を振って答えるものだから収まりが着かない。

 是非も無し。

 

 

 

 次の試合は色々な意味で異色だった。

 全身をスッポリと覆うマントに身を包み、性別すら判別が着かない2人組。

 チーム名、ミステリータッグ。

 

 まさしく狙い澄ましたかの様なネーミングセンスには二の句が出ない。加えて1戦目、2戦目、共に凄まじい動きで圧勝しているだけあって注目の的ではあった。

 下馬評では今大会一番のダークホースとか。

 

 駄菓子菓子―――

 

(何をしておるのだろうな、あの御二人……)

 

 正直こちらからしてみれば、氣を用いらなくとも見覚えのあり過ぎる動きは誰かと特定するまでもない。

 しかし、空気を読んで此処ではあえて語るまい。

 

「さぁ、これまで凄まじい動きで相手を圧倒してきたミステリータッグッ! 一体その正体は何者なんだー!?」

 

「なぁ、ノルン……アレって」

 

「皆まで申すな。お約束というのも斯様な所では必要であろう?」

 

「分からなくは無いけどなぁ……」

 

 微妙な顔も肯ける。

 何か思惑ありきだろうし、その思惑も察せない事も無い。なので、基本は放置である。

 画面端――――では無くリングまで飛ばされた相手選手をみて、感じるこの遣る瀬無さをどうしてくれよう。

 

「ミステリータッグ、本選進出です!!」

 

 実況の稲田さんのスルースキルがグングン上昇中。凄い成長だ。

 然もあらん。

 

 

 ――――――――――――

 

 ―――――――――

 

 ―――――――

 

 ――――

 

 ――

 

 試合も流れに流れ、本選進出枠も残すところ後1つ。

 他にも猛者達が戦いを繰り広げ、本選進出を勝ちとっていった。

 

 火達磨になりながらもペアの絆を信じて勝利をもぎ取った島津岳人と長宗我部宗男の400万パワーズ。

 

 武闘家として名家であるためか、相方が雑な動きだが確りと本選進出を果たした黛由紀江と武蔵小杉のザ・プレミアムズ。

 

 KOSから再び参戦し、アメリカの軍事力が伊達では無いとしらしめられる動きを見せたワンとツーのワン&ツー。

 

 特攻野郎よろしくな戦術、持ち前の強運と相方の火力を最大限に生かした風間翔一と大友焔のファイアーストーム。

 

 軍人の家系らしく、スマートに本選進出を果たした軍人とその上司の娘のドイツ人コンビ、クリスティアーネ・フリードリヒとマルギッテ・エーデルバッハの大江戸シスターズ。

 

 色々な意味でムラッ気を見せつつも、何だかんだで軽やかに勝利を掴んだ榊原小雪と不死川心のKKインパルス。

 

 どれもが夏の暑さに負けない熱い戦いだった。

 筈のだが――――

 

何故(なにゆえ)であろうな? 本選進出を果たした筈のチームの戦いが一部思い出せぬのは」

 

「まあ、気にするな。気にしたら負けだろうさ」

 

 多大に釈然としないモノを感じつつも、最後の試合へと視線を向ける。

 

「さぁ、予選枠も残すところ最後の1組です!! 果たして勝利を手にし、本選進出を果たすのはどちらのチームか!?」

 

 最後に闘うのは大和と松永先輩の知性チームと西方十勇士で固めた宇喜多秀美と尼子晴の凸凹マシンガンズ。

 後者は名前の通り、縦も横もまさしくデコボコだ。純粋なパワータイプとスピードタイプの組み合わせ。

 正直足並み揃えるのは難しい気がするが、其処をなんとかしてみせるのもこのタッグマッチの醍醐味と言える。

 

 試合開始の合図と共に松永先輩に突撃する宇喜多。怪力自慢なのは東西交流戦でもそして各試合でも大槌を振るった事から周知である。

 力一杯に振るわれた槌は会場を大きく揺らす。

 その振動だけなら弁慶達と良い勝負が出来そうだ。

 

 宇喜多は振り下ろしたハンマーが命中したと疑っていないようだ。余裕の笑みは判定も出ていないのに勝利を確信している事を窺えさせる。

 

 ――――どれだけその認識が駄々甘かもしらずに。

 

 死角から頭上に跳び上がり、そのまま宇喜多の頭部にヒラリと軽やかに乗る松永先輩。

 慌てる様に尼子が警告を発するが時既に遅し。

 頭上から降りると同時に、後頭部へ疾風の様な鋭い蹴りが命中し、宇喜多は地に伏せた。

 

「決まったぁーーー!! 何処が知性なのかと疑いたくなる軽やかな身のこなしは、まさにその名と同じ飛燕の如く!! 試合の全てを実質1人で片付けている、その者の名は松永燕、松永です!!」

 

「まさしく見事な体術だな。ここまで動けるとは驚きだ」

 

「うむ、まさしく見事以外に言いようのない動きでありました。ただ、やはり敗北した西方十勇士の方々にはどこか慢心や自信過剰が窺えたのが残念でなりませぬ」

 

「本当に辛口だな」

 

 純然な事実である。

 最後の一枠に知性チームが入り、これで本選で戦う16チームが揃った。

 

「明日の本選開戦時間も本日と同じ様になっておりますの観客の皆さまは事前に余裕を持った行動をお願いします! それでは、KOS予選、川神TVアナウンサー稲田堤がお送りしました」

 

「明日の本選も私達解説役は引き続き受け持つぞ」

 

「尚、明日も炎天下が予想されます故、観客の皆々様はどうか暑さ対策への備えを怠らぬよう願います」

 

 こうして若獅子タッグマッチトーナメント予選は幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 怒涛の拳の連打。それを手刀で軽やかに捌く。

 相手は拳の一発をフェイントに使い、蹴りを脇腹に叩きこむ。

 しかし、これも腕で防御。

 密着状態から寸勁で吹き飛ばし、遠間から拳を振りかぶる。吹き飛ばされた相手も同じ様に。

 

「破ッ」

 

「無双正拳突き・空破!」

 

 軽い、しかし腹に良く通る衝突音が虚空で木霊する。弧月同士のぶつかり合いによるものだ。

 相対する2人は全く同時に距離を詰めて、至近距離から拳打での応酬を繰り返す。

 正拳をいなし、掌打を躱し、裏拳をしゃがんで避けて、肘鉄を払う。

 目にも留まらぬ、息も吐かせない攻防を繰り広げる2人の表情は、やっている状況に反して穏やかそのもの。

 何故なら、2人にとってこの程度のやり取りはじゃれているにも同じだから。

 

 此処は川神院の修行場。

 予選が終わり、解説の役目を終えて返ろうとしたところに

 

「ちょっと、付き合えよノルン」

 

 と、誘われて此処まで来た次第。何故呼ばれたのかは目に見えて分かっていた為、義経達に先に帰るよう伝えてこうして付き合っている。

 予選が終わってまで何故こんな事をしているかと問われれば――――単純な話、モモが試合の熱気に充てられたから。

 

 それを直ぐに察したからこそ、今現在組手とも付かない鍛錬でじゃれ合っているのだ。

 己もまた大会で思う所が無い訳では無かったのだ。

 主に義経とか。

 

「楽しいなぁ! 楽しみだなぁ!」

 

「まことに愉快そうであるな」

 

 楽しそうに、拳を振るうモモ。その顔はハッキリと喜色を湛えており、輝かしいことこの上ない。

 些か以上に獰猛だが。

 

「勿論だ。あれだけの猛者達が鎬を削り、勝って優勝した者が自分に挑んでくるかもしれないと思ったらワクワクするだろう!?」

 

「戦闘狂め」

 

 カラカラ、と笑い合う。

 挑戦者を選り好みし、己が側にいる事で余裕を取り戻したのか一年前の不安定さは無くなったモモ。

 相も変わらずこちらへの依存は変わりないのだが。

 それでも周りに関心が無い訳では無く、今回みたく猛者達の戦いを見て闘争心を疼かせたり、それを宥めようとしたり、と充分欲求に忠実だ。

 

 戦闘自体を楽しむという意味では戦闘狂気質に理解は示せないがそれでも猛者達の潜在能力や才能が花開くところを直に感じられるという意味では確かに楽しみではある。

 だからこそ、今のモモの心情は良く分かるというもの。

 加えて、己の周りに集まる女性たちは高確率で戦闘狂な気質を持っているので慣れたといえば慣れたものだ。

 

「あぁー……はやく明日が来ないかなー?」

 

「ま、こちらとて楽しみなのは同じ事。然れど、モモ? 最初の様な時の動揺は御免蒙るぞ?」

 

「さい……しょッ――――――!?」

 

 途端に動きを停止して顔を赤らめてしまうモモ。

 こんな時にすら同じ様な状態に陥ってしまう彼女の様子が何故だかツボにきてしまった。

 

「呵々、クハハハハッ。なかなかどうして可愛いな、モモは」

 

「かッわ!?」

 

「然様な乙女な所が特に、な。青春しておるなぁ……其方(そなた)も」

 

「な、なんだよ!? からかうな!」

 

「すまぬ、すまぬ。然りとて、可愛いと申したのに嘘偽りあらぬ本心だがな」

 

「!?!?!?」

 

 呵呵大笑。

 

 更に顔を赤らめ完全にパニック状態のモモの様子が心底こちらのツボを刺激して仕方が無い。

 一頻りじゃれ合い、時間も時間なので場を貸してくれた鉄心殿に礼を言って川神院を後にした。

 ちなみに、モモは最後まで止まったままだったと追記しておこう。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。