気まぐれ神様の物語 真剣恋Ver.   作:ジーザスルージュ

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48話

 明くる8月は17日。

 前日と同じか、それ以上の猛暑日となったここ神奈川県七浜市。若獅子タッグマッチトーナメントの会場は真夏の日差しに負けない位に熱く、熱く燃えていた。

 今日を行われるのは予選を勝ち抜き選りすぐられた16チームによる本選だ。

 

 世界が注目するこの大会を見ようと遥々世界から人々が集まっている。

 平日にも関わらず、だ。

 夏休みとはいえ、それは子供に限った話。

 大人達に盂蘭盆会、俗に言うお盆の休みはとうに過ぎているのに、会場である七浜スタジアムは予選の時以上に観客で溢れかえっている。

 

 仕事はどうした。

 

 最早ムアッとなんて目じゃない暑さの中、本選は始まる。

 猛暑日の中、始まる前から超満員の客席。

 武舞台の中央にはガイゼル髭の似合うダンディな執事服の男性がマイクを持って開幕を告げた。

 

 ――――歓声がスタジアムを震わせる。

 

 世界が揺れているかと錯覚してしまう様相は人のカルチャーがショックしかねない程だ。

 TV越しに見ているものにすらこの震えは伝っているだろう。

 

「私、ここ七浜で執事をしている田尻耕と申します。地元ゆえのゲストということで、本選の実況をさせていただく事になりました」

 

 本来彼は世界的に有名な久音寺家の執事長努めているお人だ。其処の末の妹が姉、九鬼揚羽と高校の友人であり、その繋がりと伝手で、当人が言った通り実況の担当お願いした次第。

 また、あずみやステイシーの傭兵時代の上司であり、小十郎も姉上の付き添いで赴いた際、お世話になったとか。

 

「解説は予選に続き、みんなのアイドル川神百代と――――」

 

「その相棒らしい?九鬼ノルンでお送り致す」

 

 おい、なんで疑問形なんだ――と言ってきているがスルーだ。

 そもそも、相棒という点は深く考えると未だに腑に落ちない。面倒一方的に押しつけるのは果たして相棒と言っていいのだろうか。

 頼られるのは嫌いでは無いので別段、不備は無いのだけども。

 

「なんて、他愛ないリップサービスも程々に、田尻さん、お返し致します」

 

「おい、無視すんなー!?」

 

 次いで紹介されるはリングから観客の安全を守る4人の紹介。

 言うまでもなく、予選と同じ鉄心殿、ルー師範代、釈迦堂氏、鍋島館長の4人だ。

 この面々は観客のみならず選手たちにトラブル、アクシデントが起こった際にも動く予定。頼もしいというか、やはりおっかない感が否めないのは仕様である。

 素晴らしい、という点には同意する。

 

「次代を担う、若き獅子達の咆哮を聞きたいかぁーーーーッ!!」

 

 田尻氏のマイクパフォーマンスに湧く観客。

 なんというか、彼の声にはつい聞き入ってしまう何かがある。

 

「や、元傭兵にして執事と聞き及んでおるが、マイクパフォーマンスが上手過ぎやせぬか? 九鬼が誇る従者たちよりも堂に入っておるのだが……」

 

「なんか聞き入ってしまうよな」

 

 解説の疑問は他所に於いて選手達の入場。

 

 ――――英雄達再臨、蘇りし主従が再び歴史にその名を轟かす、優勝候補と目される源義経と那須与一の『源氏組』。

 

「目指すはただ、頂きのみ!」

 

「チッ、こんな規模の大会、どんな奴が居るか分からねぇってのに」

 

 ――――筋骨隆々こそ、起源にして頂点と知らしめん。長宗我部宗男と島津岳人の400万パワーズ。

 

「グワッハッハッハ! 四国の素晴らしさ、俺の強さを以って示す時!」

 

「オレ様に惚れた女が居たら24時間連絡待ってまーす!」

 

 ――――双方共に、武道の名家。技術は既に完成形だ。黛由紀江と武蔵小杉のザ・プレミアムズ。

 

「プレミアムに優勝あるのみよ!」

 

「お、お友達、ぼ、ぼ、ぼっしゅう――じゃない、募集中です!」

 

 ――――エリートにしてスペシャル、あらゆる敵を一掃してミッションコンプリート。ワンとツーのワン&ツー。

 

「It's easy operation!」

 

「ショウリ、ヲ、ソコクニ、ササゲマス!」

 

 ――――闇討ち、不意打ち上等。それが忍者の王道である。福本郁郎と鉢屋壱助の無敵童貞軍。

 

「忍びの優位性をここで示そう」

 

「写真を取って、試合も勝つ! 俺にはやれるぜ」

 

 ――――川神の闇で鍛え上げた武芸が光る。姉妹揃って剛の者。板垣辰子と板垣天使の天龍コンビ。

 

「がんばるよzzz……zzz…」

 

「だから、ウチの名前は天でイイって言ってんだろ!!」

 

 ――――その正体は謎に包まれている。だがしかし、その実力は折り紙付きだ。ちなみに参加資格は問題ない。その名はミステリータッグ。

 

「……」

 

「……」

 

 ――――軍人こそが武力の頂点。どんな難敵だろうとイージーオペレーション。クリスティアーネ・フリードリヒとマルギッテ・エーデルバッハの大江戸シスターズ。

 

「自分とマルさんが組んだら、それはもう凄いんだぞ!」

 

「KOSでの汚名、今こそ返上してみせましょう」

 

 ――――もう一方の英雄達。呉越同舟は戦の習わしか、国を跨いで共に武を振るう。武蔵坊弁慶と葉桜清楚の睡蓮。

 

「ま、ゆるりと頑張りますよ」

 

「あの、元は兎も角今の私は生まれも育ちも日本なんですけど……」

 

 ――――今こそ、自らの強さを示す時。榊原小雪と不死川心のKKインパルス。

 

「僕の活躍、しっかり見ててねーノルン」

 

「というか、此方(こなた)達の説明が雑すぎるのじゃー!?」

 

 ――――己の腕を試しに世界を動かす男が友と共に参戦する。九鬼英雄と井上準のフラッシュエンペラーズ。

 

「今この時はいち選手。九鬼とは関係なく遠慮なく掛ってくるがよい!」

 

「いや、ちょっとは遠慮して欲しいんですけど……守るこっちの身にもなれって」

 

 ――――川神のSMクラブの女王が僕を引き連れやってきた。機械相手にも容赦がない。板垣亜巳とクッキー2のアーミー&ドッグ。

 

「稼げるチャンス……何処までも喰らい付くまでさ。だろう、犬?」

 

「公衆の面前で犬呼ばわりされるとはッ……ちょっと悪くも――い、いや、なんでもない!」

 

 ――――街の闇で我流に磨いた喧嘩技と川神院のコラボレーション。チームとしても相性は抜群だ。川神一子と源忠勝のチャレンジャーズ。

 

「オッス! 誰が相手だろうと、勝利あるのみ!」

 

「俺は一子のサポートに徹するだけだ。後、相性云々いってんじゃねぇ」

 

 ――――大筒に磨きかけて参上。今大会尤も嵐を呼ぶコンビ。大友焔と風間翔一のファイヤーストーム。

 

「我こそは西方十勇士は大友焔。誰であろうと撃ち抜くのみ! この名を篤と刻めい!」

 

「運命は絶えず俺の味方だ。今度もやってやるぜ!」

 

 ――――執事という衣を脱ぎ捨て、今この時は獰猛な虎へと変わる。武田小十郎とステイシー・コナーのワイルドタイガー

 

「ウオオオオッ! 燃えろ闘志、揚羽様への忠誠心! 見ていてください、揚羽様あぁ!!」

 

「フッフッフ。お久しぶりじゃないか、大佐」

 

 ――――相手への対策は万全。勝負に対する粘りも充分。松永燕と直江大和の知性チーム。

 

「はーい! 仲良く楽しく一生懸命がんばりまーす!」

 

「タッグの勝利に少しでも貢献できたらと思います」

 

 

 16チーム全員の紹介が終わった。

 こうしてみると、なかなか壮観の一言に尽きる。それはモモの方も同じらしい。

 

「それにしても国際色ならぬ川神色豊かだな。本選出場の半分以上が川神在住だ」

 

「まぁ、有力な外国人選手はクジ運悪く予選で粗脱落、他も外国人同士で潰しあった故の結果であろうな。然りとて純粋な外国からの挑戦者がワン&ツーのみというのは流石に驚愕の結果と言えよう」

 

 クリス達も外国人ではあるものの、今は川神学園に在学の為川神側と見なされている。

 しかし、本当に川神色に大分部に染められている状態。川神に一体何があるというのか。

 類は友を呼ぶ法則だろうか、例によって。

 だとしたら大概だと思う。色々と。

 

 加えて、この結果も前述通り潰し合ったが故の結果といえる。

 運の善し悪しもまた実力に於いて必要なモノだ。不運を捩じ伏せる力を持たないものは自ずとこうして結果で示されるというもの。

 しかし、運だけで勝ち残れるほどこの大会は甘くないのもまた事実。

 それだけに、ここに勝ち残った選手達は運を味方に付けられる兵と言えるだろう。

 

「では、トーナメントの組み合わせ発表と参りましょう」

 

「正面の巨大モニターに注目だ。瞬時に相手が決まるぞ」

 

 組み合わせはコンピューターによって完全なアトランダムに選別される。

 瞬く間に表示される組み合わせ。その内容に選手達は一喜一憂だ。

 当然といえば当然で、やはり16チームもいれば全てが均等にとはいかず、安全圏や激戦区といった具合に別れる事もある。

 今回もそんな例えに洩れず、だ。

 

 予定ではトーナメント表の左上から順に4つ下り、左側が終わったら右へと移りまた下っていく流れだ。

 その流れに沿って簡単に表していけば

 

 ――――第1試合 ワイルドタイガーVSザ・プレミアムズ。

 

 ――――第2試合 400万パワーズVS無敵童貞軍。

 

 ――――第3試合 天龍コンビVS睡蓮。

 

 ――――第4試合 アーミー&ドッグVS知性チーム。

 

 ――――第5試合 源氏組VSファイヤーストーム。

 

 ――――第6試合 ワン&ツーVS大江戸シスターズ。

 

 ――――第7試合 フラッシュエンペラーズVSチャレンジャーズ。

 

 ――――第8試合 ミステリータッグVSKKインパルス。

 

 と、これが各1回戦の流れだ。

 しかし、今の段階ではこれが借りの組み合わせであり、30分後に発表される正式な組み合わせまでに相互の合意さえあれば場所の変更は可能である。

 

 運だけではなく、知力を振り絞るのもこの大会のミソ。恐らく幾つかのチームは確実に動くだろう。

 特に知性チーム辺りは確実に。

 今現在、あそこはトーナメントの組み合わせの中で激戦区な部類。事前に対策を練る知性チームが動かない道理は無い。

 

 その考えはやはり正しく、最終的に動いたのは知性チームとザ・プレミアムズが。ミステリータッグとチャレンジャーズが入れ替わり、最終的には

 

 ――――第1試合 ワイルドタイガーVS知性チーム。

 

 ――――第2試合 400万パワーズVS無敵童貞軍。

 

 ――――第3試合 天龍コンビVS睡蓮。

 

 ――――第4試合 アーミー&ドッグVSザ・プレミアムズ。

 

 ――――第5試合 源氏組VSファイヤーストーム。

 

 ――――第6試合 ワン&ツーVS大江戸シスターズ。

 

 ――――第7試合 フラッシュエンペラーズVSミステリータッグ。

 

 ――――第8試合 チャレンジャーズVSKKインパルス。

 

 といった結果となった。

 

「ん~……1回戦の見どころは私はやはり第3試合だな。英雄組とあの板垣辰子がどう戦うか見物だ」

 

「ふむ、逆に私は現代の武力の象徴たる軍人同士の戦いが見物だ。常道で行くのか、はたまたそれとも正攻法か……」

 

「同じじゃないか、それ?」

 

「や、些かニュアンスが異なる」

 

 常道と正攻法は似て非なるモノだ。この場合、銃器や他の装備など軍隊らしく攻めるのが常道、銃器を少なく人牽制程度にCQCといった接近戦で挑むのが正攻法にあたる。ようは、武闘大会としてか軍の任務としてかの違いなのだが軍人らばこの分け方は通用する筈。

 閑話休題。

 

 やがて時は移り、試合開始の時刻に到る。

 

 

 

 ――――第1試合。

 

 武舞台に上がる大和&燕と小十郎&ステイシー。

 睨み合う両者。初戦という事もあって場は妙な緊張感を伴っており、独特な空気だ。

 そんな中、徐に己の顔を勢いよく両の手で叩く小十郎。

 

「ウオオオオッ! よろしくお願いします!」

 

 気合いの雄叫び。

 場の空気に呑まれない為か、持ち前の気合いを示す。

 

「……うっし、悩んでてもしょうがない!」

 

 対する大和もそんな小十郎の空気に充てられてか、同じく己を叱咤するかのように頬を叩き、気合を入れ直した。

 横にいるパートナーの反応は、片や男のだねぇ、と言わんばかりに微笑ましいのものと、暑苦しい、と言わんばかりに辟易しているものという正反対なリアクションだが。

 

「それでは第1試合、レディー、ゴォーー!!」

 

 告げられる試合開始の合図。

 最初に動いたのはステイシーの方。懐から取り出す黒光りする円柱状のもの。

 所謂手榴弾という奴。

 

「派手に行くぜ? ローーーーーック!!」

 

 口癖を叫びながら手榴弾についている細長い棒状のものを外す。信管が外れたそれは数瞬間を置いて爆散。

 といっても、若獅子に於いて殺傷力のある武器は使用できない。よって、今彼女が持っていたのは煙幕を焚く発煙弾だ。

 

 煙が辺りを蓋う。

 視界が完全に防がれる中、動いたのは大和。噴煙から飛び出し、リング場外へと躍り出る。

 場外カウントが取られるが、その範囲内なら出ても構わないという判断なのだろう。

 時間制限付きとはいえ、行動範囲がグン、と上がるのは有効な手段といえる。

 地味だけども。

 

「場外まで追撃する。松永の足止めは任せたぞ小十郎!」

 

「分かりましたステイシーさん! よぉぉっし何処からでも掛って――――」

 

 ステイシーの言葉に応える為に燕の方に向こうとした小十郎の目の前には既に件の松永燕の姿。

 彼の動揺を他所に急所に放たれる鋭い蹴り。

 剣術に於ける刺突のような鋭さは相応に威力も高い攻撃だった。

 

 しかし――――

 

「な、なんのこれしき……日頃から揚羽様に鍛えられている自分ならッ」

 

「わお。本当に打たれ強いんだね」

 

 倒れ伏す事無く堪えた小十郎に目を見張る燕。

 かなりの威力があった筈の蹴りをまともに食らって膝を付かないのは称賛に値する。

 

 だが、彼女にとってそれは想定済み(・・・・)の事。

 小十郎の視界に燕の姿はどこにも無く

 

「なっ!? 何処に!? ッて――――」

 

 慌てて探してみると既に大和を追撃に夢中になり無防備に背中を晒すステイシーの背後にいた。

 なんという身軽さ、なんという速度。

 驚愕と同様に心を支配されながら遮二無二後ろだ、と叫ぶ小十郎。

 ニヤリ、と笑う燕。

 

「な――――!?」

 

 小十郎の声に否応なしに反応してしまうステイシー。

 燕にとってはそれは仕留めるのには十分過ぎるほどの隙だ。

 拳が正確に急所を貫く。抉り込むように打ち込まれた拳になす術無くステイシーは崩れ落ちる。

 

「それまで! 勝者、知性チーム!」

 

 

 

 

「綺麗に急所を打ち抜いたよい拳であったな」

 

「あぁ、ワイルドタイガーの敗因は戦力の分散だ。追撃までは良かったが、その後距離を離し過ぎたせいでお互いのフォローが間に合わなかった」

 

 尤も、この身の心眼からしてみればどうにも此処までの流れが出来上がっていた気がする。

 小十郎に関しては前々から大和に話してはおり、それを基に端からステイシーに狙いを絞っていたのだろう。

 さもなくば小十郎からステイシーまでの切り返しの速さはあまりにも早過ぎる。

 無論、松永先輩の鋭い観察眼ありきではあろうが。

 それでも直ぐ様切り替えられるのは合理的な思考に基づくもの。

 

(さて、何処(いずこ)まで勝ちぬけるかな……)

 

 

 

 

 ――――第2試合。

 

 400万パワーズVS無敵童貞軍。

 筋骨隆々のガクト&長宗我部と、細すぎて戦えるのかと思える鉢屋&福本。最早誰もが見て分かるほど凸凹な対戦図式。

 加えて無敵童貞軍は予選全てが不戦勝で勝ち上がっている辺り戦いぶりも窺い知れるというもの。

 

 そして、それはお互い承知の上だ。

 加えて長宗我部と鉢屋は同じ西方十勇士の一員。それだけに手の内も大まかに察せている。

 故に、この勝負ある意味で勝負は見えたかに思われた。

 

「では、第2試合も張り切ってー……レディ、ゴー!」

 

「ヌルヌルにしてやるぞ、お前達」

 

 オイルレスラーである長宗我部は横に持参してあった油の入っている樽を持ち上げる。

 見た目通りの力を発揮し、重そうな樽を軽々と頭上までもっていき、中身を掛けようと傾けた。

 

「油断大敵だな長宗我部。地獄を見るがいい」

 

 パチン、と指を鳴らす。

 軽やかに鳴らされたその音は、彼なりの敗北宣告か。

 

 刹那、樽が大爆発。

 

「な――――」

 

 唖然としてその様子を見る岳人。慌てて安否を確認しに長宗我部の元に向かう。

 厳密には見ていることしか出来なかったが正しい。

 予想だにもしない仕掛け。下剤や色仕掛け等が常套手段ためにと他に注意を割かなかった。

 

 それこそが鉢屋の狙い。

 本人を狙うのは読まれている為十中八九阻まれるのは目に見えていた。だからこそ、常套手段を囮として樽に狙いを定めた。

 

 策は見事に的中。

 長宗我部はこれで戦闘不能――――にはならなかった。

 

「……ま…だ……だ、ぜ……はち、や……」

 

 至近距離からの爆発。

 致死に到らないギリギリを見計らって火薬の量を調整したにも関わらず、長宗我部は立ちあがってみせた。

 驚愕以外のなんでもない。

 観客もアレだけ騒がしかったのが嘘の様にどよめき立ち、試合の様子を静観する。

 

「だ、大丈夫なのか?」

 

「へ、へへ……しくじっちまったぜ…俺はちょっと、休んで……いるから、よ……あとは、まかせる…ぜ…島津…」

 

 後は任せる、お前にならやれる。

 言外にそう伝える長宗我部の男気に不覚にも胸を打たれる島津。

 まかせろ、と傷を負った友の為に彼は敵へと向かう。一直線に。

 

「主は後ろに退避を。ここは忍者として迎撃あるのみ」

 

 雇い主である福本を後ろに下げ、分身。

 しかし、しらんこっちゃねぇと拳を振るい分身を次々と掻き消していく。

 最後の分身を振り払った時、岳人に僅かに生まれた隙。その隙を逃さず、鉢屋は針を長くした様な形状の千本クナイを投擲。

 

 急所目掛けて風の如く迫るそれを

 

「モモ先輩の拳に比べたら遅え!」

 

 軽々しく手で掴み取るという技を見せる。

 その離れ技にこんどは鉢屋の方に隙が生まれ、動きが停止。本の僅かな間ではあるが、ガクトの快進撃の最中でそれは致命的だ。

 目の前の敵を討たんと拳を振るう。

 

 

 

 

「それまで! 勝者、無敵童貞軍!」

 

 実況兼レフェリーである田尻さんの勝利宣言。しかし、ガクトは拳を振り抜いていない。

 これも正しくは振り抜けなった、だ。

 当然、ガクトは納得しない。このまま行けば確実に攻撃できたにも拘らずの相手チームの勝利判定。

 どういうことか、と問い詰める彼にモモが答える。

 

「長宗我部を見てみろ、ガクト」

 

 言われた通りに彼の方に視線を向けるガクト。

 その顔は、驚愕で彩られると同時に、己たちの敗北判定の訳に気付いたようだ。

 

「こ、こいつ……立ったまま…」

 

「うむ、実によい笑みだ。気絶しておるとは思えぬほどに、な」

 

 恐らくは仲間に後を託せた事で勝利を確信して気が緩んだのが原因だろう。

 その結果が、弁慶も真っ青な仁王立ち。

 負けはしたが、その男気溢れる在り方に会場が惜しみない拍手と称賛を贈るのだった。

 

「長宗我部の散り様、実に見事だった。然れど、私はそれと同じく鉢屋選手にも称賛を贈りたい。勝利の為に学び舎の友を相手にして尚、一切手心を加えず己の本領を貫きしその姿勢……悪辣ではあれど、その在り方には紛う事無く誇りがある。故に私は宣言致す、鉢屋選手は戦士として称賛に値すると」

 

 例え誰に何と言われようとも、彼は彼のやり方を貫いたのだ。

 卑怯云々は兎も角、彼が弱いと言われるのはだけはあってはならない。

 会場もそんな意思を汲み取ってくれたかのように更に喝采に湧いた。

 

 

 

 

 ――――第3試合。

 

 睡蓮VS天龍コンビ。

 かつてより再来した英雄と川神から見てもツワモノに部類する姉妹との対決は、百代が注目すると言っただけあって誰もが固唾を飲んで見守っていた。

 両チームの選手が舞台へあがる。

 

「さて、いっちょやりますか」

 

「あっちの青い髪の人はちょっと手強そうだね」

 

 2人の視線は辰子に向く。

 試合の様子を見ていても彼女は要注意人物である事は明白。

 特質すべきはその力。弁慶に迫り得るだけのポテンシャルを秘めているのだ、それだけでどれだけ注意すべきかは推して知るべきだろう。

 

「私があの青い髪の人を抑えているその隙に――」

 

「あのゴルフクラブ少女を仕留める、か。いいでしょう、じゃあその案で」

 

「オイ! なんでタツ姉ばっかみてんだよ!」

 

 どなり散らして抗議する天使。

 あまりにも視線が片方に寄り過ぎていたらしい。眼中にないモノと見なされて激怒する。

 しかし、弁慶は笑って返す。

 

「そっちの人の方が強そうだからね、それに比べてそっちは……」

 

「なんだとおいコラ!!」

 

 視線のニュアンスを汲み取ったらしい。

 ますます怒り心頭の天使の様子に弁慶はしたり顔だ。楽をする事に抜け目ない彼女はどうやって天使と1対1の状況を作るか思案していたのだが、向こうから突っ掛かって来たのを幸いと、挑発して(けしか)ける。

 結果、天使の方は受注に粗嵌ってしまう。後ひと押しでもあれば確実に突出してくる状態。

 四方に配置されたマスタークラスの1人が落ち着く様に言うが聞く耳持たず、馬耳東風。

 

「両者の間に激しく火花が散っております。それでは1回戦第4試合、いざ尋常に……ファイッ!」

 

「KO予告だ。10秒で終わらせる」

 

「あ゛あ゛!? やれるものならやってみろよ!!」

 

 開幕早々の挑発に、早々に引っ掛かり突出していく天使。

 

「あ、天ちゃーん、待ってよー」

 

 飛び出した妹の後を追おうと踏み出す辰子。

 しかし、そのゆったりとした動作を見逃すはずもなく――

 

「えいッ」

 

「わわ?」

 

 踏み込むタイミングを見計らっての弧月による足払い。

 転倒はしないモノの後退してしまう。その動作の鈍さに反する身のこなしの軽さは見立て通りといえるだろうか。

 

「喰らえぇーーーーッ!!」

 

 対して突撃してきた天使の方は弁慶の方に思いっきり愛用のゴルフクラブを振り下ろす。

 サスペンスドラマ真っ青な速さは、当たれば頭蓋の半分すら潰せそうな勢い。

 

「ほい」

 

「な!?」

 

 向けられた弁慶は軽々と掴み取ってしまう。その軽さたるや第2試合のガクトが行った芸当並みだ。

 規模は明らかにこちらの方は凶悪極まるのは言うまで無い。

 掴み取ったそれを、あろうことか持ち主ごと放り投げる。

 清楚目掛けて――――

 

「清楚先輩!」

 

「……分かったよ!」

 

 声に振り返り、迫る天使に数瞬思考を巡らし、直ぐに意図を察して清楚は己目掛けて飛んでくる天使を掴み、その勢いを殺さず身体ごと回転させUターンするように天使を投げ返す。

 今度は弁慶目掛けて飛ぶ天使。よく飛ぶものだ。

 剛撃を繰り出す拳を振りかぶり――――

 

「ダブル!」

 

「スマーッシュ!」

 

 対角線状に、瞬時に現れた清楚が弁慶の拳のタイミングに合わせて同時に撃ち抜く。

 全く同じタイミングと、力によってサンドウィッチされる天使。

 思い出してみて欲しい、弁慶の剛撃を。そして、その気になれば彼女に負けない清楚の拳を。

 

 想像してみて欲しい、そんな状態にサンドウィッチされた己を。

 どんな結末を迎えるかなど語るに及ばず、だ。

 

「ゲぶらッ!?」

 

 乙女にあるまじき悲鳴を上げ、立つどころか意識すら保つ事も出来ず、崩れ落ちる天使。

 然もあらん。

 

「決まったー! もの凄いツープラトンだ! 板垣天使選手の安否は大丈夫かー!?」

 

「失礼な、ちゃんと加減してるよ」

 

「気持ち良かった! ……けど、ちょっとやり過ぎちゃったみたいだね」

 

「気にしない気にしない。これはそういう競技ですし」

 

 

 

 

「まさしく凄まじい以外に言葉が浮かばぬ連携技であったな。お、どうやら板垣天使選手は大事ない様子。善哉善哉」

 

「や、それよりも清楚ちゃんが最後に使ったのってお前の縮地だろ?」

 

「うむ、モノの見事に持ってゆかれたなぁ。まぁ、真似られたとて減るものでも無し。構わぬが、な」

 

 最後のツープラトンの時に見せた清楚の動き。

 どうやっても間に合わない筈の遠間をタイムラグも無く、氣も増さずに移動できたのは一重に己の縮地を使い、間に合わせたのだ。

 正直、内心では驚いてはいる。

 あの技を真似られたのは予想外以外のなにものでもない。しかし、口に出したのも紛れもない本心だ。

 別段、あれを清楚に盗まれても困るところは皆無。

 

(鍛錬の時にてこずるやも知れぬが、それはそれ、これはこれだ)

 

「ま、お前がそういうなら良いけどな」

 

 

 

 

 ――――第4試合。

 

「プレミアムに勝利あるのみ。機械とオバサンなんかに負けないわ」

 

「いってくれるねぇ、乳臭いガキの分際で」

 

「厚化粧が過ぎる人よりマシだと思いますけど?」

 

「ま、化粧の1つもまともに出来ないお嬢ちゃんには大人のおしゃれを解いても無駄だろう。そんな万年ブルマでいるかの様なブルマ姿しか似合わない様なじゃりには、ね」

 

「あ、あーら……いってくれますね。年増が鯱張って、プレミアムに若々しい花も恥じらう現役女子高生相手に説教なんて」

 

「あわわわ……は、白熱してます」

 

「こりゃ触らぬ神に崇り無しだぜまゆっち。首突っ込むと藪蛇どころか藪鬼が出てきてこんにちはーだ」

 

 リングに入って早々におっぱじめやがった板垣亜巳と武蔵小杉。

 毒舌とはよく言ったモノで、吐かれる言葉には凄まじく毒が含まれている。由紀江は元より、クッキー2ですら戦線恐慌状態。

 どうしてこうなった。

 

「なんとも凄まじい舌戦です。始まる前から既にヒートアップして留まるところを知りません! 1回戦第5試合、始め!」

 

 得も知れぬ迫力に気押されたのか、田尻の実況が微妙に雑になった気がしないでもないが兎に角試合開始。

 先攻は小杉。一直線に亜巳に向かっていく。

 

 フェイントも無しに。

 

「はっ、バカかい?」

 

「クッ!?」

 

 振り下ろす刀に対して絡みつくようにして棒を巧みに操り、脇に逸らした所で蹴りの反撃。

 対して小杉は反撃されるとは露にも思っていなかったのか、急所にモロに入ってしまい膝を突く。

 そこに躍り出る紫と白の影。

 

「クッキーダイナミック!」

 

「させません!」

 

 せめぎ合う光剣と実剣。

 電撃と氣がぶつかり合い、互いの間でスパークが弾け飛ぶ。

 

「武蔵さん、今の内に体勢を!」

 

「わ、分かってるわよ!」

 

 急いで立ち上がり、退がろうとする武蔵。だかしかし、稚拙な離脱を易々と見逃す亜巳ではない。

 鋭い棒による払いが小杉に迫る。

 空を切り裂いて飛来するソレを防ぐ手段を小杉は持ち得ていない。

 当たるかどうかの刹那――

 

「はあァー!!」

 

「チィッ!」

 

 寸でのところで阻む由紀江の刃。

 

「甘いな、まゆっち。クッキーダイナミック!!」

 

 由紀江が亜巳に移った為に、フリーになったクッキー2のレーザーブレードが、光る弧を描いて迫る。

 小杉に。

 

「グェベベベベ!!」

 

 暴徒鎮圧用のスタンモード。しかし、出力最大。

 殺傷までには到らないにしても、そこいらのスタンガン程度は目では無い程の電圧は小杉に確実にダメージを与える。

 だがしかし、小物臭漂っていいようが腐っても鯛ならぬ武道の名家。

 何とかこらえ、クッキー2を押し返し後退する。しかし、その息も絶え絶えでダメージの大きさが窺えるというもの。

 

「ひ、卑怯者ぉ! 体勢の整っていない所に打ち込むなんて」

 

「なんとでも好きなように吠えろ。これは戦いだ、そこに卑怯も何もない……斬っていいのは斬られる覚悟のある奴だけだ!」

 

「ちょッ」

 

 更に迫るクッキー2。

 慌てて構えるも電撃によるダメージのお陰で満足に動けない。

 

「武蔵さん――――クッ!?」

 

「どこ見てんだい!」

 

 助けに入ろうとするも亜巳に阻まれ、助けようにも叶わずにいた。

 本来の1対1なら由紀江も、彼女に此処まで苦戦はしない。ならば何故こうして手こずっているのかといえば、一重に小杉が原因である。

 

 人間には、物事に於いて必ず呼吸というテンポが必要である。複数のモノが居れば必ずしも自らの調子通りとはいかない。

 この呼吸を、あろうことか味方である小杉に乱された為に彼女は本調子に持っていけないのだ。

 亜巳の平均を上回る強さもまた1つの要因と言えよう。

 

 結果からすると――――

 

「クッキーダイナミック!」

 

「ギョエーーーーー!!」

 

 この勝負の結果は出だしから既に決していたのかもしれない。

 

「勝者、アーミー&ドッグ!」

 

 

 

 

 

 試合の一部始終を見て、胸に去来するこの残念感。

 その度合いは半端ない。パネェ、という奴だ。

 横のモモも似たり寄ったりな心境らしい。顔が如実に物語っている。

 

「負けたものをとやかく言いとうあらぬが、完全に味方に足を引っ張られた形であるな……まゆっちは出だしの味方の突出で呼吸を乱し、やはりその後も味方によって取り戻せず仕舞いで勝敗が決してしもうたな」

 

「だな。本来のまゆっちならここまで苦戦はしないだろうが……これがタッグマッチのミソだろう。強い者同士が組んだだけじゃ、この大会は勝てないというのを図らずとも身を以って示してしまった訳だ」

 

 マスタークラスの境目は確かに伊達では無い。だがしかし、彼女の友を案ずる心が結果として予想以上に鈍らせた結果となったというだけの事。

 

「加えてアーミー&ドッグの実力やチームワークが並では無かったのも一つの要因であろう。ザ・プレミアムズはその点に於いてもツいておらなんだ」

 

 これがひょっとするともう少し上の、例えば天龍コンビならば或いはまだ可能性はあったかもしれない。

 前座の舌戦も、心理戦の1つと捕えれば性格的にも相性が悪すぎたと言える。

 しかし、運も含めて実力の内。結果も覆りはしない。

 

「次は義経ちゃんの試合か……楽しみだな~」

 

 

 

 

 

 ――――第5試合。

 

 源氏組。

 今大会、恐らく尤も注目されているだろうチームはただ静かに大友と風間を見据えている。

 その顔には焦りも無く、気負いもなく、唯々純粋に戦って勝つ。

 それ以外には何もない。

 

 ファイヤーストームの方もまた同じく、溢れんばかりの闘志を身体から滾らせ、試合の合図を今か今かと心待ちにしている。

 特に大友の方は武士としての性か、待ちきれない様子だ。

 

「で、どうすんだ義経? あの大筒は厄介だぞ」

 

「与一は風間君の方を頼む。あのすばっしこさは相手取っていると大友さんに後ろから諸共に撃たれ兼ねない」

 

 武舞台の上は広い様で狭い。

 選手4名が縦横無尽に駆け回れる広さを保有しているとはいえ、そこまで自由度がある訳でもないのだ。

 だからこそ、広範囲に攻撃が可能な大筒は危険と義経は判断する。

 しかし、それは近接型の義経が、ある程度距離を取ったこの状態から遠距離型の大友を相手する事に他ならない。

 与一は其処を懸念する。

 

「大丈夫だ。半分賭けだが、今の義経なら多分――――イケる」

 

 賭けだ、多分だと口にしながらも、義経の目は自信に溢れていた。

 強く、見るモノの心を捉えて離さない澄んだ瞳。与一は舌打ちして視線をツイ、と逸らす。

 

「……指示に従うぜ。じゃないと、後で姐御にどんな目にあわされるか分からないからな」

 

「有難う、与一!」

 

「フン……」

 

「さぁ、1回戦第5試合。はりきって、レディーッ、ファイ!」

 

 合図と共に自慢の大筒国崩しを構える大友。

 

「チェストーーーーー!!」

 

 轟音と共に飛来する黒い砲弾。狙う先は義経だが、大砲だけあって義経に当たれば爆風で与一も諸共にダメージは与えられる。

 尤も、撃った大友本人は当たるなんて思っていない。まずは2人を分断するのが目的だ。

 故に砲弾の射線は義経達の下半身目掛けて飛来している。

 

(さぁ、躱すなり撃ち落とすなりするがいい。砲弾に気を取られれば次弾までの発射の間が出来る。その間、風間がすかさず撹乱し、更に大友の砲撃で分断、各個撃破に持ち込む)

 

 大友としては義経を風間が足止めし、その隙に与一を、という腹積もりだった。

 天下五弓と弓では無くとも射撃戦闘で勝ったというのは箔が付くし、なにより火薬の量を減らされているとはいえ大筒二門と弓1つ――撃ち合いになれば押しこめる自信が彼女にはあった。

 

 対する義経は迫ってくる砲弾に眉一つ動かさず冷静だった。

 彼女の見ているものは砲弾であって砲弾では無い。思い出されるのはノルンとの鍛錬の時のやり取り。

 

 ――――ここぞという時に相対すべきは目の前の脅威ではあると同時に、脅威に対して抗う己自身だ――――

 

 ――――戦いとは常に相手と同じく己との勝負でもある。己を律し、常に己の最善を、常に己を高みへと上げる意識をせよ……結果なぞ、事を為した後の附録も同じ。目の前の事に全力で望め――――

 

(いまならば分かる。この言葉の意味が……)

 

 何処までも高められていく闘氣に反比例するかのように頭が何処までも静かに、落ち着いて行く。

 徐に手に携えた刀を振りあげる義経。

 

「――――やれるッ!」

 

 踏み込みと同時に振るわれる刃。振り向きざまに砲弾を斬った。

 

「な!?」

 

「ッ!?」

 

「こ、これは一体どういうことだ!?」

 

 ファイヤーストームは元より、味方の与一すらその光景には驚愕した。

 彼らのみならず実況の田尻も、四方にいるマスタークラスの四人も、会場の殆どのモノがその光景に我が目を疑う。

 それもその筈、義経が斬った砲弾は断ち切られる事無く中空で僅かの間制止し、地に落ちたのだから。

 義経の実力の高さは大会の間、誰もが目にしている。だからこそ砲弾を斬る事は分かっていた。

 だが、誰が想像しただろう、斬った筈の砲弾が壊されず形を保ったまま停止して地に落ちるなど。

 

「闇夜剣参之太刀 逆月。義経にも出来たな……」

 

 義経の顔は何処か誇らしげだった。

 しかし、同時に不満気でもあった。

 

 だが、それも一瞬の事、目の前の敵を倒すべく駆け抜ける。

 疾風迅雷の踏み込みに大友も対応してみせる。

 

「クッ、国崩しでりゃーーー!!」

 

「破ッ!」

 

 だがしかし、放たれる砲弾は悉く止められ、地に落ちていく。

 遂には懐に潜られ、英雄の名に恥じない鋭い斬撃が大友を襲う。

 寸でのところで防御したが、大筒は一門もっていかれ、一撃で満身創痍に等しいところまで陥った。

 

「ハァ、ハァ……ハァ…」

 

 ここまで一方的な試合を誰が予想しただろうか。ある意味大友自身が困惑の真っ只中にあったのは当然だった。まだ開始3分と経っていないにも関わらず、追いつめられた現状に戦慄の念を禁じ得ない。

 荒い息の中大友は必死に手段を講じる。

 大筒は一門しかない。しかし砲弾は序盤と言うだけあってまだ残っている。

 幸いにして銃身を両断されても弾の部分は無事だ。

 義経との距離は間近であり、完全に向こうの間合い。風間の方も与一の射撃で近付きようが無い。

 この状況で勝利の可能性があるとすれば1つだけ。博打に等しい賭けだが、当たれば最低でも相打ちに持ち込める。

 

(ならば……!)

 

 最後の一撃に掛けるだけだ。どれだけ負け戦であろうと最後まで戦う、それこそが武士というもの。

 覚悟を決した大友の行動は速かった。

 ダメージを意に介さず起き上った大友の只ならぬ気配に警戒を強める義経だが――――

 

「大友家秘伝、無鹿咆哮!」

 

 雄叫びと共に大爆発。

 大友を中心にその周囲に起こった爆発の威力はその衝撃で会場が揺れる事から推して知るべし。

 火薬の量を減らされているとはいえ、持ち弾全てを一斉に爆発させての大友家に伝わる自爆技は火薬の扱いに長けた彼女の腕前によって、まさしく相手を自分諸共に閉じ込める爆発の檻と化した。

 

「大丈夫かァー大友おぉ!?」

 

 心配をする風間の声も遠くにしか聞こえない。自爆技なだけあって自身にもダメージが及んでいるが故に。

 

「こ……これなら…」

 

 辺りに立ちこめる煙で姿が見えないが逃れられた感触は無い。交流戦ですら出せなかった正真正銘の切り札だ。

 やがて煙が晴れていき、彼女の目に映ったのは――――

 

「……そん、な…」

 

「凄まじい荒業だった。しかし、最後まで戦った姿に義経は敬服する」

 

 ――――無傷のまま悠然と立つ義経の姿。

 

 髪は多少乱れて、頬にも煤がついているが、それだけで目だったダメージは見られない。

 

「く……む、無念」

 

 倒れ伏す大友。

 この瞬間、源氏組の勝利が確定したのだった。

 

「決まったー! 勝者、源氏組!! 大友選手の自爆技を凌いだのは見事としか言いようがありません!」

 

 義経の無事な姿を見て内心ほっとするのは与一だが、同時に疑問も湧く。

 どうやってあの爆発の中を無事に済んだのだろうか、と。

 

 

 

 

 

「で、どういう技なんだ、アレ」

 

「闇夜剣参之太刀 逆月(さかづき)……打点と力点の制御を極めたるものは斬るモノの対象の選択すら可能にする。いわば物理的な障害を無視して太刀を目標に正確に届かせる技だ。そこへ更に我が力、武を交えず(暗器暗武)によって砲弾の慣性を斬って弾を止め、爆発はその熱風と衝撃を切り払った、と申したところか」

 

 尤も、義経は我が力、武を交えず(暗器暗武)を扱えた自覚は無いだろう。また完全な形ではなく、物理的な刀の長さが届く範囲でしか効果を発揮しないものと心眼で見抜く。完全に使いこなせていれば態々近寄らずとも遠間から可能であった筈。近寄った以上はそういう事だろう。

 

「ふーん……ひょっとして、体内神経を乱すお前のあの技術って、その逆月から派生してるのか?」

 

「むしろ逆だ。闇夜剣は我が力、武を交えず(暗器暗武)の技術を応用させたに過ぎぬ」

 

 元々我が力、武を交えず(暗器暗武)は如何にして自らの攻撃を相手に透すかを観点に置いて極められた技法である。どんな掠り当たりすら接触面から狙った場所に距離があろうが直接発勁をその方向や角度を自在に手繰りながら相手に与えて、相手の氣脈をかき乱したり、或いは神経系の流れを断絶してショック死を齎すというもの。似たような効果に勁力を身体に徹す浸透勁というものがあるが、衝撃力が身体を徹るのに対して我が力、武を交えず(暗器暗武)は目的の場所に直接透す。

 

 闇夜剣はこの技法を応用を施したオリジナルの技。確かに逆月まで扱いこなせらば、例え頑強な防具やバリアの様なものを張ってもそれを無視して相手に攻撃を届かせられる。しかし、逆にいえばそれだけだ。

 相手に相手が充填した氣を斬り払っての無力化や慣性を斬るにしてもあくまで斬るだけの逆月では不可能だ。それらは逆月と我が力、武を交えず(暗器暗武)が両立出来て初めて為せる。

 

「精度が上がり、太刀が届く範囲や加えられる力が増せばどんな質量も理論上は止められよう。私の場合以前試した時は、直径10キロの隕石を止めた事もあったな」

 

 言葉を告げたモモは素っ頓狂な顔してマジマジとこちらを見つめてきた。星を砕くとさえ謳われる氣のビームを放つ武神のリアクションに凄まじく侵害な気分だ。砕くなら出来るだろう、とツッコミかと思ったがやめる。面倒だった。

 

「……冗談だよな?」

 

「ふむ、逆に問うがそれなりの付き合いがあるモモからして、冗談に聞こえたか?」

 

「…………そ、そう言えば大友選手の具合は大丈夫か!? 」

 

「あからさまな話題転換であるなぁ」

 

 ちなみに、大友選手は火傷を数か所に負うモノの無事な様子。

 大事に到らず何よりである。

 

 

 

 

 

 ――――第6試合。

 

 大江戸シスターズVSワン&ツー。

 双方共に近代における武力の象徴たる軍隊に所属する、或いはその関係者で構成された対戦カードだ。

 しかも、この対戦は唯それだけではない。

 ドイツ軍の名実ともにエースのマルギッテとバイオニックソルジャーというアメリカ軍の次期主力部隊の為に鍛え上げられたワンとツー。

 この状況は図らずとも国境を跨いでの2ヶ国間による軍事力のぶつかり合い――即ち、戦争の縮図とも言えた。

 

「勝つぞ、マルさん!」

 

「はい、お嬢様」

 

 尤も、件のドイツ軍中将のお嬢さまはそんなことは意にも留めず、どころか全く分かっていない様子。

 そして、そんな彼女に駄々甘な猟犬と呼ばれる女性もその事を意識の外に追いやってしまっている辺り、実に締まらない事この上ない。

 

「図らずともなってしまった軍人同士の戦い、果たして勝利の栄光はどちらに齎されるのか!? 1回戦第6試合、始めぃ!」

 

 開始と同時に前に出るワンとツー。その無駄のない動きからはどれだけ過酷な鍛錬を長ッこなしてきたのかが窺える。

 刃引きされたナイフを片手に左右から迫る。

 クリス目掛けて。

 

「くっ」

 

 レイピアで受け止めるも、予想以上に速い敵の動きに虚を付かれてしまうクリス。

 すかさず連続してナイフを振るい、対してレイピアで捌いて行く。激しい攻防は徐々にクリスが押し込まれていった。

 

「お嬢様――チィッ!」

 

 眼帯の死角から迫るナイフをトンファーで弾くマルギッテ。追いつめられている最愛の妹分が気がかりだが目の前の相手は一筋縄ではいかない事を軍人の冷静な思考が即座に判断する。

 

 しかし、不謹慎ながらも同時に歓喜もする。

 己の眼帯を斯くも容易く筈させる相手が初戦で当たって。

 尚も続く連撃の中、何時までも呆ける訳にはいかない。手を眼帯へと伸ばし――――脱ぎ去った。

 

「……ッ!」

 

 威圧感に思わず飛び退くツー。

 眼帯を外した途端、先程までとは比べ物にならない位の圧力に身体が無意識に反応したのだ。

 

「確かに、お前達なかなかデキるようですね……」

 

 ツーの視界から掻き消えるマルギッテの姿。

 慌てて探すも見当たらず。

 

「しかし――――」

 

 声に反応して下を向けば、既に殺傷圏内にあるマルギッテの姿。

 慌てて防御しようとするも、気付くのがあまりに遅すぎた。

 

「まだまだ未熟! トンファーキック!」

 

「げふォッ!?」

 

 戦車の主砲かと見紛う蹴りを受け場外まで吹き飛ばされるツー。

 

「ツー選手起き上がれない! よって勝者、大江戸シスターズ!」

 

 宣言と共にガックリ、と肩を落とすワン。

 対して、勝利宣言に犬の如くマルギッテ駆け寄るクリス。

 

「やったな、やっぱりマルさんは凄い!」

 

「有難うございます、お嬢様」

 

 ほんわかな空気で勝利を喜びあうその姿は和やかではあるのだが、何だか見覚えが無い事も無くは無いのかも知れなかったりするのだろうか。

 閑話休題。

 

 

 

 

 

「おい、お前の注目とやら、呆気ない程に終わったぞ」

 

「うーむ……よもや銃器の類を一切用いらずとは思わなんだ……ワン&ツーは狙いは悪うなかったのだが」

 

「侮ったのか、それとも使うだけ無駄と思ったのかは分からんが、確かに近距離だけだったのは悪手だったかもな」

 

 フェミニズムなのだろうか、本当に銃器の1つも使わないのは意外以外のなにものでもない。

 もう少し白熱するものと期待していたのだが、これでは肩透かしもいいところだ。

 分断して、各個撃破をするのは構わないし、戦力的にも可能ではあっただろう。大江戸シスターズの弱点は2人の戦力としてのアンバランス差である。

 其処を付いて折角分断して各個撃破という戦術を取ったのに、最大限に使わずというのはナンセンスだ。

 

「ま、何を語ったところで結果は示されておる故、覆りようはあらぬか」

 

「偶にはこういう事もあるって」

 

「そのニヤけ面はやめい。不愉快な」

 

 

 

 

 

 

 ――――第7試合。

 

 ある意味、一方的な試合だった。

 

「ホワッチャーーーーーー!!」

 

「喰らいーーーやがれえぇぇぇぇ!!」

 

 フラッシュエンペラーズの蹴りが、拳が全くと言っていいほど通用しない。

 その癖向こうからは一切攻撃が無いのだ。

 直に戦っている英雄や準でなくても目の前のマントに全身を覆ったモノ達の正体が否が応にも気になるところ。

 

 しばらく攻防――と、言っていいのかは分からないが――が続き、その内ミステリータッグが動きを止めた。

 立ち止まった状態でマントを脱ぎ去る。

 

「フハハハ! 九鬼揚羽、降臨である」

 

「ヒューム・ヘルシングです」

 

 その姿を見た時、参加者を始め実力者は思った。

 

 ――――これは酷い。

 

 解説の2人からはやっぱり、なんて声が音声から響く。

 この規格外の2人がこんな真似をしてまで参加した理由は二つ。

 1つは不穏分子が紛れ込んでいないかの確認。

 そしてもう1つが――――

 

「英雄、お前の身を案じての事だ。予選での戦いぶりでお前は十分戦った……今やめた所で誰も責めはせぬぞ、その肩でこれ以上無理をするでない」

 

「あ、姉上に何の権利があって然様な真似を――――」

 

「私はお前の姉だ。姉が弟の心配をして何が悪い」

 

『私も同意見です、兄上』

 

 スピーカー越しに聞こえる声は他ならぬ揚羽にとってもう一人の弟であり、英雄にとっても弟であるノルンのもの。

 

『これ以上の戦いは兄上に負担を掛けまする。どうか、ご自愛くださいますよう』

 

「英雄」

 

「あ……う…」

 

 普段から不遜な態度で振舞う英雄も、家族の真摯で真っ直ぐな言葉に二の句が告げられない。しかし、やがて絞り出す様に棄権を宣言、ここに勝敗は決した。

 と、ここで終わればさぞ綺麗に纏まったのだろうが、世にも珍しい九鬼英雄の狼狽姿を目にして、ここぞとばかりに其処をからかう準。

 からかう事で更に珍しい照れる英雄の姿に弄りがヒートアップしてしまう。しかし、それがいけなかった。

 過ぎたるは及ばざるが如し。幾ら彼が寛容でも限度はある。

 

「ヒューム、こいつだ。紋を変な眼で見るのは」

 

「ちょ――」

 

「ほう、画面端に叩きつけてやろうか?」

 

 ギュピーン、と妙な効果音さえ付随させ文字通りに光るヒュームの目。

 慌てる様に弁明するも、またその内容がいけなかった。

 

「べ、べべべ別に変な目なんかじゃないっての。ただ、一緒にお風呂に入ったりしたいだけだっての。いかんのですか? それがいかんのですか!?」

 

「いかんのですよ?」

 

「いかんなぁ」

 

「いかんのです」

 

 スリーアウト、ゲームセットである。

 

「って、ちょおっとまてい! なんで放送席にいる筈のノルンが此処にいるんだよ!」

 

 やあ、とさも挨拶するかの如く片手を上げて何時の間にか参上したノルン。

 その顔は凄まじい位に爽やかそのもの。

 爽やか過ぎて薄ら寒さすら覚える。

 

「なに、紋に対しては日頃からいちど物申したいと思うておったまでよ」

 

「そ、それがななな何だってんだよ……」

 

 この状況下で、それを問いただす事は意味の無いもの。

 火を見るより明らかであること敢えて尋ねる事―――即ち、愚問という。

 

「光栄に思うがよい、準。私とヒュームの2人手ずからの折檻など、其方(そなた)が初めてぞ?」

 

「い、いやあ……できるなら、遠慮したいなーなんて……」

 

「答えは、NO」

 

「Let's show time」

 

「何て流麗なネイティブイングリッシュ!?」

 

 その後の準の末路は語るまでもない。

 然もあらん。

 

 

 

 

 

「ふぅ……よい汗をかいた」

 

 準の趣向自体は別段構わない。だが、一度確りと言いつけておかないといけない様な気がしてならなかった。

 偶に、本当に偶にだが視線が時折怪しい時がある。具体的には水泳の授業の時とか。

 準に限って間違いはないであろうとも、やはり釘を刺すのは必要な訳で。

 

「いや、やりすぎだろ……ドン引きだぞ、周り。特にあのマグロとかどっかから出したんだ?」

 

「さて? 私も受けた事があるがアレばかりはイマイチ見当がつかぬ」

 

「なんかいま、凄いカミングアウトしなかったか?」

 

「気のせいであろう?」

 

 与一の時にやらかした時にされた時は、割かし本気で涅槃を垣間見たのは秘密である。

 ちなみに、準へのお仕置きは試合として一度準を戦闘不能にしてから行われたので悪しからず。

 

 

 

 

 

 

 ――――第8試合。

 

「さぁ、1回戦も残すところこれが最後の試合。2回戦まで勝ち上がるのはどちらのチームか?」

 

 睨み合う一子と小雪、忠勝と不死川。

 しかしその顔は対照的で、不敵に笑い合う前者に対して、後者は完全にしかめっ面である。

 

 それもそうだろう、忠勝にとって不死川のキャラクターは面倒以外の何でもないし、不死川にとってもF組に所属するモノを常日頃から山猿呼ばわりしているのだから。

 対してワン子と小雪は正式ではないがファミリーのメンバーと小さいころから遊んでいる仲。故にこの流れは必然だ。

 

「そういえば、ユキとも一度戦ってみたかったのよね」

 

「負けないよー」

 

「ちっ、メンドくせー……」

 

「フン、山猿相手に此方(こなた)が負ける道理はないわ」

 

「両者共に気合十分だ! それでは1回戦第8試合、レディーーー、ゴォーーーッ!」

 

 4人同時に駆けだす。

 先手は一子。小雪目掛けて大振りに薙刀を振りおろす。

 

「キィーーーック!」

 

 疾風に等しい一撃を軽やかに蹴りで迎撃、受け流した。

 体勢を僅かに崩したところに第二陣が迫る。

 

「させるか!」

 

「おっと! あっぶなーい」

 

 それを寸でのところで横やりを入れる事で防ぐ忠勝。小雪は持ち前の反射神経で避ける。

 更に忠勝へと迫る影。

 

「ちぃッ」

 

「山猿風情が躱すでないわ!」

 

 不死川がこれ見よがしに掴みに掛るが、場慣れしている忠勝は予め予見していたかのように間合いから飛び退く。

 再度掴みかからんとする不死川に、今度は薙刀が迫ってきた。

 

「にょわーーー!? 危ないわ戯け!」

 

「これはそういうものでしょ!」

 

 躱したところに更に二の太刀が不死川に襲うが、そこは柔道使い。

 柔よく剛を制すの言葉通りに振られた薙刀を勢いを利用して投げ飛ばす。

 己の投げで場外まで飛んだ一子を流し目で見つめる。

 

「ふん、川神の妹とはいえこんなもの――――」

 

「オラッ!」

 

「にょ!?」

 

 彼女にありがちな油断による隙。言葉はアレだがケンカ上手の忠勝はそれを見逃さない。

 無防備な脇腹に蹴りがあたる――ホンの僅かな所で邪魔が入った。

 小雪の蹴りだ。

 絶妙と言えるタイミング、足で足を叩き落とす。

 

「こらー、油断大敵だぞー!」

 

「ふ、ふん。アレぐらい此方(こなた)でもどうにもなったぞ!」

 

「そっか、じゃあ後ろから迫ってる一子は大丈夫だねー」

 

 駄目だったらコブラツイストだー、なんて不吉な言葉を残して小雪は忠勝に向き合う。

 慌てて背後に振りかえると、既に目の前にまで迫った一子の姿。

 

「ちょ、早くいわんかーーー!」

 

「川神流、三角龍!」

 

 壁の反動を利用しての突貫攻撃。

 目の前で迫ったそれを神業的な仰け反りで躱す。宛ら某有名なアクション映画の如く。

 優雅かはさておいて、見事な避けっぷりだ。

 

「あ、危なかったのじゃ」

 

「まだ息を付くには早いわよ!」

 

 避けられる事を想定したいたらしい。

 見事に己の間合いの範囲で着地した一子は、付き進む薙刀の軌道を強引に変える。

 薙刀の先が地面に擦れ火花を散らせつつ、掬い上げる様に振るう刃。

 

「にょわーーーーーー!?」

 

「川神流 蛇狩り!」

 

 一閃の元に吹き飛ばされる不死川。

 倒れ伏し、起き上がろうとするも、そのまま力無く倒れてしまう。

 

「不死川選手立てない! よって勝者、チャレンジャーズ!」

 

「やったー、勝ったわ! ありがとうタッちゃん!」

 

「言われなくても分かってるよ。よかったな一子」

 

 勝利を喜びかみしめるチャレンジャーズ。

 対して負けたKKインパルスの2人はと言うと――――

 

「にょにょにょ、にょわーーーー!?」

 

「負けたらコブラツイストだって言ったよねー心?」

 

「それは聞いておったが、何も今でなくても! ほんとサドいなおま――ちょ、ギブギブッ、ギブじゃ!?」

 

 倒れた心に更に追い打ちを掛ける様にコブラツイストを掛ける小雪の図。

 サドい光景の筈が、どこか愛嬌を齎す。それがこの二人のクオリティというか、仲の良さというか。

 

「断じて違うにょわーーーー!?」

 

 

 

 

 

「よっし、良く勝ったなワン子!」

 

「うむ、試合自体も互いが互いを補い合うタッグマッチとして最も見ごたえのある試合であった」

 

 4者入り乱れての乱戦。

 しかも、期せずしての行動というのがまた面白い。

 特にKKインパルスは各々勝手気ままに最善を尽くした結果である。

 意識せずそれを行える辺り、なかなかどうして愉快だった。

 

「さて、これで準決勝のチームが決した訳だが……」

 

「うむ、盛り上がりとして良いところだがそろそろ昼餉時。選手、観客共にこれからお昼休憩を取りまする。確と食べ、午後からも全力で戦いに臨む事を願う」

 

「あー……午後が待ち遠しい。それはそうと、お弁当は?」

 

「此処に。というか、まだマイクが入っておるぞ」

 

「おっと、失敬。ではみなさん、また午後にお会いしましょう」

 

 マイクの電源を切り、改めて弁当を渡す。昨日の内に頼まれていた事だ。

 自分の分の弁当であるおにぎりを出す。

 

「おいおい、質素だなぁ」

 

「私の好物だ。悪いか?」

 

「そういや、そうだったな……にしても質素…」

 

 憐れむ視線が鬱陶しい。

 (かぶり)を振りながら、一口喰ってみよ、と口元にもっていく。

 何故か狼狽えだしたモモ。

 

「こ、これって……ひょっとしてアーンという奴か?」

 

「ぶつくさ言うておらずに、ホレ、アーン」

 

「あ、アーン……ムグッ…ウマッ! なんだこの美味いおむすび!?」

 

「ふふ、握り飯程、美味しく作らんとすれば高い難易度が要求されるのだぞ?」

 

「おにぎりパネェー!?」

 

 モモが齧った奴をそのまま口に運ぶ。

 その出来栄えは我ながら良い出来だった。隣でなにやらモモが真っ赤になっているが放っておくとする。

 視線はトーナメント表へ。

 2回戦の図式は

 

 ――――第1試合 知性チームVS無敵童貞軍。

 

 ――――第2試合 睡蓮VSアーミー&ドッグ。

 

 ――――第3試合 源氏組VS大江戸シスターズ。

 

 と、なっており、ミステリータッグが事前に辞退を宣言している為、繰り上がりでチャレンジャーズはベスト8進出だ。

 午後からも白熱した戦いになりそうである。

 

 

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