気まぐれ神様の物語 真剣恋Ver.   作:ジーザスルージュ

52 / 71
49話

 真夏の太陽が中空へと指しかかる頃、1回戦を終えて昼食休憩も取った午後の時分。

 大方の休憩を終えて炎天下にさらされる中、2回戦が始まる。

 

「さて、腹は満たしたか? 休息は十分か? よろしい、なれば試合を再開しよう!」

 

 ノリが良いこの街ならではか。

 演説じみた再開宣言でも観客は大いに沸きたった。言っておいて何だが、ノリが良すぎると思う。

 

「2回戦の第1試合は燕と十勇士の対決か……やはり何某か仕掛けているのだろうな」

 

「当然であろうな。ま、斯く言う松永先輩も知謀を生かすタイプとみた。始まる前よりポーカーの如き心理戦は当然繰り広げておるであろう。ただ……」

 

「ただ?」

 

「強者は如何なる策であろうと打破して進む。此処より先、小細工は通用せぬだろう」

 

「だな。さて、双方どんな手段を用いるのか見物だ」

 

 モモの言葉には内心意外に思う。

 そういう小細工を弄する猪口才な真似は好かない筈だというのに、それを見物だと言えるとはどんな心境の変化か。

 落ち着きが出たといえばそれまでだが――――

 

(考えても詮無きこと、か。一先ずは試合に集中しよう)

 

 

 

 

 

 ――――第1試合。

 

「さぁ、お昼を済ませて気合は十分。暑さに負けぬよう、戦いぬきましょう!」

 

 熱気冷め止まぬ観客達に負けない実況に更にヒートアップしていく。

 しかし、対する両チームはそうはいかない。

 大凡の予想通りに仕掛けてきた鉢屋。その内容とは父を人質にとっての敗北を強要してくる。

 

「悪く思うな。これもまた忍びの流儀だ」

 

「おまえっ!」

 

「まっ、忍者はこういのが常套手段だしね。ノルン君も言ってたでしょ? 誰だろうと彼は彼のやり方を貫くよ」

 

 歯噛みして燕の言葉を飲み下そうとする大和。その顔は苦み走っており、必死に落ちつけようとしているのが見て取れる。

 実況は気付いているのか否か、無情にも開始を告げる。

 

 風の如く掛ける鉢屋。

 彼の胸には勝った、と勝利を確信していた。自らの手を振りおろせば確実に仕留められると。

 しかし、結果としてそれは悪手だったと言わざるを得ない。

 

「そりゃッ」

 

「なに――ガフッ!?」

 

 急所目掛けて鋭い蹴りが突き刺さる。

 鉢屋にとっては思わぬカウンター。耐えきれず地に沈む。

 

 知性チームへの勝利宣言。

 しかし、それは同時に父親を見捨てる事に等しい。

 脅しではないという鉢屋に対し、燕もまた、足手まといになる様なら見捨てる様に言われていると返す。

 矜持と矜持のぶつかり合い――――お互い一歩も譲る事はない。

 その誇りに従って、鉢屋は起爆させようとするが――――

 

「もういいって! 負けでいいよ……」

 

「しかしッ」

 

「エログッズは欲しいけど、最低限の良心は捨てたくないんだよ」

 

 エロスに傾倒しているとはいえ、彼もまた写真家でもあるのだ。

 いい写真を取る為にもそれは必要な事なのだと福本は語る。その意思を組んだのか、鉢屋は燕に父の監禁場所を教え、舞台を後にしたのだった。

 燕達もまた、父を助け出す為に舞台を後にする。

 

 

 

 

 

「おお? なんか急いで退場していったな、燕と弟」

 

「ふむ、察するに鉢屋の何某かの策謀故、ではないか?」

 

「ま、だろうな」

 

 松永先輩が簡単に隙を晒すとも思えない辺り、ひょっとすると父兄辺りでも狙われたか。

 試合前から様子はおかしかったし、角度的に知性チーム陣の口は見えず、鉢屋の方も顔と読唇術対策か覆面で読めなかったので察する他ないが、恐らく外れてはいないだろう。

 それはさておき、だ。

 

「鮮やかに瞬殺されてしもうて、解説する事が無いという」

 

「実況泣かせだよな、こういうの。燕は強かった、としか言えん」

 

 もしくは直接戦闘に於ける鉢屋の能力が低すぎたともいう。

 一般人のそれからしたら勿論強い。だが、相手はどうみても"壁"を越えたクラス。

 正直相手が悪かったとしか言いようがない。

 

「しかし、次もあっさりと終わりそうな気配が……」

 

「其処までだ、モモ。あくまでも我等は解説役ぞ? 領分を違えてはならぬ」

 

「お、おう」

 

 口は災いの元と共いう。

 ある程度、節度は保たないとよろしくない。

 

「それに、直ぐ終わるか否かは存外分からぬぞ?」

 

「ふーん……何にせよお手並み拝見だな」

 

 

 

 

 

 ――――第2試合。

 

 想像通りといえば想像通りで予想外といえば予想外のの展開。

 風を斬り、空を割いて振るわれる剛撃の波状攻撃。避け無ければ即ダウンすること請け合いの一撃をクッキー2も亜巳を必死に躱す躱す。

 

「クッ……」

 

「チィッ! 英雄は伊達じゃないってか!」

 

 避けるたびに、躱すたびに肝を冷やし、錯覚と分かっていても精神と共に寿命がガリガリ削られていくようだ。

 なんでかは知らないが、弁慶の方が突然やる気になってしまっている。

 そのせいで此処まで一方的な試合展開となってしまった。

 拳を避ければ錫杖が、それを避ければ今度は蹴りが。弁慶と清楚は上手く2人を挟みこんで動き、常に挟撃出来る様な位置取りを意識してる辺り、厄介極まりない。

 

 加えて清楚の一撃もまた恐ろしい。

 

「えいッ」

 

 こんな軽やかで名前の通りの雰囲気を纏いながら放たれる攻撃は弁慶のそれと比べて謙遜はなく、むしろ速度だけなら弁慶のそれを上回っているのだから性質の悪いという次元では無い。

 しかも、彼女の攻撃は間合いを一切関係なく双方に攻撃が行われているのだ。

 現在の包囲網も双方の呼吸と同等に清楚の攻撃が影響している。

 

 亜巳達も状況を打破できまいかと思考を巡らせているが、芳しいとはお世辞にも言えないだろう。

 背中合わせに互いをカバーしあっていても状況は不利だ。

 

「考え事をしながらというのは、良くありませんよ?」

 

「クッ!?」

 

 遮二無二、身体を仰け反って回避。

 胸をめがけて来た攻撃をなんとか躱せた。一撃喰らえば其処で終わりなだけあって、回避も一苦労、というか今のでも寿命が僅かに縮む思いだ、と亜巳は内心で舌打ちする。

 

 クッキー辺りが途中で、超高高度からのクッキーダナミックならばと言うが、この状況からして下策以外のなにものでもない。

 1人でこの二人を抑えるとかどんな無理ゲーかと。

 

 しかし、このままではジリ貧なのも事実。

 亜巳の体力とて限りがある以上どこかで詰むのは目に見えている。だというのに必要な打開策が浮かばないのは歯痒かった。

 

「いやー、強いね御二人さん。此処まで粘るとは思わなかったよ」

 

「ハァ……ハァ……そりゃ…いやみ……かい…ハァ、ハァ…」

 

 弁慶の場合、本心であると同時に"分かってて"言っている節があるだけ手に負えない。

 同じ様に2人を挟む清楚もアーミー&ドッグの粘り強さには感心している。

 どこぞの納豆小町も真っ青な粘りっぷりだ。

 

 試合開始からまだ3分と経ってないというのに、既に意気は上がって鼓動は早鐘。

 焦りばかりが募る。

 だからだろうか――――背後からの突然の衝撃に驚いてしまったのは。

 

「!?」

 

 亜巳の背中に何かがぶつかる。それなりの重さを持ったナニか。

 視界を後ろにやってみれば紫色の金属の塊。

 なんという事は無い。彼女のタッグであるクッキー2だ。

 種も簡単で、一瞬の隙を清楚が付いて彼女目掛けて投げつけただけの話し。しかし、その行動が彼女に1回戦の第3試合を思い出させるのには充分であった。

 

(マズ――――)

 

 疲労が彼女の思考や反射を鈍らせた。人間の身体は全開の力を常に出せるようには基本的に出来ていない。

 蓄積した疲労は確実に亜巳に見えないダメージとなり、それが今、ここで響いたのだ。

 既に亜巳の目の前に迫った弁慶の姿。

 その対角線上には清楚。

 

(チィ……詰んだね)

 

 身体に奔る衝撃を感じながらそんな事を考えていた亜巳だった。

 

「それまでッ! 勝者、睡蓮!」

 

 

 

 

 

 

「白熱した試合であったな」

 

「あぁ。誤解の無いように言っておくがアーミー&ドッグは決して弱くは無かった。ただ、この場合睡蓮の能力以上に高い連携力が勝因なんだ」

 

「うむ、双方共に相棒たる相手を信じ、息を合わせての連携で見事戦ってみせた。これぞまさにタッグマッチトーナメントの真骨頂と言えよう。今一度、両チームに惜しみない称賛を贈りたい」

 

 言葉共に鳴り響くスタンディングオベーション。

 それは会場にいる観客が、自分達と同じ事を思ったからに他ならない。

 観客の誰もが、見事に戦って見せたアーミー&ドッグを、そして勝利した睡蓮を称える音は2人が去るまで鳴り止む事は無かった。

 

 次はいよいよ2回戦の最終試合。

 英雄組に何処まで大江戸シスターズが喰い下がれるか見物だ。

 その筈なのだが――――

 

何故(なにゆえ)であろうな? 直ぐに終わりそうな気配を禁じ得ぬのは)

 

 マルギッテは決して弱い選手では無い。だというのに、己の心眼は勝敗は直ぐに決すると告げている。

 そして己の経験予測もまた、それを肯定しているのだ。訝しまずにはいれない。

 

(何にせよ、全ては結果が示してくれよう)

 

 

 

 

 

 

 ――――第3試合。

 

 源氏組VS大江戸シスターズの試合。

 2回戦最後の試合であり勝った方が準決勝に臨めるのは勿論、やはり義経のチームだけあってどのチームよりも視線が集まる。

 ましてや1回戦で見せた義経の剣技は誰しも魅入るものだ。

 注目も集まるのは必然と言えよう。

 

(チッ……益々注目を浴びてやがる…これじゃあ何処でモーションを盗まれるか分かったもんじゃねぇぞ)

 

 何やら珍妙な心配をしているモノもいるがこれはまぁ、気にしなくてもいいだろう。

 そもそも、戦いには"そういう"側面は常に付きまとうもの。

 正直なところ、予選の段階で撃っているので盗めている奴は盗めている。

 尤も、ここでそれを察して尚且つツッコミを入れてくるモノはいない。

 

「頑張ろうな、与一」

 

 相方のそんな様子に築ける筈もなく、爽やかに激励する義経。

 しかし、対する与一はソッポを向くだけ。

 

「ほら与一。ソッポ向いたままだとやられてしまうぞ? それとも暑さに参っているのか?」

 

「……そんなんじゃねぇーよ」

 

 義経の心配そうな雰囲気や掛け声もなんのそのな態度にも素っ気無く振舞う与一。

 それでも気遣いを絶やさない義経は良い子。

 

 対して大江戸シスターズは何時に無く緊張の面持ち。

 1回戦の試合を見ていればそれも肯けるといえば肯ける。砲弾を叩き斬るのではなく、壊す事無く斬り落とし、至近距離の爆風ですら完全に斬り払えるのだからこれで警戒するなと言う方がどだい無理な話である。

 

「流石は英雄と言ったところか」

 

「義経とは戦ってみたかったからな。望むところだッ」

 

 緊張した顔も武芸者特有の武者震いの類らしい。

 顔には戦う氣とかいて"ヤるき"で溢れんばかりだ。マルギッテも既に眼帯は外したままで準備は万端である。

 

「両者気合が溢れんばかりの様です。それでは2回戦第3試合、いざ尋常に……ファイッ!」

 

「Hasen Jagt!」

 

「いくぞ!」

 

 開始早々の強襲。

 電撃作戦(ブリッツ)による攻勢は初手でマルギッテが、次いで第二陣でクリスがという布陣のフォーメーション。

 武士娘に相応しい鮮やかな身のこなしで肉薄する大江戸シスターズ。

 だが、ソレを許す相手側では無い。

 

「そこだっ!」

 

 次手は与一。

 天下五弓に名を連ねる彼の魔弾は一直線にクリスへと襲い掛かる。

 しかもただ狙い撃っただけではない。

 先の後とも言うべきか――――足が地に踏み込む寸前のところへの射撃。

 

「ッ!?」

 

「お嬢様!?」

 

 その射に思わず、そして止むを得ずレイピアで防御するクリス。

 神業ともいうべき一矢は防がれる事ですら予定調和と思える程凄まじい一撃だ。

 

「奇襲の類にはな、耐性が付いてんだよ。真正面から悠然と理不尽な不意打ちしてくる誰かさんをしっているからなッ!」

 

 何故だかその視線は目の前の大江戸シスターズではなく他所の方――具体的には実況席――に向いている気がするが今この時は関係が無い。無いったら無い。

 

 踏鞴を踏み後退するクリス。

 なんとか体勢を立て直そうとして、下がる勢いを抑えて目の前を向けば――――

 

「なッ――――」

 

「破あァッ!」

 

 眼前で既に刀を振りかぶる義経。

 その一撃を防げたのは奇跡に近かった。再び吹き飛ばされるクリス。

 防いだ事を瞬時に悟った義経は返す刃でマルギッテへと迫る。

 電光石火の踏み込みに初撃を避けられないと悟ったマルギッテは守りを固める事を選択。妹分であるクリスの身を案じるも、己の知る以上の義経の動きにただ驚くばかり。

 

(1回戦の時よりあきらかに速いッ!?)

 

 結果としていうなら、その驚愕こそが誤りだった。

 

「ッ!?!?」

 

 背面を襲う衝撃。

 鋭い痛みと意識的な驚愕から反射的に背後に注意を割く――否、割いてしまった。

 目の前に義経が迫っているのだ、別角度から攻撃できるなど与一以外にあり得る訳が無い。

 軍人のみならず人の性か。しかし、それが命取りとなる。

 

 身体を通り抜ける神速の一太刀。

 そのまま声1つすら上げる事すら出来ずに崩れ落ちるマルギッテ。

 

「瞬殺ッ! 勝者源氏組ー!」

 

 残心でその様子を見ながら刀を収める義経。その立ち振る舞いは1つの芸術品の如く見ている者の心を捉えて離さない。

 刀を収めると同時に与一に手を振る。何時もの義経だ。

 そして目を背ける与一もお馴染だ。

 

(……刀を抜くとまるで別人格だな、一体アイツになにがあったのやら)

 

 KOSが原因であると分かっていても、この成長ぶりは異常の一言に尽きる。

 与一は埒もない思考を重ねてその原因を探り始めた。しかし、思い当たるものは終ぞ浮かぶ事はなかった。

 

 

 

 

 

 解説席は沈黙だった。

 原因は言わずもながの2回戦第3試合。

 

「……いま、どれくらいで片が付いた?」

 

「体感であるが、約8,1秒……といった所か?」

 

 モニターで確認するもやはり結果は変わらずの瞬殺。

 秒数を確認するとこれまたピッタリだったのは余談である。

 

「勝因を上げるなら、もう能力とチームワークしか言えないなぁコレ……瞬殺だよ。強いてあげるなら、流れを作ったのが義経ちゃんだった……で、いいよな?」

 

「うむ、合っておるぞ。大江戸シスターズの強襲より、義経が瞬時に戦いの場を握ったのだ」

 

 強襲に対する初手の行動。

 与一の射撃から始まった源氏組の行動は義経にとってはどうも防がれる事自体読んでいるかのような追撃だった。

 初速があまりに早過ぎた挙動はそうとしか説明が付かない。

 クリス対する追撃は間違いなく必殺足りえた筈だが、これも遮二無二防がれる。

 これに対して義経は瞬時にクリスの制圧では無く、大江戸シスターズの分断させると決めて、身体に捻りを加えて吹き飛ばす。

 勢いを利用して返す刀でマルギッテに跳んだ際も恐らく与一の行動も頭に入っていただろう。

 弓で仕留められるならそれでよし。駄目なら太刀で、とまさに必殺の布陣。

 

「……それだけの流れをアレだけ瞬時に作りだしたのか…凄まじいな」

 

「同感だ。正直驚いておるよ……義経を知る者として、彼女があそこまで動けた事に、な」

 

 挙動に於ける迷いのなさは、己と同等の心眼を有しているのかと錯覚するほど鮮やかな手並みだった言える。

 あそこまでの動き、少なくともKOS前には出来なかった筈。

 

(や、それどころか予選の時にも為せたかどうか……一戦ごとに一足は愚か三足飛び程度には成長しておると見て相違あるまい)

 

 心眼はその考えを肯定する。

 この試合の最中にどれだけ彼女が成長できるか――愉快で仕方が無い。

 

「さて、これで準決勝の組み合わせも決まったな」

 

「あぁ。事ここに到ってはどれも見応えがありそうな試合ばかりだ」

 

 準決勝の組み合わせは

 

 ――――第1試合 知性チームVS睡蓮。

 

 ――――第2試合 源氏組VSチャレンジャーズ。

 

 と、なっている。

 

「個人的にはやはり、第1試合が見物であるな。松永先輩が睡蓮相手に如何程にまで喰い付けるかが勝敗の分かれ目であるは明白」

 

「段々と燕もそこが見え始めてるからな……ちょっと厳しいかもしれない。あとワン子、勝てとは言わない……だが、最後まで全力を尽くせ」

 

「気持ちは大いに賛同できるが、私情を挟むでないわ戯けッ」

 

「お前だってちゃっかり盛り込んでるじゃないか」

 

「モモが口にせねば後で控室に参る心算だったよ……」

 

 お互いに言い争う。

 マイクが入っているのを忘れての討論に、2人そろって鉄心殿に叱られたのは必然だった。

 然もあらん。

 

 

 

 

 

 

 ――――準決勝、第1試合。

 

「さぁ、残すところも後4組のみ! 勝利して決勝に進むのは果たしてどちらか!?」

 

 武舞台で見つめ合う両チーム。

 お互いの表情には気負いも緊張もない。あるのは唯、勝つという覚悟だけ。

 不敵に笑うのは燕そのひと。

 

「んふふーッ、負けないからね? 2人とも」

 

「こっちもだよ燕ちゃん。気分転換だったけど、ここまできたら勝たせて貰うから」

 

「此処で勝てば次は主が勝つだろうからね。臣下として主の敵を退けるんだ……悪いが容赦はしないよ」

 

「あら残念。手を抜いてくれてもよかったのに」

 

 内心ではそうしてくれと、思う面は確かにある。

 燕という少女はプライドが高い。まかり間違っても勝利を譲られるなんて矜持が許しはしないが、流石にこの二人相手となると、少し位気まぐれで力を抜いてくれないかな、と思うのは彼女だけでは無いだろう。

 

(ま、清楚の方は何だかんだでKOSの時みたいな威圧感は無いからマシっちゃ、マシだけどねん……)

 

 手加減をしている訳ではない。清楚にとって気分転換であると同時にこの大会は間違いなく鍛錬の一環だ。

 だからこそのあの静かさ。だからこそのあの平常さ。

 KOSの時、最後に見せたあの桁外れの動きは既になりを潜めているのだから。

 

「準決勝第1試合、レディ、ファイッ!」

 

 開幕からは燕の先制。

 その名の如く飛燕の軽やかさな身のこなしでの突撃。それでいて、繰り出される蹴りはライフルの如く。

 咄嗟に弁慶は錫杖でこれを防ぐ。錫杖から伝わる衝撃に、僅かに顔を顰める弁慶。

 だが、そこはパワー系の面目躍如。揺らぐ事無く耐えてみせた。

 

「まだまだッ!」

 

「おっ!?」

 

 燕の攻勢は終わらない。

 足を払い、体勢の崩れた所で力の限りブン投げる。場外へと。

 

「おーっと松永選手、豪快に弁慶選手を投げ飛ばしたー! 1、場外に付きカウントを取ります、2」

 

 追撃を掛ける燕。

 その間、大和はというと――――

 

「へぇー、珍しいじゃないか大和。お前が率先して相手の前に立つなんて」

 

「偶にはこういう所も見せないとね」

 

「とか何とか言って、ホントは場外狙いなんでしょ?」

 

「さあね?」

 

 大和は内心気が気でない。幾ら弁慶の速さが対処できるレベルとはいえ彼女の怪力は脅威だ。

 おまけに戦術についてもやはり見抜かれている。というか、取れる手段が限られているのだからそれを消去法で消していけば答えは直ぐに辿り着く。

 故に、事実を指摘されても焦りは無い。

 以前不利である事に変わりは無いが。武舞台を降りて弁慶と向きあう大和。

 

「あは。可愛がってあげようかな」

 

「生憎と、パワータイプなら慣れっこでね」

 

 一方の燕と清楚といえば――――

 

「えいッ」

 

「なんのーーッ!」

 

 文字通り身体と身体でぶつかり合っている最中だ。

 しかもただ戦っているだけではない。

 

 超の付く位の接近戦である。

 一見して、弁慶と同等のパワーを誇る清楚相手に無謀と思われがちだが実のところそうでもない。

 先にも言った通り知性チームの狙いはリングアウトによる10カウント負けを狙ったモノ。

 チームとしての総合力はどうしても睡蓮の方が大きく飛びぬけている。直接的な戦闘に於いて回避以外は並の大和では荷が重いどころの話ではない。

 そうなると、知性チームが勝つ方法とは必然、上記の手段しかなくなる。

 

 何が言いたいかと言うと――――

 

「此処まで接近さちゃ、殴る蹴るも普通の拳と変わりないもんねッ」

 

「うッ!」

 

 ライフル顔負けの正拳突きが清楚の急所に刺さる。

 見事に身体を打ち抜いた拳だが、清楚は少し後ずさるだけでダメージは少ない様子。

 

「あれま……割とショックだよん」

 

「強いね、燕ちゃん。かなりデキるとは思ってたけど」

 

 ダメージは無いが、焦りはある。

 カウントは既に7までいっているのだ。それは即ち未だ弁慶がリングに戻って来れない事を意味している。

 生憎と、今いる場所からでは弁慶の状態は確認できない。視界の隅にいた大和が足止めをしているのだろうが、どうしても清楚には弁慶を留められるほど強くみえなかったのだ。

 

 ならば何故、未だに弁慶がリングに上がって来れないのか。

 単純な話、拘束されているからに他ならない。

 といっても、大和の武芸で、では勿論ない。

 彼女を足止め出来ているその訳は――――

 

「クッ……まさかこんな妙な手札があったとはね…」

 

「ここぞという時に役立つお守り(・・・)さ」

 

 赤い帯状のものに縛りあげられ、身動きのできない弁慶。

 これこそが、正真正銘大和の切り札。

 

 ――――ノルンに頼んで予め貰って置いた強力な拘束が可能な札。

 

 水上体育祭に於いて、陰陽師の様な真似が出来るという事を覚えていた大和はノルンに協力を仰ぎ、相手が姉と慕う百代ですら抜け出すのに苦労するぐらいの拘束する術は無いかと問うた所に介されたのが今弁慶を縛っているものの正体だ。

 

 正直なところ、頼んだ大和ですら色々な意味で驚いている。

 お札の効果も、そう言った類のものを快く渡してくれた事も。

 頼んでおきながらも疑問に思った大和はノルンに直接聞いたところ、返ってきたのは――――

 

 ――――友、仲間を頼るのもまた結束力、即ち絆の力ぞ。それこそがタッグマッチであろう。ましてや、参加せぬ私が友の為に助力する事に如何なる不都合があろうか――――

 

 という、至極まっとうな正論だった。

 同時に心地良さや照れ臭さ、ノルンの真摯な瞳に不覚にも何故だか胸に来たのは大和だけの秘密だ。

 閑話休題。

 

 兎にも角にもこうして、拮抗できない状況を拮抗出来たという訳だ。

 必死に力を込めて振りほどこうとしているが取れる気配は無い。

 

(よしっ! これならいける……後1カウントと少しだ)

 

 拘束は未だ取れる気配はない。

 この状況ならば十二分に場外による判定勝ちは狙える。大和は勝利を確信した。

 

 

 ――――詰みだ、と。

 

 

 ――――これで王手だ、と。

 

 

 少しばかりズルいと思わなくはないが、彼にとってはそれ以上に勝つ事が重要なのである。

 故に、手段は非人道的で無い限りは行える。

 

(これで――――)

 

「大和君ッ! 後ろッ!」

 

 己のパートナーの切羽詰まった声が耳を撫でる。

 何事だ、と思いながらも後ろへ振り向こうとした大和は

 

「ごめんなさいッ」

 

 やけに耳に通る清楚な声を最後に、意識を閉ざしたのだった。

 

 

 

 

 

「それまでッ! 勝者、睡蓮!」

 

 田尻さんの勝利宣言が場に満ち、会場には歓声が上がる。

 端的にいえば、勝因は清楚が弁慶のリングアウトのカウントギリギリのところで背後から大和を気絶させた事によるもの。

 

「なんというか、タイムだけ見れば大江戸シスターズと源氏組並みに速かったな」

 

「敗因は松永先輩が清楚を抑えきれなんだこと、か」

 

「けど、あの縮地を数回見ただけで対処しろってのは難しいだろう。まず原理からして私達の知るソレと清楚ちゃんが使ったお前の縮地とは異なるんだ。私でもギリギリ二桁の回数に留めたが、分かるまで時間が掛ったし」

 

 なまじ縮地がどいうものかというのを知っている現代の武芸者にとって自身の縮地は確かに見抜くは簡単ではないだろう。

 己の縮地の最も厄介な事は踏み込む為の一歩ごと、タイムラグ無しに空間を跳び越えるという点だ。

 アレは踏み込む途中で跳ぶのではない。踏み込もうとした時には渡る途中であり、ほんの僅かでも歩く意思を明確にすれば既に跳んでいるのだ。

 故に、やっている側も見ている側も傍目には何が起きたか非常に認識し辛い。

 効果は大きいが、通常の縮地と違って扱いはかなりピーキーである。

 

「跳べる距離はまだ僅かなれど、アレをあそこまで扱いこなす清楚には感服致すよ」

 

「確かになー。私でもまだ覚えていないし」

 

「モモの場合、覚える必要もあらぬと思うのは私だけか?」

 

 数キロの距離どころか、数十キロの距離を大ジャンプで跳べる謎の飛行物体人型UFOと間違えられる点で、ピーキーな仕様のあの縮地よりも遥かに扱いやすいだろう。

 

「ところで、大和が使った弁慶を拘束したアレって」

 

「ふむ、次はワン子の試合であるな。激励の言葉を掛けずともよいのかモモ?」

 

「……凄いあらからさまな話題転換だな。一瞬、本気で逸らされそうになったぞ? ま、言いたくないなら良いけどな。さってと、我が妹の所に行きますか!」

 

「解説が2人も離れる訳にもゆかぬ。ワン子の方にはよしなに伝えておいて欲しい」

 

「あいよ」

 

 瞬間、掻き消えるモモの姿。

 圏境で探してみると、当に選手控室にまで辿り着いている事が窺い知れた。

 

 ――――やはり、己の縮地はモモには無用だ。

 

 そう思ったのは間違ってなんかいない筈だ。

 この遣る瀬無さはなんだというのか。

 どっと湧き出る疲労感に、思考を強制的に停止させて放棄した。人はそれを現実逃避ともいう――のかもしれない。

 

 暫くして戻ってきたモモと共に改めて試合を観戦。

 するのだが――――

 

「勝者、源氏組ッ!」

 

 瞬く間に終了してしまった。

 開始直後の義経の弧月。防御される事も考慮していたのか、防いで尚リングの淵まで飛ばされたワン子。

 そのまま気絶し、立てずに終わってしまい勝敗が決してしまったのだ。

 だが、そこは個人的には当然とも言うべき結果である。ワン子の力量では義経達には及ばないし、ガッツだけで凌げるほど甘くは無い。

 

 ならば何が言いたいかといえば、義経の攻撃で失神したワン子の事である。

 

我が力、武を交えず(暗器暗武)……明らかに先ほどよりも精度が増しておる)

 

 失神する要素がないのに気絶したワン子の状況は、非常に身に覚えがあり過ぎる。心眼を使わずとも分かる位に慣れ親しんだ光景は見事、と思わず口に出してしまった程である。

 1回戦でも確かにソレは使っていたが、砲弾の慣性とは違って人の神経の動きなど外部からは本来把握できるものではない。自身の圏境と心眼、そして何より経験と鍛練の積み重ねによって初めてあのように気絶させる事が可能なのだ。一本道を塞ぐのと、複数の道に対してどこから来るのか分からないひとつの対象を遮る事の違いと言えば多少は分かりやすいだろうか。

 思う以上に神経系を狙った技法は難しい。内心の少なくない驚愕をしらずに隣のモモが非難めいた目と同じ色の声を上げる。

 

「おい……」

 

「然様な目で見られても困る。闇夜剣といい、真似られたに過ぎぬ故、な」

 

 嘘は言っていない。

 鍛錬の時などで技術に関する説明はしているものの、一度きりであるし、そもそも我が力、武を交えず(暗器暗武)を良く使うのは他ならない横にいる相棒殿のが最たるもの。

 次いで覇王状態の清楚だ。義経には然程使った覚えも見せた覚えもないので内心の驚きは持ち前の透化スキルで傍目には分からないだろうが顔以上に遥かに驚いている。

 

「取りあえず解説すると、義経選手が一子選手を気絶させたのは唯吹き飛ばしたのではなく、攻撃時の衝撃で瞬間的に体内神経を瞬間的に遮断したが故のものです」

 

 人間の行動は全て脳から発生する微弱な生体電流の信号によって制御されている。

 その流れを一瞬とは言え絶たれれば人は意識を失わざるを得ない。

 技の説明をしていると何やらモモの顔色が変わり出す。具体的に言えば血色の良い状態から→青→白に。

 

「てか、聞けば聞く程危険な技なんだが妹は大丈夫なのか!?」

 

「今頃か? 案ずるな、暫くすれば目覚めよう」

 

「そうか……とはいえ心配には違いないから行ってくるなッ!」

 

 先程激励に向かった時以上の速度で掻き消えたモモ。

 己も心眼で無事が分かっているとはいえ、心配は心配なので頼むと言おうとしたのだが――――

 

「せめて返事を聞いてから参れと……」

 

 嘆息を押し殺して会場に設置したモニターをみる。

 

 ――――決勝戦 睡蓮VS源氏組。

 

 奇しくも武士道プランの申し子同士の戦い。

 しかし、事前に入っていた事が本当だとすると、最低でも弁慶は動かないだろう。

 義経の敵を倒すと豪語して憚らなかった弁慶が、義経大好きっ子の弁慶が義経に敵対するなどあり得ないのだから。

 だが、今の義経の剣氣からして棄権は向こうからしないように言ってくるのは予想するに難くない

 

(ともなれば、だ。試合の流れは大凡……ふむ、なかなかどうして白熱しそうであるな)

 

 若獅子タッグマッチトーナメントの終わりはもうすぐ。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。