気まぐれ神様の物語 真剣恋Ver.   作:ジーザスルージュ

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これにてにじファンに投稿していた分の移設完了です。

加筆してたら遅くなり、楽しみにしてい貰っている読者様方には大変申し訳ないです。


51話

 若獅子タッグマッチトーナメントは結果として大盛況の中、幕を閉じた。

 誰もが繰り広げられた神話の再現を、御伽話でしかあり得ない筈の戦いを目の当たりにして歓喜し、勝者、敗者に関わらず惜しみない称賛が送られる中、幕を閉じた。

 特にエキシビジョンも含めて全ての戦いを制した義経は、今や時の人と化して人々に歓迎されている。

 

 それはまさしく英雄の凱旋。

 尤も、負かした相手の胸に抱きついて散々泣いた彼女はそのまま泣き疲れて眠ってしまうという当人にとってはイマイチ締まらない終わり方ではあったが、それでも義経は迎えられた。勝利してのあの涙が、一層彼女の魅力を引き立てたらしい。

 翌日にも関わらず取材依頼が殺到していたのは驚いた。

 もっと驚いたのは

 

「申し訳ないが、今はまだ心の整理が付いてないので取材は控えさせて欲しい」

 

 何処までも落ち着き払ってマープルに願い出た義経の反応だ。

 従来の彼女なら大体にしてテンパりつつも取材を受けていただろう。それが、今はこんなにも冷静に返す事が出来ている。

 義経が醸し出す超常的とも言える清澄な雰囲気にマープルも思わず頷いてしまうほどだった。

 一夜明けてどうにも色々と昇華されきった様子。

 そんな彼女がタッグマッチトーナメントが終わって翌々日の早朝に何をしているかといえば

 

 ――――鍛錬である。

 

「――――破ッ!」

 

 若獅子にて会得した時間を遡る一刀。

 閃光が駆け抜けた後には既に振り抜いた義経の姿。

 肩で息をしてかなり疲労しているのが窺えた。やはり、消耗が激しい技の様だ。

 再び構える義経を見て、待ったを言い渡す。

 

「ノルン君……」

 

「其処までだよ義経。それ以上は今日一日に差障るというものだ」

 

「…………そう、だな。うん、此処までにしておこう」

 

 刀を収める義経。側で見ていた弁慶はそんな義経に対してタオルと水を渡して労う。

 片手にタオル、片手に水を以って礼を言った義経は渡された水(レモン果汁入り)を飲む。

 喉を鳴らして飲む様は見てる者も飲みたくなる飲みっぷりだ。

 

「義経のあの秘剣は、基本的に一日2発、無理をすれば3発位か」

 

「ン……プハッ、そうみたいだな。発動までの溜める時間は氣を内側に常に循環する事でかなり縮められているが」

 

「うむ、約1,7秒、しかも義経が言った方法なら僅かに時は延びるも闘いながらも溜められる故、実用的よな」

 

 纏うべき氣を敢えて内側に循環させて身体ごと制御する身体の極をこの世界流に再現した技法。

 循環させたそれを高濃度に圧縮すれば闘いながらでも瞬時に充填が可能というのだから便利な技術だとつくづく思う。

 

「次はノルン君の持つ極、必ず並んでみせるッ」

 

「呵々、早々破らせぬよ。それに、まずは出させる事から始めねばな。まだまだ佚之太刀を完封するには到っておらぬし」

 

「うッ……精進する」

 

「落ち込まない落ち込まない」

 

「大丈夫だ弁慶」

 

 臣下に励まされて穏やかな顔の義経。

 あの秘剣は実は未だに完封には到って無い。何故かといえば技の出掛かりが彼女にはまだ察知出来ないから。

 あの時、最後の瞬間に技の名前を言っていた若獅子の時ならいざ知らず、無言のままに放つと持ち前の透化スキルによってその発動が読めないらしい。

 一応、昨日は義経の頼みで鍛錬に付き合い、回復を重ねてやっていたところ全体で的中4割弱と決して高いとは言えない的中率だが、それでもその数だけこちらを封殺は出来ている。

 しかし、これらの結果からやはりこの秘剣は義経が遡るべき一手を認識していないと発動できないというのは弱点に他ならないだろう。

 その辺りでまだまだ到らないと義経は思っているのだろうが、既に十分に尋常ではない事を彼女は自覚していないのは微妙に遣る瀬無い。

 

(私は、師の佚之太刀を打ち破る明鏡止水はおろか、佚之太刀会得まで云千万、数億という年月を費やしたというに……)

 

 切っ掛けを与えられたとはいえ、確りとものにできるかは各々の次第。

 その点ものにできた義経は素晴らしいの一言に尽きる。

 

「どうかした?」

 

「や、なんでもあらぬよ清楚」

 

 どうやら、黙り込んでしまったのが不思議に思ったらしい。首を振って思考を隅に追いやる。

 

「おっと、もうこんな時間だ。今日は出かけるんだろう? 朝ご飯にしよう」

 

「あぁ、そうだな。と、義経?」

 

「ほら、早く早くッ。弁慶と清楚先輩も」

 

「はぁーい」

 

「待って、今行くよー」

 

 駆け寄ってきた義経に手を引かれ、訓練室を後にする。

 凄まじく良い笑みと妙な押しに流されて、という締まらない形で。

 

 

「…………」

 

「あー……紋?」

 

「……なんだ?」

 

「話は、昨日のソレで納得して貰えなんだか?」

 

「いや、納得しているぞ……」

 

 ならばその僅かとはいえ不満顔は何なのかと。

 

 現在不機嫌な妹こと紋白。彼女の不機嫌の理由も、やはり隠し事。

 百代にこの身が勝った事があるとは紋は知らなかった。というよりも、九鬼家でも知っているのは己が九鬼の中に籍を置いた時に調べたヒュームとクラウディオのみ。

 事前に察知して即座に口止めしてくる貰えるよう頼み込んだのだ。

 

 隠した理由は単純に目立ちたくは無かったから。

 モモという例を見れば分かる通り、此処川神で一度武名を知られると際限なく挑戦者が後を絶たなくなる。

 倒した相手があのモモなら尚の事。

 九鬼に入ってからは比較的に何故か上昇している運気だが、今までの経験からしてはトラブルを呼び込む要素は出来る限り排したかった。

 だからこそ黙っていたのだが、紋にはやはり隠し事をされたのはお気に召さなかった様で、昨日の義経祝勝会の間は序盤から中盤まで紋の事情説明に費やしたと言っても過言ではない。

 

 無論、紋は賢い子なのでその理由も重々分かってはくれているだろう。

 理解はしているが、感情は納得していないという所だ。

 モモやワン子に対する対応からしてもそんなところと見受けた。

 紋は前者には姉を倒された事、後者には兄の懸想を拒んでいることから態度が硬化してしまっているのが難点である。

 切っ掛けがあれば良いのだろうが残念な事にそれも掴めず仕舞いである。

 

「ふむ……紋、今日、今からの予定は空いておるな?」

 

「? 空いてはいるが……そういえば出掛けると言っていたな。義経達も一緒か」

 

 視線は後ろにいる義経達へ。

 紋の言葉に首肯して応える義経。その顔は訝し気だ。

 

「そうなのだが、義経も何処に行くのかまでは聞いて無かったな……」

 

「そういえばそうだね……」

 

「自由参加って聞いてたから与一君以外のみんな行く事になったけど……」

 

 弁慶も清楚も、視線は一点に集中。具体的に表現すれば何処に行こうというんだ、とものがたっている。

 周りの様子を見渡し、笑みを深めて言い放つ。

 

「これより武神を倒しに参るのだ」

 

 周りにいた全員が揃ってキョトンとする顔は実に見応えがあった。

 

 

 

 

 

 結局紋も付き合う事となり、一同で多馬川河原へ。

 其処には既に多くの人だかり――――それも格闘家や川神院の門弟、騒ぎを嗅ぎ付けた野次馬で溢れかえっている。

 夏の暑い日差しの中、御苦労さまと言いたい。切に。

 群れる野次馬の中に見慣れた一団、というか文字通り頭一つ跳び抜けたガクトが下を向いて誰かと話している姿。

 あの付近にいるのがファミリーの面々だろう。

 F組のクラスメートという可能性もあるが、それでも最低限モロはいると見受けた。

 

 そのまま近付いて肩を叩く。

 振り向いたモロ達にやぁ、と手を上げて挨拶。側にいた紋や義経達も同様に声を掛けた。声に反応して周りにいたファミリーの面々も気付いてこちらに振り向く。

 

「何やらもの凄い人だかりであるなぁ」

 

「モモ先輩があっちこっちで触れこんでたよ。ノルンと正式に勝負するんだーって……」

 

 苦笑いを作ったのは正しい反応だと思う。

 それが証拠にファミリーの面々はヤレヤレ、しょうがない、と言わんばかりの雰囲気を作っている。

 相変わらずのグダグダ空間の中、大和が少し表情を曇らせて遠慮がちに尋ねてきた。

 

「あんまり落ち込んでないんだな、ノルンは」

 

「む? 落ち込む?」

 

 大和の言葉に首を傾げる。尋ねてきた大和からは気遣いの色が窺えるのは明らかだ。

 思考を巡らせ、落ち込む要素を探してみた。

 しかし、巡らせども巡らせども落ち込む様な要因が見つからない。

 

「あぁ、それは我も少し思っておったな。引きずっておる様には欠片も見えぬあたり、見事であるッ」

 

 妹も大和と同じ意見らしい。しきりに肯いている様子はとても愛くるしい。

 閑話休題。

 だがしかし、余計に何に対して言っているのかが益々思い当たらない。

 

「一体、私が何に落ち込むと申すのだ?」

 

「え」

 

「え」

 

「?」

 

 場が凍った。

 無論比喩ではあるが。どうやら今の発言が原因らしいのではあるが、やはり心当たりは無いので首を傾げるばかり。

 お互い見合って――コイツ何言ってんだ――と言わんばかりに見つめ合っているのは実にシュールである。周りの表情は推して知るべし。

 流れを見兼ねた弁慶が、溜息を吐きながら指摘してきた。

 

「あぁ……ノルン? 多分、大和も紋白も義経に負けた事を言ってるんだと思うよ」

 

「義経に負けた事? また、何故(なにゆえ)? 戦いに身を窶す者にとって勝敗は常であろう。負けたからと言って塞ぎ込む道理はあるまいて」

 

「い、いやー……それはそうなんですけど」

 

「あのねーオラが思うにねーモモ先輩に何時も勝ってるってことは殆ど負け知らずだから、英雄とはいえ義経に敗れてショック受けてねーのかって言いたいんだよ、何で余裕シャクシャクなんだよコンチクショー!」

 

「何を逆ギレしておるのだ……」

 

「ま、松風! 失礼ですよ、めッ、です」

 

 相変わらずのシュールな光景にも慣れたもので、住めば都ではないが、そんな心境に近い。

 閑話休題。

 しかし、このストラップ――というか後輩――の言葉で合点はいった。

 成程、と再び苦笑を禁じ得ないのは必然だった。

 苦笑いの原因、それはこの世界と己とのある意味最大のギャップなのか知れない事を思い知ったからに他ならない。

 

 世界にとって川神百代という人物は誰もが知る最強の代名詞。その圧倒的武力に世界の目は密かに、しかし常に向けられていると言っても過言ではない。

 世界有事を引き起こせるのだからそれも当然といえば当然である。最終兵器MOMOYOか。

 そんな色々な意味で人間爆弾に対して(今のところは)常勝していれば、ある意味負け知らずと思われるのも無理からぬことなのかもしれない。

 だがしかし、それこそが絶対的な認知の違いか。亀の甲より年の功と言うべきか。

 苦笑いのままに、それを指摘する。

 

「モモに常勝しておる事が負け知らずと同義と思うのは些か早計だぞ? 世界は存外広い。佐々木の様な武士(もののふ)も他におらぬとは限らぬ」

 

「それも、そうですけど……」

 

「いやいやいや、あれクラスが無名でいるとか奇跡にちけぇーYO!」

 

 そこのとこは大いに同意しておく。

 

「ましてや義経は私を目指して研鑽を積んでおった義経なら尚の事、な」

 

 寧ろ、この辺りは己にとっては喜ばしい事ではある。

 例えどんな形であれ、目標とされて嬉しく思わない者はいないだろう。ましてや、その人物が己に届いたとあればまさしく感無量というもの。

 

「まぁ、なにより最大の思い違いは――――」

 

 

 ――――私は殆ど毎朝打ち負かされておるという点だな。

 

 

 再び場が凍りついた。

 尤も、先程とはニュアンスが大分異なるが。

 聞いていた誰もが共通して同じ顔をして、こちらに視線が集まっている。

 瞼は最大まで開かれ、目に入った力は眼球が飛びださんばかりに突き出ており、口は大きくもなく、しかし小さくもない程度に開かれ言うならば"あ"と"お"の中間辺り。

 詰まる所、ポカーンな顔という奴だ。 

 

 無理は無いかもしれないが、しかし事実である。

 己の記憶から再現された師匠の幻影には、ほぼ全戦全敗と言っても過言ではない。

 唯一勝てたのは、秘剣 明鏡止水を以って打ち勝てるかと試した一回限り。

 予定が無い限りは粗毎日やっている為、先程の言は紛う事無く事実なのだ。

 

「おおーーーーいッ! 何時まで油売ってるんだッ! 来てるのは分かってるんだから早く来い、ノルン!」

 

 呵々、とその様子に笑っていると人ごみの中心から試合相手からの催促が飛ぶ。

 人ごみの喧騒に負けない様に応、と声を張り上げての返事。未だに顔を石の如く固めた面々を置いて踵を返した。

 去り際に意識が最初に戻った義経の困惑の声が背中を撫でる。

 

「の、ノルン君……ど、どういう事なのか義経にも詳しく教えて欲しい!」

 

「今日はモモが先約故、また後に、な」

 

 ヒラヒラと振り返らず手を振って肉林を真ん中へと歩を進めた。

 

 

 

 

 人ごみを掻き分けてその中央に出れば、不敵に構える武神こと川神百代。

 こちらに既に気付いており手を上げてよう、と挨拶をしてくる。

 同じ様に手を上げて返礼。

 

「いやー、思ったより人が集まってしまったな」

 

「よく言うたな。これみよがしと触れまわったと聞き及んでおるぞ」

 

「当然だろう。初めてノルンからの対戦の申し込みだぞ? 嬉しすぎてテンションが天元突破だ」

 

「此奴、開き直りおった」

 

 言葉に反して己の顔は不機嫌面などでは無い。

 むしろ、笑っているだろう。彼女らしい物言いに。

 今日、モモと戦う事になっているのは他でもない己からの申し出だ。

 それも非公式では無く公式な舞台での。

 

 若獅子での敗北から一夜明けた翌日、即ち昨日の朝。

 朝稽古の始まる前に川神院を訪れてモモに対し、試合を申し込んだのだ。

 理由はモモの失言から始まり、アレを気にもう隠し通す事自体が不可能と判断、何より既にそれらしい事を知れ渡ってしまった段階で隠そうとしても悪あがきである。

 ものにもよるが、己にとってはこういった事態の時は下手に悪あがきはせず――してしまうと自体が悪化する可能性が高いため――にきっぱりと諦め、どうせ大っぴらに知らしめるなら公式の試合で行う方がいいという結論に達した。

 

「……何よりそれが、今まで秘匿に協力してくれたモモに対する最低限の礼儀であろう」

 

「私がどうかしたか?」

 

 小首を傾げる幼馴染に不敵に笑いかける。

 

「なに、今までと異なりここでの敗北を即刻名を落とす故な……ここまで触れまわってよかったのか、とな」

 

「ハッ、お前を倒せば万事解決だろう? 初の公式試合でお前に初白星をもぎ取る……実に心躍るじゃないかッ!」

 

 溢れんばかりの闘氣。

 出力が強すぎて余波だけで衝撃が周囲に拡散しており、身に纏う狩衣の袖が激しくはためく。

 ただ、周囲はどうにもその言葉に今の減少以上に驚愕していた。

 無敗である筈の武神がKOSの優勝者の1人に勝った事が無い。何回闘ったのかは周りには分かっていないが、会話だけ聞いてもそれなりに回数を重ねている事が窺い知れているだろう。

 現に紋なんかはこれでもかというほどに目を見開いていたりする。

 

「呵々、まだまだ……取らせる心算はあらぬぞ?」

 

「言ってろ、今日こそ勝つッ!」

 

「……それで、オヌシは何故ここを試合場所に指定したのじゃ?」

 

 問うてくるのは見届け役にと頼んだ鉄心殿。

 試合を行うにあたって場所だけは己がこの場所と指定した理由を尋ねてくる。

 此処選んだのは単純明快で被害を極力なくすためだ。

 モモ相手に全力の勝負を所望して、これを受諾された以上は願い出た方が場を整えるのは道理である。

 

「モモと全力の勝負を行うならば此処でなくてはならぬのです」

 

「む? 確かにここは開けておるが周辺の被害とてゼロでは無いぞい」

 

「それを限りなくゼロとせんがために此処を選んだのです……」

 

 川神市に流れる多馬川の河川敷。

 丁度多馬大橋が見えるこの位置取りで無ければならないその訳は

 

 ――――此処がこの町に於いて二番目に高位の霊脈である為に。

 

 この街で一番の霊脈は川神山なのだが、多馬川を挟んだこの多馬大橋のみえるこの場所も立派に霊脈のあるところ。

 そもそも、土地的に力を保有する場所というのにはそれなりに規則性があり、山の上や坂、橋や道の交わる辻、或いは人里離れた郊外など、多岐に渡るがここはその中でも2番目に高い。

 ちなみに僅差で迫るのがあの川神院が立っている場所である。色々と考えさせられるが今は無視。

 

 徐に蔵から取り出すのは五つの金色の独鈷と呼ばれる仏具。

 周りの野次馬にある程度離れて貰い、確認したところで四方八方の五か所の地面に独鈷を投げつける。

 

(カイ)ッ!」

 

 言葉と共に独鈷を基点に光で描かれる五芒星の円陣。それは数瞬の内に消え、辺りには蛍火にも似た紫の粒子が漂う。

 

「これは……結界、かの?」

 

「如何にも。展開されたこれは土地の霊脈を利用し、結界の内外に問わず結界に干渉した力を変化して霊脈に返すものです。理論上同じ様に土地自体に干渉せぬ限り、力技ではこの結界を破る事は叶いませぬ」

 

 この術式はある程度土地の霊脈が太くなければ土地のバランスを乱しかねない。

 一応調整も可能ではあるが、やはり万全を期すにはある程度大きさが必要であり、川神院では不安要素があったためこちらを選んだのだ。

 

「…………ようは此処でなら全力を出しても被害はでないし、邪魔もされないって事で良いんだろう?」

 

「うむ、端的に申せばその通り」

 

 凄まじく軽く片付いたが、何気に高等技術なのだがな、これ。

 閑話休題。

 

「では始めようか」

 

「おうッ!」

 

「それではこれより、川神百代対九鬼ノルンの試合を執り行う」

 

 交わる視線。

 お互い笑みを絶やさず不敵に笑い合う。

 

「覚悟せよ、今回は久方ぶりに強化を行う故な」

 

「お、なんだなんだ若獅子でも使って無かったのに、どういう風の吹きまわしだ」

 

「なに、敗北を機に初心に帰ってみようか、と思うたのが1つ…………後はまぁ、暴露してしまえば、今の今まで忘れておったのもある……」

 

「はぁ? あ、あぁ~……普段から頼らない様に心がけてたから、か?」

 

「如何にも、だ。それにこの技はリターンは絶大だが些かリスクが高い故、な。使用を控えて久しかったが……此度はこれを使わせて貰う」

 

「いいぞ、やってみろよ。それすらも打ち砕いて私が勝つ!」

 

 鉄心殿の試合形式――無制限一本勝負の各々武器は単一のみというもの――を確認していく中で、強化のための下準備に入る。

 

体内結界(Alter)展開(ON)――――」

 

 身体を境目にその内側に広がる結界。展開された事で魔力が消耗されていく。

 

「それでは両者、始めい!」

 

「行くぞ!」

 

 爆発的な踏み込みによる接近戦を仕掛けてくるモモ。奇襲に対する奇襲らしい。

 確かに今まで類をみないこの速度ならばこちらの不意を付ける。

 どうやら試合を見ていただけでまた成長を見せたらし。出鱈目な奴だ。

 

 ただし、今までの動きならばだ。

 モモが踏み込む時には既に強化は発動している。

 

「――――固有時間(Time)加速制御(Accelerat)

 

 キィィン、と久しぶりに聞く甲高い音と共に視界に映る全てがスローになる。

 これこそが、己の持つ強化方法――――体内に限定した固有結界の内部の時間を加速させ行動を魔力出力の調整で1,1倍~3倍まで加速可能な強化方法。

 

 その昔、弟と世界を渡り歩く際に聞いた親爺殿の現役時代の話。

 徹底した暗殺者で、情報の隠匿をしていた彼がさる組織の極々一部でのみ知られていた親爺殿やその家系が行使する魔術こそが固有時制御だったと聞いた時に親爺殿の夢の後押しのみならず、幼心ながらにより確たる形を欲した己が、独自に研鑽を重ねて行き着いた境地。

 

 体内時間の制御は確かに強大だが、その分解除した時には世界の修正力による多大な肉体負荷というリスクが伴う。

 それを戦闘下に限定して先延ばしにしたのが、この我流の固有時制御だ。

 一度固有結界を体内で展開し、その上でさらに時間を制御して時間を操る度に固有結界を開閉せずとも持ち前の膨大な魔力で結界の維持と時間制御のリソースに割き、かつ固有結界を任意で開閉する事でリバウンドの現象を先送りにする方法。

 無論、それまでに加速した時間分の反動は蓄積される上、理論的にはこの方法だと固有結界ごと瞬間的に開閉しての時間操作より最低でも数倍の消費があると思われる。

 加えて反動が蓄積する為、結界を解いた時の反動は想像を絶するものだ。

 

 だがしかし、肉体は人間だが魂は人外の為か生まれつき肉体自体の素のスペック自体が高い。

 具体的に言えば、9パラが至近距離で直撃しようと痣どころか赤くなるだけだったり、狂ったギリシャの大英雄の渾身の石剣の一撃が直撃しても重度の打撲で済ませたり、ワンボックス型車両一台を両腕で軽々と上げたり、ただ走るだけで車の一般的な制限速度を越したりなど。

 ましてや身体の極を会得してからは更に変態的に性能が上がっている。

 何が言いたいかといえば、後々の反動も一般の肉体と比較しても遥かに軽く、また加速された事によってより変態的になるという事。

 

 スローでありながらも凄まじい速度で迫るモモの姿。

 その速度に色々と驚嘆しつつも、ギリギリまで引き寄せて伸ばされ始めた腕を片手で持ち、重心移動を駆使して放る。

 ゆっくりと飛ばされる中、無防備なモモの身体に模擬刀を振り下ろす。

 轟音と共に墜落するモモ。

 魔力を抑えると共に加速も最小限まで抑えられる。

 

「グゥ……!? なにをした!?」

 

「身体強化だが?」

 

 モモにとっても、そして周りから見ても何が起こったのかは把握できないだろう。

 だが嘘は言っていない。

 時間停止などよくあるが、緩急をつけた優れた体術と2倍~3倍速程度の時間加速でも結果的には似たような事が出来る。

 

「だが、まだまだッ!」

 

 淡く光り出すモモの身体。

 川神流瞬間回復による治癒で瞬時にダメージを直すモモ。

 倒れた状態からダメージを感じさせない軽やかな動きは、常人なら良い具合に絶望感を相手に与える事請け合いだ。

 

「相も変わらず厄介よな、その技」

 

「私は今や1回の戦闘で50は使えるぞ」

 

「しんどい事だ……が、こちらも全霊と申した手前それも早々に潰させて貰う」

 

「やってみろよッ!」

 

 突貫してくるモモの身体。再び最大まで加速した世界でみるその光景は――――

 

(明らかに速さが増しておる……それもほぼ倍に近い!?)

 

 固有時制御による加速で未だ緩やかに見えて入るが、同じ加速域の中で比較してもほぼ倍速で動いてくるあたり適応力が尋常ではない。

 しかし、それでもまだこちらが早い。速いでは無く、早いだ。

 

 滑り込むようにして入り込み、震脚と同時に刀を振り下ろす様に手刀を打ち込む。身体が沈んだ所に即座に体勢を戻し、再び震脚を用いての拳の突きで飛ばして得物を縦に一閃。

 八極拳は金剛八式 降竜から衝捶、闇夜剣壱之太刀 弧月の連撃。

 拳の攻撃は長刀を持っていない右手のみでやっている為、モモ相手のみならず本来なら2打目の衝捶は間に合っていないがそれを可能にするのがこの固有時制御の利点である。

 

 再び地面に沈むモモ。

 だが、ムクリと立ち上がり、再び瞬間回復によってダメージを無くす。

 その顔は我得たりと言わんばかりに困惑から喜色に変わる。

 

「お前の強化方法、何となくつかめたぞ」

 

「ほう、してそれは如何な方法だ?」

 

「口にするとちょっとアレだけどな、多分時間が加速しているんだろう……それも身体だけな。大体、2倍位か?」

 

 モモの台詞に向けられた相手よりも周りが色めき立った。

 主に、そんな馬鹿な、といった具合に。

 

「ね、姉さん……幾らなんでもそんな――――」

 

「や、正解だよモモ」

 

「認めちゃったよ何なんだこの人外共ッ!」

 

 結界の外で大和やモロが騒いでいるが無視である。

 それは兎も角、たった2回のやり取りで見抜かれるとは流石に予想外。

 少なくともあと数回は行けると思ったのだが。

 

「呵々、まことデタラメな適応力よなぁ……」

 

「お互い様さ」

 

「ハッ……」

 

「フッ……」

 

 不敵に笑い合う。

 戦い自体は好きではないが、こうして戦いを経て己を研磨されていく感覚や、人の成長する姿は何時も心躍る。

 

「ま、倍速で動くと分かったなら、そう弁えた上で動けばいいだけ……行くぞッ!」

 

「何時でも」

 

 モモが振りかぶると同時に抑えていた加速を戻す。

 会話する時は極力抑えなければ会話が成立しないという点も地味な弱点かも知れない。

 閑話休題。

 

 突き出される拳はそのまま振り抜く事無く、半ばまでいったところでモモの姿が消えた。

 圏境による探知で右側に姿を捕捉する。

 それは間違いなく己の縮地であり、大方若獅子でこの身や清楚、義経のを見て覚えたらしい。

 距離にして手を伸ばせば触れられる彼女の間合い。長刀への対策か、得物を蔵に直したのはまさに直感以外のなにものでもない。

 極近まで瞬時に近付いた彼女の拳を手刀で払う。

 それと同時に放たれる左を受け流し、払った右腕が巻き戻しの様に戻ってくるのをみて更に弾く。

 

 徐々に速度を上げていく応酬。

 何より驚くべきは、今の己に喰い付いている所だろう。

 幾らこちらがまともに使えるのが片手だけとしても、どれだけモモが規格外であろうと同等の反射神経である以上、倍速以上で動くこちらが優勢にも関わらず拮抗して隙が出来ない。

 反射では無いのは確かだが、時間が倍速の領域で此処まで食い下がれるほどモモの行動予測は高くない。圏境も心眼もどちらかといえば不得意な彼女がここまで食い下がれる理由を探り、探り、探り、1つの技術に思い当たる。

 

「聴勁か……ッ!」

 

「ハハッ、ご名答! 流石に八極拳や太極拳使ってるだけあって気付くのが早いな」

 

 触れ合う事で相手の力の動きから次の手を予測する聴勁と呼ばれる技。

 時間が加速している己に追従できるのも道理だ。

 

「戦いは本能に任せてと語るモモらしからぬ手段だな」

 

「お前に勝つ為にはこれ位するのは当然だろッ」

 

「然様か、しかし速度で勝てると思うでないぞ。次は三倍速だ」

 

「ぬッ!?」

 

 言葉と共に魔力を更に高めて加速させる。3倍速――厳密には3,2倍速――の領域に押され始めるモモ。

 拮抗は程なくして崩れる。

 武神の腕をすり抜けて鳩尾に置く左の掌。すかさず踏み込み、震脚と同時に相手の足が僅かに浮き上がる程度やや上向きに打ち込む。

 

「ガッ――ハアッ!?(内臓がもってかれたッ……背骨も粉砕された、か!)」

 

 持ち上げられる様に身体を浮かせ、手の上で堪らず血と息を吐き出されるモモ。

 金剛八式亜流 川掌、降龍の複合寸勁、絶昭 臥龍。寸勁から繰り出される全威力を身体に集約させ逃がさない様に打ち込み、臓器と芯である脊柱を砕く。

 しかし、それもモモには然したる効果は望めない。

 

「川神流、瞬、間……回復!」

 

 突き出したこちらの腕を掴み、淡い光に包まれたモモは瞬く間に苦悶の表情を収めた。

 ギラついた笑みを浮かべて瞬時にこちらの腕を圧し折ってきた。

 生理的に嫌悪感を齎す音が耳を打つ。

 しかし、極限まで透化された精神はそんな痛みすら遮断する。即座に身体を丸くなるように懐に潜り込ませ、左肩からの体当たりで距離を広げた。

 

「右腕、もぉーらい!」

 

「相も変わらず、不条理極まるな瞬間回復は」

 

「……腕折られて其処まで涼しい顔されてるやつに言われてもなぁ」

 

「精神1つ、鍛えらばこの程度の痛みや損傷で運動機能を損なう事は無い。腕の欠損は重心と筋骨の操作で補ってみせよう」

 

 一矢報いたのがうれしいのか、腕をへし折って獣的笑みを浮かべる姿は常人なら恐ろしいという感情を禁じ得ない光景だ。

 現にギャラリーはドン引きである。

 

「それが出来るからお前も大概だよなぁ。さて、その時間加速はいい加減鬱陶しい……なので、潰させて貰うぞ」

 

「ほう、やれるとでも?」

 

 この固有時制御を止めるには術者を気絶させるか、或いは密着状態で捕獲すればその効果は潰える。

 状況からして、加速を封じると同時に倒す心算だと心眼は告げるが――――

 

(この状況でなら間違いなく術者を昏倒させる方法……の筈だがそれだと加速を潰すという言には微妙に喰い合わぬ)

 

 視線の先にいるモモは氣を急速に高めていく。その密度はマスタークラスの人間ですら背筋を震わせる程の高密度のもの。

 

「KOSでも若獅子でも、お前の奥義っぽいものは見たからな……アレを封じた上で勝つ為にこの2週間、練りに練った新技だ。勿論受けてくれるよな」

 

「だが、断る。義経の時は受けたのではなく、何が出るか分からず結果として受ける羽目になったが、元来私がそういう類の事をせぬのはよく分かっておろう?」

 

「ハハハッ、あぁ知ってるよ。強者とはどんな困難も窮地も押し退けて進める者を指すっていってるもんな。けど、お前は当たらざるを得ないさ。この技の半径は約30メートルだからな」

 

「ッ……!」

 

「そう、この結界の半径とほぼ同じだ」

 

 言っている事に嘘偽りは無いと、心眼を持っていなくても伝わる絶対の自信に溢れた言葉。

 氣が高められるごとに増す悪寒の正体はこれの様だ。

 

「何度目か分からんが、今日こそ勝つッ!」

 

「私も幾度と申したか忘れたが、まだ取らせぬよッ!」

 

 闘氣溢れださせる者と何処までも外へは放出しない者。

 張り詰められた空間の中、静かにお互いを見据える。

 時間すら凍り付いたかと錯覚し得る状況は、なんの脈絡もなく動きだす。

 

「川神流――――」

 

加速制御(Accele)二乗強化(Strengthen)!」

 

 時間の加速下に置かれている為、出だしはこちらが早い。

 グラスを鳴らした様な甲高い澄んだ幻聴が聞こえる。同時に加速し、あらゆる時間が制止しているかの様に世界が眼前に広がる。

 厳密には停止しているのではなく、限りなく遅くなっている。

 詠唱にもある様に最大3,2倍にまで伸ばせる加速を最大10秒間だけ加速数値を更に二乗計算で強化する己の固有時制御に於ける奥義にして禁呪。

 秒間10,24秒まで圧縮されれば如何に丈夫な身体だろうと腕を動かすだけで軋みを上げるが関係ない。

 縮地で目の前まで跳び、金剛八式 衝捶を我が力、武を交えず(暗器暗武)で勁脈目掛けて打ち抜く。

 

「――――太きょグフッ!?」

 

 二乗加速を解く。

 奇声を上げて後ずさるモモを視界に収め、静かに構える。

 起き上がり打たれた腹を押さえて苦しそうにしており、ダメージが綺麗に入ったのを物語っている。

 

「ゲホッ、ゴホッ、やってくれたな……だがまだ、回復――――できない…だと!?」

 

「今の一撃は勁脈に打ち込み、流れを乱させて貰った。回復は愚か強化も満足に為せぬぞ」

 

「な――――」

 

 驚愕と共に力むようにして身体を震わせるも、やがて無理だと悟って肩を落とす。

 それでも視線は好戦的なまま決して逸らそうとはしない。

 再度蔵から模擬刀を取り出す。

 

「……敢えて申すが、降参は?」

 

「……逆の、立場なら…どうす、る? 答えは、否、だ…ろう」

 

「如何にもだ。それが避けられ得ぬ戦いならば、な」

 

「同じだ、よ……私も、なッ」

 

 震える足で立ち上がるモモ。

 周りでは彼女の身を案じて止めてくれと声が掛るがモモは聞こえていないのかはたまた聞いてないのか反応はしない。

 声はそのまま鉄心殿にまで止めてくれるようギャラリーの多くが説得するが、一向に彼は動く気配は皆無だ。

 

「お心遣い、痛み入ります鉄心殿」

 

「お、う……感謝するぞ、ジジイ」

 

「ワシに審判では無く見届け人を頼んだ理由がよう分かったわい。揃いも揃ってどっちかが一方的な結果になる事を予見しておったとはな」

 

「真剣にして全霊の勝負、余計な水入りなど無用だ。無論、鉄心殿は心得ておりましょう。然りとてギャラリーにまでそれを求めるは些か酷というもの……」

 

「突き、詰めれば……戦い、って、のは倒す、か倒されるか、だ。いち武人と、して……舞台に立って、ない者が、どうこう言って欲しく、は無い。個人、と、しては、有難い、けど、な」

 

 紡がれる言葉に誰もが声を失う。

 其処には犯し難い何かがある。例え傍から見れば一方的な唯の蹂躙に過ぎないとしても。

 

「では終わらせようか、モモ」

 

「クッ……」

 

 秘剣 明鏡止水による一撃で吹き飛び、そのまま気絶する。

 モモの顔は終始悔しそうな視線と堪え切れないような笑みで染まっていたのだった。

 

「勝者、九鬼ノルンッ!」

 

 見届け人としての最低限の務めか、鉄心殿の勝利宣言を耳にしながらモモに近寄った。

 模擬刀を収め、気絶して倒れ伏すモモに義経の時と同じ完全回復陣を構築――起動すると同じ様に身体にコツン、とノックするように拳を一中てし、乱れた勁脈を戻して回復。

 回復が始まって間もなく、モモが目を覚ました。回復陣によって瞬く間に癒えていく身体を見る度に人間かと疑いたくなったのは秘密である。

 

「あぁ……また負けたなぁ、ちっくしょう…また勝てなかった」

 

「お疲れ様、だ」

 

 吐かれる言葉とは裏腹にお互い笑い合う。戦った後は何時も大体こんな感じだ。

 モモと戦うのは鬼と戦うのと似ており、後が爽やかに終わるのでとても晴々とした心持ちになれる。

 本人に言えば調子に乗ってところ構わず挑んでくるのでこれも秘密だが。

 

時間制御(Time)終了(release)体内結界(Alter)解除(OFF)――――」

 

 軋み揚げる身体と襲ってくる激痛に思わず僅かに呻いてしまった。

 

「ノルン!? おい、大丈夫か!?」

 

「もんだ、い……あらぬ。……フゥ……体内時間の加速なんどという、大技のツケを今支払っている、ところだ」

 

 時間のズレを修正する世界の干渉はどうあってもまのがれ様が無い。

 なので、己が編み出した戦闘活用法の1つが結界と固有時制御の魔力運用を個別化して展開している結界が解けない限り反動が襲って来ないようにしたのだ。

 これで戦闘中にも一回の詠唱のみで後の加速の制御が魔力の出力調整如何で自由自在であり詠唱を更にプラスすることで加速自体の強化も可能になったのだが、如何せん解いた後の蓄積した反動が大きい。

 常人ならば間違いなく即死もののそれを耐えられる己の身体の丈夫さにはこれを使う度に有難みが湧いてくる。

 

 痛みや軋みも一気に来る分痛みさえ堪えれば後は身体も自由が効く。

 傷を負うと同時に内面に巡らせた魔力で傷を癒すからだ。ついでに圧し折られた右腕も再生させるのは忘れない。

 反動も収まった頃、ちょうどモモの方も回復が終わった様で円陣の光が消える。

 

 それを見計らったように近付いてきたファミリーとプランの申し子+紋の面々。

 各々複雑そうな顔をしているのには少し共感が持てなくはない。

 紋や義経は何故だか喜色を浮かべているが。己の間近でこれでもかと喜びと興奮を示す2人。

 

「よくぞ勝ってくれたなノルンッ! あの武神を本当に倒してしまうとは兄妹として鼻高々だ!」

 

「ありがとう紋」

 

「本当に凄いと思うッ! 特にモモ先輩の切り札を潰したところなんかは義経には全く見えなかったぞ! 今度の鍛錬の時にも是非使ってみて欲しい」

 

「うむ、構わぬぞ。私も慣らしておきたい故、願ったりかなったりだ」

 

 次いで話しかけて来たのは弁慶と清楚。

 この二人は落ち着き払っていて、弁慶は何時も通りではあるが清楚の方は勝っても不思議じゃないといった心境のようだ。

 心眼がそう告げている。僅かながらに面映ゆさを禁じ得なかったのは秘密だ。

 

「お疲れー。モモ先輩を倒すなんてやるじゃん」

 

「それより腕だよ! もの凄い音してたけど大丈夫なの?」

 

「ある意味で何時もの事だが、ありがとう弁慶。大事ないぞ清楚、既に治癒は終えてある」

 

 力瘤を見せる様に腕を動かして平気な事をアピールすると安堵する清楚。

 心配してくれるのは有難い。有難いが弁慶、既に顔が真っ赤なのだが――いや、何も言うまい。

 ファミリーの面々はなんというか、本当に複雑そうな顔をしている。

 ちなみにキャップは若獅子終了後、直ぐに父親に連れられ海外へ行ってしまい不在だ。

 

「大丈夫、お姉様?」

 

「あぁ、ノルンが回復させてくれたしな」

 

「なんていうか、改めてみるとモモ先輩が負けた姿ってのはなんかこう……なぁ!?」

 

「おいおいガクト君、言葉になってねーYO」

 

「言わんとしてる事は分かるけどね」

 

「本当にモモ先輩を倒してしまうとは……」

 

「ってか、おいノルンッ! お前平然と殺すつもりで打ってきただろう!? さっき打ち上げられた時に心臓が破裂して背骨砕けたぞッ!!」

 

「心臓破裂で背骨粉砕!?」

 

「瞬間回復で即座に蘇生する見込みであった。事実その通りではないか」

 

「こっちも平然としてるってどんだけなのさ!?」

 

 殺試合であった事実に戦慄し、目の前で言い合いながらも笑っているのだから更に戦慄は深まるばかりだが、知った事では無い。

 ちょっと前辺りから、厳密には瞬間回復を使いこなしだしてから基本的にこんな感じだったりだ。

 ソレを知っているワン子のケロッとした表情が何ともいえない空気を作り出している。

 最早得も知れぬ虚脱感にファミリーの面々は早々に思考を放棄、怪我が無くてヨカッタヨカッタ、と無理やり納得させた。

 

 KOS優勝者の1人と最強無敗の武神との勝負。

 無敗である筈の武神が負けたにも拘らず似合わない空気に格闘雑誌や新聞や報道記者は唖然だ。

 今何をしていたのか記憶があやふやになってくるのも無理は無い。

 そんなこと知った事かと武神達の周りは和気藹々(?)な空気で駄弁っている。

 

「さて、もう動くのにも支障あるまい。そろそろ参ろう、ここは暑い。予定通り川神院へお邪魔しようではないか。義経達もどうだ?」

 

「え、あぁ……良いのだろうか?」

 

「義経ちゃんたちなら大歓迎だぞ。お前たちも良いよな?」

 

「勿論よ! 歓迎するわ」

 

「我は――――」

 

「無論紋も一緒だ。異論は聞かぬ」

 

「おい、ノルン!? 我は――」

 

「聞かぬと言ったら聞かぬ」

 

「大和、付き合って」

 

「お友達で。脈絡もへったくれもなかったな!? まぁ俺達は異存ないよ」

 

「美人とお近づきなれるだけでオレ様万歳!」

 

「ガクトはもうちょっとその顔が血走る所をなんとかしたほうが良いぞ」

 

「鼻息が荒いのもちょっと……」

 

「てな訳だ、運べノルン」

 

「京並みの脈絡の無さだな。また何故(なにゆえ)?」

 

「えぇー、だって痛めた内臓やら骨やらがまだイタむんダケドナー」

 

 恐ろしいまでの棒読みである。

 つくづく役者の才能皆無とどうでもいい思考が頭を巡る中、ふと悪戯心が1つの妙案を思いつく。

 

「あ、凄い悪そうな笑顔だ」

 

「呵々、良いだろう。運んでやろう」

 

 大和が何か言ったがスルーだ。

 寝そべった状態のモモ。無防備なその姿にニヤリと笑い、抱え上げる。

 

「なッ、ちょ!?」

 

「むッ……」

 

「の、ノルン君!?」

 

「おや、大胆だねぇ」

 

「あわわ……」

 

 モモの赤面した驚愕、清楚のむくれ顔、義経とワン子の狼狽、弁慶の冷かしの視線を無視して相棒を抱き上げた。

 ただし、お姫様抱っこで。

 

「お、おいノルン!?」

 

如何(いかが)した? 運べとの旨であろう?」

 

「ちょ、こ、これは……いやその、お、降ろせ!」

 

「聞こえんなぁ~?」

 

 抱えたままに歩きだす。

 呆然と一同見ていたが慌てて追いかけだした。渋っていた紋も何だかんだで一緒に。

 その背を見送る川神院総代はポツリ、と

 

「青春じゃのう……」

 

 なんて呟いたとか呟かなかったとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、ここまでで終わればある程度綺麗な終わりだったのかも知れない。

 川神院に向かう途中の会話で、紋が思い出したかのように放った――――

 

「それで、先程殆ど毎朝負けているというのはどういうことなのだ?」

 

 

 ―――――この発言さえ無ければ。

 

 

 さて、どうしたものか。

 元凶である当人は迂闊な事を口にした、と内心扱いに困っていた。

 話す事自体は単純である。

 朝にやっている己の鍛錬をそのまま披露すれば良いだけの話なのだから。幸いにして術式を多少弄ればスプラッタ事にはならないのは作り手である当人がよく心得ている。

 しかしだからと言って、見せていいものかと地味に、しかし割りと真剣と書いてマジと読むほど悩みに悩む。

 

 別段、何か秘密にしなければいけないという事はない。

 水上体育祭の折には身外身という術を人前で披露している以上は秘匿における観点に不備は皆無だ。

 危険という点に於いても同じことで、調整が効く以上はダメージを打撲に留めるのは容易なこと。

 見せるか否かを迷っているのは主に精神面での話である。

 

 ノルンという存在にとって、師匠である"あやめ"は武道のみならず、無機質であり、本来精神や心といったものを不要として備えられていなかった生まれたての自身に心の雛形をくれた人物である。

 戦いにおける心構えや、その姿勢、何気ない知識、生きる事とは闘争という本質、様々な事を教えられたが故に多大な影響を受けているのは言うまでもない。

 先程の強者に対する理論も師の教えの影響を受けているモノの1つなのだから。

 

 その存在に対する感情の向けられ方は、雪花ですら嫉妬を禁じ得ない程らしい。

 当人にとってはそんな浮いた感情とは隔絶したものであり、しかして心酔ともまた違う。

 信仰心に近しくあり、親愛にも似ていて、羨望と言えなくもなく、しかし口にしてみてもどれもイマイチしっくりとは来なかった奇妙な関係。

 唯理解している事はノルンという存在はあやめという存在を最強として絶対視し、死して尚絶対の信頼を寄せている事だけ。

 故に幻影とはいえ、師の存在をここで明るみに見せる事は当人の中では憚れた。

 

 ――――ようは単なる独占欲である。

 

 何せ、伴侶である5人ですらこの鍛錬に参加するのは滅多に無い事だった。

 参加を拒否した事は無いが、ノルンの幻影とはいえ師に相対する姿は近寄りがたいものを感じれる程だっただけ。

 しかし、だからこそ思い悩む。

 披露していいものかと。

 悩んで、悩んで、悩んだ末に

 

 結局、見せる事にした訳だが。

 

 単純すぎるかもしれないが、独占したいという思いと同時に、自慢したいと思ったのが最大の要因である。

 悩んだ意味があったのかはさておき、結局はそのままの流れで川神院の敷地を借りて実践に映る事に。

 

「これが、何時もお前を負かしている奴?なのか」

 

「相違ない」

 

 目の前には慣れ親しんだ師を模した幻影の姿。無論、設定を弄ってあるので安全性には問題無し。

 それらを中心に扇状に広がる様に配置する参加者。

 己を始め、モモ、義経、ワン子にクリス、まゆっちや京までも参戦を願い出ている。

 弁慶は相変わらずのメンドクサイで参加せず川神水を煽り、清楚も紋の隣で見学に徹した。

 男性面々も固唾を飲んで見守っている状況。

 

「や、突然の申し入れを受けて頂き感謝いたします。ルー師範代、鉄心殿」

 

 頭を下げる先には最早お馴染のジャージ姿のルー師範代と道着に羽織り姿の鉄心殿。稽古中にもかかわらず快く敷地の一部貸してくれた事に改めて感謝する。

 言われた側もにこやかにこちらを気遣ってくれて、修行僧と共に見学へ徹していた。

 

「気にしなイ、気にしなイ。知らない仲ではないし、私も興味があったからネ」

 

「幻とはいえお主が己の師に当たる人物というのも興味あるしのう(恐らくは幸恵の言っておった過ぎた武芸の根幹じゃろうし、興味がつきんわい)」

 

「重ねて感謝を」

 

 言葉を切って幻影に向き直る。

 

「改めてルール説明だが、そう難しゅうはあらぬ。この中の誰か一人でもあの黒い人型に一撃入れればそれで我等の勝ち。戦闘不能とならぬ限りは何度挑んでもよい。以上だ」

 

 最初にこのルールを決めた際にはそれはもう反発があったのなんの。不平不満は多々漏れたが、要約すれば舐め過ぎだろう、ということだ。

 しかし、モノは試しにとまずは提案したルールで戦ってみて容易く勝てるようならば新たにルールを設けようという案で納得して貰い、今に至る。

 

 視線の先にある幻影を見て、次いで流し目に左右を見て、心に過ったのは

 

(……これでも足らぬとは、な…)

 

 心眼が弾き出した予測に、己自身が脱帽してしまった。しかし、やってみなければ分からない、と己に活を入れて人型を見据える。

 そんな内心を知る由もない周りは合図を今か今かと待ちかねており、外野陣もまた同じ心境だった。

 特に紋は事の推移を楽しみにしているようで、目に見えて眼を輝かせている。

 

「相変わらずノルンは引き出しが多いことよ。見ていて飽きぬわ」

 

「うん、それは言えてるよねぇ。色んな意味で」

 

「ま、今に始まった事ではないんだけど。ゴクッ、ゴクッ……」

 

「にしても、まゆっちも参加したのは珍しいよなー」

 

「うん、何時もなにかと遠慮してるもんね」

 

「大和付き合って」

 

「お友達で。ってか、何気にこの光景自体凄い事だよな」

 

 ファミリーにはお馴染のノルン&百代の身内最強組に、それに準じる強さを持つと前の2人に言われているまゆっちに武道組であるクリスとワン子とファミリーの武力組の殆どが参加している事はもとより、クローンとは言え英雄義経も轡を並べている光景は圧巻の一言だ。

 事態を知らない者がこの光景を見た時、何事かと思わずにはいられない状況である。

 絶賛注目の的たる武士達はただただ、闘志を燃やしていく。

 

「ノルンのお師匠様かー、どれだけの実力かワクワクするわッ!」

 

「しかもノルンが常に負ける様な相手……油断するなよ、犬」

 

「当然よッ!」

 

「厳密にはその幻影で、当人通りというのはあまりにもおこがましいが」

 

「細かい事はいいんだよノルン」

 

 あけすけなモモの言い分に思う所が無くは無かったが、荒立てて空気を濁すもアレなので黙秘する事に。

 モモとは反対側、己の隣に立つ義経とその奥のまゆっちは静かに構えて幻影を見据えている。

 後者は純粋に警戒の色を見せている。義経の方もまた警戒の色を見せているが、後者に比べて圧倒的に大きかった。

 

(…………一撃入れるイメージが湧かないッ…とんでもない手練れだ)

 

 成長によって鋭敏化している義経の直感は、目の前の幻影の底知れなさに密かに戦慄く。

 臆して尚、弱気を押し込めて呑まれないようになる位には義経は強くはなった。しかし、それ故に把握しきれない幻影に恐怖を覚えるのも無理のない事だ。

 そして、臆してないにしても底知れなさに警戒をしているのはモモもまゆっちも同じ。不敵に笑ったり顔を強張らせたりとリアクションは様々だが。

 

「――――さて、始めようか」

 

 緊張の具合から頃合いとみて、やり過ぎた(ヘル)鍛錬(ゲーム)の始まりを告げた。

 

 

 

 

 

 

(…………あり得なイ)

 

 眼前に広がる光景のあまりにも非現実的な光景に師範代が心に零すのは無理からぬことだった。修行僧の手前口に漏らす事だけはなんとか防いだものの、居なければ間違いなく心中のソレを零していただろう。

 

 最初の飛び込みでワン子とクリスが見えない何か――師範代や鉄心は若獅子の時にノルンが見せたそれと睨んでいる――で一撃で昏倒させられた。

 恐らく2人は他の面々と違って黒い人型の底知れなさを把握できなかったが為に突撃したのだろう。ノルンも含めて様子見だったマスタークラスの面々よりも結果として一歩先んじ、そして倒されるという次第。

 尚、脱落者とそれに近付くモノには攻撃をしない様に設定してあるので、そうそうに2人を大和達の手で回収させた。

 運ばれていく2人を尻目に、直ぐさま警戒の色を強めた3人と違い、事態の推移を予測していたかの様に見えるノルンはそのまま掻き消える。

 

 直後、縦一閃に抉られる地面。

 間をおかずに掻き消えた黒い人型の後にできる同じ傷跡。

 圏境による空間認識だろうか。即座再びに消えるノルンの首があった場所から何か一筋の閃光の様なものを見ていた者は幻視した。

 

「こんのおォッ!」

 

「やあッ!」

 

「せいッ!」

 

 3人の女性陣は同時に得物を振るう。或いはその場で、或いは跳んで。

 武芸者としての本能が身体を突き動かすのか、それは図らずとも全く同じタイミングだった。

 空を奔る拳と刀剣、目視すら困難な速度領域は見学者を思わず魅入らせるほどのもの。

 

 しかし、其処に既に人型の姿は無い。

 

 刹那に響く金属音に近しい耳障りな音色。

 1人には慣れており、他の3人には耳慣れない音に顔を顰め、見学組も一部を除いてしかめっ面である。しかし、その音も瞬く間に無くなっていった。

 

 義経の脊筋に氷の杭を突き入れられたかのような悪寒。

 身体の反射に従って縮地で跳ぶと、先程までいた場所にはノルンの時と同じく大地が抉れていた。

 瞬間、この状況が秘剣 佚之太刀によるものと察する。しかし、同時に戦慄きが一層深まる。

 

 そのあまりの連続性に。

 

 あくまでも彼女の主観ではあったが、倍は違うと睨む。そしてその実、予測は当たっているのだが彼女が知る由はない。

 一瞬のやり取りで打破するには己の秘剣しかないと悟った義経は全神経を文字通りに研ぎ澄まし、構える。

 幻影の一挙手一投足を見落とすまいと刺す様に見据えて。

 しかし、やはり苦悶の表情は隠せない。既に朝の鍛錬で2度放っている以上、秘剣の使用は身体に無理を掛けているのだ。

 

 焦りと緊張が満ちる中、脇から奔る薄緑の閃光。

 音速すら凌駕する勢いで迫ったモノの正体はまゆっちこと黛由紀江。

 己の出せる全力で刀を振るい、幻影の座す空間を太刀が奔る。

 

 再び響く金属音。

 

 それは、幻影の佚之太刀をノルンの佚之太刀で相殺した際に生まれる。

 まゆっちの斬撃速度ならば、間違いなく届くだろう。少なくとも義経とモモはそう確信する。

 

 ――――しかし現実は当たり前のように手の甲で撫でる、或いは払う様な仕種で刀を受け止める幻影の姿。

 

「――――なッ」

 

 阿頼耶の領域に到る斬撃は、事もあろうに軽々しく対処される。そればかりか、終わりでは無いという具合に円を描く軌道と共にまゆっちの重心を巧みに制御して受け止めた手だけで彼女の立ち位置を動かしていく。

 それは、幻影の中心に100°近く周り、鈍い音共に華奢な身体が弾き飛ばされた。

 滑るようして転げていき、やがて止まるも起き上がる様子は無い。

 脱落者はこれで3人目。

 

 今度はモモが驚愕する。

 間違いなく死角からの一撃を、生半可では対処しきれない筈の斬撃から淀みなく対応して見せた瞬間だった。

 悪寒と同時に縮地で離脱。

 刹那の間も置かずに抉られる大地。

 すかさず幻影に襲い掛かる全く同質の刃は、同じ様に地面を抉るに留まった。

 

(よし、これでなんとか体勢を――――)

 

 先程のやり取りから、その状況を再び体勢を立て直すチャンスと捉えたモモ。

 誰もがそう思って然るべき状況は

 

 ――――背後から聞こえてくるくぐもった音に裏切られる。

 

 咄嗟に振り返れば、手に持つ鞘に入れっぱなしの刀で裏拳を手首辺りで抑えて防御している彼女の相棒の姿。

 そのまま向きを変えんと身体を捻ろうとした矢先、強い衝撃と共に景色が急速にボヤけて見えなくなり、僅かな間と共に身体に奔る衝撃。

 最初の衝撃は防御をしたその瞬間に打ち込まれた佚之太刀によるもの。二度目のソレは地面に叩き付けられた時のもの。

 吹き飛ばされたお互いは片や瞬間回復での治癒を、片や痛みを精神で捩じ伏せて集中を途切らせ無いように努めた。

 

 視線の先には見事に健在のままの幻影の姿。

 ある意味で予測通りの状況。視線を横に向けてみれば、膝をついて疲労困憊の義経が其処にいた。

 

「あわよくば、今ので仕留められるやもと淡い期待ではあったが……大事ないか義経?」

 

「う、うぅぅ……す、済まないノルン君…」

 

 義経が膝ついている理由は、単純明快で先程の放たれた佚之太刀は実のところ範囲を広げると斜め斬りの直線状に義経が射程範囲内におり、佚之太刀によって義経は折角溜めていた氣を斬撃で霧散させられたのだ。

 しかも、こちらに攻撃を向けるようにしていたにも関わらず、あの場では本命としていた義経が真っ先に封じられ、モモが瞬間回復を使えている辺り狙ってやったのはまず間違いない。

 記憶再現に基くものとはいえ、相変わらず戦慄ものだ。

 

「や、よい。これの規格外は私が最も存じておる故な。弁慶、義経の回収を」

 

「言われなくても。さ、義経」

 

 弁慶に運ばれていく義経を見送り、改めて幻影に向き直る。

 

「さて、如何としたものか……」

 

「つか、どんだけ理不尽なんだお前のお師匠さんは。ここまで一方的とか……今もゆったり構えてるだけなのに打ち込めるイメージがまるで湧かん」

 

「こちらとて同じ事。というか、これでも加減しておるのだぞ、威力的に」

 

 さもなくばスプラッタ一直線で既にOUTな画になること請け合いである。

 

「埒も明かぬ故、取りあえず攻める他あらぬ」

 

「ハッ、それもそうだ。それにしても、いやー世界は本当に広い……まだまだこんな人も居るんだなぁ」

 

 得も知れぬ笑み。肉食獣すら裸足で逃げ出す鋭利な微笑み。しかし、どこか無邪気な子供を連想させる笑顔。

 

「この期に及んで笑顔とは、大概であるなぁモモも」

 

「抜かせ、お互い様だろう。ノルンだって終始獰猛な笑顔だぞ」

 

 それは当然だろう。義経がノルンという存在を目標とした様に、あれこそが己にとって目標なのだから。勝つだけならば可能である。

 

 

 ――――しかし、それでは意味がない。

 

 

 同じ土俵で打ち負かしてこそ初めて越えられると認識できる。

 否、それ以外に師を超えたと謳えるものか。不完全にしか再現できないのだ、本物の強さはこの程度では無いのに超えたと口に出すことは厚顔無恥も甚だしい。

 

「さて、仲好く恰好悪く、足掻くとしようか」

 

「応ッ!」

 

 

 結果は語るまでも無く惨敗。

 最終的には1分どころかものの30秒も経たずに全滅させられたという結果だけが残った。

 2人で奮戦するも、直ぐに瞬間回復を潰され、身体強化にありったけ氣を回そうとしても掻き乱され、抵抗むなしく昏倒させられたモモ。

 佚之太刀で打ち合うモノの、真っ向から1対1ではさしてもつ筈もなく5合打ち合った後に斬り捨て御免された。

 

「ほ、ほんとう……に、デタラメ…だ…ぞ…」

 

「とは言え、これが基本的な日課だ」

 

「何で1人だけピンピンしてるんだ……」

 

「日課故に、だ大和」

 

「ノルン、お前という奴は……いや、何も言うまい…」

 

「紋、その表情はとても気になるのだが?」

 

 その呆れと感心の入り混じった表情はなんなのかと。

 

 見学側の面々の凄まじく微妙な顔はきっと忘れる事は無い。

 死屍累々で、蛇足以外のなにものでも無かった試合だった。

 個人的には密かに師匠自慢が出来て満更では無かったのは秘密だ。

 

 更に蛇足を加えると、終わった直後に見てみた鉄心殿やルー師範代の顔は語りがたい得も知れない、敢えて言うなら非常に微妙な顔であった。

 

 




まじ恋Aいよいよですね!

――――かと思いきや、一つ辺り約4000円とか……この財政的にパッケージの方が出るまでお預け確定ですよorz

好きなキャラだけ買えば? という方もおるのでしょうが、一つやるとじゃあ他は? と思うのが人情と思いません?

それはそうと、PSPのサモンナイト3が面白い。

更新はしばらく遅れまする。
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