気まぐれ神様の物語 真剣恋Ver.   作:ジーザスルージュ

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56話

 幾つものディスプレイが光り、画面には専門家しか分からない数字やグラフの羅列が連なっている。どれを確認しても、異常や基準値を低いものは無く概ね上々といえる結果だ。

 視線をデータを移す画面からパイロットのバイタル画面にも眼を向ける。今回のテストは人数が少ないので管理は容易い。しかし、絶対性が無いのは承知しているので気を抜くことはない。

 

 

「これより腕部破砕用モジュール、並びに運搬モジュールのテストに入る」

 

「「了解しました」」

 

 

 ガラス張りの向こう側のRoadMakerが動き出す。ジェネレーターの起動、駆動音は最小限に留めてあるので騒音は思う以上に低い。

 RoadMakerは全地形対応型の起動重機として開発した機体である。各種四肢はハードポイント(以降HP)になっており、腕部は仕様用途に合わせてモジュールを変更して純粋な腕部による工事のみならず、資源の採掘、災害時の瓦礫撤去など多様だ。脚部も同じく設計上、ホバーによって水上運用時のエネルギー節約、スクリューによる水中行動、宇宙開発を視野に入れている為宇宙空間用の脚部モジュールもある。

 脚部に到ってはホバーが85%、スクリューが60%の開発状況だ。尤も現段階では陸上面のテストに限っているのでこれ以上進む事はない。

 

 

 現在行っているのは資源の採掘、ならびに瓦礫の撤去などを効率よく行うモジュールだ。

 運搬モジュールは大型のショベルを鋏の様にしたモノ、パッとみてクレーンゲームのアームを腕にしたような外見だ。意味が重複しているがニュアンスの違いは汲み取って欲しい。デザインは試行錯誤の末に決まったモノだ。

 現在テスト機の運搬側とは反対の腕に付けられた破砕用のモジュール。こちらは運搬側と違い開発チームが渾身を込めて作り上げたの一品だ。ぶっちゃけこのテストの目玉でもある。

 

 

 モニターでは右腕によるテスト用に見立てた廃材の戦車。廃材といっても肩が古いという意味で、整備はされていたが倉庫に眠っていた在庫品だ。戦車だけに装甲は固いが破砕モジュールは難なく貫き粉々にしていく。

 円錐型の鋭角な形状は。螺旋状に描かれる模様は回転によってその真価が発揮されることを如実に語っている。男ならばこれに燃えないのは男じゃねぇなんて開発陣に言わしめたのがこのモジュール。

 

 

 ――――ぶっちゃけて言えばドリルである。

 

 

 ガラスの向こう側で戦車を貫き、砕く度に開発チームの面々から歓声が上がる。あまりの食い入りようにこちらが若干引いてしまう程の熱量だ。

 正直に言おう、ドン引きである。

 

 

「DO・RI・RU! DO・RI・RU!」

 

「アレこそが優れた機能と外観を兼ね備えた至高の一品」

 

「WURYIIIIIIIIIIIIII-----ッ!!」

 

「天元突破ああぁーーーーッ!!」

 

「俺の、俺達のドリルを阻むものなんざねぇ!!」

 

「モチツケ、其方等(そなたら)

 

 

 最早白熱しすぎて収拾が困難な領域に達している。どんだけなのかと。

 テスター、技術スタッフ共にあまりの熱狂ぶりに、せめてもとパイロットの音声通信を遮断したのは悪くない。

 結局のところ現在テストのモニタリングしているのは1人きりとなっている。無論、はしゃいでいるだけでデータの記録はきっかりしているのは腐っても九鬼のスタッフとかろうじていえる。と、思いたい。

 

 

 順調に工程をクリアしていくRoadMaker。各部に掛る負荷と作業工程を見比べても申し分ない出来だった。作業時間3分未満で旧式とはいえ戦車を見るも無残なスクラップにできたのだ。上々といえる。

 

 

「いやー、やっぱりドリルはイイ……」

 

「モジュールの完成度としても申し分ありませんね」

 

 

 熱暴走もある程度収まったスタッフが和気藹々として話し合う。その言葉には素直に頷けるレベルであるのは明白だ。

 

 

「しかし、ノルン様の頭の中は本当にどうなってるんです? こういうのをサラッと設計、開発できるものを作り上げるとは」

 

「天才の頭の構造を俺らが問うてもどうしようもないだろう」

 

「なんて事はないさ。何れ誰かが発明したであろうものを私は"今"に縮めたにすぎぬ。故に称賛されるのは些か、な」

 

「謙遜も過ぎれば嫌味ですぞ?」

 

「そうですよ、それを縮められるのはやっぱり天才の証左でしょう」

 

 

 チームの言葉にも特に響く事はない。事実、このRoadMakerに使われている技術の大半は自身で編み出した訳では無く基礎理論は別のところにある。技術の流用といえば聞こえはいいし、独自発展させたものであるため、RoadMaker自体の発明には誇るべきなのかもしれ合い。

 が、やはり誇る気にはどうしてもなれないのも人情だ。

 

 

 テストの成果に喜ぶ中、スタッフのひとりが唐突に話題を切り出す。

 声は場にそぐわない暗いもので、語る中身を踏まえればある意味当然ではあった。

 

 

「ところで、軍需部門からこっちに圧力があったって聞いたんですけど、本当ですかノルン様?」

 

「その件か。うむ、圧力と呼べるものではないが、な。打診はあったよ」

 

「こいつの兵器転用、ですか」

 

 

 言葉と共に不愉快さを隠そうとしない開発陣一同。しかし、個人的には別段不思議な流れという訳ではない。

 全高8mの人型ロボット。宇宙空間や深海の行動すら考慮し、テロリストの標的になる事すら考慮し、戦争下にある地域の活動すら考慮したRoadMakerは兵器としての視点を置いても群を抜いて優れた重機だ。この段階でも現行の最新の戦車3台に相当し、その放火にさらされて尚搭乗者を守れると設計、運用テストでも結果を示しているのだ。純粋な商業としてこれほど有能な商品はないだろう。

 

 

 四肢のHPも兵器運用すら視野に入れて設計上には存在している。尤も、重機で名を打っている以上はおいそれと転用は出来ない。加えて、RoadMakerは市場に出回れば間違いなく重機を売りにする企業を悉く破壊するだろう。起動の為の電力と水さえあれば永久的に大出力の電力を叩きだす動力部分もひっくるめて迂闊に出せるモノでは無いので表に出ても当面は発表に留め、市場の様子を窺いつつ宇宙開発の現場を主にしていく流れである。

 ザッと障害を列挙すれば様々だが、何より根本的な問題がある。

 

 

「姉上が現在取り組まれておる次世代兵器の構想とこいつとでは方向性が全く異なる。RoadMakerが兵器運用されるとしてもまだまだ先の話であろうよ」

 

「あぁ、揚羽様が着目されたサイボーグ化による現役兵士の再使用、でしたか?」

 

「概ねそうだ。別のチームが開発したクッキーのダウンサイジング技術、こちらのRoadMakerの人工筋肉などの技術を利用して欠損した身体を機械で補い、兵士たちの現役復帰を可能にする技術だ」

 

「最終的には強化にまで至るとか。被験者のテスト結果も良好と聞きましたし、こっちまで飛び火はしませんよね?」

 

「恐らくは、な。被験者も特別とはいえ、あそこまで強化されるとは思わなんだ。流石元武道四天王と申した所か」

 

 

 現在、姉が進めている軍需部門のテスターはスピードクィーンと言われた橘天衣が務めている。

 何処かの誰かに敗れ、四天王の座から落ちた身だがその能力は超が付く程一級品。腐らせるよりは人々の為に役に立てたいと自衛隊に志願して小隊長まで行っていたらしいが、義経達が転向してくる少し前に偶然出会ったのだ。

 仕事の帰りに爆発音を聞き付け、急いで掛けつけてみれば致命傷負をおった彼女と副官の身柄を発見。他の部下も同様に重傷ばかり。

 密入国を装う工作員――装備から判断した――と思しき者どもを即座に鎮圧し彼女達を移送、治療した経緯がある。

 

 

 治療を受けている彼女に、姉上は眼を付けた。四肢を失う程の怪我を負ってしまった彼女を助けんとすると同時に被験者として打って付けの人材と見て相談し、橘天衣はこれを承諾。副官も共に治療と機械化を施して2人とも適用した。

 現在は姉の監修の元リハビリと最適化の最中である。

 

 

「ま、そちらはそちらだ。こちらはこちらで務めを果たそう」

 

「「「「はいっ」」」」

 

「そういえば、空間投影ディスプレーはもう実用化段階に踏み切るのであったか?」

 

 

 問いに対して頷くスタッフ。

 空間投影ディスプレーはこの開発チーム内で開発した文字通り映像を空間に投影する出力装置だ。重力制御技術を応用したそれは小型のモノでも違和感なく空間に映像を移す事を可能にする。

 従来のテレビを始めとした映像機材よりも遥かに小型化できるのが売りだ。燃費と生産コストが悪いのがネックで主に企業向けの商品だ。

 

 

「新たな市場の開拓は先を行くものの務め。なれど、あまり過ぎても禍根を残す、と。ままならぬな」

 

「ま、うちらは弄って作れれば問題ないですけどね」

 

「そうそう。技術やは弄ってナンボです」

 

「真性だな。頼もしい事だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 仕事も順調に消化し、業務終えて勤務から直に目的地に向かう途中である。

 夏であるので日照時間も長いので、夕方だが夕闇というには明る過ぎる空の元を勤務から川神市へと縮地で跳び、程良い距離から徒歩で向かっている。

 普通に歩いて行くのは唯の気まぐれ。なんとなく歩いてい行きたかったからに過ぎず、深い意味はない。

 

 

 黄昏の光芒が差す町並み。昔はこの辺りを歩いていたな、と過去に思いを馳せる。夕暮れの日差しというのは人をアンニュイにさせる何かをもっているのか、なんて思考してえっちらぼっちら。

 目的地に着く手前で今日のイベントの主賓とその妹に出くわす。

 

 

「や、モモ、ワン子」

 

「おっす! ヨっ、ホッ」

 

「おーっす。お前も今向かうところか」

 

「うむ。そちらもか?」

 

「そうよ。えっほ、えっほ」

 

 

 モモは普通に、ワン子はダンベルを連続で上げながらの挨拶。「程々にな、ワン子」と言うも、恐らく着くまでやるのは目に見えている。彼女は今日も今日とて勇往邁進の日々だ。

 

 

「誕生日おめでとう、モモ」

 

「ありがとうな。昨日大和経由でお土産貰ったばかりなのに更にプレゼントまで貰えるとは嬉しい限りだ」

 

「呵々、事実だが現金が過ぎよう?」

 

「ジョーク、イッツアジョークネ。HAHAHA!」

 

「おぉ、お姉様が英語を使ってるわ。これがマクロヌって奴ねッ!」

 

「グローバルと言いたいのか? 微妙に古い上になんて分かり辛いネタ振りか。そして微妙に使い方を間違えておるし」

 

「???」

 

「ネタにあらず、素であったか……」

 

 

 どうやら大和と相談が必須の様である。学力的に。フリでは無かった。

 初めてアニメを目にした時は色々と懐かしいかったのは秘密である。ブリッジでパイプを吹かして小言を貰っていた姿を思い出した。ロンド・ベル隊を最後まで率いてくれた名艦長だった。

 

 

 ワン子の相も変わらずの学に愕然も呆れも通り越して生じる頭痛を封殺して問いを投げかける。

 

 ――――宿題は終わらせたのかと。

 

 しかし、ワン子は急に固まり、かと思えば携帯のバイブよろしく激しい痙攣をみせる。

 

 

「ダダダダダダイイイジョジョジョウブブヨ……やや大和がててテツダッテクレタタタかラ」

 

「その様子では――――」

 

 

 続く言葉はモモに制止される。視線を向ければ力無く頭を振っているモモの姿。何があったかは推して知るべし。というか、この様子では然したる思考すら不要だろう。見ていて哀れだった。

 しかし、もう一つ気になる事もある。

 

 

「時にモモ、そっちは宿題を如何(いかが)した? 確と――――」

 

「zzz……zzz……」

 

「終わらせておらぬ、と?」

 

「なーんてな。こっちも冗談だよ。今日は折角の記念日なのに地獄なんて見たくないからな」

 

「それは重畳」

 

「………………(ガクガクブルブル)」

 

「取りあえず戻って参れワン子」

 

 

 暫くして着いたのはひとつの建物。ガクトの実家が経営していると言う川神学園の学生寮であり、現在ファミリーでは約半分がこの島津寮で生活をしている。何気に赴くのはこれが初めてだったりもする。

 中に入ると和な見た目と違い、小綺麗な洋風な内装で何処か家庭的な空気が満ちる寮だった。

 

 

「いらっしゃい、百代、ワン子。それに直接会うのは初めましてかな? 僕はクッキーだよ」

 

「うむ、初めましてだなクッキー。存じておるだろうが九鬼ノルンである」

 

「あれ? ノルンってクッキーと初めて会うの? 九鬼家なのに?」

 

「うむ。開発した技術チームが私の管轄外でな。出来上がって直ぐに兄上がワン子に進呈した故、なんだかんだで直接は初めてなのだ」

 

 

 七浜に住んでいる有名な久音寺家という家の次女が個人で作ったロボットをリスペクトしているなどの開発経緯は聞いているが基本的に管轄外。報告だけで終わり、定期的に行われるオーバーホールにも時間の都合上立ち会えていないというある意味奇跡的なすれ違いが生じている。

 

 

 

「さ、立ち話もなんだから上がって上がって」

 

「お邪魔します」

 

「邪魔するぞ」

 

「おっ邪魔しまーすっ!」

 

「どうぞ遠慮なく」

 

「にしても、第1形態のクッキーの声とノルンの声って似ているよな?」

 

「うんうん。高いか低いかの違いよね」

 

 

 ふたりの意見に同意する。しかし、この合成ボイスについても当然ノ―タッチであり、開発チームの方からも特に何も接触はなかった為ただの偶然である。

 

 

「ふむ、"やあ百代、ちゃんと普段から機械を大切にするんだよ?" こんな感じか」

 

「滅茶苦茶似てるな!?」

 

「ムムム、だったら"ワン子、運動も良いけど勉強もしっかりしないとね" こんな感じかな?」

 

「なんでかクッキーが張り合ってるわ。でも確かに声はソックリね」

 

 

 戯れ合いながら案内されたのはダイニングに当たる場所。それなりに広く、島津寮には現在6人程が入寮しているが全員が居てもなお余裕な広さが其処にはあった。

 中には既にファミリーの面々がちゃくちゃく、というか殆ど準備ができており後は料理などが揃えば完璧な状態だ。テーブルには既に料理が広がっており作ったのはメンバーの中では消去法的にまゆっちなのが窺える。京は出来るが激辛だし、クリスや他の男性陣にはそもそも期待するべくもない。

 

 

 挨拶をして部屋に入り、視線を見渡すとひとり足りない。その事にやはり、という念を抱くのは当然だった。

 

 

「キャップはまだ帰っておらぬか」

 

「あぁ、マチュマチュに行ったままだ」

 

 

 代表として答えたクリスだが、ガクトやワン子といった勉学が得意でない面々が名称を間違えたと気付く。そして大和が持ち前のS気質で「マチュマチュ?」と悪戯めいていったのを皮切りに疑問符付きマチュマチュコール。

 間違えた事とからかわれている事の気恥かしさからガーッ、とクリスは怒るもののイマイチ迫力に掛ける。

 

 

「ち、ちょっと間違えただけだッ! だ、誰にだってあるだろう!」

 

「そうだねぇ、言いにくいからねぇマチュマチュ――じゃなかったマチュピチュ」

 

「あぁ、マチュマチュ――じゃなかったマチュピチュは言いにくいからしょうがないよなクリス」

 

「そうだねークリ吉はそのまま育ってほしいねー」

 

「ぬぬぬぬ……!」

 

「Sだなぁ、2人とも……」

 

 

 更に追撃を喰らって茹でダコ状態のクリス。大和と京の追撃具合に戦慄ものだ。

 普段からからかっているのだろう、弄り方が神懸かっている。

 

 

 ちなみに此処にはいないもうひとりであるユキはここにはいない。事前にこの日には冬馬達と外せない用事があると連絡が来ており、当人はとても残念がっていた。

 

 

「さて、クリスをからかって楽しんだところでそろそろパーティを始めようか」

 

「おい、自分で楽しむとはどういうことだ!?」

 

「じゃあノルン、ケーキを頼むぞ」

 

「任された」

 

「無視するなぁーーーッ!」

 

 

 ドッ、と湧き立つ笑い声。ここに於ける彼女の立場を大いに垣間見えた瞬間だった。文法が可笑しいが気にしないで欲しい。しかし、何故だか間違った表現が似合うのだ。然もあらん。

 

 

 手をテーブルへと翳し、フイ、と横に振ると共に次々と現れる料理。テーブルの空いた隙間を瞬く間に埋めていく。肉、魚介、パスタ、サラダ、そしてメインである誕生日ケーキは主賓の好物である桃をふんだんに使った大きなタルトだ。しっかりと蝋燭を立てるスペースは確保済みである。

 初めて見る光景であろうクリスとまゆっちは2人揃って感嘆の声を上げる。料理が突然現れる光景だけでなく、料理の豪勢さも声を上げる一端だ。

 

 

「相変わらずスゲェ手品だよなー。俺様も未だに驚いちまうぜ」

 

「ていうか、手品じゃなくてこれもやっぱりオカルト的な?」

 

 

 粗確信めいた眼でこちらを見る大和に首肯で返した。「やっぱりか」なんて苦笑の大和。

 

 

「おいおいノルンさんや。まさかオイラと同じ側の住人だったとは驚きだぜ」

 

「その言いまわしには些か引っ掛かりを覚えのだがなぁ? 如何に対応すべきだろうかモロ」

 

「其処で僕にまわってくるの!? え、えーと……わ、笑えばいいんじゃない、かな?」

 

「似合ってるねモロ。元ネタ的に」

 

「遠まわしに貶してるよね? 余計な御世話だよ!」

 

 

 話しながらも手を動かし、作業は滞りなく終わる。ケーキには重ねた年分だけ添えられたロウソクに火が灯され、周りの手によって部屋は暗くなる。ぼんやりと薄闇の中に光るロウソクの灯によって独特の雰囲気があった。

 

 

 タイミングを計り、声を揃えて歌を歌う。

 

 

「「「「「ハッピーバースデ~トゥーユ~♪」」」」」

 

「「「「ハッピーバースデ~トゥーユ~♪」」」」

 

 

 何時頃から根付いたバースデイソング。生誕に対するお祝には最早欠かせない歌は主賓の為に合唱する。

 

 

「「「「「「「「「「ハッピーバースデ~トゥーユ~♪」」」」」」」」」」

 

 

 歌い終わるとモモはケーキに刺さったロウソクを文字通り一息で吹き消した。明かりが消えて部屋が暗くなるも直ぐに明かりを取り戻し、万雷の喝采で以ってみんながみんな祝福する。

 

 

「おめでとうお姉様!」

 

「おめでとう姉さん」

 

「ありがとうな、お前達」

 

「これでモモ先輩も新たに大人の階段を登った訳だなぁ。どうだモモ先輩、これを期に俺様と付き合ってみないか?」

 

「断る」

 

「脈絡なく突然告白とか、ガクト頭ダイジョーブ?」

 

「京さんはしょっちゅう俺にしてるけどな。何時も」

 

「そう考えるとある意味京さんはガクトさんと同じってことになるんでしょうか?」

 

「みなまで言ってやるなよまゆっち。言わぬが花ってやつだZE」

 

「そう言われるとなんか凄いショック……」

 

「どういう意味ですかねー!?」

 

「そのまんまであろう」

 

 

 「ちっくしょおぉぉーーーー!」と叫んではいるが、あのタイミングでの行動は空気を読まなさすぎである。荒事の時は結構イケているのだが、こういう所は残念としか言いようがない。

 それが証拠に全員(クッキー含む)スルーなのはお約束である。ようするに何時もの事。

 

 

 トンチキなやり取りは脇に置いておいてプレゼントの進呈である。集まった主賓とクッキー以外の全員が手元に持っていたモノを取り出す。

 最初はガクトとモロ。何かが入った瓶とCDケースだ。

 

 

「俺様は今自分でも使っている新型のプロテインだ。効き目バッチリだぜ」

 

「僕はこの間モモ先輩が欲しがってた好きな歌手のCDだよ」

 

「ありがとう。にしてもブレないなぁガクトは」

 

 

 ふたりに続いたのはクリスとまゆっちの新参組。デフォルメされたリスのぬいぐるみと花柄のおしゃれな赤い箱だ。

 

 

「わ、私からは小物入れですッ」

 

「自分はリスのぬいぐるみだ。ふふっ、可愛いだろう? マルさんと一緒に選んだんだ」

 

「ありがとう2人とも……唯買い物に行っただけなのにクリがこんなに微笑ましいのはなんでだろう?」

 

「本当にねぇ……」

 

 

 ワン子と京がそれぞれプレゼントを差し出す。銀色の腕輪と数冊の本だ。

 普段読書をしている京は兎も角、ワン子のアクセというチョイスは意外性充分だった。

 

 

「はい、お姉様! アタシからはシルバーアクセサリーよっ」

 

「お、これはまた妹から意外なモノが」

 

「誕生日に何を送ろうかと街を物色してたらお姉様に似合いそうなのを露店で見つけたの。安物だけどね」

 

「値段は気にするな、こういうのは気持ちが大事だ。ありがとうなワン子!」

 

「えへへっ」

 

「見ていて微笑ましいねぇ。ハイ、モモ先輩。私からはこれだよ」

 

「本、か」

 

「うん。小説もあるけど、活字は普段は避けてるから漫画が主だね。オススメなのを選んでみた」

 

「そうか、ありがとう。さりげなくBL的なモノがちらほら紛れてなかったら素直に喜べたんだが……」

 

「ククっ、さりげなくモモ先輩をこっちに引き摺りこんでみたり」

 

「なんかもの凄い湿気が……」

 

 

 残すところは2人のみ。どちらが出すかとアイコンタクトで相談し、まずは大和からどうぞと手で促す。遠慮なく、といった具合に大和は紙袋を手渡した。

 

 

「これは、ネックレスか」

 

「誕生石のネックレス、ワン子と同じで安物だけどね」

 

「いやいや、ワン子にも言ったが気持ちが大切だ。有難く貰うぞ、弟」

 

「む、大和とかぶってしまったか」

 

「お、そういうとノルンもネックレスなのか?」

 

 

 首肯で応えて取り出す。大和のは花をモチーフにした緑色の水晶可愛らしいデザインにが供えられたものだ。色合いからしてペリドットだろう。

 対してこちらは勾玉をモチーフにした赤と白の縞模様をした首飾り。石はサードオニキスと呼ばれるモノだ。誕生石自体、かぶらなかったのは幸運といえた。

 

 

「にしても、勾玉の形とは変ってるな」

 

「む、そうか。やはりデザイン系のセンスは私には皆無か……」

 

「意外とノルンって芸術関係は疎いよね」

 

「誰とて苦手はあるさ」

 

「何事も完璧にとは行きませんね」

 

 

 ちなみにこの首飾りのデザインは手ずから研磨したものであったりするのは余談だ。石は父との視察先で商品になりえない石を用いたもの。しかし敢えて黙っていようと何となく思って口は噤んだままである。

 

 

 一通りプレゼントを渡し終え、今一度のおめでとうの言葉を送り、モモの嬉しそうな顔とありがとうの言葉でプレゼントタイムは無事に終えた。

 そうすれば後は料理に舌鼓を打つ番だ。思い思いに料理を自分の小皿に移して食べていく。ファミリーの中でも料理自慢の2人手ずから料理は概ね好評だ。

 

 

「ん~~~んまいッ! やっぱノルンのケーキが一番だ」

 

「嬉しい事を言ってくれな」

 

「確かに美味しいですね。今度是非とも作り方を教えて欲しいです」

 

「構わぬぞ。私も煮物周りは中々参考にさせて貰っておる故、な」

 

「こんなに美味い料理はそんじょそこらでは食えねえと思うぜ」

 

「だね。お店で出しても充分通用するレベルだよ、これは」

 

「いえいえいえいえ! わ、私なんてまだまだですよ」

 

「どっちの料理も最高だわっ。まぐまぐ」

 

「まゆっちはもっと自信をもっていいと思うぞ。どの料理もうまい!」

 

 

 モモも含めてファミリーの面々が温かい眼でワン子とクリスを見る。何とも微笑ましい光景は色々ともっていかれた気分だった。いい意味で。

 見つめていると状況をよく分かっていないふたりは不思議そうに尋ねるも声を揃えて「なんでもない」と笑った。

 

 

 料理も平らげられ、器を片付けた後は全員でゲームと洒落こむ。とはいえ、TVゲームの類では無くトランプといったもので、だが。仲間内でもプレイされるクリーチャーハンター略してクリハンの様なゲームだと最大人数的に余りがどうしても出てしまう上に会話も弾まない。

 ボードゲームみたいなのもあるが、まずはトランプでと話が落ち着いた。現在ババ抜きと王道でやっており、既に5戦目だ。

 

 

「ハイ、これであっがりー」

 

「また私がビリ、か」

 

「ポーカーフェイスして負けるとかある意味凄いよな」

 

「多少なりとも九鬼に入ってからは上がったのだが……やはりリアルラックが低い。最低をEとしたらD位、か?」

 

「なにを基準にしてのステータスなのさ?」

 

 

 その辺りは言わずもなが、だろう。知っているものには一目瞭然である。若干だが上がっている事も含めて。

 

 

「ちなみに、上限はEX(規格外)でその下はAだ」

 

「聞いてないからっ!?」

 

 

 個人的には父である九鬼帝は最低でもA++は固いと認識しているのは余談。

 

 

「神経衰弱ならば負けはあらぬのだが」

 

 

 言葉を放った瞬間、「オイ、ヤメロ」とワン子、クリス、まゆっち以外の全員からのパッシング。ついていけない2人と苦笑する1人を尻目に残りの面々はそれは駄目だと言う。然もありなん。

 どういうことなのかと尋ねてくる新参ふたりにモノは試しと実践してみせた。

 

 

「御覧の通りだ」

 

「なん――――」

 

「――――だと?」

 

「オラは今、他人が裏側に伏せてばら撒いたカードを躊躇い無くめくって一度もスカる事無く当てていった光景を目にした。速いとか眼が良いとか感が良いとかそんなちゃちなもんじゃないもっと恐ろしいナニカを垣間見た」

 

「これだもんなー」

 

「ノルン相手に神経衰弱とか正気の沙汰じゃない」

 

「なにをどうやっても1人だけ別ゲーやってるよね」

 

 

 未だに眼前の出来ごとに信じられないと言わんばかりに目を見開く2人。当然といえば当然で、誰が一体こんな光景を一度で信じ切れると言うのか。

 当然といえば当然、偶々だろうと言うクリスに更に都合10回、同じ事を寸分違わず披露したのだった。終わった頃にはこういうモノだとクリスどころかまゆっちにまで疲労の濃い笑みが浮かぶのみ。然もありなん。

 

 

 次は大貧民やろうぜ、とゲームを変えて遊ぶ。平等にと配られたカードは見事に極一部に凄まじい偏りを見せたのは既にお約束である。

 

 

「最初は僕からね。手堅く5だよ。次はノルンだけど」

 

「その物言いにも引っ掛かりを覚えるぞ?……パスだけども」

 

「もうですか!?」

 

「本当にリアルラック低いよね。クリハンでもノルンだけは何回やってもレアドロップ落ちないし」

 

「どんだけー」

 

 

 普通はどんなゲームも絡めてでも無ければ大きく一部が得をしたり損をしたりはしない様に確率的に出来ているのだが1周巡るだけで既に一部、誰よりも手札が多いのはどういう事なのか。

 頭の痛い光景を視界から少しズラすと携帯を熱心に弄っている大和の姿が視線に映る。行動からしてメールでは無くニュースの閲覧だろうか。

 既にビリが決まっている上での行動だろう。十中八九。

 

 

「お、まだ収まりそうにないな……」

 

「何がだ?」

 

「一昨日の沖縄で起きた怪奇現象さ」

 

 

 一昨日、沖縄、怪奇現象。その単語らを耳にした時、旅行での出来事が思い浮かぶ。おずおずと確認するように証左を尋ねてみると、やはりというべきか、中身は沖縄を覆った爆弾低気圧が唐突に掻き消えた現象について。

 凄まじく片手間に片付けたので分かり辛いが、雲を断ち切り嵐を消し飛ばす真似はそれこそ武神クラスの人間でも無い限り不可能である。この場合、他にも候補が上がる事自体には眼を瞑る。

 

 

「にしても姉さん以外にもこんな事出来る奴っているんだな」

 

「おるだろうな。具体的には大和、其方(そなた)の右隣に、だ。8から行くぞ」

 

「って、これお前の仕業かよッ!?」

 

「うむ。義経と2人で旅行で沖縄に滞在しておった際に少し、な。其処まで驚くのは些か心外だが……モモとて同じ事は為せる」

 

「確かにそうだけどさ……なんか疲れるなーもー!」

 

「というかチョットマテイ」

 

 

 待ったを掛けて来たモモをに視線を移す。かなりおっかない形相で睨みつけてくる武神さん。何故だかガクトがその隣で血涙を流している。

 

 

「聞き捨てならんぞノルン、沖縄の旅行って……」

 

「そう言えば申しておらなんだな。義経の若獅子の商品に便乗したのだ。誰も予定が相手おらなんだ故――――」

 

「どーでもいいんだよぉ、んなこたぁッ!! てめぇノルン! 俺様がひと夏の想い出をどピンクの花火で彩ろうと必死こいて奮闘してるって時に何を羨ましい事をしてんだあコンチキショー!! 何があったか詳しく参考までに詳しく教えてくださいッ!」

 

「いっそ清々しいまでの見事な土下座だな!?」

 

 

 恥も外聞も知った事かと言わんばかりのガクトの土下座は10.0点間違いなしの神業だった。ガクトに気を取られたところで首に強い圧力と後頭部に柔らかい圧力が掛る。

 花に近い甘い香りが鼻孔を擽り、視界の隅には長く艶やかな黒髪が差す。何ともいえない感触と比例して強くなる首の圧迫に腕を挟んで抗う。

 

 

「ホントニナニガアッタノカチクイチキキタイナー」

 

「片言はやめいモモ、薄ら寒い。色めいた事はなにもあらぬよ」

 

「んな訳ねぇーだろ!? 思春期のヤリたい盛りの高校生が異性と2人っきりで何もしないとか――――お、お前まさか……そっちか? そっちだったのか!?」

 

「生憎とmoys(京が大いに喜ぶ趣味)は持ち合わせておらぬ」

 

 

 舌打ちが聞こえたが敢えて無視。触らぬ神に崇り無しである。本当に薄ら寒い。

 

 

 少し考えれば分かる事で、普段から濃いあの一族を見ていると分かり辛いが有名どころにゴシップとは本来大敵以外のなにものでもない。ましてや醜聞などは以ての外で、KOSや若獅子の折りで活躍したある意味時の人ともなれば"そういう輩"が嗅ぎまわってくる。

 これでも旅行中は身外身を使って簡易な認識阻害を用いたりと気を使っている。万が一ネタにされても金で握りつぶすだろうが、間違いなく失態以外のなにものでもない。

 だからこそ、義経自身を傷付けないという最優先目的を旅行中は旨にして行動をしていたのだから。

 

「ただまぁ、何もなくは無かったな」

 

「や、やっぱりエロスか!?」

 

「当たらずとも遠からず、かな? 旅行を経て私の中での義経の株は急上昇中だ」

 

 

 湧き立つファミリー。キャイキャイとこの手の話には男女問わず食い付きが良い。普段異性に色ごとで興味を向けないワン子もこの手の話には顔を赤くしている。

 尤も、背後から伝わってくる姉の動揺ぶりと比較すると凄まじく可愛らしいものだ。

 

 

「な、お、オイどういうことだよ!?」

 

「そのままだが?」

 

「わ か る よ う に い え よ!」

 

「こ と わ る ! それよりも大概首から手を離せモモ」

 

「だ が こ と わ る !」

 

「仲いいね、2人とも……」

 

 

 話せ、断るの応酬。割と良く見せる光景にファミリーは何時もの光景だ、と空気が白けてゲームに戻っていく。こちらは放りっぱなしのまま。

 暫くして一度は収束を見せるも、その日は終わるまで何故だかモモにべったりと張り付かれるのだった。

 

 

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