気まぐれ神様の物語 真剣恋Ver.   作:ジーザスルージュ

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大っ変っお待たせしました。
漸く5週目に到達したので区切りで投稿します。

今回はサービスシーンありです。

R指定は至らない、筈……


59話

 胸に感じたその重みで眼が覚める。

 ドン、というよりはドスン、という表現がしっくりくるそれは重量にしてそれなりの重さだった。加えて胸に掛るのは重さだけでは無く程良い柔らかさや温かみもある。

 宛らそれは例えるならば人肌の様な感触が伝わってくる。

 

 

 ――――実際に人肌な訳であるが。

 

 

 目が覚めたばかりではあるが、伊達に様々な場数を潜ってはいない。敵意がないとはいえ意識が覚醒したのと同時に圏境は正確にソレがなんであるかを使い手に伝えているのだから。

 

 

「弁慶……」

 

「んみゅ……zzz……」

 

 

 昨日は定例になっている飲み会の後確かに義経の随伴で眠った弁慶を部屋まで送り届けた筈だと思考は告げる。ならば目の前でさも気持ちよさそうに鼻にかかった声を零しながら人の身体を布団にする俗に肉布団にしているのはなんなのかといえば言うまでもなく今し方潜り込んだことは明白だ。

 普段からこの部屋に、弁慶は存外良く入り込んでいる。というのも合鍵を渡しているので当たり前なのだがこういうケースは初めてだった。

 

 

 時計の方に眼をやると時刻は深夜2時前を示しており、知る限り今までの弁慶の行動とは色々とかけ離れているのを訝しみながらも凭れかかるどころか人の上で突っ伏している彼女を揺り起してみる。

 しかし意味を為さない。彼女の寝は筋金入りであり、一度決めると梃子でも起きないとは与一の談であると同時に弁慶を知る者の共通の認識である。

 

 

「弁慶、弁慶、起きよっ。眼を覚まさぬか」

 

 

 しかし起きる気配はない。

 気持ちよさそうに言葉にならない声を上げるばかり。それも何処か心なしか艶のある声で。おまけに弁慶の恰好は寝ている間に脱いだのかワイシャツ一枚以外になにも身に纏っていない。

 部屋の照明を落としているとはいえ、それ位の夜目が聞いたのが仇だった。幸か不幸かギリギリ下半身はワイシャツの裾で覆われていたので眼にする事もなかったが。

 

 

 その無防備さに内心で溜息を吐きながらも「已む無し、か」と部屋にもう一度届ける為に起き上がる。

 ――――が、これも上手くはいかない。

 

 

「縦四方固め、だと……?」

 

 

 柔道における寝技の中でも抑え込み技と呼ばれる技法。仰向けの相手の右腕と首を制して、さらに相手の両足を外側から絡めて固定した状態から相手の体を覆って抑え込む技。ぎゅう、と絶対に離さないと言わんばかりに抱え込むように抱きつく体勢で未だ眠りについたままの弁慶。

 引きはがそうとする手に抗った末の偶然の産物か、はたまた故意か。何れにしても作りだされた技は身体操作を以ってすれば抜ける事は出来なくはない。弁慶の怪力で締められてはいるが寝ているため酷くはない。しかし。

 

 

「んぅ~……」

 

「斯くも離れたがらぬ様子では、な。流石に忍びない」

 

 

 そうまでして無理に退かせる理由は無かった。ましてやそれが弁慶の様な可愛らしい女性であれば尚の事。

 火遊びの心算は一切皆無ではある。元より女性という意識の他にもその寝顔にはスキンシップを望む猫の様な印象を受けてしまって無理やり退けるのは憚られた。

 

 

 こういう所を義経は甘いと言ってくるのだろうと他愛ない思考を巡らせながら眠りに着く事にした。意識を落としながらもふと頭を過る。

 

 

(はて、甘えるにしても斯様な過激なモノではあらなんだが……心境の変化、か)

 

 

 その理由は何となく察してはいた。其処までに至った理由には心当たりはないが。

 しかし、今は見て見ぬふりをすると決めている。何であれ、自分から言う事はないと。

 優しく髪を手櫛ですく様に頭を撫でてもイマイチ説得力のある光景ではなかったが、気持ちよさそうに頬をすり寄せる光景は愛らしいので良しとした。

 

 

<<やれやれ、義経もだが……我が伴侶ながら此度はよく好かれることだ>>

 

<<嬉しい、悔しい、とな?>>

 

<<分かっているじゃないか>>

 

 

 念話から通じる声だけでも聞き手には言い手の心が手に取る様に分かる。

 雪花としては己が惚れた相手が好かれるのは嬉しさと同等以上に悔しさが湧いてくる。ノルンの性質上、見る目と素質があるなら魅かれて当然と理解はしていても女たるとしては複雑なのだ。

 尤も、うだうだするよりは手っ取り早く肌と言葉を重ねて愛を得るのが雪花流の愛のマーキング(主張)だ。お互いにそれを熟知している。

 

 

 とはいえ実体化は此処の様に神秘性を著しく欠いた世界ではおいそれとできない。しかしそれはそれとして相応に対処するのがこの面々の逞しいところ。具体的に言えば夢を介した精神世界でヤリまくりである。慣れ過ぎだ。

 誰かを愛する事を許容しても独占欲が強いのが雪花である。其処がまた愛らしいところでもあった。

 

 

<<で、件の3人……とりわけ義経についてはどうする積りだ?>>

 

<<……思うておる通りだ>>

 

<<ふむ、まぁ珍しく切羽詰まった状況でも無し。当然といえば当然か>>

 

 

 一言余計だな、と言われた側には浮かんだがそれも承知だと雪花も理解している。

 主語を省いてなお通じる意思疎通。

 雪花はそれ以上の追求をする事無い。聞かずとも、尋ねずとも言いたい事が察せる程に2人の繋がりは強い。確固たる絆がソレを可能にしている。

 

 

 各々が半身と称するように信頼だとか愛情だとか、最早そんな次元にこの二人はいない。思考或いは思念を用いらずに互いが互いを察する事が出来る領域。

 ここまで言えば聞こえは良いが、ある意味それがどれだけ歪な関係なのかは推して知るべし。阿吽の呼吸を愛し合っているとはいえ赤の他人が為す事自体が異様以外のなにものでもない。

 或いはこれが片方だけならともかく雪花の側からともなると尋常ではない。

 その突端は此処に到るまでの方法、雪花を始め妖星衆も含めた彼女達の存在基盤にも原因があるが、突端は突端に過ぎず、先にも評した通り二人はそんな次元はとうに超越している。

 無論、過して来た時間も規格外なら御霊神として側に侍ってから以降、常にノルンを文字通り見続け、見られる側も容認しているという規格外の環境もありきではあるが、分かり合えない者達はどれだけの月日を重ねようと分かりあえるものではない。

 

 

 2人の伴侶や恋人としては大凡理想図とされる環境、関係は、やはり直に目にしても理想よりも歪という割合が多くを占めるだろう。

 当事者たちにとってはそんなものは"なにそれ、美味しいの?"で終わるが。

 簡素にまとめればつまるところ、欲望に忠実すぎたの典型なのである。

 尤も、それは妖星衆の面々にも大なり小なり言えたりもする。この隙間の一切見えない二人の間に良く言えば2号的に、悪く言えばお零れに預かる形でも食い込んでいるのだから。

 

 

 そしてノルンという人間を愛そうとするならば彼の特性的にも必然的にこの狂信にも似た"愛"という名の常軌を逸した一種の修羅道に身を落とさねばならない。

 好意を向けられる当人がそれを自覚していると言うから性質の悪く、また5人からすれば彼に魅入られきったが最後、もう手の施しようはないとのこと。

 悪質ここに極まれりである。

 救いがあるとすれば好意を向けられるノルン自身は万人受けでは無いという点か。

 

 

 とはいえ、先の事など何人にも知れようはずもない。既に魅入られ掛けている者が幾人かいるが最終的に決を下すのは向けている当人たちなのだから。

 故に今は眠りにつく。明日を迎える為に。日付的には既にその明日だろうと言うツッコミは受け付けていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 息が荒い。

 

 

 はぁ……はぁ……

 

 

 はぁ……はぁ……

 

 

 はぁ……はぁ……

 

 

 不規則で掠れた息遣いは宛ら全力疾走した直後の様に乱れる。しかし別段走った訳ではない。

 

 

 ユラユラと不規則に揺れる身体。上に、下にと揺れる、揺れる。

 揺れに合わせる様に声が上がる。媚びるような喜色に満ちた鳴き声。

 声の主は喘ぐ。喜びに咽び、唯々お腹の奥から脳髄へと駆ける快楽に。

 息を乱しながらも背中から抱きしめる様にしてまわされる細いながらも芯の通った逞しい腕。力も入らず身体から滑り落ちる玉の様な汗を流しながら背に凭れれば確りとした固い胸の感触が背中の人物が醸し出す雰囲気も相俟って安心感とそれを上回る悦楽が内側から瑞々しい身体を蝕んでいく。

 

 

 ――――たまらない。

 

 

 病的にまで身体の芯からドロドロに溶かされるような快楽は一層彼女をのめり込ませていた。

 麻薬を常習する輩はきっとこんな感じなのだろうか。

 息はおろか意識すら途切れそうになる中、ふとそんな思考が彼女の頭を過る。しかし、与えられる悦楽でそれも遥か彼方。

 

 

 動きが一層激しくなる。

 堪らず鳴き声を上げてしまうのは必然だった。

 獣の様な息遣い。

 ユラユラ揺れる身体。弾ける汗とそれ以外の水滴すら気にならない。

 程なくして身体を駆け抜ける暴力的と表現できる快楽の刺激が全身を包み、だらしなく舌を出し、一際強く声にならない声を上げた。

 

 

 くたり、と倒れ込む身体には一切の力は入らず、背中から感じる異性の身体の感触と回された腕だけが支えだった。

 獣の様に荒い呼吸。整えようとしてもままならない。身体には汗とそれ以外の体液が纏わりつくも気にならない。頭に残る真っ白な痺れと全身を包む心地良い愉悦の残り香たる疲労。それに伴う幸福感が今の彼女を満たしていた。身も心もグズグズになるまで溶かされて尚、残るのは何もかもを委ねられるという安心感。味わう側にとってまさしく麻薬に等しい。

 

 

 彼女の頭の後ろで動く気配。

 耳元から首筋に掛けて感じる息遣いにくすぐったさを覚え、それが顔を寄せて来たのだと分かる。

 

 

 ――――――――

 

「あ……ぅ……」

 

 

 震えた。

 唯名前を耳元で呼ばれただけでだらしなく頬が緩むのが否応なしに理解させられる。

 顔面どころか身体そのものを紅潮させたまま振り向き、全身で擦り寄った。もう一度名を呼ばれ見上げると見慣れた顔。

 

 

 ―――――――い。

 

 

 気恥かしくなって胸に顔を埋める。

 自分はこんなキャラじゃないと心で思っても、止められない。恥ずかしさだけでは無くその胸板の固さが心地いいから。

 

 

 ―――――ん―い。

 

 

 だから誤魔化す様に胸に頬をすり寄せた。猫のマーキングの様に。

 すりすり、と。

 

 

 ――――べん―い。

 

 

 しかし、ふと疑問に思う。

 何故呼ばれている筈の名前が遠くから聞こえてくるのか。名を呼んでいる者の顔を見るべく顔を上げると

 

 

 

 

 

 

 

「起きぬか弁慶」

 

「――――え?」

 

 

 思う以上にドアップで瞳に映ったその顔。見慣れた九鬼ノルンその人である。

 

 

 あれ、と心に疑問が湧きでる。

 部屋を見渡してみると其処にはある意味で見慣れた目の前の人物の部屋。そのまま呆然と辺りを見渡して再度視線を降ろす。

 相変わらず至近距離映るノルンの顔は先程見ていたものとは別と言っていいほど素面――でもないが見慣れたといえば見慣れた微笑みと苦笑の間の仕様が無いと言わんばかりの顔。

 

 

「何やら幸せそうな顔をして寝ておったが、何ぞよい夢でもみれておったのか?」

 

「ゆ、め……」

 

 

 あぁ、成程。

 驚くほど目の前の人物の言葉はストン、と胸に収まる。当然といえば当然だ。今思い返してもあからさまに脈絡が無さすぎる。

 目の前の人物は殆どそういう顔を誰かに見せる事はない。ましてや肌を重ね――――

 

 

 平時の彼女からしてあり得ない速度で彼から飛び退いて顔を背ける。思い返したが故に弁慶は身体が火が付いたかのように熱を感じ、羞恥で染まった顔を見られない様に。

 手は自分を抱きしめる様に交差して閉める。

 

 

「わ、私はあのままこの部屋で寝てしまったのか? 記憶があやふやだが微かに部屋に運ばれたのを覚えているがっ」

 

「間違えてはおらぬよ。が、その後弁慶は寝ぼけて夜中に部屋に押し入って来たのだ」

 

 

 なんだそれは、と自分の行動を内心で怒鳴りつけてやりたかった。ぶん殴るおまけつきで。

 まだ部屋に居ついたとかならまだしもこれは余りに恥ずかしすぎる。普段なら然程ではないのかもしれないが如何せん見ていた夢が夢だった。

 弁慶にとって不幸中の幸いなのはノルンが見て見ぬフリをして落ち着くのを待って静かに見守っていた事だろう。

 夢の中身を聞かれていたら流石に狼狽していた。今もだが、更に醜態をさらしていただろうことは容易に想像がつく。

 

 

(心臓に悪すぎるッ……)

 

 

 幾ら己の気持ちに気付いたとはいえ、割かし欲望に従順な自身のあり方をこの時ばかりは盛大に呪った。

 気持ちを切り替える為に深呼吸をして、なんとか平常心を保つ。「ごめんね」と悪びれるのに「構わぬよ」と返すノルンに対して笑って誤魔化す。

 

 

 服が大分崩れているのは理解していたがそれは意識の彼方なのはこの際突っ込まない。だらしない姿自体はお互い見慣れているのだから。

 

 

 時刻は6時半。寝直す気には到底慣れる訳もなく、学校の仕度もしないといけないので部屋に戻ろうと立つ。

 ――――太ももの付け根から感じる粘り気のある水気。それが何かに気付いて弁慶の顔はその赤みが強く。

 

 

「大事ないか? 顔が真っ赤だぞ。寝ぼけて入り込んだのがそんなに恥ずかしかったか?」

 

「あ、アハハ……まぁ、ねぇ。私も花も恥じらう乙女だからな」

 

「そのあられもない格好で言われても、な。まぁよい、部屋まで送ろう」

 

「いい、いらない!」

 

「や、しかし――――」

 

 

 尚も言う目の前の人物に捲し立ててから慌てて部屋を後にした。確かにあられもない格好で外に出るのもあれだが一刻も早く出るのが彼女にとって最大事項。

 幸いにして誰にも見られる事もなく部屋に戻った弁慶は大いに安堵するのだった。

 色々な意味で。

 

 

 溜息ひとつ漏らして改めて自分の行動を省みる。

 異性の部屋に潜り込む。あぁ、これはちょくちょくというか割かし頻繁に行っているのだ。これ自体は特に無い。

 あられもない格好も、ここまでの状態は極々最近だが前から異性の前という点で見れば随分とラフな格好はあったので問題はないといえる範囲内。

 ひとつひとつを挙げれば問題は無いがそれらを照らし合わせると途端に頭を抱えたくなる。

 無論羞恥で。

 

 

 異性相手、特に彼に対して甘えるのは初めてどころかしょっちゅうだ。その位で乱される関係では無い。しかし、如何せん起きるまで見ていた夢のおかげで呆気ない程に心の壁は揺らぐ事となった。

 

 

 比喩抜きで火が顔から出るのでは思う位に自身の顔は真っ赤だろう。幾らなんでもアレは色々と無い。

 羞恥的な意味で。

 

 

 夢で自分の濡れ場な所を見て、尚且つ起きたら相手の顔が実際に目の前でドアップでドーン。ましてや気付けば身体は否応なしに疼いていたのだ。

 誰だって羞恥の極みである。よく叫ばなかったと自画自賛。

 

 

 しかし、しかしである。改めて振り返ると言う事は無論先程事を全て思い出すと言う事である。

 ノルンとのやり取りは勿論、らいしからぬ振る舞いの原因まで。なまじ優秀であるが故に鮮明にそれは回想の映像として脳裏から反映される。

 

 ――――リズミカルに弾む身体。

 

 ――――だらしなく上げる言葉を為さない声。

 

 ――――鏡を使うまでもないと思える程に蕩けきっていただろう表情。

 

 ――――普段のソレとは明らかに違う媚びるような甘え方。

 

 

「~~~~~~ッッ!!」

 

 

 顔を手で覆ってしまう。

 心を占めるは羞恥ともうひとつ。

 前者は夢を見た事そのものを。

 

 

 

 

 ――――後者はそれが自分の望みなのだと理解してしまったのを。

 

 

 

 

 たかが夢とそれを否定する事は弁慶には出来ない。見ている間も覚めた今も、心に湧いたものは変わらない。

 

 

 ――――満たされていた。

 

 

 それだけのことだ。

 手が自然と頭まで伸びていき、髪の毛を掻き毟る。その柔らかくも癖のある髪がぐしゃぐしゃになる程に。胸に燻る感情を掻き出す様に。

 一頻り掻き毟って落ち着いたのかピタリ、と動きは止まる。

 やがてポツリと漏らす。

 

 

「……あぁ、これは駄目だわ……」

 

 

 答えは定まっていながら問題なのはその過程であることに間違いない。思い浮かべるのは最愛の主。

 方向性は異なれど間違いなく彼女も己と同じだと確信している。当人に自覚は無くとも。

 しかし争う等メンドクサイ真似はこの期に及んでも御免蒙る。ましてや相手が主なら尚のこと。目映いあの笑顔を曇らせたくはないのだ。

 

 

 だが、あきらめがつく程安い熱でも無い事を知った。知らされてしまった。他ならぬ自分自身で。ほとほと自分で自分を笑いたくなってくるがそれはそれ。最近そんな機会が多い気がするが気にはしない。しないったらしない。

 問題は、ならばどうするかという点で悩んだ。

 こんな事をしてる場合では無いだろうと残った冷静な部分が囁くが意識の彼方。

 しかし、深く考える前にひとつの解がふっと湧きだす。

 

 

(――――どうせなら主を巻き込んでしまえばいいのでは?)

 

 

 なにに巻き込むのかは余人の理解する所では無い。しかし、思いついた当人は咄嗟の思い付きだが妙案だと頻りに頷くだけ。

 言える事があるとすれば、それは弁慶にとっては間違いなく一挙両得の美味しいとこどりであり、向けられる相手の事はこの段階では考慮されてはいないということ。

 頭では理解しても――ま、いいよね――と心で斬り捨てた。そもそも伴侶と呼ぶ女性を5人も囲って言いながらこうまで人に異性を意識させる振る舞いをしたのだ。自分にせよ主にせよ、好意は惜しみなくと信条通りに振舞った自分を呪えと八つ当たりにも似た思いで笑う弁慶。

 でも主の方が問題か、と再び思考する。

 

 

 これから先の行く末をまだ誰も知る由は無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから、ブラックホールを作るのも氣の応用な訳だ」

 

「危なくないか?」

 

「それは触れればもっていかれる技ですからね」

 

「何やら後ろは物騒な話をしてるな」

 

「放っておけ。アレのデタラメ具合には腹いっぱいだ」

 

「ノルン君が言えるのかな? それって……」

 

 

 義経の言葉に首を振って、清楚の問いには黙秘で返す。

 

 

 朝の登校風景。というには背後から聞こえるあまりにも物騒な言葉。

 まゆっちやクリスの技に関する質問に律儀に答えるのは構わないのだが、途中の「ノルンを倒すために」が既に色々とアレだった。

 

 

 何時ぞや大和が言っていたな、と意識を半ば無理やり彼方に追いやって流す。

 マイクロブラックホールをどう使って相手を倒す心算なのか気になるがまるっと無視するのが正しい選択だ。現に3人以外には耳に入っていない、入れてない。

 

 

「やー、始業式に間に合ってよかったぜ!」

 

 

 このファミリー+武士道プランの団体。その先頭付近にいるキャップに「いやいや間に合っていない」と声を揃えてツッコム。

 今日に南米のマチュピチュから戻ってきたキャップは相変わらずの様に冒険譚を聞かせてくれる。何故だか毎度毎度首を突っ込んではトラブルに頭から突っ込んでいいるようで、語るその波乱万丈の冒険譚は聞いていて呆れと感心を運んで来てくれる。

 時差による時間感覚の差異には困ったモノだが。

 

 

 ここで語られる違法なトレジャーハンターとの死闘だとか、原住民(現地人にあらず)との異文化交流だとか本当に観光では無く冒険譚な点には最早ファミリー内でツッコムものはいない。慣れと言うのは恐ろしいものである。

 話題に対して清楚や義経の様に驚いたり、感動したり、感心したりが真っ当なリアクションだ。

 

 

「ところで、結局そのブラックホールはノルンには届いたのか?」

 

「いや、もし当たったらって思うとなぁ……ノルンならどうとでも対処する気がするが」

 

 

 前を歩く相棒を見つめるモモ。

 視線に気付きつつも無視。

 しばし思案して、モモは悪戯っ子が浮かべる様な悪い笑みを見せて氣を練りだす。

 

 

 超越者、マスタークラスの中でも一際な実力を持つモモの高められた氣に否応無し周りにいた殆どの人間、特に一般人側は慌てだすが止められる者がいる筈もない。否、いるにはいるが即座には無理な距離だ。

 武芸者としては綺麗な手。その掌の上に出来る暗黒球体。

 視線は常に前を歩く彼一点に絞られ、慌てる周りを他所に視線の先に居る人物は平然と歩く。

 

 

 姿勢を低く、獲物に跳びかかる獣の如く構え、踏み出す。

 大和を始め止まる様に言うも聞く耳持たずで駆け抜けるモモ。

 腕を振りかぶり、突き出す。掌の暗黒球体は文字通り何もかも捻じ曲げて消滅させるだろう。向けられる人物とて例外ではない。

 

 

 しかし、そうはならない。

 今にも触れそうな距離まで近づいたそれを持ち前の圏境で察していた。傍から見れば後ろに目があるのかと思う位に絶妙な回避行動。

 ガシッ、と突き出された腕の手首部分を握りしめる。途端に霧散する暗黒球体。腕を動かした際の慣性の力をそのまま掴んだ寸勁の要領で氣を掻き散らす。文字通り散らせ、霧が晴れるようにスゥ、と氣が消えたのはひとえに絶妙な威力の制御のなせる技。

 ここで加減を失敗すると極近で圧縮した氣が爆裂するが故の処置である。

 

 

「ちぇ……ほらな、やっぱり駄目だったろ?」

 

「「「「「いやいやいやいやっ!?」」」」」

 

「YOU人様にブラックホールを向けて奇襲しちゃいけませんって習わなかったのかYO!」

 

「習わないよ、絶対……」

 

 

 久しぶりといえば久しぶりなじゃれ合い。やった当人はほら見ろと言わんばかりだが全員がツッコンだ。当たり前である。

 出会ったばかりの頃や、ファミリーの面々と知り合って間もないころはこんなやり取りがあったなぁ、と周りを他所にしみじみ思い出に馳せる。ここまでやらかした後に祖父にゲンコツと雷を喰らうのが定番だ。

 ちなみにワン子も存外見慣れた行動なので平然と周りの対応に首を傾げていたりする。色々と染まっている事に思うところがなくはない。

 

 

「ワン子が平然としているのが何だか凄い敗北感なんですけど」

 

「どういう意味よ! お姉様とノルンのこのやり取りは川神院内だと割とちょくちょく見掛けていたからもう慣れたわ。それより、義経や清楚先輩の落ち着いた様子の方が驚きよ」

 

 

 視線は義経と清楚に向けられる。義経は何故だかエヘンと胸を張って得意げな顔で、清楚は苦笑いを作っている。

 

 

「ノルン君ならあれ位は問題ないと義経は分かっていたからなっ」

 

 

 なんでそこで主が胸を張るのかという弁慶の呟きが虚空に消える。

 

 

「うん、概ね義経ちゃんと同じだね私は。でも、モモちゃん。あんまりはしゃぎ過ぎるのは良くないよ」

 

「あっはっは。ま、お互いある意味慣れているからな」

 

「慣れさせたの間違いであろう。奇襲の類はほぼ通じぬとは言え、今の規模はやり過ぎだぞ」

 

「てへぺろっ☆」

 

「…………」

 

 

 ――――うわ、コイツウゼェ。

 

 

 目は口ほどにモノを語ると言うが、ここまで的確に言葉で表現できる視線は無いだろうと言う位に実直な眼。

 

 

「や、ヤメロヨー……ちょとした茶目っ気じゃないかよー……」

 

「いや、姉さん……」

 

「ブラックホールが茶目っ気とかどんだけー」

 

 

 これが朝の風景なんて色々と物騒過ぎると誰もが思った。

 じゃれ合いはそこそこ、再び全員歩き出す。時間的に余裕はあるが、遅れる様に振舞う理由はない。

 九月の上旬。夏の気配を未だ色濃く残す残暑の気配が空に座す太陽の光として降り注ぐ。未だ朝だと言うのに肌に伝わってくる熱気がそれを物語る。蝉の鳴き声も軒並み消えているが、夏は当分去りそうにはなかった。それでも特になにが変るでも無く日常へと歩んでいく。

 

 

 やがて見えてくる馴染の校門。

 和風的な建築が特徴的な門の周りには既に他の学生の登校風景がチラホラと眼に映る。登校している生徒から大和に対して挨拶もそれなりに眼に映る。

 流石軍師、なんて仲間から評される大和はほんの少し誇らしくしている様にも見えた。

 

 

 グランドを抜けて校舎内、下駄箱でそれぞれ保管場所が異なるので別れて各々自分達の所に向かい上履きと履きかえる。

 すると横から弁慶の何かを見つけた様な声に義経と共に振り向いた。「どうかしたのか」という主の問いに「手紙が下駄箱にINなう」と返す弁慶。

 

 

 取り出したのは淡い水色の便箋。

 武士道プランの申し子たる弁慶に対しての手紙は大抵決闘かLOVEのどちらかだ。便箋はシンプルながらも御洒落を感じる品のいい見た目は、とてもではないか果し状には見えず、必然後者であり、実際に中身をみた弁慶の気だるさの増した横顔を見ても間違いない。

 

 

「恋文か」

 

「手紙はどうにも肌に合わないんだよねー……それに受ける気なんて更々ないし」

 

「しかし、この場合どうしたらいいんだろうか? 相手も当然真剣な訳だし失礼のない様にしないと」

 

「んなもん、破るなり捨てるなりすればいいだろ」

 

「与一!? 駄目だぞ、折角一生懸命書いた手紙を雑に扱うなんて」

 

「だが姐御はその気が無いんだ。いっそこの場できっぱりと意思表示てやった方が慈悲ってもんだろう」

 

 

 義経が渋るが与一の言葉はある程度的を得てはいる。

 実際、中途半端に期待させるよりはきっぱりと明確にした方が時として優しさではあるだろう。手段がアレなので武士道プランの立場からしたら完全にアウトではあるが。

 

 

 視線を便箋から弁慶の方に向け、「如何(いかが)するのだ?」と問う。基本的には面倒な真似はしない弁慶だが、主に迷惑が及ぶ真似は――――しないとは言い難いが泥を塗る真似は避ける。

 だからこそ、大抵この時の対応は決まって放置と無視である。手紙である以上は其処には書き手の趣旨がつづられている訳だが、今回の場合は指定した場所への召致。

 このばで捨てるには体裁が悪い。かといって当人は受ける気持ちは皆無とくれば、必然放置という手段がものぐさな弁慶の中で選択肢として残り、問われた側も「放置するよ、めんどいし」と言う。

 

 

「それにしても弁慶はモテモテだな。こうしてちょくちょくラブレターを貰っているのだから」

 

「そういう主だってラブレター、貰った事あるでしょ。お互い様だよ」

 

「姐御に対してラブレターとか……」

 

「何か言いたそうだな、与一?」

 

「い、いや、べ、別に何でもないぜっ!」

 

 

 慌てて首を振って否定し、明後日の方を向く与一。口は災いのもとという言葉を学べと言うべきか、最後まで口にしなかったのを褒めるべきか。

 なんでそう火に自分からくべられに行くのか謎である。

 

 

 隣の弁慶が唐突にニヤリ、と笑う。悪戯っ子の様な、玩具を見つけた猫の様な笑み。

 徐に腕を取り、自分の元に寄せて抱く。俗に言う腕組状態。

 そのふくよかな肢体が密着し、肘越しに女性の象徴が当たる。

 

 

「うん、こうしていれば虫も寄って来ない(それに意思表示もできるし、ね)」

 

「ふむ、ここは当たっておるぞ申すところか?」

 

「だったら当てているんだと返そうか。役得だろう?」

 

「呵々、至極な」

 

 

 「えろすけめ」なんて悪態をつくが、抱きついてきたのは弁慶の方である。加えて言葉とは裏腹に甘え猫の印象を受けるにやけた顔は嫌そうに見える者はいない。

 それを目の当たりにした義経は臣下の態度を諌める。

 

 

「ノルン君に甘えてばかりでは駄目だぞ、弁慶! 唯でさえ何時も世話になっているのに」

 

「こうした方が角が立たないって」

 

「それは、そうかもしれないが……やはり義経はこういうのは良くないと思う」

 

「私は構わぬぞ義経」

 

 

 「だがっ!」と尚も食い下がる義経に「恋愛程こじれやすいものはあらぬよ」と諭す。幾らその身分が九鬼の管轄である彼女達とは言え、人を思う心は時として権力どころか法の壁すらヒョイっと人に跨がせるのは世の常である。

 この状況であるならばこじても九鬼が介入する名分がそれなりに出来上がる為、相手が例え非常識な行動を取っても九鬼を介さずに処理しやすい。

 

 

 説得を渋々ながらも受け入れる義経。しかしやはり不満顔は残ったまま。

 主の様子に元凶――この場合そうとは言い難いかもしれないが――は懲りる事は無く、ニヤニヤしながら更に爆弾を落とす。

 

 

「なんなら、主も抱きついちゃえばいいじゃん」

 

「なんでそうなったんだ!?」

 

「ぶっ飛びすぎだろ姐御……(まさか組織に? いや、姐御に限ってそれはねぇ、筈)」

 

「虫よけ、にしては過激が過ぎぬか?」

 

「でも効果的だろう?」

 

「否定はせぬが、な……」

 

 

 視線は真っ白な肌を真っ赤にさせた義経の姿。弁慶→ノルンの腕→自分の手の順で視線をせわしなく動かしている。あわあわしながらも何かに葛藤している姿は結果として何やらとても愛らしいものを生みだした。

 弁慶に釣られてほっこりしていると、背後に近付く身に覚えのある気配。襲撃に備えて体勢を微妙にずらし、腰を落とす。

 

 

「どーん!」

 

 

 軽快な声と共に身体に伝わる衝撃。それなりに勢いがある事を衝撃が物語るが、武神のソレとは比べるべくもない可愛いもの。しかし、横に引っ付いていた弁慶には文字通りの奇襲というのも相俟って軽く驚く。尤も、それで狼狽えを見せる人物でもない。

 

 

「おはよう、ユキ」

 

「おはよーノルン」

 

 

 背に乗っている小雪。続く様にして近付いてきた冬馬と準にも朝の挨拶を交す。遠巻きに女子が騒ぎ、それを爽やかに相手する辺り手慣れている感が半端ない。

 冬馬の視線はこちらへ移り、横の弁慶と移動して、再び戻る。

 

 

「妬けちゃいますね」

 

「それは、どちらに対してか問うても?」

 

「ふふ、さてどちらでしょうね」

 

「今日も若は絶好調だねぇ……」

 

 

 胸やけがしないでもない、と準の呟きに対する率直な感想だった。絶えず意味深な笑いにはや反応返す者は身近にはいない。唯々周囲の女子から目の前の彼に浴びせられる黄色い声と熱い視線のギャップに得も知れない疲労感だけは拭えない。

 

 

 ここで駄弁り続けても何なので、と教室への歩を進めた。背には小雪、片腕には弁慶のままで。

 曲りなりにも容姿端麗なふたりに抱きつかれている状況は既に登校している学生にも当然眼にとまり、男子達からの強烈な視線が突き刺さる。「なんだあいつ……弁慶さんに馴れ馴れしくっ」「九鬼だからってベタベタしすぎだろっ」「チクショオオォォォオオォォ……」なんて声が聞こえる程だ。

 

 

 教室に向かう途中で眼先には気だるそうにこちらへ歩いてくる担任の姿。眠そうな顔を隠しもせず、ボリボリと頭をかいている姿は哀愁と憐憫を何故だか誘う。

 こちらに気付いて挨拶を交す。欠伸をひとつしたかと思うと、その視線は何故だか腕に纏わりつく弁慶に。

 

 

「なーんか、妙に引っ付きすぎてる気がするけど、なにもう酔ってんの?」

 

「や、そんな様子はありませぬが」

 

「うん、まだ2杯しか飲んでないしねぇ」

 

 

 言葉の通り、顔も赤くなければ言動もハッキリしている。酔っている傾向は今のところ見当たらない。確かに夏休みが明けて以降、甘える頻度が上がってはいるが特には気にしてはいなかった。

 再度観察するように宇佐美は好奇な眼を投げかける。

 

 

「それにしちゃ、なんかこう近くなった気がすんだけど……」

 

「そりゃ引っ付いているから物理的に近いだろ」

 

「ヒゲ、病院行った方がいいと思うよー?」

 

「でしたら是非ともうちをご利用くださいね」

 

「おじさんは正常だっつーのっ!」

 

(まぁ、何となく宇佐美先生の言わんとしている事は分かりますがね)

 

 

 流し目に見るのは腕に抱きつく弁慶の姿。しかし、見られた当人も含めてそれに気付いたものはいなかった。

 

 

 しかし、それを告げた当人は迂闊な発言ひとつで打てば響くが如くのこの返し。ある意味慕われている証拠か。当人からしたら堪ったモノではないだろうが。

 出くわした直後より醸し出す疲労感を強めながら別れる――――しかし、思い出したかのように直ぐに振り返った。

 

 

「そういや、今日は学校から依頼が出るみたいだぞ。放課後、何時もの所だから参加したい奴は好きにしろや」

 

 

 そう言い残して去っていた。

 

 




エロく……はないですね、ハイ。
粗そのシーンに製作時間を費やしたと言っても過言ではない。
弁慶の作者のイメージはこんな感じと思って下さい。

なろうの某東方小説のようには行きません。身の程を知りました……
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