「して、見事キャップが勝ち取った、とな」
「おう! エロ本とは言え、冒険者志望の俺の感がこいつはデカイ獲物になるってビビッと来てな」
「キャップがいうと本当にそうなりそうで怖いね」
定例の金曜集会。秘密基地で集まったファミリーの面々が話す内容は勿論のこと今日競り落としたと言う依頼の内容である。おもいおもいに寛ぎながら各々依頼に思考を馳せている。
「そう言えば、モロにガクトの姿が見あたらぬが?」
部屋を見渡しても、圏境の探知でも気配を感じることはない。即ち金曜集会にも関わらずこの場にいないと言う事に他ならない。どうみても異常現象だった。
問いかけに答えたのは大和。備え付けのソファーに寛ぎながら視線を天井に向けて思い出す仕種をしている。
「なんだったか、正常な高校生男児の正当な権利を通すため、とかなんとか言って署名を集めに行くとか言ってた」
どれだけなのかと。その場にいた多くの者の心がひとつになった瞬間だ。凄まじくどうでもいい事柄に使っていいものなのかは問うべきではないだろう。空しいだけである。
そして必然的にキャップの競り落とした依頼に対して不参加であることが此処に証明された。依頼を受け取って来たキャップ自身は参加するとして、残るメンバーの中で誰がこの依頼をキャップと手伝うのかを各々決めなければならない。
キャップがその是非を問うた時、反応は二つ。
「えっちなのはいけない事だと思うわ!」
「自分も学び舎にまで持ちこむ騒ぎになっているのは見過ごせない」
俄然やる気満々なのは色ごとに対して若干潔癖の帰来があるワン子と、不埒な行為や規則違反を見過ごせないクリスのコンビ。
前者は本当にこいうことに慣れていないのが分かる位に顔を赤くしている。後者は純粋に違法行為を根本から撲滅しようという考えなのは彼女の気質からして察せた。
「わ、私は皆さんのお手伝いをしたいと思います」
「てかオラから言わせて貰えば其処までエロ本ひとつにマジになるってのも可笑しな話って思わね? 別にいいんダケドネー」
「私は良いぞ。キャップの感が当たれば少しは暴れられる」
「私は手伝うのは吝かではあらぬが、九鬼の身分で大々的には動き難い故、バックアップが基本だ」
「私もどっちでもいいかな? 別にそういうのを学校に持っていてないし」
乗り気でもないが手伝うのは良いという反応。これが多くを占めた。
リーダーであるキャップが折角取って来た依頼なので不参加を決めない限り手助けするのは友として当たり前。とはいえ、松風の言うとおりエロ本ひとつにここまで騒ぎが大きくなった事に引っ掛かりを覚えなくもない。閑話休題。
各々が答えを出すなかファミリーの視線が答えを言っていない人物にあつまる。複雑な顔をしている軍師こと直江大和へ。
色々と男子としてそういう類の物を持つ身としては茶道室の男子達と同じである意味自分の首を絞めているに正しい。男子の生物的欲求的に。それが証拠に大和はうーん、と唸って頭を抱えているのだから。
「弟はどうする?」
「俺も自分で自分の首を絞める行為ってのは、どうにもなー……」
「そんな、写真なんかより私の身体の方が良いなんて」
「言ってません。そして京の身体をよく知っているみたいな言い回しはよしなさい」
「まぁ、大和が持っているモノはもっと過激だしねぇ……それは渋るよねぇ」
京の落とした爆弾に眼を光らせたり、耳を大きくしたり、耳を塞いだりと女子メンバーの反応は様々。ニヤつきながらモモは大和をヘッドロックして「そこんとこkwsk」とか言って拘束。京がニヤニヤしながら話そうとするのを無駄だと分かっても阻止しようと暴れる。徒労に終わる。
とはいえ、大和を傷付ける事はしない京の性格。大和をからかって楽しんでいるだけである。ワン子は気付かず奇声を上げながら耳を閉じて聞かざる姿勢だが。
他の女子の反応は名誉の為に敢えて挙げないが残りの行動を以って察するべし。
耳打ちで京がぽしょぽしょと周りに聞こえない音量でモモに耳打ちする。ほうほう、と頷くモモ。ヘッドロックを掛けられているので当然大和にも聞こえるので「ぎゃあぁー!?」と叫んでいる辺り語っている事は本当なのだろう。ご愁傷様である。南無。
「なかなかに過激な趣向だな、弟よ」
「い、色々とヒデェ……」
「そんな大和も大好き! むしろカモン!」
「お友達で(キリッ)」
「真顔でかっこよく断られてしまった。素敵だけど」
「何時もながら逞しいなー京……そういえば、ノルンはどんなのを持ってるんだ?」
モモの言葉に視線が集中するのを否応なしに感じる。興味津々が大半で、後は聞かざるが更に見ざるを加えたり、おどろおどろしい顔で「お前も巻き添えだ……」なんて見てきたりしているが基本、その辺りは無視。
集められた好奇の眼差しに肩を竦めて唯一言だけ言い放つ。
「生憎と然様な雑誌やビデオなどは持ち合わせておらぬよ」
「嘘だ!」
「どっこい、これが真実だ」
「それでもお前は健全な男子なのか、ノルン!」
大和の「あり得ねぇ!」と言わんばかりの視線に「如何にも」、と返す。
「そも、私は女自体に困っておらぬし、な」
室内の温度が加速度的に下がったために。
ギシリ、ギシリと宛ら空間そのものが締めつけられている様な擬音さえ聞こえて来るような雰囲気が漂う。温度もひっくるめてソレは全て1人の人物によってもたらされたもの。
武神の漏れだす闘氣が原因である。
「ね、姉さん?」と背後にいるであろうモモに声も掛けるも舎弟の言葉に返事はなく鋭く一点を見つめている。差す様な視線に溜息をひとつ零して「氣を収めよモモ」と言うが聞く耳持たず。
「な、なんかモモ先輩、スッゲー怖えぞ……?」
「ど、どうしたんでしょうね」
「ふ、ふふふふフフフフふふフフフふフふフふフ………………」
「お、お姉……さま?」
前髪が目まで垂れかかり、丁度眼を遮る姿は某有名なホラー映画のキャラクターを彷彿させる。実に不気味だった。
ユラリと動いき、ギラリと射ぬかんばかり視線を強める。
「色々と誤魔化されてたが、あの女どもの事を聞きそびれていたなぁ……ノルン?」
「ふむ……察するに雪花達の事か」
「誰の事だ?」
「雪花はKOSの際にクリス、
「あの清楚先輩に瓜二つの人か! 確かにそんな風に名乗っていた様な……」
「いや、名乗ってたんなら自分を倒した相手位覚えておこうぜクリ吉」
クリスの"あまりにも空気が読めない発言"略してakyhによって多少緩和されたがそれでも目の前の武神は鋭く睨みつけてくるので多少しか変わらない。事情を具に話せと、眼が、氣がヒシヒシと雄弁に伝えてくる。居心地云々以前に、有無を言わせない程の莫大な氣の発露は今までそれを聞けなかった事に対するものと、答えを前にしてお預けを喰らっていたもどかしさの二つから生じる鬱憤が元か。
溢れだす氣の密度は松風で軽口を叩いているまゆっちが気を抜かない、否、抜けないという状態が状況を物語る。しかし、松風を使っている辺り大物である。
緊張が支配する空間の中、何時爆発しても可笑しくないものを目の当たりにするというのは角の如き状況を指すだろうと、大和の思考に埒もないことが過る。
張り詰めた、というにはあまりにも稚拙な、しかし洒落になっていない空気のなか口を開く。
「清楚にも尋ねられたが、ここでも同じ様に応えられる事には答えよう。応えられぬ事には否を言わせて貰うぞ」
最大限の譲歩。これ以上を語るにはあらゆる状況が不足していた。なにを問われても、何もかもとしか答えられないほどに。前世だとか、己の――こういう言い回しはアレだが――正体だとか、彼女達の存在を語るには
モモを始めとした規格外な人間の存在がいるため、忘れがちだがこの世界はあくまでも神秘としての密度が低い世界。科学を旨として魔術を否とした世界なのだから。
痕跡が既に存在しているだろうとか言ってはいけない。そもそもそれ自体イレギュラーであるのだから。
「で、あいつらとの関係だが……伴侶だとか言っていたが?」
「それは是だ。伴侶というよりは半身、という認識が近しいが」
「っていうか伴侶!? え、なに、ノルンて結婚してたのか!?」
大和の面白い狼狽ぶりに――狼狽自体は伴侶発言を肯定した際、キャップ以外の全員がしていたが――苦笑して首を横に振って答える。
実際、結婚とは籍をいれるということを指す以上、この表現は適切ではない。故に間違った事を言っては居ない。詭弁である。然もありなん。
発言で武神の圧力が更に増すが、受ける側は物ともしない。モモにとっては色々と癪だった。
「あいつらは、一体何なんだ?」
「質問は今少し明確に、だ。何を聞きたい?」
「ちょっと待ってくれモモ先輩」
「なんだ、クリス? 質問なら後にしろ」
またしてもky発言に舌打ちを隠す事無く視線を向けるモモ。臆さないクリスの様子にはある意味全員が戦慄したとか。閑話休題。
クリスの質問はいたってシンプルかつ簡素で「あいつ
KOSにて彼女がいたドイツ軍チームは雪花の手ずから序盤――ほぼ試合開始から終了まで短い中での――に敗退している為、大会全体の様子は殆どはネットなどで公開されていた映像や情報で得たものである。専ら、大和達を始めとした参加者全員がそうだと言える。
故に、一時期は相当にKOS、ひいてはその優勝チームには話題沸騰だった。名前については予めの情報工作によって粗表に出る事がなかっため、女性陣達は謎の美女美少女軍団などで密かに話題になっていた。未だに根強いらしい。
尤も、その後の若獅子での戦いによって、その話題は殆どが義経が持っていっている。下馬評的にはノルン<義経の順であり、また武士道プランの効果もあって凄まじいものがある。今日の放課後もその熱が引かない挑戦者だったのだから。
「然り。我が伴侶は雪花を頂き――正妻と申した方がこの場合理解しやすいか?――として全部で5人だ」
「…………(ギリッ)」
「なんかサラリとよゆーブっこいたまま問題発言しちゃってるZE」
「この身にとって彼女達は秘中の秘なれど、彼女達との関係自体を明かす事に憚らるることは一切あらぬ故、な」
「ヤダ、最低な発言なのに堂々としていてカッコよく見えちゃいそうなんですけど」
「それは、あまりにも不誠実過ぎるだろう。恥ずべきところが無いどころか恥ずべき点しかない!」
「呵々、まさしくその通り。非の打ちどころがあらぬ正論だ」
これ以上にない位に正論は反論の余地など何処にも無かった。
同時にそれはこの場にいる全員が大なり小なりクリスと同じ事を思っているということの証左である。ましてや、平等では無くひとりが一番で他は、なんて順列を付けているのだから尚の事不誠実さは際立つ。
世に憚るハーレム系主人公ならば誰もが平等なのだと言う所で、それをひとりを挙げて他はその下ともなればまさにハーレム系に於いては最低辺に位置すること間違い無し。自覚している分をマシと捉えるか性質が悪いとみなすかは人それぞれ。
「然りとて、私が5人の中で雪花が最も愛しておるというのも、勝らぬとはいえ4人が劣らぬという想いも紛うことなき本心故、そうとしか問いに答える術を持たぬ」
「だから、なんで堂々と最低発言をするのかと……」
「愛を口にするのに憚るる事なぞあらぬぞ」
「ここだけ取ったらかなりイケメンなのに……」
「他者の評価なぞ一切興味があらぬ。元より、他者の恋愛事情に口出しとは、それこそ無粋であろうに」
「やべぇ、問題発言している奴に正論説かれちまったぜ……」
頭を抱える大和。耳にした言葉から色々と自分の常識と葛藤している。あまりにも問題発言した側が堂々とし過ぎているため、思考は「常識ってなんだっけ?」な状態である。
しかし、当人同士が納得している状態でありながら、それに口を挟むと言うのは確かに無粋だと、残った思考が冷静に告げてくる。
場違いである。
だが、そんな流れもなんのその、相変わらず氣を滾らせるモモはそんなの関係ねぇ、と言わんばりに問いを投げかける。語調は終始乱れ、立ち込める氣は今にも爆裂しそうに荒れている様子はまさしく爆破数秒前と表せる危うさを秘めていた。
「お前の言っている事は良く、よぉーーーっく! 分かった! 納得は全くしていないが……で、だ」
「ん?」
「何者なんだ、あいつらは」
「語れぬな」
「何っ!?」
更に導火線の火が爆弾に近付いたかのように錯覚してしまうほどの怒気。まゆっちが更に警戒を強める中、大和が抑える様に言うも当然効果等無く、ならばと事の原因の方に視線で諌めるもこちらもどこ吹く風。軍師は泣いた。さめざめと。
だが、同時に予め語れない事は言わないとも自己申告している以上は追及をしても無駄だろう。辛うじて残ったスズメの涙ほど残ったモモの理性がそう告げてくる。飄々としているが、自分自身を曲げた
全てを知る訳ではないが、少なくとも頑固な面を持っているのは確か。語れないといった以上はテコでも語る事はない。何か
そして、何よりも。彼女達と相棒との関係と正体が聞きたかったモモにとって、今の質問を封殺されてしまい、関係は既に聞き出してしまった以上投げかける問いが見つからない。何かを言いたいのだがそれは明確では無く、それ故に答えも出せなかった。
もどかしが身体を蝕む中、ふと気が付くと神妙な顔をしてモモを見つめるノルンの姿。相変わらず、どんな顔をしても曇りを知らない水面の様な瞳は内心を具に見透かすようで、しかし当人の不思議な雰囲気もありいつもながら奇妙な感覚がモモの身体を奔る。
「…………」
「な、なんだノルン?」
「…………や、私から尋ねておくのは止めておこう」
「……何を尋ねる気だったんだ?」
「秘密だ。あぁ、なれど変わりに別の問いをひとつだけ」
「なんだ?」
「KOSの折、投げかけられた雪花の問い、その解は得たのか?」
「――――――――」
止まった。
モモの中で、時は完全に静止した。
無論比喩ではあるが。
KOSに雪花が行った禅問答は明確に彼女の心に楔を深く、深く、深く打ち込んでいる。普段はその様子を欠片も見せていないがひとりなるとよく考える事だった。比較的欲求には何事もストレートなモモだが、だからこそこれには悩みが尽きない。
――――自分にとってのノルンという人物はどういう存在なのか。
どれだけ悩み抜いても今日まで答えは出ない。
しかし、こういったことに普段はイラつくだけの状態は不思議と幾ら重ねても、もどかしさはあっても不快では無かった。だからこそ、鋭い大和や気付いて尚黙しているノルン以外には彼女が悩んでいる事を気付けていない。
モモにとってはその設問は大事ではあるが、表に出す程深刻ではないからだ。
故に大和に聞かれても何でもないと応えていた。どうしてもノルンが関わると冷静ではいられない時が多々あるのは以前から承知しているがそれも何時もの事と斬り捨てていたモモ。それが思考を止めているのだと、彼女は気付いていない。
今のモモにはきっと問いに対する解が見つからない限りは一生気付きようがないのかもしれない。しかし解を得る為には気付かないといけないというちょっとした袋小路に陥っている。
(私は、コイツをどう思っている? 相棒? いや、それ以外の何か?――――)
視線の先では澄んだ瞳で見つめる相棒の姿。しかしその眼差しには何処か慈愛の色が含まれているのは果たして気のせいだろうか。そして何故だか顔が熱く感じるのも、気のせいだろうか。
どれもこれもやはり考えたところで直ぐに答えは出なかった。しかし、図らずとも冷静になった今、言える事が一つだけあった。
気付けば、気付いてしまえば先程まで猛っていた自分の未熟ぶりにモモは溜息をつく。
バツが悪そうに頭を掻きながら一言。
「あー、何だ……悪いノルン、八つ当たり紛いな事をして」
「構わぬよ、我が身の不誠実もその八つ当たりとやらの原因の一部であろう」
「ハハッ、全くだな」
お互い笑い合う。モモにとってはまだまだ己の抱くモノがナニかは定かではないが、今は頼れる相棒で自分の生涯のライバルである。それで今は留めておく事にした。その方が実に自分らしいから。
ノルンには持ち前の心眼で具にその変化を察していた。
故に笑う。それが新たな道への一歩足り得るだろうと。些細な変化で、それこそ眼に見えての領域には程遠くとも、到れ得ると願って。元々賢くはあるのだから、後は当人次第と成り行き任せ。当人の歩むべき道で、己の道ではないのだから、と。然もありなん。
「さて、ひと段落着いたところ話を戻すと――――?
「だな。何か、置いてけぼりを食らったみたいだが?」
「いや、まぁ、実際その通りだけどね」
「もの凄く良い笑顔をしてるわ、お姉様。さっきまで怒ってたのが嘘みたい」
「はい。なんというか、清々しい笑みでしたね」
「ホント、さっきまでのオラ達の緊張返せよ、って声高に叫びたい」
「お前たちにも謝んないとな。悪かった、怖がらせて」
「自分は、やはり意見を変えんぞ。ノルンのそういうところはやはり最低だ」
纏まっていた空気に水を差したクリスに一番気を揉んだのは他ならない大和だった。しかし、軍師の出番はノルンの視線によって遮られ、大人しく下がるのだった。
「構わぬよ、クリス。それを否定する心算はあらぬ。事実ゆえ、な。唯、踏みいるな……我等に。私とて知られとうないところは持ち合わせておるのだよ」
「……あぁ、そこはモモ先輩とのやり取りで何となくわかった。あれだけ威圧を受けて尚、態度を変えないのだから相当な覚悟あってだろう」
不満げながらも取りあえずの妥協を示したクリス。幾らKYな面を持つ彼女でもモモのあの重圧の中真っ直ぐ言い切った彼の姿勢にはひとりの武芸者として素直に感心したが為の行動だった。しかし、それでも不誠実でふしだらだという感想は変わる事はないし、それ向けられる側もまたそれを何処までも肯定していた。
加えて如何にクリスでもこれ以上は出過ぎた真似だと、今日までの経験もあって妥協を覚えた故の譲歩だった。
「ま、なんであれ話が纏まってよかったぜ。これで元の話に戻れるからな」
改めて温和の空気になったところ、絶好のタイミングでのキャップの締め。ファミリーのメンバーはその言葉に意識を向ける。
キャップの言うとおり、あまりにも元の話から脱線しすぎた。エロ本から暴発寸前の状況に到るとかどんな修羅場かと。原因である当人はやはりどこ吹く風だが。とはいえ、誰にとっても疲れた一幕は終わり、本題に移ることにした。
「で、真面目な話なんだけど、ガクトとモロ以外は参加って事でいいんだな?」
キャップが部屋をぐるりと見渡し、友の顔を見る。誰ひとりとて其処に否を唱えようというモノはおらず、肯定の意思を各々示す。
「よっしゃ! じゃあ早速依頼の詳細だ」の言葉にて語られる依頼の証左。競りの場で伝えられた事がそのままキャップの口から流暢に告げられる。
話している間にファミリーの軍師こと頭脳担当者は即座に携帯で情報収集を開始していた。忙しなく指が手の平サイズの機械端末の上を淀みなく奔る光景は一種の芸術的なものさえ垣間見させる。
軍師が仕事を務めている間にも話は進み、あらましキャップが言いつくしたところで備え付けの椅子に座った彼は京が用意した飲み物だして渡す。何時もはクッキーが甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるようだが、今日はクッキーは寮の手伝いで不在なので、ほぼ自給自足状態。
礼を言いながら飲み干すキャップを尻目に全員、話を吟味して思考する。
「上食券300枚なんて凄い高値だね……」
「競りの額としては高い方なのか?」
「うん、春先の一件も180枚だったんだけど、これもかなり高額なんだよ」
京の言葉に成程、と首肯。
エロ本とはいえ、学園側が問題視する程の摘発量となれば相応の流通事情が窺える。規模からして組織絡みと見た学園側の判断は間違っていないだろうというのがファミリー内でも共通認識である。
「然りとて洋物、それも輸入物か……」
「何かあるのか、相棒?」
「輸入物、という点がな……」
「押収物は全部外国の女性らしいから間違いないと学園は見てるらしいぜ? ガクト達もそうだが、何が良いのか全く分からん」
「キャップさんはその辺り、全く興味ありませんからね」
「そこは置いといて、だ。大和、流通範囲の規模は如何程か?」
視線を大和に向けて尋ねる。問いに対して大和は、ひっきりなしに着信音が鳴り続ける携帯から視線を外さないままに答えた。
「
「ふむ、なれば価格の方は?」
「なんか、興味ないといった割には詳しく聞くんだなー……」
「当然であろう。依頼解決に必要な事なのだ」
モモから伝わってくる勘ぐる様な邪気を伴う視線を極力無視。聞かれた大和は「今調べてる」と言ったところで鳴り響く携帯の着信音。タイミングの良さに大和は口角を浅く上げながら閉じていた携帯を開き、中身を確認する大和が「来たぞ」と言ってメールの文章を読み上げた。
「相場の平均2割。場合によっては4割位安いらしい。"本の具合も質が良いし、書店より断然得だぜ"……だって」
「相場よりも遥かに安い? 輸入物でありながら、か?」
物の輸入となれば当然、その生産元は当然海外だ。
しかし、空路であろうが海路であろうが海外からの物品の仕入れは当然関税が生じる。だからこそ、こういったものに関わらず海外の品物は需要などの市場の状況次第だが相場は輸入元の国で買うよりは遥かに高値が付く。ましてやそれがこの手の成人指定本となれば間違いなく相場的には高くついて然るべきである。
大和も当然ながらその安さを疑問に思い、その辺りを訝しんでいた。ちなみに脇ではワン子とかクリスとかが難しい顔して頭を抱えているのはお約束か。
それはさておき、相場自体が安いのは確かに気にはなる。これ単品では答えには至らないのは自明だ。ならば、とこれまで大和が集めた情報を束ねてみる。
――――ブツは殆ど間違いなく輸入物が主。
――――学園に留まらず、流通規模は確認できたところ隣の七浜まで及ぶ。
――――更には流通しているブツの価格は相場よりかなり安上がり。
「――――これが現段階で集まった情報、なんだけど……」
「や、なかなかどうして……」
「これはまた、"見事に"というか」
「キャップ曰くの冒険者としての感、って奴が的中してるな」
「あれ、何か俺褒められてる? イェーイ!」
「いやいや、褒めてないからねー? キャップさんや」
この場合は褒められてはいないだろう。脇にいるクリスとワン子は置いてけぼり状態。
分かる様に、簡潔に表現するのならば
――――キナ臭い――――
この一言に尽きた。
ひとつひとつは大した情報では無い。しかし重ね合わせた瞬間から大きく組み上がったパズルの断片の様に垣間見える事件の中枢。経済や物流の仕組みを欠片でも理解していれば場にいるファミリーの大半と心を共有できただろう。
先にも説明した通り、輸入物には国内流通以上に関税を始めに諸々コストが掛る為、儲けようと思うなら価格は高くなるのが自然だ。にも拘らず、ブツは実際に安く、それこそ学生が容易に手を出さえる価格で売られている。
しかも流通自体は幅広く根を張っており、川神学園周辺の街どころか隣町の七浜にまで流通しているとか。詳しく調べてみなければ規模全体は不明だが、学生たちの間にすら多く摘発される事態に陥っている段階で相当数が既に蔓延していると見て十中八九間違いない。
需要と供給は商売の基本である。
今回、何がキナ臭いといえば断然供給側にあるだろう。需要は何時の時代もこの手の物には付きもの。所謂仕様だ。
問題は供給の方。
何が問題なのか問われれば、ぶっちゃけて言えばあり得ないの一言。
相場と比べて安く、下手をすれば輸入元の国で買うより安い値段になるなど、普通はどうあっても儲けはないどころか収入は赤字も赤字、真っ赤もいいところ。
――――
「間違いなく、違法な手段だよね?」
「ま、じゃなきゃこんな額じゃあっという間に破産だぜ?」
それは先程褒められたと言った男の台詞では無い、と影からの松風のツッコミも通用しなかった。
しかし、金銭的な知識が最低限キャップにあるのはバイト先に本屋があるので当たり前といえば当たり前だ。
大和は溜息をつく。
ファミリーの安全面を第一に考える軍師にとってこの問題は頭を悩ませた。天井をボンヤリと見つめながらポツリ、と何気ない言葉を口にする。
「というか、ここまでやるってなると元手がタダ同然にも見えて来た……」
「よい着眼点だ、大和。二重丸を進呈しよう」
「あ?」
視線を天井からノルンへ。釣られるように全員がノルンへと視線が集まる。
「どういう意味ですかノルンさん?」
「状況的を鑑みらば、ブツの元手がタダ同然……これは間違いなくズバリであろうな」
「いや、あり得ないだろう。エロ本が元手タダって世に居る男子が暴動を起こせるぞ?」
言葉に対して疑問と共にジョークを交えて反論してきたのは二重丸を貰った大和。それも当然だ。書物ひとつとて作るのには資金がいる。売られている品物の質からしてもあり得ないとするのは自然の流れである。
しかし、だからこそ「あり得るのだ」とノルンはハッキリと口に出来た。ひとつの根拠に基づいて。
「どんな手品だ、それは?」
「そも、流通しておるエロ本が何か別の物を仕入れる際に偽装として用いたとしたら?」
「別の物? 偽装って言ったってそんなものを――――! おい、ノルン……?」
言わんとしていた事に気付いたらしい大和はその表情を困惑からやがて険しいものへと変わる。対して頷くと共に「想像通りであろうな」と肯定の意を示す。
かつて経験した中に、書物の中身を外からは分からない様にくり抜いて中に麻薬の入った袋を詰め込み運ぶという手段を彼は話を聞いている内に思い出した。書物の元々の重量と帳尻が合う様に詰めて、更に麻薬を詰めた本命は輸送する物の奥底に留め、上部には普通の書物を入れて。
麻薬探知犬に引っ掛からない様に本の表紙に探知犬対策様に作った香水をあくまで自然に振りかける徹底ぶり。これがなかなかどうして有効手段であり、その昔士郎と共に潰したさる麻薬組織の運ぶ手口だった。
大和もその優秀な知能故に事の危険性に気付き、頭を抱える。
気持ちは分からなくはない。どれだけ頭脳が長けていようとも学生身分という自覚が彼にはあるのだから。突然、エロ本から薬物などの危険物がある可能性を示唆されればこうなって当たり前である。
「いや、だけどあり得るのか? そんな映画みたいな事」
「可能性としては十二分であろう? 収支の換算も無くエロ本をばら撒いておる……と申すよりは余程現実的と思うが、な」
「眼と眼で通じ合う2人……これはとても美味しいんだッ!」
「ハイ、京。どうどう」
「ふたりだけで分かりあってなんだかズルイぞー! 大和、何がまずい事があったのか?」
「本当にキャップが言った通りに大物になりそうだって話だよ。俺達が断とうとしている流通元にあるのは実はエロ本とかじゃなくて、麻薬だとか、最悪武器の密輸、それも組織だった行動である可能性があるって話だ」
絞り出すような疲れた声に対して反応は驚きの声だった。尤も声に含まれるニュアンスが二つに分かれていたが。
純粋に驚愕の意味で声を上げたのはワン子、クリス、京、まゆっちと言った面々。対して、声の中に探究心を隠し切れていない喜色に近い声を上げたのはキャップにモモの2人。
「オイオイ! エロ本を探して実は麻薬や武器の密輸摘発とか燃えるぜ!」
「久しぶりにノルン以外で暴れられそうだな!」
「……私は突っ込まぬぞ。それよりもキャップ」
「なんだよノルン! 俺、いまワクワクが止まらなくてしょうがないんだ!」
キラキラと欲しいおもちゃやゲームを待ち遠しにしている子供の様に眼を輝かせるキャップの姿に言われなくても分かっていると、場にいる誰もが思ったとか。
「水を差すようで申し訳あらぬが、この依頼……改めて受諾の是非問うた方が良い」
「えー!? なんでだよう!」
「えー!? 折角暴れられると思ったのに……」
「遊び半分でやれる分を超えておる、と申しておるのだ。最悪の可能性とてあるのだぞ?」
「確かに、そうだね……」
「うーん……学生だけでやるべきなのか迷うわね」
ブー垂れるキャップとモモ。しかし京やワン子の様な感想が本来出てきて然るべきである。組織だった武器、或いは麻薬の密輸疑惑が浮上した今、例えこのメンバーであっても改めて事に当たるべきかの是非は問うてみるべきだろう。大和やまゆっちも同意。
全員がキャップを見る。
「俺は、この愉快な仲間達なら絶対上手く行くと思う! だから俺は依頼を受けるべきに一票だ!」
彼の絶対の信頼から生まれる言葉。その言葉を裏付ける様に自信満々に参加に一票を投じる。それに呼応するように参加を示したのは
「私は当然参加だ。何、危険があっても大抵の事はなんとか出来るしな」
「自分は、やはり尚更受けるべきだと思う。悪は断じて許しておくわけにはいかない!」
「…………あたしも、危険だけどやっぱりそう言うのが許せないって気持ちが強いし、お姉様達も一緒にならなんとかなると思うから参加に一票入れるわ」
モモ、クリス、ワン子の3人。これで、参加は計4人。
対して反対派に名を連ねたのは
「俺は、反対だ。あまりにもリスクが高すぎる」
「わ、私も、そういった可能性があるのなら今回は止めておいた方がいいかとっ」
「私も反対。本当だったらマズイなんてもんじゃないよ」
大和、まゆっち、京の計3人。
「大和、モロ達はなんと?」
「今しがたモロ経由で連絡してみたけど、ガクトは賛成、モロは反対だって」
携帯越しに入れて来た連絡。この場にはいないふたりに直接ではないのは気が引けたが状況が状況である。略式と前打っての選択肢は、賛成5に、反対4と賛成派が現在過半数を占めている。残るところ意見出ていないのは1人だけ。
「で、相棒はどっちなんだ?」
今日何度目か、視線が一点に集中する。その選択肢によって全てが決するが故に。
向けられている当人は肩をすくめ、溜息をついて
「……条件付きで此度は賛成に一票を投じよう」
と漏らす様に言った。一番に問い掛けたのはやはり軍師である大和。ノルンの性格ならば反対に投票すると予測しているだけあって、彼のこの決断は軍師に少なくない困惑を生む。
対してモモは彼の言動の原因に見当がついているのか、己の相棒にこう聞く。
「何時もの感か?」と。
返した答えは「如何にも。危険を肯定しておる」のひとこと。ノルンの
だったら、と大和が口に出そうとするが「然れど……」と続けられる言葉に視線が集中する。
「同時に私個人にとっては、敢えて跳び込んだ方が良い、とも告げておる……」
「おい、ノルン!?」
「言いたい事は先刻承知だ大和。が、借りに密かに私がひとりでこの一件に介入するとなると、如何に思う?」
「なにー!? そんな面白そうな事リーダーを差し置いてなんてズルイぞーッ!」
「水臭いと思うわ」
「抜け駆け野郎」
「友に隠して、とは感心しないな」
「友達に隠し事をするちょっと嫌な行為、かな」
「理由があってもお友達には隠し事をされるのは辛いです」
「モモの言は些か厳し過ぎぬか?」
愛すべき友ならば、当然こういうだろう。言動としてはあまりに感動からは程遠い。然もありなん。
既にKOSで色々と周りから黙ってやった事自体が不況を買っており、KOSでの佐々木との殺陣以外でもこういう所でクラスを始め親しい者以外から敬遠されていた。他の物はいざ知らず、これ以上友に対する不義理はさけたいのが正直なところだった。己の望む日常の為にも。
「んじゃま、賛成多数で。参加するってことで決定だー!」
「あくまでも条件付きであるぞ?」
「と、そうだったそうだった。で、条件ってなんだよ?」
「単純だよ、まず情報収集を為すに当たって聞きこむ際は必ず複数、それも私、ないし武士娘の何れかを同行させることだ」
「……それだけか?」
「確かに賛成するに至ってはそれがベストだな……危険に対するリスクが減る」
実際のところ、キャップの自信もあながち過剰ともいえない。ファミリーの面々ならばやってのけるだろうという確信は恐らくこの場にいる全員には大なり小なりある。しかし、だからといって備えや要人を怠るべきではない。ましてや学生の領分を本来遥かに超えた案件である。重ねるに越した事が無いのは明白だ。
幸いにして並々ならぬ武芸者がこれだけいるのだ。複数で行動していれば武力衝突の際にリスクは減らせる。
特に、こういった事は基本的にファミリーでは軍師が率先してまとめ、モロがそれをフォローして補うという形が基本的である。無論、他のメンバーについてもそうだが、今回は単独をさせるには余りにも危険が過ぎた。
「恐らく情報収集の要は十中八九大和であろう。確と心せよ」
「まぁ、大体そうなるよな……役割的に」
ノルンの圏境を用いれば一発だとかツッコミは受け付けない。問答無用のピーピングに直結してしまうのだから。
「と、いうことは合法的に大和とデート!? うん、これは貰った!」
「デートじゃない! そして貰ったってなんだよ!?」
「勿論、大和のどうて――――」
「カットカットカットォォォーーッ! それいじょうはあかん!」
毎度毎度のお約束のやり取り。それまでの張り詰めた空気もあって、それは大いにファミリーの笑いを誘う光景だった。「もう付き合っちゃえよYOU達」なんて松風の茶々が入るもんだから京もハッスル。大和も全力で相手をする羽目に。勿論深い意味はない。
再び大いに笑いを誘う結果となり、なんだかんだで和気藹々。グダグダな何時もらしい空間。あれほど緊張が走ったにも関わらず何事も無かったかのように過ごせるのはそれだけに仲が良い証拠だろうか。
弛緩しきったなか、ノルンは圏境にてこの中にいる唯一の後輩の気配に変化が生じたのを敏感に感じ取っていた。
それは言いたい事がありながら、喉まで出かかって躊躇ってしまうもどかしさの様に感じていた。
さり気なく流し目に見てみれば小声で掌のストラップと会話するシュールな光景。この辺りが友達作りの壁なのだが如何ともし難い。
ファミリーに入ってから増えた友達の数、現在2人。大和が何時の間にかコネを僅かなりとも築いたらしい、相手。本来ならば関係は結び難い相手との交友を深められるのは流石人脈を重んじる軍師と言える。
コミュ障が友達経由で友達を増やしただけで仰々しいが、紡いだ絆が学園で数少ない着物登校をする女子、名家の不死川心と知った時はこれも大なり小なり驚くのは自然だった。
家を誇りとし、選民思想の塊、特進クラスSのスタンダードモデルと言える。良くも悪くもエリートなのだ。それが、武芸とは言え名家と称せるとはいえまゆっちが友誼を結べたのは実に喜ばしく、それ以上に驚かせた。
とはいえ、普段の彼女――昼食時など――を見る限り友達が殆どいないと誰の目でも察せられる輪の小ささから、同類と認識したのかもしれない。色々と、キャラが濃い。
閑話休題。
「あ、あのッ!」
大声に視線がその先へと注がれる。意を決して言った結果か当人にとって想いの他大きかったために注目を浴びる結果となってしまう。
一斉に集まった注目と、声を張り上げてしまったことから羞恥で顔を染め上げ眼を伏せるまゆっち。しかし、松風というひとり激励という光景と共に再び口を開く。
「こんな時になんですが、ノ、ノルンさんにお頼みしたい事が……あるんです」
滅多にない後輩のからの頼みごと。もの珍しいと周りが騒ぐなか、告げられた側は静かに頷き先を促す。後輩の頼み事は本当に珍しく、良く言えば奥ゆかしい、悪く言えば引っ込み思案な彼女は緊張した面持ちで、しかし何処までも真剣に。そして語られる頼み事とは本当に滅多に出ないだろうものだったのだ。