気まぐれ神様の物語 真剣恋Ver.   作:ジーザスルージュ

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前回に引き続き、お待たせしてすいません。



64話

 勝負は呆気ない程に決着がついた。といっても、まゆっちが最後に放った"涅槃寂静"という佚之太刀と粗同じ技を放つまで優に1時間を超える溜めがあったが、それを差っ引くと打ち合った回数実に7合と驚くべき少なさだ。

 しかし、それも自然ではあった。

 まゆっちの実力はマスタークラスを基準にしてよく言えば将来有望、悪く言えば発展途上と言って差し支えない程度である。素質はあるが研磨は足りず、(モモが規格外過ぎるだけともいうが)年齢にしては実力が高いがまだ未熟。だからこそ、ノルンとの戦いは終始一方的なのは必然であり道理だったといえる。故になんの不自然も無い当然の帰結。

 

 しかし、戦ったノルンにとっては顔には出さず内心でのみ頭を抱えたくなってくる。視線の先には今し方倒し、開放される剣聖の娘が映る。

 最後に彼女が放たれたそれは、紛う事無く佚之太刀と同じく原因と結果の合一による過程を省いた斬撃に他ならない。結果としては勝ったものの、考えても見て欲しい。何億という歳月を積み重ねて漸く至った境地に、20に満たぬ小娘が再現して見せるという事実。例え1時間以上の溜めを必要とし、実戦的には無いとはいえ、形だけでも為してみせたのだ。

 幾ら武そのものを悪として誇りとせず、師に対して尊敬、畏敬はあっても誇りにはしなくとも、その規格外を然も当たり前の様に同じ技で潰せない筈の攻撃を潰した彼であっても流石にこればかりは驚嘆を抱かずにはいられない。義経の時と同じ様に。

 モモといい、義経といい、まゆっちといい、どうしてこの世界の彼女達は此処までデタラメなのかと、なんて第三者が聞いていれば即座につっこまれそうな事を考えていたが、残念な事に思考ゆえに誰もつっこめなかった。

 

 

「まゆっち、暫しじっとしておれよ」

 

 

 疲労の色を濃くした顔のまゆっちに、ノルンはポツリと一言語りかけ、手の長さ程ある大きな針の様な武器――俗に言う千本手裏剣――を五本、まゆっちの周りに投げつける。

 刺さったソレは上から見ると五角形の点の様な配置で地に刺さり、見覚えのある光景に側で見ていたモモはそれが何なのかを察した。

 

 彼女の想像に違わず、投げつけた当人が「開ッ――――」と一言発すると共に針を基点に五芒星が円と共に光となって魔法人の様なものが表れ、淡い紫の光が中心に居るまゆっちを包み込む。やがて1分ほどで治まった時には既にまゆっちの身体は嘘のように回復する。

 

 

「相変わらず面白い技だよな」

 

「ってか、技じゃないでしょ。まんまオカルトとかファンタジーじゃん」

 

「モモの瞬間回復とて、傍目は違えど結果は同じだ。技や術の区別にそう拘らずとも良かろうて」

 

「ノルン君って妙なところザックリしてるよね」

 

 

 実際に、この世界の超人たちの技こそ、ノルンにとってはオカルトかファンタジーの領域である。完全回復陣は身体の回復では無く生命力そのものを緩やかに補充することによって、その副産物として身体の傷を癒す、と簡単に表せばこんなものだ。

 川神流の瞬間回復など、彼からしてみればそんな勢いで新陳代謝を活性させて何故身体に負荷が見られないのかと伴侶達ともどもそうツッコミである。

 

 改めて握手を交わして互いの健闘を称えるノルンとまゆっち。その光景にファミリーや武士道プラン組もちょっとした感動をしたり、なかでも義経が一際感動して、その様子を見ていた弁慶がほっこりしていたり、その様子を傍から見ていた与一がぼそり、と「暑苦しいだけだろ、鬱陶しいったらねぇぜ」なんて場をぶち壊しかねない一言を呟いたり、それを横で聞いていた弁慶によって沈したり、と何時もの(?)やり取りがあったりと、何だかんだで変わらない。

 戦いの動機や真相は結局当人達しか知らないので当たり前であるが、それも武を交えたふたりの空気によって為し得たのかも知れない。

 

 観戦のためとはいえ、折角の休日。こうも集まったのだから全員で遊ぼうぜ、というキャップの発案の元、全員行動を開始した。

 

 

「遊ぼうぜー、で川神院から出て来たのは良いけど、宛てはあるの?」

 

「義経はなんでも構わないが」

 

「けど、この暑いなか闇雲に歩き回るのもちょっと遠慮したいよね」

 

「モロの言うことは一理あるね」

 

「確かに、それは断固として遠慮したいね。ゴクッ、ゴクッ……」

 

「普段からその場の発想だけで行動する事がよくあるからなー。誰か案があるか?」

 

 

 モモの言葉に、全員再度頭を悩ませる。

 ファミリー+武士道プラン組という組み合わせでの遊びは――与一は不在だったが――夏休みの中で一回だけとはいえ経験はある。その時は川神院内の一角を借りてのトランプや人生ゲームなどのインドアなゲームで盛り上がった。

 

 ならば今度は外はどうかとガクトは提案するが、言いだしっぺもひっくるめて却下。何せ9月とはいえまだ頭。夏の気配は、照りつける日差しと気温によってその存在を強く示しているのだから。そんな中で外で動きまわるなど、ものぐさな弁慶を筆頭にほぼ全員が拒否った。みんな正直者である。

 それ以前に、そもそもそれが通るなら最初の段階で悩んでいないというツッコミは流石にしなかった。

 

 

「んー……なら、駅前をブラリとしてみるか? 丁度お昼時だし、ちょっと遅めのランチを取りあえず取ると言う事で」

 

「さんせー、さんせー! もうあたしお腹ぺこぺこよ」

 

「確かに、自分も腹ごしらえがしたいな」

 

 

 時刻は一時を少し過ぎたところ。試合を観戦していた事による疲労感も相俟って空腹はいい具合に進んでいる。大和の提案は概ね受け入れられて、一同は駅前の方へと歩を向ける。

 

 程なくして駅前の金柳街にある大手牛丼のチェーン店、梅屋に到着。何にするかを道中に話し合った結果、時間的に其処までガッツリと食べるのは、一部を除き夕食に影響があるといった意見を汲み取って、手軽に量を調整できる此処になった。店内に入ると活気あふれる店員の来店を歓迎するお馴染の常套句。そして、ノルンやモモ、ワン子にはとても聞き覚えのある声。

 

 

「相変わらず似合ってませんね、釈迦堂さん」

 

「――――お客様何名様ですかねぇッ?」

 

「華麗にスルーしおったな……」

 

 

 しかし、一瞬だけ眉毛をピクリ、と不快さを隠すように動いたのをノルンは見過ごさなかったが、敢えてツッコム彼ではない。

 エプロン姿の釈迦堂の姿は慣れたとはいえ、似合っているとはモモの言うとおり言い難かった。その言葉になんでもないかのように振舞う彼にノルンは「14人です」と告げる。人数を受けて席へと案内される。普段は客が空いている席に行くのが一般的だが、昼のピークを多少過ぎているとはいえ、人数が如何せん多すぎた。

 

 各々好きなように席に座るなり、テーブルのメニューを開く。こういう時、得てして何を食べるかを決める際、即決するものと迷うものの2種類に分かれるもの。例に漏れず、迷う側が時間を取られたが最終的には周りに押され気味な形で決定、注文をするのだった。

 

 

「しっかし、まゆっちとノルンの戦いがああも一方的になるなんてちょっと意外だぜ」

 

「ガクト、それは失礼」

 

 

 彼にとっては純粋な感想。しかし、それは逆説的に拍子抜け、もっと言えば期待外れと言っているに等しい。京の注意を受けて慌てて弁解するガクトを「いえいえ! 仰る通りですから」とテンパリ気味に答えるまゆっち。彼女らしい謙虚な発言ではあるのだが「もっぺん言ったら彼岸を垣間見るZE?」なんて馬が語るのだから台無しである。ガクトは肩を震わせるが誰も慰めようとは思わない。やはり、自業自得なのだから。

 

 

「前から疑問に思っていたのだが、まゆっちのソレは一体何なのだろうか?」

 

「え、今更そこ尋ねてくる?」

 

「こ、これは父が作ったストラップに憑喪神が宿ったんです。名前は松風って言うんですよ」

 

「チョリース、オラ松風。憑喪神やってます。改めて4・6・4・9」

 

「その設定、まだ生きてるんだねぇ……」

 

「ホント、いい根性してるよなー」

 

 

 誰が見ても今の義経の目は輝いていると、そう形容できるぐらいにキラキラとして馬のストラップを見つめ、「おぉ! 憑喪神なんて初めて見た! よろしく、松風」と挨拶を交す。

 

 

「ストラップが喋るなんて凄いなッ」

 

「よせやい、流石のオラも照れちまうぜ」

 

「そして信じちゃった!? フツー、そこはツッコムべきところじゃないかしら……」

 

「主だからねぇ。でも其処がイイ!」

 

「それもそれでどうなんだ……」

 

「姐御、だからなぁ」

 

「あはは、弁慶ちゃんらしいけどね」

 

「しょーもない」

 

 

 臣下2人の言葉は色々と3人組の関係を如実に物語る。然もありなん。

 源氏組の主と剣聖の娘が繰り出す愉快でカオスなやり取りを何ともいえない空気で観察していると、タイミングを図ったかのように厳つい顔の店員が慇懃めいた雰囲気を纏わせ料理を運んで来たのだった。

 

 

「あい、カレー丼2つと牛特盛りに牛丼並に温玉セット、まぐろユッケ丼に牛トロ丼、中華丼お待ちッ」

 

「お、キタキタ」

 

「わーい、待ってましたっ!」

 

「ナイスタイミングです、釈迦堂さん」

 

「あ? 何がだよ。にしても、相変わらず和服なのなお前さん。目立ってんぞ」

 

「あぁ、この視線は義経だけじゃなくノルンもか」

 

 

 大和と釈迦堂の言葉通りに周りからはチラホラと此方側を覗きこもうとする若干不躾とも言える視線が見られた。改めてみると、集めるも是非も無しか、と内心でノルンはゴチる。武士道プランという未だ熱冷め止まぬ時の人に、川神ならば知らぬもの無しの武神に加えてノルン自身もまた有名人ではあるのだ。

 着物姿は常だからこそ、ファミリーも武士道プラン組も違和感なくいたが、周りからしたら目立って仕様がない。だからといって、いちいち反応するほどノルンという人物は可愛げは皆無だが。

 出来上がった品を置いた釈迦堂が、またテーブルを離れていく。気にも留めず、周りは再び会話に興じる。

 

 

「着物って言やぁ、ノルンって部屋でもそんな感じなのか?」

 

「和服と言う意味でならば然りだガクト」

 

「着流しとか何時も着てるもんね、ノルン君」

 

「違和感なく着てるから何時しかこいつだとこれが当たり前になってたな」

 

「なんで、清楚ちゃんと弁慶が応えるんだ?」

 

「夜はしょっちゅう2人、今は義経もか……は私の部屋で過ごしておる故、な」

 

「なん、だと……?」

 

 

 幼馴染の爆弾発言は、武神にとってまさに寝耳に水。否、武神で無くてもファミリーの殆どが驚いていた。特に武神の狼狽は自他共に美少女を謳うにはあんまりな、有り体に言ってしまえばヒデェ顔をしている。美少女が台無しだ。

 

 

「ど、どういう――――」

 

「ヘイ、ステーキ定食に照りたまハンバーグセット、牛皿定食にネギ塩豚カルビ丼、牛筋煮込み丼におろしポン酢牛丼、豚丼と単品とろろお待ちッ」

 

「…………」

 

「なんでぇ、モモ。おっかねぇ顔して」

 

「先程に続いてナイスタイミング、感服致します」

 

「ああ? だから何の話だっつーの……それよりささっと取れよ、お前んだろ豚丼ととろろ」

 

 

 14人分のメニューを半分に分けて来た釈迦堂の腕の上は、先程と既に見ている方がヒヤヒヤしてしまうほどの沢山の料理の数々。定食という横幅の広いのすら複数を軽々と運んでいる辺り、彼のスペックの高さが窺える。無駄遣いとか言ってはいけない。

 ノルンは、言われた通りに自分の分のメニューを受け取り、置いた。彼のに限らず、どれもこれもが出来たてで湯気が上がっている様は匂いも相俟って実に食欲がそそられる。

 

 先程以上に絶妙なタイミングで入って来た釈迦堂の声によって気勢を削がれて、空腹もあって闘氣ごと渋々引きさがっていくモモ。

 

 

「そういや、ノルンって梅屋だとその組み合わせばっかだな。てか、それだけ?」

 

「うむ、何せ私は――――」

 

 

 言葉を区切りながら横でレシートに記入しながら「ご注文は以上ですか?」と似合いもしない常套句を言う釈迦堂に視線を向けて、こう口にする。

 

 

「この釈迦堂さん色に染められておる故」

 

「ブハぁッ!?」

 

「ブーーーッ!!」

 

「なんて美味しい情報なんだッ!! そこんとこkwsk!」

 

「ゴフッ、ゲホッ……て、てめぇ気色のワリィこといってんじゃねーよ!?」

 

 

 噴き出す釈迦堂とモモ。咳き込み、凄まじい爆弾発言に釈迦堂は対して物申さずにはいられない。しかし落とした当人は何時もとは違う笑い方、しいて表現するならニヤニヤと口元と、何より眼が笑っている。釈迦堂は憎たらしさが湧いてきたが当の本人は「事実でありましょう?」と笑うばかり。

 楽しんでやがる、と戦慄した。確かに認めよう、この腹立たしくも何処か居心地のいい子供を洗脳よろしく染め上げたのは。だが、こんな返され方は無いだろうと心の中で嘆息した。

 湧き立つ他の雑音が更に活力をガリガリ削っていく。全く、誰だこれに豚丼とろろを教えたのは。他ならぬ釈迦堂自身である。

 

 

「――――とまぁ、そういう訳だ。何時もご馳走になっておったので、ついついその癖がここだと発揮されてしまう」

 

「そう言えばいいのに、なんでややこしい言い方を……」

 

「偶にはボケにまわりたいではないか(キリッ)」

 

「意味がわからねぇ……」

 

「だから、致命傷が多いんだよ、ノルンの発作は」

 

 

 与一と大和のツッコミに対して、何故か反応したのは釈迦堂だった。周りをグルリ、と見渡して騒ぐキャップやガクトに細かくツッコムモロの姿、美味しそうにどんぶりを食すクリスの面倒をみるまゆっちの姿。ファミリーの面々ザッと見渡し「解らんでもねぇなぁ」なんて独り言をボヤく。何故だか哀愁を漂わせて。

 心外だと言わんばかりに今度はモモが反応して、釈迦堂に返す。

 

 

「なんで、私達を見てノルンに共感するんですか」

 

「おめぇに振りまわされてるノルンを見てるからな、俺」

 

「ところで、なんで京さんはあんなにも興奮しているんだろうか?」

 

 

 話題を断ち切るかのような(本人に意図なし)義経の言葉。視線の先にはモモに宥められている京の姿。鼻息荒く、目も血走っていて誰が見ても正気では無いのは理解できる。心底不思議そうにする彼女に答えたのは臣下の2人。

 

 

「気にしない事だね義経。そういう趣向もあるってことで納得しときなよ」

 

「???」

 

「ようするに、お前は何時もそのまま光で居続けろってことだ」

 

 

 首を傾げる義経とそれを片や愛でる弁慶。片やそのまま食事に戻る与一。

 臣下の言葉に元々純真な義経は、ふたりがそういうならば、とそのまま与一にならって食事を再開した。他も同様に思い思いに楽しんでいる。

 ひとり、何故だか運ぶ前と運んだ後でどっ、と疲労感を抱えた釈迦堂は「ごゆっくりどうぞー……」と疲労を多分に含んだ声で去っていこうと踵を返した時に店内に鳴り響く来客を告げるインターフォン。

 自動ドアの開閉に呼応して鳴るそれに釈迦堂は数カ月とはいえ務めた接客業務の工程に従って「らっしゃせー!」と慣れた感じで声を上げた。同じ様な掛け声が他の店員からも出される。

 

 しかし、その客は客でも招かれざる客の部類である。

 全国に広く店舗を開いている様な店でも招かれざる客と言うのは存在する。別段一見さんお断りみたいな敷居もないのにも関わらずに、だ。それはこういう所に関わらずあらゆる商業施設、引いてはその辺の道路を歩いているだけでも大きく忌避される輩。つまるところ――――

 

 

「全員その場から動くなよッ!」

 

「其処の店員、これにさっさと金入れな!」

 

 

 ――――強盗目的の犯罪者とか。

 声や背格好からして男性だろうか。2人組の強盗はニット帽を覆面としてかぶっており、顔は解らない。手に持った拳銃を周りに向けて威嚇しながら、片方はレジに一番近い店員に持っていた大きめのバックを渡し、もう一方は黒光りする銃口を向けて威嚇を続けた。

 当然店内には悲鳴が上がる。が、静かにしろ、と怒鳴る強盗に黙らせられる。昼過ぎとはいえ、平和だったところを突如襲った非常事態に店内には緊張が奔る。

 

 その、緊張に満ちている筈の店内の一角には別の空気が流れていた。主に、釈迦堂とノルンによって。釈迦堂の方は何故だかノルンを非難めいた、とも少し違うが決して好意的では無い視線を投げかけ、ノルンはその視線に対して投げやりな空気を出している。

 クリスやまゆっちは焦った表情を作り、義経達も構えようとしているもののファミリーの面々、荒事に跳び込みたがるモモすらがノルンに任せておけばいいから、と押し留めると言う珍妙な光景の脇でのやり取りは何とも言えない空気を形成していた。

 

 

「オイ……」

 

「申しておきますが、私は与り知りませぬ」

 

「わかってんよ。だが、お前が招いた様なもんだろう。いっつも関係ないところから騒動を招き寄せるもんなぁお前さん」

 

「呵々、甚だ心外ですね。事実だけに言い返せぬのが辛いところですが」

 

「何を言っているんだノルン君?」

 

「なに、私の周りでは騒動が起こり易い……それだけの話だ」

 

 

 イマイチやり取りが理解できずに首を傾げる義経に愛嬌を覚えながら、「気にせぬことだ」と言いながら頭をひとつ撫でる。状況を見れば、不審とも言えるその行動に怒鳴り声を言葉通りにまき散らしながら腕を振るう。その手の先に持っている銃で脅す為に。

 

 

「何を呑気にくっちゃべってやがるッ! この銃が――――あ、あれ? じゅ、銃が……」

 

「あん? 銃がどうした?」

 

「銃がねえ!?」

 

「はあ!? さっきまで手に持って――――って、俺のもねえ!?」

 

 

 慌てふためく強盗2人。銃は何処だと喚きあう姿は凄まじく滑稽であるが、銃あり気で望んだ強盗行為なのだから要たる銃を紛失したとなればむしろ自然の反応か。

 

 

「お探しのブツはこれか?」

 

 

 言葉と共に弾かれる様に強盗はノルンに視線を移してみると、背中を見せたままヒラヒラと見せびらかす様に動かしている両手には銃の姿があった。但し、グリップを残して解体された無残な姿で。

 

 

「なぁ――!?」

 

「俺達の銃――――がッ」

 

 

 何時の間に抜き取ったのか、と問おうとした矢先、床と熱いベーゼを交しそのまま気絶するのだった。男達を地面に叩きつけた状態から体勢を元に戻したノルンはパンパン、と手を払うかの様に打ち鳴らし、何処からともなく縄を取り出してふんじばっていく。その所作はあまりにも手慣れ過ぎていて、然も日頃からやっていると幻視してしまいそうなほどだ。無論、彼に特殊な性癖は一切ない。

 一通り終えると従者部隊に連絡し、即座に身柄と分解した銃ごと引き取らせた。店内で誰も怪我をしていない事を確認し、やるべき始末を終えて席に戻るとノルンを待っていたのは友らの熱烈な歓迎。

 

 

「ヒュー、鮮やかな手並みだったな」

 

「ホント、ホント。何時もながら凄かったよ」

 

「ありがとう。しかしとんだ手間であったな」

 

「流石ノルン君。あっという間に制圧していって義経は驚愕した! 特に銃を抜きとった所なんか全然見えなかったぞ!」

 

 

 実際はそう複雑な事はやっていない。漫画、アニメ、ラノベなど例を挙げれば気配の消し方には気配そのものを無くす方法や、気配を周囲に同化する方法などがある。ノルンが行ったのは後者の応用で、魔宵伽のノウハウとを利用して僅かにノルンの行動に対する認識を阻害したのだ。

 強盗は、ずっと銃は手に持っていると認識していたが、その実客が悲鳴を上げた時に行動しておりその手には銃は握られてはいなかった。彼らが気付かなかったのは単純な話、取られた認識していなかったからである。

 知っての通り人間の脳と言うのはかなりファジーだ。例を上げるとある簡単な視覚実験で、人間にバスケットしている若者たちの映像まず見て貰い、見終わった後にその映像にひとりの人間がゲーム中のコートの中を横切ったのが見えたのかと言う問い。結果だけを伝えれば初見で気付けたものは殆どおらず、確率的には100人に1人、無しに2人いればいい方という。

 こういった例を見れば分かる様に脳とは実に曖昧である。ノルンがやったのはこの延長線上で、最小限の動作と弧月の応用、気配遮断によって強盗は銃を奪われた事を気付けずにこうして無力化されたのだった。

 

 

「相変わらず騒動持ち込む奴だねぇ、お前さんも」

 

「大きなお世話です。それと持ち込むにあらず、せめて招く、と仰っていただきたい」

 

「さっきも言ってたけど、どういうこと? まるでノルン君がこの状況を招いたみたいに言ってるけど……」

 

「唯の偶然だろう?」

 

 

 弁慶と清楚の疑問点は尤もな指摘ではあった。事情を知らない義経や与一、クリスやまゆっちも似たような顔で、対してやっぱり聞かれるよな、という反応をしているのは昔馴染み達だった。それも当然と言えば当然で、こんな誰が見ても突発的な強盗騒動が誰かの意図するものであったらそれこそ名探偵とやらが必要になってくるほどの難事件である。ただし、ノルンが其処に居れば話は別だ。

 

 単純に漸くしてしまえばノルンと言う人間、彼の運の無さ、とでも言えばいいのだろうか。確率的に言ってしまえば強盗やひったくり、果てはヤの付く自由業な方々の抗争――日常に置いて本来これらは一生に一度お目にかかればいい方――というのも変なのだが――だと思う。しかし、彼の周りには確率的にはかなり低い筈の現場に高い確率で出くわす。

 これといって理屈も、ましてや因果関係など一切ありはしない。何せ勝手に周りが企てるなり、偶発的に起こす事だ。だからこそ、彼も釈迦堂の言葉を訂正させたのだから。

 だが、同時に釈迦堂などは古い付き合い故によく知っている。それこそ巻き込まれ慣れていると言える程。クリス達が飛び出そうとした時にファミリーが宥めた様に。

 そして、それらは大概ノルンがいの一番に鎮圧する事も。ソレを知るモノにとっては予定調和なのだ。

 言われてそういえば、と付き合いがファミリーに次いで長い武士道プランの申し子達は思い当たる節があるなぁ、と思い出を振り返る。大きくなにかあった訳ではない。なにせ大きいとはいえ島暮らしは九鬼関連の人間が多く住んでいた事もあって本州よりは平和的だった。が、思い返せばチラホラと思い当たる節はある。火事の騒動もそういった類で発生したひとつ、ともとれなくはないのだから。

 

 

「改めて申しておくが、因果関係はほぼ皆無だ。先にあった傭兵ら刺客の類や挑戦者を除けば、な」

 

「まあみんなもすぐ慣れるさ」

 

「というか、言われて納得する部分がそれなりにあるからね。今更かな」

 

「うん。そんな事は義経も気にしないぞ」

 

「というか、そんな事を気にするならもっと早くギスギスしてるよ」

 

 

 笑いながら義経、弁慶、清楚は変わらずに振舞う。其処には気負いや気づかいなど見えずに自然体だった。言われたノルンも心眼によってそれが偽り無いのを機敏に汲み取り心から溢れる感謝の気持ち。ただ、清楚の言葉には引っ掛かりを感じなくはなかったが、この際瑣末なことだ。与一が「こいつもひょっとして特異点、なのか」とボヤいていることも瑣末なことだ。

 

 

「清楚もなかなかどうして言うではないか。……ありがとう。そう言って貰えると私もとても嬉しい」

 

「おんや、ひょっとして照れてるのかにゃー相棒?」

 

「そう見えるか?」

 

「……見えないんだよなぁ……」

 

 

 基本的に突発的な外的要因による当人の意図しない表情の変化がノルンには無いので、からかおうとしても結局空振りに終わる。そうでなくても、彼にとって申し子達の言葉、ファミリー達の振る舞いに無上の喜びを感じてはいても照れなどというものは抱いていない。他者に対する好意は惜しみなく示す彼ならではだ。

 ちぇー、と詰まらなさそうにするのを最後に本格的に食事を再開しようとキャップが締め括って各々箸を取り直した。

 

 




絶賛スランプ中で筆の進まないルージュです。
待って頂いた人にはお待たせしてすいませんでした。まだまだ抜けそうにありませんが、エターだけはありませんので其処だけはご安心を。

それはそうとA-2発表しましたね。個人的な感想は活動報告に書いてあるのでこれに関するコメはそちらへお願いします。
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