何も書き始めてないけど……
「この布と水筒の水で傷口を洗って消毒しろ。その後で傷薬を塗って布を巻いておけ。消毒したときの布を使うなよ?」
……?
よく見てみると、全身に細かい傷がある。
投石でできたというわけじゃなさそうだから、元からあったんだろう。
最近の傷にしては、多いけど。
サトゥーがどこからか鞄を取り出すと、その中から布と水筒、傷薬の軟膏を取り出した。
(……隠す気あるの? 仮面も外しちゃって)
その方が楽だけど、この先が心配になる。
「どうした? 治療している間は後ろを向いておくから安心しろ」
あっ
「ありがと、なのです。後ろ向かなくて大丈夫、なのです」
「きれいな布。 うれし~」
「その……迷宮から脱出するのに薬や水はとっていおいた方が……その……良いのでは……」
投石から守った段階で、このシーンは消滅したと思ったのに。ボクはどうすればいいんだ……
「うわ!」
ポチとタマは貫頭衣の腰を縛っている麻紐を解く。
ボクは慌てて目をそらした。
(どうする? とゆうか、今の行動って言い訳できるか? サトゥー見てたぞ)
これはあれか、面接で致命的なことをしでかした的な感じか。
「? リザ、いいから気にせず使え。これは命令だ」
「……はい」
「ヒナ、どうかしたか?」
「どうもしてな、ません」
「だったら、いいんだが……それと、一つ聞きたいことがある。なんで隠れてたんだ?」
きた……!
投石の時のことを言っているかも知れないが、マーカーのこともある。誤魔化せると思えない。
「……それは、あの地の支配者を弑したものをこの目で確かめたかったのだ……」
途中、恥かしさで俯きながら、そのまま言い切った。
ロリな強者っぽい風格で言い切った!
……。
…………。
(ボクってこんなにコミュ障だったっけ?)
リザが動きを止めずに、こっちをじーっと見ている。
「ごめんなさい。 冗談です。ちょっとした、出来心だったんです」
沈黙に耐えられず、顔を上げるとサトゥーもこっちを見つめていたので、もう一度頭を下げる。
実際には、メニュー画面を見ていたそうだが、どちらにしても変わらないと思う。
「いや、それもどうかと思うんだけど」
……!
「……まぁ、悪気はなさそうだし……はい」
焼き菓子を手渡される。
「「「(じー)」」」
「ああ、ポチとタマの分もあるよ。 もちろん、リザの分もね」
「ありがとうなのです!」
「ありがと~」
「すいません、ありがとうございます……」
あれ、サトゥー自身の分は?
みんなに3個ずつ渡されるが、サトゥーの分は残っていない。
「……? 遠慮しなくていいから食べなさい」
ポチが今までよだれをたらさんばかりにしていた分まで、食べ始めたのをきっかけにみんなが食べ始める。
僕も食べていい? いいよね。
あむっ。
(甘い。 ミルク()より甘くて美味しい)
何気に甘いものって初めてかも、焼き菓子だけど。
お腹がすいてなかったから気付かなかった。 逆に、反転を使ってずっと食べていたい。
「うぐっ」
「取らないからゆっくり食べなさい」
ポチが咽せて、サトゥーが水袋を渡す。
「蜂蜜を使った焼き菓子なんて……」
リザに同意。異世界的に一箱1000円のお土産的なのより高価だと思う。
あぁ、ポチたちの笑顔が最高。
◆◆◆
「捨てないで! なんでもするのです!」
「おいてかないで!」
「旦那様、捨石にされてもかまいません、連れて行ってください。お願いします」
サトゥーが無言で通路の向こうに消えていこうとしたので、ポチたちが引きとめる。
これは、ボクも言うべきか。 サトゥーに逃亡されると、入り口の軍隊を殲滅して脱出しないといけなくなる。高レベルの魔法使いもいたはずだし、良心以前に成功するかもわからない。
……あ、ダンジョンコアの支配権奪い取って、ボクがダンジョンマスターになるという選択肢があった。 原作での悪魔の後任は忘れてしまったけど、今からならいけるはず。
でも、黒幕的な存在がボクを殺しにくる可能性もあるし、最終手段かな。 竜の谷のご近所のダンジョンって、危ない気がする。
「ごっくん…………!」
(のどに! のどにつまった!)
光魔法を使って、喉の奥の焼き菓子を灰にしようとするけど、詠唱ができない。
(みず! さっき、ポチの飲んでいた水!)
ポチの後ろに置いておかれてあった水袋をすばやく掴み、キャップを外して飲む。
「んっ……はぁー」
いつの間にか、みんながこっちを見つめている。
「大丈夫?」
「えっと、大丈夫です」
「よかった。みんながそれを食べ終わったら、出発するよ。オレが前衛をするから、リザは背後の警戒を頼む」
「いえ、私が先頭をつとめます!」
「ここは迷宮だ。不意打ちを警戒する必要がある。後ろの方を頼めないか?」
「わかりました」
うん、不意打ちは危ないよね。 マップを超える僕のような技術持ちへの警戒は必要だろう。
「よし。 じゃあ、これも渡しておこう」
「!旦那様が持っておくべきなのでは……」
「いいから持っておけ」
そう言って、リザに短剣を押し付ける。
「それと、全員に言う。オレが許可するまで戦闘に参加するな」
「はいなのです」
「あい」
「わかりました」
「はい」
なんか、経験値の分配の実験するはず。反論するのも面倒だしボクも頷いた。
◆◆◆
「タマ、何か通路の先に見えたら小声で教えて。ポチ、何か変な臭いや物音がしたら教えて。リザ、後ろの警戒は任せた。でも後ろを気にしすぎて遅れないように」
ボクは?
「ヒナ、これを頼む」
おっと、まさかの荷物持ち。
これは信頼の証と受け取るべき?
いや、サトゥーにはストレージがあるんだった。
焼き菓子は原作では3×3だったけど、もっとあったということで。
喉に詰まったのは、美味しくて一気に食べ過ぎてしまったのかも?