光を潜ったのと同時に意識を失い、目を覚ましてみるとそこは日光が注ぎ込む明るい森の中だった。
体を起こし、服についていた土や草を払って辺りを見回すと樫の杖と一つの袋と手紙が置いてあったのでそれらを拾う。
手紙を広げると、そこにはこんな内容が書かれていた。
『ミレイさんへ。
この手紙を読んでいるということは無事にドラクエ5の世界へ転生できたようですね。それでは、あの場所で説明しきれなかった部分を説明します。
先ず特典ですが大体の魔法は使えますが鍛錬を積まない限り習得はできません。しかし、基礎的な魔法だったら現時点でも全て行使できます。
ちなみに消費するMPはドラクエ5に出てくる呪文は全てドラクエ5準拠、それ以外は初出の作品での消費MPとなります。
次の説明ですが、『影響』についてです。
『影響』は本来起こるはずのなかったあなたの死により、運命が狂った結果、世界に本来起こるはずだった事が変化してしまう現象です。こちらが確認している限りでは今はまだこれといって『影響』が出ていないですが、『影響』を確認しそれがミレイさん一人では対処しきれないという場合には私がこの世界に訪れ、あなたのサポートを行います。
ちなみに『影響』が起こるのは、この世界以外の世界にも起こりますが、どの世界にも関わらず『影響』を消すことで神を見つけることができます。『影響』の消し方は『影響』で変化したものに遭遇する事で手がかりが得られます。
最後の説明ですが、あなたの頭にはこの世界の常識や知識といったものをあらかじめインプットしていますので、勝手が違って困ると言った自体はないようにしています。
説明はこの3つで終りです。がんばってください。
あなたの神様転生担当死神小池より』
手紙を読み終えた後に、私は思わずこう言っていた。
「最初からそういう事を言えよあの死神!」
……まぁ結構長く怒ったり泣きじゃくったりしていたから時間を使っちゃったからしょうがないんだけど、せめてそういう説明はきちんとして欲しかった。特に『影響』の部分。
でも私は1人じゃないということがわかっただけ心が軽くなった。
森を出ると、目の前には見渡す限りの空と海と大地が広がっていた。吹いてくる穏やかな風を肌で感じながら、大きく背伸びをして深呼吸をすると、前を見据えた。
「よし!オラクルベリー目指して出発!」
一歩前へ踏み出したその時、目の前にベビーニュートとスライムが現れた。どっちも可愛いから攻撃するのはつい躊躇っちゃったけど、向こうはそんな私の心情など知らないので容赦なく襲いかかってくる。
勢いよく飛びかかってくるベビーニュートに慌てて呪文を唱えた。
「ギラ!」
詠唱した瞬間、杖の先から金色の炎が広がってベビーニュートを焼きつくした。ベビーニュートは、黒い塊のようになると、ドロリと崩れゴールドを残して消えた。更に残っていたスライムはすかさずメラを打ち込んで撃退する。
「ビックリした〜」
なんとか初戦闘は無傷で済ませることができたけど、次の戦闘になった時に無事に勝利できるとはかぎらないから、なるべく早くオラクルベリーに移動することにする。
その後もいくつか戦闘はあったけど順調にモンスターを倒して、無事にオラクルベリーに到着することができた。
街に入って辺りを見回すとゲームの世界にそのまま入ったというよりは、ゲームのオラクルベリーを模した街にいるみたいだ。
カジノは私の目の前に堂々と建っていたけど、カジノの象徴であるネオンはその光を灯していなかった。まだ準備中らしい。
仕方がないので、宿屋の部屋を確保しよう。そして身の振り方を考えよう。
そう思い、宿屋に入ると人の良さそうな花柄のピンクのエプロンをつけたおばさんがカウンターから迎えてくれた。
「可愛い魔法使いの女の子一名御来店!泊まるかい?」
おばさんはカウンターの奥にそう言うと、私の方を向いた。
「は、はい」
可愛いと言われたことに内心嬉しさを感じつつも私はひとまずそう返事をした。
「宿泊の日程は?」
「えーと、少し考えさせてください」
「ああ、いいよ。並んでいる客もいないしね」
おばさんは、にっこりと微笑むと快く了承してくれた。
「ありがとうございす!」
おばさんにお礼を言うと、袋の中を覗き込んだ。中にはモンスターを倒して得たゴールドと薬草(と手紙)がいくつか入っている。今の所持金は50ゴールド。この宿屋の一泊の値段が5Gだから9泊はできることになる。
金策はカジノでするとして、コインが一枚につき20Gだから無駄なく泊まるには50ー20=30、30÷5=6で5泊6日がベターかな。
「5泊6日で」
「はいよ。料金は30G」
30Gを袋から出して、おばさんに手渡した。おばさんはGを足りてるかどうか確認し、Gをカウンターの引き出しにしまうと宿帳と鍵をカウンターに置いた。
「宿帳にサインをお願いね。部屋は2階の204号室だよ」
「ありがとうございます」
宿帳にサインをし、鍵を持って階段を登り204号室の扉を開けた。
中の調度品は大きいものはベッドと机とタンスがあった。机の上には小さな本棚が置かれていて、ベッドの近くには鏡が立てかけてある。
窓の縁には花が生けてあり、その色鮮やかさもさながら窓からさす日差しにより、美しく輝いていて、見ていた私の心を落ち着かせてくれた。
一先ず袋と樫の杖をタンスにしまい、ベッドに寝転ぶ。
不思議なことに一回寝転んで体の力を抜いただけなのに急に睡魔が襲ってきた。目の前が歪んだと思ったら私の意識は何かに吸い込まれていった……。
目が覚めて窓の外を見ると、もう昼ではなく夕方だった。
ベッドから起き上がり、鏡を見ながら乱れた髪を整えるとタンスから袋と樫の杖を取り出して部屋を出る。鍵を閉め、下に降りるとおばさんに、外に行ってきます、と伝えてオラクルベリー周辺の草原に出た。
辺りを見回すと、魔物達が私に近寄ってきている。さっきまでとは違い数が多い、正直怖かったけれど、杖を構えて呪文を唱えた。
何度か戦闘を重ねてとりあえず必要最低限のコイン代は確保した。
「やっと溜まったなぁ〜」
自分の部屋の机の上に置いた袋の中身を見ながら満足げにそう呟いた。これで後はカジノが開かれるまで時間を潰すだけ。
それまで何をしていようかなと思っていたその時に部屋の扉がノックされた。
「ミレイちゃん、夕食ができているけれど食べるかい?」
「食べます!」
私はおばさんに返事をして、下の食堂までおばさんと一緒に降りて行った。
「はい、今日の夕食はデミグラスソースのハンバーグにライ麦パンにサラダだよ。ドレッシングと飲み物は何にするかい?」
「ドレッシングはオニオンソースで。飲み物はぶどうジュースでお願いします」
「了解。しばらくの間席に座って待っていなよ」
私はおばさんから見えやすい席に座り、しばらく待っていたら料理が運ばれてきた。
「しっかり食べなよ。あんたは食べ盛りの頃なんだから」
「はい。いただきます」
ハンバーグを一口食べてみると濃厚な肉の味が口にじんわりと広がった。サラダの野菜も新鮮な上にオニオンソースの相性も良く、シチューはミルクのコクや具材の旨みが全て凝縮されていてとても美味しかった。
やっぱり生きてるって素晴らしい事を教えてくれるものの一つは料理だな。
…………お母さんの料理が懐かしいな…………。そう思うと涙が滲んできた.
自分が涙ぐんでいた事に気がつくと慌てて私は涙を拭った。流石に他の人に見られたら恥ずかしすぎる。
食事を終える頃にはもうカジノが開店する時刻にはなっていたので仕度を整え、カジノに向かった。
中に入るとたくさんの人たちがポーカーやスロットなどをやっていて、カジノにはパチンコ屋みたいな熱気が渦巻いていた。(入った事ないけど)
「いらっしゃいませ!当カジノのご利用は初めてでしょうか?」
受付のバニーさんが笑顔で話しかけてきた。正直に言うと、まだ14歳の私がカジノに入る事で怒られてしまうのではないかと思っていたけどその心配はなさそうだ。
「はい。初めてです」
「では、お客様のコイン口座を作る必要がありますね。お客様のお名前は?」
「ミレイです」
「ミレイと……。年齢は?」
「14です」
バニーさんは私の名前と年齢を手帳に書き込むと、笑顔でこう言った。
「お客様の名前の登録完了致しました。コインの売り場は反対のカウンターにあります。それでは当カジノで楽しい時間をお過ごし下さい!」
登録手順がそれだけでいいのかと思いつつもカウンターに向かい、コインを5枚買った。残金0。まぁいい。換金すりゃいいだけの話だ。私は先ず元手を増やすためドラクエ4にもあったモンスター闘技場で賭けを始めた。
試合の最初の2、3戦目までは順調に勝ち進められてコインを増やせたけど4戦目で軽く負けて5戦目で持ち直したと思ったら6、7戦目で2連敗したので一旦やめてポーカーで増やすことにする。
運よく一回でダブルアップまでこぎつけ、5回連続でダブルアップに成功したところでダブルアップをやめた。正直言ってこれ以上は心臓がもたない。コインの総数は1万と少し行ったし大丈夫だろう。
コインをカゴに入れて交換所まで持っていくと交換リストにあったはやてのリングと祈りの指輪をそれぞれ10個ずつ交換する。これで大部分が一瞬にして消えたけれどこれで資金源は確保できたから安心だ。
それはともかくはやてのリングなんて確かドラクエⅤにはなかったはずだからこれも『影響』によるものなのだろうか。
とりあえず今日はもう夜遅いから宿に帰って寝ることにしよう。そして明日品物を換金しよう。
翌日。
はやてのリングと祈りの指輪をそれぞれ1個ずつ手元に残して残りを売却すると27450Gを確保できた。
その後私は、服や道具袋、装備などを買い揃える。幾つか見定めて決めたのが武器:樫の杖、盾:ライトシールド、鎧:毛皮のドレスだった。
とりあえずもう少し実力を上げるために草原に出、魔物との戦闘を繰り返す。戦闘を重ねていくうちに新呪文の「ザオ」と「スカラ」を覚えた。
魔物がいない木陰で一息休憩をしながらこの後どうするか考える。
もうこの辺の敵は大体狩りつくしたから少し敵が強いエリアに行こうか。
「ま、大丈夫だと思うけど」
魔物にやられることなんてない。その時私は自分の力を過信していた。呪文も使えるし、戦闘慣れはしているから心配ないと。
そして私は現実というものをその肌で感じさせられる事となった。
「きゃっ!」
ベビーニュートの不意打ちに転んでしまった。私はすぐにメラを唱えベビーニュートを倒す。しかし他にも魔物はいた。
魔物達が、襲いかかってきた。バギ、ギラといったグループ魔法で相手を倒し鞭で薙ぎ払ったがまだ敵は出てくる。
樫の杖が手からはたき落とされた。そして私の腕に容赦なく何かが噛みついた。
「ーーーーーーッ!!」
とてつもなく痛い。そして妙に温かい。腕を見るとガップリンが私の腕に食らいついていた。
「離してっ!嫌だあ!」
叫びながら勢いよく腕を振りますけど、ガップリンは離れてくれない。そうしてガップリンにかまっている間にベビーニュートの突進を腹にくらい、地面を無様に転がった。
「助けて……。助けて……」
怖い。怖い。身体中が痛い。嫌だ。怖い。誰か、助けて。より興奮したのか魔物は更に群れをなし、私に忍び寄る。
もうここまでなのか。絶望しかけたその時。
横合いからチェーンクロスの一撃が放たれ、回復呪文が私にかけられた。
「大丈夫か!?」
なんとか私は頷いた。
「僕たちが来たからもう大丈夫だよ」
確かに私はもう大丈夫だ。だって、この2人は。
「よし。それじゃあさっさと倒しちまおうぜ、アベル!」
「ああ。ヘンリー」