箸休めなので、更新は不定期になるかと。なにかとご了承下さい
突然だが、僕は人間ではなく『人狼』である。
何言ってんだこいつ。中二病かよ。
そう考える人がほとんどかもしれない。が、事実なのだからどうしようもない。これに関しては、信じて貰うしかないと言うのが悲しいところだ。
『人狼』というのは、よくおとぎ話に出てくる『丸い物』をみたら大の大人が狼男に変身するあれである。もっともあれは眉唾で、丸い物をみたら無条件に変身するわけではない。狼への変身にはもっと別の条件がある。
人狼という存在は様々な物語に登場するが、その大抵はやられ役である。俗に言う雑魚敵だ。たしかにその知名度から、敵として主人公を引き立たせる為にはもってこいの存在と言えよう。
しかし、本当の人狼はそんなに弱くない。いや、もっと強い。
一度変身してしまえば、常識では測れない程の強靭な肉体になる事ができ、狼のような鋭敏な嗅覚を得ることが出来る。他にも化け物じみた視力は鋭角な爪や牙も手に入る。こんなに盛りだくさんの能力をデメリット無しで扱えるのだから、弱い筈がない。
なによりの武器は、人狼は人の社会に簡単に溶け込める事である。有名な人型の化け物である吸血鬼を例に挙げると、彼らは日光に当たれないので日中は活動できない。日中ずっと家に籠っている人物が、日常に溶け込める筈がない。
だが、人狼は違う。普段は一人間として暮らすことができる事が、一体どれだけのアドバンテージになるか。そのメリットは計り知れないだろう。
…ここまで人狼の恐ろしさについて延々と語ったが、これらは僕の知識ではない。あくまでも人伝、不気味な兄ちゃんに聞いた人狼の話しだ。
しかし、そんな人狼にも弱点はある。羊の灰やライ麦、ヤドリギを混ぜたもの。強烈な匂いの物。
そしてなりよりの弱点は『銀』である。銀の混じったものを触れたら最後、その部分が灰になってしまうほどだ。『銀の弾丸』なんて喰らおうものなら、即座に昇天する羽目になる。
そんな僕が自分は人狼であると知ったのは不明である。ただ漠然と、『自分はそうなんだ』と思ったのが、その始まりだったことは確かだ。
初めは人狼の力なんてかけらも使えなかったが、11歳にもなったらいい加減この体質にも慣れてくると言うもの。今では変身はおろか、能力の限定使用もお手の物である。
……もっとも、あんまり使う機会もないのだが。
まぁそんなわけで、僕は小さな人狼である。子供だからそんなに強くない、少しだけ非力な人狼なのである。
[閑話休題]
『ジリリリリン!ジリリリリン!』
「………うん?」
けたたましいベルの音が少年の鼓膜を揺らす。布団の上でもぞもぞと身を動かすと、やがて瞼を開ける。
開かれた黒い瞳はとても眠そうである。いや、気だるそうという言葉が適切であろうか。
「…もう朝か。学校いかないと…」
そう言って体を起こす。が、その動作の途中でピタリと止まる。
「…今日、土曜日じゃん」
休日にかけられた目覚ましとは、時に死ぬより残酷である。本来なら惰眠を貪れる時間に鳴り響く目覚ましのベルがどんなに残酷か、経験のある人なら分かるだろう。
二度寝すれば良いという上級者もいるだろうが、元気な有り余っている小学生に二度寝など出来るはずもない。
結果として、彼は起きたくもない土曜日の朝6:30分に目を覚ますのであった
「おかしいな。ちゃんと目覚ましは切ったはずなのに…」
切った覚えがあるのに、しっかりと機能している目覚まし時計。普段ならありえない事象に頭を抱えるが、ふと鼻に様々な匂いが漂う。
「…匂い?」
そのことに少し疑問を覚えると、鼻に意識を集中する。
少しだけ人狼の力を使い、嗅覚を強化する。すると、その匂いの元が居間であるのと、その匂いは様々なものが混ざり合っているのがわかった。
となると、少年の頭に一つの心当たりが浮かぶ。
「…まさか」
純和風の寝室をでて、廊下に出る。板張りの廊下を渡って、居間の前に着く。どうやら、匂いの元はここで間違いないらしい。
意を決して襖を開けると、そこには寝る前にみた居間とは全く別の風景だった。
「……うげぇ」
本来なら整頓されている居間は、もはや見る影もない。多種多様な紙袋、ダンボール箱が積み重なっており綺麗な畳を覗くことすら出来ない。ビフォーアフター、解体の匠もびっくりである。
数多の紙袋や中から一つの紙袋を持って中身を確認すると、その中にはチョコレートが入っていた。
もう一つの紙袋を確認すると、それには熊の木彫りが入っていた。
ダンボールを開けると、中にくるみ割り人形が入っていた。去年貰ったものとは色違いのバリエーションものである。
小学生でもわかる、これらは『お高いもの』だ。とてもじゃないが、こんなバカ買いするような代物ではない。
…この時点で少年は確信する。これらは間違いなく、あの『兄ちゃん』の買ってきたお土産なのであると。
「ということは……。お、あったあった」
大量のお土産類の中から、手紙の入った茶封筒を見つける。封筒には『親愛なる義理の息子へ』と書かれている。白々しいことこの上ない。
そそくさと封筒を開けて、中身を確認する。中には、このような旨を告げる手紙が入っていた。
『親愛なる義理の息子へ』
やぁ、久しぶりだね。元気にしてるかい?俺が日本に帰ってきたのは深夜一時で、日本を出るのは今から1時間後だ。…何も言うな、俺もこの仕事はさっさと辞めたい。
ところでいつも手紙を送ってほしいと言ってるのに、君はいつも送ってこないね。反抗期ですか?反抗期なの?随分早い反抗期ですね。まぁ気が向いたら手紙を送ってくれ、送ってくれなきゃ泣くぞ。いいのか?大の大人が泣くぞ?それが見たく無かったらなんでもいいから手紙を送って下さい。
今回もお土産を買ってきたから、いつも通りいろんなとこに回してくれ。今回は手渡す暇が無かったんだ、急な仕事が入っちゃってね。
今回の仕事は長くなりそうだ。しばらくは帰れない。セラさんとリズさん。あとは士郎くんとイリヤちゃんによろしく伝えておいてくれ。
それじゃ。あんまり構えなくて悪いが、お前もお前で頑張ってくれ。俺も頑張るからな。今度の仕事が終わったら、どっか旅行に行くか。どこか行きたい所があったらピックアップして手紙で送れよ。
ps
目覚ましはセットしておいた。平日に惰眠を貪るなんて許されない。子供は早く起きて遊びにでも行ってこい。
◽︎◽︎ ◽︎◽︎より
「おのれ社畜め、やはり目覚ましは兄ちゃんの仕業だったか」
心底余計なお世話である。不要な忖度とも言える。
休日の安らかな惰眠を奪い去った彼の罪は重い。今後、彼の元に手紙が届くことは二度とないだろう。
しかし、この大量のお土産を掃かなければいけないのもまた事実。台所が居間と直結してるせいで現在入れず、今日中にばら撒かないと三食コンビニ弁当を貪る羽目になる。
しかし、これだけの量のお土産を捌くのは一人では無理だ。そう判断すると、ひとまず寝室に戻る。
壁に立てかけられた可愛らしい時計を見る。まだ先程から10分ほどしか経っていない、まだまだ十分早朝である。
床に敷かれた布団を敷き直し、丁寧に手直しする。軽く直した布団の中に潜り込み、枕に顔を埋める。
ーーーー別に、二度寝しても構わんのだろう?
先程二度寝は上級者の技で小学生には出来ないといったが、何も少年が上級者では無いとは言っていない。
小学生にして二度寝の気持ち良さを知ってしまった彼は、なんの迷いもなく頭を枕に預けるのであった。
「…寝よう」
そう言って少年は簡単に意識を手放した。
主人公
現代に生きる人狼の希少種。過去の人狼の血脈の先祖帰りであり、その力は現代に生きる吸血種の従属である人狼を遥かに凌ぐ。
嫌いなものはライ麦、匂いのきついもの、銀製の食器。好きなものは甘いもの全般。
結構好き勝手書いている作品ですが、これからもよろしくお願いします。