NINJAの末裔がまかり通るようです。 作:Soul Pride
「“喧嘩屋”、ナッツ・ドライバーさんとお見受けします」
二つの月が眩く光る深夜の刻限の、第一管理世界ミッドチルダの市街地のある場所にて。
一つの私闘が始まろうとしていた。
バイザーで顔を隠す女と、フードを目深に被った男。互いに防護服であり、既に戦闘態勢に入っている。
「お前が、噂の覇王かい」
「はい。覇王イングヴァルトを名乗っています」
「十分だ」
名前を知れた。後はもういい。
お互い、戦いたいからここにいる。戦う相手を求めて、深夜に徘徊をしていた。
それ以上は、今は余分だ。
「“日向流柔拳法”、ナッツ・ドライバー」
「“
武人の礼儀で互いに名乗り上げ、数瞬の後に……ゴングもなく激突した。
「……その年で、そこまで出来れば大したもんだ」
数分に及ぶ戦いの後、立っていたのは男の方だった。
倒れ伏した女……否、少女は指の一本も動かすことが出来ずにいた。
「ま、まだ……」
少女……アインハルト・ストラトスは、未だ戦意は衰えていなかった。
しかしどういう訳なのか、体に魔力が一切感じることが出来ず、動くことすらままならない。
戦いの内容は、男の防戦一方。アインハルトの猛攻を前に、受けに徹していた。
捌きの技術に関して言えば、超が付く程に一流。遥か格上であると彼女は認めた。
防御主体の古武術。護身術に近い武術であれば似たような技術体系は
鉄壁の防御であるならば、それを強引に破る威力でこじ開ける。“覇王流”には、その力がある。
だが、いざ仕掛けようとした瞬間に四肢に魔力が通わないことに気づく。
判断の迷いが生じた隙に、下腹部の丹田に二本貫手の軽い刺突──それこそ撫でられたのと大差ない当身を食らった途端に、膝から力が抜けて仰向けに倒れた。
身体的なダメージは皆無。攻撃が捌かれた両手両足、そして丹田からじわりじわりと広がっている魔力ダメージ……つまりは、彼に触れられただけで行動不能になった。
終わってみれば圧倒的な力の差を突きつけられての決着。互いに無傷、なれど動ける者と動けぬ者がハッキリと分けられた。
手加減をされていたと思うのが当然。口惜しいと思えない程に圧倒的に負かされ、未だ負けた実感すらない。
「精進したまえ女の子。頑張る子は大好きだぞ」
額とツンと指で突かれると同時に、目蓋が重くなり意識が遠くなる。
その夜、アインハルトが最後に見たのは。笑みを浮かべる彼の口元であった。
──“日向流柔拳法”。ベルカ中期に、ある異邦人が端を発した武術。
使い手は異邦人に連なる一族に限られ、理由はその血に流れる特異体質が前提としていた。
一時はベルカ最強の一族として名を馳せたが、現代では文献に遺っていることすら稀な程に廃れた。
体質を前提にした武術が興る理由はなく、年月を重ねる程に血が絶えていくのが必然と言えるだろう。
……ナッツ・ドライバーは、今までに残った異邦人の血脈の末裔であり、最後の日向流継承者。
彼は敵手を求めて街を彷徨い続ける。磨いた技を振るい続けるのは、流れる血の本能か、血に宿る遺志か。
────目深に隠すその“白き眼”は、何を映すのか。